○黄田
政府委員 日米
両国間の通商航海
条約は明治四十四年に古いものができまして、それが昭和十五年の一月に、廃棄されますまで、存在いたしておりましたが、その後廃棄されまして失効いたしまして、以来十二年間
両国は無
条約状態だという
関係に立
つておりました。その間
平和条約ができまして、
平和条約が発効いたしましたあとは同
条約の十二条によ
つて律せられておりましたけれ
ども、これではあまり確たる保障がないということで、何とかして
両国間に
条約を持ちたいというので、約一年間ほど
交渉いたしました結果できましたのが、御
審議をお願いいたしておりますところの
条約でございます。
本
条約は前文とそれから本文が二十五条、議定書に掲げられた十五
項目というものから成り立
つております。
まず前文でございますけれ
ども、前文は、「
両国間の平和及び友好
関係の強化」、それから「
両国の国民の間の緊密な経済的及び文化的
関係の促進」、それから「相互に有利な通商
関係の助長」、これがメイン・ポイントでございまして、及び「相互に有益な投資の促進の四
項目を掲げ、そのため無条件最恵国待遇及び内国民待遇の
原則を
基礎とする」と、そういうことの
基礎において本
条約を
締結するということをうた
つております。
本文の方に入りますと、本文は二十五箇条からな
つているのでございますが、第一条におきましては、入国、居住及び滞在の条件を
規定いたしております。その第一項におきまして、いわゆる
条約商人及び
条約投資家というものの入国及び滞在を保障し、それ以外の者の入国及び滞在は、当事国の
関係入国法規の定めるところに従うということを
規定いたしております。それから第二項におきましては、入国した後における居住、移転その他の自由権を保障するということを
規定いたしております。
それから第二条は、身体の
保護及び保障に関する基本的な保障を定めている
規定でございますが、第一項において、待遇については
国際法の要求する標準によるという
原則を明らかにいたしまして、第二項で、身体の拘束を受けた場合にどうするかということを
規定いたしております。
それから第三条は古い
条約にはございませんでした
規定でございますが、社会保障制度に関して内国民待遇を与えるということを
規定いたしております。第一項におきまして業務上の災害補償に関する制度について、第二項は強制的な社会保障制度について、この両方を
規定いたしております。
それから第四条は出訴権及び商事仲裁に関する
規定でございます。第一項において出訴権に関する内国民待遇、最恵国待遇というものを保障しておりますし、第二項におきまして商事仲裁を
規定いたしております。それには仲裁判断の執行をどうするかということにまで及びまして
規定いたしております。これも古い
条約におきましてはなか
つた規定でございます。
それから第五条は資本、技能及び技術の交流を促進するための
規定でございますけれ
ども、
相手国の国民または会社が取得した権益を不当に妨げることがないようにというふうなこととともに、
相手国が経済的開発のために必要とする資本、技術等を入手することを不当に抑制しないというふうな技能及び技術の交流の促進ということを第五条において
規定いたしております。
それから第六条は、
財産の
保護に関する基本的な待遇を
規定いたしております。
原則として締約国の国民及び会社の
財産は、相手締約国の領域内で不断の
保護及び保障を受けるということを大
原則としてうた
つております。なお公用徴収等があ
つた場合にどうするかということも三項において詳細に
規定いたしております。
それから第七条、これは非常に重要なる
規定でございますが、営利事業活動に関する待遇の
規定でございます。この第七条が日米通商航海
条約において
規定された重要事項の
一つの重要なる条文でございますが、第一項におきまして、営利活動に関する内国民待遇の
原則並びに営利活動の遂行に必要な施設の維持、会社の設立、会社に関する
財産及び利益の取得、企業の支配経営及び事業活動の遂行一般に関する内国民待遇というものを
規定いたしております。本
条約の基本精神は前文にもうたわれておりますように、無条件な最恵国待遇ということを
原則といたしておりまして、それが随所に現われておるのでございますけれ
ども、第七条の営利活動に関しましても、
原則としては内国民待遇ということを
規定いたしております。但しその
国々によりましてむろん例外を認めなければならぬというふうなこともございますので、その点の調整をどういうふうにするかということが、一番大きな案件であ
つた次第でございますけれ
ども、そういう観点からいたしまして、但書をつけまして、通貨準備の
保護のために必要な制限を行い得る例外
規定が議定書の第六項に掲げてございます。これが
一つの調整いたしました点の大きなものでございます。それからまた旧株の取得をどうするか、これがもう
一つの大きな点でございまして、旧株の取得については、
わが国の経済の現状にかんがみまして、暫定的な例外
規定がこれまた議定書の第十五項に設けられております。それから第七条の二項は、
原則は内国民待遇ということを第一項でうた
つておりますけれ
ども、第二項で例外を設けまして、包括的な内国民待遇を与えるけれ
ども、それには例外があるのだということで、制限業種というものをここに掲げており院ます。造船、航空運送、水上運送、銀行業務、土地その他の天然
資源の開発を行うような企業というふうなものに関しましては、これは制限業種に指定いたしまして、内国民待遇の例外としております。この制限業種の範囲は、
わが国がこの通商航海
条約でリザーヴいたしましたところの範囲は、今まで
アメリカが他国と結びましたところの
条約よりも相当広くな
つておりまして、これが
一つの特色をなしております。またその七条第二項に今申し上げましたような制限業種の範囲を
規定いたしておりますけれ
ども、既得権はどうするかということをまた七条二項の後段の方で
規定いたしまして、制限実施の際既得のものについてはこれを認めるということをうた
つてございます。
それから第八条、これは雇用とか自由職業及び非営利活動に関する
規定でございます。
原則といたしまして、締約国の一方の国民は、他国の領土内におきまして、そこに行われておる法令の
規定を遵守して、同一の条件でそういう職業に従事することができるということを第一項で
規定いたしております。
第九条は
財産権の取得
処分に関する待遇の
規定でございます。第一項におきまして不動産に関する
権利のうち土地建物等の賃借、占有及び使用につきまして、第八条に
規定いたしました自由職業とかあるいは非営利活動の遂行のため並びに居住のために、内国民待遇を保障するということを
規定いたしまして、第二項におきまして、すべての種類の動産の取得、所有及び占有に関し、
原則として内国民待遇及び最恵国待遇を保障するということを
規定いたしております。第三項はつけたりみたいなものでございますけれ
ども、遺産の取得に関して内国民待遇が与えられない場合にどうするかという救済
規定を設けております。
第十条は
工業所有権に関する内国民待遇及び最悪国待遇の保障の
規定でございます。
第十一条が内国課税についての基本的待遇に関する
規定でございます。課税上の内国民待遇ということを
規定いたしております。
それから第十二条は、これも相当重要な
規定でございまして、為替管理に関する
規定であります。御承知のように大体為替管理というものは、
原則としてやりたくないというのが理想主義的な考え方でございますけれ
ども、しかし現実は各国ともそういう理想とははるかに遠い
状況でございますので、為替管理をやり得るということを
規定いたしておるのであります。但しその場合にはどういう場合にやり得るかということを
規定いたし、かつやる場合にはこういうことをまずや
つて、しかる後にやろうというふうなことを
規定いたしております。これは
アメリカの方はただいまのところ為替管理も何もや
つておりませんので、現状におきましては
日本のみが適用を受ける条文かと存ずるのであります。しかしそれにいたしましも、為替管理はやり得る、但しその場合にはこういうことを考慮に入れ、
措置した上でやろうということを
規定いたしておりますのが第十二条でございます。
第十三条は商業旅行者に対する最恵国待遇の保障
規定でございます。
それから第十四条は関税事項及び輸出入の禁止制限に関する
規定でございます。第一項におきまして関税事項に関する最恵国待遇ということをきめまして、それから第二項で輸出入禁止制限についてその無差別的な適用を保障する。第三項で輸出入制限の具体的適用形態である量的制限を行う場合、どういうふうにするかということを
規定いたしております。これも後段の方は今までの
条約にはなか
つた新しいものでございまして、たとえば、一国が他国から一定の品目を非常にたくさん買
つていたのに、それを何らの正当ずける
理由な上に、来年は三分の一にするというふうなことをお互いにやらないようにしようということでありまして、つまり両締約国間におきまして通商が自由になるべく円滑に行くようにということを
規定いたしておるのであります。なお第十四条と第二十一条とをあわせ考えてみますときに、
わが国はただいまガットの加入国ではないのでございましてガットには入
つておりませんけれ
ども、この第十四条と第二十一条との
関係におきまして、
日本が自分の意思に基かずしてガットに加入し得ないという間は、
アメリカは
日本にガツトの関税を与えるということを約束いたしております。
それから第十五条は税関の行政に関する
規定であります。
第十六条は、輸入貨物の取扱いに関する
規定でありまして、輸入品の国内における取扱いに関して、内国民待遇及び最恵国待遇を保障するということを
規定しております。但しここに、これもまた
わが国の特殊
事情にかんがみまして、例外
規定を二つ
規定いたしております。それは議定書の第八項に書いてございますけれ
ども、入手困難な
工業原料あるいは食糧というふうなものに関しましては、当分の間
日本は——
日本はと申しますと、つまり締約国の一方は、輸入品と異なるところの取扱いをなし得るということを
規定いたしております。これは食糧あるいはその他の
工業原料におきまして、
日本はそういうことをやらざるを得ない、現に今でもや
つておるということの
理由に基く例外
規定でございます。
それから第十七条は、国家貿易あるいは国家商業に関する
規定でございますけれ
ども、これは商売というものは商業的考慮に上
つてのみ行われるべきものであるという
原則——これは
平和条約にもそういうことがたしか書いてございますので、そういう
原則を第十七条にうた
つておるわけでございます。
第十八条では、競争を制限するような商慣行は貿易の自由なる発展を阻害することがあり得るという、いわゆる独占禁止法的な考え方でございますけれ
ども、そういうことがあ
つた場合には、
両国相寄
つてとらるべき手段に関して、
協議しようではないかということが第十八条に書いてございます。
第十九条は、船舶、海運及び航海に関する基本的な待遇保障の
規定でございます。船の開港場への入港、あるいは港内においてどういう待遇を受けるかということが
規定してあるわけでございます。
それから第二十条は、人及び物について
相手国の領域通過の自由に関する保障の
規定でございます。
第二十一条は、今まではずつと
原則を言
つて来ましたけれ
ども、それに対してどういうことを例外となし得るかということを
規定している条文でございます。さきにも申しましたガットに
日本が自分の意思に基かずして入れないのだというような場合には、向うは、
日本にガットと同じ税率をくれるというふうなことを
規定しておりますのもこの第二十一条でございます。それからまた自由に入
つて何でもできるというけれ
ども、政治的活動は留保するとか、あるいは一般的の
原則に例外となるようなある種の地域的の
協定というふうなものはその例外にするということが、第二十一条の例外
規定の中に書いてございます。
それから第二十二条は、定義でございます。内国民待遇については第一項、最恵国待遇については第二項というように、この
条約の中に使われております言葉につきまして定義を下しておる条文でございます。
第二十三条は、適用地域に関する
規定でありまして、たとえば
日本の方は沖縄その他の諸島に
関連して、どういうふうなことをやるかというような適用地域、これは適用するけれ
ども、これはちよつと困る、これは例外であるというふうなことが
規定してあります。
それから第二十四条は、
協議条項でございまして、この
条約の実施に関する事項についての締約国間の
協議及びこの
条約の
解釈または適用に関する紛争の解決についてはどうするかいうことを
規定しております。
第二十五条は、この
条約の効力に関する
規定であります。
以上が二十五条の全文の
規定の
内容であります。
それから議定書がございますが、これは
条約とひとしく、前文、本文及び末文からなり、十五
項目からなる本文については、それぞれ
条約の
関係条項とともに、ただいま御
説明申し上げましたようなことを議定書に
規定しております。