○鈴木茂三郎君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、
総理の施政
方針に対して
質問をいたしたいと存ずるものであります。
日本国民の一人々々のだれでもが、ただいま心配しておること、だれでもが心を痛めておりますことは、第一に、
政府は
独立と平和のための講和だと、こう
国民に言つた。その講和は成立いたしましたが、講和によ
つてほんとうの
独立が与えられておらないことを
国民は知
つて、そこに不安があるのであります。(
拍手)連合国の
占領軍は、講和以前のそのままの姿で依然として駐屯をしておる。そうして、裁判権まで要求をしておる。
国民の目には、アメリカの植民地ではないにしても、アメリカの衛星圏内の忠実なる従属国であるとしか見えないのであります。(
拍手)その姿がどうして
独立国家と言えましよう。しかも、
独立が与えられないだけではありません。平和も与えられておらない。平和のかわりに、
戦争のための再
軍備が
外国から要求され、扇動され、
政府は
自衛力漸増という理由で、
憲法を踏みにじ
つて、
保安隊と称する
軍隊を、陸に、海に、空に、ますます強化拡大しようといたしておる。この現実は、最高裁判所が何と擁護しようといたしましても、明らかに
憲法違反である。こんなことをしておると、やがてはアジア人同士で
戦争をやらせたいというアメリカの思うつぼにはま
つて、朝鮮戦線にまでおびき出されて、いやおうなしに
戦争に引込まれて、
外国の山河に同胞の若い血を流させなければならないことになるのではないか。(
拍手)すなわち、ほんとうの平和と
独立の、富士山のような毅然とした姿は、
日本全土のどこにも見られないということが心配の第一点である。
第二は、国内資源の開発、平和産業の復興と相ま
つて、安い原料の輸入をはかり、製品を輸出する海外の市場を確保いたしまして、いつまでも
外国の援助によらない自立
経済をどうして樹立するか。小さい四つの島に八千五百万人の人口をかかえ、毎年百万人から百四十万人ふえて行くこの人口、——失業者がなく、だれでもが喜んで働いて、健康と文化の保障された最低
生活を営むことのできるようにどうしてするのか。これができなければ、
国家の
独立も平和も望みがたいのであります。これがため、自立
経済の基盤をどこに置いて、どうして樹立するか。
政府のなすところは行き当りばつたりで、どうなるかということが、
国民の心配の第二点であります。(
拍手)
私は、岡崎外相や向井蔵相については、みじんの期待も持ちません。
吉田総理は、老躯をここにひつさげて第四次
内閣を組織されたのであるから、
国民のこうした心配をいくらかでもやわらげるように、
外国の圧力をはね返すような、せめて気魄でも示されるかと思いましたのに、
総理の施政
方針を聞いて、
国民はいよいよ心配を深くいたしたものと存じます。(
拍手)
私の
質問は、大まかにわければ、この二つの
国民の心配、これを中心といたしまして、以下順次お尋ねをいたしたい。しかし、
外交と内政、
国際問題と国内問題は、切り離すことのできない一体の問題でありますから、主として
吉田総理にお尋ねいたしたいのであります。
第一点は平和
憲法の問題でありまするが、この
憲法は、ここで申し上げるまでもなく、第二次世界大戦において、二百五十三万人の戦死傷者と、三百万戸に及ぶ家屋の損害と、四割三分五厘の領土の喪失という莫大な
犠牲の上につくられた
憲法であります。また、世界の
歴史あ
つて以来初めてわが広島と長崎の同胞の生命に一瞬にして加えられた残虐な
犠牲の血で色どられてできた
憲法であります。(
拍手)この
憲法ができた過程がいずれにいたしましても、
国民がこの平和
憲法をあくまで擁護することが、
日本の安全を確保する道であると
考えております。(「その
通り」
拍手)
しかし、この問題は、
総理はあくまで平和
憲法を守
つて行くという意思を明確にされておりまするが
ゆえに、私はこの問題は、この
憲法と最も重要な関係にあります再
軍備の問題に関して第一にお尋ねをいたしたいのであります。これは、私は、
自衛力漸増という理由によ
つて、これまですでに行われ、またこれから拡大強化されようとする警察
予備隊の発展した
保安隊が
軍隊であるか、いわゆる、かえるであるか、おたまじやくしであるかという問題について、
総理を前にして無用な論争をここで繰返そうと思いません。名称がいかようであろうとも、警察
予備隊から発展した
保安隊の実体が
軍隊である、かえるであるということは、
国民の良識と世界の輿論の一致した見解であるのであります。(
拍手)これが
軍隊でないと強弁しているのは、私の見るところでは、世界でも
日本でも、
吉田総理ただ一人のようでございます。(
拍手)こうして世界を欺瞞し、
国民を瞞着しようとする
吉田総理が、施政
方針において道義の高揚や
愛国心の涵養を口にされたことは、まつたくこつけいと申すほかはありません。(
拍手)
戦力でない、
自衛力であるという、かような
保安隊を、こうして着々と強化されて、再
軍備は着々とわれわれの眼前において実行されておる
事態は、これは
吉田総理自身の道義の問題だけではありません。軍事費のために
国民生活が
犠牲になるという
財政上の問題だけではありません。再
軍備のために、
国民が一番心配している、
日本が米ソの紛争や
戦争に引込まれることになる。また
外国の援助を受けない自立
経済の建設が不可能になる。ここに問題が私は所在すると思います。言いかえれば、再
軍備の漸増は祖国
日本の危機を漸増することになるということであります。(
拍手)
従つて、わが党は、断じてかような
自衛力に名をかる再
軍備を許すわけに参らないのであります。(
拍手)
しかも、かような再
軍備は、
日本人によ
つて主張されるよりも、主としてアメリカによ
つて宣伝され、扇動されて来たことを見のがすことはできないのであります。特に、アジアではアジア人に戦わせよと言つたアイゼンハウアー氏がアメリカの大統領に選ばれ、再
軍備を
日本にやらせるために講和を行つたダレス氏が国務長官に就任された事実を、われわれは重大に
考えなければならないのであります。(
拍手)私は、アジア人同士で戦うようなことは断じてしてはならないと思う。それがための
保安隊のような再
軍備を断じてやらしてはならないということを、かような
国際的な
事態を前にして、われわれ
国民は、新たに
日本のために
決意しなければならないと信ずるものであります。(
拍手)
私は、かような観点から、最近
日本を訪問されたアメリカのアリソン国務次官補が重要な発言をされておる、それに関して三点のお尋ねをいたしたいのであります。
先般来朝しましたアリソン国務次官補は、十一月十日の日米協会主催の会合において、重要な意見を述べられておる。主として三点にわた
つておりますが、一、安保
条約の前文からアリソン国務次官補の引用された
日本の防衛の
責任に関する問題につきまして、これは私は、アメリカ側が期待したという一方的なものであ
つて、この防衛の
責任は
日本側がアメリカ側と同じような意思表示をしたものではなく、またこの安保
条約の前文によ
つて日本側が何らこれに拘束されるものでなく、またこの意味は再
軍備を意味するものでないと
理解すべきであると思うが、これに対する
総理の見解を承りたい。
二、アリソン氏は、
日本の現在の
情勢は、
自衛力実現に発足すべき段階にあるとの
情勢判断を持たれたのであるが、これに対する
総理の見解を承りたい。
三、次は、きわめて重要な問題でありまして、アリソン国務次官補によれば、当面の
日本の
情勢のもとにおいて持たれた軍事力は、
国民のしもべにな
つて、主人になるおそれはないと、こう言われておるが、私がお尋ねいたしたい点はここであります。私はこれとまつたく反対であ
つて、現在の
情勢下におきましては、
日本の軍事力は次のようになるおそれが多分にあると
考えるのであります。それは、一、
独立国とはいえない
日本にアメリカの力でできた
軍隊は、
国民のしもべになるのではなくて、アメリカのしもべになり、(
拍手)アメリカのために奉仕する
軍隊になるのではないか。二、万一そうではなく、
日本の
軍隊になつたとしても、
民主主義に反する軍国主義の復古的な傾向の顕著な最近の
政治上、
経済上、
社会上の
情勢から見て、
国民のしもべとなる
軍隊ではなくて、東條
内閣時代のように、
軍隊が
国民の主人となる危険があるのではないか。(
拍手)三、かような
保安隊の軍事費によ
つて国民生活が
犠牲になります結果、特に中小商工業者や勤労大衆の
生活がその結果窮乏化しますために、できた
軍隊は極左党や極右党、とりわけ最近の
政府の
施策から見て、極右党によ
つて権力を奪取する力に利用される、いわゆるクーデターに利用されるおそれがあるのではないか。すなわち、再
軍備は独裁や
戦争と内乱に通ずる危険が多いと思うが、これに対する
総理の明確な見解を承りたいのであります。(
拍手)
次に治安と治安対策の問題でありますが、
保安隊の任務に関しまして、私は、
わが国の平和と
秩序を維持し、人命及び財産を保護し、海上の警備、救難等の特別な必要がある場合行動するものである、かように
理解しております。この
理解は、保安庁法を審議した際の
政府の説明の言明の言葉そのままであります。ついては、今日までかような
保安隊の行動を必要とする
事態が起つたかどうか。また、こうした
保安隊の行動を必要として、
内閣総理大臣が命令し、あるいは都道府県知事が要請するといつたような非常
事態の起ることが当面見通されるような
事態や
情勢があるかどうか。
総理は、施政
方針演説において、危険性は依然として大なるものがある、こう言われております。私は、重要な問題でありますから、抽象的でなく、具体的にどういう危険性があるか、あればそれを承りたいのであります。(
拍手)
ついでに承知いたしたいのは、行政協定の第二十四条に基く、
日本区域に敵対行為または急迫した脅威が起るおそれがあるかどうかという問題であります。これは、朝鮮戦線へ
保安隊の海、空、陸のいずれかを出動させる根拠をこの第二十四条に求めるおそれがありまするが
ゆえに、この際お尋ねをいたしておきたいのであります。
さらに、警察力を強化したり、
保安隊という
軍隊をつくるほどの治安上の不安がどこにあるか。私はないではないかと思う。
政府は、破壊活動という治安に名をかりて、警察力の
国家的統一を行
つて、権力主義を再現しようと
意図されておるのではないか、(
拍手)
政府は、暴力主義に対する治安に名をかりて再
軍備を行
つて、軍国主義を再現しようとしておるのではないか。私はこれをお尋ねいたしたい。当面の治安確保の対策として、
政府がとろうとされておる警察力や
保安隊、すなわち警察や
軍隊の力にたよろうとする治安対策に対しまして、かような対策は本末を転倒するだけであ
つて、かようなことは、かえ
つて暴力と破壊を激発することにもなるということを指摘いたしたいのであります。(
拍手)
英国について見ますと、暴力主義に対して、勤労階級はこれを
批判する広い知識と高い文化の水準を持
つておる。さらに、英国労働党によ
つて、勤労大衆は健康と文化を楽しむ
生活のできるように、
生活の向上と安定が保障される
政策がとられて参りました。ために、英国においては、暴力主義の
政治勢力は、極右であれ、極左であれ、成長する余地がないのであります。
政府は、こうした英国について学びとらなければならないのではないか。
日本の勤労大衆が暴力主義に対して
批判する広い知識と高い文化を保持しておることは、先般の総
選挙において、投票を通じて、いみじくも実証したところであります。
ところが、ここで今後の一つの問題は、勤務大衆の持
つております広い知識と高い文化の水準が引続き維持されて、暴力主義に対する
批判の目を曇らせることのないような
生活の向上と安定が保障されるかどうかということ、これが一つの問題として、われわれの前に横たわ
つております。問題はここにあるのであります。治安対策の問題はここにあるのであります。
治安対策は、警察力を拡大することではありません。軍事力を強化することではありません。しなければならないことは、勤労大衆の胃袋の真空を満たして、暴力に対する正しい
批判の目を曇らせないように、
生活の向上と安定をはかることであります。(
拍手)そうではなくて、警察力や軍事力をつく
つて、力に対して力をも
つてすることを唯一の対策とする結果、かえ
つて暴力と破壊を誘い出して、治安を乱すおそれがあるのであります。私は、警察や
軍隊に使う、治安のための、むだな、かような巨額な経費をも
つて、勤労大衆の胃袋を満たす、
生活の向上安定をはかることに使
つてもらいたいのであります。これが治安確保の要訣であると
考えまするが、
総理はいかに
考えられるか。
第三は、どうして
独立を確保して行くかという問題について、二、三のお尋ねをいたします。
日本に
独立のないことは、講和後に起つた
外交上のどの問題を取上げてみても明らかであります。
保安隊の問題はもとより、軍事基地に関して各所に起
つておる広汎なあらゆる問題や、台湾
政府の問題、裁判権の問題、艦船協定の問題、朝鮮水域の問題、中共貿易の問題等、最近起つたどの問題を取上げてみましても、
外国側の要求によ
つて政府は余儀なく行わせられておるのか、あるいは
政府みずから進んで申し出て、
外国のきげんをとろうとされておるのか。いずれであれ、
政府のかような卑屈な、屈辱的な
態度に対して、
国民の不安と不満は今や頂点に達しておるということであります。(
拍手)
国連の問題にいたしましても、
政府の施政
方針にただ一つ明確にされたことは、全幅的に国連に協力するという御意見であります。国連に対する援助
義務の規定は、この
義務づけによ
つて、いかなる協力をするかということは、
日本側の自由意思によ
つてきめらるべき問題であるのに、
政府は
外国から押しつけられた
義務だけを負わされておるように見受けられるのであります。本来ならば、
ポツダム宣言や平和
条約によ
つて、九十日以内に
占領軍は
日本を撤退すべきであるのに、
日本が関知せずして起つた朝鮮問題のために、全国的に軍事基地や労役その他の便益を提供する
義務を負うことを余儀なくされております。これがために、
日本の国土は、朝鮮の動乱に直接参加しておると同じような
事態の中にさらされております。本土を、国土を朝鮮戦線の軍事基地に提供しておるような重大な
義務を負
つておる国が、世界のどこにありますか。(
拍手)
政府は、この上さらにどのような
義務を負わなければならないとされているのか。一方、
国際関税協定参加は、英国その他の反対によ
つて、いつ加入できるか見当もつかない状態ではありませんか。
義務だけは背負わされたが、
日本の国連参加はどうなるのか。米ソの対立によ
つて、いつ加入できるか、まつたく見通しがないではありませんか。
吉田総理のこれに対する
所信をただしたいのであります。
次は賠償の問題でありますが、かように見て参りますると、
吉田総理の
外交のどこを見ても、自主
外交の片鱗をさえ見ることのできないことは、
日本のために遺憾であります。(
拍手)中共問題にいたしましても、台湾の蒋介石政権を選ぶか、それとも中共政権を選ぶか、または両政権を同一に取扱うかというような決定は、いずれにせよ、
日本のまつたく自由であつたはずである。しかるに、
吉田総理は、さきの
国会終了の直後という時期に、一片のダレス氏あての書簡をも
つて、アメリカの要請の前に屈服して、中国の本土とその民族との
経済的、友好的な国交を回復して、
経済的自立と平和を確保する
日本のための唯一の道を
政府みずから破壊するようなことをしておる。その結果、現在、アジア大陸との友好関係はますますむずかしくな
つておるではありませんか。先般来朝いたしましたアリソン国務次官補の勧めによ
つて、
政府は、施政
方針にも示されたように、まずフイリピンとの賠償の
解決を急ごうとしておるようであります。賠償を
解決しなければならないことは申し上げるまでもありません。賠償問題は、被害を与えたすべての国と公平な話合いをして、賠償国
日本と、これを受取る諸
国家が、相互の民族の利益と繁栄の基礎となるような条件によ
つて解決されなければならないのであります。わが党は、ビルマ
内閣の基盤であるビルマ
社会党との間に、ビルマに対する技術の援助をする計画を進めております。賠償問題のごときは、こうした友好関係が進められて初めて相互の利益と繁栄のために円満に賠償の
解決をすることができると信じます。(
拍手)
アリソン国務次官補が
日本に来られた目的の二つのうちの一つは再
軍備の促進、他の一つは
日本のフイリピンに対する賠償の
解決にあつたことは、アリソン国務次官補の談話によ
つて明らかであります。アリソン国務次官補の
意図したところは、単なるフイリピンとの賠償の
解決ではないと思います。賠償に次いで、アリソン国務次官補は、フイリピンと
日本との軍事的な同盟の実を結ばせる橋渡しと見られる。私は、問題はここにあると思います。さきにダレス氏が
吉田総理に台湾の蒋介石政権を承認させたと同じ巧妙な
外交上の手口であると思います。その手に乗ると、アジアにおける
日本は、韓国、台湾とともにフイリピンを加えて、中ソに対する太平洋軍事同盟に引き込まれたり、または自主中立の
方針をと
つておるアジア大陸の
諸国を向う側に追いや
つて、
日本はアジア大陸につながるかけ橋を自分みずから引きはずして、アジア大陸から孤立する危険がますます加わ
つて参るのであります。(
拍手)
吉田総理は、韓国、台湾、フイリピンとともに、
日本は太平洋同盟の前衛になろうとするのであるか。賠償問題と関連して、
総理の
所信をただしたいのであります。
次に、
総理は、マーフィー・システムという言葉が
国民の中に使われておる事実を承知されておるかどうか。これは、マツカーサー並びにリツジウエイ両司令官に次いで
日本を支配する
外国勢力の象徴はアメリカのマーフィー大使であると、こう
国民がながめておるところから起つた間違いのように、私には感じられるのであります。私は、マーフィー大使は、他の
諸国の大使、公使と同じように、
外交の交渉並びに自
国民の保護監督を職務とされ、
一般の
国際慣例の上で認められておる
外交使節の特権免除以外の特別の自由または権限を持たれるものではないと承知をいたしております。ところが、
外交交渉または自
国民の保護監督を職務とされる
外交使節たるマーフィー大使が、今日まで、あらゆる機会において、日米の友好のためとして発せられた言動の中には、
外交使節としての職務を逸脱せられて、一国のための一方的な宣伝とも聞え、または
日本の内政に干渉するかのごとき印象を与えるものがあ
つたのではないか。(
拍手)マーフイー大使に対する誤解が、かようなところより起つたといたしますならば、
事態はいずれにいたしましても、日米の平等の上に立つた、日米の友好的な国交の樹立が、
国際関係の樹立が特に強く
国民から要求されております今日、私は、マーフィー大使に対する
国民の誤解をただすことは、正しい
日本の国交を樹立するために日米の関係を円滑にするために必要ではないかと
考えますが、これに対する
総理の所見をただしたいのであります。
私は、ここで私の
質問の方向をかえて、自立
経済と
国民生活安定の問題について二、三のお尋ねをいたしたいのであります。
真の
独立、真の平和という問題は、
外国の資本に依存し、または従属してお
つて、
独立国家、自主
外交を裏づける
経済の自立がなければ、むずかしい問題であると思います。何と申しましても、国内の資源を開発して産業を振い興し、そうして安い原料を輸入して、安い、よい品物をたくさん輸出して自立
経済を立て、働く人たちの
生活水準を引上げて、その
生活を安定向上させなければならないことは当然であります。しかるに、世界の
情勢を見ますと、西欧
民主主義側の
軍備拡張第一主義の軍需
生産計画が今日停滞をいたしましたために、世界的不況はここに起
つております。これは
総理といえども、すでに承知されておるところと存じます。今後、世界がどのような
努力を払うといたしましても、一九五三年末を頂点として、その後は漸次下向く、下降線をたどることは疑いなく、来年下半期において、重大な軍需
生産の行詰まりから起る世界
経済の危機がおそれられておるのであります。現在のかような軍需
生産の停滞から起つた慢性的な世界的不況の中で、西欧資本主義
国家陣営は、再びブロツク
経済化の傾向を顕著に見せて参りました。なかんずく、軍需第一主義を捨てて、貿易第て主義をとるに至つたイギリスは、連邦主義のブロツク
経済のかきねを強化し始めております。
日本商品の中共への進出をはばんでおりますアメリカも、
日本商品に対して関税の障壁を引上げようとする状態であります。
こうした
世界情勢の中にあ
つて、現在の
日本の
経済は、不況を続けながらも、どうにか横ばいの均衡を保
つております。この横ばいの均衡は、朝鮮の特需や、お気の毒な婦人のドルかせぎによ
つてささえられておるのではありません。わずかに現在の横ばいの不況をささえておる主たる力は、長年にわた
つてドツジ・ラインの不景気
政策と闘
つて来た勤労大衆のたまものであることを、われわれは知らなければなりません。(
拍手)ドツジ・ラインの低賃金の重石を、勤労大衆の必然の要求による賃上げでじりじりと押し上げ、
国民全体の
生活水準をここにようやく幾らかでも引上げて、国内の消費力を次第に高めて、大衆的な購買力が横ばいの不況をささえておるのであります。勤労大衆の労働による
生産とその報酬によ
つて横ばいの景気が主としてささえられておる事実について、私は
国民と
政府にその注意を呼び起したいのであります。しかしながら、この横ばいの均衡も、もはやくずれ始めました。かような軍需
生産第一の
経済の行詰まりから起つた慢性的な世界的不況と、国内の横ばいの破綻という状態に対して、
政府の見通しと、どういう対策をとられようとするのであるか、軍需
生産か、貿易の発展か、ともかくどうするのか、具体的な対策をまず大蔵大臣にお尋ねいたします。
次にお尋ねいたしたいのは、慢性的な不況対策とも関連する問題でありますが、私は当然
政府は建設的な
長期計画を持たなければならないと存じます。しかるに、
政府は、何らこうした建設的な
長期計画、どういう方面に、どうしてや
つて行くか、
基本的な
方針、
政策を何ら持たれておらないようである。ただアメリカの指示のもとに、行き当りばつたりの
財政経済をや
つておられるにすぎない。寄席の落語に、ちんばの馬と、めつかちの馬に乗
つて道中する
お話がございます。(
拍手)私は、
政府の
財政経済は、ちようどこの落語の話のように、ちんばの馬と盲の馬に乗つた
財政経済ではないかということを遺憾に存じます。
現にここに提出された補正予算案を見ましても、この補正予算は、当然
政府の
長期計画の一環として、昭和二十八年度
一般予算案の前提となる性質のものであるにかかわらず、ただ
政府の来年度の軍事費をまかなうために財源を蓄積したというだけの、まことにおそまつな、行き当りばつたりの補正予算案をわれわれが見ることは、はなはだ遺憾でございます。
政府は、一体いつまで、かようなアメリカの軍事援助に依存しておるのか。いつまでも軍事援助に依存をしないで、
国家の
独立を保障することのできるように自立
経済を立て、
長期にわたる建設的、
基本的な
方針、
政策をどうしてお立てにならないのであるか。あるならば、お示しを願いたい。(
拍手)
最近、アメリカの国務次官補、あるいは相互安全保障本部副長官、あるいは世界銀行の調査員の一行が来朝された際、
政府は、
国際収支の見通しや、産業状況の推移と関連して、五箇年または十箇年の
長期計画に関する資料を提出されたと聞いております。その資料は、
政府がそういうものをあいにく
用意されなかつたために、あわてて一夜づけの資料に基く計画書を提出されたということであります。あわててつくつたといたしましても、
外国人に渡す計画や資料があるなら、私は
国民や
国会にお示しを願いたいと思います。(
拍手)同時に、この資料は十箇年にわた
つてアメリカの軍事援助に依存をしておるものであると伝えられておりまするが、池田通産大臣にお尋ねしておきます。
次は、同じようにこれと関連いたしまして、いかようにりつぱな計画をお立てになろうが、その計画や
施策が、現在やられておるように、大産業本位、大資本家本位のものであ
つては、それは実現性のない、机上の計画といわなければなりません。
日本のような劣悪な
経済条件の国土において、アメリカのように資本主義王国を築こうなどという、か
つての自由主義をもう一度
日本本土に再現しようということは、空中楼閣をつくるか、うのまねをするからすのような、ばかげたことである。劣悪な
経済条件のもとで、各国との競争に耐えて堅実な
経済を立て、産業を興して参りますには、産業の
生産者たる労働者や農民その他の勤労大衆が、健康的で、文化的で、安定した
生活を営んで、だれもが喜んで働くことができるように、
生活の安定を第一にすることでなければならないと存ずるのであります。(
拍手)
私が特に
政府や
国会の注意を呼び起したいのは、何とい
つても、
日本の現在と将来の運命を背負
つて立つ
生産の担当者として、租税の負担者として、国の柱である勤労階級の
生活の安定向上を第一に計画
施策の
基本にしなければならないということであります。こうした勤労大衆は、
生産は戦前の一四〇%にふえておるが、蓄積資本率も、企業利潤も、それにつれてふえておりまするが、勤労者の
生産性も高ま
つておるが、ただ
生活の水準が、
政府の資料によりますれば、戦前に比べてわずかに八〇%にすぎないのであります。(
拍手)当然払わなければならない年末の手当も、賃金の引上げも、ストライキをやらなければ上げないというようなこの
事態に対しまして、私は米価を石一方円にして、消費者の価格をすえ置いて、国庫で補償する二重価格
制度をと
つて、働く農民を保護する、あるいは中小企業に歳末にあた
つて思い切つた対策をとるとか、勤労大衆が健康で文化的な
生活ができて参りますように、
生産に挺身できるように、
政府はその最低
生活を当然保障する問題を法制化すべきであると存じますが、これに対する
政府の所見をただしたいのであります。(
拍手)
私の最後のお尋ねは、自立
経済の基盤をどこに置くかという問題、これはきわめて重要な問題であると思います。
政府は
外国の特需や再
軍備を裏づける軍需工業の兵器
生産と、アジアの貿易の発展、この二つの面をその基盤に求めようとされておるように見受けられます。そういたしますと、軍需
生産ということと貿易の発展ということは、私は現在の条件のもとにおいては両立しない二つの対照的な命題であるということを
政府に知
つてもらわなければならないのであります。(
拍手)ちようど再
軍備と
生活の安定が両立しない、大砲とバターが両立しないで、
軍備拡張と再
軍備のために
国民の
生活が
犠牲にされておる。このことは、ヨーロツパにおいても、アジアにおいても同じでございます。両立しない両面に
経済の基盤を置こうとするところに、今日の
政府のと
つている
経済政策の誤りがあるのではないか。
なぜ両立をしないか。一方において貿易の発展に
重点を置くといたしますれば、電力、海運、造船の平和的な基幹産業を拡充強化して、次いで輸出商品の
生産を第一にしなければならない。それと同時に、安い原料と広大な市場を、中共を含めたアジア大陸に求めなければならないことは、これは当然でございます。(
拍手)これは、
外国の人が何と申しましようとも、
日本の自立
経済と
国民生活安定向上の必須条件であるということは、われわれ
日本人が、
外国人に教えられなくても、一番よく知
つておるところであります。(
拍手)他方、兵器
生産に
重点を置くとなると、
財政上、
国民生活だけではなくて、商品としては平和産業、企業形態としては中小企業を
犠牲にいたさなければならぬことは、現在特需を中心とする軍需
生産のために、すでに繊維は恐慌状態に入
つておるではありませんか。
その他、あらゆる輸出の平和産業が兵器
生産の
犠牲とな
つておるこの事実、こういう両立しがたい二つの面に対しまして、特に現在の
日本が
外交と内政が切り離しがたい一体の条件に制約されておるという現実を、われわれは無視できないのであります。(
拍手)
政府が
外交政策をどのように粉飾し、おめでたい宣伝をされて参りましても、
日本がアジアにおいて孤立して、みなし子となりつつある現状、これは
政府より
国民が一番よく知
つておるところであります。(
拍手)米ソに対して中立の
外交方針を堅持するインドやビルマ、インドネシアの東南アジアや、中共、北鮮は言うまでもなく、アジア大陸のどこの国、どの民族とも心から解け合つた友好関係がない。アメリカの衛星圏の中の韓国、フイリピン、それさえ、現在の
日本の
政府の
施策に対して疑いの目を持
つておるというのが、今日アジアにおける
日本の置かれた、みなし子の実態であります。(
拍手)これは、軍需
生産第一の
経済体制をと
つて朝鮮の特需と再
軍備を進める
経済政策を推進するアメリカ一辺倒の
日本の屈辱的な
外交の結果、どこの国とも、アジアにおいて相入れないために、アジアにおける孤立に陥
つておるのであります。同時に、アジアにおいて、アジア大陸との関係がよくないために、安い豊富な品物をつく
つてアジアに輸出する品が少いために今日の
事態が起
つておるということを、われわれは見のがすことはできないのであります。(
拍手)
従つて、こんな状態で進むと、韓国と台湾とフイリピンと、それに
日本が加わ
つて、アメリカ衛星圏だけがアジア大陸から切り離されて、しよんぼりと太平洋に取り残された、みなし子となり行くことを覚悟しなければなりません。(
拍手)
政府は、かような
事態に対して、自立
経済の基盤を軍需
生産に置くのであるか、貿易の発展に置くのであるか。
政府は、米ソの対立に対し、アメリカ一辺倒の
外交から、自主中立の
独立国日本の
外交を立てて、現在の貿易の発展に対する
外交の
施策を行う意思はないかどうか。
軍備第一主義を捨てて、貿易第一主義に進みつつある英国の、賢明にして著名な一
政治家は、こう言
つている。イギリスがアメリカの兵器を製造している間に、アメリカは海外市場を広げて行
つている、しかも、この海外市場を
犠牲としているイギリスの兵器
生産は恐るべき
戦争に直結している、こう言
つている。
私は、
国民と
国会に、この演壇から宣言する。地球から
戦争を断ち切ること、そうして祖国
日本の
国民の
生活をほんとうに安定させて人類に平和をもたらすこと、その道は
日本社会党の
政府のもとに
社会主義を断行する以外にないということであります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇〕