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公述人(
井藤半彌君) 一橋大学、商科大学教授
井藤半彌でございます。御命令によりまして、
昭和二十七
年度補正予算につきまして意見を
公述さして頂きます。
次の三つの点をあらかじめお断りしておきます。第一点は、
補正予算だけを切り離して問題にすることは不適当と思いますので、今年の春
国会を通過いたしました本
予算と総合して検討さして頂きます。それが第一点。それから第二点は、今日私が申上げますことは、或る意味において大ざつぱなことでございますので、本
年度の
予算を問題にいたしますと同時に、過去の
年度のものと比較したいということであります。それが第二点。それから第三点は、
予算というものは種々の角度から問題にできるのでありますが、私は
経済を中心に見たいと思います。
経済を中心にいたしまして
予算の計数の分析をやりたいと思います。
従つて私の申します
結論が偏
経済的、
経済に偏しておるきらいがあるということは、
公述人自身が大いに自覚しておるところであります。この三つであります。
先ず
歳出と
歳入に分けて意見を述べますが、先ず
歳出について申します。
歳出について研究すべきことは、申すまでもなく
歳出の数量が、即ち全額が妥当であるかどうかということ、それからもう
一つは、内容がどうか、この二つの問題であります。先ず数量の問題でございますが、
昭和二十七
年度の
予算は、この春通過いたしましたのは御案内の
通り八千五百二十七億、今
年度の
補正予算が七百九十八億、合計いたしまして九千三百二十五億であります。これ以外に
地方費が七千四百億余りございますが、これはやや問題が異
つておるようであります。そこで九千三百二十五億円という一般計の数字が一体多いものかどうか、これにつきましていろいろ検討する
方法がございますが、国の
経済力を現わすものといたしまして、国民所得をとるということが一番普通のやり方でございます。そこでこの普通のやり方に従いまして、一般会計の計数を国民所得で割算いたしますと幾らになるかと申しますと、これは極めて簡単なもので、
昭和二十七
年度、即ち今
年度は一七%でございます。それから去年は、二十六
年度は同じく一七%でございます。それから二十五
年度はやや多くて一八%であります。それから二十四
年度は更に多くて二三%であります。
昭和十年はどうであつたかと申しますと一六%であります。そこで
昭和二十七
年度一七%というものは、二十四
年度からずつと傾向を見ますと、二十四
年度は二三%、二十五
年度は一八%、二十六
年度は一七%、二十七
年度は一七%とだんだん減
つて来ておる傾向を示しております。ところが国家の
予算は減
つて来ておるのでありますが、御案内の
通り地方財政が膨脹の傾向があるのでございます。そこで私は、国家
財政と
地方財政とを通算した
計算をや
つて見ました。それは国家
財政の一般会計と
地方財政の一般会計とを合計いたしまして、その間の金銭の出入を差引いたものでございます。勿論これは私が初めてやつたもではなくて、これにつきましては今年の四月に大蔵省が出しております
財政金融統計月報、あれの四月号に、大蔵省
調査部の試算、試みの
計算でありますが、試算が出ております。それに私が修正を加えまして、そうして国家及び
地方における一般会計の統計を
計算いたしました。そういたしますと、これはちよつとあやしい
計算でございまするので、その点お許し願いたいのでありますが、
昭和二十七
年度は合計幾らになるかと申しますと、一兆三千七百億円になるのでございます。そこで一兆三千七百億円を今年の国民所得五兆三千億目で割算いたしますと幾らという答えが出るかというと、二六%という答えが出るのであります。同様に二十六
年度は幾らかと申しますと二三%、二十五
年度は二五%それから二十四
年度は三〇%であります。
そこで一般会計と国民所得との割合、即ち中央
政府の、国家の一般会計と国民所得との割合を見ますと、さき申上げましたように、二十四
年度を最高といたしまして、漸減の傾向を示しております。ところが国家及び
地方団体の統計を見ますと、二十七
年度は二六%でありまして、二十六
年度の二三%、二十五
年度の二五%よりもむしろ比率が大きいという点に御注意を願いたいと思うのでございます。来
年度は更にこの両方とも膨脹する見込みがありますので、この点は更に多くなるだろうと思うのでございます。そこで問題はこの数量が多いからいいとも悪いとも言えないのでございまして、結局その国家の金がいいことに使われているかどうか、
経済という立場から見ていい方面に使われているかどうか。いい方面に使われていれば、むしろ殖えるほうがいいのであります。
そこで次の問題は
歳出の内容であります。
歳出の種類ございます。これから国の一般会計の
歳出を
経済という立場から分析してみたいと思います。これは
経済という立場から、而も学校教授が分析いたしましたので、極めて大まかなものでございます。で私のこれから申しますことにつきましては、大まかなことであるのみならず、大分こういう分類に伴う無理があるということは私自身大いに自覚しておるのでございますが、併し大まかでも何か分類でもしなければ見当がつきません。
予算の数字をずつと見ただけでは、これは見当がつきませんので、
経済という立場から日本のこの国家の
歳出を次の五つの部類に分けたのであります。でこの分け方は私数年前からや
つております。それによ
つて今度又新たな資料によ
つて計算し直したのであります。どういうふうに分けますかというと、先ず一番は終戦及び講和
関係費、それから二番が移転的……住所移転なんかと申しますトランスフアー、移転的経費、それから三番は補助費及び扶助費、それから四番が
経済助長費、五番が一般
行政費、こういうふうにまあ分類してみたのであります。
ところでそのおのおのについて金額、内容の説明をいたしますと、終戦及び講和
関係費でございますが、そこの内容は何かと申しますと、国防支出金であるとか、安全保障に関する諸経費であるとか、或いは平和回復善後処理費、こういうものを合計いたしまして、終戦及び講和
関係費といたしました。又合計が勿論
補正予算を含めてでございますが、
昭和二十七
年度は一千四百二十億円でございまして、全体の一五%を占めております。でこの経費は申すまでもなく、
経済という立場から見ますと、国の、国民
経済の再生産に貢献するところ絶無とは申しませんけれ
ども、貢献するところの少い経費であるということは言うまでもないところであります。
それから二番が移転的経費であります。これは先ず内容を先に申上げますと、移転的経費に私が配属せしめましたものは国債費、それから年金、恩給費、それから
地方財政費、それから租税払戻金、それから老齢旧軍人等の特別
給与費、まあこういうものを私は移転的経費と名付けたのであります。この移転的経費は申すまでもなく購買力を国家から国家以外のものに移転するだけのものでありまして、積極的に
行政施設をやる経費でないのであります。勿論
地方財政費をこれに付加えますことにつきましては、いろいろ異論はございます。
地方財政というものを国家の延長と解釈いたしますと、これを移転的経費に加えることは問題があるのでありますが、ここでは仮に中央
政府の国庫を中心に見たのであります。そこでその移転的経費が合計幾らかと申しますと、二千百二億でございまして、全体の二三を占めておるのであります。でこれもどちらかと言いますと、極めて消極的な作用の経費というものであります。
それから今度は三番目の補助費及び扶助費であります。この内容は次のような経費をこの中に含めました。それは物価安定費、それから社会及び労働に関する経費、これを補助費及び扶助費と名付けます。その合計が八百五十四億円でありまして、全体の九%を占めておるのであります。この補助費及び扶助費、これは移転的経費に非常に似た
性質のものであります。ですが、やや
性質の違いますところは、国債費や年金、恩給なんかの移転的経費は、これはもらつた人が自由に使えるのでありますが、補助費及び扶助費は移転的経費の色彩は強いのでありますが、使い途が限定されておるという点が、移転的経費と違うのであります。これが八百五十四億でありまして、全体の九%でございます。
そこで以上申しました終戦及び講和
関係費、移転的経費、補助費及び扶助費、これは私は決して無駄な経費とは申しません。或る意味においては必要な経費でありますが、
経済という立場から見ますと、極めて作用がネガテイヴな、消極的な経費と思いますので、私はこれを名付けまして消極的経費と名付けたいのであります。この消極的経費が今申しました一、二、三、三つでありますが、これを合計いたしますと、四千三百七十六億円でございまして、全体の四七、一般会計
総額の四七%を占めておるのであります。
それから今度は四番の
経済助長費であります。
経済を助長する経費、その中味は産業振興に関する経費、産業振興費、それから公共土木
事業、その他の国土保全開発の経費、それから出資金及び投資金、こういうものは
経済助長に直接使われるものでありまして、これを仮に
経済助長費と名付けております。これが合計二千六百三十九億円でございまして、全体の二八%を占めておるのであります。
その次が五番の一般
行政費、この一般
行政費はそれ以外の経費を集計したものでございまして、これは国の積極的活動に関する経費であります。それが合計いたしますと二千三百十億円でございまして、全体の二五%になるのでございます。
そこで四番の
経済助長費と五番の一般
行政費、これは国の殊にまあ
経済を中心に見ますと、積極的な
行政活動に関する経費でございますので、これを積極的、ポジティブな、積極的経費と名付けたいと思うのであります。この積極的経費を合計いたしますと、四千九百四十九億でございまして全体の五三%になるのであります。
以上申しましたことをまあ簡単に申しますと、今年の経費のうち四七%が消極的経費で、積極的経費が五三%となるのであります。ところがお断りしておきたいのは、問題の例の保安庁、海上保安庁の経費、これを貴様はどちらに入れたかという問題でありますが、私はこの
両者の経費六百三十五億、これは全体の約七%でありますが、これを一般
行政費に仮に入れました。そこでこれを一般
行政費に入れるのがいいのかどうか、これは大問題でありまして、一般
行政費に入れるとなると、広い意味の国内治安維持に関する経費という建前です。ところが、これが防衛支出金、安全保障に関する諸費に準ずるものとなると、これは当然一番の終戦及び講和
関係費に入れなければならないのであります。そこでこれを終戦及び講和
関係費のほうに入れますと、そうすると。パーセンテージが狂
つて参りまして、消極的経費が五四%、それに対して積極的経費が四六%となるのであります。即ち五四%対四六%になるのであります。そこでこれを過失の
年度と比較いたしますと、
昭和二十六
年度以前と比較いたしますと、二十七
年度は非常に消極的経費が多いのであります。実数を申しますと、これは消極的経費だけを申します、ということは残りが積極的経費になりますから、そこで消極的経費だけを見ますと、二十七
年度の消極的経費が今言つたような
計算で五四%、これは海上保安庁を消極的へ入れたからで、消極的経費が五四%、ところが二十六
年度は消極的経費が僅かに四一%でありました。去年は四一%、
昭和二十五
年度は五八%、
昭和二十四
年度は五五%であります。
昭和十
年度はどうだつたかと申しますと、
昭和十年は消極経費が七二%でございました。これは申すまでもなく、当時軍事費が多くて、軍事費が四七%を占めておるという
関係があるのであります。要するにこれから我々が観察できますことは、二十六
年度が消極的経費だけを中心にして問題にいたしますと、積極的経費がその逆でありますので、二十六
年度の四一%を底といたしまして、最低といたしまして、二十七
年度は左四%に殖えて来ておる、即ち消極的経費が増加の傾向にあるのであります。殊に来年は更に次のような事情で消極的経費の割合が殖えるのではないかと予想されます。例えばこれはまだきま
つておりませんが、軍人恩給の問題、或いは賠償金の問題、アメリカのガリオア、イロアの返済の問題、或いは若し保安隊を拡充するとなると、又これが殖える見込であります。そこで以上申しました国家の経費の分析でありますが、これを総合して申しますと、先ず国家の経費の数量という点から申しますと、この
地方団体をも含めて
計算いたしますと、二十六
年度が最低でございました。去年が最低でありまして、今年は少し殖えております。それから種類です。これは国家の一般会計の経費でありますが、経費の種類について見ますと、消極的経費は二十六
年度が最小で、消極的経費の割合は、二十六
年度が一番低いのでありまして、二十七
年度から殖える傾向があるのであります。これは結局何を物語るかと申しますと、申すまでもなく日本の政治
経済が二十七
年度から
性質が変りつつある、変質が始
つておるということを物語るものでありまして、これが
予算に反映しておるものだと思うのであります。
以上は
歳出でありますが、今度は
歳入の問題について極めて簡単に申上げます。これも問題になりますのは、
歳入の数量と種類との両方であります。
歳入と申しましても、そのうちの大部分が税金であります。これは専売益金即ちたばこその他の専売益金を含めまして
歳入のうちの八千百五十八億、即ち八七%は広い意味の税金であります。それから
地方税が二千九百三十四億、合計いたしますと税金が一兆一千九十二億とな
つております。そこで
地方税を含めてでありますが、一兆一千九十二億というものが国民
経済に対して、どのようなまあ重要性を持
つておるか、これはまあ普通行うのは租税を国民所得で割る
計算です。その
計算の数字だけを簡単に申しますと、二十七
年度は二一%、二十六
年度は同じく二一%、二十五
年度は同じく二一%、二十四
年度はこれはシヤウプが来た前年の、シヤウプの税制改革の前年でありますが、二十四
年度は二七%、
昭和十年は一四%とな
つておるのであります。そこで二十四
年度の二七%を最高といたしまして、二十五年、二十六年、二十七年は皆二一%で減
つております。併しながら
昭和十年の一四%に比べてなお重いということは申すまでもないことであります。ところが租税を国民所得で割るという
計算は、便利なことでありますけれ
ども、当てにならんということは多くの人の言う
通り、そこで当てにならんのでありますが、もう少しこれを当てになる、より真相に近い数字が出ないものだろうか、そこで私は一両年前から租税を国民所得で割るという
計算方法をせないで、租税負担能力の最大限、負担能力で割るという
計算をや
つております。私がここで申します負担能力と申しますのは、国民所得からエンゲル係数を
基礎として食糧費の部分が幾らかということを
計算いたします。仮に食糧費を以て最小生活費を表わすものと仮定いたしまして、それでこの国民所得から食糧費を差引いたもの、即ち自由所得、これを以て負担能力を示すものと仮定いたしまして、租税を負担能力を以て割算したのであります。この数字のほうがより真相に近いのでありますが、そういたしますと、
昭和二十七
年度は四三%であります。二十六
年度は四六%、二十五
年度は五〇%、
昭和二十四
年度は六二%、それから
昭和十
年度は一九%にな
つております。そこでこの
計算を見ますと、租税の国民所得に対する割合に比べて、国民負担は減
つておることになります。なぜこう
なつたかというと、エンゲル係数が減
つておるからであります。併しながら
昭和二十七
年度は四三%でありまして、
昭和十年の一九%に比べますと、まだかなり重いということは、勿論言えるのであります。そこでこれは
総額でありますが、今度は租税の内容であります。これについてまあ直接税と間接税の比率なんかでは一応の見当
はつくのであります。そこでまあ
昭和二十七
年度は直接税は五七%、間接税はその残りで四三%、これは国税だけでありますが、直接税のほうが多いのでありますが、併しながら直接税はまあ大体金持が負担する、それから間接税は金持も貧乏人も負担して大衆課税の色彩が強いと教科書的には申しますけれ
ども、これは私が絶えずいろいろな機会に申上げておることでありますが、現在我が日本では直接税と申しましても、大衆課税の色彩が非常に強いということであります。例えばこれは推算でございますが、
昭和二十七
年度の所得税の申告納税の予想でありますが、これを見ますと、申告納税だけでありますが、申告納税だけを見ますと、納税人員合計が三百十七万人、そのうち所得三十万円、これは
基礎控除その他をやらない以前のもので、三十万円以下のものが九二%を占めております。それから申告の所得額を見ますと、合計が八千二百九十一億円のうち三十万円以下のものが七四%を占めております。それから
給与所得でありますが、これは勤労控除以前のものでありますが、それは納税人員が合計八百六十三万人のうち、三十万円以下のものが九七%、大部分がこれであります。それから
給与所得で税金のかかるものは、合計いたしますと一兆六千四百七十億円、そのうち三十万円以下のものが八八%であります。そこでまあ三十万円と申しましても、御案内の
通り昭和十年頃に比べますと、物価が約三百五十倍、日銀卸売物価指数を使いますと、三百五十倍にな
つておりますので、三十万円と申しましても、事変前の価値に直しますと僅かに八百六十円であります。ところが御案内の
通り、当時事変前におきましては、第三種所得税が千二百円が免税点であ
つたのでありまするので、現在は所得税というような典型的な直接税も事実は大衆課税にな
つておるという点を数字によ
つて証明できると思うのであります。そこで今度
政府は、直接税につきまして減税をやるごとになりました。これは私は結構な
措置だと思います。併しながら低額所得については、これ以上の減税がましいということは申すまでもないことであります。ところが減税は誰しも賛成だが、その
財源をどうするか。
財源を考えない減税論はこれは意味をなしません。それでこれにつきまして、一部の人たちは高額所得の税率が今五五%でありますが、あれをもつと
引上げようという説をなす人がございますのですが、今申しました計数でおわかりのように、高額所得の税率を
引上げましても、その部分の所得階層は、金額が少いのでありますので、殆ど代り
財源にはなりません。そうすると結局はどうすべきかというと、経費を
節約する、国家の経費、殊に消極的経費を
節約する以外に途はないのであります。併しながら今度の減税によりまして、確かに負担減になるということは事実であります。併しながら一方におきましては米価、米の値段の値上りもあり、運賃の値上りもあり、これは即ち生計費を増加せしめることになります。差引き
計算すると、一部の人の
計算では負担減少、国民負担減少ということになるのでありますが、この場合には、こういう
措置が米価や運賃以外に、ほかの物価に値上りが波及せないということが前提にな
つておるのでありますが、この前提が果して実行されるかどうかは問題があるのだと思います。それからもう
一つ、減税によ
つて一部の人は確かに負担は低くなりますけれ
ども、併し免税点以下の連中はやはり生計が苦しくなることは言うまでもないことであります。
以上申しましたことを簡単に縮めて申しますと、
昭和二十七
年度の
予算の特徴は、一口に言えば次の一点にあるのであります。それはどうかというと、消極的経費が多いということ、而もその
財源は大衆課税である。大衆課税によ
つて消極的経費を賄う、これは二十七
年度の
予算の特徴である、これは
補正予算を含めたものでありますが、特色であろうと思うのであります。二十八
年度はどうかと申しますと、今申しましたような事情で形勢は必ずしもいいほうに向うとは言えないのであります。
これを以て私の
公述を終ります。