○小泉秀吉君 私は去る十二月十九日の本会議におきまして、
総理大臣並びに運輸、通産両大臣に対し、航空政策に関して緊急
質問をいたし、それぞれ一応の御答弁を得たのでありまするが、その後、情勢の推移に鑑みまして、ここに再びこの問題について
質問をいたす次第であります。
私は前回
質問のうちにおきまして、
日本と外国との合弁会社を作る場合に、航空法の定めるところによ
つて資本の三分の一以内の外国資本を入れ、形式的には適法の形をと
つていても、その会社の使用する飛行機はことごとく外国のものをチャーターしたり、又外国人の飛行士のみを使
つたり、その他経営の実権は事実上外国の支配下に置かれ、
日本側の自主性を失う虞れのあるような新規の会社の出願がある場合には如何なる措置をとるのか。又このような会社が出現すれば、我が国の将来に対し重要なる使命を有する航空機工業の育成発達は期しがたいと思うが、これに対する所見を質したのでありましたが、これに対しまして、
総理大臣に代
つて緒方
国務大臣、又石井運輸大臣、小笠原通産大臣から、それぞれ私の
質問の
趣旨は尤もであり、今後の航空会社の免許に際しては、実質的に、我が国の自主性を守り得るよう処置いたしたいし、又航空工業の育成についても自主性を確立して、使用機の国産化に努力したい旨の御答弁がありましたので、私は一応これに満足してお
つたのであります。
然るにその後諸般の情報を総合いたしますると、必ずしも安心を許さざるものがあり、我が国航空事業の将来に対し、好ましからぬ暗影を投ずることになるのではないかを憂うるものであります。即ち、目下運輸省に対して国内定期航空事業の免許を申請中のものは六、七社に及び、その事業を許すべきか否かの断を下す時期もすでに切迫しているようでありますが、その中に日米航空株式会社というのがあります。この会社は日米合弁の会社で、
日本側としては、一流実業家が表面に立ち、二、三有力な事業家がこれに協力され、アメリカ側はパン・アメリカン航空会社のダラス・B・シヤーマン氏が免許申請者にな
つておるであります。その事業計画は、札幌、
東京、名古屋、大阪、福岡というようないわゆる幹線航空路と、金沢、新潟、高松、大分、鹿児島というようなローカル線と、殆んど
日本の全土に亘
つておりまして資本金は御多分に漏れず三分の一だけがアメリカ側にな
つており、形式上は一応適法のもののごとくに組立てられておりますが、設立関係者間の内部の事情は、この会社の使用する飛行機はことごとくパン・アメリカンの関係あるアメリカ飛行機を使用するため、この資産の総比率は実に九対一となり、あまつさえその経営については、主としてアメリカ側がその衝に当り、
日本側はただ単に資本金を三分の二
負担しておるに過ぎないものらしいとさえ噂されておるのであります。若しこれが事実といたしますれば、運輸大臣の先般の御答弁にいわゆる形式だけは整
つているが、実質は全く自主的性格の失われた会社というのに該当するように思われるのであります。
更に私の申上げたいのは、パン・アメリカン航空会社の性格であり、その歴史であります。私の知る限りにおきましては、パン・アメリカン航空会社は、御
承知のごとく一九二七年ジュリアン・テリー・トリツプという人によ
つて創立されて以来、第二次大戦の直前まで米国の国際航空の事実上独占会社として南米、太平洋、大西洋の航空路を開拓し、今日の国際航空における世界の王座を占める基礎を築いたのでありますが、この間、アメリカ
政府の絶大なる支持と援助のもとに競争者を斥け、その前進を阻む者は巨大なる資本の力と
政治力を含む権謀とを以てこれを屈服し、あたかも燎原の火のごとく世界航空網の支配力を拡大したのであります。特に後進国の航空事業を支配して、その自主性ある発展を阻んで来たのであります。例えば中南米においては、コロンビア航空会社を初めとしてブラジル、ドミニカ、ホンジニラス、メキシコ、コスタリカ、ヴエネズエラ、パナマ等、各国の航空会社は、その資本構成は形式上ことごとく二分の一以下の株式をパン・アメリカンが所有しておるに過ぎないのに、実質的には全くパン・アメリカンの支配下にあり、
かくして中南米諸国の航空は大部分がパンの支配下に隷属して、その自主性を失
つている現状と存じます。
第二次大戦中及び終戦後には、更にその歩武を進めまして、今やその航空路線は、北はアラスカ、東は欧州並びに中東に延び、西は南太平洋よりフイリピン、インド、パキスタンに進み、更に中国航空公司を支配して、シビル・エア・トランスポート会社を創設して極東地区に活躍中であり、次に狙われているのが即ち我が
日本であります。尤もパン・アメリカンの世界航空の支配力は、その極限に近ずきつつあるもののごとく、アメリカ
政府も、パン・アメリカン独占的横暴を許さざる情勢になりつつあると承わ
つております。アメリカ
政府がこうした態度をとるに至
つた理由としては、第一に、パン・アメリカンがしばしば競争者を欺瞞したため、相手方の反感を買
つたこと、第二に、権利獲得のために
政治的策謀が目に余るものがあり、アメリカの民間航空局が憤激するに至
つたこと、第三に、航空機のメーカーがパンのために巧みに操縦されて苦汁を嘗めさせられたこと、第四に、諸外国の航空会社はパンを国際航空運賃の撹乱者とみなして排斥していることなどによると言われております。それにもかかわらず、今やパンは
日本に対して頻りに食指を動かしているというのが現在の段階であると申されております。仄聞するところによりますれば、この日米航空会社においては
日本全土に航空網をめぐらして、その巨大なる資本力をバツクにして、極めて低廉なる料金を以てサービスをする計画であるとか聞いておりまするが、低廉なる料金と行き届いたサービスとは誰しも望むところであり、今後飛行機を利用する国民はさだめし喜ぶことでありましよう。併し、たとえ目先は喜ぶといたしましても、この目前の利益のために我が国の航空事業が半永久的にパンのために支配せられ、自主性ある我が国航空事業が遂に芽を出すことも成長することもできず、又我が国の産業上極めて重要なる航空工業も発育することができないということになりますれば、由々しいことであります。目前の小利と
国家百年の大計と、事の軽重先後を勘案して、高邁なる識見を以て断を下すことこそ、
政治家のまさになさねばならぬ責務の
一つであると存ずるのであります。
尤も現在の
日本の国内定期航空はおおむね
日本航空会社一社で只今や
つておりまするが、これに対し多くの非難があるではないか、それだから有力なる競争会社を作ることは望ましいことであるという説も出て参ります。この説は一応尤もであり、又
日本航空に対するいろいろの非難があることは事実であります。果して然らば、監督官庁としての運輸大臣は、これが刷新改善のために断々乎として有効適切なる手を打つべきではないでしようか。又競争会社を作らせることも結構ではあるが、それも相手によりけりであります。先ほど申述べたような、いわば狼のような相手を、発達幼稚な段階にある我が国の航空界におびき入れる必要はなかろうと思うのであります。
日本の航空界は微力である、だから外国の有力会社に見ず転でおんぶするのだというイージーゴーイングな
考え方をとる前に、自力を以て起ち上る工夫をとるべきであると信ずるのであります。
最近新聞紙の報ずるところによりますると、日米航空会社の発起人の一人である某氏は、インドに呼びかけて日印合弁の製鉄会社の計画を進めて来られたらしいが、その計画は、丁度この日米航空とは逆に、
日本側が事業経営の実権を握るものであ
つたために、インドの民族感情の反撃に会
つてその計画は挫折しかか
つているとのことであります。これは、いやしくもインド民族にして、渇すれ
ども盗泉の水を飲まざるていの自主独立の志ある限り当然のことでありまして、私は心ひそかにインドの国民に対し敬意を表しているのであります。然るに、日米航空の
日本側の発起人は、
かくのごとく我が
日本民族の感情を理解せざると同様、他国の民族感情に対しても無感覚であり、ひとえに損得収支の商業主義によ
つて行動しているもののごとくに見受けられるのであります。私は、日露戦争直後にアメリカの鉄道王ハリマン氏が南満株道の買収を計画したときに、時の外務大臣小村寿太郎氏が決然起
つてこの計画を破棄せしめた歴史を今想い起すのであります。小村氏の功罪を今ここで論じようとは思いませんが、彼の憂国の至情と耿々たる一片の志とは、今日の
日本人に対し深い反省と又示唆とを与えるものと信ずるのであります。この
意味におきまして、
日本民族将来の運命に対し何らの愛情も持たないように見ゆる日米航空会社の発起人は、アメリカ側の会社も
日本側の人
たちも遺憾ながら適当なものではないと断ぜざるを得ないのであります。
私は前回の
質問に対する三大臣の御答弁から見まして、よもや、かような会社に免許を与えることはあるまいとは存じまするが、その後の情勢の推移に鑑みまして、国の将来を憂うるの余り、あえて再びこの問題について関係大臣の御所見を質したいのであります。即ち、
総理大臣並びに運輸大臣から、左の二点について明確なる御所見をお伺いいたしたのいであります。
第一は、目下国内定期航空免許の申請を出している日米航空会社の事業経営計画並びにその資産比率等の内容は、おおむね私が述べたところに間違いないと思うが、若し著しい相違があるとすればどうい点が
違つているのか。第二は、日米航空会社の申請に対して免許を与えるつもりかどうか。以上二点であります。
而して若しパン・アメリカンの性格なり歴史なりが、おおむね私の述べたようなものであり、且つ日米航空会社の事業経営内容も又私が述べたところにおおむね間違いないにもかかわらず、これに免許を与える御方針であるとすれば、前回の私の
質問に対する御答弁とは明白に相違するものと信じまするので、前言を覆してまでその認可をしなければならない
理由はどこにあるのか。はつきりと御
説明願いたいのであります。又、若し私が今日申述べたようなことを知らなか
つたために、又はそこまで深く
考えずに免許しようと思
つておられたものならば、願わくは翻然と且つ淡々と過ちを改められんことを切望してやみません。
以上で私の
質問は終りますが、私の
質問は国の将来を憂うる以外に何ら他意はありませんので、私の心配が単なる相愛であることを信じたいのでありますから、何とぞ虚心坦懐に御答弁を願いたいのであります。以上。(
拍手)
〔
国務大臣緒方竹虎君
登壇、
拍手〕