○野崎
公述人 自分は
公述人であります野崎
一郎であります。ただいまお話がございました石黒さんと同じように、実は昨日午後に電話でも
つて連絡があつたわけでありまして、
予算等については、詳細にわた
つて検討する時間もございませんので、ただ自分は貿易面から見たところの
予算に関連した点だけをまとめてここに公述いたしたいと存じて参つた次第であります。
予算が千五百億からの散超にな
つておりますことは、これは
インフレ含みであるということで、いろいろ皆さん問題にしております。しかしこの
インフレ含みということは、
輸出原価が高くなるということになるのでありましてその点においてまず第一に大きな関心を持つ次第であります。現在
輸出が不振であります関係上、市中は不況であり、かつ
物資は過剰である関係上、
インフレは起るおそれはないといういろいろの議論がございますが、貿易を真に
振興させるためには、現在の
物価を下げることがどうしても必要であり、また同時にそれ以上に奨励策をやりませんければ、
世界の現在の貿易競争に負けて行くというのが、実際の現状でありますので、むしろ緊縮
予算によりまして、根本的に原価を下げるように是正さるべきであるというように感じております。この点においてわれわれは第一に遺憾に存ずる次第であります。
御承知のように
日本は人口が過剰であり、土地は狭いし、また同時に原材料も不足である関係上、どうしても貿易立国にならざるを得ないということは、口ではいろいろ唱えられておりますけれども、今回の
予算におきまして、通産省費の中にわずかに一億に当るだけのものが貿易勘定として計上されただけであります。これを他の国に比べますと非常に寂蓼たる感があります。これでいわゆる現在の
日本の為政者の考えがどの辺にあるかということを、われわれは推しはかれる次第であります。すこぶる心細く感じておる次第であります。
そこでまず
日本の貿易の現状を知
つていただく必要があると思うのです。
日本の貿易の現状を知るためには、まず国際的と国内的にわけまして検討し、
世界の市況、また原価高に関する対策を考え、また同時に競争国の
輸出振興策、それらを含めまして
予算への希望を申し上げたいと思うのであります。
昨年は
世界の貿易高は全体に減少しております。各国ともに御承知のごとくにドル不足で非常に悩んでいる次第でありまして、勢い自衛上から輸入の制限をやり、また同時に逆に
輸出の
振興をやるというような状態で、貿易の面から申しましたならば、半鎖国状態になりつつある次第であります。これを根本的に直しますには、どうしても年々莫大なる米国の
輸出超過及び受取勘定を貿易によ
つて米国が買うか、あるいは援助
資金を出してくれるか、あるいは両方してくれるというような型でも
つてバランスをとらない限りは、どうしてもアン
バランスになるということは皆様の御承知の通りであります。アイクがこのたび共和党の党首とな
つて大統領になりまして、共和党の党是にもかかわらず、物は買います、関税は引上げませんとい
つておりますけれども、米国の輸入の統計と、それから在庫等を詳しく調べてみますと、一体何を買
つてくれるか、この点が非常に大きな疑問になるのであります。今、米国が買いそうなものは銅
一つだけであります。そういう状態であ
つて、現状におきましては、原料におきましても、また加工品におきましても、米国は
世界の大生産国であります。これが受取勘定の超過分だけを無理やりに買つたならば、アメリカの
経済はどうなりましようか、必ずそこに大混乱が起
つて、関税問題が起
つて来るということはこれは明らかなことであります。これが常にアメリカの関税問題がもやもやする理由なのであります。
しからば援助
資金をふやしてくれるかとみますと、戦後に三百八十億ドル、約四百億ドルに近い金をすでに貸しておる現在といたしまして、その貸付方はおそらく従来通りイージー・ゴーイングに貸すのではないだろうと思います。おそらく欧州支払同盟とかあるいはポンド、ドルの交換
資金だとか、あるいは最近唱えられておりますところの大西洋支払同盟というようなものに、援助するのではないかというように思われますが、そう
なつたらば
日本はどうなりましようか。
戦前の中国の大事なお客さんをすでに失
つておりまするどうしても東南アジア地区にお客ざんを求めるほかしようがない。ところが東南アジア地区におきましては、御承知の通りコロンボ・ブラン及びポイント・フオアの
政策が実施されておりますが、これが出るだけの金が出ていないというような関係で、ほとんど動いておりません。
従つて日本がどうしても買わなければ、商売ができないというにもかかわらず、いわゆる言葉通りの現在は未
開発状態であります。それで買えないならば、同時に
日本は
輸出ができないということになります。しかももう
一つ問題は、
日本とともにお客さんであるところの東南アジア地区は、いずれも先ほど申しました欧州支払同盟とか、あるいは大西洋支払同盟とかいうものには入れないのであります。すなわちドル不足解決の圏外に置かれておるわけであります。
従つてこういうアン
バランスの結果、お客さんにどうしても売る物がないとすれば、いよいよそのアン
バランスの関係で輸入超過をせざるを得なくなり、ますます輸入制限がきびしくなるというと、
日本の貿易は縮少生産にならざるを得ないというのが現状であります。
最近米国は軍拡
予算によりまして
相当援助に力を入れておるようでありますが、これは軍拡生産のできます
日本だとか、イギリスだとか、フランスとかいうところにはできますけれども、それ以外のところには大砲を持
つて行かれたり何かされたところで、これはドル不足の解決には
一つもなりません。最近英仏ともに首相がみずから出馬しまして、その国の
財政経済の防戦に努めております。しかも先ほど申しました欧州支払同盟が大西洋支払同盟へと進んでおります。それで最近のごときでは英連邦首相会議で数々の問題をアイクにぶつけております。これがもし実現されなかつたならば、再びブロツク
経済に入るということは、彼らがすでに宣言しておるのであります。こう
なつたらどういたしましようか。
日本は完全にシヤツト・アウトを食うのであります。
また産業
方面におきましても、鉄鍋業におきましては、最近シユーマン・プランが完成されまして、実施に移されることにな
つております、また米国の鉄鋼生産は拡大に向いまして、
日本の中に品物をどんどんオフアーして参るというような状態でございます。こう
なつたら、せつかく伸びつつあるところの
日本の鉄鋼業が、今後非常に悩むということは思い余る事態だと思います。
昨年の
世界の貿易の状態を考えますと、先ほど申しました通り、事実不振でありました。しかし
日本の貿易の不振はなおひどかつた。一昨年の
日本の貿易の状態は、
世界の貿易順序からいいますと、
輸出においては十番目、輸入においては九番目でありましたにもかかわらず、昨年は
輸出においては十七番目、輸入においては十四番目に下つた次第でございます。これをも
つて見ても、
日本の貿易が不振であつたということは十分おわかりいただけることと存じます。西独を先頭にいたしまして、ベルギー・イタリアは非常に目ざましい
輸出振興策をと
つております。
日本は御承知の通り朝鮮事変までは
物価が非常に下
つて参りました。朝鮮事変と同時に奔騰参いたしまして、
輸出原価は奔騰いたしましたが、だんだんの不振の結果、
輸出原価もだんだん下
つて参りまして、まずこれなら
世界の貿易にも何とか合うだろう、過剰
物資の時代になり、いわゆるバイヤーズ・マーケツトの時代にな
つて参りまして、どうにかこれに対応できるというように思
つておりましたところが、西独その他の国がえらい
振興策をと
つて参りまして、ために
世界の国際
物価はひどく下
つて参りましたために、また
日本の
物価は高くな
つてしまつた。言いかえれば、向うにかなわないような状態に
なつたということであります。そこで勢い
日本の
輸出原価は、真剣に考えなければならぬときが参
つたのではないかと存じます。
それにつきまして
日本産の
輸出原料は非常に高値である。たとえていえば、一番いい例が
石炭であります。
石炭は各生産工業及び
輸出産業の
基礎原料にな
つておりますが、現に高い運賃を払
つて日本べ持
つて参ります輸入炭よりも、安いので三割、高いのでは九割あるいは十割見当高い、こういう高い原料を使
つて日本の
輸出産業がどうして引合うかということになるのです。われわれはこういう犠牲にはな
つておられないということになるのであります。それならば一輸入炭をどんどん入れて牽制したらいいじやないかという方法もございますが、これは炭鉱業者をただいじめるだけにすぎない。炭鉱業者をいじめるだけにすぎないというような結果にな
つては、
日本の将来のためによくないというようなことで、勢いこれには、われわれはいわゆる専門家でないからわかりませんが、
縦坑の改善だとかいうような改善
資金を当
予算のうちに組んで、
日本の炭鉱業者を助けつつ、かつ外国炭も入れて牽制をしながら、国際原価のところまで近づけてもらわないと、
輸出産業は成り立たないというような状態でございますが、これを
予算のうちに
編成されることを希望する次第でございます。
以上のほか各生産業の合理化運動ということが一まずく必要であることは論をまたない次第でありますけれども、
輸出産業及び貿易業に対しますところの現在の
金利は、
日本のような高
金利はございません。こういう高い
金利をも
つて貿易をやるということは、とてもできない次第でございますので、今回貿易の
振興についてことに改善しなければならぬ問題は、まず
金利の
引下げという問題が次に起
つて来る問題だと思います。
以上の
条件が満たされましても、なおかつプラントだとかあるいは肥料ですとかいうものは、
世界の競争入札にいつも負けておる次第でございます。その負け方が非常に大きいということから、その国々の
輸出振興策を調べてみますと、そこに大きな違いがあるということが発見されるのであります。それを今度の
予算のうちに訂正ができればけつこう、またできないとすれば、今後において十分御
考慮をいただいて、今までの方針をかえていただきたいというために、御参考に申し上げる次第であります。
西ドイツの貿易
振興策につきましては、先般小室次長が現地に行
つて調査されましていろいろ報告もございましたでしようと思いますので、ここに省きますが、フランスの今度の
予算を拝見いたしますと、
輸出振興予算というものは合計で四百三十億フランにな
つております。御承知の通り一フランは約一円でございます。この四百三十億フランの内訳は、貿易業に対する租税の免税が三百億フラン、それから国際入札補助金が百億フラン、自動車工業補助金が三十億フランにな
つておりまして
日本の今回の
予算に比べまして、まことに
日本の
予算は寂蓼たる感がいたしまする点を、われわれとしては遺憾に思う次第でございます。
現在
日本は、外貨保有量が十億ドルに及んでおりますし、そのうちの六億ドル近くは、無利子に近い外銀に死蔵されておるような次第でございますが、これらについては、もう少し十分に御検討を願う必要があるのではないかと思います。その次に、もう
一つは
輸出信用保険制度は、これを十分に活用いたしますれば、
輸出振興になると思います。これを活用いたしますれば、ダンピングの疑いはかかりませんし、またガツト加入に対しても少しも支障が起らず、また国際通貨基金より苦情も受けないという点がありまして、この制度を十分活用される必要があると思うのであります。ところが現在の制度の上においてまだ不備な点があり、また
資金が非常に僅少であるということで、どうにも思うような活動ができないために、この
振興に使うことができないというような状態であります。今回の
予算におきましては、これが全然削除されました。毎年百億円ずつ計上されておりますが、今年は全然上
つておりません。今までの累積
資金があるということのために削られました。しかし
輸出信用保険の効用を十分に御研究いただきまして今後とも何とかこの点を十分に活用のできるようなことにしていただきまして
振興策に御留意いただくことをわれわれとしては希望する次第でございます。
なお今回の
予算につきまして、貿易商社強化案といたしまして、クレーム準備金、海外支店に対する償却金を法人税の償却資産と、認めていただいたこと持して、われわれは深く感謝をいたします。しかし貸倒れ準備金あるいは価格変動準備金とかいうものに対しては、いわゆる柱ほど望んで針ほど通つたというような現状で、われわれ業者は少しもかけひきをしなかつたために、多少失望の感がある次第でございます。
日本は昔から士農工商というところの観念がありますが、貿易商は口頭禪では大事にされておりますが、実情は以上のような観念がちつともかわ
つておらないというふうに、われわれはひがみですか感じられる次第でございます。これはたとえば
予算の面におきましても、またあるいは税制においても、あるいは貿易
政策、すなわち輸入の割当についても、御承知の通りほとんど全部はメーカー割当であります。これも輸入の面におきまして、よほど深刻に御
考慮くださいませんければ、
日本の貿易は年々減少して参ります。いわゆる各地の貿易戦で敗退しなければならぬという危険があることを十分に御
考慮いただきたい。
もしも貿易において敗退いたしましたならば、生産業がいかに拡張いたしましようとも、
日本の
経済は破滅に陥ることはいなめない次第でございます。最近の外商はますます跋扈して、骨の髄までもしみ込んで参ります。これは
日本の商社の微弱な点があると思うのでありますが、何しろ底の浅い
経済でありますので、各社が金を持
つて来て跋扈するには申分のない状態で跋扈しております。これをもしも貿易商社として十分活躍せしめるためには、やはり海外に出て、海外に社を設けて盛んに
日本との交通をし、かつ第三国間における貿易をして、初めて
日本の貿易立国が成り立つのではないかと思います。こういう点に対して、もう少し御検討いただく必要があると思うのであります。どうぞこの点につきましても、
予算において冗費をできるだけお省きいただきまして、それを貿易のために有効に御使用いただきますことを、自分といたしましては切にお願いいたしまして私の公述を終る次第であります。(拍手)