○加藤(高)
委員 私
ども第二班は、
佐藤洋之助愚、
佐藤善一郎君、川俣清音君、日野吉夫君の四
委員に私、それに藤井専門員を加えた六名をも
つて編成、茨城、福島、宮城、岩手及び青森の五県の
冷害を
調査いたしました。わずか五日間という限定された短期間に、できる限りの時間を利用いたし、五県を
調査いたして参りましたので、ここに概略を御
報告申し上げます。
本年における気象
状況を見まするに、各県とも春以来
低温が続き、夏期に入りましてからも
低温、寡照、多雨に終始したのであります。ただ、七月下旬ごろ若干好転いたしましたとはいえ、再び悪化し、特に八月下旬には異常
低温が襲来いたし、
昭和十一年以来の最低気温となり、青森県においては最低七・七度を示し、十度以下が三日にも及んだのであります。
ために稲の発育は抑制され、軟弱短程、多蘗型のいわゆる
凶作型発育の様相を示したのでありますが、特に中稲並びに
晩稲の幼穂形成期、
出穂開花期、登熟期の主要時期に
低温、寡照及び多雨等の悪天候により、出穂
遅延、開花受精の障害、穂総級数の減少、不
稔粒の多発をもたらし、またこの不良天候は
いもち病、二
化めい虫等の
病虫害を誘発せしめることとなり、今次の大
凶作をもたらすこととなりました。なお本年は四、五月のころに凍霜害を受けて、養蚕、果樹、タバコ、茶等に多大の
損害をこうむり、さらに
冷害により
水稲のみならず畑作にも非常な悪影響を与えておりますので、これらを総計した
被害総額は驚くべき巨額に達するものと考えられ、
農家経済に及ぼした影響はすこぶる深刻なるものがあります。
次に各県の作況について申し上げますと、
農林省農林経済局統計
調査部の資料による九月十五日現在の
水稲作況指数は、茨城県八六、福島県八二、宮城県八二、岩手県七七、青森県七二とな
つておりますが、私
どもが
現地において各
県当局より聞きましたところでは、作況はこの指数よりずつと悪く、茨城県は六分作、福島県は五分作、宮城県は六・五分作、岩手県六・七四分作、青森県六・二五分作と申しておりました。もちろんこれは大体の
概況でありますが、少くとも九月十五日現在の
農林省の
調査指数よりははるかに悪いものであると考えられました。
今般の
冷害は、特に八月下旬の異常
低温による影響が著しいのでありまして、
稲作も中
晩稲が著しく
被害を受け、なかんずく
晩稲が特に著しく、私
どもが見ました地帯は、どこでも押しなべて
晩稲がひどい
被害を受けております。また、この
低温をもたらした直接の原因は、太平洋から吹きつけるいわゆるやませと称する冷風でありまして、岩手、青森の両
県下は、八月二十二日以降数回にわたり水霜がおりる等の現象も見られたのであります。かような気象
状況であります
ために、
被害は地域と品種とにより著しい差異を生じております。
一般に海岸寄りの地域、山間部高嶺地帯に著しく、また品種から申しますと、
晩生種、中でも多収穫性
晩稲のものほど
被害が大きくな
つております。これを私
どもが
調査しました各県について見ますると、まず茨城県はこの五十年来ほとんど
冷害の経験がありません
ため、
冷害に弱い
晩稲の
植付が多かつた
ため、その
被害は予想以上に激甚をきわめておりました。中でも県北の東西両茨城、那珂、久慈、多賀等は八州千本、農林八号等の多収穫
晩稲の作付歩合が七割ないし八割にも及び、至るところに数町あるいは十数町にわたり青立ちしている
状況が見られたのでありまして、
本県未曽有の
凶作と称せられております。
福島県も石城、双葉、相馬の三郡が著しく、ここでも農林一〇号、農林二九号、農林三〇号等の
晩稲がやられております。宮城県も同様でありますが、
本県は特に県南において著しく、かつまた私
どもが見ましたところでは、同じ品種でも、同一場所で
被害の著しいものと少いものとが混淆している
状態でありました。
県側の
説明によりますと、
植付時期の相違から来たもので、早く
植付けたものは
被害が軽く、
遅れたものほど
被害が大きくな
つているとのことでありました。
岩手県は沿岸地帯三・八七分作、北上山麓地帯五・二二分作、北部平坦地帯五・四一分作、奥羽山麓地帯五・九七分作、中南部平坦地帯七・四七分作とな
つており、ここでも沿岸及び北上山麓地帯が特に激甚であります。
青森県におきましても上北郡、下北郡の太平洋海岸が特に激烈で、県の
調査による作況指数は二四・六及び二九・七となり、これに次いで三戸郡は四九・四とな
つております。
今般の
冷害は青森、岩手の両県においては、大正二年のそれに匹敵するものと称せられ、また福島、茨城等では明治三十八、九年以降、五十年ぶりの
冷害であると称せられるほどの激甚をきわめたものといわれておりますが、青森、岩手等では四、五年に一回は、規模こそ違え
冷害を受けておりますので、品種につきましても耐冷性の強い藤坂一、二、三、四、五号あるいは陸羽一三二号または同一七二号等が普及しておりました
ため、これほどの
冷害をも、先ほど申し上げましたように青森六二・九、岩手六七・四という平年作対指数の
程度に食いとめることができたものと考えられるのであります。本年は晩春から初夏にかけての気象
状況から見まして、すでに
冷害の危険が予想せられましたので、
県当局及び試験場等では、内々その準備をいたしておりましたようであります。はたして八月下旬になりますと、異常
低温が現われましたので、これに対する指導を講じました。青森、岩手両県のごときはすでに七月中に警告を発し、関係技術者
会議を開き、改良普及員等を通じて
冷害に対する技術指導を
行つております。すなわち除草を早目に行うこと、ひえを抜きとること、
低温の場合はなるべく
水田に入らぬようにすること、水を落して登熟を早めるようにすること及び窒素
肥料の追肥を控えること等保温に留意し、茎葉の軟弱化を防ぎ、登熟を促進することを目的とした指導をいたしたのであります。これとやや似通つた指導は茨城及び宮城でも
行つておりましたが、特に茨城県では、
冷害は随伴して誘発せられる
いもち病の激発を重視して、これが防除をも強調しておりました。
今般の
冷害は青森、岩手等のいわゆる
冷害常襲地帯においても
昭和九年以来の激烈さで、大正二年のそれに比較すべきものとしており、福島、茨城県
地方では、先ほど申し上げましたように五十年ふりの
冷害であるとい
つており、近年まれに見る激甚さを持つたものであることは、今般の視察を通じて十分にうなずけるところでありました。特に福島県相馬郡原町東方
海岸沿いでは、約千五百
町歩の
水田は、大部分が
晩稲の銀坊主でありますが、これら千五百
町歩がほとんど収穫皆無に近い
状態であり、ここの農民諸君はただぼう然自失まさになすところを知らないという有様でありました。しこうして今次苛酷な
冷害の襲来を通じて、日本
農業の技術の輝かしい成果を明らかにされ、今後における
冷害克服への曙光を示していることは、われわれを勇気づけるものであります。
今青森県における凶年年次別収穫高を見ますと、次のごとくであります。すなわち大正二年作付
面積六万四十七町、総収穫高十八万三千八百九十二石、反当収量三斗六合、
昭和六年作付
面積六万九千四百二十八町、総収穫高六十六万四千三百八十九石、反当収量九斗五升七合、
昭和九年作付
面積六万八千七百三町、総収穫高五十九万八千四百十三石、反当収量八斗七升一合、
昭和十年作付
面積、六万八千九百八十七町、総収穫高五十三万八千五百九十三石、反当収量七斗八升一合、
昭和十六年作付
面積七万一千五百四十六町、総収穫高七十一万一千百六十四石、反当収量九斗四升四合、
昭和二十年作付
面積六万四千七百六十八町、総収穫高五十二万五千九百四十七石、反当収量八斗一升二合、
昭和二十八年作付
面積七万三百四十六町、総収穫高九十六万四千八十五石、反当収量一石三斗七升でありまして、反当数量を指標として見ますと、大正二年に比肩するといわれる本年の
冷害において、反収は大正二年の三斗から本年はその四倍以上の一石三斗七升に当
つているのであります。また
昭和六年は大正二年のそれに比して三倍以上に当り、さらに近年における
冷害大
凶作として知られている
昭和九、十年の両年もそれぞれ八斗七升一合、七斗八升一合となり、大正二年に比して約二倍半の反収をあげていることは、
昭和初頭から
冷害に対する技術的
対策が著しく効果を発揮し始めたことを示していると思います。この
対策は二つの技術的支柱によ
つて構成されていると思います。すなわち一つは耐冷性新品種の育成固定とその普及でありますも耐冷性品種としては、先ほど申し上げました陸羽一三二号、同一七二号、藤坂一号、二号、三号、四号、五号等が岩手、青森両県には広く普及しており、その耐冷性の強い性質により
冷害を相当
程度食いとめております。また他の一つは保温折衷苗しろの普及によりまして、健苗を育成するとともに早期
植付を可能にし、従
つて収穫期が従前に比して二週間ないし三週間
程度早くなり、これによ
つて八月下旬または九月上旬襲来する異常
低温からのがれて収穫を
確保することができるのであります。現在
冷害に対する技術的
対策といたしましては、この二点を
中心といたし、その他の保温
対策、
病虫害対策等は補助的役割を果すにすぎませんが、おそらく今後におきましても
冷害克服の技術的
対策といたしましては、この二点を
中心として一段と強力に促進することが最も重要であろうと存じます。
私
どもは藤坂一号から五号までの新品種を育成した青森県藤坂
農業試験地をも視察いたしましたが、昨
昭和二十七年には藤坂五号をもしのぐ新品種八甲田を青森県の奨励品種に指定いたしております。八甲田は耐冷性、耐病性が強く、かつ多肥栽培にも適し、晩植栽培における優良品種であります。
次に今次
冷害に対し、
県当局のと
つている
対策について申し上げますと、まず第一に各県とも
被害の実態把握に努めておりますが、部分的な
坪刈り、脱穀調製等の結果は予想以上に作況は不良であると申しておりました。茨城県北相馬郡北文間村は県南で、
被害は比較的軽微の方でありますが、農林上九号について刈取りの上脱穀調製いたしてみました結果は、反収八斗であり、かつしいな、青米等を多量に含み、品質もすこぶる不良であります。ここに持参いたしてございますので、後ほどごらんを願いたいと存じます。また
被害の
程度につきましては、
県当局の
調査と
農林省統計
調査部との間には相当の開きがありまして、物議をかもしている実情にあり、一日も早く正確な
調査を完了して、実態を把握いたし、実情に即した
供出割当をいたすことが最も肝要であろうと存じます。また各県ともこの
冷害を契機として、食生活改善を真剣に考え始めたことは、特に注目に価すると思います。茨城県西郷村のごときは、全村一丸とな
つて押麦及び粉食の奨励をはかり、また学校給食は全部パン食による完全給食にする等の緊急
措置を講じ、さらに全村一致して犬を飼うことをやめ、
家畜飼料にはできる限り穀類を用いないようにすること等により、少くとも今後一千石
程度の節米を期し、もしそれによ
つて余裕を生ずるならば供出にも応ずる等、真剣な努力が払われておりました。また岩手県上閉伊郡の上郷村のごときは、この
冷害を村自体の力によ
つて切り抜けようと、異常な努力を払
つており、たまたま視察に来られた
知事から、なぜ早く県に相談をしないのか、県としてもできる限りの援助を行うからとしかられたというほど、はでではありませんが、
東北農民特有の質朴な自力更生の自奮心に燃えているところも見られ、私
どもを非常に感激せしめたのであります。
これは一、二の事例にすぎませんが、至るところで、できる限り自力を尽すから、その力の及ばないところについては、ぜひ国の援助の手を差延べてほしいと申し、この
冷害を契機として、食生活の改善はもとより、進んで営農の改善、生活の改善等に及ぼそうとする気構えが各所に見受けられたのであります。
次に各
県当局及び
現地農民各位から寄せられたる
要望は、
農業再
生産の
確保に関することはもちろん、農民生活全般にわたり広範囲のものでありますが、それらにつき重要なる事項について御紹介申し上げたいと思います。
一、
営農資金の
確保であります。特に短期資金については、さしあたり秋まき麦用
肥料資金の
確保を重点的に考慮すべきこと。利率償還期間等については九州水害に準ずること。
二、
農業手形及び開拓者資金償還の特別
措置を講じ、
農業手形及び開拓者資金の償還を一年
程度延期するとともに利子の減免を行うこと。
三、農林漁業金融公庫から融通を受けた資金の償還について、この際とりあえず一年の延期を行うとともに、同公庫の
融資わくの
拡大をはかるべきこと。
四、伐採
調査資金わくの
拡大を講ずること。
五、自作農創設維持資金の増額と反当り単価の引上げを行うこと。
六、
農業共済金の仮払いを速急に行うこと。
七、家畜導入資金の償還については、この際少くとも一年間延期をはかるとともに、
被害農家で保有家畜を手放すことのないよう資金
対策を講ずること。
八、
農家食糧の
確保、自家用飯米の自給不可能の
被害農家に対しては、飯米の配給、政府買入れ麦類の低廉な価格による払下げ、または貸与を行うこと。
九、
土地改良及び林道
事業を実施して、
被害農家の
現金収入の道を講ずること。
十、明
年度水稲種もみについては、特に耐冷性品種の
確保をはかり、
被害農家に無償配布する等強力な推量を講ずること。
その他税の減免、平衡交付金の増額等、各般の事項について
要望がございましたが、これら
要望につきましては、当農林
委員会にもしばしば陳情されておりますので、詳細は省略いたしたいと存じます。
なお宮城県におきましては、矢本飛行場の防風林伐採による
冷害の影響について
調査してほしいとの
要望がございましたが、時間の都合上割安いたしました。
最後に今般の
調査にあたり、私
どもが痛感いたしました点を申し上げて、御参考に供したいと存じます。
一、今般の
冷害は、
地方、地勢、品種、挿秩の時期等によりまして、同一場所においても
被害に著しい差が認められますので、
供出割当については正確な
調査が必要であり、可能な限り一筆ごとに作況
調査を
行つて、実情に即した割当を行う必要があります。
二、供出促進の
対策として、この際に迅速に実施すべき
措置として、政府買入れ麦類を
被害農家に対し特別価格で払い下げるか、または明年収穫期まで無利子で貸与し、希望に応じ現物償還を認める等の便宜的手段を講ずる必要があります。
三、再
生産に必要な
営農資金の
確保をはかるべきことは当然でありますが、特に今秋の麦作用資金の融通を速急に行い、麦類の
生産増強を強力に行うこと。なおこの種の
営農資金は一戸当り一万円
程度を必要とするものと推測されます。
四、国民食生活の安定の
ため、特に麦類の輸入を促進して、国民に安心感を与えるとともに、わが国の
食糧生産事情から見て、米食にのみ依存することはとうてい不可能でありますから、この際食生活改善につき、総合的かつ長期的計画を立て、これを現在農村に盛り上りつつある食生活改善と結びつけて、
全国民運動として展開するようにすること。
五、
冷害克服の
ための技術的改善につき、今後一層これが系統的促進を期すべきで、特に耐冷性の強い多収穫品種の育成固定とその普及、並びに保温折衷苗しろの普及に一段と力をいたすべきものと考えます。また青森、岩手両県のごとく、常に
冷害の危険にさらされている地帯は別として、宮城、福島、茨城等のごとき
冷害の危険の少い地帯では、どうしても
冷害に弱いが収穫の多い
晩稲を多く植えつける傾向にあるをも
つて、これらの地帯についてる早生及び
中生、なかんずく早生の
植付歩合をもつと多くするよう指導する必要があります。
簡単でありますが、以上をもちまして私の
報告を終ります。