○
金森国会図書館長 図書館の
事務の中におきまして、
調査立法考査局の
仕事は一番
主眼点をなすものであります。この
図書館ができました当時に憲法がかわ
つたということは、
国会が
立法の
中心に
なつたということであり、
従つて、
国会自身が
法律をつくるだけの
資料を
自分の手で整えなければならないということが
根本になりました。それを
中心として
国立国会図書館法ができたわけであります。しかし、でき上りましてまだ経験も歳月もともに不十分でありまするために、その当初は非常に微温的な態度しかとれませんでした。
職員も辛うじて六十人ぐらいしか置くことができなか
つたわけであります。ところが、三年ほど前に
国会議員の
方々が
外国をごらんになり、そのときに
一つの着想をお持ちに
なつたように私
どもはよそから想像しておりまするが、
日本の
国会図書館がや
つておる
調査活動は非常に鈍いのである、
従つてこれに対して本格的な
活動をさせるようにしなければならないというふうな御
議論が高まりまして、それで三年前に、その当時の
考え方では飛躍的に、約六十人の人を倍にするというような急激な定員の
増加が行われたのであります。ところが実際は、さように人はふえましたけれ
ども、
国会図書館の
仕事は、
議会の各方面から御
要求になる
仕事の
分量に比べますとま
つたく
人数も
不足でございますし、ことにはなはだしいのは、
調査をいたしますところの
材料が
不足しているということであります。
材料の面から申しますと、
日本の
実情も
外国の
実情も、それからできました
法律がはたして
日本の
国民層にしみ込んでどんな
影響を持
つておるかというようなことも、当然に
国会図書館で生かされなければならないのでありますけれ
ども、実際おはずかしいことでありますが、
資料は当初は
外国のものはほとんど手に入れることができませんで、わずかにアメリカの系統そのほかごく少
部分のところから
外国資料を手に入れてお
つたようなわけであります。それではもとより
ほんとうの
仕事はできません。そのうちにだんだん
国際関係が好転いたしまして、いろいろな
資料も
外国から買える、また
外国にもいろいろな
資料ができて来るという
時代になりまして、私
どもは、金と
努力さえあるならば、
かなりの
程度まで世界の
情勢、
政治経済社会に関する
材料を
集めることができるような時期にな
つて来たわけでありますけれ
ども、
予算その他の実際上の制限によりまして、思うものも買うことができない、
外国の最近の事情を適切に知る
資料を手にすることができない、むしろ
日本では
民間のいろいろな
通信機関などの方が早い、また
仕事の範囲も広くわか
つておるというような
情勢とも言えないことはございませんが、
図書館の方は
大づかみなことはできませんので、
材料を
調査いたしますれば必ず正確に
調査しなければいけませんので、そこに非常な苦心を要するのでありますが、今申しましたように、
材料の
不足のために思うにまかせなか
つたのであります。
材料のほかに
調査する
職員をだんだん育成し、
増加しなければなりませんけれ
ども、
機運ははなはだおもむろに至ると申しますか、
機運は来てお
つても、まだ
内部の
充実をするところの機会に恵まれていなか
つたわけであります。
そこで、今の
実情はどうかと申しますと、
国会側からは
かなり調査の御
要求がありまして、それに対しましてあらゆる
努力をして、お答えはしておりまするけれ
ども、何とい
つても新しい
資料を
航空便でとるというようなことも思うにまかせません。また
外国の新聞、雑誌及び
官庁出版物のようなものを、非常に系統的に入手するということもできないような状況でありまするし、それから、
人間の数はふえましても、わずかに
——と申しますか、実際の必要から申しますと、わずかに百二十何人、それには多少
行政整理という原因もありまして、そのような調子のもとに
仕事をしておりますので、私
どもひそかにおそれておりまするけれ
ども、
国会図書館を設置せられた
目的に背くのではなかろうか。私
どもは、その
責任の
地位にありながら、手をこまねいて現状を持続いたしますことは、自責の念にたえないのであります。当初の出立ちが、完全なる
立法調査資料を
国会に供給するという立場であ
つたにかかわらず、
現実がかような姿でありますから、何とかしてこれを適正なところまで発展させたいという希望を持
つておるのであります。それが今のところは
不足なる
材料、
不足なる
職員をも
つて最大の能率を上げるつもりでや
つておりますけれ
ども、何とい
つてもこれは人及び
材料の
分量にも強く
影響せられるものでありまして、このままではいけない。そこで最も
根本的な
考え方をいたしまして、やや著しい拡張をする。今まで
不足を感じておりました点を補充し、さらに
国会側の御
要求がだんだんふえて来るということに応ずるようにしたいと思うわけであります。
現在
国会の側からして
調査の御
要求になりますものは、最近に至りまして急に
増加いたしまして、月三百七十という
数字も出ておるのであります。当初の様子に比べますと、何倍という数の
増加であります。それに加えまして
国際関係が非常に複雑にな
つて参りまして、腰だめで鉄砲を撃つという
やり方では絶対できなくな
つて参りました。あらゆる面において準備を進める。なおそのほかに、ひとりそういう
調査ばかりではございませんで、
国会の
機能を高めますために、たとえば
法律をつくる、あるいはできておる
法律を改正するというときに、今日のこの瞬間に
日本の
法律がどうな
つておるか、またこの瞬間に、
法律以外の
日本の
法令、政令がどんなふうにな
つておるかということを、あつという間にすぐ確認することができるかと申しますと、そういう設備はございません。一国の
立法府が、
自分の扱
つておる
法律の
適格性を認識するに足るだけの
資料を持ち合せないということは、私
どもとしては
ほんとうにはずかしさにたえないわけであります。
現在、たとえば、
日本の
現行法がどうな
つておるかということを的確に知るのにはどうするかといえば、まあ私の方で
法律等の変化の目録を持
つております。だからして、ある
時代の法文を根拠にして、それからどういうふうに改正されたか、増補せられたかということを、机の上で順序を追うて調べてみまして、ある時間をかけてから、
法律がかようにな
つておる、こういう答えができるわけであります。もとより
日本には、
一つだけ、内閣の側におきまして、従来の伝統によ
つて現行法典がそのまま早くわかるということはや
つておられるようでありますけれ
ども、それとても
立法府が自由に
利用のできるものではありませんし、おのずからその
やり方におきましても、
立法府の必要を満たすのには適しない
方法であるのではなかろうか。そういたしますと、そういうものはいち早く
立法府の
根本資料として保存をしなければならぬのでありますが、これとてもただではできません。大した金額ではありませんけれ
ども、やはり系統的にしつかりした基礎のもとにカードを完備する、あるいはルーズ・リーフの
台帳をこしらえるとかいうような
方法にいたしまして、何年何月何日、いかなる
法律の文章が生きておるかというときには、即座にわかるようにしなければならぬというふうにも考えております。
それから、
法律の生み捨てと申しますか、
法律というものはつくるばかりが
目的ではありませんで、適切な
法律が
日本にぴたつと動いているということまで追い求めなければならないのでありまして、
国会が
法律の生み捨てをしているということは、
国会が
立法に関する完全なる
主権者であるという性質と矛盾するものと私
ども思つております。だから、
法律が
国民の問にどう流れ、はたして所期の
目的を達しているか、あるいは不十分な点があるのではなかろうかということを、おつかけて行
つて調べるような
仕事も必要であろうと思います。今まであるものについては、必要に迫られて
現実のことはしておりますけれ
ども、実は系統的にはや
つておりません。筋から言えば、
重要法律で
国民の一般に大きな
影響を生ずるようなものにつきましては、どうしてもその手段を一応と
つておかなければ、
立法府の
責任は完全でないということになります。
国立国会図書館が現在や
つておりますところは実にまだ幼稚なものであり、はずかしいと言わなければなりません。その他いろいろこまかいことはありますけれ
ども、とにかく、さような見地から、私
ども、もしできるならば、近い時期において
資料を完備し、そして今まで
不足してお
つた調査が楽楽とできるようにいたしまして、同時にこれについて完全に
責任を持てるような
職員を満たすという
念願に燃えているのであります。ただ、これをいたすにつきましては、実際そう楽なこととは思いません。あらゆる面の御批判と御
賛成を仰ぎまして、そして押すべきところを押し、話すべきところに話を進めなければならぬのであります。まず第一に、
図書館運営委員会の方に私
どもの
所見を申し上げまして、
運営委員会の御支持と御声援に基きまして、進むべき各
部面にも及んで行きたいと思うわけであります。かように
実情を申し上げまして、そして何らかの形において御援助を仰ぎたいというのが今日の私
どもの
念願であります。