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参考人(
高良とみ君) 御報告申上げます。遅くなりまして失礼いたしました。
今回の
日本人在留邦人の
帰国を
援助するという
中国の
政府の
発表が新華社
発表で十二月一日にあ
つたわけで、それを聞いたのは、それを実際にやるのは紅十字社である、即ち
日本から来る民間
団体の人は紅十字社に来れば
配船その他のことについて相談するということであ
つたので、あれによ
つて国家責任を民間三
団体に委託したという形を
発表したのだと思うのであります。併しこちらの受けますほうは、適当なる国家
機関というのは、議会も
人民の最良の
代表ではないか、或いは適当な
機関というのはどういうものを指すのかというような疑問が大分あ
つたと思うのですが、あちらに
行つてみまして、やはりこれはもうすでによほど前から準備された方針であ
つて、国家と国家の間は戦争終結が行われていないで、いわば戦争継続の状態にある。その間においても人道的な
立場に立
つた居留民の
帰国ということは勿論自由だけれ
ども、船の下足のためにできないから、紅十字会をしてその援護の仕事をせしめるというのが
向うの国内の決定のようでありました。これを受けて立つものといたしましては、
日本の
赤十字社がこれに対抗するものだということは次第に明らかにな
つたのであります。聞くところによりますると、これはモナコの国際
赤十字社会議において、そこで
日本側からの要請があり、それを
向うも持帰
つて国内問題として一年余り研究したものらしいのです。その頃から
日本人の調査が進められまして、夏頃私が内務省に要求しましたときは、早速お答えすべきだけれ
ども、全土広くて公安局を通して
日本人がどのくらいか
はつきりお答えできないが、いずれ調査したい、お知らせしたいという返事であ
つたのでございます。それが三万人前後という回答が出ましたのが私十月頃と聞いております。それからああいう国内の決定で
赤十字社がこれをやるということにな
つて、
向うにおりまする
日本人に対しましては、その後再登録の要請があり、写真を付けて出し、それから又改めて
帰国申請書というものを出したようです。それを大体年内に片付けたようです。大体方針が立
つておりますところへこちらから
行つた。その結果、
船舶問題が主であ
つて、その次は国籍法によ
つて調整する領事
関係がありませんから、これは
向うの公安局がとる態度としては、御承知の
通りな国籍法によらない人道的な常識的な
立場ということになり、こちらの
日本側の様子は、殆んど新聞とラジオを通して
向うの
政府も聞いておるし、在留
同胞もみんな聞いておるわけです。これが又公安局などの人にもかなり伝わ
つておるようであります。そこでみんなから御
説明にな
つたような、三回の
予備会談と、四回の
正式会談に入ります前に、
日本側の主張する点は皆資料として
向うに提出してありましたから了解済みのことで、その上に
向うはどういうふうに
赤十字社、紅十字会としての仕事をするかということを考慮して答えを持
つて来たわけであります。その結果、
コミユニケにな
つたわけでありますが、きつと
日本におきましても、だんだんに御認識があると思いますが、重要な点は、民間
団体同志でやる。その裏には
向うに
中国国家がありまして、それは紅十字会を通し、公安局を通して、その横の連絡をとらせると共に、
居留民を帰すために、費用その他も随分親切に見ておることは誰でも知
つておるのであります。こちらも厚生省、或いは
外務省その他を通して、国の責任において援護しつつやるということも了承の上です。今回行きました者の公用旅券もちやんと見ておりますし、どういう
経過で、どういう人が来たということは、
向うも万々承知の上でありまして、いわば了解の下における民間
団体同志の接触ということなんです。併しいよいよ、その懇談しておられます領海内に入
つて来るということになりますると、
日本の領空内に入
つて来る飛行機が問題であると同じく、やはりそれは国交回復せざる場合においては、想像もできないことだと
向うが答えて来たのも尤もなことであ
つて、その点
日本側としては少しく甘く見過ぎておると私
どもは
思つたのであります。即ち
向うは戦時体制である。そうして
日本とは法律上の戦時状態であるのでしようが、
日本側は自分のほうで現に戦争しておりませんから感じませんけれ
ども、
向うとしてはその危険及び最近の漁船問題等における
両方の沿岸の距離の違いをちやんと了承しておりますし、そこに
日本の
政府の役人が入るということは、どういう名目の下にあ
つても、これは沿海の領海の安全及び秘密の保持ができないと思
つたことはわか
つておる。そんな
関係から
向うでも困
つた結果、ああいう決定になり、三
団体が上陸するのは、三
団体と了承して
向うが
名簿を受取
つて、そうして船長に渡す。上陸できない船長に渡す、その仕事をしてもらいたいということを主張したのでありまして、
経過については只今屡々御
説明があり、又御
質問にあ
つた通りであります。大体船内における世話ということは、初めは強調されていたようでありますが、要はその法的な上陸できない船長、船員、これは初めは
中国側で、申請したならば適当に上陸せしめるかも知れないと言
つておりましたのに、今度はそれができないという答えが来たのは、これは
政府の
意向かと思います。公安局或いは
中国の政治局
方面の答えだと思います。船長が上陸できないということになると、誰が
名簿を取りに行くか。みんな乗
つて来る人が自由に船員として取りに行くわけにはいかない。窮余の策としてとるならば、三
団体の人が上陸して来て船長に渡すという役目を依頼的にや
つて来たと私は
考えたのであります。勿論私
ども代表団の中にもいろいろな
意見がありましたし、その責任の限度、又
代表する
機関の限度があ
つたと思いますが、それは端的に申しますならば、
中国の紅十字会側の人が、実は船長も上陸できると思
つた、お前のほうにはそういう印象を与えたかも知れませんが、正式には言わなくとも、これはできないことにな
つたから、これはこれから相談して、三
団体が来てここを手伝
つてもら
つて、
協定するばかりでなく、遂行までなし遂げようじやありませんかと相談して来るならば、こちらも内地との連絡のしようがあ
つたと思うのですが、それを呑み込んで時間の急迫などによ
つて、
向うがすべからくかくすることにお互いしようということで、署名して参
つた、その間内地における
政府当局と、又連絡事務所との
意向も多少それに食い違いがあ
つたことを認めますが、これは平たく
考えてみれば、やはり大したことではないのであ
つて、善意に解し信頼を持
つて見まするならば、
向うもそこのところが
ちよつと不便だからこうしようじやないかと言
つて来たのに対して、こちらも私心なく、我々三
団体がこれをなし遂げるのだというような自己意識なく、帰
つて来る人に仕えるという意味で、その繋ぎをやることはよかろうと思いまして私も賛成したわけであります。勿論
政府関係から
行つた人の中には非常に困るという
立場の人もありました。が、この点で、内地が余りにそのことに対して固執されることは、やはり将来の
日中関係を阻害することになるのじやないか。即ち余りに国家権力に、そうしてその法令、指令、請訓というようなものを、今までのような外交の行き方でお
考えになると、こういう特例であり、今まで世界の外交史においても余り例のない民間
団体同志が人道的にやろうということに対して支障を来たすのではないかと心配いたすのであります。この点は
向う側も、これは特殊な例であ
つて、我々はできるだけの
範囲をやるので、そうして民間
団体同志でやるのだから協力してやろうと言
つて、特例である、歴史上からい
つても特例ということでありましよう。その点は新らしい事例ということを認めて、
国会がこれを御支持頂くならば非常に明るくなると思うのであります。