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参考人(田中章君) 炭労の田中です。
最初にこの
賃金の今までの
交渉経過というものを若干申上げますが、八月の十五日に第一回の
団体交渉を開催いたしまして、両者
交渉委員の名簿交換その他の事務手続を終り、九月の二十日過ぎにそれを確認して第二回目の
団体交渉が九月の一日に開かれたわけでありますが、従来の慣行から参りますと、一応どういう
要求案を出しましても、その
組合要求案の内容に基いて
経営者側からこういう
要求書の根本的な考え方は何か、或いは又その内容における各項についてそれぞれ
質疑が行われ、而して連盟の考え方の
意見の開陳が行われる、こういう手はずに従来の慣行がな
つておるわけでありますが、今回の場合はこの第二回の
団体交渉において
組合の
要求案の内容を聞く必要はない、又
組合側の考え方も聞く必要はない、こういう冒頭における陳述に始まりまして、いわゆる連盟のこれに対する
解決案が出て参
つたわけであります。
その内容はすでに御承知かと思いますが、
現行賃金の切下げを骨子といたしました名目
賃金の現状維持と、裏付けにな
つておりまする標準作業量の一〇〇%を超える部分の八〇%増を従来の標準作業量に附加すると、これを
金額に換算いたしますと、大体従来の基準ペースの一六%から二〇%に相成るわけでありますが、これを
金額にいたしますと、大体二百円近くの
金額になるわけであります。そういたしますと現行ベースは、坑内夫が五百六十円、坑外夫が三百四十円、その中から二百円近くの
金額が切下げられるということになりますと、どういう
状態に相成るかということは皆様方の御想像にお任せいたしますが、そういう内容を含む連盟の対案があ
つたわけであります。その
理由といたしまして、現状の
企業形態が、企業の実績が必ずしも良好でないということと、それから将来の見通しについて
経営者は自信が持てない、以上の大要
二つの
理由によりまするところの
理由を示しましてこの
賃金の切下案を提示して参
つたわけであります。これは言い換えまするならば、先ほ
ども申しましたように従来の慣行から申しましても、更に両者が道義的に
団体交渉を統一してやるという両組織の信義上の問題からいたしましても、当然これは両者の言い分はそれぞれ十分に述べ合う機会を得るべきでありまして、
組合の
要求案の内容は聞く必要もないし、その考え方も聞く必要はない、要するに連盟の考え方はこれである、こういう
状態であ
つたわけでありますが、このことを逆に考えてみますと、要するに
組合側の考え方は聞く必要がないのだ、私
どもの思
つている通りにお前たちは従えばよろしいのだ、
組合の存立の基本的な否定でありまして、この
態度は到底基本的に我々の了承するところとならなか
つたのであります。
更に又その内容につきましてもこれは非常に
労働者を侮辱した案でありまして、こういうことを以
つてして到底
組合側は納得することができない。併し従来とかく批判のありましたごとく炭鉱の従来の過去の数年間に亘る
団体交渉のいきさつの中で、特に対外的に指摘されまする点は、いわゆるこの炭鉱の
団体交渉というものは実に簡単だ、ろくに
交渉もしもしないで、ちよつと考え方がぶつかると、それを解きほごす
努力もしないで直ちに
ストライキに入
つてしまう。非常に
態度が軽率であるという非難を我々は第三者から受けてお
つたのであります。そこで我々としましても、こういう点と更に又自分たちの考え方を十分に述べて、それでもなお且つわか
つてもらえないならば、その場合には止むを得ないとしても一応
努力する。そういう過去の非難と相待
つて茂たはやるべきじやないか。こういう観点に立ちまして相手が聞こうが聞くまいが、とにかく九月一日から一カ月有余に亘り、各項目について
組合側はその考え方を述べて参
つたのであります。そうして十月の四日に至るまで一カ月と三日間の間
組合側は、
組合側の
要求案に対する考え方を縷々述べたわけであります。併しながら冒頭に申上げましたごとく連盟の
態度がそのようなものでありますから、幾ら説明をしてもこれは馬耳東風という形で、一カ月間に亘る
団体交渉の過程において両者の
意見の一致を見たものは何らございません。ただ
一つ協定期間を
組合側は一年とするということに対しまして
会社側は半年ということを
主張してお
つたのでありますが、その点だけがこの一カ月間に亘る
団体交渉の過程において一致を見たた
つた一つの点でございまして、これは勿論この
賃金要求闘争の主たる内容ではないのでありまして、そういう形で十月の四日まで静観したのであります。このことは勿論
組合側は
石炭産業の対外的に対する責任の重大性、それから先ほど申しました過去の第三者の非難ということも率直に受入れて、その中で最善のベストを尽すという
態度で参
つたのでありますが、連盟の
態度は九月一日のあの代案を一歩も出でていない。こういう
状態で十月の四日を迎えたわけであります。
従つて客観的に申しましても
団体交渉を開始して、すでに先ほど申しましたごとく八月の十五日に
団体交渉が再開されておりますから、二カ月近い日にちがこの
団体交渉に費やされている。而もその間
組合側が誠心誠意説明したことに対しても、何らこれを真剣に聞こうとする
努力さえ示さなか
つた。こういう
経営者の
態度と、この
組合を根本的に否定しようとする
経営者側の
態度というものを総合的に考えた場合には、炭労中闘としてもこの段階においては最終的な決意をせざるを得ないという段階に至
つたことを確認せざるを得なか
つたのであります。併しながらただ単にその一方的な判断のみで
ストライキ行動を発動するということは、これも又軽率であろうということで、更に十月九日付の日限を切りましてもう一回連盟は考えてもらいたい。こういう意味を含んだ最後回答を
組合側は迫
つたのであります。
この九月に出た連盟の第二次案なるものは、先ほど申し上げましたようにこの
金額には何ら触れず、ただ前回出しました一〇〇%を超える八〇%の標準作業量に対して、これを六〇%に抑えるという内容を示して参
つたわけであります。八〇%が六〇%になりましても、これは当然
ぼう大な額の
賃金の切下げになりますので、べース・アツプを
要求して立上
つた我々としては、どうしてもこれを了解することはできないという観点から、私
どもは遂に実力の発動を、十月の九日に至り決意せざるを得なか
つたのであります。
従つて我々は十月九日におきまして、連盟が若しこの段階においてもなお且つ誠意があるとするならば、十三日までに回答を更にせよ、十三日、十四日の四十八時間
ストライキというものは、これは多分に警告的な意味を含んだ警告
ストライキである、それでもなお且つ
組合側の
要求に対して一顧をも与えないという
態度を示すならば、我々は十月十七日以降無期限
ストライキに突入するであろうという通告を連盟に対して行
なつたのであります。
従つて我々は一方闘争態勢の確立に主力を注ぐと共に、更に連盟の出方を静観して待
つたのでありますが、その希望も空しく消えまして十三日、十四日の警告四十八時間
ストライキは既定方針通り行われ、更に十七日からの無期限
ストライキ突入も、既定方針通り突入せざるを得なか
つたのであります。この
ストライキが現在に至るまで、本日で丁度五十日を迎えるわけでありますが、続いております炭鉱
争議の発端に
なつたのであります。そこで今までのとの
争議の
状態の本質を見極めるために今までの炭鉱べースというものがどういう実態にあり、更に又終戦後今日までの炭鉱ベースのあり方というものはどういう内容であ
つたかということを御理解願いませんと、この
争議の本質的なものを見極めることには相成らんと考えますので、一応概略的に申上げます。昭和二十一年から二十三年のこの三年の間は、御承知かと存じますが、坑内作業という、坑内
労働という特殊の地下作業の条件も十分に加味され、勿論これには当時の
石炭の増産の非常に強い要請の裏附けもあ
つたこととは思いますが、一応ベースは公務員並びに
一般産業の二割を上廻
つてお
つたわけであります。これが二十四年に至りまして御承知のごとく国管の廃止と共に配炭公団が廃止され、いわゆるアメリカから参りましたドツジさんの
政策による三原則、十一原則、七原則、いろいろな形で言われておりますが、この経済原則に基く方針によりまして配炭公団が廃止された。御承知のように当時は非常に経済の
状態が行詰りの形にありまして、特にその影響を
石炭産業は強く受けてお
つたわけであります。加えて申しまするならば、国家が保障してこの
石炭企業を管理してお
つたにかかわらず、結果的に申しまするならば、その管理した形の中で生れた最も大きな欠陥を、何ら政府の手で克服することなく、この矛盾のしわ寄せを全部民間に移してしま
つた。こういう形の中で
石炭産業の一大混乱が、あの当時起
つたことは御承知の通りであります。そういう形の中で中小炭鉱はばたばた閉炭して行き、同時に又いろいろな悪条件がこれに伴いまして、遂に当時まで二割公務員や他
産業に比べて上廻
つてお
つたベースは、この二十四年に至りますと、大体公務員や他
産業のベースと同一に据置かれたのであります。
その後二十五年秋におきましても、べース闘争に倒年のごとく繰返されましたが、これもやはり炭鉱
労働者が考えておりましたベースの獲得ということは、二十四年に至
つてから立直
つておらんという経済の
状態に参りまして、やはりベースの
状態はそのままに据置かれた。このことから公務員或いは
一般産業が、やや
石炭産業を上廻るべースを獲得するようにな
つて参
つたのであります。昨年十月に締結いたしましたべースに至りましてはやや上昇は見ましたが、今日の階段におきましては本年八月現在の
状態を申しますと、現在はいろいろな形でベース・アツプ闘争が繰返されておりますが、非常に
情勢判断は困難であります。すでに妥結されたところもあり、そうでない部分もあるというので困難でありますが、八月の
状態から判断いたしますと、炭鉱ベースは逆に
一般産業並びに公務員の二割を下廻
つているという
状態に落ちついてしま
つたのであります。こういう歴史を辿りまして炭鉱のべースが今日まで持続されているわけでありますが、それで端的に申しまして現在の
状態を数字に現わして若干申上げますと、八月現在の坑外夫の
賃金は七千二百三十八円、これは八千五百円べースに対する坑外夫の
平均八月の実収
賃金は七千二百三十八円、それから
基準外賃金が三千七百二十四円、計一万九百六十二円、こういう数字に相成
つております。それでこの三千七百二十四円という
基準外賃金を獲得するために、全国
平均一時間四十分の残業を毎日いたしているのであります。言い換えますならば、
日本の現状において、八時間
労働というものが実際においては
労働基準法その他において保障されているにもかかわらず、炭鉱夫は一時間四十分即ち九時間四十分
労働をやらなければ一万円の
賃金が獲得できないというのが現在の
賃金ベースの
状態であります。而も先ほど申しましたように、三百四十円を二十五でかけますと八千五百円という数字が出て参りますが、これが表面的な炭鉱のべースでありますが、併しこのベースの中にも更に他
産業並びに公務員に比して著しく異
つている点があるのであります。その点を一、二申上げますと、先ず御承知のごとく公務員、それから
一般産業のベースの中には、十八才未満の年少労務者並びに婦人のべースも全部これに
平均して含ま
つているのでありますが、炭鉱の場合は年少者並びに婦人を坑内に入れることもできない、或いは坑外で使う場合でもいろいろな危険な
状態から制約があるとか、そういう観点から十八才未満の年少労務者とそれからいわゆる婦人は一切このべースの適用を受けておらんのであります。即ち別途協議の形になりまして、それぞれ各社でこれより下廻
つた線で協定されている。甚だしいところは八千五百円ベースの八〇%という程度が現状じやなかろうか。若干いいところもありますが……。そういうことで若しこれを概念的に考えまして、
一般産業並みに或いは公務員並みにこれを引伸ばしますと、八千五百円のベースは実質的には七千五百円ベースということに相成るのであります。こういう比較の仕方をしないと、今の
一般産業、それから公務員のべースとの本当の意味での対照はできないわけであります。こういう
状態を見ましても、八月当時においても或いは現在においても恐らく七千二百三十八円というベースをと
つているところはないと思います。これは明らかに先ほど申しましたように二割を下廻
つている。只今申しました数字は
組合側の一方的な数字と言われては困りますので、これは相手方の鉱業連盟の数字を、そのまま我々が
調査もしないで鵜呑みにいたしましてもこのような数字に相成
つているのであります。今の数字は鉱業連盟の
資料であります。我々の
資料は若干違いますが、一応相手方の
資料をと
つて見ても、こういう
状態にな
つているということを申上げたいのであります。
それから更にここで特に一言附加えたいことは、我々が今度の
賃金の
要求をするに当りまして、マーケツト・バスケツト
方式を採用いたしております。巷間よくマーケツト・バスケツト
方式は政治闘争であるという批判を聞くのでありますが、そういう人に限
つて一体マーケツト・バスケツト
方式とは何であるかということを十分知らないで論議している傾向があるやに私
ども見受けられるのであります。特に先日であ
つたと思いますが、国会におきましても
労働省の相当の地位にある人が、日経連の言うのと同じような形で国会の答弁にマーケツト・バスケツト
方式は政治闘争であるということを答弁している内容を新聞記事等で読みましたが、これは全くサービス機関たる
労働省の本来の任務を忘れて、日経連の、
経営者団体の言うそのままの言をかりて議会において答弁を行な
つている無責任な
態度に我々は非常に痛憤を感じているわけでありますが、若し
労働省のそういう係官がそういう疑義があるならば、当然
組合側の意向も十分に参酌されて、聞かれてこういう答弁をされることは主観的な判断ですから止むを得ないが、そういう
努力が何らなされないでただ一方的な見解を日経連の言うままに国会に反映しておる。こういうことに対して私は国会にも注意を喚起いたしたいと思うのであります。
そのことはともかくといたしまして、我々は何故マーケツト・バスケツトというものを採用しなければならないか、こういう
理由の第一として問題になりますのは、従来我々が採用してお
つたCPSから発するCPIこれは御承知のように総理府統計局の出してある
資料でありますが、これは成るほど私
どもはこの生活内容を表示したCPSという
方式を全面的に否定するものではありませんが、併しCPSはいわゆるこの過去の現象を現わす、簡単に申しますと、過去の現象を現わすということには役立
つておる。つまり私なら私が先月に一万円という給料をもら
つた、そしてその一万円から米を何キロ何ぼで買
つた、それから魚を何百匁何ぼで買
つたと、こういうのを消費単位をきめて
調査をして集計したものがCPIでありCPSの根幹を流れておる精神であります。
従つてこれは現状においては、少くとも先月なら先月の生活
状態が今月にな
つてわかる、一応の現在の生活水活がどういうふうにな
つておるか、更にそのもら
つた給料はどういうふうに使われておるかという内容の説明、つまり現状と過去の
一つの実体の御説明には相成
つているが、本質的に申して企業の
経営者が絶えず企業を合理化して、そして企業の改善の
努力を行な
つて利潤というものを大きくして行こうという
努力と同じように、
労働者もまたいつまでも麦飯を食
つていていいという、或いは又魚をいつまでも本当は一匹食いたいのだが半分で我慢しよう、こういう
状態でいつまでもこれでいいということはない。これは企業の
経営者が利潤を追求して行くのと同じように、
労働者が絶えず生活向上を求め、文化的生活水準の確保について、人間である限りどなたも同じであるが、当然そういう生活の向上を絶えず求めている。でこのCPSの現状、つまり今のこのデーターを現わすということになれば、これを
資料に使
つて行けばいつまで経
つてもこれでいいということになるのでありまして、逆に我々はこのCPSの内容にもう少し人間としての本能を附加えた、即ち人間として生活を向上せしめるという欲望を加えた内容が即ちマーケツト・バスケツト
方式である。言い換えれば、CPS、CPIは将来の人間の生活がこうあるべきである、将来のいわゆるカロリーはこうあるべきであるという目標に対しては何らの指示も示唆も与えていない。今までの過去、現在の
状態を一応現わしておるに過ぎない。こういうことでありまして、これは本質的に
一つの過去のデーターを集める参考としてはこれは有意義であろうと思いますが、少くともこれからどうあるべきかということについては何ら明確の指示を与えない。こういう点から
組合側としてはいろいろ判断してこのマーケツト・バスケツト
方式を採用したのであります。言い換えるならば、極端に言うと、総理府統計局の
資料は将来の生活がどうあるべきかということについて何らの目標も定めていない。現在までの消費単位の取り方についても非常に矛盾しており、信用することができなく
なつたということに問題があるのでありまして、官庁の統計をこういうふうにくさして恐縮ですが、実はそういうことにな
つておる。本来労使ともに、或いは国民からも尊敬され非常に重要視さるべき総理府統計局の
資料が
日本の殆んどの
組合からこういうふうに否定されつつある傾向については、国会も十分なる注意を大いに向けなければならない、こういうふうに考えております。その可否は別としてマーケツト・バスケツト
方式がCPSと同じように、先ほど申上げたように、生活内容を提示するということについては同じであるが、その内容におきまして
一つの人間的な欲望とか希望というものをその中に織込んでおる、これが即ちマーケツト・バスケツト
方式である。それが一体どうして政治闘争になるかどうかということになると、我々としては到底これについては納得することができない。即ち
賃金というものはどうあらねばならないかという考え方を
組合のほうのいろいろな
資料その他によ
つて作り上げたものが即ちそのものが政治闘争であ
つて、極論を申上げると、例えば私なら私がただカール・マルクスの
資本論を読んだ、こういうことだけでお前は共産主義者であると断定することと、何ら本質的には変らんと思うのであります。こういう批判については我々の見解は明確でありますので、くどくどしく申上げませんが、このマーケツト・バスケツト
方式はそういう希望を盛り込んだが故に、若干その物量については量は殖えるかも知れません。先ほど申しましたように、今まで米を一合食べてお
つたけれ
ども、二合食べたい、或いは又魚が半分だ
つたのが、今日は一匹の頭付の魚を食べたい、こういう観点から具体的に、一日の生活には豆腐がどれくらい、味増が何十匁、醤油が何リツター要るという具体的な物量を示しておるのであります。我々は
団体交渉でも先ほど申しましたような、連盟が
主張してお
つたのであります。僕らのほうはそういうことでなく、具体的な数字によ
つて交渉に入
つた。つまり魚は一匹だという数字が出てお
つたが、一日に魚は一匹も食わないでもいいじやないか、じや一体どれくらい食
つたらいいかという論議をしたのでありますが、とにかくお前たちの言うことは気に入らないから、言う必要も聞く必要もないということだ
つたのであります。具体的にはマーケツト・バスケツト
方式に対する理論的な反駁はできなか
つたのであります。よしんば技葉末節的にしたといたしましても、その内容は極めて理論的ではなく、貧弱な裏付の内容であ
つたのであります。
従つて我々は現状においても、このマーケツト・バスケツト
方式というものは飽くまでも正しい、或いはいろいろな形の中で従来同じマケツト・バスケツト
方式というものの方針を採用しながら、どうして各
産業で
賃金の
要求をしておるものが違うのか、こういう矛盾についてたびたび質問があるわけでありますが、この点は極めてマーケツト・バスケツトの本来の行き方から言えば、違うのは当然であります。即ち例えば炭鉱の場合ですと、本当に自分の体が自分の仕事に耐えて行くというカロリーをとる必要に迫られ、且つその体力の保持と、その生活環境における
状態の向上を意味しておるのでありますから、
日本の
労働者の生活水準が全く同じでない限り、これは違うのは当然であります。例えば炭鉱の坑内夫の場合ですと、どうしても脂肪分を余計とらなければならないということで、或いは公務員よりも脂肪分が二十グラムなり三十グラム余計入
つていなければならない。逆にこちらは都会でありますから、嗜好品やその他が高いから、そのほうに
金額が殖えて行く。
従つてそういう電産なら電産の
労働者、炭鉱なら炭鉱の
労働者は、自分の持
つておる仕事の度合い、環境というものから判断いたしますから、どうしてもその数字が本来の内容から
言つて違
つて来るのは当然なんです。同じものをはめたら、これはむしろマーケツト・バスケツトの本旨を超えてしまうことになる。
東京にいる公務員の生活の
状態と、炭鉱の
労働者の現地における生活の
状態が違うと同じように、当然このマーケツト・バスケツトの本旨から言えば、違うのは当然である、こういうふうに考えている、こういうことであります。そういうことでこの方針を採用いたしまして、私
どもは
賃金要求に入
つたわけでありますが、この方針に対するいろいろな批判がありますので、この機会に若干私
どもの立場を、考え方を表明いたした次第であります。そこでベースの
状態は、先ほど申しましたように非常に悪い、而も低い、而もそれが一時間四十分という全国
平均のこの
労働強化によ
つてやられておる、こういう
状態と、更に附加えまして、御承知だと思いますが、炭鉱におきましては、こんな実例は余り他の
産業にはないと思いますが、年間を通じて十二万人、つまり月一万人の人間が死んだり、傷ついたりして
行つているわけであります。これは鉱山保安局の事例その他を見てもおわかりだと思いますが、そうして月一万人の死傷者のうち、死者、死んで行く人、つまり仕事で倒れて死んで歿くな
つて行くという人が、毎日二人であります。つまり月六十人のものが必ず死んで
行つておる。その他の人間が重傷、軽傷を負
つておるのでありますが、こういう
状態は到底これは他
産業には見られない
状態であります。勿論地下
産業の
特殊性と申しましようか、非常に不幸なことであります。現在の
状態がこういう
状態にあるということは御承知の通りであります。体
一つしか持たない
労働者は毎日少くとも、負傷者の場合は抜きにいたしましても二人死んでおる。結局その家族が毎日泣きの涙で二家族ずつが必ず出て行く。こういう
状態は非常に遺憾でありますが、現実の
日本の炭鉱の実態として把握しなければならないと考えるのであります。こういう悪条件下にある
労働者、而も更に通常の場合、
労働者の
労働年限というものは三十年というふうに常識的に見られております。それで三十年
労働に耐え得るという常識に相成
つておることも御承知の通りでありますが、併し炭鉱の場合は坑内作業という
特殊性と申しますか、硅肺病という特殊の職業病があり、更に又肺病にかかる率も非常に多い。そういう点と、更に又空気の悪いところで働くというせいもありましようが、いろいろな悪条件に伴いまして、どうしても老衰の度合いが早い。ですから
一般産業の
労働者や公務員のように三十年も働くということはできない。よくて二十年、坑内夫の場合は通常十三年乃至十五年しか坑内で働けないということに常識的にな
つておりますが、そういう
状態を見ても、炭鉱の
労働条件、
労働環境というものが如何に悪いかということは、十分御承知が頂けると思うのでありますが、こういう悪い環境にある
労働者がどうして、
一般産業に比べて二割も安いというベースの水準で、而も一日に一時間四十分も残業をしなければ、二割低いベースすら取れない、という
状態を我々は納得しなければならないか。こういうことは炭鉱
労働者ならずとも、よくよく内部に立入
つて判断したならば、現在闘つおる炭鉱
労働者がなぜこれだけねばらなければならないかという気持は、十分御承知頂けるのではないかと判断しておるのであります。政治闘争云々の問題につきましては、昨日衆議院の
労働委員会におきましても、中労委の中山会長ですら、
経営者のそういう一方的な考え方は当らない、少くとも現状ではそうならないということを
言つておりますので、この点については余りくどくどしく触れませんが、そういう観点で我々はこの闘いを現在まで続けて参りました。
従つて言い換えますならば、他
産業と異なりまして、何ぼ上りたからもう少し何ぼ上げろという闘いでなくて、今までの我々の五十日の闘いは、ほかの人より二割低い
賃金ベースを更に一日百円か百五十円になるか、数字は細かいことになりますが、下げるぞという闘いに対して、他
産業より二割安いベースを守ろうとする闘いであ
つたのであります。このことは十分御理解願いたいと思うのであります。そうして五十日間の闘いを通じて漸く今日、ほかの
産業より二〇%低いそのベースをそのまま横辷りしましようというところまで来たのが、この五十日間の闘争の歴史であ
つたのであります。御承知の通り今日最近におきまして
一般産業、公務員におきましても、ベース・アツプ闘争が繰返されております。果して
石炭鉱業連盟のごとく、賃下げをする
産業がありましようか。少くとも公務員におきましても、二割、三割のベース・アツプというものは、
一つの今年秋における常識ともな
つておるような現状下において、昨年の長者番附を見ましても、全国の二十人の長者番附の内容を見ても、頭から十三人は
石炭業者である。あとの七人は別の人でありますが、この
日本の多額納税者の二十人のベストテンをずつと一覧表を見ますと、この中の十三人が
石炭業者である。而も最近から今年に至るまで、
石炭業界の好況というものは、これはもう誰もが否定しない事実であります。こういう
状態にある
石炭企業者が、なぜこのような傲慢な
態度を以て、この
一般の常識さえ裏切
つて、強硬な
態度に出ておるかということを判断いたしますと、彼らは今まで占領軍の蔭に隠れて、みずから都合のいいことは、
労働者に対してもこれは我々がや
つたのである、こういう顔をいたしまして、そうしてみずからの都合の悪いことは、占領軍を介入せしめて、これは我我は本当は
労働者に対してそういう冷たい気持は持
つておらんのだが、占領軍という絶対的な権力があるのだから止むを得ないというので、占領軍の権力を盛んに利用して、
労働者を懐柔してしま
つた。とにかく我々は現在の
日本の
状態に満足いたしておりませんけれ
ども、今日独立いたしまして、一応占領軍というものがなくなり、この段階において、完全に
組合を死物化して、労使
関係において完全な主導権を獲得しなければならないという非常に強固な決意に基いておることは、皆さんも御承知かと思います。
従つて今日のベース闘争の最も困難な
状態にありまする裏付の
一つといたしまして、
経営者の
組合無視に対する基本的な考え方、いわゆる内部にあらゆる手を使
つて組合を分裂せしめ、弱体せしめるという破壊工作、そういう誤
つた考え方が是正されませんと、たとえ今日の
争議は一時的に、表面的に
解決いたしましても、このような形に類似いたしました
争議は今後においては続々と続発するものと見なければなりません。我々はこの
賃金では食えないという現状に立
つて、而も他
産業よりも最も悪い
労働条件の中にあ
つて、この低いベースに置かれているこの現状の打破ということについても勿論大きな関心を持ち、絶対的にこれはやり貫かなければならないという覚悟を持
つておりますが、これに附け加えて、どちらにも比重がおけないほど重要視して考えているのは
経営者のこの
組合破壊工作であります。このことをやはり我々は国会の皆さんがたが、十分な関心を持
つて我々を注視をして頂きたい、こういうふうに訴えたいと思うのであります。このことは電産におきましても、中部の一部に厖大な金を注ぎ込んで分裂工作を図り、今日の炭労
争議におきましても御承知のごとく中央におきましては
労働者が飽くまでも自主的に十七社
交渉をやりましようという協定書を取交して、両者が正々堂々と
東京において
団体交渉を続行しているにかかわらず、十七社炭鉱の
交渉をよそに九州連盟とタイアツプして猛烈な切崩しをや
つたのであります。その結果
組合の幹部を罐詰にして無理やりに暴力を以
つて調印をさせ、その結果
組合に対しては
組合の幹部が納得したのであるから、炭労連盟の影響に拘束されることなく直ちに明日から従業せよ、こういう指令を出して
組合を異常な混乱に陥れたのであります。勿論これには相当こちらも対抗いたしまして、今日までピケラインを張
つて絶対に相手側の攻撃に対して下部態勢を守
つておりますが、併しそういう形で
意思表示を
会社がいたしましたにかかわらず、
組合員はそのことを信ぜず、炭労本部の指示のない限りはそういうことは絶対に信ずることはできない。こういうことで
会社の申出を拒否いたしました。ところがそのへんの暴力団等を狩
つて、そうして軍歌の歌声も更しくこの
ストライキに対して圧力を加えて、坑内に他の人を入れて作業を開始しよう、こういうことで入坑しようとしたことがありますので、これに対して
組合側はピケを張
つて抵抗したために小競合がすでに二十日になんなんとして続いているのであります。このことは連盟は
東京においては炭労の
態度を是認しておきながら、現地においてはこういう悪辣な切崩しをやる。全国組織の信義の問題から見てもやるべきことでないことをこのような形でや
つているのが現状であります。常磐に対しても如何ほどかその裏において悪辣な切崩しをされたかということを我々も聞いておりますし、想像してもその範囲が了解ができるのであります。そういうふうにして一方では
東京で
交渉をやるという
態度に出でながら、根本的には
組合の破壊工作を着たと準備をしている。この
経営者の
態度は、これは勿論日経連の
態度と判断してもよろしいと思います。要するにこの秋の
賃金闘争に立上
つた電産、炭労というものを、こういうふうにして骨抜きにすることによ
つて、
日本の
労働運動というものは非常におとなしくなるだろう。このことは非常に重要であるということで、戦略的に日経連でこういう指示を流していることも一応私
どもは承知をいたしております。
従つて我々は今回の
賃金ベース闘争はこの低いベースのアツプの闘争であると同時に、この
経営者の不遜な考え方に対する挑戦である、反撃である、こういうふうに理解をして頂きませんと、ベース・アツプの考え方だけでこの問題を重視されますと、問題の見かたに本質的な誤りが結果的には出て来るのではないかと考えている次第であります。
従つて現状においては
経営者のこの考え方の放棄がなければ、何回
交渉を繰返しても、現状の
状態は私は打破できないのではないか、こういうふうに考えているわけであります。
それで私
どもは先月の二十四日に至りまして、連盟から、四十日を越える
状態になりまして、ようやく
団体交渉の申出がありまして、我々はこういう連盟に対して非常に果敢に闘
つている。非常な憎しみを持
つているのでありますが、併し結果的にこの
争議が四十数日間続くことによ
つて列車の削減が行われ、ガスの制限が行われるという
状態が明らかにな
つて来たこの段階において、我々も又連盟に対する憎しみとか或いはベース・アツプの
要求とかいう問題は別にいたしまして、対第三者に対する影響という意味も、少くとも我々は自分が好きで
ストライキをや
つているとは思
つておりません。我々の考えるベースが或る程度取れれば今日でもすぐやめます。併しながらそういう不遜な
態度で臨んでいる
経営者に対して挑でんいるのでありまするが、結果的に先ほど申しましたような
状態が出ている。
従つて我々はやはり責任のなすり合はどつちに比重が……。使用者にあるか、
組合側にあるかということは別にいたしまして、とにもかくにもこの
状態を起している当事者に間違いはない。
従つて我々も又この問題に対する
解決の
努力はやはり当事者として一生懸命やらなければならん、こういうでどうせろくなものは出て来ないとは思いましたが、一応私
どもはこの
状態を打破するために、幹事会の代表者会議の設置にも承服いたしました。そうして二十四日から漸く
団体交渉を、準備が終
つて団体交渉を再開したわけであります。ところが四十数日間の後において出て参りました連盟の案というものは、能率の一〇〇%以上、上昇分の六〇%を、今度四〇%に下げている。依然として
賃金切下案という考えについては変りはない、こういう
状態であ
つたのであります。そこで四十数日間続いた
ストライキの後でそういう案が出て参
つたのでありますから、当然
組合員の憤激というものは頂点に達したのでありますが、ただこれは放りつぱなしではいけない。これは先ほど申しましたように好むことではないが、第三者に対する影響が大きくな
つて来ている。腹を立てないで少し
団体交渉を見つめて行とう。こういうことで
団体交渉を繰返し繰り返しして、漸く二十八日の晩になりまして出て参
つたのが、先ほど申しました一応の
現行賃金の横辷り、そうすると
現行賃金の横辷りで参りますと、今でさえ二割他
産業や公務員より下廻
つておるのでありますから、今度はべースの改善により
一般産業や公務員が二割上がると、そこに四割の開きが出て来るということに相成るのであります。而も御承知の通り、来年の一月からは汽車賃も上り米代も上がるということがすでに明らかにな
つておる。こういう
状態を勘案いたしますと、我々のべースというものは今までより四割他の水準と比較して低くなるという
状態が明らかに
なつたのであります。従いまして
組合としては、当然このことについて納得することはできないのであります。併しなお且つ我々は代表者会議、その他を通じてこういう
状態になりますのに、而も四十数日間一銭ももらわないで、この
ストライキをや
つて来た我々たに対して、こういうことで一体どうするのか、再考しろ、こういうことで代表者会議やその他の機会を通じまして連盟の反省を二日間に亘
つて求めたのでありますが、これが最後案であ
つて、一銭もこれから引けない、こういう
状態を彼等は宣言するに至りました。従いまして、御承知の通り一日に至りましては、私
どもは非常
事態宣言を発せざるを得ない
状態に追い込まれたのであります。即ち御承知のごとくまる五十日近い
ストライキで、本来この低いベースで生活をしておるでありますから、炭坑
労働者に余分な蓄えがあろうはずはありません。我々の生活は日に日に破壊の方向へ行きつつあるということは明確であります。二カ月間に近い
ストライキをや
つておるのでありますから、我々の生活は全く近いうちに破壊されてしまうであろう。この段階においてもなお且つ連盟がこういう不遜な
態度を示しておる、それに対して我々の生活が具体的に、こういうふうに
経営者側の圧力によ
つて破壊されるという段階において、なぜ我々はこの
経営者の資産を守らなければならないのか、こういう反間が下部から猛烈に上が
つて来たのであります。中闘は、若し許可をしないならば、下部から放棄をするぞ、全面的な保安要員の放棄をするぞ、こういう要請が下部から強く中闘に対して要請される
状態に相成
つたのであります。御承知のごとく保安要員は別に私
ども法律的には出さなければならないという考えを持
つておりません。労調法の三十六条におきましても、これは明らかに人命保護を主体にいたしました条文でありまして、そのことは勿論問題ではない。更に鉱山保宏法の本質を流れているものは、飽くまでもこれは
会社企業の資産の維持ということでこの法律を作られたものと私
どもは判断いたしておりません。これは飽くまでも坑内
産業という、地下
産業という特殊な権業の中にありまして、非常に危険な
状態が多い。
従つてこういうところに働かせるためには、こういう設備をしなければいかん。或いはガスが何コンマ何パーセントある場合には、その現場には
労働者は入れてはいけない、こういう本来保護法的な性格を持
つているのでありまして、この法律が果して
ストライキの期間中においてこれが全面的に適用されるかどうかということにつきましては、
日本の法学者の中でもその
意見は二通りあるようであります。即ちその
一つは、切羽やその他まで手を入れなくてもいいが、主要構造や主要配置まで守ればいいのではないか。こういう見解と、保護法であるから人間が一人も入らないという前提ならば、何にも保安を確保しなければならんという法的な根拠はないという、こういう見解を持つ学者、こういう
二つがあるようであります。全面的に保安を確保しなければならんという法学者は一人もおりません。併しながら坑内で働いている人、坑外で働いている人にいたしましても、その山に永く住みついた人が非常に炭鉱には多いのでありまして、自分の職場を愛し、山を愛するという気持、自分のふるさとが、如何にみじめな想い出に満ちていましても、何らかの郷愁を呼ぶのと同じように、自分の職場というものに対する愛着は他の
産業労働者に比べてちよつと違う
状態があるのでありまして、そういう
状態も考慮いたしまして、私
どもも今日まで保安の最少限度の確保は指令を出しまして、今日まで守
つて参
つたわけであります。併し先ほど申しましたように、
組合員の生活というものがこのように破壊の方向に、どん底の段階に追い込まれて、而もその段階においても
経営者は何らの誠意も示さない。こういうことでありますれば、ここにおいて我々は最後の決意をぜざるを得ない。こういう段階に立ち至
つたことを中闘委は確認せざるを得なか
つたのであります。
従つて我々は別にいつからこれを実施するという期日はきめておりませんが、
従つて我々は最悪の場合には全面的に撤収も又止むを得ないという内容を加えた非常
事態宣言を発し、
組合員の一層の強固な協力を要望すると共に、対外的にこの連盟の現在に至るまでの不遜な考え方を明らかに訴えた次第であります。これが大体概略申上げました今日までの
状態でありまするけれ
ども、昨日は
労働大臣にも呼ばれましたし、衆参
労働委員会、或いは又中労委会長等に呼ばれまして、いろいろ我々が先ほど申しました懸念いたしておりました第三次ストに対する影響が非常に重大なる段階に立至
つている。
従つて両当事者は
事態の収拾のために万全の
努力を払
つてもらいたいという趣旨の勧告をそれぞれの立場から出されました。
組合側といたしましても、この第三次ストに対する影響が、先ほど申しましたように現在
組合側はそれを望んでいるものではない。我々は我々の或る程度の常識で納得できる
状態が来れば少しでも早くこの
状態を打開したいというふうに考えている熱意におきましては、決して当事者であるだけに我々は強いのであります。併しながら現状の段階を以て
組合側は納得せい、ただ
ストライキをやめよ、こういうことについては今日まで何のために一体五十数日間の犠牲を払
つてこれまでや
つて来たか、それから考えましても我々は到底それを納得することはできない。一にかか
つて局面の打開は
経営者にある、こういうことを
意思表示をした次第であります。
併しながら最後に私見になりますが、私の個人的な見通しといたしまして申上げますと、すでに先月の半ばにおけるこの
東京都内の
一般需要者、この
石炭の配炭価格は千円ほど上
つております。
ストライキに当然入るということが予知されてお
つたにかかわらず、資金の
関係でこういう余分な
石炭を買込むことのできなか
つた中小企業、或いは
一般国民、特に北海道における暖房用炭、これらのいろいろの
状態を考えますと、それらの人の立場が我々に近いだけに、我々と同じような
状態にあるだけに誠に遺憾であると思
つております。品物がないばかりか、買うにいたしましてもそれだけ経済的負担をすでに余儀なくされているということ、こういう
状態は返す返すも我々といたしましては遺憾であります。併しながら結果的にこの結果がどういうことになるだろうということを考えて見ますると、御承知のように、この
ストライキに入る前に
日本の市場貯炭は二百数十万トン、それから
電気、国鉄その他が持
つておりました大口需用者の貯炭が四百数十万トン、合わせて約七百万に近い貯炭がございます。先ほど申しましたように、
組合側と
団体交渉を持
つたとたんに連盟の
賃金切下げ案が出た。このことは言葉を換えて申しますと、早く
組合側は
ストライキをや
つてくれんか、こういう
態度なのであります。即ち御承知のごとく、
日本の現状の
石炭界においての常識は、いわめる市場操作炭というものは二百万トンが常識に相成
つております。ところが明らかに五百万トンを上廻
つているのでありまして、その当時の
状態では、
従つて若しこの
状態を続けて参りますると、
経営者は来年の夏場、或いは今回のこの冬の需用期にかけて非常に
石炭の値段が下るのではないか。
賃金交渉が始まる前に
電気、或いは国鉄でも七月分、八月分の
石炭代の値引き
交渉が行われてお
つたことは御承知の通りでありまして、こういう観点から
経営者は
組合側の
ストライキを意識的にやらせることによ
つて、将来の炭価
政策に有利な体制を築き、これによ
つて利潤の確保というものを確実なものにしたか
つたという傾向があ
つたことを我々は最近においてはつきり確認することができたのであります。とにもかくにも今日まで
ストライキが続きまして四百数十万トン、五百万トン近い減炭が行なわれ而も現在の市場貯炭は二百万トン云々といわれております。これは勿論市場貯炭はありませんし、大口需用者が持
つている貯炭でありますが、併しながらその二百万トンの貯炭の内容は明らかに低品位炭が多いのでありまして、この五千カロリー未満の低品位炭は、この
一般産業に持
つて来ても、ガス
会社に持
つて来ても使いものにならない。
従つて本当に、
一般産業で使える炭というものは、
日本中にあるだけの工場から集めても、百万トンは切れるだろう。そういう
状態から現在のこのガスの
状態、それから国鉄の
状態、或いは又ガラス工場、発生炉を持
つた工場の
状態というものが現われておるのであります。
従つてこの調子で参りますると、現在すでに二三日前の新聞にも出ておりましたが、発生炉炭でさえもすでに千円近くの値上りを示しており、更に又そのほかの高級炭に至
つては更に厖大な値上りを示しております。この
ストライキ解決の問題等と関連して、現在の市場貯炭或いは大口需要者の貯炭というものを考えますと、この少い貯炭をめぐ
つて更に激烈なる需要者の闘争、競合いというものが行われる可能性は十分にある。
而も
ストライキが非常に
長期に亘りましたたために、今日
ストライキが解除されましても十二月の十日乃至十五日までは、
石炭は恐らく普通の生産量の半分も出ないということは明らかであります。
従つてそういたしますると、その少く出た
石炭は今までのお得意さんの
関係でどうしても大口需要者に優先的に配給される。そうなりますと、
一般の国民の暖房用炭或いは中小企業用炭その他の炭はまだまだ月末にならなければ手に入らない
状態にある。そういたしますとこの少い炭をめぐ
つての葛藤は、更に激化して来るものと判断しなければならない。激化して来ることは同時に値段を釣上げて来る結果になると思います。そういたしますと、結果的にはここで連盟が多少のベース・アツプを炭労に対して認めて、そうして妥結をしたにいたしましても、連盟はこの
状態即ちこの五十日に亘る
ストライキの損害は、
経営者側は来年の三月乃至四月までには全部回収できるという見通しが明らかにな
つて参りました。而もこの少い炭の
状態から考えますと、来年の夏場において、今年の夏より非常に有利な態勢で
石炭価格の維持が可能にな
つて来るという見通しが明らかに今日の段階ではなされるのではないかというふうに考えるのであります。結果的には、我々はまあ当事者として、ともかくといたしまして、
一般の需用者、中小企業そのものが、今回の
ストライキ、連盟の不遜な
態度によるすべての痛手のしわ寄せをそこに持
つて来られる可能性がはつきりいたして参ります。即ち連盟はこの
ストライキによ
つて受けた打撃は、先ほど申しましたように、来年の春までに全部回収は可能であります。而も夏の価格を十分に有利な態勢ができて、この協定期剛の一年間の期間を通じまして、今までよりもつと厖大な利潤を上げることができるということが明らにな
つて参りました。
従つて損をするのは、結局今まで非常に苦しい、我々若干ここでべース・アツプをして参
つたにしても、この五十日間の痛手から立直るためには、相当の犠牲を必要とするということも十分考えなければなりません。而も又そういう中小企業等、
一般国民に全部このしわ寄せが、損害が被さ
つて来るという形の結果にこの
争議の顛末が行くのではないか、こういうことを考えた場合に、我々にはやはり絶対に今後に起り得る
石炭の値上げに対して我々はこの
会社の
経理を或る程度握
つておりますから、現在我々の如何ほどなるべースを認めても、決してそれは
石炭の値上げをしなければならんという
状態ではないのであります。御承知のごとく、本年三月の決算におきしても、三菱、三井その他が儲けました
金額というものは、非常に尨大な数字にな
つております。三井だけでも三十五億、三菱二十五億、住友十億、北炭十九億、常磐五億、宇部十億というような形で、この途徹もない
資本金の率から行くと矛盾なんです。ですから私
どもは、この
ストライキが終
つて、若しそれを
理由にして公然と
経営者が……、今まで申し上げました値上りの
状態は、これは潜在的な事業者が勝手にしておる値上りでありますが、若し公然と
石炭企業
経営者が、
石炭単価を、ベースを上げましたから我々は
石炭代を上げなければなりませんと、こういうことを若し公然と社会に対して申すような段階に来たならば、我々は
一般国民とタイアツプして、徹底したこの
経営者の
経営状態の暴露と、併せて国民と共に闘うという気がまえを現状においても持
つておる次第であります。
非常に抽象的な説明でありますが、概略要点を申し上げましたが、なお不十分な点につきましては、これから御
質疑により残してお答えをいたしたいと思います。以上であります。