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公述人(武田隆夫君) 只今御紹介に与りました東京大学の武田でございます。私が
公述を求められましたところの御趣旨は、特定の利害を代表する者としてではなく、財政学をいささか専攻しております者といたしまして、この
予算案につきまして大局的な或いは総合的な意見を言えという点にあ
つたというふうに理解しております。そこで私は成るべくいわゆる価値判断をまじえませんで、この
予算が含んでおりますところの問題点を若干指摘いたしますと共に、それが
日本の
経済にどういうような影響を及ぼすであろうかということについて、成るべく客観的な
見通しを申述べてみたいと思います。でこの点におきまして、ほかの
公述人のかたと若干異るところがあるかも知れません。併しながらその問題点をどういうふうに処理するか、或いはその客観的な
見通しが若し正しいといたしますならば、それにつきましてどういうような態度をおとりになるかということは、いろいろな利害とか、いろいろな立場とか、或いはいろいろな階級とかを代表しておられますところの議員各位において、おのずから定まるであろうというふうに思われるのでありまして、私としては特に批判とか意見とか要望とかいうようなものはここでは申上げないつもりでございます。
さてこの
予算が含んでいる問題点を指摘いたして、その影響についての
見通しを述べるということになりますというと、どうしてもこの
予算の背景をなしておりますところの
日本の
経済の
状況、及びその
経済をそうあらしめている点について、財政がどういうような
関係を持
つているかということについて、簡単に申述べなければならないわけでございます。戦争と、それから敗戦によりまして、
日本の
資本主義、
日本の
経済が非常に打撃を受けまして崩壊に瀕してお
つた、それを復興し再建して来まする上におきまして、いろいろな
方策がとられましたが、その中で財政が非常に大きな役割を演じてお
つたということは御
承知の通りであります。それを私は、財政が、
国民所得を
国民大衆のほうから
インフレーシヨン或いは租税というような形で相当の
資金を吸上げまして、それを
資本の
蓄積という方向へ廻すという形で、
日本の復興、再建ということが成し遂げられて来たのであろうというふうに理解しております。併しそういうふうにして再建されましたところの
日本の
経済、
日本の
資本主義は、そういう手段の当然の結果といたしまして、忽ち国内市場の狭い枠に衝突するというような結果に
なつたのであると考えております。
国民の生活水準はなお低い、それから又、私もそうでありますが、ほしいものも十分に買えないという
現状におきまして、すでにこの過剰
生産或いは操業短縮というような事実がありますのは、そういうようなことが
一つの大きな
原因にな
つているのではなかろうかと思うのであります。併しそういうのが現実でありますから、そのような矛盾を解決いたしますために、ここに早くから我が国は
輸出貿易、即ち海外市場への進出ということが重要な問題とな
つて参
つているのでありますが、この海外市場への進出、或いは
輸出貿易の伸張ということもなかなか容易でないということは御
承知の通りであります。これはいわゆる中国とかそれからその他の国々と貿易ができなく
なつたというような政治的な
原因もありますけれ
ども、或いは又後進諸国におきまして、いわゆる民族
資本が勃興期に達しまして、我が国と
競争するような
産業がぼつぼつ勃興して来ているというような点もありますが、そのほかに我が国のいわゆる
資本の
生産性と申しますか、商品の
コストと申しますか、それが高い、そのために価格
競争の点において十分太刀打することができないというような状態にあるということも御
承知の通りであります。そこでそういうふうに
日本の
資本主義は財政を有力なてこにいたしまして今日まで復興して来たのでありますが、そのことの故に、今日相当いろいろな面で矛盾と申しますか困難な点が生じて来ている。その点を再び財政に依存しながら解決して行くべく、いろいろな要求がある。そういうような要求を背景に持ちながら、この
昭和二十八
年度の
予算が編成され、目下審議をされているという状態ではなかろうかというふうに私は理解いたすのであります。こういうようなことを頭におきながら、二十八
年度の
予算を考えてみて行きたいと思います。
先ず歳入
予算の方から見て行きたいと存じます。今申しましたように、
日本の
資本主義が今日当面している問題は、国内におけるところの消費力、或いは国内市場が狭いということでありまして、そうしてそれは低賃金或いは低米価ということにもよりますが、
一つは租税
負担が重いということが大きな
原因をなしていると言わなければならないと思うのであります。これは例えば
所得税の基礎控除というようなもの
一つをと
つてみましても、今回の改正後におきましても、
昭和九——十一年の平均に比べまして、大体五十倍くらいに引上げられている。これに対しまして、資産の再
評価の方であるとか、或いは物価の方であるとかいうものは、その五十倍の更に数倍の大きさにも達しているというようなことをと
つて考えてみましても、租税
負担が重いということがその
原因であるということは明らかであろうと思います。そういうような重い租税を今
年度はどういうふうに改正されているかということが問題になるわけであります。この点はいわゆる税法上の
減税と申しますものが千九億円計上されているのでありますが、私はこの税法上の
減税額というもの、その算出の基礎につきましても、いろいろの計算が示されているのでありますが、これはどうも少し、これは感じでありますが、この自然増収、いわゆる税法上の
減税の基礎になります現行法によ
つたらば、どれだけ税
収入が上るかという見積りは、少し甘いのではないかというふうな感じを持
つております。この点を御究明頂くことが
一つの問題点ではないかと私は考えているのであります。
それからそういうようなこの
減税の中心をなしますものは
所得税、それから
法人税、それから相続税というようなものでありますが、この
減税の方向と申しますか、結果と申しますかが
国民大衆の租税
負担を軽減するほうに向いておるか。或いは又それは
国民大衆の租税
負担を軽減し、消費力を殖やすということになりますと、
国民市場が広くなるというような点にもかかる問題でありますが、そういう方向に向いておるか。或いは又より多く、そういう国内市場の行詰りと狭い枠というものは放棄しておいて、国際市場或いは海外市場に進出する、このためには
企業を合理化したり或いは
コストを引下げることが必要である、そのためには
資本の
蓄積ということが必要である、その
資本の
蓄積を図るという方向へより多く向いておるかという点が、第二の問題点になるかと思うのでありますが、この点につきましては、私は成るほど税法上の
減税を最も大きく受けておりますのは、
所得税の中の源泉徴収分の
所得税でありますが、それにもかかわらず、実際上の減収額はこの源泉
所得税分において最も少い、税法上の
減税額は七百三億というようにな
つておりますが、実際勤労所得を受ける者、主としてまあそうでありますが、そこからそれが全体として今
年度支払うべき租税が、昨年に比べてどれだけ減
つておるかというと、十一億余りしか減
つておらないというような状態にな
つております。これに対しまして、申告納税分の
所得税及び
法人税のほうの、これはまあ
法人税というものは、或る
意味ではシヤウプ博士が
言つておりますように、
法人の株主の支払
所得税のまあ源泉徴収分である。つまり株主になるような階層の人々のまあ支払
所得税であるというように、大ざつぱに考えて差支えないというふうに
言つておりますが、それを
合計いたしますというと、百九十億円ぐらい、実際にそういう人々の支払う
所得税は減るということにな
つております。
更にこういう
減税が行われました総体の結果を考えてみまするというと、本
年度におきましては、
所得税その他を含めますところの直接税と間接税との比率は、二十七
年度は補正
予算まで含めまして、直接税と間接税との割合が五十七対四十二というような形にな
つておりましたのが、五十二対四十六というふうに直接税の比重は軽くな
つて、間接税の比重が重くな
つておる。或いは又直接税においては相当
減税されておるが或いは減収にな
つておるが、間接税におきましては相当の増収が見込まれておるというような
状況、今申しましたいろいろなことを考えてみまするというと、この
減税の方向というものは、
国民の消費力或いは国内市場を大きくして
日本の
資本主義が、先に申しましたような困難に逢着しておるのを打開して行こうというようなほうへは向いておらないというふうに考えるわけでありまして、むしろこういう
減税の力点は海外市場における
競争力を強化するため合理化による
コストの引下げのため、それに必要な
資本の
蓄積という点に向けられておるというふうに考えることができるのではないかと思うのであります。そのことは先ほど申しました
所得税申告分或いは
法人税におけるところの
減税或いは減収、それから今
年度からいわゆる株式の譲渡
所得税を、これを正確に捕捉することは困難でありますが、捕捉すれば私は非常に大きな税源になると思うのでありますが、これをやめまして、そういう捕捉の努力というものを断念いたしまして、すつぱりとあきらめまして、新たに有価証券移転税を新設した、これをいいか悪いかということは申しませんが、そういうようなことを考えてみまするならば、
減税の力点というのは
資本の
蓄積を税法上妨げない、或いはそれを奨励するという方向へ向いておるということは、ほぼ明らかではないかと思うのであります。そういう点におきましては、第三次の資産の再
評価を行うということも又同様であります。これはすでに一次、二次と行われました再
評価に続いて、
戦前戦後物価が騰貴した現実に即応いたしまして、資産の
評価をやり直して、従
つて利益として課税されるところの
部分を減らそう、減らしてやろうという考え方でありますが、同じ考え方は労働力と申しますか、労働者と申しますか、それの生活費についても言い得るのではないか。それはまあ、何も道義的とか倫理的な
意味においてでなく、
資本主義が市場とか需要とかいうことも考えて、スムースに発展するためには、どうしても考えざるを得ないという
意味において、労働者の生活費或いは労働力の再
生産費ということについても考えなければならないと思うのでありますが、それについては、先ほど申しましたように、物価が数百倍騰貴しておるにもかかわらず、五十倍
程度の再
評価しか行われておらないというようなことを考えてみますると、この全体としてみた
減税の
措置というものの力点は、
資本の
蓄積を妨げない、或いは
資本の
蓄積を助長して行くという方向にあるのではなかろうかと考えるわけであります。
そうしてみまするというと、
一般会計の歳入の面、特に租税について考えまず限りは、
日本の
資本主義の当面しておるところの矛盾を解決するために、国内市場を大きくするという方向への大きな手は打たれておらない。又国際市場に進出して、国内市場の狭さを補うために国際市場に進出して行く、その場合におけるところの
競争力を増大するという方向に、役立つような方向に
減税がなされているけれ
ども、それも、二十七
年度或いは二十六
年度にとられたのと、そう大きく変
つた手は打たれておらないということが言えると思うのであります。即ち、歳入の面だけにおきましては、
日本の
資本主義の困難を新らしく打開して行くというような方向はとられておらない。むしろ、言うならば、
国民所得に対するところの租税
収入、或いは
国民の租税
負担の大きさというものを、ほぼ前
年度並に据置くということに一番重点が置かれまして、その範囲内で、どちらかと言えば、無論いろいろな方面で
減税が行われている、つまり
国民大衆のほうにも少し税を減らしてやる、それから
資本蓄積を妨げない、或いは
資本蓄積を助長するという方面にも配慮をする。併し、どちらかと言えば、
資本の
蓄積を助長する方向により大きな配慮が払われておるというような形で、歳入が考えられているというふうに言うことができるのではなかろうかと思うのであります。
歳入のほうがこういうふうな
状況にな
つておりますのに対しまして、歳出のほうはどうかということを見て見たいと思いますが、ここにおきましても、私は非常に
日本の
資本主義の矛盾を打開するための大きな手というものは打たれていないように思われるのであります。先ず、歳出は、いろいろな項目に分けられておりますが、これを若干取りまとめまして、防衛
関係費、それから国際
関係の処理費、治安行刑費、それから国土保全、
産業振興費、それから社会労働費、文教対策費、出資及び
投資、
地方財政補助、財務費、
国債費、価格安定費、その他の内政費というように、自己流でありますが、整理して見ました。大体この名目によりまして
内容がおわかりかと存じまするが、軍人恩給のための
費用というのは、防衛
関係費の中に私は概括したわけであります。それから、国土保全、
産業振興費というのは、
公共事業費、それから
食糧増産対策費、農業保険費、そんなものを一括したわけであります。それから、
地方財政補助という中には、いわゆる義務教育の国庫
負担費というものは、別にそうしたからとい
つて、
地方財政の上に及ぼす影響とか、或いは教育そのものに及ぼす影響というものにつきましては、問題が非常にあるかと思いますが、
予算の上では同じものであると考えまして、
地方財政補助費という中に入れております。そのほかのものはおよそ御想像がおつきになる通りであります。こういうふうに、いくつかに括りまして、これを二十七
年度の
予算と、二十八
年度の
予算と比べて見まするというと、何れも少しずつ増加しております。減少しておりますものは、国際
関係処理費、それから出資及び
投資、それから財務費、価格安定費、これだけでありまして、そのほかは何れも大体数%から一〇数%ぐらい増大しておるというふうな
関係にな
つております。増大率が一番大きなものは、
国債費でありますが、これは本
年度外債の
利子を支払うということにな
つておりますので、そういうような
原因によるわけでありますが、そのほかの数%乃至一〇数%の増大というのが、二十七
年度、二十八
年度間におけるところの公務員の給与の引上げ、それから運賃その他の増額によるところの旅費その他の増大というようなことを考えてみまするというと、殆んど殖えておらないと
言つてもいいような状態にな
つておると考えるわけであります。言い換えまするならば、大
部分の経費につきましては、大体
昭和二十七
年度と余り変らないような額の
予算が組まれておるということが言えるのではなかろうかと思うのであります。これはどういうような計算によりますものか、つまり
政府の考え、重点がどこにあるのかということがはつきりしておらないためであるのか、或いは又いろいろな
費用を出しますために或る
費用を削るというようなことがいろいろな
関係で不可能であるのか、よくわかりませんが、大
部分の経費については、殆んど前
年度と大差ないような形で経費が組まれておる。そうして又減少しておるほうを言いましても、大体その減少率は国際
関係処理費とか、それから財務費とかにおきましてはそう減少しておりません。ただ
一つ非常に減少しておりますのは、御
承知のように出資及び
投資というのが減少しておるわけでありますが、そのことは言い換えますならば、大
部分の経費を二十七
年度とほぼ大差ないボリユームで出すための、或いはそれよりも若干ずつ、少しずつ、よく使われる言葉でありますが、総花的に殖やすために、何を犠牲にしたかと申しますというと、出資
投資という項目を犠牲にして、その他の経費を若干ずつ殖やす、或いは二十七
年度に比べて、公務員の給与を初めいろいろ上
つた分をこめて、ほぼ大差ない仕事をするための経費を組んでおるというような形にな
つておるのではなかろうかと思うのであります。そこでそういう点を考えてみまするならば、この
一般会計の範囲内におきましては、昨
年度に比べまして出資
投資が非常に減る、と申しますことは、国内の市場、そういう
投資財
生産財に対するところの需要もそれだけ減るということである。その
意味では国内市場を広くするというよりは、むしろ国内の需要力を小さくするという働きをするものであり、又そういう出資
投資を通じまして
資本の
蓄積或いは
設備の改善というようなことを図り、国内市場を打開して行くようなほうにおきましても十分消極的な作用をするような形で、
予算が組まれておるというふうに言うことができるかと思うのであります。
歳入と歳出を通じまして言い得ますことは、以上のようなことでありまして、それは最初に考えました問題に焦点を合せますというと、
日本の
資本主義が財政を有力なてこにして復興して来たが故に、国内市場は狭い、それから又国外市場に進出を望んでおるが、そこへ進出して行くのはなかなか困難である、そのために今
資本の
蓄積とか、
企業の合理化とかいうことが言われておるわけでありますが、そういう点の解決を二十八
年度予算においては大きく解決して行くような手は打たれておらない、歳入の面におきましては、先ほど申しました通りでありますが、歳出の面においてはむしろマイナスになる虞れが非常に大きいというふうに考えられるわけであります。そこでまあそういう点を補います、と申しますか、この歳出
予算、租税
負担を
国民所得に対してほぼ前年並に据置く、その中で而も歳出のほうでは、いずれも前
年度と同じくらいか、或いは前
年度より若干ずつ総体的に、総花的に殖やした経費を賄うために、そのしわを出資及び
投資という項目に寄せる。その点を解決いたしますために、
産業投資特別会計というようなものが設けられ、或いは又そのほかの
資金運用部特別会計の
資金運用の面というようなもので、これを解決して行こうというふうに考えておるように思われるのでありますので、そのしわが寄
つて行
つたところの、この点について若干考察いたして見まするならば、御
承知のようにこの
産業投資特別会計の
資金を賄いますために、
産業投資特別会計というのは、
日本開発銀行とか、
日本輸出入銀行或いは電源開発
会社というのに
資金を貸付ける。その
意味では、いわゆる
資本の
蓄積、それから
企業の合理化というようなために、支出される
資金であると考えていいのでありますが、そのほかの
資金運用部資金の
運用計画というようなものを通観いたしますというと、どうも本
年度におきましては、昨年に比べまして、
開発銀行の貸付とか、それから
金融債の引受、それから
輸出銀行への貸付とかいうような点が減
つているというような点、これは無論電源のために相当大きな
資金が出されておりますが、それを考えましても、この
政府の建設資
計画全体を通じまして、
資本の
生産力を大きくするためになされる配慮というものも、昨年に比べて若干落ちるのではないかというような感じがいたすわけであります。そしてむしろこの消費的と申しましてはあれでありますが、
地方債の引受分であるとか、或いは中小
企業の、或いは農業のための貸付というようなものが殖えておるというような形にな
つておるような気がいたします。而もそういうような、この
資金を賄いますために、御
承知のように特別
減税公債、いわゆる貯蓄公債を発行する、或いは又
政府が手持ちをしておりますところの既発の公債を
日本銀行に売却することによ
つて資金を獲得する。それから又国鉄とか、それから電電公社において、いわゆる公社債を募集するというような形、公債によ
つてその
資金を補うというようなことを考えておるわけであります。それからもう
一つ口は、そういうようないろいろな
資金を
蓄積資金の来年への繰越分というようなものを減らすことによ
つて、つまり食い消すことによ
つて、そういうような
政府の需要或いは
投資を作り出して行こうというようなことが考えられておるわけであります。そこでそれを言い換えますならば、
日本の
資本主義が、国内市場、国外市場共に狭い。その狭さを補うために
政府需要、
政府の需要というか、或いは
政府資金を今日では千億以上の散超になるというふうに言われておりますが、そういう需要を増大することによ
つて、その行詰りを打開して行こう、こういう方向へ漸く向きつつある、そういう方向によ
つてこの
日本資本主義の行詰りを打開しようというふうに考えておるということが言えると思うのであります。而もその
政府需要を作り出しますために、そう大したあれでもないというふうに考える向きもあるかも知れませんが、ともかくも三百億の貯蓄公債を発行する、或いは又
政府手持公債を
合計三百八億億ぐらいに
日本銀行へ売却する、更に公社債を二百二十億くらい募集するというような、公債に依存してそういう
政府需要を作り出す。その
政府需要によ
つて、国内市場、国外市場共に大きくして行くことが困難である。その点を解決して行こうという方向に向いて来ている。この点が
昭和二十八
年度予算において最も我々の注目に値する点ではないかと思うのであります。
無論この公債の消化の
関係とかその他いろいろ考えなければなりませんが、ここでは申上げませんが、そういうような考え方は、曾
つての
日本の
経済が同じような問題に逢着した場合にとられたところの
方策と非常に似ているのであります。即ち曾
つて高橋是清大蔵大臣は、いわゆる公債の
日本銀行引受発行というものを開始したのでありますが、その場合に、これは財政上の必要を充たすと同時に、
日本銀行資金の注入によ
つて購買力を増加する、萎靡せる
産業に刺戟を与える、そうしてそのことによ
つて国民の
経済力の増大を図り、増大した場合、これを租税で取
つて返すという一時的な
措置であると考えて始めたのでありますが、その公債
政策というものは、御
承知のように一回始めますというとなかなかやめられん。或いはそういう
政府需要という形で
日本の
資本主義の困難を打開して行こうという努力は、直ぐその
政府需要を大きくするものとしての再軍備を考える、更に強力に伸展して行くというような要求に連なるものであり、高橋蔵相の
政策が辿
つたと同じ途を歩むというような危険がある。そういう展開点をこの
予算は孕んでおる。歳入歳出
予算のしわがそういうところに寄せられており、その
政策はまさに
一つの財政上のエアポツクを画するものであるというような点が一番この
予算で大きく問題になる点ではないかというふうに私は考えておるわけであります。
最初にも申上げましたように、客観的な
見通しを述べますためには、もつと詳しくいろいろな点を問題にして行かなければならないと思いますが、これは
一つのの客観的な
見通しであるつもりであります。意見というものは別に申上げないつもりでございます。