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横田参考人 私に対する
質問の中に、
接収という
言葉と関連して、陸戦法規では押収あるいは没収という
言葉が使
つてあるが、それはどういう
意味かという御
質問があ
つたわけですが、陸戦法規の場合、もちろん
言葉の
意味でありますけれども、一応
ちよつと申し上げておきたいと思います。陸戦法規の中で、
ちようどこれは敵国領土において軍の権力
——つまりこれは
占領地における
占領軍の権力を
規定したものでありますが、この中に、その
言葉としまして「私有財産ハ之ヲ没収スルコトヲ得ス」というので、ここに没収という
言葉が使
つてあります。それから、押収という
言葉は、「地方ヲ
占領シタル軍ハ国ノ所有ニ属スル現金、基金及有価証券、
貯蔵兵器、輸送材料、在庫品及糧秣其ノ他総テ作戦動作二供スルコトヲ得ヘキ国有財産ノ外之ヲ押収スルコトヲ得ス」、これは
ちようど、
占領軍の
占領地における
権限、
占領したときに、その軍は現金、基金
——これが
ちようど今問題にな
つている金とか
貴金属に当るわけであります。そのほかに兵器などもつけ加えてある。そういうもので軍の作戦
行動に使用し得るものは押収することができる。その他のものは押収することができない。これは国有財産の場合であります。それから、もう
一つ問題になりますのは、輸送機関、報道機関、
貯蔵機関などで私人に属するものでも、そういう輸送機関や、兵器などは私有といえども押収することができる。但しこの場合は、平和回復後
国民に対して還付または
賠償を
決定すべきものとするという
規定があります。それから、もう
一つ参考になりますのは、国有の不動産であります。この場合には、
占領した軍は国有不動産については「其ノ
管理者及用益権者タルニ過キサルモノナリト考慮シ右財産ノ基本ヲ保護シ且用益権ノ法則二依リテ之ヲ
管理スヘシ」、要するに、不動産、土地、建物、森林というものにつきましては、単にその
管理者と用益権者だけであ
つて、
従つて用益権の法則に
従つてこれを取扱う、これによ
つて一般的に見ますと、必ず私有財産は没収してはならない。この没収ということは、国内法の没収と同じで、
所有権を無償で剥奪することであります。何らの代価も
賠償も与えないで
所有権を剥奪するのが没収。私有財産はそういうことをしてはならない。国有財産の動産につきましては押収することができる。作戦
行動に使い得るもの
——金、銀もこのうちに入りますが、これは押収することができる。ここで押収と没収と区別されるならば、その押収というのはどういう
意味か、これは英語でシージン。前の方はコンフイスケーシヨンであります。
コンフイスケーシヨンということは、非常にはつきりした
言葉で、さつき申し述べましたように、補償なくして
所有権を奪うことであります。ところが、押収ということは、それとは違うというふうにも解釈されまするが、この場合の押収ということは、
言葉は違いますが、これは結局没収と同じことだと解釈すべきだと私は思います。というのは、その次に、私有のものについては、たとえば私人の持
つている兵器、ピストル、刀というものは、これは私人のものでも押収してもいいのですが、しかし、平和が回復した場合には、返すとか、あるいは
賠償をすべきだということにな
つておりますから、私人のものをと
つた場合には、
戦争後に返すとか、あるいは
賠償を払わなければならない。ですから、これは無償で
所有権を奪
つたことにはならない。この場合には、
法律上から言えば
占有権と言いますが、それを
自分が
占有して、それを使用してもいい。ですから、いわゆる
占有と使用権を認めたので、
所有権は奪
つていないと見るべきだと思います。ですから、平和が回復したら、返すとか、あるいは
賠償をしなければならない。ここで同じ押収という
言葉を使
つていますが、
法律的にはま
つたく違
つた意味だと思います。つまり、国有財産の場合には、ただ「押収する」と言
つて、それについては、
戦争が済んだときに返すとか、
賠償を払うということは何も書いてない。私有財産のときには、同じ押収とい
つても、そういうことをしなければならぬというのですから、
所有権は取上げていない。ただ
占有し使用することを認めただけだ。だから特にそういうことを書いてある。ところが、国有財産のときにはそういうことが書いてないところを見れば、国有財産のときには返さない。金銀などは
占領軍が使
つてしま
つたあと、それを返すということは実際に行われていない。国有財産の金銀あるいは輸送機関、兵器というものは、
占領軍が没収することができる。これを使
つて、しかも返さなくてもいいというのが原則なのです。ですから、ここで押収と言
つておりますけれども、実際は
法律的には没収と同じことであります。それから
最後に、国有の不動産の場合には、単にそれを使用するだけで、用益権者、
管理者として使うだけだ。この場合には、たとえば建物などは、
占有しても、使
つてもよろしい。森林などであるならば、普通森林を使用する程度に材木を切
つて使
つてもいい。しかし
所有権は取上げることはできない。一般的には、国有のものはただ使うだけだ、こういうようにな
つておるようです。
そうしますと、この
規定からしましても、今度
日本の場合、この陸戦法規に言う
占領の場合と完全に一致するかどうかということになりますと、多少問題もありますが、しかし、一応は
占領と見て、原則としてこの
規定が適用されていると見ていいのであります。そうしますと、
占領軍は
日本の国有の金、銀、
貴金属であれば、これをこういう
意味で押収してもいい、つまり実際には没収してもいいわけであります。ことに、
ポツダム宣言では、
日本の
統治権が全面的に
連合国最高司令官のもとに属させられたのでありますから、これよりももつと強い
権限を実は今度の場合は持
つていると私は
考えますが、この
規定がそのまま適用があるとしても、
占領軍として金、銀、
ダイヤモンドは没収してもいいわけであります。しかし、
アメリカの方では、没収はしないで、あるいは将来没収するかもしれないが、二十年及び二十一年に
接収したときには、まだ
所有権のところまではきめないで、一応
アメリカの
占有保管のもとに置く、そうして、没収するか、没収して元の持主すなわち略奪された国に対する
賠償費としてそれを充てるか、
占領費に充てるか、それとも
日本に返すか、そういうことは後にきめるという建前で一応
接収していた、こういうふうに解釈すべきものだろうと思います。陸戦法規の
規定から申しましても、
アメリカとしては、やろうと思えば没収もできた、しかし実際にはそこまで行かなか
つたというふうに見るべきものだと思います。