○伊藤(郷)
委員 私は
文部当局に対しまして、僻地
教育の振興についての御意見並びに決意を
お尋ねしたいと思います。
最近、特に今度の
国会におきましては、理科
教育振興に関し、あるいはまた
学校図書館の設置、整備、あるいは定時制
教育の振興、青年学級の振興等に関しまして法律ができ上りまして、
文教政策の振興のためにわれわれはまことに慶賀する次第で、喜んでいるのでございますが、ただその間にありましてなお残された問題であ
つて、顧みられず、無視されて来た問題について、十分これを守り育て、盛んにして行かなければならないものは、すなわち農山漁村の奥地あるいはまた僻地とか離高等におけるところの単級あるいは複式の
学校の整備、振興にあると思うのでございます。私事を加えましてまことにどうかと思いますが、私は
義務教育全期間を通じまして、北海道において単級あるいは複式の学級にお
つたのでございますが、それらの教員の労苦というものはまことに筆紙に尽しがたいものがございます。たとえば片方に算術をやらせて、片方に書き方をやらせ、また片方で歴史をやり、片方で読み方を教えるというようなくあいであ
つて、教師の労苦は非常に重いのでございます。また
教育を受ける
生徒も、片方の読み方の声がじやまにな
つて、算術もよくできない。地歴の
教育について申し上げますと、地理はいいとして、歴史などは、鎌倉
時代を五年生のときに習
つて、それから神代のことをまた六年生から習うというようなぐあいで、お互いに困るのでございます。しかしこれは
人口の稀薄から来るところの
児童の僅少のためにしかたないといたしましても、それならそれで、僻地に教鞭をとる教員には優秀な者を集めるように
努力しなければならぬ。この僻地の
教育を振興することによ
つて、あの荒い自然の中において立
つて来た健全にして清新な魂を深くつちか
つて、そして祖
国民族の再建復興に寄与させて行かなければならぬのであ
つて、いよいよこの僻地
教育の重要さを加えている段階に来ていると私はかたく信ずるのでございます。ところが、今日北海道のはずれから九州のはずれまでそうだと思いますが、僻地には無能力——中には意気に感じて、そういう荒地の恵まれないところへ入
つているりつぱな人もありますが、一般にそういう人は少いので、たいていは老朽教員か、無資格の教員、あるいはまたはななだしいのは十八歳くらいの子供という、教養もなければ、学力もなく、また資格もない人々でございます。そればかりでなく、なお欠員を来している
学校が多い
現状でございます。これはひつきようするに大きな原因は、給与、待遇において非常に欠けており、報いられていないというところから来ていると思います。統制
経済のときならば、農山漁村の
地域給というものは低くてもよか
つたのでございましようが、今日自由
経済になりまして、北海道のさけが東京ではかえ
つて安い。一例をあげますとそういう
状態でございますので、鉄道沿線からバスなどで入
つて行
つたり、船で入
つて行
つたりするその僻地における物価は非常に高いのでございますが、今日なお無級地にな
つておるところかずいぶんある。そういう
意味において、僻地手当というものは現在ありますけれ
ども、これをもつと画期的に増大しなければならぬ。これによ
つていくらかでも優秀な資格のある清新な教師を農山漁村僻地に獲得できると思うのであります。昔ならば、たとえば千島で申しますと、相当いい先生がお
つた。それというのは、現在のような
地域給というものがなくて、若いとき十年くらいしんぼうして千島に行
つて金をためて、それから勉強しようというわけで、
小学校の先生になると非常にもかる。魚をと
つたり、それから給与も二倍、三倍、年功加俸が早くつくというようなわけで、一種の野望に燃えて行
つたのですが、現在そういう魅力をつなぐものが一つもない。こういうことが大きな原因だと思いますので、
学校職員の給与の
改善向上について、特に僻地の教師に
文部当局は思いやりの情をかけられてほしいと思います。
それから施設の面でございますが、これはただ一人当り〇・七坪というようなことを言うのではなくして、僻地の
義務教育の
小学校には特に考えなければならぬ面がある。それは町村役場の所在地であれば、そのほかに公民館もあり、あるいは役場にも
会議室があり、いろいろ公共的の施設があるけれ
ども、北海道やその他の奥地へ入りますと、
小学校そのものが博物館であり、公民館であり、図書館であり、また結婚式場にも使う、こういうことになるので、全村、全部落の人々の心を結集し、楽しみ、喜びをわかち合う一つの殿堂であるのでございますから、そこにはどうしても
校舎の施設上に特別のゆとりを考えていただきたいと思うのでございます。それから
文部当局の英断としまして、今年の二十八
年度の
予算に千何百万円だと思いましたが、僻村における教職員の住宅の
予算を計上して、十年計画を立てたのでございますが、これはまことに額が少いのでございまして、これから
予算の編成期に入りますので、これを相当増加する決意を持
つてもらいたい。われわれも十分
努力するつもりでございます。あの恵まれない環境にあ
つて、若い
先生方はどういうところに下宿しておるかというと、暗い草ぶきやその他の農家に下宿し、一年生から六年生まで、あるいはまた一年生から三年生まで一人で教えて、疲れ切
つたその教員が下宿先へ帰
つて疲れをいやそうとしても、その環境があまりに暗い。こういうことではあしたまた強く立ち上るという力がわいて来ないのでございます。少くとも自分の宿、自分の家へ帰
つたときだけでも、清潔な文化的な環境の中に夜を送らして読書に親しませたい、こういうのがわれわれの熱望であります。七月の二十何日かに、
全国の僻地
教育振興の大会が永田町
小学校にありまして、非常に高い声を上げてや
つた。
参議院は振興の決議案も通
つたのでございますが、衆議院の方はもう忙しいし、教員給与で与野党がもめておるからお帰りなさい、僻地
教育は必ず振興させるからと言
つても、僻地
教育を真に盛んにしようという熱情を持
つておられる
全国の方がいまだに帰らずにおられますので、われわれもこの熱情にこたえまして、私今日まことに調弁でございましたが、文部
委員会で初めて立ちまして、
文部当局の僻地
教育振興に対する
熱意を要求いたす次第であります。これらの僻地に恵まれずして教鞭をと
つておる人々に報いて、
日本再建に寄与したいと思うのでございます。
終りに、文部
委員会委員各位が名を連ねて
出しておるところの僻地
教育振興の決議案が、衆議院を堂々と通過することを心から
期待するものであります。(拍手)