○
参考人(
原田東岷君) はあ、じや
ちよつとこれを……そうしてこういうふうな厖大な
資料にでき上りまして、そうしてこれは先ず
厚生省に持参されまして、
厚生省の
意見によ
つて大体の
求刑というものが……
求刑と言いますか、
要求取消とか
戒告とか、そういうふうな
求刑の
意見を
保険課長が聞いて
帰つて、それを
医療協議会に提出されたのであります。
ちよつと前後いたしましたが、
監査の当日の模様を申上げたいと思います。
監査官の
高塚技官は前日に到着されて、翌日の九時から
監査を始めるということになりまして、直ちにその日に各
保険医に
通知が送られたのでありますが、その後に至りまして
予定が変りまして、午後からやろうということにな
つたのでありますが、この
予定の
変更の
通知は
保険医には
通知されなか
つた。多くの
保険医は朝九時に参りまして午後の二時三時まで待たされておるのであります。それに対して
医師会の
代表といたしまして、私は
医師は
患者を持
つておるのであるからこういうふうな時間の
変更のあ
つた場合には直ちに
通知をされるべきではないかということを抗議したのでありますが、そんなはずはありませんということで
一言の下に黙殺されたのであります。先ず第一の
保険医が呼び出されまして、石井という若い
保険医でありましたが、
高塚技官はその人の
カルテと
請求書とを
暫らく見ておりまして、又
保険医の顔を睨みつけて
暫らく、五分間くらいお
つたのでありますが、いきなり、何でこんな悪いことをするのだ、ここへ嘘を書いて
あるじやないか、こういうふうにきめつけたのであります。
従つて保険医は何のことを言われたのかわからないで、目をぱちくりしてお
つたのであります。そうすると続けて、この
患者は片側しか気胸をしていないのになぜ両側や
つたように嘘を書いたのだ、こういうことを言われた。
保険医は急を衝かれたので初めは何のことかわからなか
つたのでありますが、そういうはずはないということを抗弁いたしました。併しながら
矢継早に非常に憎悪に満ちた面持ちで叱りつけられた、こういう
実情でございます。従いまして
保険医は何を
言つているかわからない、真青な顔にな
つてぶるぶる震えてお
つたのでありますが、
余りのことに私も非常に憤慨いたしましてその
監査の休憩を求めまして、
保険課長に今までこういう非
常識な
監査を受けたことがない、事実がこうではありませんか、ということを
一言も質さずに、なぜこんな悪いことをしたか、こういう非民主的な
監査はないと思う、こういう屈辱を受ける理由はないから即刻
監査をやめて頂きたい、私の
責任においてほかの
保険医は本日は
帰つて頂きたいと思う、こういう申入れをしたのでございます。それに対して
保険課長は、全く私も横で聞いていてはらはらとしております、
余りひどいと思います。併し私からもそのことはよく申入れますから
保険医を帰えすことだけはやめてほしい。こういう
発言がありましたので、又会を再開いたしました。併しやはり同じ
態度で、変りません。そこで私は
技官がそうおつしや
つておりますけれども、これは
事前調査というものが必ずしも
真実ではない、誤
つた例があります、と
言つて昨年の例を引こうといたしましたが、君は誰だ、
発言は許さないと
言つてそのまま制止されたのであります。こういうふうにして
監査は約十五分で
終つて、お前は三カ月ほど
医師会長の
指導を受けろと
言つて終つたのであります。併しながらその後に出て来た
保険課の
資料には
取消という
要求が出ておるのであります。そこらにも非常に
我我が不審に思う点があるのであります。そのほか
高塚技官の言動については、私は筆記してお
つたのであります。一々
言葉を筆記いたしたのであります。又
あとからほかのところで行われた
監査の
言葉をその
保険医並びに
医師会長から聞いてここに二、三書いてございますが、いずれも
違反の
容疑に対して質すということは一度もされない。なぜこんな悪いことをしたのだ、ザルブロ一本が十本に分けて
あるじやないか、こんなことで俺の眼がごまかせると思うのか、俺は
監査で何年も飯を食
つているのだぞ、こういうようなことであります。そうして
保険医がたまたま恭順の意を表して済みません、済みませんとや
つておりますと満足して早く事実だけを叱りとばして終るのでありますけれども、骨のある
保険医がそれに抗弁いたしますと、よし、お前がそういうなら、
あと三十枚
カルテを預かる、
ちよつとでも間違いがあ
つたらどうするか、こういうふうな恫喝的な言辞を以て暗に
事故を承認しろというふうに言われたのであります。又その当時は何のことかわからなか
つたが、
あとで思い出して
保険医が
事情を
説明に行こうとした場合に、もう手遅れだと
言つて歩み去
つたという例もございます。要するに想像ができないような非常に乱暴な
態度で終始したのでございます。中にも一老医、お年寄りのお
医者さんがありましたが、これは
あとで
調べまして全く無実なのでありましたけれども、この人のごときは抗弁したばかりに非常な激しい
怒りを買いましてそのためにそのお
医者さんが
あとで三日ほど寝込んだ、腹立ちの
余り寝込んで、こんなことをするなら、死んでも
保険医はやらんと
言つて辞退届を提出しているのであります。そういうふうに
なつた叱られたお
医者さんの
調書をここにお廻しいたします。た
つたこれだけのことなんであります。それが
監査の
状況でございます。
その
事後処理について申上げますと、その結果は
保険課長によ
つて集計されて、その後の弁明は一切聞かれなか
つたばかりか、その日に
監査官から何ら質されたことのなか
つた事項がたくさん附加えられて、
医療協議会の席上にもたらされたのであります。そうして今お廻しした紙の下から三番目に書いてございますが、
不正請求内容という欄が作
つてございます。
不正請求容疑ではなくて、
不正請求内容という欄にその
保険医が全然関知しない、或いは否定された、又見せられたことも聞かれたこともない事実が多数に列記してあるのであります。それがあたかも
本人が認定したような恰好にな
つて医療協議会に提出されております。その
個々の事実につきましては、その後一カ月に亘りまして、私が丹念に反証を挙げております。こういうふうに
医療協議会で決定された罪悪として
県知事の
名前を以て、
取消七名、
戒告二名、注意五名、こういうものが
処分の
諮問事項として
医療協議会に示されたのであります。こういうふうな措置によりまして我々次のような疑問が起
つたのであります。大体
日本の
国民は
憲法において
基本的人権が保障されております。そして訴えられる場合には速かにその
事因を告げられ、
弁護の
機会を持つことができるように了承しておるのでありますが、この
医療協議会は法廷ではありませんけれども、今回の
監査の
処理に関しては、全くその
憲法の
精神は蹂躪せられておる、
本人は全然知らないことが罪状として挙げられておる、而も
弁護の
機会もなしに断罪されようとしているというところに、非常な我々は
怒りを覚えたのであります。要するに
保険医は
日本国民以前のものであるという疑いが起るのであります。なぜかかる悪意のある
監査が行われたかということもいろいろ
考えてみたのであります。単に
保険医狩りというスリルを味うためか、或いはこれを以て
医師会の頭を押えるためか、或いはこれを以て一般の
保険医を恐怖させて、それによ
つて保険運営を円滑にし、
保険経済を安定させるという
意図があるのか、そういうことまでも我々は疑わざるを得なか
つたのであります。
次に私は
昭和二十四年、二十五年に亘りまして、
保険課から委嘱されて、
指導監査を
行なつたことがございます。私はそのときに
指導監査の本義に鑑みまして、
保険医の方に悪いところは指摘いたしましたが、これはこうじやありませんか、こうなさ
つたらどうですか、非常に
事務量が多くて、これを
要求するのは無理かも知れないが、
最小限これだけのことは整理しておかなければ義務が務まりませんという
指導をいたしました半面において、あなた方の御
不満はいろいろありましようが、どういう点が御
不満でしようか、
治療方針についてもいろいろ
厚生省の示めされたものがありますが、それについてどう御感想を持
つておられますかというふうに懇談のうちに
保険運営について我々は深い示唆をくみとろうとして
監査をや
つて参りました。その結果、
処分に値いする人も出ました、出ましたけれども、その
人たちは非常に感謝の念を持
つて、今後は絶対に間違いのないようにしますというふうな
納得ずくの
指導監査をや
つて来たと私は
思つておるのでございます。こういうふうな
指導監査と、先ほど申しましたように
泥棒扱いの
監査とその違いはどういう結果をもたらすものであろうか、
泥棒扱いの
監査は果してその
保険医自身に対して悔悟をせしめる力があ
つたであろうか、或いは
保険医全体に対して
保険医療に対する
協力心を呼び起させるものであ
つたであろうか、こういうふうな点については、おのずから明らかではないかと思うのであります。
以上のような
考えから今度の
監査が、非常に
広島県の
保険医の
社会保険に対する
協力精神を阻害したという事実があるのでありますが、今後はそれをどうしたらいいかということもいろいろ
考えて見たのでありますが、現在中央において、こういうことがあえて不思議でないという
考え方が若しあるといたしましたならば、これは
幾ら我我が協力しようと
思つても、駄目であるという結論に到達せざるを得ないのであります。
従つて保険監査という一つの、小さいことのようでありますが、この問題は
社会保障問題全般に亘る重大な要素を含んでいるのじやないかというふうに
考えるのでありまして、どうか
国民の
代表であらせられる
厚生委員のかたがたにこの問題を深く掘下げて頂きまして、できますれば現地に
調査にお出で下さいまして、この問題の本当の盲点をお衝き下さい。将来の
社会保障運営の上に、
保険医が安んじて
医療をや
つて行ける方向をお示し下されんことを希望するのでございます。
最後に我々
医師は科学的な
技術者であります。又生命を救済する
担当者でございます。
従つて医学がすべての基調にな
つて、我々は行動しているのでありますが、現在の
社会医療は、これは
社会医療でありますために当然いろいろな
事務的な面もございますし、又経済的な制約もありまして、
自由診療と同じようにできるとは思いませんが、それにいたしましても飽くまで
医師の本分は、
患者を助けるということが主な
目的であり、
事務はそれに附随するものであるということを深く確信しておるのでありますが、現在の
状況では
事務が第一であ
つて、
医学はどうでもよろしいという
考えを持たざるを得ないような段階にあるのではないか、我々は実際どうしていいかわからないのであります。こういう点につきまして、どうか皆様の深い御関心、高邁な
指導理念を御教示願いたいと、深く希望する次第であります。