○岩間正男君 私は
日本共産党を代表して
質問を試みるものであります。
如何なる口実を設けようが、
独禁法はすでに今日では事実上空文に等しくな
つているのであります。
政府は、これまで大会社の数々の
独禁法違反を見逃して来ただけでなく、先に通産省は操短勧告を行な
つて、
政府みずからが
独禁法違反をあえてしたのであります。今回の
独禁法改正は、これらの非合法を
合理化しようとするものにほかならないのであります。特にここ一年来公然と行われて来た数々の
独禁法違反が、労働者、農民、市民、
中小企業者など、国民の大多数にどんな影響を与えたか。
政府はよもやこれを知らないと言い逃れることはできないであろうし、又今回の
独禁法改正によ
つてこれらの事実が一層公々然と行われるであろうことを否定することはできないはずであります。
先ず最初に戸塚労働大臣に伺いたい。例を紡績の操短にと
つて見れば、昨年三月以来の操短によ
つて、約四万人の女工さんが首を切られ、働く途のない農村に帰されているのであります。併し今更村へ帰
つても食えないというので、首を切られたすぐその足でパンパンに身を落している娘さんさえ出ているのであります。これは最近各地で聞かされるところであります。一方、首切りを免れて工場に残
つた者は、二〇%、三〇%の賃下げを強いられ、第二の操短首切りでおどかされているのであります。こうした労働
条件の悪化で、再び大正、
昭和初頭のあの女工哀史が繰返されようとしているのであります。このような労働者の一方的犠牲によ
つて、綿糸は暴落から回復し、大紡績
資本の利潤は保証されたのでありますが、戸塚労働大臣はこのように労働者の生活に重大な脅威を及ぼす
独禁法の
改正になぜ賛成されたのか。又労働者のために如何なる保護
対策を有するか、伺いたいところであります。
次に、田子新農林大臣にお聞きしたいのであります。現在においても大肥料会社は、
輸出には原価を遙かに割
つた安い値段でダンピングし、その「しわ」を
国内の農民に寄せて高く売り付けるという
価格操作を行な
つているのであります。廣川前農林大臣は、先月二十五日の衆議院農林委員会におきまして、硫安協会が今回発表した建値一俵八百九十五円は、
独禁法違反の疑いもあるから、調査の上、違反の事実があれば厳重に警告すると言明しているが、新農相は、
独禁法が改悪されれば、硫安協会がたとえ高い肥料を農民に押し付けても法的には違反しないという結果が生れて来るのである。これに対し如何なる見解を有するか伺いたいと思うのであります。廣川君は
政策を離れた議場の掛引のみに没頭して今日罷免されてしま
つたのでありますが、新農林行政をあずかる田子農林大臣は、五百万農家の立場に立
つて、この
独禁法改正案に
反対し、この悪法の国会通過を阻止するために職を賭して闘う
決意があるかどうかを、この際、併せてその
所信を承わ
つておきたいと思います。
更に、
独禁法改正によ
つて直接最もひどい目に会うのは、
我が国三百二十万
企業の約九八%を占める従業員三十名以下の
中小企業家と、又その下に働くところの約千万の労働者であります。昨年春以来の紡績の操業短縮によ
つて綿糸の
価格は維持されましたが、織物
業者、機屋は、原材料の割高と
製品安の挟み打ちに会
つて、ひどい赤字操業、いわゆる自転車操業をずつと続けているのであります。
中小企業連盟の調べによりますと、一月末の大阪綿織物相場は一ヤード五十四円五十銭であるのに対し、線糸相場は五十三円九十二銭で、これに加工賃八円を加えると、織物
業者は一ヤード織ることに約七円の赤字を稼いでいるという結果になるのであります。而もペタルを踏まねば自転車は倒れる。みすみす赤字と知
つてなお操業を続けなければならない。このような血の出るようなのが自転車操業の
実態であります。それにもかかわらず、石炭の大手筋十数社が秘密
カルテルを作
つて炭価を吊上げ、この高炭価が、或いは鉄鋼に、或いは肥料に、或いはガスに、すべての加工工業に転嫁され、更に最終的には
消費者大衆に負わされ、他方では、
輸出製品の割高とな
つて輸出不振に一層拍車をかけていることは、周知の事実であります。
小笠原通産相は
提案理由の
説明で、本
改正案が
不況対策として
カルテルを許すものであるように言
つておるが、労働者には首切り、賃下げ、低賃金を、農民には高い肥料を、
中小企業には赤字を与え、倒産を引起させるのが、何の一体
不況対策であるか。而も
通産大臣が常々唱えておる
輸出振興は、これでは一体どうなるのか。あやぶまれるのであります。
国内の独占
価格を吊上げて、国外には出血
輸出を強行する結果、すでに旧
日本帝国主義時代のダンピングが
復活し、メイド・イン・ジヤパンの恐怖が再現し、これが諸
外国のごとくたる非難の的とな
つているのであります。その結果、
却つて相手国をして輸入防壁を築かしめ、
貿易不振に一層拍車をかける結果になることは、火を見るよりも明かなことであります。
小笠原通産大臣は、このような矛盾を如何にして解決するか、はつきりしたその
対策が承わりたいところであります。
又、今回の
独禁法改正による
カルテルの
結成、株式の保有、役員の兼任、合併などの
制限緩和の結果、
資本の独占と集中は一層促進されるが、
小笠原通産相は、
中小企業を見殺しにして、前任者池田君のあとを追うの愚をあえてするつもりであるかどうか。併せてその
所信を承わりたいところであります。
これに対し、全国の
中小企業家を代表する
日本中小企業団体連盟、全
日本中小企業協議会など五
団体は、戦後初めて大同団結し、昨日現に
全国大会を開いて
独禁法改正絶対
反対を決議しておりますが、
中小企業家は、昨年の
中小企業安定法の経験を通して、たとえ安定法を多少
改正したところで
中小企業の安定は絶対にあり得ないことを知り、抜本的、革命的な解決を要求しているのであります。真の
不況対策は、一方では、労働者に最低賃金を、農民に引合う農産
物価を保証し、防衛費を削減して税金を軽くし、以て
国内市場を拡大することであり、他方、中国、ソ同盟など、不景気を知らぬ国々と互恵の
貿易を再開し、アメリカの政治的
経済的支配から来る
圧迫を排して、独立
経済を打立てる以外に途はないのであります。然るに
政府は、これらの施策は全く捨てて顧みず、今回の
独禁法改正においても、
不況を一層拡げ、
日本経済を特需と兵器生産に頼るのほかに途がない袋小路に追込めようとしておるのであります。
小笠原通産相は、平和な
経済を捨てて戦争
経済に
日本を導き入れようと
努力するのであるかどうか、承わりたい。
私は更に
外務大臣に重大な問題を質したい。目下交渉が進行中の日米通商航海条約において、
政府は、アメリカ
資本が、新株の取得のみでなく、旧株の所有を要求して来ているのに応じようとして来ておると聞くが、その結果はどういうことになるか。
独禁法改正によ
つて集中される
我が国の
独占資本を、アメリカの大
資本は少数会社の株式所有によ
つて自由自在に支配する途を開くものにほかならないのであります。口に占領制度の
是正を唱えながら、
政府はここでも
却つて、アメリカの
日本支配、占領制度の強化に協力の手を差伸べ、売国吉田
内閣の正体を余すところなく暴露しておるのであります。これに対する
岡崎外務大臣の
答弁を伺いたいのであります。
以上各大臣に対してそれぞれ質したのでありますが、最後に吉田総理に質したいのであります。本
改正法案は、アメリカ占領
経済の下に生じた諸矛盾に対し何ら抜本的打開の途を講ずることなく、世界的
不況の影響を
国民大衆に転嫁し、その結果、アメリカ帝国主義に対する従属をますます深め、その鉄鎖の下に戦争協力
経済に追込めるものであり、本
改正法案こそは、これらの挺子として、今幾
我が国の産業
経済を大きく支配するものであると断じなければならないのであります。これは又、今問題とな
つておりますところのスト規制法、義務教育職員法、警察法などと共に、現下の国際
情勢の中で、アメリカの巻き返し戦術、その巻き返し戦術の
政策を受入れる、それに即応する態勢を打開する、そのための
経済的な
一つの下準備であると、こう断ぜざるを得ないのでありますが、これに対する吉田総理の見解をはつきり伺いたいと思うのであります。
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕