運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1953-07-22 第16回国会 衆議院 法務委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十八年七月二十二日(水曜日)     午後三時二十六分開議  出席委員    委員長 小林かなえ君    理事 鍛冶 良作君 理事 田嶋 好文君    理事 吉田  安君 理事 井伊 誠一君       大橋 武夫君    押谷 富三君       林  信雄君    鈴木 幹雄君       高橋 禎一君    中村三之丞君       細迫 兼光君    木下  郁君       木村 武雄君    岡田 春夫君  出席国務大臣         法 務 大 臣 犬養  健君  出席政府委員         国家地方警察本         部長官     斎藤  昇君         法務政務次官  三浦寅之助君         検     事         (刑事局長)  岡原 昌男君  委員外出席者         判     事         (最高裁判所事         務総局刑事局         長)      岸  盛一君         専  門  員 村  教三君     ――――――――――――― 七月二十二日  委員山崎巖君辞任につき、その補欠として牧野  寛索君が議長の指名で委員に選任された。     ――――――――――――― 七月二十一日  駐留軍による接収土地建物解除に伴う元借地借  家人の権利復帰に関する請願鈴木茂三郎君紹  介)(第四八〇三号)  築館簡易裁判所を支部に昇格等請願(長谷川  峻君紹介)(第四八〇四号) の審査を本委員会に付託された。 同日  刑事訴訟法の一部を改正する法律案中一部修正  に関する陳情書  (第一〇八一号)  司法保護事業費国庫負担増額に関する陳情書  (第一〇八二号)  刑事訴訟法の一部を改正する法律案中一部修正  に関する陳情書  (第一二一号) を本委員会に送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  刑事訴訟法の一部を改正する法律案内閣提出  第一四六号)     ―――――――――――――
  2. 小林錡

    小林委員長 これより会議を開きます。  刑事訴訟法の一部を改正する法律案を議題とし質疑を続行いたします。井伊誠一君。
  3. 井伊誠一

    井伊委員 私は今度提案になりました刑事訴訟法のうち、勾留開示手続を改めることにつきまして、数点お尋ねしたいと思う。あまり自分のりくつを申し述べぬで質疑だけいたしたいと思います。この第八十四条第二項中、「請求者は、」しかそれの下の方に、「書面で」を加えるというので、すなわち勾留開示を求める、その勾留開示のときにその請求者たち意見を述べる、その場合に書面でこれを述べるということでありますが、この書面形式内容というものについては、どういう……。
  4. 岡原昌男

    岡原政府委員 この点につきましては、特に四角ばつた、こういう方式でなければいかぬということは考えておりませんので、たとえば委曲を尽して述べるというような場合には、数十枚になつてもよろしい、かよう考えて、おります。いずれ裁判所ともこの点打合せしたいと思うのでございますが、もし必要あらばルールの中にこの詳しいことを書くこともできるわけでございます。
  5. 井伊誠一

    井伊委員 その書面内容意見内容、それに付随する陳述内容等には別に制限はないのでありましようか。
  6. 岡原昌男

    岡原政府委員 さようでございます。
  7. 井伊誠一

    井伊委員 この書面は、公開法廷裁判官提出するものでありましようか。その点はどうでしようか。
  8. 岡原昌男

    岡原政府委員 それは公開法廷、つまりその開示法廷、そのときに出してもよろしゆうございますし、あるいは後日出してもよろしいというように解しております。たとえばきのうでございましたか、御質問の中にその日のうちに普通の意見書を出すのは困難ではないかという御質問がございました。この点につきましては次のようなことが考えられるわけでございます。大体勾留理由を告げる前に被疑者犯罪事実は告げられておるわけでございますから、そのあと証拠隠滅とか逃亡のおそれとか、そういうふうなことについてその点も告げられることになつて来るわけでございます。犯罪事実についての争いの点はもちろん事前にわかつておりますから、その点についてあらかじめ書面準備しておきまして、自分にこういう犯罪事実とは違うのだ、たとえば窃盗なら窃盗という嫌疑でつかまつておるのだけれども違うのだということはあらかじめ準備することができます。それからもう一つたとえば逃亡の憂いがあるとか、あるいは証拠隠滅のおそれがあるという点についても、もし本人がそういうことについてあらかじめ準備ができる段階にございますれば、自分としてはそういうことがないからひとつこの際御考慮願いたいということを同時に出すこともできるわけでございますが、一般にすなおに考えますと勾留理由開示がございまして、そのあとにどうもきようの話を聞いたけれどもやつぱりふに落ちないという書面が出るのが普通じやないか、かように存ずるのでございます。
  9. 井伊誠一

    井伊委員 今の御説明によりまして、その書面公開法廷提出するはか、さらに法廷外といえども後日これを提出してもよいということでありますが、その提出はともかくといたしまして、この提出するということは、すなわちその内容口頭陳述するかはりに書面を出すというだけであつて、何か口頭陳述する機会はなし、そういうふうな意味なのでありましようか。
  10. 岡原昌男

    岡原政府委員 裁判長の方で必要がありと思料すれば口頭陳述を許すことももちろんできるわけでございます。ただ「書面で」と申しまするのは書面で出すことは権利として認められておる、だかう裁判所書面を出した場合にそんなものは読まぬというわけには行かぬ、必ず受付けて読むということになる、但しその法廷口頭で述べることは権利としては認められてないから、もし裁判所が必要ありとして許せば格別、そうでない場合は権利としては許さないという趣旨でございます。従つて全然機会がないというわけではないわけでございます。
  11. 井伊誠一

    井伊委員 そういたしますと別にそういうようなことはしるされてないのでありますが、これですと一応表面から見れば口頭陳述はするが、しかしながらそれを朗読させてそしてその書類裁判長のところに提出する、そういうよう趣意のものではないのですね。
  12. 岡原昌男

    岡原政府委員 口頭で読み上げるというふうなことは予想していないわけでございます。ただもしその日のうちに手続の最中に書面がちやんと準備されておりましてそれが提出された、裁判長がすぐその場で見てどうもこの点理由があるようだからもう少し詳しく囲いてみようという場合には、口頭陳述を許す場合があるというわけでございます。
  13. 井伊誠一

    井伊委員 先ほど伺いまして書面形式というようなものにあまりこだわりてないといたしますと、この書面がもしこれを濫用するというようなことになりますと、非常に厖大書面を出し、そうして内容を閲覧するというようなことが困難であるばかりでない、それは一体書類としてどういうものでもこれは裁判所においては受取らなければならないものであるかどうか。
  14. 岡原昌男

    岡原政府委員 つまり書面陳述がございました際には必ずそれを受取ることになるわけであります。たといそれがいかに厖大でございましても、これを読むということになろうと存じます。
  15. 井伊誠一

    井伊委員 それならば裁判所はこの書面受取つた後においては、これに対してどういうふうに扱われるというのでありましようか。そうすると一応内容を閲読した上に、その意見に対する裁判所意見をさらに述べる機会を設ける、そういうふうにして扱われるのでありましようか、それともそれは受取つただけということであつてあとは何にも別にこれに対して請求者意見を読んだ結果として裁判所で何か意思表示をする、そういうことはないわけでありますか。
  16. 岡原昌男

    岡原政府委員 その書面が出ました場合にこれを読みまして、読んだ上でどうしなければならぬという義務はないわけでございます。ただ実際問題として裁判所被告人身柄の拘束につきましては重大なる責任も持つておりますし、それから絶えず事件の進行とにらみ合せて考えて行くべきものでありますから、さよう書面の中に相当理由のある点があるということになりますれば、あるいはその事実に基いてさらに詳細な事情を調べて職権でもつて勾留を取消す、時期が来たならば職権をもつて勾留を取消す、かようなこともあじ得るわけでございます。またもしその書面形式が、いわば勾留取消し請求書といつた程度に読める場合には、それに基いて勾留取消しをするとかしないとか態度を決定することになろうと思います。
  17. 井伊誠一

    井伊委員 第八十四条の第二項をさようなふうに書面でもつてかえろというようにした結果は、第八十二条の第一項、第二項のそういう権利者裁判所勾留理由を聞いて、それに対して意見を述べる権利は認めているけれども、それに対しては即座裁判所のこれに対する意見というものを聞くことができる、ただ意見を述べるだけで、八十四条の第二項の方でも意見を述べるというのはただ意見は述べさせるだけであつて、これに対しては何ら答える必要はない、こういう解釈で、今書面にかえたところで、それと同じ意味になるのだからさしつかえない、こういうよう考えなんでございましようか。
  18. 岡原昌男

    岡原政府委員 現行法の建前と申しますか、現在の八十四条の行き方でもやはり同じでございまして、一応裁判所から勾留理由請求者に告げます。さようにいたしますと納得するしないは、これはもう問わずして一応手続きは終るわけでございます。従つてその際に現在は口頭で、その点は違うのだ、こういうことがございますということがあつた場合に、裁判長考えることはもちろん自由でございますが、それに基いて何らかの決定をしなければならないということは現在でもないわけでございます。従つて今後もその点は同じことになろうかと存じます。
  19. 井伊誠一

    井伊委員 八十四条の二項は、「被告人及び弁護人並びにこれらの者以外の請求者は、意見を述べることができる。検察官も、同様である。」こういうふうになつておるのですが、その「意見を述べをことができる。」というのを書面にかえるのでありますが、今度改正趣意は、書面以外のものでは意見は述べられないという制限規定でありますか。
  20. 岡原昌男

    岡原政府委員 述べられないという限定はないのでありますが、権利としては書面で述べる程度、つまり書面で出すことは権利として認めておる。それ以上は裁判長の判断に基いて、これを許すということになるわけでございます。
  21. 井伊誠一

    井伊委員 その点でありますが、書面で述べることができる、それから公開法廷勾留理由開示された場合、それに対する意見を述べる、これはやはり勾留された者ないし弁護人あるいはその他の関係者、そういうものの権利としてこれを認めておるのでありますから、書面でもできるが、しかしながら書面以外の口頭陳述であればこれを許さないという規定ではない。つまり書面によつてかえることができるよう改正でありますか。今のお答えですと、口頭でその意見を述べることの権利がこれで否定されたというわけではないように伺えるのですが、どうですか。
  22. 岡原昌男

    岡原政府委員 権利としては口頭で述べることはできない、そういう趣旨でございます。ですから裁判長がこの点はといつて聞く場合には当然その意見陳述できるわけでございますが、ただ権利としてどうでもこうでも聞いてくれ権利だ、こういうことができないという趣旨でございます。
  23. 井伊誠一

    井伊委員 ここにもとより勾留理由開示がありましても、即座書面は出し得ないというのが通例であると思うのですが、後日これを提出するにしましても、文字の書けない者にとつてはどういうことになりますか。
  24. 岡原昌男

    岡原政府委員 これは書面形式その他について全然制限がございませんので、あるいは書面提出するについて、だれかの代筆とかあるいは代理人がこれを出すとかいうことはもちろんあり得るわけでございます。決してそれをはばむわけではないのでございます。
  25. 井伊誠一

    井伊委員 文字の書けない者も相当あるわけです。これはもちろん代理人が書くこともできましようし、弁護人が書くこともできるとは思うけれども、大体意見を述べる権利というものが、一番先にあるのは、勾留されたその者が、不幸にして文字を解しないというような場合であつて、どうしても意見は述べなければならぬが、文書にしなければならぬという改正のために、口頭で述べるなら述べられるというものを、文字にするためにどうしても人をたよらなければならぬ、そうでなければ自分権利を主張することができないというふうにすることは、やはり一つ権利の抑圧というものになる、こう思うのですが、この点はどうでございましようか。
  26. 岡原昌男

    岡原政府委員 さような場合はもちろん、どうも自分は手が悪いものですからということで、裁判長ちよつと耳打ちあるいはその場で申し上げれば、裁判長はじやあその理由ちよつと言つてみたまえということで、その場ですぐ話が進むことになるだろと思います。勾留理由開示の今回の改正濫用防止ということが根本の理由でございまして、そういう点まで一切抑制しようという趣旨ではないのでございます。裁判所はもちろんそういう方針運用されると思います。
  27. 井伊誠一

    井伊委員 裁判所はそういうような扱いをするのであろうというよう説明を受けましても、おそらくは書面形式であるとか、提出方法であるとか、あるいは今言うよう文字の書けない者の場合においては、どういうふうにしてこれにかわるべき書面にするかというようなことや、何かかよう細則はいずれ裁判所において定めるのではないかと思います。そういうものが定まらない間に、さまさまな御説明を聞きましても、これは結局このまま通してしまつて、どういうふうな運営をするか、やはり必ず細則にしなければならぬと思う。その中にそういうことが明確にうたわれていないということになりますと、どういうふうになりましても裁判官は適当な解釈をいたしますから、その点は非常に不安心なことになる。結局権利は侵害されるということになると思わざるを得ない。この細則等はすでにできておるのでありましようか。
  28. 岡原昌男

    岡原政府委員 八十四条第二項の運用と申しますか、内容等につきまして、裁判所とある程度話をいたしましたことはございます。ただそれをどういう文字に表わそうかという点については、実は最後的な決定はいたしておりませんが、趣旨といたしましては八十四条の今回の改正は、今までの勾留理由開示手続濫用する向きをこの面から防止しようという点にとどまるのでありますから、それ以上に出てたとえばお話ように無筆の者が意見を申達する方法が全然ないというようなことにはならないように、裁判所も十分戒心することだと思います。この点はなお裁判所の方におきましても、方針としては一致しておりますので、文字その他はまた後ほど裁判所と協議いたしたいと思つております。
  29. 井伊誠一

    井伊委員 ただいまのお話では、裁判所の方と、ややその打合せもできておるということでありますが、これに対しまして、もう一つそういう細則の予想というものがあるべきはずだと思うのです。大体この条文改正をされる必要は裁判所の方にあるわけなんです。それでありますから、裁判所の方に当然その準備がなければならないと思うのです。この点につきましては、ひとつ刑事局長にお伺いしたい。
  30. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 勾留理由開示手続修正についてただいまお尋ねでございますが、このたびの改正趣旨は、これまでの勾留理由開示手続実情から見まして、今まで行われました実情濫用されておるといつてよろしい状態であります。法廷闘争の最も熾烈点がこの勾留理由開示手続にある。なおかつしかもこの意見陳述段階において、それが非常に激烈をきわめておる。新聞でも御承知と思いますが、先般東京で、ある弁護士の懲戒事件が起りましたのも、この意見陳述段階で起きたわけであります。そこでもともと勾留理由開示手続というものは、憲法三十四条に基くものであるかどうかという非常に憲法上むずかしい議論がございます。ある一つ考え方は、憲法三十四条に基く憲法上の制度であるという考え方、それからもう一つ考え方は、それは必ずしもそうじやない、憲法三十四条は例のヘビアス・コーパス思想を受けついだ思想である、今日となつては、人身保護法ができておる以上は、この勾留理由開示手続は、人身保護法の方へ消されてしかるべきであるという考え方、その両方とも有力な議論として世間に行われておるわけであります。しかしながら今回の改正は、そういう根本的な憲法上の問題には触れませんで、これまでの実情に照らして、勾留理由開示手続制度運用合理化をはかり、その濫用を防止する、そういう趣旨から考えられたものでありまして、全国の裁判官のこれまでの経験に基く非常に切実な要求によつてような立案を法務省に依頼したわけなのであります。これまでの運用実情問題点となるのは、この意見陳述という点である。かりにこの制度憲法三十四条の制度であるとしても、意見陳述ということは憲法上の要求にはなつていない、そこで現行刑事訴訟法では、これを法律上の権利として規定しておる、そういうわけで、この法律上の権利としての意見陳述ということを削除しても憲法違反の問題は起るわけがない、そういうことから出たわけであります。この点につきましては弁護会の一部、あるいは学界の有力な見解として、むしろ今度の改正案よう書面による意見陳述というのはおかしい、むしろ意見陳述そのものを削除すべきではないかという意見もあるわけなのでありますが、しかしこれまで法律条文の上において権利として認めて来たものを急に削除するということは、あまりに大きな変化である。そういうわけで折衷的な措置としまして、書面による意見陳述ということになつたわけであります。ところでこの書面による意見陳述にいたしましても、それは法律上の権利として意見陳述を認めるというのではないというだけのことでありまして、実際の具体的なケースにおいて裁判官意見陳述をさせることを必要とし、もしくは適当とする場合には、これはむろんそれをさせて一向さしつかえないのみならず、必要な場合には、むしろそれをさすべきである。そういう考えでおるわけであります。そこでその点は法律条文には出ておりませんから、規則制定の際に、裁判官は、必要と認める、あるいは適当と認めるときには、この意見陳述をさせることができるという規則制定をただいま考慮しておるわけでありまして、この規則案はごく簡単なそれだけの規定でございますので、すぐ場に、この刑事訴訟法施行と同時に、ほかの、この改正に伴う規則制定と同時に、その制定考えておるわけであります。
  31. 井伊誠一

    井伊委員 この意見陳述をするのは法律上の権利である、それで憲法三十四条の上に立つておるところの権利であるかどうかということについては異論がある、そういう根本的な問題を離れても、この意見を述べるところの勾留された人たち権利というものは、これは刑事訴訟法の上の権利である、こういうことのようでありますが、憲法違反にはならないということはこれはもう確定的なものでありましようか。多少これに対しては異論があるのではないかと思うのでありますが、それはどうですか。
  32. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 その問題につきましては、法制審議会の際に議論になりまして、そうしてこういう改正は、つまり意見陳述を削除するという考え方は、憲法違反であるという議論をされたのは團藤教授であります。なお早稲田の江家教授もそれと同調す参る意見を発表されたわけであります。ところが法制審議会のメンバーの他の方々のむしろ圧倒的に多数の説が違憲にあらずという考え方であります。そこで私どもとしまして、こういう違憲問題について慎重を期しますために、これは正式のものではありませんが、法務省と協力しまして、法務省係官最高裁判所係官とで憲法学者意見を聞いてみたわけであります。この憲法学者の御意見の要旨がございますから、これを簡単に御紹介いたします。  まず東大宮澤教授の御意見ですが、宮澤教授の御意見は、「團藤教授意見も一理あると思うけれども憲法第三十四条後段は、被拘禁者等意見を述べさせることまで規定はしていない。従つて勾留理由開示の際意見を述べさせないことにしても、憲法違反にはならない。憲法は、ミニマムを規定しているものと解すべきである。意見を述べる機会を与えるべきかどうかは、立法論として妥当かどうかの問題であろう。」こういう御意見であります。  次にやはり東大の兼子一教授の御意見は、「憲法三十四条は、その位置、体裁等から見て刑事手続に関する規定と解すべきである。従つて、私人、行政機関等による不法拘禁からの解放を目的とする英米のヘビアス・コーハスと同一には論ぜられない。同条は、公開法廷勾留理由開示し、勾留が公正にして理由のあることを明らかにするとともに、被勾留者、その親族等勾留理由を聴取した上で、勾留取消し等請求し得るようにしたものである。右の意味で、それは、誤つた刑事手続からの救済目的とするものといえよう。しかし、勾留理由開示した法廷において、それに対する意見を直接口頭で述べさせることまで憲法が保障していると見ることはできない。」こういう御意見であります。  次に一橋大学の田上譲治教授ですが、「憲法三十四条は刑事手続に関する規定で、英米におけるヘビアス・コーパスと必ずしも直接の関係はない、特に裁判官がみずから勾留理由を示すべきものと認められる点において、両者の間には大きな相違がある、しかしヘビアス・コーパスと同様、人権の保護目的とする規定であることは疑いない、ただ憲法意見陳述機会を与えることまで要求していると解することは明文に反し、疑問である、従つて意見陳述させないことにしても、違憲とは言えない。」これが田上教授の御意見であります。なおそのほか英法高柳先生の御意見もやはり違憲にあらずという御意見でありますし、なお刑事訴訟法小野清一郎博士も、東北大学の木村教授もやはり違憲にあらずという御意見であります。かよう理由で、私どもも必ずしも違憲論というものは、そう根拠のあるものとは思いません。一体どうしてそういう違憲論が出るかと申しますと、この勾留理由開示手続というものを弁論というふうに誤解しているのではないかと思うのであります。この勾留理由開示は決して命論ではないのであります。つまり身柄勾留というものが、昔往々にしてありましたように、やみからやみに取扱われるということの決してないことを保障するもので、勾留された者があつたときに、被勾留者はもちろんのこと、被勾留者親族あるいは一定の利害関係者が、どういうわけであの者が勾留されたのかというその理由を、公開法廷ではつきり開示してもらう、これが勾留理由開示手続の本来の趣旨だと思います。従つて勾留理由開示手続というものは、決して勾留当否を争う弁論ではないわけであります。勾留当否を争う手段としては、刑事訴訟法上は八十七条と九十一条による勾留取消し請求、それから四百二十条、四百二十一条による勾留に対する抗告の申立て、そういう手段がおのずから別にあるわけであります。なお最近そのほかに人身保護法によつて救済もあるわけであります。そういうわけで、勾留理由開示手続というものは、そういうふうに解釈するのがほんとうであろうと思いますので、決して違憲のおそれはないものと考えます。
  33. 井伊誠一

    井伊委員 最高裁判所におきましては、この点についての判例がございますかどうか。
  34. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 勾留理由開示に関する判例はいまだ出ておりません。しかし法制審議会には、最高裁判所裁判官委員として出席されておつたわけでありまして、その際その委員からも違憲という御意見はなかつたのであります。
  35. 井伊誠一

    井伊委員 最高裁においてその規則制定されるということになれば、それは最高裁一つ意思決定がそこに現われるのではないかと思うのでありますが、これは違憲でないという基礎の上に細則が出るのではないかと思うのです。そうしますと、その細則が出た場合においては、その細則決定すること自体が最高裁はこれは違憲でたいという一種の意思を表示をしたもの、こういうふうに見ていいのでありますか。
  36. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 その点は、れまでの刑事訴訟規則制定についてもあり得た問題であります。たとえば例の緊急逮捕が違憲であるかどうかということが、新刑事訴訟法施行当時議論になりました。やはりその点について一応最高高裁判所は刑事訴訟規則というものを制定いたしておるわけであります。結局最高裁判所規則制定の経過から申し上げますれば、決して最高裁判所だけの意見だけできめるわけではありませんで、刑事訴訟規則について刑事訴訟規則制定委員会というのがございまして、その委員会のメンバーとしては、弁護士会、検察庁、学識経験者、あらゆる方面のものを網羅いたしております。その委員会に諮つた上、そこの意見を十分くんで、最高裁判所裁判官会議規則制定するわけであります。そこで当面の問題といたしまして、先ほど申しましたようなものが制定されますと、これは一応違憲ではないという見解のもとに規則がつくられることになります。但しその場合におきましても、裁判官の中でこれは違憲だという御意見があれば、これはやはり少数意見として残るわけです。前にも、違憲ではありませんが、最高裁規則法律違反であるというような少数意見がある裁判官によつて出された例もあります。
  37. 井伊誠一

    井伊委員 先ほどお尋ねしておいたのですが、すでにこはに対する最高裁においての規則の腹案というようなものができておるのでありますか。
  38. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 この関係の腹案は私ども事務当局が持つておるのです。事務当局はただいま申しましたよう規則制定し、規則制定諮問委員会にかけるわけでありますが、事務当局としてはそういう腹案を用意いたしております。
  39. 井伊誠一

    井伊委員 私の質問しておりますこの書面形式とか内容とかいうものは、大体刑事局長の御説明では、爾来そうこだわらないもののようになつてつたのであります。しかし実際問題といたしましては、これはどうしても裁判所で受理しなければならない性質のもの、あるいは保存しなければならないものとかいうことになりますれば、それの形式もおのずから相当制限しなければならぬのじやないかというよう考えるのであります。これは違憲の第一意見書であるとか第二意見書であるとかいうように次から次へと出て来て、それが非常に厖大なものになつて行くのを、一々裁判所が際限なく一応それを通読する義務がある、あるいは保存をするというようなことになれば、法廷でもつて口頭意見を述べるその内容書面に書いてもやはり同じことがなし得るということを考えますと、この書面そのものは、ちよつとは口頭よりはうるさくないということにはなりそうでありますが、しかしその内容自体は実はさまそれな形をとつて来ると思います。そうすればやはりそれを予想して、この規則というものも相当制限を必要とするのではないかというふうに考えるのであります。そうでありますから、これは大体どういうものを予想しておるかということを承りたいと思うわけであります。
  40. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 この意見書の書式等については、そう厳重な要件をきめることは考えておりません。と申しますのは、こういうふうな改正になりますと、勾留理由開示手続は、裁判官勾留理由開示したことによつて終了するわけでありまして、その後のものとして意見書提出が認められることになります。その提出された意見書は、裁判官として読む義務があるわけです。それを読んだ上で勾留理由開示手続の結果、被勾留者が釈放されたという例は今までございませんが、もし裁判官が釈放すべきであると思えば当然釈放されることになります。そうでなくてこの書面内容を判断して、それが先ほど申しました刑訴の八十七条、九十一条に規定しております勾留取消し請求書に該当する場合ですと、裁判官はそれについての判断を下すことになるだろうと思いますが、書面提出そのものに関してはそれほど裁判官がトラブルを感ずるということはなかろうかと思います。全然意味をなさないよう書面提出でありますならば、勾留理由開示手続理由開示によつて終了いたしているわけでありますから、それはそのまま放置する。さようなことに相なろうかと思います。
  41. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 今のは私もこの間から聞こうと思つてつたのですが、たいへんいい質問をされたわけです。これは判事の認定によつて口頭で述べさせようと思えば述べさせられる、こういうお話でしたが、そうすると同じことなんです。口頭で述べさせてくれ述べさせてくれ、こういうことで騒ぐと聞き捨てならぬことになると思うが、この点あなたはどう思いますか。
  42. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 先ほど申し上げましたのは、こういうふうな改正になりますと、勾留理由開示手続というものは裁判官がその勾留理由開示すればそれで終ることになりまして、ただいまの制度では理由開示した上に、今度意見陳述機会を与えて、それが終らなければこの手続は終りになりません。それでありますから、理由開示したあとでそういう要求がありましても、その必要がない、適当でないと認めるときは、裁判官はその開示手続を打切つて開廷するわけでありますから、そういうことはまあないだろうと思います。
  43. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 それはりくつの上ではまあそうでしようが、それは困るそれは困るというのでいつもやはり騒ぐのではないですか。ですからこれはよほど考えなければならぬと思う。  それからもう一つ、どうも私どもいつも理由開示に対して疑問を持つてつたのは、勾留理由さえ告げれば七れでいいのだと言われるが、私はやはりそれだけでは意味をなさぬと思う。やはり裁判官に対してこの決定は不当なものと思うがどうだ、という反自の機会を与えることも当然含まれているものではないかと思うのですが、の点は全然少ないものとあなた方は思いますか。
  44. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 勾留理由開示手続の事項において開示すべき事項の範囲の問題でありますが、これは私どもやはり、いわゆる勾留理由開示というこの言葉をわけて申しますと、勾留の継続の必要性の開示といつたことは含まれない。つまり法律勾留理由と必要性とを区別いたしておりますが、これは結局勾留理由開示手続と申しますのは、先ほども申し上げましたが、どういう理由、どういう経過でこの身柄勾留されたか、それを公の法廷開示するのが勾留理由開示手続なのでありまして、勾留した裁判官理由開示をする裁判官とは常に必ずしも同一人であるとは限らないわけであります。でありますので、自分勾留した事件でない事件について裁判官がそう詳しく理由開示するということは事実上できないことでありまして、やはり記録を見て、この記録に現われた経過に徴してどういう経過で勾留されたのか、そういうことを開示するのがこの制度の本旨であると思います。その法廷開示された理由を聞いて、その理由勾留理由開示手続として被勾留者が聞かなくても、すでに逮捕、勾留のときからわかつているわけでありますから、その大事な点は本人はもちろん、そのほかに本人の親族とか一定の利害関係人、この人たちがどういうわけで自分の身内の者が勾留されたかということを知ること、これが大事な点であると思うのでありまして、その裁判官開示した理由が不十分だと思いましたならば、先ほど申し上げましたように八十七条、九十一条で勾留取消し手続をする。その手続勾留の当不当を争えばよろしい。そういうことになるわけであります。
  45. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 どうも私はそうはとれないのだが、聞いた以上は、それはどうもそれこそ権利濫用ではありませんか、もと考えてもらえませんか、と言つて来るのが人情ですよ。またそれなるがゆえに今までこれを述べる機会を与えるということを入れておられたのだろうと思うのですが、もしあなたの今の説明によりますと、現行法でああいうことを書いたのは間違いの規定を入れておつたのだということになる。私は願わくはやはり述べさした方がいいものだ、しかし弊害あるがゆえに、こういうことでは困るから何か考えなければならぬ、こういうあなた方のお考えであろうと私は思うが、この点はいかがですか。これは根本の点です。
  46. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 その点は何もこのよう改正裁判所が好んでしたくはないことは御同感であります。ところか先ほど申し上げましたよう勾留理由開示の実際の運用というものはとんでもないところに行つている。意見陳述の際に裁判官に向つて意見陳述しないで傍聴席に向つて意見陳述をする例がある。それを静止してもきかない。しいて静止しようと思えば廷吏との間で乱闘事件や流血事件を起したことがある。はなはだしいときは、事情は違いますが、この勾留理由開示の際に例の被疑者奪還事件というものが起きたほどでありまして、このよう勾留理由開示手続のほとんど全部のものがまつたくとんでもないところに行つている。それでは一体どの点にその禍根があるかと申しますと、この意見陳述という点なのでありまして、この意見陳述がありますために、質問に名をかりての意見陳述ということも行われている実情であります。そこで勾留理由開示手続そのものはこれは非常にけつこうな手続だと思います。でありますので、それのいいところはやはり生かすべきであると思います。ただその濫用を防止する方策としては何んでもかんでも常に現状の今までの経験からみて、法律上の権利としてそういう意見陳述権を認めるということまで規定する必要はない。そこは先ほど申し上げましたように必要に応じて裁判官が適当と認めるとき、あるいは必要と認めるときは意見陳述をなさしめる、というふうにルールで規定すれば十分である、私はさよう考えております。
  47. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 どうもあなた方のお考えとあべこべのように私は感じられる。あなた方が今とられる例は陳述を許したがゆえに起つた問題ではないと思うのです。これは裁判否認の思想が出て来るがゆえに起るのです。さような特殊なものが起したからといつて、一般に裁判を尊重してそうして勾留理由開示を受け、さらにそれに対して意見を述べようとするまじめな者にまでその権利を奪おうとするところに問題がある。これは全然あなた方の考えが違う。裁判否認そのものが出て来るのでは何をやつたつてだめなんです。これで閉廷すると言つたつて待て待てと言つて来てしようがないですよ。そういう者がいるからといつて一般の者まで停止しようとするところにわれわれ疑問がある。そうしてみればそういうものにだけ何か手当を考えることこそ改正の要点です。全体に対してこの権利を奪おうとすることは私にはがてんが行かない。この点いかがですか。
  48. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 まあ同じ趣旨となるかと思いますが、とにかくほかの刑訴法の規定濫用という現象はわれわれ何と申しましても例外現象だと思います。ほかのいろいろな刑事訴訟法についての濫用ということが言われておりますが、これはやはりあくまでも例外であると思います。この勾留理由開示に関する限りほとんどこれまで行われて来た事件の大部分というものは、先ほど申しましたよう実情であつたわけであります。それはやはりこの意見陳述という点にある。その意見陳述ということを時間的に制限いたしましたけれども、しかしそうなりますと今度全国一斉にどこでも行われているやり方として、あとでこの意見陳述のときに必要だから質問させろと言つて質問には時間の制限がないだろう、そういうことでいつまでもねばつていろいろ問題を起す、そういう実情なのであります。それでこの勾留理由開示手続を、これも先ほど申し上げましたがこれは非常にけつこうな制母である。これはやはり裁判所としてはあくまでもこの制度趣旨にのつとりてやつて行きたい。問題はそういう現行法よう憲法上の要件でもない意見陳述を当然の権利として、いかはる事例においてもこれを認めるという点にあるわけでありますので、その耐ですから是正をしていただきたい。しかしそのために全然そういうことが関係のない被勾留者にそういう累を及はしてはならぬというので、先ほど申し上げましたように、この点はルールではつきり規定して行きたい、こういうのであります。
  49. 岡田春夫

    ○岡田(春)委員 関連。ちよつとこれは重要な点だと思うのですが、今の御答弁を伺つていると、書面意見陳述するという場合、今度できるといわれている刑訴法の規則によると、たしか私の耳の聞き違いでないとするならば、何か勾留理由開示したあと閉廷をして、そのあと意見陳述書面でさせ得るようにかえるのだというように私聞えたのですが、そうじやございませんか。
  50. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 それは規則でなくて、この法律改正自体がそういうことになつております。
  51. 岡田春夫

    ○岡田(春)委員 そうすると、もう一つ伺いたいのですが、現行法の場合は「法廷においては、裁判長は、勾留理由を告げなければならない。」そのあと弁護人は、これらのものに対して意見を述べることができるという現行法がありますね。この現行法の精神から見ると、当然これは公開法廷において口頭による意見陳述ができることになつている、明文的に規定されておると私は思う。今度、書面意見を述べるという場合には閉廷しなければならないということが、これは八十四条の改正案において、どの点からこういう点が出て来るのでありますか。
  52. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 ちよつと御趣旨がはつきり聞きとれませんでしたが、要するに今度改正になりますと、口頭意見陳述を認めない場合には、裁判官勾留理由開示する、つまり勾留理由開示いたしますと、それで手続が終るわけであります。それで公開法廷で、どういう経過でこの被疑者あるいは被告が勾留されたかというその経過を告げるわけです。それで終つて、その告げた理由に対して意見があれば、その意見書面提出する、これが法律規定からそうなるわけであります。ところがすべての場合に、そういうふうにしてやるというのではなくして、先ほど申しましたルールを置くことによりまして、勾留理由開示をいたしましたあとでも、すぐその場で口頭意見を聞く必要がある、あるいは聞くのが適当である、そう裁判官が認める場合には、すぐその場で口頭による意見を聞く、そういうことになる。要するに二本建になるわけであります。
  53. 岡田春夫

    ○岡田(春)委員 これで終りますが、私の順番のときにもう一度やりますけれども勾留理由開示の場合は、八十四条の前の条文において、一般的な規定が出ておると思う。これには公開法廷でやらなければならないという規定が出ておると思う。この公開法廷でやらなければならないという規定について、この後段において書面でなければならないということになつて、しかも刑事訴訟法規則において、公開法廷という一般的な原則を否定するよう規則が出るとするならば、これは私は非常に問題だと思う。  それからもう一つは、勾留理由開示意見陳述というものは、これは八十四条に、この条章を規定している限り、当然直接的な因果関係があるものだ、因果関係のないものならば、ここにことさらその点をうたう必要はない。裁判所に対して意見陳述をするということを、この点についてここであらためて条章を起す必要はないと私は思う。こういう点から考えて見ても、ここで書面で述べる場合には、原則としては閉廷をしたあと書面で述べるという規則を出したということは、法文上の性格に反するものだと知は思う。こういう点はいかがですか。
  54. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 御質問趣旨をよくのみ込めませんでしたが、規則書面による意見を徴する。そういうことになるわけではありません。
  55. 岡田春夫

    ○岡田(春)委員 もちろんそうです。規則では閉廷ということをうたうというから、それで問題になつて来るじやないかと私は言つておる。
  56. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 規則では閉廷ということを何も言わない。前と同じように、法律にあるよう条文規則で置くわけです。意見陳述勾留理白開示手続に切つても切れない関係があるかどうかの問題で、先ほど御紹介しましたいろいろの学者の御意見は、そうじやないという御意見があるのであります。勾留理由開示手続というのは、決して勾留当否を争うための口頭弁論ではない。公開法廷で正々堂々と勾留した理由を告示するのが勾留理由開示手続だ、そういうことになるわけです。
  57. 岡田春夫

    ○岡田(春)委員 これは私の順番のときにもう一度やります。これでは納得できません。
  58. 井伊誠一

    井伊委員 もう一点続いてお尋ねいたします。今の勾留開示手続というものを改めて、勾留理由開示というふうにしてしまうことによつて理由開示があれば、それで幾つかの請求があつた場合には、次のものを決定でもつて却下しなければならぬというあれがあるのです。そうすると理由開示があれば、あとは用はないので、すぐ次の用事にかかることになる。手続といえばまだずつと続くように思えるのですが、開示があればもうそれで用は済んでしまつて、それで第八十六条の後段の場合のごときは、その開示が済んでしまうと、すぐあとのこれと同様の理由開示を求める請求のところは、決定でもつてこれを却下する、そういう手続に入る、こういうわけですか。その点おわかりにくいかもしれませんので、もう一度申しますど、手続ということを省略してしまえば、この公判廷は理由開示があれば、あとはただちに、他の用事があればこれをやる、理由開示だけであつてあと何ものもない、あるいは今の意見書を受理するというようなことが行われる、それだけのことになるのでしようか。
  59. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 現行の制度のもとでは、裁判官勾留理由開示して、そうして意見陳述が終らなければ開示手続は終らないということになります。今度改正された機構のもとでは、理由開示しまして、そうして裁判官がそれ目上意見陳述を必要と認めないと思えば、それでいわゆる公開法廷におる開示手続は終つてしまう。ただその後の書面提出が認められる、そういうことになります。それがさらに同じ理由でまた勾留理由開示手続が行われたとしますと、これはやはり八十六条の趣旨から申しまして、のみならずそういう場合の刑事訴訟法における一回性の法則と申しますか、同じことを何度も繰返しておるのは、手続を複雑混乱させるものだという理由で、そういう請求は却下される、さようなことになろうと思います。
  60. 井伊誠一

    井伊委員 現行法勾留開示手続というものは、公判廷で行われる、こういうふうに思われる。それで閉廷をしてしまえばあとないもののように思うのですが、今度のものは書面によつて意見陳述にかえることができるという。その意見陳述が閉廷後においても書面によつて行われる。そうすると、この書面提出は、結局規則によつてこれを定めるということになる部分になりますか。
  61. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 書面提出法律改正によつてそういうことになると申したのであります。現行法の八十四条を改正しまして、意見提出書面でやる、そういうことになるわけであります。規則の方で規定いたしますのは、法律の方はそう改正いたしておきまして、つまり法律上の権利としての意見陳述というものは、法律上は認めないけれども規則の上で裁判官が必要と認めるとき、適当と認めるときは、開示後ただちに口頭をもつて意見陳述をなさしめる、そういう趣旨規則を置くということになります。
  62. 井伊誠一

    井伊委員 その書面提出の期間というものは、別にこの改正によつてはないようであります。そうすると、法廷外において、いつこれを提出するか留保しておいて――急ぐんですからそういうばかもないと思うのですけれども、これを何かの戦術に使うということであれば、何回となくむずかしいものを次々に裁判所の窓口から持ち込む。そして一つでこれで終りになつたということでなしに行くことが考え得ると思うのです。そういうことに対する方法は何できまつておるのか。この改正ではそういうことは現われていない。
  63. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 その点ごもつともな点と思いますが、その場合の現行法のもとにおける意見陳述でありましても、また改正案のもとにおける意見書でありましても、それ自体は何ら法律上の拘束力はないわけであります。そういうわけで、そうやかましく時期的な制限ということは、今まで考えませんでしたけれども、なおただいま御趣旨ような観点から、意見書提出の時期について規則できめる、あるいは法律できめるということも考えられると思うのです。
  64. 井伊誠一

    井伊委員 今の勾留開示の点につきましては、それくらいにして、もう少し質問を続けます。  簡易公判手続規定を新設するということでありますが、このねらいとするところは、もとより争いのない事件を早く促進する。それから第二には、よつてつて生ずるところの裁判官の余力を他の刑事事件の整理促進に当てる、こういうふうなねらいのようでありますが、大体どつちの方が目的で、こういうよう制度をきめられるのか、先にお尋ねいたします。
  65. 岡原昌男

    岡原政府委員 それはどちらかというよりは、相関連しておる問題でございまして、私どもといたしましては、従来大体七割程度までは、被告人側において異議のない事件が多いのでございます。さような場合に、これを一から十まで訴訟法の順序に従つて、正式な手続をとる。これはもとより時間も八手もたくさんありますれば、望ましいことかもしれませんが、ただ事件が非常に簡単であつて、本人が異存がない、しかも証拠がそろつておるというふうな場合に、全部形式を整えることが必要のない場合があろうということが一つ考え方でございます。これも考え方として、いわゆる英米流のアレインメントの制度を日本に導入したのではないかという考え方もございますが、ヒントは確かにその辺からとつてある面もございますけれども、向うの制度をそのまま日本に入れるということについては、いろいろ問題がございますので私どもといたしましては、そういうふうな非常に根本的な取入方はせずに、日本の現行刑事訴訟法のわく内において、しかもこれを少し簡素化した形においてやろう。そうしますと、判事の余力が若干出て参ります。この余力を他の複雑困難な事件に集中いたさせまして、さよう事件を慎重に処理することにいたしたい。この二つのねらいが相関連して考えられておるわけでございます。
  66. 井伊誠一

    井伊委員 今の多くの刑事事件の審理が渋滞しておるという面もありまして、この改正一つの条件になつておるように思います。しかし形式的に七〇%が争いのないものであるということを承りましても、実際刑事事件そのものは、公判に参りましたときに、起訴状の朗読がある。これに対する冒頭陳述を行うときに、これを認めるというのが数多くありましても、実際の実情から参りますと、これは幾多の事情がある。その捜査の段階において、すでにもう真実でないようなものであつても、何ともしかたがないというようなあきらめを持つ。あるいはまたその陳述と去ることあまり遠くはない。起訴状に述べるところの刑事犯罪事実そのものとは大した違いはないようではあるけれども意見が多少あつても、それを正しくすることの結果、得るところはどうであるかというような点に至ると、結局争うてもどつちみち同じことであるというようなことのために、冒頭陳述においては異議を述べない。これを認める者が相当多数あるわけであります。でありますから、争いがない、本人がその犯罪をみずから認めるという場合におきまして、その統計から出て来た数によつて、簡易の手続を創設せられるということは、一面においては確かにいいと思うのでありますが、ただ怒るるところは、こういう刑事公判におきまして、はたして被告が十分に自分の述ぶべきものを述べ得るという状態において、公判に臨むか、そうこと、あるいはまた他にも犯罪があるけれども、今のうちに簡易手続でもつて早く審理を終らしてしまつた方が得であるというような場合、あるいは人の身がわりになるというような場合、さまそれの場合がその中に入つて来る。それに来する配慮がそれらの改正のうちには加わつておるのでありますが、その有罪である旨を陳述してもただちに簡易の公判手続に移らないで、あらかじめ検察官や被告人、あるいは弁護人意見を開いて、その意見陳述被告人の真意によるものであるということを十分検討した上でこの簡易の公判手続に移るのだ、こういうふうに言われるのでありますが、しかし実際規則を運営して参りますと、検事の公訴状の朗読があつて、そうして裁判所が被告に対して黙秘権のあることを示す、その後に冒頭陳述に入るとき、実際まだ何ものも出ていないのであります。そういうときに、この冒頭陳述の中で被告が、あるいはその弁護人が、被告の犯罪にかかることを認めるというようなことは、これは覚悟をしておるところのものであるならば、――あるいはもうあきらめておるところのものであるならば、もう当然に認めますということを言うわけです。そのほかの証拠材料はまだ出ていないのです。また検事はもちろん意見を述べることはできましても、検事自体は、これは起訴官でありますから、もとよりこれに対して反対の意見など述べるようなことはないのであります。弁護人はどうかと言えば、弁護人は実際被告の意に反して陳述をするということのでさないこともあり得るし、また実際においては、被告が認めているくらいのものについてはこれを自由な立場から、これはどうかと思うというよう意見を述べることができないのであります。それでありまするから、ある程度審理に入つて後ならば裁判所もある程度心証を得て、これを簡易の公判手続に移すということもできると思うのですけれども、この手続はそういうあれではなくて、冒頭陳述の後に意見を述べ、そうしてその程度において簡易公判手続に移るようでありますが、こういうことで裁判所においてこの陳述がほんとうのものであるという真実性を把握することができるかどうか。そういうふうに考えるのでありますが、その運営の点について承りたい。
  67. 岡原昌男

    岡原政府委員 この二百九十一条の二以下の改正の点につきましては、お話ような御疑問が生じて来ることはごもつともでございます。われわれもさようなことで、もし手続が非常に形式的と申しますか、表面的な動き方を参してはならぬ、かように存じますがただわれわれの考えました建前といたしましては、御承知の通り冒頭の起訴状の陳述がございまして、被告人はその内容がわかるわけでございます。もつともその前にも起訴状の謄本が送達して参つておりますから、こういう事件が今問題になつているということも、本人は百も承知なわけでございます。なお、さらにさかのぼりますと本人は警察以来ずつと調べられて、こういう点、こういう点が問題になつているのだということも承知いたしておるわけでございます。従つてその点等について、本人が、こんなことが問題になつているけれども自分にはこういう点に異存がある、こういう点についてはこういう弁解があるというようなことがございますれば、その冒頭陳述の際に普通申すわけでございます。その際に、たとえば自分は盗んだことは盗んだけれども、たとえば事情としてそれは返しましたとか、あるいは人をなぐつたけれども、けがしたと起訴状にありますけれどもけがはありませんでしたといつたようなことを、その場で言うわけでございます。そういう点について争いのない事件だけが、この簡易公判の手続に乗つて行くということになつて来るわけでございまして、その冒頭の陳述の際にさような点について、本人が予期した点についての質問でございますから、一応それでやつて行けるんじやないかというふうに考えたわけでございます。ただそういう点についていろいろな御疑問があると思いましたので、今度はそういう手続をさらに進行さした上で、もしも若干なりとも何か問題が生じそうなときには、ただちにこの決定取消して普通の手続に乗り得るということも、ちやんと裏打ちをいたしてあるわけであります。
  68. 井伊誠一

    井伊委員 その簡易手続の進行しておる間に、これはどうも犯罪者でないという疑いがあるときになれば、元の通常の手続にかえるというあれはありますが、実はその一番初め、簡易手続に入るときにその被告人が有罪である旨を陳述しても、そこで今度それに対するところの弁護人意見を述べる、あるいは検察官も意見を述べ、被告も意見を述べる、こういうふうにしたしましても、それだけでは、どうも裁判所がこれで簡易公判手続に移つていいという心証をつかみ得ないと思うのであります。その材料がないと思いますが、それをどうしてつかんで一番初め簡易公判に移るか。それはどういう考え方になつておりますか。
  69. 岡原昌男

    岡原政府委員 さよう事件は、事実の内容がいわば非常に明瞭な事件に限られて来ると思います。と申しますのは、大体先ほども七割と申しましたが、それは調べが普通の手続で行きまして最後まで異存のない事件のパーセンテージでございまして、最初の、冒頭のときだけの問題ではないのであります。従いまして今までのような経過から申しますると、さような最初の段階において申した、たとえば本件については異存がないというよう陳述は、そうすぐに信意力がないというわけではないのであります。しかもさような場合には、おそらく裁判官としては念を押して、ほんとうに間違いないか、こうこういう点だよということにはなろうと思います。それでさらに弁護人とそれから検察官と、それから今の被告人本人に、簡易公判手続というのはこういうふうになるのだけれども、それに移るのは異存はないかということを念を押すわけです。それだつたら少し言うことがあるというようなことが、その場で出るわけであります。そういう移る前の手当も十分いたしてあるわけでございますから、大体それによつて間違いが起きるということはないと私は考えます。  それからもう一つは、これが移つた後にそれでは自白一本で処分ができるかというと、さようではございません。やはり傍証がなければいかぬ。補強証拠がなければいかぬ、この原則はくずしておりません。従いましてさような証拠も調べるわけでございます。証拠調べの途中でどうもおかしいということになれば、これは普通の手続に移つて参ります。さように証拠調べは手続は簡単にいたしてございますが、やはり調べだけはいたすわけでございまして、さような面からも決して無実の者が罪になるというような心配はないだろう、かよう考えたわけでございます。
  70. 井伊誠一

    井伊委員 このところでは権利のある者が権利を失うおそれのあることについての配慮は十分に私はできてあると思うのです。ことに重罪については除外をしてあるというようなことでもあるし、また行き過ぎてもまた通常のものに返つて来るというのであるし、そう何ということはないのでありますけれども、あまりにそこが厳重に落ちなくできておるために、結局のところは簡易な公判手続規定を設けたけれども、設けたほどの有効さがないのじやないかということに私は一応考えるのでありますが、しかし実際はこれを設けることによつてどれくらいの簡易のありがたさがあるかということをひとつお尋ねいたしたい。
  71. 岡原昌男

    岡原政府委員 それは今度の条文で申し上げますと、三百七条の二という条文がございます。これがこの簡易公判に移つた事件につきましては二百九十六条、二百九十七条、三百条、三百一条、三百二条及び三百四条ないし前条と申しますから、三百六条までのこの規定を適用しないで「証拠調は公判期日において、適当と認める方法でこれを行うことができる。」という条文がございます。これによりまして、たとえば一二百九十六条の検察官の冒頭陳述、二百九十七条の証拠調べの範囲、順序、方法を定める手続、あるいは三百条の検察官の面前調書の取調べ請求の義務に関する規定それから三百一条の自白の取調べ請求の時期の制限、あるいは三百二条の証拠能力のある書面が捜査記録の一部であるときは証拠調べの冒頭とか、あるいは三百四条の証人等の取調べ方法、さらに三百五条の証拠調べの方法三百六条、七条の証拠物の取調べ方法、これは御承知の通り非常に厳格な順序その他がきめられてございます。これらが必ずしもその順序に従わなくとも、裁判所において適当と認める方法でいろいろ順序不同に調べもできる、かようなことが一つ考えられるわけでございます。  それからもう一つは「三百二十条に次の一項を加える。」という条文がございまして、「第二百九十一条の二の決定があつた事件の証拠については、前項の規定は、これを適用しない。」要するに伝聞証言の効力に関する規定でございます。「但し、検察官、被告人又は弁護人が証拠とすることに異議を述べたものについては、この限りでない。」こういう裏打ちがございまして、異議がなければ伝聞証拠もとり得る、かような有利な点であろうかと思います。
  72. 井伊誠一

    井伊委員 それは今度は非常に簡易になつた点でありますが、ただ相当のところまで事件が進行して行つてから異議を述べて来るというようなことになると、またせつかくのことを正式にやり直すということになつて、簡易になつたと思うものが実は簡易でも何でもない。ところがそういう異議を述べたりすることは往々あり得るし、それから陳述のときにおいては、非常に簡単に陳述するのが被告人の通例であります。これがよほど重大な問題であれば格別でありますけれども、通例のものでありますれば非常に簡単にするのが普通であります。従つてそれは進行の過程において実はさまざまの正当防衛の論が出て来たり、緊急避難の論が出て来たりすることによつて、今度ちよつとかわつて来るということはあり得るのであります。でありまするから初め簡単に着手したはいいけれども、簡易な手続が簡易な手続に終らないで、また正式にやり直すことが非常に多くなるのじやないかどいうことを考えて、差引してみてあまりにこれはその手続上有効にならないのじやないかという気がいたします。その上に対しての考慮はどうでございますか。
  73. 岡原昌男

    岡原政府委員 これはあるいはこの点につきましては、裁判所からの御意見をお聞き願うのが一番いいと思いますが、従来の裁判所運用実情と申しますか、それらの点を十分勘案いたしました結果、やはりかよう規定を置くことによりまして、裁判官は相当その力の重点を複雑困難な事件の方に向けることができるであろう、さようなことで今回の改正が企てられたわけでございます。
  74. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 簡易公判手続につきましてただいま御質問がありましたよう問題点のあることは、私どももまつたく同感でございます。にもかかわらずこういう制度改正案として希望いたします理由は、実際の新刑訴の運用状態を見ますと、相当多くの事件が新刑訴のほんとうの精神にのつとつて審理されていないと申してもいいんじやないいかと思われるような現象があるのでございます。それは法律制度自体にもやはり原因があろうと思います。御承知の通りこの新しい手続は検察官と被告人、弁護士側との攻防戦、それを前提として当事者の闘争主義でできておるものであります。ところが事件によりましてはそういうふうな積極的な訴訟活動によつて相争う必要のない事件が相当あるわけであります。そういうよう事件の実際の審理ぶりは、この法律規定通りには実際上の運用は行われていない。これは裁判所ばかりじやなく、検察官、弁護人もやはりそれを御承知の上でそういう運営をやつておられる、こういうことがこのまま法廷慣習になるということは、将来刑事裁判制度として問題じやなかろうか。むしろそういういわば簡易な手続で済まされる事件は簡易な手続によることとして、ほんとうに法律規定する複雑な手続で、複雑な証拠法のもので審理さるべき事件はこの複雑な手続でやる、これがほんとうに手続合理化し、能率化するゆえんじやなかろうか、今日のような――極端な表現を用いますと、争いのない事件については、当事者の双方が法廷で積極的に立証活動をやるという熱意もなく、またそういうこともやらない、そういう事件の公判廷の姿というものは、当事者の同意のない訴訟を受付けておるところだという批判をされてもやむを得ない状態だろうと思うのであります。これは先ほど申し上げましたよう理由から申しまして考えなければならないことである。その根本の問題は、いかなる事件も新刑事訴訟法のあの複雑な手続でやらなければならないというふうにできておる点にあろうかと存ずるのであります。御承知のようにアメリカにおきますアレインメントの手続は、この簡易公判手続とはまつたく違うものであります。アメリカの刑事事件の八十四、五パーセントはアレインメントで片づいている。残りの十五、六パーセントが普通の手続でやつておる。しかもそのうちの約半分が、陪審を辞退しておる。陪審を辞退いたしますと、向うの裁判官による裁判の実際の運用は、陪審手続におけるよりもやはり証拠法の運用が緩和されて行われる。ほんとうにあの複雑な陪審手続でかる事件というものは全事件の七、八パーセント、そういうほんとうに争うべき事件に重点を向ける。そういうのが手続合理化、能率化をはかるゆえんであると考えられるのでありまして、そういうような次第で、ことに最近は刑事書がだんだんに減少して来おりますにもかかわらず、第一審の審理期間がだんだんと延長して来ております。これは訴訟手続が軌道に乗つて来ておる一つの証拠でもあろうと思いますが、こういうような状態が続きますと、また前のように第一審の裁判所事件がたくさんだまるというようなこともあるいは起るのじやなかろうか、こういうような点もやはり考えなければならぬ、かように存ずる次第であります。
  75. 井伊誠一

    井伊委員 私はもうけつこうです。
  76. 小林錡

    小林委員長 木下郁君。
  77. 木下郁

    ○木下委員 法務大臣にお伺いしたい。百九十三条の問題をあらゆる角度から論議されておりますが、ただ私の意見をきめる参考に、ちよつと伺いたい。例の破防法について出した検事総長からの指示について国家公安委員長から返事が来たが、これは実にあいまいな文章で、検事総長がやるのならいいけれども検事正がやるのは悪いというのか、それともその内容が準則の範囲を逸脱しているというのか、単に表現の方法がまずいから司法警察官の捜査権を少し縮めるというような印象を受けるから困るというのか、わけのわからないような文章です。それで今度の百九十三条一項の改正についても、司法警察官の捜査権を少しもプラスするものではない、マイナスもするものではないという法務大臣の御答弁を伺つておりますが、それではこういう破防法の問題について検事総長は一般的指示の準則のつもりでお出しになつたのでしようが、それがこういうごたごたが起る。そういうのがやはり一つのきつかけになつてこの改正がされたのではないかということを私は思いますが、検事総長が出した破防法の違反事件の捜査手続に関するこの準則、指示と申しますか、これはさしつかえないのだというふうに、法務大臣としてはお考えになつておりますか。この点をお伺いします。
  78. 犬養健

    犬養国務大臣 これはごく飾らずにお話をしたいと思つております。実は私の就任前のことでございまして、詳しいことになりますと当時勤務しておつた者から申し上げるのが一番いいかと思うのであります。破防法に関して一般的指示をしたいきさつは、とにかく両当事者の意図はどこにあるにせよ、大分ごたごたしたということはたしかに遺憾であります。私はそういう、ことを繰返したくないと思つているのであります。破防法についてああいう一般的指示が必要であつたかどうか、済んでしまつたことでありまして、どうも私の立場としては言いにくい部分もあるのでありますが、ああいう特殊な要素を備えている問題でございますし、当時国会の方面よりも一種の御要請があつたように聞いておりますから、まああれはあれでやむを得なかつたのじやないか。問題は、将来やたらにああいうものを出して、あれを先例として、破防法で国会が承知したからまた出すのは文句があるかというような態度は、私は断じてとらないつもりでございます。将来長きにわたつて絶対にああいう措置が必要であると検察側が思うか思わないか。これだけ先のことを絶無と言い切つていいかどうか。事務的に言えば、これは絶無と言い切るのはむずかしいと思います。そこで当委員会がすつかり態度をおきめになる前に、それについて責任のある覚書みたいなものを読みげたいと思つて今文章をつくつております。結局抜打ち的にはやらない。将来何か必要が起つて検察側が一般的指示を出す場合は、あらかじめ警察側と緊密な連絡をしまして、抜打ち的なことはしない、これだけははつきり申し上げ得ると思うのであります。今破防法に関する一般的指示のように、捜査の以前に一々協議してもらわなければ困るという事件が、すぐに必要の事件として頭に浮んでおりません。ただ万一将来起つた場合にはどういうふうにするか、将来わざと起そうという気もないわけであります。
  79. 木下郁

    ○木下委員 次は百九十九条の例の逮捕状の問題ですが、専門員の方のお話では、最高裁判所あるいは大審院のはつきりした判例がない、それから学者の間には裁判官の出すのについて形式的な審査権だけはあつて、実質的な審査権はないのだ、あるのだという両院がある、形式的には行くべきものだというものの方が数が多いというふうに伺つたのですが、この改正をお出しになる法務当局としては、裁判官が逮捕状を出すか却下するかということについて、被告人逃亡の危険があるかないか、証拠隠滅の危険があるかないかというような実質的審査をする権能があるかどうかということについて、一体どつちの御見解の上に立たれておりますか、これを伺いたい。
  80. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点はこの前もお話しました通り大分争いのあるところでありましで、しかもその争いがみな微妙なところでわかれております。そこで実はざつくばらんに申しまして、私どもの局の中でもいろいろ考え方が違いまして、裁判所がそういうことの判断は事実上なかなかできないのじやないかという点については一致しておりますけれども、それでは全然できないかというと、そういうわけでもない。きのうも岸説明員が言つておりました通り、権利内容にわたるような場合には裁判所で当然判断ができる事項であります。さような微妙な点についていろいろわかれておりますが、とにかく全責任を負わせるというのは裁判官に困難である、あるいはお気の毒であるという意見の方が多いようでございます。
  81. 木下郁

    ○木下委員 それは今まで伺つたのとあまり違わぬ答えなんですが、私は法務大臣にどつちからどうだといつて議論する必要はない。われわれの態度はわれわれできめればいいことである。法務大臣はその方の専門家でありませんが、やはり法務大臣として政治家としての一つの常識的な観念、識見という立場から、この百九十九条の改正案について、この重大な基本をなす内容の問題について今のようお話があつた。今の岡原局長のお答えではやはり形式的審査権だけあるのだというような点に、五〇%以上そつちの方を重く見ておるというふうに私は伺つた。これは法務大臣としてはどつちの方に、法務大臣の専門家としてのにわか勉強の結果と言つては失礼かもしれませんが、常識的なしかも政治家としての識見として、その点をちよつとお伺いします。
  82. 犬養健

    犬養国務大臣 今政府委員から申しましたように、やはり検察側といつても、非常にだめを押して強い意見もあるし、なかなかさばけたような人の意見もあるわけでございます。私もこの点は機会あるごとにいろいろの方の意見も聞いておりますし、昨日もここにおられます裁判所の岸説明員のお考えも皆さんと御一緒に聞いて参考にもなつたのですが、どうも裁判官ももう全然ないというわけではない。現にきのう事例にあげられましたバラバラ事件で米の配給統制違反だといつて、実はほかにねらいがあるという場合は、裁判官はこんな捕逮状の請求の形ではいかぬといつて下げておる。だから判断の能力なしというのは手ひど過ぎると思うのでありますが、常識からいつて一緒に捜査に歩いたわけでもありませんので、一片の紙れで全貌を見抜くような非常に叡知のある裁判官もありましようし、またない人もある。一番叡知のあるところをレベルにとるということは私は法律として危険じやないかと思いまして、岸説明員の意見も十分謹聴しておつたのでありますが、結局裁判官としては英米のやり方と違うので、一緒に捜査したわけでなし、神でないしするのだから、検察官の意見添付が必要だとまでは言われませんでしようが、今ところ日本の段階においては、警察官の逮捕状請求よりも検察官の逮捕状請求がずつと法律形式を備えていることは事実である、こう言われたわけでございます。私もその点少し警察側に気の毒な言い方でありますが、裁判側が公平に言つておられることがほんとうなんじやないかと思いますけれども、それをしおに乗りかかつて旧刑訴的な検察官の地位を回復しようというようなものが、かりにありましたら、これは行き過ぎだと思うのであります。従つて裁判官請求を受けたときのいろいろな立場を考えてみますと、公訴官たるあるいは法律的素質において少くも今は警察官の一般のレベルより少し上じやないかと思われる検察官の意見の反映が同時にそこにあつた方がよろしい、こういう考え方をしておるのであります。そこでこれはごく率直なお話ですが、そういう考え方について同意という字が適当かどうか。同意という字が一番適当だと私は実は思つていないのであります。何かもうちよつといい字があつたら皆様の御意見も伺いたいし、自分も知恵をしぼつてみたい。同意という字に多少懐疑を持ちながら、時間的に国会にすべり込んでしまつたというのが、体裁をかまわず申し上げる実情でございます。
  83. 木下郁

    ○木下委員 今のお答えの同意の聞賭は、私も傍聴しておつて、よくまあ法務大臣はしんぼう強く同じようなことに何回もお答えになると思つているくらいです。私の聞いたのはその問題ではありません。専門家でない法務大臣にその点を伺うのは無理かもしれぬと思われますが、しかし責任者である法務大臣ですから……。私が聞いているのは、同意とか不同意とかいう問題ではない。現行刑訴の建前で、逮捕状を出す出さぬの決定にあたつて、これは判事がただ逮捕状の請求書形式的な要件だけを審査する権能がある、あとはないのだという見解のもとに立たれているか、それともその形式的な要件を備えているかどうかということを審査することはもちろん、なおその逮捕状を出すことに、被告を逮捕するということについて必要ありやいなや。従つてそれが妥当なりやいなやというような実質的なことまで審査する権能があるという、現行法解釈論に二通りあるのです。その二通りあるうちのどつちの立場でこの改正案をお出しになつたのかということをお聞きしたいのです。
  84. 犬養健

    犬養国務大臣 言葉が足りないでまことに相済まないことと思います。逮捕状の請求の適法性のみを形式的に判断するだけでは、逮捕状の請求を受けた裁判官の立場としては不十分であると解釈いたしております。しからば妥当性について能力があるかどうか。能力という言葉は、どうも失礼に当りますので私は使いたくありませんが、困難な場合が相当あるのじやないか。ではその補充はどうしたらいいかといえば、検察官が同じ逮捕状の請求を受けた事件について、検察側の別の角度からの意見の開陳があることがなお十全を期することだ、こういう考え方であります。
  85. 木下郁

    ○木下委員 だから実質的審査権はやはり多少はある。ただその行う資格において、判事よりも検事の方がよく知つているだろう、材料をよけい持つているだろうというお話です。私はそのあとのことを聞いたのではなくて、前の方を聞いたのです。その点はそれでやめます。  それでこの改正について警察の方の権能をプラスするかマイナスするかということが問題になつておりますが、その点ではない、一般的指示を与えるというようなことが――私はやはり裁判は調子を合せるということも、裁判の威信を保つ上には必要なことだ。しかし民主主義の上に自治警察というようなものがつくられて、分権制度、地方の政治の上でも大幅な自治が拡張されました。それでいろいろ議論中に、自治警察になつてから国会に対して責任をとる人間がない。自治警察でやることには、だから警務大臣をつくつたらどうかという意見もありました。これは一つの御意見です。元来が民主主義というのはゆるふんなものだ。そこにあるいは弊害もある、能率の上らぬところもありますが、それが自治警察を求められ、民主主義を発展させるためにつくつたことなんです。この一般的指示なんていうものも、これは国家警察の公安委員委員長から破防法について先ほど申しましたような、われわれの方ではちよつとわけのわからぬような回答が来ております。これが何もかも調子を合せてやるという考え方からすれば困つたことであり、不都合なることであるというふうに考える人もあるかもしれぬけれども、今まであれだけ封建的にやつて来た日本の政治を、大急ぎで民主主義の方に持つて行こうというときには、一つの自治警察にもこういうことはあつてよいのである。それをそんなに気にすることはないと私は思う。さよう意味で昔を振り返つて見れば、警察のフアツシヨだと言われるが、警保局長を一箇月すれば政治警察の功労者というのかもわかりませんが、その当時の勅選議員になる。大審院院長をやめた人でも、平沼内閣の牧野菊之助は大審院長をやめた後勅選議員になつておる。むだなことを言うようですが、牧野氏は火事を起して奥さんが焼け死んだということが当時ありました。いやしくも日本の一番最高の裁判所である大審院の院長をやつた人が、たとえやめた後といえども火事があつて奥さんが焼け死んだというようなみつともない姿を世界に示すというようなことは、非常な恥さらしだ。それは言いかえれば司法権の威信というものを、間接に非常に傷つけた、こういう人を、司法のことは百も承知のはずの平沼さんが内閣を組織しているときに、警保局長をした、大審院長をしたということで勅選議員にするというその空気、ああいう調子がないために、警察事務というものが、そう全国的に画一にならぬでもいいものだ。多少のゆるふんは認めて行くべきだ、がまんすべきだというふうに考えておりますが、その点について法務大臣はどうお考えでありますか。
  86. 犬養健

    犬養国務大臣 これはなかなか苦労人の言葉だと思います。歴史というものはそのときの幅を見て、その間の手ぬるさというものに寛大だということは大いに必要だと思うのであります。その点は全然同感であります。
  87. 木下郁

    ○木下委員 最後に一点聞きますが、権力を持つておるものはフアツシヨ的になりやすい。この改正問題についてのいろいろの意見も検事フアツシヨになるのではないかということを憂えるのです。それから警察法の改正も今度は出ておりませんが、この前出たときに警察国家になるということが大分ありました。私は全体として警察のフアツシヨよりも検察のフアツシヨの方がやつかいだと思う。同じ甲羅をつけ、よろいをつけるにしても、裁判所のごとき独立性を持たぬでも、検察の立てこもつている城郭の方が壁が堅固です。その意味において、今こそやつと大急ぎで民主化して行こうというときに、検察と警察とどつちがフアツシヨ化するかというと、警察の方は少しぐらいフアツシヨ的になつたところで、そうやつかいではない。また相当民主化しており、一般国民がこれを批判する。けれども検察庁のフアツシヨ化は、これをためて行くのはいささか骨が折れてやつかいだと思う。日本の過去の警察が力を持ち始めたとき、日支事変の直前あたりの検事のフアツシヨのとき等の、あの過去の数年間の動きを振り返つて見るとき、それは仮定の上に立つてのことですが、一体同じ権力を持つにしても警察が持つた場合と、検察庁が持つた場合とどつちが人民の、国民の批判が通り得るか、その点法務大臣はどういうふうに考えておられるか。
  88. 犬養健

    犬養国務大臣 これはなかなか難問題でありますが、一番両方の心得違いの者を共進会でどつちに採点するかということになれば、私はどつちもどつちだと思うのです。実は今度もいろいろ間で苦労しているのでありますが、弊害は片方が片方に石をぶつける資格がない、両方ともひとつ虚心坦懐振り直つて改めてもらう、それも不心得の者というのは全体の数からいうと少いのでありますけれども、被害を受ける国民からいうとなかなか小さい問題でない。そこで一般的指示を準則の形でやる、普通の場合はそれでみな安心するのですが、それがこういう問題が起るというのは、やはり御承知のように検察官の力が過大になつてはいぬという国民の意識が皆さんを通じて現われる――そこで私がしばしば申し上げるように、一般的指示をする場合にはもう一つの権力の相手である警察側とあらかじめ連絡をして、相談をして、―方の権力が片方の権力に抜打ち的にやるということをやめる。ただ速記録に残しただけではいけないから、相当責任を持つた覚書でも読み上げようということは、やはり木下さんのような御心配をくみとつて、いるからであります。また普通の人が同意と言えば上下の差別なく同意が一番いいということになると思いますが、同意でも心配だということは、検察側の相当強大な力を危惧される一部の人間が心配されると思う。そこでそういう御心配があれば、この同意という字は、さらにいい字があればひとつ虚心坦懐その字を伺う、こう言つているのでありまして、どの社会でも一番くだらない方は実にくだらないのでありますが、その点についての御心配だというお話ならば、私も一緒に心配していると申し上げてよろしいかと思います。
  89. 木下郁

    ○木下委員 法務大臣にその点をはつきり伺うことは無理な注文かもしれませんが、私はこの改正案の適用の結果がどうなるかという見通しについては別問題として、権力を持つてフアツシヨ化したときにやつかいなのは、どつちがやつかいかといえば、これは検察庁がフアツシヨ化した方がよほどやつかいだということを痛切に感じもしますし、また信じております。それらの点について議論する必要もないので私の質疑はこれで終ります。
  90. 小林錡

    小林委員長 岡田春夫君。
  91. 岡田春夫

    ○岡田(春)委員 大臣も御不快だそうですし、私も大分天候が暑いので御不快に近いようなので、今日はそういう意味できわめて概念的な総括的な点だけ、簡単にお伺いして明日続けたいと思います。  まず第一に改正案の提案説明書を見ますと、現行法の基本的性格を維持しながら運用上現実に障害のある点をさしあたり除去するのが当面の改正案趣旨である。それから昨日たしか古屋君に対する御答弁であつたと思いますが、本建築ではなくて一軒の家ならば一部分を修繕するのだ、こういう意味改正をやつているのだというお話であつたと思うのであります。大体の御趣旨は提案説明も同様であろうと思います。この場合ここでひとつお伺いいたしたいのですけれども、いわゆる本建築といつておられる、いわば根本的な改正、こういうようなものではないのだというならば、この根本的な改正というものは、一体どういうことを具体的にお考えになつておられるか、少くとも部分的な修繕であるというように判定をされるとするならば、輪郭だけでもこれは本建築との間の区別ができていなければならない、そういう意味で、まず本建築というのは具体的にどういう意味か、この点からお伺いをして参りたい。
  92. 犬養健

    犬養国務大臣 これはもつと具体的に申し上げますと、私どももまだ十分自分で研究を積んでいない部分をあるのですが、御承知のように独法的なところへ英米法的なものが入つて来て、両者混合になつておるというような点がある。根本的な改正といえば、そういう根本的な学的な問題も当面の研究課題として当然出て来なければならぬ。今とても間に合わない、こういうような気持であります。昨日最高裁判所の岸さんが述べられたように、逮捕状の請求をします。向うでは召喚状であります。そういう問題も一体どつちがいいかというような問題が起つて来るでありましよう。また裁判の第一陳、第二審、御承知のように第一審絶対中心主義で、第二審はほんの事後審的なものであつたのが、どうもこれはいかぬというので今般続審的なものを入れました。これも一体どつちの純粋の姿がいいのか、また純粋の姿というものは実際の場合にはないそうであります。どこかまざりが入つておるそうでありますが、そういう問題もまじめにひとつ考える必要があるのじやないか――いろいろ考えてみると一私募えるたびに問題が一つずつふえて行くようなわけでありまして、それではとても間に合わないし、待つていたのでは不便が多いから、とりあえず修繕にとりかかる。こういうわけであります。
  93. 岡田春夫

    ○岡田(春)委員 今抽象的な規定をされたようでありますけれども、現在の刑事訴訟法の建前というものは、これは戦争中、あるいは戦争前の日本におけるいろいろな弾圧的な検察制度、そういうものから来て、こういうようなフアツシヨ的なものを改めようというので、基本的な規定においては、憲法においては、われわれ常識的に考えた場合には、むしろあまりにも詳細にわたり過ぎるのではないかと思われるほど憲法に詳細に規定されておる。その憲法に詳細に規定されている点から、現行刑訴法の骨組みが私はできておると思う。こういう骨組みにわたつたものまで本建築として改正をされて行かれるというお考えなのか、こういう意味の点を実は伺いたかつたわけであります。
  94. 犬養健

    犬養国務大臣 これは専門的な問題になりますから、私はしろうとで、言葉が非法律的ですから、ここに専門家がおりますから、できるだけ詳細に御説明いたさせたいと思います。
  95. 岡原昌男

    岡原政府委員 今回の刑事訴訟法改正をお願いしてありますのは、たびたび申し上げますように、ほんの一部の、いわば間に合せと申しますか、当面の解決といつたよう程度でございまして、その根本につきましては、一つは陪審制度の問題がございます。これは起訴陪審を採用するかしないか、さらに裁判の決定を陪審にかけるとして、元みたいに事実の認定だけにするか、あるいは刑の量定までそれに関与させるか、その陪審制度を二段目に採用するかどうかといつたような問題がございます。  もう一つは、証拠法の問題がございます。これは御承知の通り現在の証拠法というものは、英米考え方を相当取入れてありますが、同時にそれは英米の方で陪審制度ということを前提として考えられてある面で、こちらにそのまま入つておるやに考えられる点もかなりあるのでございます。そういう点が若干問題になりつつある点もございます。  それからもつと大きな問題として審級制度の問題がございます。これは三審三級がいいか、あるいは三審四級にしたらいいか、あるいは二審三級にしたらいいか。いろいろな考え方があることだろうと思いますが、そういうふうな問題がございまして、これは場合によつては上告審の権限の問題とも牽連して来る問題でございまして、いずれも根本的な問題でございます。ある程度のものは、すでに法制審議会の司法制度部会においても研究中に属しておりますし、また刑事法部会においてもその一部は問題として取上げて研究中でございます。大体現在としてはそういうふうな段階にございまして、これを一ついじりますと、全部に響く問題ばかりでございます。従つて根本的ということになりますと、それらの問題を全部一度にということでなければ、このうち、たとえば証拠法だけ片づけるというわけには実は行かない問題でございます。
  96. 岡田春夫

    ○岡田(春)委員 今質問趣旨とは答弁が違うようですが、私の言つておるのは、これはむしろ大臣に伺いたかつたのです。現行刑訴法の骨組みになるような点で重要な規定憲法に明示されておる。それで根本的な改正をやるという場合には、憲法規定されておるようなものにまで触れて来るじやないか、こういう点をお伺いしたがつたのであります。
  97. 犬養健

    犬養国務大臣 今政府委員が申しましたように、根本的な問題を法制審議会に諮問――真正面ではありませんが、こういうことも将来考えてくれということをやつておるわけであります。憲法改正に触れるようなことまでの諮問はしておりません。
  98. 岡田春夫

    ○岡田(春)委員 そこで今度は改正案にもどつて参りますが、根本的な改正の問題の場合としても、憲法規定に抵触するものは出ておらないということになれば、いやしくも今度の改正法案においては、もちろん憲法上の規定に明文化され、あるいは憲法上の趣旨に反するようなものがあつてはならない。そういう点は意図されておらないと私は考えております。そういう点について今度の改正法案についてはそういう懸念は全然ないと断言できるかどうか。この点をまず伺いたい。
  99. 犬養健

    犬養国務大臣 これもあまりよそ行きにお返事をするのは、かえつて礼を失することになりますから申し上げますが、たとえば勾留理由開示の問題でも関係人が口頭陳述するということは憲法上の要請だという学者もあります。しかしそこまで要請していないという学者もあつて、要請しているという方だけをとると、憲法に違反するおそれがある、こういうことになつて、そういう冒険まであえてお前はするのか、こういう問題に岡田さんの御質問は触れて来ると思います。これは結局私どもの良識と良心の問題でありますが、ある問題について憲法上触れるという学者もあれば、触れないという学者もある、世論も見て判断をする、こういうわけでありまして、その点で、おそらくいろいろな問題で岡田さんにはおしかりを受けるのじやないか。しかしそのたびに私の方ではこういう根拠でそうでないと思つておりますということをごく正直にこれから一々申し上げもし、また私はしろうとですから、政府委員からも申し上げたいと思うのであります。
  100. 岡田春夫

    ○岡田(春)委員 ただいま私のおしかり云々というお話がございました。しかしこの問題はきわめて重大な問題であります。憲法上の規定に反するか、反しないかという点は重大であり、これは単に私の問題とか、あるいは犬養法務大臣の問題とかいう問題ではないと思う。現にすでに大臣もお聞きになつておられようと思いますが、きよう法律八十一号の最高裁の判決において、あれが違憲であるという形で、明らかにこれは免訴になつておる。こういうふうになつて参りますと、われわれは国会の中でこの法律を一応通しております。その法律を通しておるにもかかわらず、最高裁においてこういう判決が下つたとするならば、国会の権威という問題にも当然かかわつて来る問題である。そしてまたこれは今後法案を提出されるような場合において、提出される政府当局としても慎重に考えなければ、単に私がおしかりをする云々ということではなくして、その不名誉が大臣の名前とともに永久に残らざるを得ないような結果になつて来ると思うのであります。こういう意味においても私はきわめて慎重にお考えを願いたいと思う。  そこでもう一つ関連してお伺いしたいのですが、法文上の文言の上においては、ことさら憲法上の趣旨あるいは憲法上の規定に抵触しないと考えられておつても、その文言の表現において必ずしも明確でないために――運用するのは明らかに人であります。その運用において憲法規定あるいは憲法趣旨と反するような場合ができることを考慮しなければならない。そういう文言については、特に改正案という場合においては慎重に考慮をしなければならないと思うのですが、これについての御意見をまず伺つておきたいと思います。
  101. 犬養健

    犬養国務大臣 言葉が足りないので、まことに御迷惑をかけておりますか、岡田さんにしかられるというのは、あなた個人が何もえり好んでこの暑いのにやつておるわけではないので、あなたのよう考え方の国民が背後にたくさんおられるので、その責任を背負つてつておられることになる、これは尊重しなければならぬということであります。  次に御指摘の問題でありますが、ちよつと読むと合憲的ではあるが、副次的作用がなかなか恐ろしいものである、これはあると思うのです。そういうことは他の法律にもあると思う。私はそれについて二つの処置を考えております。一つはその運用に国民の迷惑しないようなわくをはめるべく、速記録に残して責任大臣としてその趣旨を言明し、みずからそのわくに抑制されるという方法があります。しかしこれはどうもおまえは百年大臣をしておるわけではないというような御戒告がいつもある。そのほかの問題としては、法務省に参事官もおりますけれども法律作成の体裁から言うと、事柄を具体的にあげるのは体裁が悪くて少しいやがる。法制局も非常にいやがる。しかし私は体裁はある程度がまんして、国民が迷惑を受けるか受けないかということを主にして、明らかにした方がよいのではないか、その程度の柔軟性は持つてかかつておるつもりでございます。
  102. 岡田春夫

    ○岡田(春)委員 運用上で憲法違反になつておるというような点は、実際問題として実は相当あるのであります。拷問してはならないと言いながら、実際に拷問しておる事実をわれわれはたくさん知つております。あるいは強制による自白をさしてはいけないという問題についても、実際問題として自白を強制されておる場合がたくさんある。これは一々こういう例をあげて申し上げるまでもない。また百九十三条、百九十九条の改正の問題についても、見方によつては、この前も大分論議になりましたように、不完全行為者であるというようことまで話が出て、警察職員あるいは警察吏員の捜査における行き過ぎ、こういう問題が出ているわけです。こういう点を防ぐためには、何と言つても法文上の文言の規定を厳密以上に厳密にすべきでありまして、むしろ法文上における文言の明確化、あるいは制限規定、こういう点を十分設けて行くことがぜひとも私は必要であると思う。意見になりますけれども、さきの最高裁の判事の方のお話を伺つてつても、東大の宮澤さんの意見によつても、憲法というものはミニマムを規定している、こういう点から考えても、この規定に基いた法律規定は、特に運用においてそういう点が十分注意されるような文言の使い方をしていただきたいと思うわけです。そういう点で、今度の改正案において、運用の面において悪弊を生ずるような点がないとは私は言えないと思う。この点について、改正案をお出しになつた大臣として、こういう点はないと断言されることができるかどうか、まず伺つておきたい。
  103. 犬養健

    犬養国務大臣 あらゆる法律がさようように、運用いかんによつて制定当時の精神に反する場合がたくさんございます。私は、法文の体裁としては列挙主義というのは実はうまく行かないという思想の持主でございますけれども、法文の文字が岡田さんの御心配になるように的確性を帯びてない、ことに日本で使つている漢字というものは、古い伝統を持つているヨーロツパの文字よりも、その点が難物な本質を持つているのじやないかと思います。そういう心配については、大臣通牒あるいは検事総長の訓令で締め上げると同時に、数学的な正確さを持つた字で、もつとよいこんな字があるというならば、虚心坦懐に私は伺いたいと思うの百であります。御承知のように、フランス人というものはその点非常に厳格な誇りを持つておるのでありますが、日本の文字は本質的にどうもそこまでの正確を欠いておるうらみもあるのじやないか、この点は担当大臣という立場を離れて申し上げてみたいと思うのです。
  104. 岡田春夫

    ○岡田(春)委員 今の文言の問題については、一々例をあげればこの改正案の中に限りなくあるので、二、三の例をあげるだけにしておきますが、たとえば八十九条の第六号の場合、いわゆるお礼まわりの場合においても、「疑うに足りる充分な理由」とある。この「充分な」というのは、文学者である大臣には十分御存じでしよう、単なる形容詞であつて、これ自体に何らかの規定を設けようとする場合においてはこれではだめで、問題になる言葉だと思う。昨日の岡原さんの答弁によると、「充分な」ということは具体的なという意味だといわれましたが、それなら具体的なと、書いたらよい、そうすればきわめて具体的になる。「充分な」という場合には、妥当であるかどうかという判断は、むしろこれをする人の主観にまつということになつて来るわけです。ですからこの問題一つつてみても、これは改正になつておりませんか、その前の四号の場合の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由」とある。この「相当」と「充分」というのとどう違うのだという場合にも、これは解釈上非常に問題になつて来るであろうし、この刑訴を実際に執行する人の立場によつてこの「充分」と「相当」との判断において相当違つて来ると思う。これはやはり避けるべきだと思う。  あるいはまた九十六条の保釈の場合の取消しの問題ですが、四号を見ると、二行目に「財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき力」行為をした場合はよいのですが、「加えようとし」という場合に、一体だれが「加えようとし」という判断をするか、こういう主観的な判断に基くような文言を使うことは、刑訴法の趣旨からいつても、また憲法上の規定からいつても、私は極力避けて行かなければならぬ問題だと思う。そのほかたくさんありますけれども、一、二の例にとどめておきます。  今日はこの程度にして、明日は、実は憲法上の点から見て私は規定自体においても疑義があると考えられる。それから実際の運用上においても疑義があるのではないか。私も勉強は足りませんが少くとも私の知つている限りで四箇所においてある。こういう点を一つ一つ明日大臣にも十分意見を伺わせていただきたいと思います。
  105. 犬養健

    犬養国務大臣 ただいまの点ごもつともだと思うのであります。私も就任当時なれないときに、岡田さんと同じよう質問を盛んにやつたものであります。ある程度は慣例語になつている部分もあります。たとえば自白を強要されないという強要というのはどういうことが強要に値するのか、これは部内で詳しい通牒を出しているわけであります。元来の法文の精神に反するような場合にはただちに検察庁においては全国に訓令を出すというようなことをやつているのであります。たとえば選挙違反でぶち込まれて、弁護人が会いに行く場合も、この間もお話ように時間を切つてやる、そういう非常識な場合には、すぐときを移さず、それは元来の趣旨と違うのではないかということを相当厳重にやつておるのでございます。その前に十分というのはこういうよう意味だという通牒を詳しく出しているわけであります。なぜそれでは御不満のような結果が起るかというと、結局法文というものはあまり説明的になるとまずいという伝統的な頭がある、そこから来ると思うのでありまして、どうもあまり説明的なものは法文として適当でない、この矛盾に私自身も絶えず責任を感じているわけであります。
  106. 小林錡

    小林委員長 田嶋好夫君。
  107. 田嶋好文

    ○田嶋委員 犬養大臣にお伺いいたします。今の御発言に関連して、今大臣が接見について注意をされておるということなんですが、この委員会委員長初めみな心配している。事実はそうでなくて現在盛んに行われている。選挙違反以外に涜職事件などについては接見禁止ということが常例になつて来ました。ことにこの法案が出されているのにこれは検察官、警察官ともに言うべきことだと思うのですが、接見禁止が常套になつている。そればかりではなしに、面会の制限、ほとんど接見禁止を十日間やつて、そうして最後の日の一日に区切つて、三分にしてくれ、四分にしてくれ、そうしてしかもそれにはちやんと警察が監規をつけて来る。非常に極端な行動がとられたことがありまして、この点については委員会改正案が出たことを機会にして、これもひとつ改正したらという意見が出ておるのでございますが、せつかく大臣の御努力で一々注意をされているようですが、その趣旨が徹底していない、むしろ盛んになる傾向があります。この点ひとつ特に委員長から私に対する注意もございましたので申し上げておきます。
  108. 犬養健

    犬養国務大臣 これは具体的に申しますと、東京近郊のある県で田嶋さん御承知の通り三分しか会わせなかつた事件が起りまして、私どもこれは非常識だということで、一般的な通牒でなしに、すぐそこに注意を促したわけであります。そればかりではございません。六月の十日過ぎに全国の次席会同をやつたときに特にこの問題を取上げまして、そういう非常識なことはやつてはならぬという通牒を出してあるのですが、旧態依然だということになると私相当責任を感じます。これはもう一度繰返し善処してみたいと思います。
  109. 田嶋好文

    ○田嶋委員 実は大臣、これは観念的でなしに、大臣の御心配されておること非常にありがたく思うのですが、実際は逆行している。こういう例を申し上げましよう。この間私はあるところで次席検事と実は話をしました。そういう行き過ぎに対して事たまたま次席検事に今刑事訴訟法改正されようとしておるのだ、このときに君たちが語解を招くようなことをやつては困るじやないかということを申し上げた。これは笑い話ですが、そこに司法研修生を終えて初めて検事になつた男が立ち会つた。これは非常識だと思うのですけれども、法の改正なんか必要はありません、改正しても改正しなくてもけつこうです、私たちがやればいい、こういう話であつた。そこで私は笑い事にして、よしわかつた、その言葉は耳に入れておくぞ、次席検事に、あなたもぜひそれは耳に入れておきさい、大いに参考こしますよと言つて笑い事にした。向うもじようだんにうつたのでしようが、若い検事ですがそういう人があるのです。検事フアツシヨということが、このような人からそこにおのずから具体的に出て来る。これは遺憾だと思います。これはきようの答弁でなくていいですから、部内的に何かいい方法がこの改正等にありますればひとつお考えを願いたいと思います。
  110. 岡田春夫

    ○岡田(春)委員 関連して、この問題は実はあとで申し上げようと思つていたのですが、出て来たからやりますけれども、接見を制限して三分間にしたぐらいならまだいいのです。接見を禁止した実例もあるのです。御承知ないかもしれませんが、調べていただけば明らかになるのです。これは千葉県にあつたのです。こういう実例も、私は聞いておることだからどの程度正確かわかりませんが、これは大臣の所管事項として厳重に調べていただかなければならぬと思うのです。三十九条の三項で、選挙違反の面会を求めた場合に、ある人には接見を許したそうです。ところがその同じ違反に関連する、もう一人の人については接見を認めなかつたそうです。こういう事実も出ているのです。そればかりではありません。こういうことが出ておる。これと似たようなことで、東京の場合ですが、ある家族が裁判所から接見の許可証を警察に持つてつた。ところがこれはだめだという。どうしたのだと言つたら、弁護士でさえ検事のところに行つて接見の許可を得て来るのに、お前たち家族が許可証を持つて来たつてだめだ。検事に言つて了解をもらつて来いと言つたということがある。こういうことがあるのです。私の言いたいのは、単に訓示とか訓令的なことでこういうことが完全にやり得るとは私は考えられない。特に法律改正をするなどという場合においてこのあとから申し上げることは質問の問題に関連して参りますが、文言上によほど明確な規定を加えないと、とんでもない趣旨運用される場合が出て来ると思うのです。先ほど大臣御就任の当初はそういうことを感じたのだがというお話でしたが、しよつちゆう感じられるので免疫になつたということではないのだろうと思いますけれども、こういう点はひとつどんどんやつていただかなければならないと私は思う。特にただいま申し上げた二つの問題については、同時に御調査を願いたいという点を申し上げておきます。
  111. 犬養健

    犬養国務大臣 私今読み直してみまして、三十九条三項は先ほど岡田さんが言われた十分とか相当とかいう文字よりはかつちり書けているように思うので、運用が非常に悪いのじやないですか。通牒を出しても運用旧態依然というならば相当私の行政上の責任でありますから、どうやつたらききめがあるかということを早急に相談してみます。善処してまたお知らせすることもあると思います。
  112. 岡田春夫

    ○岡田(春)委員 その事実も御調査願いたい。
  113. 犬養健

    犬養国務大臣 承知しました。
  114. 小林錡

    小林委員長 明日は午前十時三十分より開会し、本案の質疑を続行いたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後五時五十九分散会