○吉川末次郎君 私は
社会党第二控室を代表いたしまして、警察法案に対する若干の
質問を
政府に試みたいと思うのでありまするが、先ず第一に吉田内閣
総理大臣に
お尋ねいたしたいと思うのであります。
吉田総理大臣は、先にその施政
方針演説におきまして、現行警察法の改正を約束され、今その法案の御提出を見たのでありますが、この法案を見まして先ず第一に私
たちに痛感させられますことは、それが余りにも多く戦前の警察制度への復帰であるということでございます。
政府及び
総理は、或いは旧弊の復活は戒めるとか、或いは民主警察の美点はこれを保持しつつとか、頻りに言
つておいでになるのでありまするが、私の見るところ、これは単なる口先ばかりのお体裁をお作りにな
つているのでありまして、その実際は極めて露骨な旧警察制度への復元にほかならないことをば感じさせられるのであります。即ち、例えて申しますれば、今回のこの法案に盛られておりまする言葉の中で、警察庁長官という言葉をば昔の内務
大臣に、次長とありまするのをば警保局長に、道府県警察長とありまするのは道府県の警察部長に読み替えるといたしましよう。そのことだけをいたしましても、完全にそのまま、内務
大臣を頂点といたしまして
全国に一糸乱れざるところの統制の網を張りめぐらしておりました
戦争前の旧
日本の警察制度の復活であるということは、極めて明かであるかと思うのであります。(「その
通りだ」と呼ぶ者あり)この旧制度につきまして、
曾つてマッカーサー元帥は言
つておるのであります。「一般大衆の統制外に立つ行政長官を長とする、高度に中央集権化された
警察官僚制を設置し、これを維持することは、
日本の封建的過去においてそうであつたごとく、近代全体主義的独裁制の顕著な特徴である。」又「戦前十ヶ年間における
日本軍閥の最も強大なる武器は、中央
政府が
都道府県庁をも含めて行使した思想警察及び憲兵隊に対する絶対的な権力であつた。」併し「民主的
社会において公安の維持を司る警察力というものは、究極において、上から課せられた人民に対する抑圧的統制をも
つてしてはその最大限の力を発揮し得るものでなく、却
つて、人民の公僕として、また人民に直接
責任を負うという関係において始めて無限の力を得る」ものであると、殆んど完膚なきまでに痛烈にマツカーサー元帥は旧
日本の警察制度をば批判し、その短所、欠陥を余すところなく指摘しているのであります。あえて、何も、マッカーサー元帥の言うところであるからと言
つて、これに盲従する必要はありませんが、この
日本の旧警察制度に対する元帥の批判というものは、誠に正鵠を得ているというこの一事だけにつきましては、私はマッカーサー元帥の言を尊重したいと
考えているものであります。そのように、旧
日本の警察制度というものは、いわば札付きの悪制度であると
考えているのでありまするが、これを今、
政府は、今日に
至つて復活しようという意図において行われている。そこで私は吉田内閣
総理大臣にお伺いいたしたいのでありまするが、あなたの
信頼せられておつたところの、このマツカーサー元帥の
日本の警察制度に対する批判について、吉田内閣
総理大臣はどのようにお
考えにな
つているか。又その指摘せられたところの古き
日本の警察制度の欠陥というものは、この法案の中に再び繰返されているとお
考えにならないかどうかということに対する御
答弁を先ず承わりたいのであります。
〔
議長退席、副
議長着席〕
第二に、吉田内閣
総理大臣に更にお伺いいたしたいことは、この我々の前に提出されたる改正法案におきまして、現行警察法の前文というものが削除廃棄されておるということであります。前文は、言うまでもなく、それが付されておりまするところの
法律の全体的の精神をば現わしたものであると思うのでありまするが、なぜ、あの前文を廃棄し、又ここに新らしく法案を出されるならば、それに代るところの前文を付さなかつたのであるか。そこで私は
吉田総理にお伺いいたしたいことは、このように現行警察法の前文を全く排除せられたということは、その前文にこのようなことが書かれておる。それは皆様御
承知のことであると思いまするが、即ち「
国民のために人間の自由の理想を保障する
日本国憲法の精神に従い、又、
地方自治の真義を推進する観点から、国会は、秩序を維持し、法令の執行を強化し、個人と
社会の
責任の自覚を通じて人間の尊厳を最高度に確保し、個人の権利と自由を保護するために、
国民に属する民主的権威の組織を確立する目的を以て、ここにこの警察法を制定する。」現行警察法の
日本憲法と結び付いたところの民主的な精神というものが、ここに遺憾なく私は短かい文章の中に現わされておると思うのであります。このようなこの前文を、この改正案において全く廃棄せられたのは、この前文の意味をば否認せられたものと解釈してよいかどうか。或いは又この前文のどこの点がこれを削除せなければならないほど悪い所があるという
見解においで行われたのであるかどうかという、この前文廃棄の理由を、吉田内閣
総理大臣から、私は
お答えが願いたいと思うのであります。次に、私は、今申上げた
質問の内容と関連いたしまして、主務
大臣でありまする犬養法務
大臣に御
質問いたしたいと思うのでありまするが、犬養さんの言葉といたしまして本年二月十四日の読売新聞の記事の中に引用されておるところによりまするというと、犬養さんの言といたしまして、「この改正で、戦後築かれた英米法の
考え方が再びドイツ法の能率本位に帰ろうとしている」と言
つておられるのであります。(「官僚国家だよ」と呼ぶ者あり)とかく、敗戦後のいろいろなこの民主的な改革をば、保守主義者は、これは行過ぎである、これを是正するのであるというような言葉を吐くのでありまするが、それらの人は、私の見るところでは、新らしい憲法の精神を理解するところの能力がない。そうして過去の憲法、明治憲法、それは我々は
法律学生の時代において不磨の大典であると、極めて有難い御宣託を付して教えられたのでありまするけれども、その実、それは滅び去つたところのドイツ連邦国の主盟国であるプロイセン王国の憲法を伊藤公が教えられて、これを翻訳して、いわゆる
日本帝国憲法といたしたに過ぎないものであるということは、
日本の
法律学生はこれは多く教えられないのでありまするけれども、
世界列国の憲法学者や政治学者が、つとに熟知いたしておることであります。(「いつも同じことだ、少し変つたことを言いなさい」と呼ぶ者あり)そこで、私は犬養さんに
お尋ねいたしたいのでありまするが、英米風の警察制度をば、やめて、ドイツ法のこの能率本位の警察制度をこの法案によ
つて打ち立てると言うておられるのでありまするが、実際におけるところの新憲法以前の
日本の
法律制度その他一切の文物というものは、明治憲法と結び付いたところの
考え方によ
つて、すべて亡国プロイセンをば模範として作られて来たものであるのであります。その犬養さんの言われるところのドイツ風の警察制度というのは、いつの時代のドイツを指して犬養さんは言
つておいでになるか。第一次
欧州大戦前のカイゼル・ウイルヘルム二世時代のドイツ警察を指していらつしやるのか。或いはそれよりも古く、伊藤公や山県公がドイツに留学いたしました時代の十九世紀のドイツを指していらつしやつたか。或いは第一次
欧州大戦によ
つて国破れたるところのこのワイマール憲法下のドイツの警察制度を指していらつしやるのか。或いは又、フアシスト、ヒットラー治下のナチスの警察制度を指していらつしやるのか。ただ漫然と、ドイツと
日本人が言
つておりまするときには、その
考え方において、その制度文物において、多くは明治憲法と結び付いたところの、普仏
戦争に勝ち、普墺
戦争に勝
つて、勢力隆々として、而もその背後においては、資本主義の発達において列国よりも遅れて、極めて多くの封建的な性質を遺存いたしておりましたところのあの古きドイツ、第一次
欧州大戦前のドイツに七十年の間、明治憲法と結び付いて、
日本人は何事もドイツに学べと教えられて来たところの仕きたり的な観念から、その亡国ドイツ、軍国主義ドイツの制度文物一切のものを頭の中にしみ込まされて、これが何か固有の
日本的なものであるかのような錯覚に陥
つている人が極めて多く、特に自由党を
中心とするような保守派や封建主義者に極めて多いということを我々は知らなければならんのであります。(
拍手)いつの時代を指されるのであるか、いつのドイツの警察制度を指されるのであるか、
お答えを願いたい。そこで、若し犬養さんが、今日のドイツ、東ドイツと西ドイツに分れておりまするが、東ドイツはこれは別といたしまして西ドイツの警察制度というものをば若し指していらつしやるならば、私は指していらつしやらない、そういうことをお知りにならないと思うのでありまするが、(笑声)国会の立法考査局の専門員でありまする土屋正三君という、
日本の警察行政についてのこれは一流の専門家であります、この人が、最近の「警察研究」というところの専門の雑誌に四回に亘
つて連載いたしておりまするところの「西独の警察」というところの論文紹介を見ますると、今日の第二次
欧州大戦後の西ドイツの警察制度というものは、犬養さんの言うところの、英米風の、自由主義的な、
民主主義的な、自治体警察を
中心といたしました現行
日本の警察制度と殆んど同じところの警察制度が行われておるのであります。(「一遍読んで来い」と呼ぶ者あり)これをどう犬養さんはお
考えにな
つておるのかどうか。この土屋君の、
日本一流の警察行政の専門家の西独の警察についての紹介をまだお読みにならないならば、御一読願いたい。私はそれを申上げておきたい。御
答弁を願いたいと思うのであります。
又これはむしろデテールの問題に亘るのでありまするが、主務
大臣でありまするから
お尋ねしたいと思いますが、この法案の中に皇宮警察のことを
規定いたしておられます。もとより皇宮警察云々ということの極めて簡単なる文句は現行警察制度の中にあるのでありまするが、いろいろと具体的なその内容について新らしいことが今度の
法律案の中に
規定されておるのであります。皇宮護衛官、或いはそれがための
学校であるというような、いろいろの詳細なる皇宮警察に対するところの
規定が新たにここに加えられておるのでありまするが、特にこのような
規定を設けるところの必要がどこから来るのであるかということについて一つ主務
大臣から御
答弁を願いたいと思うのであります。
もう一つ主務
大臣に
お尋ねいたしたいことは、本法案の第一条には、前に申しましたように、申訳的に「民主的理念を基調とする」というようなことが書いてありまするが、第二十二条の法案の条文を見ますると、警察庁長官の権限が公正に行使されているかどうかを監視して、長官に対して必要と認める勧告助言を行うというものとして、国家公安委員に代る国家公安監理会というものが設けられることにな
つておりますることは、先ほどの犬養法相の提案理由説明の中にもあつたところであります。ところが、この法案の第二十八条を見ますると、この国家公安
委員会に代る公安監理会の実際上の事務を行いまするもの、いわば事務局であります、そのものは、警察庁長官官房においてこれを行うということにな
つておるのであります。従
つて、この公安監理会の事務局員というものは、警察庁長官であるところの
国務大臣と併せて、この条文に現われていまするように、監視的な役割をしなければならないところの国家公安監理会との二つに、一つの機関、一つの人間が両属いたすことになるのであります。このようにいたしまして、どうして国家公安監理会の
独立的な監視的な
立場を保持することができるでありましようか。そこに、
政府が今度の警察制度の改正は決して非民主的なものではないということを言
つておることが、全く私が申しまするように、その事実において副わない口先ばかりのものであるということが、完全に露呈されておると思うのでありまするが、これについての御
答弁を得たいと思うのであります。
なお主務
大臣に
お尋ねいたしておきたいことは、これは先ほど申しましたように、事実上、現行法の廃棄であります。その初まりの所に、これは「全部を改正する。」ということが書いてありまするが、全部を改正するものでありまするならば、その例は
日本の憲法等にも見られまするが、ああした改正の仕方というものは、私はむしろ立法形式としては変則なものであると思うのであります。このように、全然違つた新らしいところの警察法をここに提案されたのでありまするから、それならば、ただ新警察法案というものは、こういうものであるということを、だんだんと書き流して来まして、初まりにこの法案にありまするように「全部を改正する。」というようなことを言わないで、
最後の所に持
つて行
つて「現行警察法はこれを廃棄する。」というような形に表白をおしになることが、立法形式上、私はいいのじやないかと思うのでありますが、これは大したことではないかも知れませんけれども、そこに私は又
政府のごまかし的な心理があると思いまするので、御
答弁を願いたいと思うのであります。
犬養さんに対する
質問は
委員会で更にいろいろ申上げる機会があると思いますので、自治庁長官である本多さんに今度はお伺いをいたしたいと思うのであります。時間が余りありませんから、ちよつと個条書き的に簡単に申上げてみたいと思うのでありますが、この重大なるところの警察制度の改革をするに当りまして、現在、
地方行政制度の全般的な再検討をするために、
地方制度調査会というものが
法律に基いて設置されて、今日も首相官邸においてその
会議が行われておるのであります。丁度今の時間でありまするから、私も委員の一人として行かなければならんのでありまするが、この演壇に立
つておりまするために行くことができませんが、
日本の
地方行政制度全般の再検討をするということのために、各方面の権威者を集めて折角作り上げておるこの
地方制度調査会というものに、この重大なる
地方行政制度の一環であるところの警察法の改正というものをば、なぜその
会議の議にお付しにならないのか。その議に付して、その議決を経た後において、若し警察法の改正案を国会にお出しになるならば、然る後においてこれを行われるということが常識的でなければならんと思うのでありまするが、なぜそんなに急いで、なぜその折角の
地方制度調査会を無視して急速この杜撰なるところの反動的な警察法の改正案を
政府が出されたのであるか。その理由を本多自治庁長官から私は承わりたいと思うのであります。(「
総理に聞け」と呼ぶ者あり)
第二は、本法案の第五十一条を見まするというと、大都市、それは人口七十万以上の大都市、即ち五大都市を指していると思うのでありますが、その五大都市においての警察行政を主管いたしまするところの警視以上の高級の
警察官、これを国家公務員といたしまして、国費支弁によ
つてこれを補い、これを配置するということが
規定されているのであります。私は
日本の市政の歴史の上におきまして、府県におきましては、知事或いは部長その他の上級の府県の役人というものが官吏であつた時代もありまするけれども、市役所の市政に従事いたしまするところの公務員が、吏員が、国によ
つて支弁されるところの官吏であつた例を不幸にして私は知らないのであります。本多長官は久しく東京市
会議員をせられ、東京府
会議員をせられて、東京の市政にも参加せられたのでありますが、こういうような前例をここに新らしく作るということは、都市の持
つているところの自治権を明らかに侵害するものであると私は
考えますが、それに対する御
所見を承わりたいと思うのであります。
又その次に、同条には、五大都市をば実質上一つの県とみなすというところの法文が入
つておりますが、これは官治的な特別市制をこれらの五大都市に行わんとせられるところの前提と世間には解釈されているのでありますが、果してその
通りであるかどうかということについての御
答弁が願いたいのであります。以上のことにつきまして、本多さんの御
答弁が得たいと思うのであります。
最後に、木村保安庁長官に
お尋ねいたしておきたいと思うのでありますが、本警察法案は、犬養さんの提案理由説明によりますというと、我が国治安情勢がこれを提出せしめたところの一つの動機であるように御説明があつたのであります。現下
日本の治安維持というものが、現行警察法を以てしては不十分であるというところの、この御提案の理由と解釈いたすのでありまするが、それに関連いたしまして、私は、木村さんが御指導にな
つているところの保安隊、警備隊、それは何のためにあるものであるかということを、私はこの議場において木村さんから明かにして頂きたいと思うのであります。保安隊は
戦争をするためにある軍隊なのか、或いは現在の警察力を以てしては保つことのできないところの
国内治安保持の、いわゆる先の名でありまする警察予備隊的なもの、ナシヨナル・ポリス・リザーブと言われておつたところの、その警察の補充的な予備力としてあるのか、軍隊として或いは置かれているのかということに対する明白なる御
答弁が、これに関達して私はここで得たいと思うのであります。軍隊でなく、保安隊が
戦争をするものでなくして警察予備隊的なものであるといたしましたならば、自治体行政の権力的な中枢力でありまする、即ち警察力の民主的な行政管理と運営とが自治体居住民によ
つて行われるということの方向に居住民を育成して行くということが、
日本の
民主主義の発展のために基本的に必要なことでありまするが、ただその初期の時代において、今日頻りに自治体警察に対して与えられているところの不当なるところの非難である、それが完全になお十分に行われておらんといたしましたならば、その行われていないというところの説を暫らく肯定する
立場をとりまするならば、そういう遺憾な点があつたならば、よろしくその欠陥を補充するために、私はこの予備隊というものを
考えられなければならん。そうした不十分な、警察民主化の不徹底な、遺憾な点があるならば、これを本当に居住民それ自身によ
つて民主的に警察を運営することの方向にリードするということこそが、真に
民主主義的な見地に立てるところの現下
日本の政治家の職責でなければならんと思うが、かかる以上申したことに対しまして、警察力の補充として保安隊が
考えられなければならんということと関連いたしまして、この警察法改正に対する木村保安庁長官の御
答弁を得たいと思うのであります。
詳しいことは時間がありましたならば再
質問するかも知れませんが、更に詳しくいろいろな詳細な点につきましては、これを付議されるところの
地方行政
委員会において更に御
質問する機会があるだろうと思いますので、私の
質問は一応これで打切ることといたしたいと思います。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕