○須田
参考人 御紹介いただきました須田でございます。
終戦後間もなくアメリカの兵隊が進駐して参りまして、満七年間基地において市民
生活をいたしました。その経験を通しまして、すぐ近くの大和村に今度独身者の兵舎ができるということを聞いて、立川の現在の
状況を御報告いたしまして、どうあるべきかということを御
参考に供したいと存じます。
まず御存じでもございましようが、このガソリンの井戸水はほんとうに市民が一番困る問題でございまして、ただいま市内の約四〇%にその汚水地帯が広が
つております。水道のメイン・パイプはほとんどできたのでございますが、支管というものがまだできておりません。そして引きますと約十メートル九千円くらいの値段でございますので、表
通りの商店あるいはいろいろな営業をしておるようなおうちは引けるのでございますが、少し横丁へ入りますと、いくら表に水道がありましても、いろいろ経済上の事情や何かで引くことができません。そして今でも赤ちやんをおんぶした主婦が両手にバケツを下げて、一町も遠い共同水栓まで雨の目も風の日も毎日くみに行きます。そのメイン・パイプも通
つておりませんところは、御夫婦でお勤めにお出になる
方々は、給水車が来る時間に間に合いませんもので、その水さえもらえない
状態でございます。ただいま市民といたしましては、どうしてもこれは何とかして台所まで無償で引いていただきたいという声が強いのであります。第二回の
日米合同委員会の方が御視察になりまして、その後昨年の七月までは、アメリカの油送管のパイプが破損して、そのためにそういうように
なつたという司令官からの発表があ
つたのでございましたが、その後分析の結果は、どうも旧
日本陸軍がガソリンを埋めたのではないかというような見解が出て、非常に今あいまいな立場で
補償問題も行き詰ま
つた状態にな
つております。どちらの原因にいたしましても、これはぜひ何とか災害と見なしてただして、台所まで無償で引いていただきたいというのが、市民のほんとうの強い願いでございます。この点皆さんのお借りいただけましたらばほんとうに仕合せだと思います。昨日私基地のすぐそばの曙町の水をもら
つて参りました。もし後ほど御
参考にごろんにな
つてお飲みに——これはちよと飲めないのでございます。非常に臭くて、そばへ持
つて行
つてガソリンがぷんぷんにお
つて、これはたしか燃えると思います。このような井戸水でございます。
日本の
国民感情といたしましても、どちらでも井戸というものはほんとうに財産の
一つにしているようなわけでございまして、お正月は松飾りを飾
つて祝うようなものが侵されたのでございまして、ほんとうにその痛手というものは強いと思うのでございます。この点なども十分御考慮くださいまして、ぜひ何とか台所まで無償で引いていただくことを強くお願い申し上げます。
それから次に私は母親の立場といたしまして、風紀問題を強く申し上げたいと思います。七年間の結晶として、いろいろな結論あるいは現象が出ておるのでございます。私は四人の母親でございます。長男がことし立川の高等学校を出ました。その長男のお友達が四月から三人も自殺をはかりました。最後のお子さんは約二週間ばかり前におなくなりになりましたが、その方の遺書を拝見いたしますと、ほんとうに世の中が騒々しくて、自分のような弱い気持の者にはどうしても耐えられないから、もつと静かな世界に行きたいというようなことが書いてございました。これにはいろいろ複雑な事情もございましようけれども、確かに現在の社会の圧力というものが非常に強いのではないかと思うのでございます。そして思春期のそうした内攻する青年たちは耐え切れないでそういう厭世的な方向に行くと思います。また半面非常にデカダンになる青年もありますし、非常に軟派の方向に行く青年もあります。こうしてただいま
日本のむすこたちというものが非常に悩んでいるということを考え、ぜひ皆さんはお父様の立場あるいはお母様の立場で強く御自分のお子様を顧みてくだす
つて、基地の子供たちがどんな環境に置かれているかということを十分お察しいただきまして、何とかお力を貸していただきたいと思います。私はその子供の臨終まで看病をいたしましたが、うちの子供などはその子供とほんとうに仲がよか
つたのですが、お母さん、お母さんみたいに一生懸命に町のことをや
つたつてちつとも世の中がよくならない、だからそんなに骨を折るのはやめなさいと言うのです。そう言われると私ほんとうに答える
言葉が何にもないのです。子供を育てる母親として、ほんとうに勇気も何もなくなるのでございます。その点をぜひ十分お考えくださいまして、教育者の方も政治家の方ももつと子供を大事にしていただきたいと切実に思います。
それからパンパンの政策でございますが、昨日の朝日の都下版にございましたが、立川のただいまのパンパンの政策というものはこんな
状態ではないかと思うのであります。ただいまこれをお読みいたしますけれども、この点で二つの非常な疑問を持
つておるのでございます。それは米国の当局が
現地の機関と直接交渉ができぬものかということと、いま
一つは、これをずつと読んで行きますと、検診カードというものを発行するということがあります。ただいま
日本は公娼を廃止しておりますけれども、こういうものを認めた場合に、公娼をまた認めることになるのではないか。こういう二つの疑問を私は抱いております。御
参考までに大急ぎで重点のところだけお読みいたします。「ホテル、バー業者組合でつく
つた美化
協力会発行の身分証明書、検診カードを持たせる」「営業者は自発的に洗条器、その他衛生器具を整える」「検診は週二回とし、このほかに場合によ
つてはその都度検診する」「身分証明書、検診カードを持たない女は業者で雇わないこと」「検診で被病とわかればカードを渡さない」「カードを持たぬ者はホテル旅館で泊めないこと」「女が病気にかか
つた場合は治療代は雇主が持つ」——なおいろいろございますが、この検診カードにつきまして町のいろいろな方にお聞きしますと、その検診カードには写真が張
つてありますが、その写真をと
つてしま
つて売買されておるということが聞かれるのであります。そうしますと、それがほんとうに罹病しているかいないかという判断が非常にあやふやになりますし、またホテルへ持
つて行
つた場合にも、女中が、その検診カードと本人とがほんとうに一致しているかどうかを見わけるのにも、非常に不明瞭だと思います。こんなあいまいなやり方では性病の対策というものはほんとうにできないと思うのでございますけれども、この点も御
参考に申し上げます。
また私たち母親として一番嘆かわしいことは、業者の方のお
言葉を——それは全部の方ではないでございましようけれども、業者の言うことをお聞きしますと、アメリカがどうなろうとアメリカの青年がどうなろうとかまいやしない、この際持
つている物ならとれるだけと
つてやろう、そういう主義であります。これは私母親の立場として、アメリカのむすこたちがそういう持
つているものをとられるために堕落するということは、ほんとうに見ていられないのでございます。この点どうしても私が強く申し上げたいと思いますのは、業者にいま少し自粛していただいて、ほんとうに正しい立場で営業をしていただきたいということでございます。
日本の子供もアメリカのそういう青年たちも同じことでございます。どうな
つてもいい、今の時勢だ、とれるたけと
つたくるという主義でなさる。ことにこれは業者ばかりではありません。市の
理事者もそのような傾向がございます。話に聞きますと、市
会議員の二、三人の人は置屋をしているということもございます。町の有力者までがそのような方向に行くということが、どのような結果をもたらすかということは、十分皆様お考えいただけると思います。そして私たたちがいろいろ風紀問題を市の当局などに申し上げますと、町がそれで潤
つているのだから何もそんなに言うことはないということをおつしやいますけれども、市民税
一つをと
つてみましても、私たちの立川市は地方税法の第三百十一条第二項で市民税をとられておりますが、これは御存じの
通り非常に富裕な町に適用される税率でありまして、八王子あたりよりもずつと高うございます。このように税金というものが基地の町の経済にどう影響しているかということを考えますと、非常にその点私たちは疑いを持つのでございます。私たちはこうしてたくさんの税金を払わなきやならない。それなのにどういう点でこの町は潤
つているというのでしようかという疑問を抱くのです。そして、やはり一部のそういう業者だけが潤
つているという結論が出るのではないかと思います。また私たち母親は、いろいろ基地の教育対策といたしまして、図書館の設立とかあるいは運動用具の整備というような問題で、毎日のように子供たちに学校からいろいろと寄付を持
つて来られます。その寄付の紙というものは税金の紙よりも恐ろしいのです。税金は市役所にお願いして幾日か待
つてはいただける。ですけれども、子供たちから、お母ちやん、これまた持
つて行くよと言われると、うんうんなんて言
つて、ほんとうにない金を持たしてやるような
状態であります。この点などを考えますと、どうしても、基地の特別予算というものをいただかなければ、基地の家庭の経済というものはなかなか守れないのでございます。また、先日も読売新聞だかにございましたけれども、基地の子はめしべ、おしべじや間に合わずというような川柳がございましたが、これはほんとうにそうだと思うのでございます。衛生具まで路傍に落ちているような
状態であります。そんな上品な教育をや
つていた
つてとても行かない面があるのでございます。この点文部省あたりでは基地の特別の教育対策というものを十分に立てていただかなければならないと思うのでございます。
それから
日米合同委員会のことでございますが、各地にそういうものかできるということを新聞で承りましたけれども、もうほんとうに私たちはお役人だけにはとてもこのことはおまかせしていられない時期ではないか思います。どうしてももつと市民の声というものがそういう
日米合同委員会に強く反映しなければ、ほんとうに問題は解決されないと思います。どうしても私たちにそれを強く申し上げたいのでございます。
それから爆音でございますけれども、御存じの
通り立川には朝から晩まで大きな飛行機が飛んでおります。先日落ちまして全部で百二十何名の犠牲を出されたあの大型の飛行機も二、三日前からまた飛び出しております。そして
生徒たちは授業をしましても、一一そのたびでごとに先生はお話をやめなければならない。そして
通り過ぎますとまた初めから繰返してやり直しておられるような
状態で、ほんとうに困るのでございます。また、睡眠不足になりましたり、あるいはいつ飛行機が自分の頭の上に落ちて来てあのような惨事にあわないとも限らないという危険感を非常に覚えております。こういう問題はほんとうに目に
見えない問題でございますけれども、精神的な影響というものはほんとうに強いものでございますから、ぜひこの点も御
参考にしていただきたいと存じます。