○
中山参考人 中央労働委員会の
会長甲山伊知郎であります。
委員長の御指名によりまして、これから二つの争議についての所感を申し上げたいと存じます。
まず第一に電産の争議でございますが、経過は皆さんが十分に御承知とも思いますので、ごく簡単に筋道だけを申し上げます。
電産の争議は、すでに本年の四月に
ベース・アツプについての
調停申請がなされておるのでございます。それで
調停委員会の成立したのが五月でございますが、それからあと数箇月かかりまして、九月四日に
調停案が提示されました。その
調停案の内容は、一口に申しますと、賃金は
基準賃金として
平均月額一万五千四百円、そうしてその賃金を実施するためには、一口に申しまして
労働条件を
合理化する、これが骨子であります。
もつともその一万五千四百円の金額査定いたします場合に、いろいろ
会社の
経理状態などを調べますと、御承知のように
電気会社が九つの
会社に分離独立しておりますので、その各個の
会社の
経理内容は決してひとしくありません。豊水にせよ、渇水にせよ、それによつて受ける影響は、各
会社によつて非常に違います。
従つて、あるいは経理の都合上、この金額を
ベースとしてとることができない
会社があることを予想いたしまして、
調停案の第七項には、もしこの金額を経理上どうしても実施できない場合には、これを
両者協議の上別途の金額にきめてもよろしい、こういう
条件を一つつけてあるのであります。
繰返して申し上げますと、
調停案の内容は、ある
条件つきではありますが、統一の一万五千四百円の賃金を
ベースとすること、及びそれに
伴つて、もちろん経理上の問題もありますし、その他の問題もありますので、
電気事業の
労働者の
労働条件という点については、これを
合理化して行くということが内容でございます。
労働条件の
合理化の内容は、たとえば
基準外が、その当時
全国平均で一箇年通じまして二七%出ております。これをせめてその一割ぐらいは縮減することができるだろう。これも
労働条件の
合理化の一項目であります。それからその他小さい項目ではありますけれども、たとえば休日、休暇の問題、これが他の
社会水準よりは電産の場合は多いのであります。そういう多い休日、休暇を是正するとか、あるいはいろいろなその他の小さい問題において、今までたびたび問題になつておりました
労働条件の
合理化を、この際実施してはどうかということが含まれております。
そのうちの非常に重要な項目は、電産の場合にはあとからも御説明する機会があると思いますが、実働七時間、但し土曜半休、これが
労働時間の規定でございます。実働七時間、土曜半休、これを一週間の
労働時間といたしますと、三十八時間半になります。この
労働時間自体の長さということも問題でありますけれども、さしあたつて一番問題になりますのは、一体土曜半休で三
交代制というものがはたして合理的に実施されるか、こういう問題であります。土曜半休で八時間の三
交代制、このことは、言葉をかえて申しますと、二週間に三日休みがとれるということです。一週間に半休がつく勘定でありますから、二週間に三日休みがとれてもよろしい。それは十分に
予備要員があつて、三交代をしながら二週間に三日の休みを確保して行くことができれば、よろしいのでありますけれども、人員にそう余裕がありませんから、どうしても同一の人がその三
交代制の中に入
つて仕事をすることになります。このことは、言葉をかえて申しますと、普通の
会社や工場で三
交代制のしかれておるときには、その三
交代制の勤務をしておつて時間外がつくというようなことは、ないのであります。ところが、電産の場合におきましては、三
交代制がそういう事情でありますので、三
交代制で一日よけい働くことになる人は、全部休日勤務の時間外がつくのであります。これは非常に
不合理である、何とかしてこの三
交代制と土曜半休という制度を是正することはできないか。これも
労働条件是正の重要な一項目であ
つたのであります。
これを要約しますと、九月四日に出ました
調停案の趣旨は、賃金は約二割の
ベース・アップ、一万五千四百円を基礎とする、そうして
労働条件はこれに
伴つて是正する、これだけが内容のおもなるものであります。
ところが、それに対して
労働者側からは、ただちに拒否の回答がございました。これもついでに申し上げておきますが、
調停案が出て、今まで組合が受けたことは、一ぺんもありませんでした。全部今までの記録は拒否であります。その拒否の返答も、われわれが約五箇月と申しますか——実際には四箇月ぐらいでありますが、四箇月を費して六人の
調停委員が——これは労、使、公益、各二人でありますが、熱心に検討した結果が、わずか一時間のうちに拒否されておるのであります。こういう事情は、こういう問題を考える場合の基礎的な問題として、ひとつお考えを願いたいと私は思う。しかし、われわれは、別に拒否されたから憤慨して、そのあとをめちやくちやにするという気持は持つておりません。その
あと会社の方も
条件付で拒否をして参りました。
われわれはそれ以後情勢を見
守つてお
つたのでありますが、
ストライキが出て参りますし、どうしてもそのままにほつておくわけには行かないというのであつせんに入りました。ところがこのあつせんに入る過程においてまた問題が起つた。それは
会社の方では、今度の
条件を検討して行くためには、
自分たちは
ばらばらで
交渉に応じて行きたい、全体としてこれを統一的に、今までのように受けておくわけには行かない。
会社は独立しておるのだから、
独立会社の責任においてこれをやつて行くためには、どうしてもそのような意味で
ばらばらに
交渉に応じなくてはならない。ところが組合の方は、もともと
統一交渉で始まつた問題を、この段階に
至つて会社が
ばらばらで応ずるというのは何事であるか、われわれはどうしても
統一賃金、
統一交渉という建前でなければ
交渉に応ずることはできないということで、妙なところなのですが、
調停案を拒否した後に、
交渉に入る前に、非常にめんどうな問題が起
つたのであります。この問題を打開するために、私は、そう両者で
交渉形式の問題を言わないでも、内容に入れば自然に
交渉形式の問題も解けるのではないか、だから、しばらく
交渉形式の問題をたな上げにして
交渉に入つてはどうか、こういう勧告をいたしました。なかなか聞かなか
つたのでありますけれども、
労働大臣からの同様の趣旨の勧告もあり、遂に両者はそれぞれ
条件を出して、そうしてこの
交渉に応ずることになりました。
この
条件は、まず
組合側の方は、
統一交渉、
統一資金であること。第二は、
調停案を基礎にして
交渉には応ずるが、しかし
調停案はそのままではだめだ。第三は、情勢に応じて、解決のために今までのものよりももつと折れた
具体案を出そう。第四番目には、
労働協約及び
退職金も同時に解決したい、こういう四つの
条件を出しました。これはわれわれの勧告に応じて、
調停案を基礎にして中身から話に入ろう、このことは了承するが、しかし
統一資金、
統一交渉という決定的なものは譲れない。それから
調停案の金額などではのまない、こういう主張を繰返しているわけであります。
会社側の
条件は、これに対応してあつせんが続けられる場合には
ストライキはやめてほしい。これは
お互いに迷惑するのだから、あつせんが始まる以上は
ストライキを続けることは無意味であるということが第一。第二は、経理の格差があるので、どうしても
統一賃金は受けられない、格差の賃金ということを建前にして
交渉に応じたい。それから経営の
合理化、特にその中の重要な問題は
労働条件の
合理化でありますが、これをぜひ実行したい、そうしなければ
会社はほんとうの
会社としての存立を続けて行くことはできない。この三つの
条件がもし認められるならば、われわれもひとつ
交渉に応じましよう、これが
会社の返答であります。
ここでお考えを願いたいのは、
会社も組合も、このあつせんの過程において、なおかつ根本的な主張は譲つていない。私どもの勧告に応じて、
調停案の内容を基礎にして
話合おうじやないかと
言つたのでありますが、遂にいろいろな情勢に押されて、そのような勧告を受けることになり、先月の十五日にいよいよあつせんに入ることにな
つたのであります。そのあつせんに入る直前に至るまで、いな、あつせんに入つてからも、
会社、
組合ともに、その元の主張を骨子においては完全に守つたままで入つて来ているのであります。これが今度のあつせんを難行せしめた非常にむずかしい
条件であ
つたのであります。われわれはこういう中であつせんを続けざるを得なかつたわけであります。その中で、十五日から始まつて以来二十六日まで約十二日の間、ほとんど毎日毎晩午前二時、ころまでかかりまして、両者の間を私どもであつせんし続けて参りましたが、どうしても両者の主張にある幅があつて、とうていそのままでこれを妥結せしめることができないような状態になりました。私どもは、もはやその状態に立ち至りましたならば、これを単にわれわれの手に預かつているよりも、むしろ社会全体の批判の前に投げ出すのが一つの行き方と考えましたので、遂にあつせんの案をつくりまして、これを両者に提示するに
至つたのであります。
あつ
せん案の骨子は御承知の通りでありますけれども、賃金は一社を除いて——これは四国であります——一万五千四百円の
ベースにそろえる、これが第一点。他面
労働条件は相当強く是正して行く、こういう二つの方針をその中に
うたつたのであります。
まず第一に、あつ
せん案において四国をなぜ除外したかと申しますと、私
ども経理はよくわかりません。
相当注意をして見ておりますけれども、
会社で出される経理、
公益事業局が認定されているところの経理、それから公の計理士が入
つて査定をされているあの経理、それをわれわれが、たとえば
修繕費はどうだ、これは
十分使つているか使つていないか、
石炭費はどうなつておるかということは、ある程度くらいは聞くことはできますけれども、その全体に対して、われわれがこれは正しい、これは
聞違いであるというような認定を下すことはできないのであります。できるだけのことはいたしました。結局において四国が特殊の事態にあることを認めざるを得なか
つたのであります。この証明は私どもにとつて二つございます。一つは他の
電力会社が全部増資をしておりますのに、四国だけは増資の計画を今もつて発表していない。
北海道のように経理上では四国とあまり違わないと思われるように悪く見えておりました
会社でも、一対一の
増資計画を発表しておりました。しかし四国はそれをしていない。第二点は四国の場合には、他の
会社と
違つてこの暮れの
ボーナスを前期の決算の中から落していない。他の
会社は、大体もう暮れの
ボーナスの支出を一応予想しまして、全額ではありませんけれども、そのある。パーセンテージ、あるいは六〇%あるいは七〇%というものを、前期の経理で落しておるのです。ところが四国はそれを落していない。このような事実は、他の経理の数字と相まつて、四国が特殊の地位にあるということを、われわれは認定せざるを得なか
つたので、それで
調停案の第七項を適用しまして、これはあるいは経理上一万五千四百円という並びの
数字——これも註を申し上げますけれども、一万五千四百円というのは、
全国平均であります。
地域差は当然ついております。ですから、その同じ一万五千四百円は、たとえば大阪の関西の
会社に適用しますと、これが一万六千二百円になります。同じ一万五千四百円を四国の地域に適用しますと、平均は実際は一万四千七百円になるのであります。そういう
地域差はございますが、それは別な話であります。とにかく一万五千四百円という平均の金額をのむことはむずかしいかもしれない、
従つて、この点はさらに
会社と組合が協議をして、そしてその協議も、できるならば平和的に、
ストライキなしに協議をして、適正な金額におちつけてもらいたい。もしその場合に、
会社が奮発して、ひとつほかの
会社と同じ並びに行こうというならば、われわれはこれを決して否定するものでもないから、ひとつ両者の協議にこれをまかそうじやないか。しかし、その両者の協議がととのわないというだけで、
ストライキが長引いたり、全国的な争議が依然として続くというのでは困りますので、それは平和的に預かろう、こういうようなことで、賃金の点を解決いたしました。
労働条件の点については、実は
調停案の説明のときには、四十二時間という時間の延長で行く必要はないと私は
思つておりました。そうしなくても、十分に
労働条件の是正はできるのじやないかと
思つてお
つたのでございますが、さてやつてみますと、今申しました三
交代制で土曜半休というこの
不合理を是正する道は、ほとんど四十二時間という時間延長以外にはないのであります。たとえば、実際にそういう職場で働いている人と、それから事務的な
労働をしている人と区別しまして、片方は七時間で土曜半休で、一方は全部七時間でフルの一週間の
労働だ、こういう体制で行けるならいいのでありますけれども、御承知のように、電産の組合の
従業員であつてそういう区別をすることは、実際問題としてほとんど今日不可能であります。
従つて、私はこの四十二時間という決定をいたします場合に、
組合側にも
会社側にも聞きました。
組合側にも二度以上聞いております。何とか三
交代制のあの
不合理を是正して、一般的なこういう時間延長に持つて行かない道はないかどうか、腹案があるなら知らしてほしいということを、たびたび言つておるのでありますけれども、これは両方とも返答がない。やむを得ず、私は、思い切つて四十二時間という時間延長の案を採用したのであります。この点について、あるいは
調停案の線とは違うじやないかという議論があるかもしれません。実は内部でそのような議論が私どもに出ておるのであります。けれども、
労働時間を中心とするあの是正なくして、
労働条件の
合理化というのはほとんど行われがたいのじやないか。ことに
電気事業という
公益事業が
——公務員は四十四時間です——なぜ三十八時間半でなければならないか、私はこの理由がわからない。アメリカのごとき非常に優秀な
生活程度を持つている、そして賃金も高いあの国においてすら、
電気事業の
労働時間は一週間四十一時間であります。これを三十八時間半という現在の形に固定しなければならぬ理由はないと私は思いましたので、
労働条件の
合理化については、四十二時間というものをこの際思い切つて採用したらどうか、そうしてその他の
条件はこれに合せて是正するというような案を書いたのであります。しかしながら、この四十二時間というのも、賃金は十月一日からさかのぼつて払うのでありますけれども、これをそんなに早くするわけには参りませんので、一月以降というような形にして発表したわけであります。この点については、あるいはすでに問題があつたと思いますし、なお今後も問題になると思いますので、特にここでつけ加えて説明しておいたのでございますが、
調停案の線を、その意味においては私どもは今日まで
守つて来ておると思います。その点についてもし御不審がございましたら、あの九月四日に出ました
調停案と、十一月二十六日に出ましたあつ
せん案とを、ひとつ御比較を願いたい。
そこで問題は、そういうことをして何か
労働側に非常に
不利益なものを与えるのではないか、
経営者側に屈服したのではないかというようなことを言われるのでありますけれども、それは場合によつては
労働者側の拒否するような
条件も出ましようし、場合によつては
経営者の拒否するような
条件も出ましよう。これは両者がこういうかたい主張で争つている場合にはやむを得ない事態であります。だから私は、結果から見て、
労働者側が二時間もたたぬうちにもうこれを拒否しておるので、それは
労働者側に非常な酷な
条件を出したのではないかというような判断は、ひとつ十分に慎重に御考慮を願いたいと思うのであります。どつちか拒否したから、
そつちの方には
不利益だ
——不利益だつたには相違はありますまいが、他の
不利益がどの程度であるかということは、内容を見て判断をしていただきたいのであります。その点について私は、あらためて初めから、
調停案は簡単な文章でありますから、その文章をごらんになつていただけば、われわれがいかにあの基本的な線を
守つて、このあつせんに乗り出しておるかということを御承知くださると思うのであります。
私は、こういう
公益事業の争議においては、結局において
第三者の公平な見解というものがもつと尊重されなければならないと、常に主張しておりますし、そう確信しております。たとえば、これは新聞の悪口を言うようで、はなはだ相済まぬのでありますけれども、今度の争議が大きくなりました場合に、新聞が何を問題にしておるかといいますと、
組合側の主張と
会社側の主張とを対立させて問題にしておる。そうしてその間に苦労してでき
上つた調停案の内容については、批評もしなければ報道も非常に少い。こういう状態は、およそ
労働問題は力と力でもつて解決するので、公平な
第三者の判断というものをいれない
考え方ではないかと思う。もしそのような
考え方で行きますならば、特に
公益事業のような場合、あるいはあとでお話いたします石炭の場合も同様でありますけれども、そういう問題の解決は非常に混乱して行くだろうと思うのであります。もしわれわれのこの六、七年間の
労働問題に対する経験が生かされて行きますならば、いろいろな問題がありましたけれども、その中の合理的な線というものだけは、ひとつ
お互いに尊重してこれを
守つて行くようにしなければならないと思うのであります。
話をもどしまして、しからばあつ
せん案の中でわれわれの苦労をした点はどこにあるかということを申し上げますと、このあつ
せん案の中で、二つの点を非常に重要に考えて、これはある意味において組合の
労働運動を守るために、それをとつたつもりでおります。それは何かと申しますと、
統一賃金と
統一交渉、特にあとの
統一交渉という問題であります。この問題は、あつ
せん案には、第四項にきわめて簡単に、
労働協約は
調停案通りとするという一行が書いてあるので、あるいは見のがされる点であると思いますが、この
調停案というのは、賃金に対する
調停案ではなくて、それよりさかのぼつて、前に出された
労働協約に対する
調停案であります。そうして、その内容はもうここで省略いたしますが、その骨子は何かといいますと、それは、電産というあの
統一組合と
電経会議というあの統一的な
会社の連合体とが、それぞれ
労働協約の当事者となつて、そうして
お互いに
交渉を持つ主体ということを確認しておるわけであります。そういう意味におきまして、私はあの
調停案通りとする決定によつて、
会社があつせんに入ることさえも躊躇したあの
個別交渉というアイデアを、実は拒否しておるのであります。このことは、
会社にとつては相当文句のあるところでありましよう。独立の
会社だ、しかも独立の経理だ、それがなぜ独立の
交渉を持つていけないかと言われるでありましようけれども、
電気事業というのは、なるほど経営は別々であるかもしれませんが、
労働者は一体の
労働者である。そして今まで一緒に来た
電気会社が、これからもいろいろな問題で政府と
交渉するときには、どうせ一つでやるでしようが、事
労働問題に関する限りにおいて、
ばらばらで
交渉しなければならぬという理由はない。その
統一交渉の中で、もし必要があれば、異なる
労働条件、異なる賃金を主張し得るでしよう。ですから、そういうことにかかわらず、
交渉の形式というものは統一でもつて行きたい。これは私は
経営者の抵抗を排除して守つたつもりであります。これは後に
経営者がこの案を承諾して参りましたので、そのことを
経営者は認めたものと断ぜざるを得ません。しかし、あつせんの最後の段階に至るまで、
経営者は私にその言質を与えていなか
つたのであります。このことは賃金問題が燃えておる現実でございますので、あるいは一般には非常に薄い印象しか与えないのではないかと思いますけれども、もしこの点をはずしますと、これは
労働運動の史上では、大きな逆転が生ずる、こう私は確信しておりますので、組合のあの統一的な運動と、
会社もこれに対して統一的に一つ
交渉の相手方として当つたらよろしい、この点だけを大きく確保したつもりでおります。
そうしますと、その
統一交渉の裏側は、
統一賃金ということになるのでありますが、この
統一賃金も、曲りなりではありますけれども、私は確保したと
思つております。御承知のように、あつせんの中途段階において、五つの
会社が一万五千四百円以下の
ばらばらの賃金を出して参りました。こんなことでは話はとてもできないから、ともかく一五四〇〇という共通の数字をのみなさいということを言つて、やつと最後の段階では一つのわくをはずして
経営者側を納得せしめるという段階に持つて行
つたのであります。
ところで、最後に残
つたのは
労働条件の問題です。その
労働条件の問題で、今度同じような
交渉を逆に
組合側にやりました。われわれはこの五年の間、たびたび電気の争議について
調停案を書いて参りました、あつせんもいたして参りました。そのときに常にうたつていたことは、これは歴史的事業でありますから、いつでもお調べになればわかるのでありますけれども、あるいは前文であるいは本文の中で、こういう
電気事業というものは
労働の
条件の
合理化、企業の
合理化をしつかりやつて、国民の期待にこたえて行かなければならないということをうたつておりました。実は残念ながらそのような
条件の
合理化が今日まで空文に近くなりつつあ
つたのであります。私はこの点においては、
労働委員会自体も反省しなければならない問題があつたというように考えておりましたし、この際
調停案の趣旨を延長して、そうしてこのような
条件をつけるのは決して無理ではない、こう思いましたので、今度は
労働組合側の非常にいやがる
条件をこの中に盛り込むことにな
つたのであります。
一言に申しますれば、このあつ
せん案は組合のために、
労働運動者としての基本的な線は守る。そして賃金の値上げも認める。——これは二割上つております。このあとにお話します炭労の場合とは全然
条件が違います。炭労は横すべりという
条件で、今もんでおるのであります。すなわち
ベースは上げないということでもんでおるのでありまして、電産の場合とは事情が非常に違うのであります。二割の
ベース・アップを認めましたこの金額について、あるいは皆さんに御異論があるかもしれません。時間当り賃金は日本一の高さを持つておるので、この点については問題があると思う。しかし、私は日本全体の賃金水準から見て、
公益事業ではありますけれども、
電気事業の
労働者が賃金においてある格差を持つということは、いいのじやなかろうか。それによつて生産能率が上つて、
電気事業というような
公益事業がもつともつとよくなるということは、日本のためになることではないか、こう考えますので、賃金については、よく言われるのでありますけれども、あるいは少し甘いかもしれませんが、それを私は認めております。むしろ社会の批判をまちたいと
思つております。けれども、逆にそのような賃金をとり、日本一の時間当り賃金をとつて、そうしてこの重要な
公益事業をやつて行く日本の電気
労働者が、三十八時間半という異常に低い
労働時間を守らなければならないだろうかと考えますと、そうしなくてもよろしい、こういう観点に立つてあのようなあつ
せん案に到達したわけであります。不幸にして、このことがあつせんの障害となり、
組合側からは拒否され、また
会社側からは、ようやくいろいろな希望
条件付の受諾を得ているという状態でありまして、あつせんが行き詰まつているような状態に星ます。しかし、これはもともと両当事者の問題であり、調停といい、あつせんといい、もともとは自主的な
交渉の中である一つの段階でありますので、私自身は、これでもつて問題の解決が投げられているとは決して思いません。今後は、ここまで押して来て整理された問題を基礎にして、両当事者がこの問題を良識的に打開して行つていただきたい。そうしてそれをサポートして行くものは私は輿論であろうと思うのであります。
これは次の炭労の問題にも関連いたしますので、ここで緊急調整の問題に触れておきたいと思うのでありますが、緊急調整ということは、これはもうやむを得ない場合に出ることでございますけれども、このことがあつても、今の問題が必ず解けるという確信があるかどうか、これはわかりません。なるほど、五十日間
ストライキはやまりましよう。けれども、そのあとで同じ問題が残つて行く可能性が非常に多い。むしろ、今日争議が長引いておりますのは、なるほど進駐軍がいなくなつたということがございます。進駐軍がいなくなつて、何か押す力がなくなつたということで、中労委はそういう意識でやつたことは決してございませんけれども、しかし一般的にいえば、とらがいなくなつたきつねだということになるでありましよう。それもございますけれども、しかし、一つの原因は、むしろ緊急調整というものの存在が
ストライキを長引かせているのじやなかろうかという点も考えられるのであります。なぜかと申しますと、今までは、たとえば
ストライキをやつた、この
ストライキが一体どこまで行つたら合法的で、それを越えたら非常に困るということを判断するのは、それぞれ当事者でありまして、組合が自分で判断しなければならぬ、
会社が自分で判断しなければならぬ問題であ
つたのであります。ところが、緊急調整という制度ができますと、
ストライキをどんどんやつて行く。もしこれが
国民経済に現実かつ緊迫的な危急の状態をもたらすという判断がおりたら、そのときは緊急調整になるだろう。緊急調整は政府の判断すべき問題に押し上げてしまつて、それまではいくら
ストライキをやつても、一応はわれわれは
国民経済を危殆に陥れるのでないという言い訳ができるようなかつこうになつてしまつておる。そうではないのでありますけれども、法律の制度の上では、何かそういう余裕がそこに生れたように見える。このようなことになりますと、緊急調整をここで行いましても、場合によつては行わざるを得ないでしようが、それによつてただちに問題が解けるとは思わない。やはりこの問題を全体として処理して行くのは、両当事者及び社会一般の良識にまつより以外には方法がないのじやないか。そして、私はそれは見込みのないことではないと今日でも考えておるという事態でございます。
時間をたいへんそちらの方にとりましたので、あと炭労のことを簡単に申し上げたいと思いますが、炭労の問題は、われわれといたしましては、調停もあつせんもまだやつておりません。ただ十一月十五日に、貯炭の状態が非常に問題になつて来た。最初
ストライキに入りますときの貯炭の状況は、山元に二百万トン、消費者の手元に四百二、三十万トン、大体六百万トンないし六百五十万トンくらいの貯炭があると言われておりました。
従つてそのときには、一月ぐらいの
ストライキは、貯炭状態から見れば、あまり問題ではなかろう、こういうふうに予想されてお
つたのであります。また事実
ストライキに入りましてからも、山元の貯炭は案外減つておりません。これは保安要員というような形で炭を掘つておりますし、その他のいろいろな状況もあつて、思いのほか減つていなか
つたのであります。これは一つの数字でございますか、九月三十日と十月三十日と一箇月間の貯炭を比べてみますと、貯炭の減少がわずかに五十万トンであつた、こういうことが伝えられております。けれども、もう十月も過ぎ、十一月に入つて、十五日にもなつて参りますと、そろそろ特殊用炭が減少して参りました。特殊用炭のうちで、特に外国にその補給を依頼するようなものはいいのでありますが、内地炭の中でしよつちゆうそれをルートとしてもらつておつたような炭が減つて参りますと、ガスの問題が出て来る。ガスの問題がほとんど予想的に出て来る状態、これが九月十五日ごろの状態でございました。そのときにはガスの問題のほかに、わずかに個人の燃料炭の騰貴ということぐらいが伝えられてお
つたのでありますが、しかしわれわれは全体の情勢を考えまして、これを両当事者のあの少しも進捗しない
交渉——この
交渉の経過も、もう御承知でございましようから申し上げませんが、
組合側は要求として現在の坑内外の賃金の、一口に言つて約二倍の金額を要求している。そうしてこれに対して
会社側は九月一日に連盟として返事をいたしまして、賃金は横すべり、逆にノルマは引上げるという実質的な賃下げ案を出して対抗している。そのまま
交渉が打切られて、ずつと
ストライキに入つておるというのが実態なのであります。そのような状態が進展しないものをそのまま放置することはできないというので、両当事者を呼びまして、その事情を聞いたのであります。ところが、そのときの状態では、まだ両当事者とも、これは組合もそうでありますが、特に
会社は別に中労委が介入してほしくない、われわれの方で十分にこれを解決して行く自信があるし、
組合側もこれに応ずると言つていた、いましばらくその様子を見てもらいたい、こういう話でございました。
組合側の方も、事情聴取ということに応ずるけれども、さてあつせんということであると、われわれは応ずるか応じないか、まだ十分に機関に諮つてないからお答えはできない、こういう返事でございました。事情を判断しますと、私どもはなお
会社と組合の自主的な
交渉にまかせる余地が十分にあるというふうに考えましたものですから、その意味においてこれは中労委がむりやりに、たとえば職権あつせんというような形で介入すべき問題ではない、こういう判断をし、事情聴取は両当事者に対する解決促進のいわば役割を果したものというふうに考えて、あつせんに出ることを一応控えたわけであります。それ以後今日までちようど半月の期間が経過したのであります。しかし自主
交渉的なものは二十四日に始まりましたが、遂に今日まで妥結に至りません。そうして、昨夜は遂にこれ以上の
交渉は
ベース・アップという
条件がいれられない限りとうてい応ずることはできないという、いわば断絶の通告が炭労側から連盟側になされたという事情であります。
この問題は電産の場合と違いまして、賃金の絶対額においても相違があります。大体今坑内外の平均が一万二千五百円くらいでございましようか、特に坑外夫の方は
基準外を合せてようやく一万円というところでございましよう。坑内はもう少し高くて一万四千円ぐらいになりましようか、そういう点で、その絶対額も炭労の場合には非常に低い。その上に、ノルマの点でも、だんだん能率は増進されておりますけれども、毎年々々ノルマの改訂と賃金の改訂とが併行していることに対して、
組合側は相当の不満を持つている。この低い賃金が、しかも現在の状態においても一銭も上つていない、上る見込みがない。電産の場合には、
組合側は
調停案に対していろいろ不満は言つておりますけれども、しかし一万二千四百円、あるいは、現実には八百円くらいであります。一万二千八百円くらいの現実の
基準賃金から、一万五千四百円までの
基準賃金の騰貴、これは一割九分五厘でありますが、一割九分五厘くらいの騰貴は
調停案によつて確保されているのであります。こういう場合の闘争と、炭労の場合の賃上げゼロという
条件のもとで闘争している場合とは、非常に事情が違うのであります。これは、経営の状態とか、その他いろいろのことがありますけれども、少くとも
経営者の方で、今日までこの解決を延ばした責任の一半は負わなくてはならないのじやないか。私の方でも、この事態が緊迫して参りますれば、これを黙過することはできないので、
中央労働委員会という機関の一つの職務として、どうしてもある行動を起さねばなるまいと今考えておるところでございます。
炭労の問題については、今お断りしましたように、調停もあつせんもまだ行つておりません。
従つて、具体的の事情については、むしろ当事者にゆだねられた段階であると思いますので、私の方では、これ以上のことを申し上げることを差控えたいと思います。
一応これで御報告を終りまして、あと御質問がありましたら、応じたいと思います。