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平林参考人 私は全
専売労働組合の
中央執行委員長平林剛であります。このたび
国会に付議されました
専売裁定につきまして、その概要を申し上げ、
組合側の
考え方を明らかにいたしたいと思います。
この
裁定の動機になりました
昭和二十七年四月以降の
基準賃金につきましては、この春以来、
公社側との間に
紛争を続けておりました
組合側の
要求は、
現行の
基準賃金一万四百円に対して、一人
平均月額六千三百円を増額することを中心にした
要求でありました。
組合がこの
賃金改訂の
要求をいたしました
理由を申し上げると、
専売の
職員の
現行賃金は、昨年の
昭和二十六年十月十二日
付裁定第六号によりまして、八月以降一万四百円の
基準賃金が
実施されております。しかし
組合員の実際上の
生活は、この
現行賃金ではとうてい
生活が維持できない。
組合の手元に参ります
組合員からの手紙でも、
一つ一つ読むほどの時間がありませんけれ
ども、とても涙なしには読めないような
実情であります。そこでこの
実情を改善するために、われわれは
基準賃金において六千二百円の増額を
要求いたしたわけであります。加えて
公社の
昭和二十七年度
歳入予定額は、千九百四十五億円に及ぶ厖大な
予算を
国庫に納める役割を持
つております。この計画を達成する基盤である
職員の
生活は、私
どもの見解としては、
戦前の
水準に返してもら
つてよいのではないか、
戦前の
水準に返してもら
つて、
労働力の再
生産を確保、保障していただくことは、決して無理な
要求ではない、こう考えたからであります。われわれがこれを主張いたしますのは、
昭和九年ないし十一年の
専売公社における
製造本数は約六百六億でありました。かりにこれを一〇〇にいたしますと、
昭和二十七年度においては九百一億本になりまして、指数だけから計算いたしますと、
戦前の
水準を越えること一四五・五
割合にわれわれの
生産性は高ま
つておる。
職員の
在籍人員が多少ふえておりますから、さようなことを考慮いたしましても、一二五・二という
数字が出て参ります。これは
仲裁裁定の中においても、
専売職員の
労働生産性はおおむね一三八として認められておるところであります。ところが先ほど申し上げましたように、
専売職員の
賃金は、
組合側の
資料によりますと、
昭和九年ないし十一年におよそ五十一円九十五銭であります。その当時から物価は
政府の
資料を使いましても三百倍以上に達しております。ですから、当時でも低か
つた賃金ではありますが、当時の
生活を維持するにいたしましても、
組合の
要求としての一万六千六百円を十分上まわるものである。加えて
生産は
戦前一〇〇に対して一三五の
割合にまで努力しておるのであるから、
専売職員の
賃金をもう少し改善をしてもらいたい、そういう
意味で
組合の
要求が
提出されておるのであります。しかもこの
要求の
数字でも
戦前一〇〇%にするのではなくて、約九〇%に達するというだけの
数字であります。しかもその
賃金の額がどれだけの
生活内容を保障するかということにつきましても、われわれはマーケツト・バスケツトの
方式によ
つて、どうしてもこれだけは
生活に必要ではないかという
資料を裏づけとして
要求を
提出したものでありまして、詳細にその
資料を
検討していただければ、人間はこれだけはどうしても食わなければ生きて行けないことは、だれでも理解していただけるものと確信をいたしておるのであります。この
組合の
要求に対して、
公社との
交渉が妥結に至りませんことは、御
承知の
通りでありまして、これは
調停委員会に移されました。
私
どもがここで強調しておきたいことは、
調停委員会におきましては、八月以降
基準賃金は一万四千円にしなさい、こういう
調停案を出されたのであります。そして
一般職員に対して一時金として
平均一万九百円を可及的すみやかに支給しなさい、このような
調停案が出されたのでありますが、遺憾ながらこの
調停案も成立をいたしませんでした。
専売公社は、やはり
予算上の
理由で、現段階においては
実施しがたいということでありました。
裁定でさえもなかなか困難な
事情であります。
裁定でさえもなかなか
実施が出来ないでごたごたするときでありますから、
調停案ではとてもだめだと考えまして、
法律上
拘束力を有する
仲裁委員会の
裁定を仰ぎたいと考えまして、
組合側はやむを得ず
調停案を受諾しなか
つたのであります。この争いの結果、
仲裁委員会において先ほど
総裁が
説明をいたしましたような
裁定が出されたのであります。
これでわかりますように、今度の
裁定は、八月以降
基準賃金月額一万三千百円が
裁定されたのでありまして、
調停案よりはるかに不まわ
つた金額であります。
調停案は一万四千円、そうして一時金一万九百円支給とありましたが、
裁定ははるかにこれを下まわりまして――特に
仲裁委員会におきましては、四月にさかのぼるという理論の
正当性を認めながら、しかもいろいろな面を考慮して八月ということにされたのであります。これは
公労法上、
裁定に服従する者に対して、いまさら私
どもがいろいろなことを申し上げてもしかたがないことでありましようが、
組合員のほんとうの
気持といたしましては、
労働組合が
要求を
提出いたしましてから
裁定が出るまでに実に八箇月かか
つておる。
団体交渉がうまく行かないで第三者の手にゆだねてからでも、実に五箇月の
期間が
経過いたしております。
仲裁委員会に
審査を
お願いすれば
法律では一箇月で
裁定を出せ、こういうようなことを
国会でお認めにな
つておる慣例でありましたが、これも今度の場合には、いろいろな
事情がありまして、三箇月の
期間を過してしまいました。言いかえれば、
組合はこの間緩慢な餓死の
状態にありながら、それでも
公労法の定めるところによ
つてその
手続を進め、その
裁定をひたすら待
つたのであります。その額が一万三千円であ
つたということは、
組合の
要求を、まだわれわれとしては捨て去ることができないだけに、はなはだ残念に思
つておるところであります。特に
基準賃金一万三千百円と
裁定されたことについては、
仲裁委員会は、
戦前昭和九―十二年の五十二円二十銭を
基準として、それから三百倍、つまり一万五千六百六十円、しかしこの中には年末
手当その他が含まれていたのだからというわけで、結局一万三千百円まで削りとられたかつこうにな
つておりますが、最近
組合側が発見をいたしました
資料によりますと、もつとはるかに高いものに
裁定がされてよか
つたのではないかということを見出すことができるのでありまして、もし許されるならば、われわれとしては
仲裁委員会にこの
資料をもう一度
検討していただいて、
裁定をしていただきたいような
気持を持つほどであります。しかし
公労法の定めるところによりまして、かりに非常に不満ではあるが服従せざるを得ないといたしましても、一万三千百円という
数字は、御
承知のように
裁定理由その他を詳細に御
検討願えば明瞭でありますように、年末
手当一箇月分
一万三千百円が確保されて、初めて八月以降一万三千百円の
数字が現われて来ておるのであります。ところが今、年末
手当でも
専売公社側と
交渉を進めておりますが、なかなかこれも思うように行きません。年の瀬が
迫つても、いまだに
専売公社の
職員に対して年末
手当を幾らにするかが、最終的にきまらないような
状態であります。もしこの年末
手当が、
裁定理由にあるように一万三千百円を下まわ
つたときには、一体八月以降一万三千百円の
基準賃金の
数字はどうなるのか。こういうことを思い合せますと、
組合は今度の
裁定については、たいへん不満な
気持を持
つておるということを御理解願えるものと思うのであります。
しかし、私は、今
裁定をし直してもらいたいということを申し上げているのではありません。ただ今度の
裁定が、いろいろな角度から見て、時間がかか
つた割合には、
組合にと
つてきわめて不満足なものであるということを申し上げたいのであります。同時に、さような不満足なものですらなかなか
実施されないことは、たいへん遺憾なことであ
つて、
組合としては、
裁定が完全に
実施されることを
要求いたしたいと思うのであります。そして今日まで
組合としては、
専売公社との間にきわめて友好的な
関係で
生産に協力して参りましたが、今度こそは、この
裁定が完全に
実施されるまでは、
専売公社と
約束した以上の勤務時間については応じないつもりであります。そればかりでなく、今日のような
状態では、
専売労働者には、
生活を守るために
憲法で保障された
罷業権を行使する権利があるとさえ、私は信じておるのであります。
国会におきまして
公労法を定めましたのは、
仲裁あるいは
調停の
機関が、われわれの
生活を保障する
機関となるから、
専売の
労働者にも
罷業権は停止させようではないかとおきめに
なつたと思います。特に
昭和二十三年七月二十一日に出された
マツカーサー元帥の書簡からこの
公労法が形づくられた歴史を持
つておるだけに、これらの
理由が消滅をしたり、あるいはそのときのお
約束がきわめて不安定な場合には、
専売労働者は、
憲法で保障された
基本的人権が立ち返ることは当然であると思うのであります。特に
専売労働者が
公労法に適用されていることは「
公共の福祉を増進し、擁護することを目的とする」ということが明らかにされておりますが、
タバコに関する限り、さような
事由は
国会におきましても再
検討を願いたいと私は思
つておるのであります。すなわち
昭和二十三年七月二十一日当時の
状態と、とにかく独立に
なつた今日の
状態とでは、また情勢が違
つているように思いますので、
タバコに関する限りは、
公労法の適用については再
検討を
お願いいたしたいと思
つておるのであります。
私が今これを申し上げるのは、特に次の点を指摘いたしたいからであります。それは、
政府は少しも
裁定を尊重してくれないではないかということであります。
公共企業体等労働関係法によると、
紛争の友好的かつ平和的な調整をするために、よい慣行と
手続をとろうという定めがあります。ところが、
公共企業体の正常な運営を破壊しているのは、いつも私は
政府だと思うのです。去年の
裁定の例を申し上げる前に、
昭和二十四年の
仲裁裁定第二項を思い出していただいてもいいと思います。
国会は、この
裁定に対しては
労使双方が最終的に服従すべきものだということで、当時
賞与制度を確立するという
裁定が出されました。これは当時の
政府においても、この問題については服従するという
用意を明らかにいたしたのにかかわらず、今日に至るも
賞与制度の実現はできておりません。昨年この
労働委員会においても、
政府の答弁によると、
目下賞与制度については懸命に努力をしていると言われましたが、いまだにそれが実現しておりません。三年た
つても
公労法による
裁定が
実施できない
状態が続いていることは、
公労法でお
約束を願
つたことは全部くつがえされておると言
つてよいと思います。特に昨年この
労働委員会において、一万四百円の
仲裁裁定は尊重すべきものである、
政府はすみやかに適当な
措置を講ずべしという動議が成立いたしました。
政府はこれに対して、御
趣旨に沿い適当な
措置をとりますということを明らかにいたしたのであります。ところが、少しも
国会の
趣旨に沿
つたような実行が行われておらないのが
実情であります。これは、今度の
補正予算においても明らかでありまして、決して
国会の御
趣旨に
沿つて政府は忠実に
実施をしておりません。この問題は、単に
専売の
労働者に対していろいろな
事由をつけて円満な
紛争の処理を行わないという
政府の姿でなくて、
国会で定められたことについてさえも、十分その
通りのことが行われておらないということは、私は、今の
政府の
公労法に対する
考え方が、もう初めからどこかで筋が違
つておるというような気がいたすのであります。
もう
一つ組合側が申し上げておきたいことは、
政府は、今度の場合も、
裁定を
国会に十六条の第二項に
関係があるとして
提出をいたしてありますが、
組合側は、
予算上どうして不可能であろうかということについて、大きな疑問を持
つております。
公労法で
紛争を最後的に解決する意思がありさえすれば、
裁定はただちに
実施できるものであると思うのであります。
裁定に要する経費は、
世間一般並の年末
手当を支給するというふうにして、その
予算を含めましても九億四千五百三十二万五千円であります。
専売公社の計算によりましても八億六千六百八十六万四千円にな
つております。かさは非常に多いようでありますが、
専売の
裁定が、最終的に服従するものであるという
建前からい
つて、当然この
措置が行われるべきものでありまして、
専売公社は、
昭和二十七年度の
補正予算においてこの
予算を若干修正をして、そしてそれによ
つて財源を得たいと
大蔵大臣に
申請をしたようであります。しかし、先ほどの
説明の
通りに、結局
承認が得られないので、
予算上不可能にな
つておりますが、
組合としては、
大蔵大臣が
承認を与えさえすれば、
国会になんか持ち出して来なくても、
実施が可能である性格を持
つておると思う。特に
予備費は当初
予算でも十五億九千万円
用意されておりました。今度の
補正予算の中でも十三億七千六百万円が
予定されております。もちろん
予備費は、ただちに
裁定に使うという金ではないでしようけれ
ども、しかし予期せざるものに対して
用意をしておる金であります。
葉タバコその他について予期せざるものとして
用意をしておるようであります。しかし、そういう予期せざるものに
用意するくらいのものでありまして、現在はこれは当然
法律によ
つて服従しなければならないものでありますから、これをただちに
実施をしていただきたいと私
どもは思うのであります。これによりますれば、
国会に付議する必要は少しもなか
つたはずであります。特に
政府与党である自由党の幹部の諸先生の間におきましても、今度の
専売の
裁定なんかは、
国会に持
つて来る必要はないじやないか、
国会に持
つて来ないようにして処理しようじやないかというふうに、私
どもにお力添えをしていただいておるほどであります。かりに、
公社が
大蔵省に
要求をいたしましたような
方式をとりまして、
国会で御
承認を願うということにいたしましても、このために
一般会計から一銭も借り入れる必要はないのであります。
専売公社の
予算の一部を修正すれば、それで足りるものでありまして、他に影響させるものではないと思うのであります。今度の
補正予算におきまして、
歳入額を当初の
予算よりも二百十七億円追加いたしてあります。これはたいへんな
数字であります。
専売公社の
職員は、当初
予算では、これだけやればよいというふうに
国会がおきめにな
つてくれました。ところが、今度の
国会において
審議を
お願いしておるところによりますと、さらに二百十七億円も働けということを、われわれにお
示しにな
つている。しかし、私
どもは、働けるだけは働こうと思
つている。そうして働くに相当するだけの
金額は
要求をいたし、その保障を求めたいと思
つておりますから、そのような大きな
数字についても、今とやかく言うつもりはありませんすでにわれわれは、この春から九月までの分でも、
予定以上の百六億円も
専売国庫に納めているほどでありますから、われわれに働きがいがあるようにや
つてさえいただけば、私は、
労働組合のために、
専売公社の
職員と協力いたしまして、二百十七億円におきめに
なつたものを、さらに
裁定に必要な額だけをふやしても、や
つてみせるだけの自信は持
つておるのであります。たいへんそれは苦労が伴うものでありますが、われわれはできるだけのことはしたいという
気持はいつでも持
つておるのでありまして、大いに努力する
用意だけはあります。もしそのような
措置をとれば、他に少しも影響を与えることなしに、
裁定は
実施できるものであります。しかし
国会は、今の
専売労働者の
作業実態について御
検討を願えば、そのような無理なことを
言つて裁定を
実施させようなんていうことは、決してお言いにならないと思います。この点については、十分われわれの
実情を御
検討願つた上で御
審議を願いたいと思いますが、言
つてみればさような程度のものであるということであります。
国会にこれが付議された以上は、
国会における御良識に
まつ以外にはありません。何とぞ
専売労働者の
生活が、一日も早く保障されるような
裁定の
実施されるような御結論を生むことを、心から
お願いをいたしまして、私の
意見を終ります。