○八木一男君 私は、
日本社会党両派を代表いたしまして、
政府提出、
日雇労働者健康保険法案に対し、両社会党共同で
提出いたしました修正案の
趣旨弁明をいたしたいと存じます。
戦後、一部の特権階級を除きまして、全
国民の生活困窮の度ははなはだしいものであり、ほとんどすべての家庭がその日暮しであると言
つても決して過言ではございません。このような状態でありますので、一たび疾病、死亡あるいは失業等の事故が起りました場合に、たちまち窮乏のどん底に陥りましてはなはだしきに至
つては一家離散、一家心中のような悲惨事が各所に起りつつあることは、同僚議員各位の御承知の通りであります。かかる状況を反映いたしまして社会保障
制度確立を要望する声が全国にほうはいとして起
つておりますことは申し上げるまでもございません。にもかかわらず、引続く吉田内閣の社会保障
制度軽視の政策のために、
国民の待望するものとははるかにかけ離れた状態にありますことは、まことに遺憾のきわみであります。(
拍手)
この間、
現行制度のもとで比較的よくその任務を果しておると考えられますものは
健康保険制度でございます。全国数百万の
労働者は、低賃金にあえぎつつも、本
制度がございますために、最小限度の安心感を持ちまして毎日を過しておる状態でありますが、この
健康保険法は常雇
労働者のみに
適用せられるものでありまして、いわゆる不特定の
事業所に不定期に働く日雇
労働者は
健康保険の恩恵を受けておらないのであります。ところが、これらの
労働者は、たとえば安定所に働く自由
労働者、あるいは何々組等に働く土建
労働者、あるいはまた派出婦、看護婦等の人々でありまして、働こうとしても仕事があることがきわめて少く、また就労し得た日もはなはだしく低賃金でありまして、飢死一歩手前の生活をしておる人が大部分であります。従
つて、
傷病、死亡、出産等の場合の困窮の度は想像に絶するものがあり、
健康保険制度を必要とする度合いは、一般
労働者よりもはるかに多いのであります。従
つて、百万になんなんとするこれらの人々が
適用を受けられる
健康保険制度確立の要望が、この五、六年来ほうはいとして起り、陳情、請願その他、涙ぐましい努力が続けられておるのであります。
われわれは、この状態にかんがみまして、独立した日雇
労働者健康保険法制定の必要を痛感し、かねてより立法の準備を進めて参
つたのでありますが、ときあたかも厚生省において同様
趣旨の
保険制度制定の準備が進められておることを聞き、心ひそかに百万日雇
労働者のために喜びとしてお
つたのであります。しかるに、二十八年度予算の編成にあたり、再軍備に狂奔し、民生安定を無視する吉田内閣は、この
原案から二十九億の
保険給付国庫負担分を削り去り、わずかに三億円足らずの
事務費のみを残したことは、心から遺憾とするところであります。(
拍手)この骨抜きにされた
政府案は、二月二十八日本院に
提出せられ、同三日
厚生委員会において
趣旨弁明があつた後、同五日
厚生委員会において
質疑が開始されたのでありまするが、与党側は、翌日付託を予定されておりましたわれわれ両社会党
提出の
法律案を待たずして当日中に
採決を強行しようとしたことは、きわめて遺憾であります。(
拍手)かかる情勢において、われわれは、即時、用意しました案を全文修正案として
提出した次第であります。
次に修正案の
内容を御
説明申し上げるわけでありますが、時間の関係上、
政府案とのおもなる相違点のみを申し述べたいと存ずる次第であります。
本修正案の
政府案と相違する第一点は
給付内容であります。
政府案の
内容はきわめて貧弱であり、ただ本人の
療養給付あるいは
療養費の支給、
家族療養費の支給が三箇月に限
つて行われるだけであり、ほとんど
社会保険と言い得ないものであると言
つても、あえて過言ではございません。その明らかな証拠には、本
政府案についての社会保障
制度審議会の
意見書には、その
給付内容が貧弱であるのは遺憾と言うほかはない、極言すれば、今日かかる
制度を実施することは、将来社会保障
制度を確立するにあた
つて、かえ
つてその妨げとなるやの懸念さえないでもないと言
つておるのであります。それに反しまして、本修正案では、
療養の
給付あるいは
療養費の支給、
家族療養費の支給は、これを六箇月間に延長するとともに、
傷病手当金、埋葬料、分娩費、出産手当金、保育手当金、家族埋葬料、配偶者分娩費、配偶者保育手当金の支給等の
内容を持つものでありまして、必ずしも完全とは言えませんが、
政府案にまさること数段であります。
この相違点について特に考えなければならない点は三つあるのでありまして、
療養給付の三箇月と六箇月の差は最も重要であります。六箇月でもはなはだ不満足なわけでありますが、結核性疾患その他重病の場合、三箇月ではほとんど意味をなさないのでありまして、最小限度六箇月に延長することが絶対に必要であります。次に
傷病手当金に関してであります。常用
労働者と異なり、日雇
労働者の場合は、病臥いたしました場合はたちまち生活ができなくなるのでありまして、この
傷病手当金がない場合、おそらく本人は、幼い子供たちを食べさせるため、
医師の指示にも従わずして、命がけではげしい労働をする場合が想像されるのでありまして、これこそは仏つく
つて魂入れずという結果に陥るでありましよう。(
拍手)さらに、分娩費、出産手当金等のない
政府案は、女子
労働者の特別な要素を顧慮していないものであり、はなはだしく片手落ちであると言わざるを得ないのであります。かくのごとき
理由から、
給付内容について
政府案がほとんど意味をなさないことは明らかであり、必ずしも完全とは言えないとしても、修正案程度まで引上げる必要があることは、全議員のお認めくださるところであろうと確信するものであります。(
拍手)
政府案と相違する第二点は
国庫負担であります。これが第一点と密接不可分のものであることはもちろんでありますが、
政府案の根本的な欠点がこの点に露呈されておるのであります。すなわち、
政府案では
事務費のみ
国庫負担でありまするが、本修正案では、
事務費のほか
保険給付の二分の一の
国庫負担を
規定してあるのであります。被
保険者になるべき人々が生活保護法
適用の一歩手前の困窮した状態にあります場合、生活保護法
医療給付を受ける人々の自己
負担が無償である点との均衡を考えまして、われわれは二分の一の
国庫負担を当然と考えるものでありまして、その妥当であります点は、次に述べます社会保障
制度審議会の
意見書からも裏づけされておるのでございます。
社会保障
制度審議会の
意見書の中には、本案――これは
政府案でありますが、本案がかかる貧弱なる
内容をあえて許さざるを得なか
つたのは、一にその
保険給付に対する
国庫負担が認められなかつたことに基く、これは、失業
保険や
国民健康保険についてはその
給付費に対しても
国庫負担が認められていることとあわせ考える場合、まことに不公平である、本案制定にあた
つては、まずこの点を改め、
給付費についても積極的に
国庫負担を行うことが必要であり、その
給付内容もこれを一般
健康保険と同等程度に引上ぐべきである、とあるのでありまして、二分の一
国庫負担が必要であることは、これをも
つて明らかであろうかと存ずる次第であります。
相違の第三点は、
保険給付を受ける要件であります。
政府案は二箇月に二十八日以上の
保険料納入を要件といたしておるのでありますが、本修正案では二箇月二十四日以上、あるいは六箇月六十日以上のいずれか一方の要件を満たせばよいことに
なつております。本修正案こそは、まじめな勤労意欲を持ち、日雇
健康保険の
適用を熱望いたしております人々が、一時的な偶然な就労日不足から
適用を受け得ないことがあるという欠点を排除し、なお逆選択も十分に防ぎ得ると確信するものであります。
相違の第四点は、
適用範囲の問題であります。
政府案によりますと、
適用事業所の職種と規模におきまして、なお
相当の制限があるのでありますが、本案は、その二点につきまして最大限度に制限を緩和し、
適用被
保険者の拡大をはか
つておるのであります。さらにまた、本案をも
つてしても自動的に
適用できない人々、たとえば付添婦、看護婦等、患者であるただ一人の雇用主に雇用される場合を考慮いたしまして、第六章以下に、
厚生大臣の認可を得た労働
組合は
事業主と同様の事務を行い得るものとして、
法律の欠陥のためにこの
健康保険の恩恵を受け得ない者が一人でも少くなるような配慮をいたしておるのであります。幾分の技術的な困難に打ちかつ努力を捨てまして、日雇
健康保険法案が通過した後においてすらその
適用を見ない数十万の恵まれざる人々を見捨てて顧みようとしない
政府案に対して、積極的に可能な限り多くの人々に
健康保険を
適用せんとするわれわれの修正案が絶対にすぐれたものであることは、申すまでもないことと存ずる次第であります。(
拍手)
以上で、最も主要なる修正点を申し述べた次第でありますが、明敏なる議員各位には、本修案が、
国庫負担を二分の一にとどめた点と、被
保険者たるべき日雇
労働者の人々の家計状態を見まして、一就労日八円以上の
保険料
負担が困難であります関係上、完全なる
内容を整えておらないにせよ、
内容空虚なる
政府案に比して、はるかにすぐれたものであるということを認めていただけると信ずるものであります。現に
厚生委員会の
討論において、与党側の
委員の方が、
政府案に賛成しながらも、修正案のよさを率直に認めて、
政府案が成立した場合、可及的すみやかに修正案の
内容まで引上げることを希望しておられたのでございます。
最後に申し上げたいことは、
厚生委員会の
討論の過程中におきまして、本正修案に対する反対の論拠は、
政府提出昭和二十八年度予算案が衆議院をすでに通過しており、当予算衆中にわずか三億足らずの
事務費のみしか計上されていないから、三十五億の予算支出を必要とする本修正案には賛成できないということにあ
つたのであります。
委員のほとんど全員が修正案のよりよきことを認めながら、さきに通過いたしました予算案に縛られて修正案が否決されましたことは、修正案を待望する百万の人々、家族を合せて約三百万の人人のために実に悲しむべきことであり、まことに遺憾千万と申さねばなりません。(
拍手)このことは、重要
法案審議以前に党利党略から予算案を強引に通過せしめた
政府並びに与党の責任であり、まさに
国会の審議権を無視しているものと断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)同僚の議員各位、特に与党の議員各位、あやまちを改むるためには、どのように急いでも早過ぎるこちはございません。われわれは、この修正案が
政府案に比しはるかにすぐれたものであることを断固として確信いたしておりますとともに、すべての議員の各位が同じ判断をすでにしておられることを確信するものでございます。
法案審議が無視されたあやまちを改むるために、予算案にがかわらず、決然として全員本修正案に賛成されんことを期待するものでございます。
本修正案が通過いたしましたならば、必ずや参議院は同調し、必要金額だけの予算案修正をして本院に回付して参るでありましよう。何も予算通過にこだわる必要はないわけであります。しこうして、本修正案が日の目を見ることによりまして、三百万の日雇
労働者並びに同家族は、初めて愁眉を開き、後顧の憂いなく労働に邁進し、治山治水、道路建設、
建築、
療養等の重要なる分野におきまして、国家再建により以上に貢献する結果を生むでありましよう。
諸君、諸君の決断のいかんによ
つて、重病のわが子を救わんとして、せつかくの生業を捨て身を売らんとする未亡人、絶望の果て愛する家族を道連れにして一家心中せんとする多くの人人を救い得るかいなかを決することを思い浮べていただきまして、全員決然として本修正案に御賛成くださらんことを心から期待いたしまして、
趣旨弁明を終る次第であります。(
拍手)