○永松
参考人 この
法律改正の問題につきましては、私が畜産
関係の団体におります
関係上、畜産という方面から、すべてこの問題を実は観察しておるのであります。それでこの
法案自体について、
最初に私の方の賛否を申し上げますと、われわれ畜産の団体といたしましては、大いに賛成であります。ぜひこの
法案の成立を希望しております。その理由といたしましては、なるほど
家畜保険の死亡廃用ということも、農家の損害の填補ということから申しますと、まことに大事なことでありましよう。次の
家畜を買うときの財源として、まことに大事なことでありましよう。しかしながら畜産自体から申しますと、
家畜自体を失わないということが、ある意味においてはそれよりももつと先決問題と言いますか、重要な問題だと思います。大動物であります馬のごときは、どうしても四年くらいたたぬと
ほんとうの役に立ちません。それが死んだといたしますと、それから先の寿命、
人間に対する奉仕というものは、それでなくな
つてしまうのであります。同じようなものをつくるには、また三年か四年かかる、こういうことになりますので、この
家畜自体の損耗防止ということが、畜産方面から申しますと、一番大事とでも申しますか
——もちろん農家の損失填補も大事でありますが、畜産自体から申しますと、一番大事なことである、こういうふうに思
つております。従来これも御承知のように、任意的に
疾病傷害の
共済というようなことが行われておりますが、これが
制度といたしまして一層普及いたしますという事柄、また一方国庫の助成金がある程度加わりまして、農家の負担の軽減もできて、しかもこれが普及して行くということは、
最初に申し上げましたように、
家畜自体の損耗防止という方面から申しましてまことに必要であり、またこの
制度が早く、また大きく成立せんことをわれわれは希望いたしております。
なおこの問題につきまして、ある方面では、従来任意の
疾病傷害の
共済であ
つたのが、ある程度の強制にな
つて来るという点につきまして、農家の負担が増加するのではないかということを心配する向きもあるようであります。なるほど形式上、そこだけを見ますと、増加ということも
考えられないのではありませんけれ
ども、
共済と申しますか、
保険と申しますか、いわゆる対数の法則から申しますと、
事故が減少いたしますれば、農家の負担が全体的に減少して行くことは当然のことであると思います。ごく近視眼的に申しますと、貧農家あるいは
事故のなか
つた農家は、なるほど負担が多くなるかもしれませんけれ
ども、日本の畜産として見た場合には、やはり農家の負担は減少すると見ておりますので、この論に対しても、私は本案の成立を希望している次第であります。今まで私が承
つたうちで、本案に対する一番大きな反対
——と言うと語弊があるかもしれませんが、障害と言
つた方がいいかもしれませんが
——は、
開業獣医師さんと
診療施設との間の問題であると思います。私より前にお二人の方の
お話があり、私のすぐ前に小林さんから
お話がありましたが、本
制度自体に絶対反対するものではない、
開業獣医師との間の調整を心配するのであるというような意味のことがありました。私はもちろんこの
制度を入れるからには、全体の国民としての
考えからその問題を
考えねばならぬ、こういうふうに思
つております。しかしまた一方から申しますと、今までも、本
委員会ではありませんが、その前に聞いた問題で、
開業獣医師の
方々にも私は
言つております。本日はざつくばらんに申し上げますが、
開業獣医師の方が、
自分の営業のことだけ
考えるということはおもしろくないでしよう。やはり広い畜産ということ、及びそれと共存するという意味において問題を
考えていただかなければ、
開業獣医師さんの方の主張もおそらく
通りますというようなことを、私は前から申しております。しかし一方、この
制度を入れる方も、この点はやはりお
考えを願わねばならぬ。こういうふうなことを私は
保険課の方に申しておりました。しからば私の方の
考えはどうであるかと申しますと、これはすでに小林さんの言葉中にもあ
つたと思いますが、一番問題になるのは、Aの場合で、
診療施設で
診療を受けるという場合に、通常Aに入ればそこに行かなければならぬ。そこの
診療を受けなければならぬというような、強制という言葉は悪いかもしれませんが、まあそういうふうな形にな
つておる。そこに行かねばそれよりも不利な形になりますので、ある種の強制になる。こういうわけでありますが、そういう形にな
つておることが
開業獣医師さんの方の営業を圧迫するという点でありまして、それならばどちらに行くことも自由である。
診療所に行くことが得だと思う農家は
診療所に行く。それから
開業獣医師さんの方が得であると思うならば、
開業獣医師さんの方に行けるというような、広い意味の開放をや
つてみたらどうでありますかというふうに、私は今まで実は話しておるのであります。この開放と申しましても、簡単に健康
保険医の場合のように開放する、すなわち
診療券でもわたして、どこにでも行けるというような開放の
方法もあります。あるいはまた
開業獣医師さんを、できるだけ多く
診療所の嘱託というような形にでもいたしまして、
従つて一定の身分がありますから、薬価、
診療費、つまり診察費のようなものを、か
つてにとるのではありませんが、
診療所の一定の規制のもとにおいて、
開業獣医師さんが薬価もとり、診察費もとるというような、そういう嘱託というものをできるだけ広くいたしまして、必ずしも
診療所という場所に行かなくてもよろしいというような形において開放するというような
方法もあるかと思います。この問題は単に
開業獣医師さんの方の主張ばかりではないのでありまして、私は、これをまた畜産の立場から、実はそれの方がいいのじやないか、こういうふうに
考えております。と申しますのは、
診療所のお医者さんが一番いいか、一番悪いか、そういうことは今批評をいたしませんが、悪いこともあり、いいこともあるであろうと思います。私ら畜産のものといたしましては、なるべくいいお医者さんにかか
つて、りつぱな薬で、完全に、すみやかになおしていただくということを希望するのであります。やはり
診療所のお医者さんにも、得手、不得手もありましようし、また時期によ
つて、いいのが来たり、悪いのが来たりすることもありましよう。従いまして、いいと思うところに
行つて診療を受けるということが、一番畜産のためになるではなかろうか、こういうふうに思うものでありますから、その点も開放の方がいいのではなかろうか、また
診療所の
獣医師さんも、何と申しますか、親切に、本気にやらねば他の方に行かれてしまうということにもなるので、これは
診療所自体の
診療施設の値打を上げて行くと申しますか、農家が親切ないい
診療を受け得るということについても、そういうふうなどこにでも行けるという形の方が、
診療所が親切になるではなかろうか、こういうふうに
考えられるのであります。
第三には、Aに入
つてお
つても自由に行けるということは、農家から申しますというと、まずAに入
つておこう、おそらく
制度としてはAに入
つた方が
共済自体の方向から
言つても有利であると思いますが、農家の方もAに入
つておこう、そのかわりAの
診療所ではいかぬと思
つたならばBの
——Bとはおかしいのですが、一定の金をもら
つて他の方にでも行けるというようになりますから、おそらくBよりAに対する加入が、こういうふうに自由にした方が大きくなるのではなかろうかと、こういうふうに私は思うのであります。
開業獣医師さんの方にも私は言うのでありますが、反対されてみたところで、腕くらべならばどうも問題にならぬだろう。
診療所の方がお医者さんがよく
つてみんなで行くならば、へたの方に行かないのはしかたがない。
診療所の方もあまりへたなお医者さんを入れて、人が来なくな
つたということは自業自得であ
つて、これもいたし方ないではなかろうか、われわれ畜産というものを
考えましたときに、あえて
診療所のためとか、
獣医師さんのためということのみは
考えておられないので、いわゆる腕くらべでや
つていただくということが農家のために一番いいのではないか、畜産のためにいいではなかろうかというふうに私は
考えまして、実は今日までそういうふうに話をして来ておるのであります。
そういたしますと、ここにまた
診療所自体の
経営問題、逃げられるというと
診療所自体が
経営困難にな
つてしまいはしないか、こういうふうな問題が提起されておるのであります。もちろん
診療所というものが健全に発達するということは
けつこうなことでありますが、さつきも私の言
つたような意味で、
診療所がつぶれてしまうということは、これはいたし方がないのでありますが、そういう極端な議論は避けるといたしましても、私は一体この
法案が、いわゆる薬価と消耗品のところだけが国庫補助にな
つて、あとの
人件費に当る分、
診療代に当る部分が何らの補助もない、準純なる特別負担にな
つておるというところに、非常に疑問を持
つておるのであります。何ゆえに
政府はその部分をそういうふうに遠慮されておるのか。もつとも今回は試験でありますから、あるいは試験中だと言われればそれまででありますが、その前に、本案を
ほんとうの恒久施設として聞いた場合も、同じような説明を実は聞いたのでありますが、私はそういう遠慮はいらぬのじやなかろうか、こういうふうな、いわゆる診察代に当る、
人件費に当る方面も国庫補助をやるということによ
つて、さつき
経営問題について
政府当局の御心配にな
つておる部分も非常に消えて行くではなかろうか、かくすることによ
つて、さつき私の言
つたように、農家は一番いい
診療を受け得る、どこででも受け得るということになり、農家の負担も減
つて来るというようになるのではないかと、こういうふうに思うのであります。
ここまで言うことは民間人としては、はなはだ言い過ぎかもしれませんが、
ちよつと経過的のことがありますので、言わしていただきますならば、皆様よく御承知でありますけれど、現在死亡廃用
共済の一部に国庫補助があ
つたのは、実は当時例の競馬の金の三分の一を畜産に使うという
法律改正がありましたときに、大蔵省がいろいろ
言つて、たとえば畜産局の事務費に使
つているというようなことで、一文も使わない算段をしたのでありますが、それでは
法律改正の意味をなさぬじやないかというようなことで、ああいうふうな補助にな
つておることは、これはもちろんよく御承知のことであります。まだまだ競馬の金の収益の三分の一という金は、現在の畜産に使
つておる、つまり畜産局の経費ではありません。事務費ではありません。これに比べたら、もつと残りがあると思います。この方面に何億か使いましたけれ
ども、なお残りがあると思います。このように、過去のわれわれの経験から申しますれば、競馬の金の一部を、この
人件費に当るところのこういう方面にも出してもらえるというふうにいたしましたならば、さつき私が申しましたように、農家の負担は軽減し、そうして
獣医師さんとの間もこれは明朗に
——競争はしかたがありませんが、特別の法の保護なしに、自由競争で、一番いい
診療をや
つて行く、それから
診療所でも
法律の保護による、何と申しますか、なまけるというようなこともなくて、農家にサービスができるというようになるのではなかろうかというようなことを、実は
考えておるのであります。以上。