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1953-03-13 第15回国会 衆議院 法務委員会 第29号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十八年三月十三日(金曜日)     午前十一時六分開議  出席委員    委員長 田嶋 好文君    理事 松岡 松平君 理事 松山 義雄君    理事 小畑虎之助君 理事 田万 廣文君       佐治 誠吉君    福井 盛太君       古島 義英君    松永  東君       大川 光三君    後藤 義隆君       長井  源君    古屋 貞雄君  出席政府委員         法務政務次官  押谷 富三君         検     事         (刑事局長)  岡原 昌男君         法務事務官         (入国管理局         長)      鈴木  一君  委員外出席者         厚生事務官   実本 博次君         判     事         (最高裁判所事         務総局刑事局         長)      岸  盛一君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  連合審査会開会に関する件  外国人登録法の一部を改正する法律案内閣提  出第七六号)  刑事訴訟法の一部を改正する法律案内閣提出  第一三〇号)  人権擁護に関する件     ―――――――――――――
  2. 田嶋好文

    田嶋委員長 これより会議を開きます。  刑事訴訟法の一部を改正する法律案を議題といたします。質疑を続行いたします。押谷政務次官
  3. 押谷富三

    押谷政府委員 昨日委員長からお尋ねに相なりました刑事訴訟法改正において人権尊重の面からいかなる配慮がなされているかという点につきまして私よりお答えいたします。  今回の刑事訴訟法改正におきましては、立案方針として、現在行われている刑事訴訟法が、旧刑事訴訟法人権をあまり尊重されておらない不都合の面を根本的に是正しておりますので、この現行法の美点はあくまでも尊重し、その建前はくずさずにやらなければならぬという大方針のもとに立案をいたしたのでありますが、現行刑事訴訟法が制定されました当時においては、非常に急速の間になされましたために、改正の行き過ぎがあり、わが国の国情に沿わぬ点も相当ありますので、このことが実施四箇年の経過に徴して明らかになりましたから、そこで、やむを得ないと思われる最小限度改正をここに企てたのであります。今回の改正案は一方においてはなるほど人権制限を加えている面はありますけれども、また他面におきましてはその点に非常に配慮をいたした点が相当多いのでございます。これを列挙してみますれば、捜査の適正をはかるために、警察官に対する一般的指示権規定を明確にいたしております。また逮捕状発付につきまして検察官同意を必要とする制度を設けております。また控訴審における審理を丁重ならしむるための配慮をもいたしておるのであります。上訴権放棄制度を設ける、あるいは刑の執行順序の変更及び執行停止方法を明らかにいたしております。訴訟費用につきましても、前払いをなし得ることを明らかにいたしました。あるいは費用免除について有利な規定をつくつておる等の諸点があげられるのであります。人権に対しましては従来よりも制限が加えられたという面は見受けられますが、それについてはそれぞれ各規定に厳格な条件を付しまして、いやしくもこれを濫用することのなきように法文明定をいたしておるのであります。これらの詳細につきましては刑事局長より御説明を申し上げるこつとにいたします。  またその運用の面におきましては、本法案国会を通過いたしまして、いよいよ実施段階に入りますれば、この改正法趣旨を徹底させるために、人権尊重の面に従来以上の配慮をなすべき旨を指示するために訓令、通牒を出すとかまた会同などによりまして親しく指示する予定をいたしておるのであります。
  4. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいま政務次官より大綱、大方針お話いたしたのでございますが、なおそれらにつきまして、若干敷衍いたしますれば、人権保障あるいは尊重の面を特に取立てて規定いたしてございます改正規定は、第一には、百九十三条のいわゆる警察官に対する検察官一般的指示権規定を明確化いたした点でございます。この点は先ほども説明いたしました通り公訴の適正をはかるためには、その前段階であるところの捜査がまた適正でなければいかぬ。しかも、捜査公訴というものは、一体不可分の関係にあるという見地からいたしまして、最も法律的に詳しくかつ教養もあり、常識も発達しております検察官において警察官に対する一般的準則を与えて、その方針にのつとつて捜査を適正にやるようにということを明らかにした方がよい、これが百九十三条の改正趣旨でございます。  第二は、逮捕状司法警察員が請求いたします際に、検察官同意を要するということでございます。この点は従来ともすれば警察におきまして、いわゆる頼まれ事件、民事くずれの事件あるいは純然たる民事の事件といつたような事件あるいはその他つまらぬ事件を種にいたしまして、逮捕状をもつて本人にいろいろなことを強要するというふうなことがございました。これは在野法曹の間でもいろいろ問題になつてつたのであります。前国会でございましたか、やはりこの問題が取上げられまして、何とか今度の刑事訴訟法改正の際にはあわせて考慮をするようにというお話もございました。そこでこの点も法制審議会に諮りましたところ、法制審議会の各委員の御意見も、これは当然必要であるということから、今回百九十九条の一部を改正いたしまして、通常逮捕逮捕状請求の際には、検察官同意を得なければいかぬという規定を入れた次第でございます。御承知通り検察官相当忙しくて事件の一々こまかいところまであるいは目が届かぬかもしれませんけれども、少くとも警察官から相談がありました事件については、これが身柄を拘束して、調べるべきやいなや、法律的にそれが犯罪を構成するかどうかという点についての判断は、ほとんど完全にといいますか、即座になし得る立場にあるものであろうと存じます。そこでかような点について検察官には若干の負担をかけるわけでございますが、人権保障のためには、これは当然検察官がその責を負うべきものであるという見地から、この百九十九条の一部改正を企てた次第でございます。  次は控訴審審理を丁重にするといいますか、控訴審において第一審の審理過程に現われなかつた事実をもなおかつ審理の対象にすることを明らかにいたしました趣旨は、従来たとえば判決後に弁償ができた、ところがこれを真正面から弁償の事実を本人の有利に控訴審で援用することができなかつたわけでございますがこれを真正面から取上げて本人の有利に事を運んで行くことができるようにいたした点、あるいは第一審の審理過程に現われなかつたけれども、その当時すでに存在しておつた事実であつて、やむを得ない事情でそれが、調べができなかつた従つて第一審の判決の際には、それをしんしやくすることができなかつたという事実が客観的に存在する場合もございます。さような場合にその事実がわかりますれば、本人には当然有利な判決があるべきであるという場合には、それをしんしやくして控訴審判決をすべきであるという見地からいたしまして、今回の三百八十二条の二という条文でそれらの点も解決してあるわけでございます。  さらに第四点は、上訴権放棄規定を設けました。これは従来被告人側において判決の内容に全部不服がない、この判決をそのまま受けてさしつかえないということがございましても、十四日の上訴期間の間はそのまま未決の形で本人は入つておらなければならぬことになつておるのでございます。しかしながらこれは本人意思にも反することでございまして、本人同意してなるべく早く勤めて、さつぱりした気分に早くなりたいということも相当ございますので、さような場合には本人が書面をもつて放棄をいたしますれば、その放棄の効力によりまして、即座に刑が確定いたして執行にとりかかり得る。従つて本人は早くさばさばした気分になつて刑執行を終えることができる、かような点も三百五十九条以下に改正をいたした次第でございます。  第五点は、刑の執行順序を変更いたし、執行停止規定等を整備したのでございます。これは、従来重い刑と軽い刑がございます際の執行順序がちやんときまつておりまして、変更する場合には、検事総長または検事長の承認を経なければならぬことになつてつたのでございますが、これは本人が一定の刑でもう少しで仮釈放になり得る、あるいは執行停止にしなければいかぬというような、たとえば病気のような場合でございますが、さような場合に、一々遠方の検事総長検事長指揮を受けておつたのでは間に合わぬ場合がございますので、これはなるべく早くはつきりさせる。現地の検察官だけでその執行順序が変更でき、即座被告人を、刑務所から執行停止またはその他の手続で出し得るように配慮をいたしたわけでございます。  第六点といたしましては、訴訟費用の点について三点ばかり改正いたしましたが、その第一は百六十四条関係でございまして、従来証人等訴訟費用についての前払い規定がやや不明確でございました。その地その地によりまして前払い規定が活用されておらなかつたのでございます。従つて重要な証人でございましても、本人が金がないために法廷に出かけぬという場合が事実あつたのでございます。さような場合には前払いをしてやつて、支障なく法廷で証言ができるようにいたしたのでございます。また訴証費用免除につきましても、従来は一審、二審、三審と、それぞれの訴訟費用言い渡し裁判所免除申請をしなければならぬことに相なつておりました。かようなことになりますと、たとえば上告審で確定した、しかも一審、二審、三審とも訴訟費用言い渡しがあつたというような事件においては、本人免除を申し立てようとすると、それぞれの三箇所の裁判所にその申立てをしなければならぬ。これはたいへん不便でございますので、さようなことを除くために五百条を改正いたしまして、いずれ裁判所規則でこれをどこかの一箇所で便宜まとめて、その免除申請ができるように、かような配慮もいたしたわけでございます。また訴訟費用免除につきまして、従来は一応判決言い渡しの際に訴訟費用言い渡しをして、あと免除をするということになつてつたのでございますが、初めから本人がとうてい訴訟費用負担に耐えかねるということがわかりました際には、第五百条の規定によりまして、あと免除申立てをするというよりは、むしろ判決言い渡しの際にその全部または一部を免除するということを初めから言つてつた方が親切であろうということから、百八十一条の改正をいたした次第でございます。以上の諸点はいずれも本人人権保障について、従来に比し、さらにこれを有利に取扱つた面でございます。  さて他方におきましては、たとえば起訴前の勾留期間延長、あるいは権利保釈除外事由の追加、あるいは勾留期間更新等につきまして、若干の制限を加えてございます。但しこの点につきましては、たとえば起訴前の勾留、二百八条の二の関係につきましては、法文自体においてこれをまず重い罪に限定し、さらに犯罪証明に欠くことのできない関係人または証拠物が多数の場合に限定しておる。さらに従前の期間内には検察官がどんなに努力しても取調べを終ることができないという状況にある場合に限り、また釈放後ではその調べができかねるという場合、さようなことを裁判官が判断して初めてやり得るというふうにしてございます。また延長期間裁判官裁量により初めから五日ではなくて、小刻みに行われるようになつております。さらに勾留の取消しを何どきでもできるという規定が八十七条にございます。この期間の点につきましても、法制審議会において十分論議を尽した結果なされたものでございます。一方においてこの起訴前の勾留につきましては、従来あと二、三日で調べが済むというふうな場合に、その二、三日が調べができないために、まあこの辺で起訴しておこうという場合もなきにしもあらずでございました。検察庁としてはほんのわずかの二、三日のところが非常につらかつたと申しておりますが、この五日だけでもある程度厳格に運用いたしまして、さような不便の点を除くことができるのではないか、かように存ずる次第でございます。もとよりこの点の運用につきましては、従来以上に厳格にいたしたいつもりでございまして、従来の実績にかんがみますに、勾留が十六日以上に延長された割合は、全勾留事件のわずか一六%にすぎないわけでございます。つまり大部分は十五日未満で片づいておるのでございます。また一方において本条が予想するような実際の多衆犯罪というものは、昨年あたりの実例に徴しましても、そうたくさんはないのでございます。いわゆる多衆犯罪のテイピカルなものであるところの公安事件の統計などを見ましても、昨年度百件未満でございまして、このうち本名以上の被告人、つまり起訴された事件は、三十数件にすぎないのでございます。たとえば印藤巡査事件とか、蒲田の事件メーデー事件、岩之坂の派出所襲撃事件横川事件、高萩の職安事件辰野地区署襲撃事件、それから神奈川事件吹田事件枚方事件云云とございますが、そういつたような大きな事件を予定しておるのでございまして、こまかい点につきましては全然考えておりません。  次に権利保釈の点につきましては、この改正規定自体の中において、第一には、除外事由に当るかどうかは、裁判所が客観的な資料に基いて認定することになつております。またこの権利保釈から除外いたしましても、第八十八条、第九十条の裁量による保釈は、もとより制限するわけではないのでございます。また権利保釈の点について輿論調査をいたしました結果は、お手元にお配りしてございまするが、輿論におきましてもある程度権利保釈は厳格にすべきものであるという輿論が出ておるのでございます。むしろさような本条程度の拡張はやむを得ないという一般輿論でございます。  さらに保釈を許さない決定に対しては、抗告ができるといつたような保障ももとよりございます。また第四号の多衆共同しておるというようなことにつきましても、ただいま言つたような特殊な事件のみでございまして、そのような法分上の体裁からも、いろいろな制限が加えてあることを御了承願いたいのでございます。  他方、この規定運用につきましては、もとより裁判所においても事件迅速処理について十分くふうを凝らしておられますことは、御承知通りでございます。また裁判所から検察官に対して意見を求める場合におきましても、検察官は従来以上具体的に事件を聞きまして、形式的にこれをはねるということなしに、最近は保釈すべきものは「しかるべく」あるいは「相当」という意見をつけるようになつておりまするし、具体的な事情々々に応じままして、検察庁も十分この点に協力して行くはずでございます。また第六号関係恐喝、いわゆるお礼まわりの点でございますが、これはこの前御説明申し上げました通り、実際にその弊害が非常に大きいのでございまして、これは恐喝犯人あるいは朝鮮人関係その他若干はありましようが、特殊な場合だけの規定でございます。  さらに勾留期間更新の点につきましても、八十九条の関係がございますので、ちようどただいまと同じような保障が全部あるだけでございます。さように人権制限するという面につきましても、従来の規定をただ野放しにはずしたのではないのでございまして、それらのはずされるその反面の配慮は常にいたしてあるつもりでございます。以上簡単でございますが、御了承願いたいのでございます。
  5. 田嶋好文

    田嶋委員長 質疑の通告がありますからこれを許します。福井盛太君。
  6. 福井盛太

    福井(盛)委員 ただいまの岡原政府委員説明によりまして、私の考えておる点も大分氷解して参つたのでありますが、今回のこの刑事訴訟法の一部を改正する法律案につきましては、昭和二十四年一月以来施行されておりまする現行刑事訴訟法につきまして多年実際に運用した結果、その長をとり短を補うということに十分なる御注意があつたということは、私もよくわかります。私も多年の弁護士生活、並びにわずかでありまするが検事生活をして来ました結果、この刑事訴訟法につきまして、現行刑事訴除法については少からず改正を要する点が考えられておつたのでありまするが、今回のこの改正にいたしましても、私の平素考えておりまする要点が大体において上せられておりますので、私はこの点については満足するのであります。委員長からも昨日説明があり、さらに今日岡原政府委員よりあらためて具体的な点について人権尊重しなければならぬ点と、この改正要点等につきまして御説明があつたのでありまして非常に意を用いられて慎重調査せられたことは私もよく了解できます。そこで私は考えておるのでありますが、いかなる法律も、何と申しましてもやはり運用の面においてよろしきを得なかつたならば、何の役にも立たないのであります。先ほど御説明を聞きますと、運用の面につきましては訓示等を厳重にしてということでありまするが、われわれが注意しておる人権ということと齟齬はないように、捜査ということはややともすると人権に直接の関係を持ちまするのでむずかしい問題でありまするから、それらの点につきまして訓示のほかに何かもつと方法がありやしないか、お考えがあるのではないかということをお聞きしたいのであります。これは運用する人いかんによつて非常な結果を生ずるのでありますから、第一に私はその点を何かとお考えを願うと同時に、その点に対する御答弁を願いたいと思います。  それから人権尊重のことについて非常に御考慮をせられた結果、起訴前の勾留期間今までの二十日間を、見方によつては長いことになりますが、わずか五日間延ばされておるのでありますが、私の憂うるところは、これが人権尊重するということから来たことであろうということは十分わかるのでありまするけれども、特殊な犯罪に対しては二十日間をもつてしてもなお捜査困難であるのにかかわらず、五日間延ばしてもその目的を達するということはきわめて困難なことではないかと思うのであります。これも運用に直接関係のあることでありまするので、五日間ということをどういうところからお考えになつたのか。私をもつてすれば、少くとも運用さえよろしきを得るならば弊害はないのでありまして、五日と切られたというのはどういう点にあるのか、御意思のところは多分そうであろうと想像はできるのでありますが、ちよつと承りたいのであります。  それからいま一つ、これはきのう岡原政府委員からるる説明があつたのでありまするけれども、私どもが実際上また理論上考えさせられておりましたのは、警察官がただちに判事の令状執行してやつておるということで、この点はいかにもよろしくないことである。検察官もこの警察職員も一緒になつて捜査に当ればこそ捜査の完全を期することができるのに、知らない間に警察官令状によつて捜査をしておるというようなことはまことに困つたことである。この説明の中にも書いてある通り、地方によつてはまことによく行つておるところもあるのですけれども法律の解釈上そういうことのよく行つてないところもあつたのでありますが、この点が改正されたことはまことにわが意を得た感じがするのでありまして、これも人権尊重した大きなたまものであると私は考えまして、政府の案に賛成するのであります。この点につきまして、検事同意を得た場合においても、なおかつ裁判所はこれを却下することができるように相なつておるように思われるのでありますが、これはむしろ検事同意を得た事項については裁判官は必ず許す、そういうふうにやつた方がいいのではないかと考えるのであります。まずもつてこの三点につきまして岡原政府委員により御説明を承りたいと思います。
  7. 岡原昌男

    岡原政府委員 この法案通過後の実際運用につきましての配慮は、この法律趣旨とするところを十分徹底させるためにいろいろ、指示訓示、通達も出すつもりでございますが、他面この法案運用自体のみならず、広く検察官法律運用に対する心構えといつたものについても深く思いをいたすべきことを考えております。この点につきまして昨日も大臣が述べたのでございますが、検察官教養訓練については非常に慎重な態度をとつておるわけであります。現在やつております訓練状況を申し上げますと、これは検事正訓練を受けるのでありますが、検事正あるいは高検の次席、地検の次席といつたような高級の検事につきましても、年に一回くらいは中央に招集して、諸般法律問題あるいは法律運用するについての心構えの問題あるいは一般的な教養問題等につきまして隔意のない研究、懇談を遂げまして、これは大体十日前後に訓練がわたるわけでありますが、これによつて相当大きな効果をあげております。また中堅の検事につきましては、年に数回二、三十名ずつ中央に集めまして、これまた法律の実務を中心として人格の陶治教養訓練等の面につきましても十分なる配慮をいたしております。この期間は大体一月にわたります。さらに副検事につきましても大体年に五、六回訓練をしておりますが、これは御承知通りいろいろ問題がある制度でございますので、検察官以上に重点をおいて、単に法律技術のみならず、検察官としての最も大切な心構えについてほんとうに手をとつて指導するということをいたしております。その結果、若干ずつではありますが、副検事素質も向上しておるように考えられるのでございます。法律を一つ出します際には、単に法律の当面の運用のみならず、広く検察官の全般的な素質の向上という点についても、あわせて法務省におきましては非常に真剣に考えておりますことを御了承願います。  さらにただいま研究中の問題といたしまして警察官適格審査会設置の問題があります。これは現行刑事訴訟法第百九十四条におきまして、司法警察職員検察官指揮または指示に従わなかつた場合の手当が欠けておりますので、これを何とか補充しなければいかぬということと、他面において警察官等にいろいろな非違のありました点を十分に調査するという機関を置くことは望ましいことではないだろうかという観点からいろいろ研究をいたしておりますが、諸般の情勢でまだ国会の御審議を仰ぐ段階には達しておらないのでございます。しかし私どもとしましては、これも真剣に研究している問題であることをつけ加えて申し上げたいと存じます。  次に勾留期間延長につきまして、第二百八条の二に掲げる五日という期間は短いのではないかという御質問でありますが、事件いかんによりましては、なるほどお話のような事態も確かにあるわけであります。そのゆえをもちまして検察庁方面におきましてはぜひこの五日間という期間を十日ほしいということを申しておるのであります。しかしながら他面この捜査というものが人権の面に最も強く出て来るのが、身柄の拘束という問題でありまして、この身柄勾留ということはいやが上にも愼重にしなければいかぬということで、さきの法制審議会におきましても、十分議を練りましたけれども、結局五日が適当であろうということで五日ということになつたわけでございます。この五日の問題については、現在の警察におきます四十八時間の捜査期間検察庁において二十四時間の時間及びそれから二十日に加える五日でありますので、合計二十八日ということになるわけでございまして、かれこれ一月になんなんとする間人身が拘束されるということでございますので、何と努力いたしましてもこの期間内には、ぜひさような事件はまとめて行きたいという配慮のもとに、なるほど捜査上の不便は若干ございましようけれども、その点は何とか検察庁の方にもがんばつていただいて、ぜひこの五日で仕上げるようにしていただきたい。かようにお願いしてある次第でございます。一方におきまして御承知通り検事の人員も若干ながらふやしつつございます。昨日大臣からもお話のありました通り、従来検事の陣営が非常に手不足で、かような捜査の能力が低下しておつたのでございますが、昨年あたりから司法修習生の検事志望が例年七十名前後ずつあるようになつて参りました。欠員も大分ふさがつて参りましたので、この際副検事の定員をそちらに振り向けまして質のよい本来の検事をもつて捜査に従事させるということが漸次可能になつて来たわけでございまして、この点からも検事の全般的捜査の能力も増大いたすと思いますので、当分の間この五日ということで何とかがまんしてやつてもらうようにというふうに考えておる次第でございます。  次に逮捕状の請求につきまして検察官同意がなかつた場合には、法文上に書いてあります通り裁判所はこれを却下することができる。今度は同意があつた場合はどうかということでございますが、裁判官検察官同意がありましてもさらに逮捕状発付の要件が備わつておるかどうかというものを全部審査いたします。慎重の上にも愼重を期してその発付するかいなかを決すべきものであると考えております。ただ今度の条文といたしましては検事同意がなかつた場合には、裁判官発付しないことができるという点だけに限定して法文を書いてある次第であります。
  8. 福井盛太

    福井(盛)委員 ただいまの場合ですが、検事同意した問題について判事が慎重調査の結果許可すべきものでないということになつたときに、別にこれに対して異議とか抗告の道は検事の方からはないのですか。
  9. 岡原昌男

    岡原政府委員 これは四百十九条につきましての普通の抗告が許されることになるわけであります。
  10. 福井盛太

    福井(盛)委員 よくわかりました。
  11. 古島義英

    ○古島委員 関連して。私は反対の意見を述べたい。今の福井君の御質問では、検事同意したものに向つて判事は拒否することができないことにしたいという希望のもとに御質問があつたようであります。ところが私は、検事一般的に同意を与えるというようなこともあり、また場合によると全部幾枚も白紙の同意書をこしらえておくという心配もある。そういうときには従来警察が直接に逮捕状を請求するのとごうも違わずにできるということになるのであります。はなはだしきに至ると場所によつて逮捕状を白紙で出しておく場所もあつたのであります。驚くべきことでありますが、判事が判をついて逮捕状をそのまま白紙で出す。それに書き込んでやつたというような例もあります。いわんや警察が同じ仲間である検察官同意をとつておくというようなことはあり得ることでありますから、むしろ警察逮捕状の請求ができない、検察官をして一本でやらせるということがいいのではないか。同意するだけの時間があれば、やはり逮捕状を求めるという予告が警察の方からあれば、検察官の手元からこれを求めるということが間違いがなくて一番いいことだと思います。その点について何か議論がありましたか、そういうふうなことを考えてみたか、そこを承つておきたいと思います。
  12. 岡原昌男

    岡原政府委員 この点はいろいろ議論がありまして、ただいま古島さんからお話のような説もございました。現在の逮捕状発付状況その他から考えまして、あるいはお話のような議論も立つと存ずるのでありましてごもつともな御質問と存じます。ただ私どもといたしましては、警察はやはり現在の訴訟法の建前といたしましては第一次の捜査官、捜査責任者ということになつておりまして、検察官はそれを補うといいますか、第二次的な捜査責任者というような全般的な構成になつておるわけであります。従つて警察官に対しまして全然逮捕状の請求権を認めないということにいたしますと、その建前ががらつとかわつて参るわけなのであります。そこで警察官にも逮捕状の請求ができる。しかしこれを濫用してはいかぬという面からかような百九十九条の一部改正考えた次第でございます。
  13. 古島義英

    ○古島委員 警察官は第一次の捜査係であるということはよくわかりますが、万やむを得ない場合においては緊急逮捕をすることができます。そうすると緊急逮捕をする場合には、逮捕状を求めることができないというような場合であるのでありますから、検察官をして逮捕状を出してもらう。検察官が請求するが、検察官に通告するいとまがない、あるいはまたそれでは犯人に逃げられるというような心配のあるときは、ただちに自分の方で緊急逮捕をして、緊急逮捕に同意を得ればよいのである。それを承認していただけばよいわけでありまして、この点は十分補い得られると思う。
  14. 岡原昌男

    岡原政府委員 緊急逮捕と通常逮捕との関係でございますが、お話のように通常逮捕が非常にきゆうくつだというふうなことになりますと、警察は何でも緊急逮捕でやつてしまうのじやないかという心配はごもつともで、その通りでございます。私どもといたしまして従来の実績を調べてみましたが、一昨年の十月一箇月間の全国の逮捕状発付とその執行の統計をとつたのでございます。それによりますと、通常逮捕が二四%、それから緊急逮捕が九%と相なつておりまして、その合計が約三三%、つまり全体の三分の一が結局逮捕状の出た事件になるわけでございます。現行犯は大体三二%ございました。あとは在宅が三五%、大体三分の一で、在宅、現行犯逮捕とそれから通常緊急逮捕というような形になつておるわけでございます。そこで今度百九十九条でかような制限が出て参りますと、警察官は、そんなきゆうくつなことなら緊急逮捕でやつてしまえというふうなことにならぬかと非常に心配はしておるのでございますが、従来の実績から見ますと、緊急逮捕をするには、緊急逮捕をするに要する二百十条のいろいろな制限がございますので、このいろいろな条件に合致しない場合に、これを緊急逮捕として逮捕することはもとより違法でございますし、さような際にはあと逮捕状をもらうというようなこともできないと思いますので、従つてかような点について著しい濫用というような弊には陥らぬものと期待しておる次第でございます。
  15. 田嶋好文

    田嶋委員長 ここでちよつと申し上げますが、最高裁判所刑事局長説明員が最高裁判所長官の代理として御出席になつております。また総務局第二課長磯崎説明員も来ておりますからお含み願います。
  16. 古島義英

    ○古島委員 緊急逮捕でありますが、緊急逮捕は、もちろん逮捕状を求めることのできないときに緊急逮捕をするということになつておる。その求めるということはきわめてあいまいでありまして、逮捕状を得ることができないときに緊急逮捕をするというなら別でありますが、求めることということであるから、逮捕状を請求することができない、たとえば遠隔の地におる、あるいは急速を要するというような場合のみをさすのであつて、一ぺん逮捕状を請求してそれを取下げる、あるいはまた逮捕状が出ない前に緊急逮捕をするというごときは、これは絶対に許されぬ問題であります。ところが実際の模様を見ると、すでにそれが行われておる。これはかつて調べていただきましたが、浦和であつたことは御承知通りであります。そこでどういう手続でやるかというと、逮捕状を請求するときに、もう宿直だけで何人もいない、テーブルの上へ置いて行つてしまうというふうな乱暴なやり方でありますが、手渡しせずに、判事のテーブルの上に置いておく、そこで判事はそれを見てそのまま出してしまうというような場合がある。またさような重大な逮捕状であるにかかわらず、その書類がなくなることが間々あつたのであります。こういうことが考えられますから、いやしくも人権尊重をする憲法の建前から言うならば、資格を有する検察官以外には逮捕状の請求ができないということにしなくんば、ほんとうの目的は達しないと思うのであります。感情ずくで緊急逮捕をされるとか、逮捕状の請求をするとか、もしくは一括して、というと語弊がありますが、数枚の白紙の逮捕状同意書を検察官から警察官がもらつておいて、それを使うというようなこともなきにしもあらずでありますから、これは検察官以外には逮捕状の請求はできないということにする建前が人権の擁護の点からいつてもきわめて必要だと思うのでありますが、その点はいかがでございますか。
  17. 岡原昌男

    岡原政府委員 逮捕状発付の実情につきまして、いろいろと不都合の面等がございましたことは、おそらく御指摘の通りであろうと存じます。さようなことは、私どもといたしましては裁判所とも十分連絡をとりまして、――従来とてもさような場合はもちろん例外中の例外と存ずるのでございますが、今後とも十分さようなことのないように下部にも伝達してもらうつもりであります。いろいろこの点について裁判所と打合せをいたしましたこともございます。また緊急逮捕をいたしますにつきましては、二百十条の「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪」というふうな条件とか、さような事件を疑うに足りる十分な理由がある場合、さらに急速を要し、裁判官逮捕状を求めることができないというようないろいろな条件があるわけでございまして、この条件の一つでも欠けますと、これは違法の逮捕となるわけでございます。もとより警察方面におきましても、いろいろその点については従来も配慮をしておるはずでございますが、ときに御指摘のような事態を惹起することはたいへん遺憾に存ずる次第でございまして、今後は先ほど申し上げましたように、検察官も十分この点について管内の警察官がさような違法の措置に出ないように絶えず注意をいたし、あるいは指示もいたすことといたしたいと存ずるのでございます。
  18. 松山義雄

    ○松山委員 関連して。逮捕状同意の点でございますが、今度の改正の百九十九条二項の但書の「検察官があらかじめ一般的に同意を与えた事件については、この限りでない。」この但書を削除される意思はございませんか。
  19. 岡原昌男

    岡原政府委員 御質問の御趣旨はおそらく全般的に検察官逮捕状発付について目を光らせるのでなければ人権保障は全うしがたいというところにあるのであろうと存じます。ごもつともの御質問であります。私どもといたしましても、もし検事の陣容その他でそれができますれば、それも一つの考え方であろうと考えたのでございます。ただ実際の面について考えますれば、たとえば非常に明白な事件、これはだれが何といつても問題のない事件、またそれについて逮捕状が出されるについても万人が異存のないような事件も中には相当ございます。さような場合に一々検察官の判断を受けなければならぬということに相なりますと、検察官にはかなりの負担になつて来るわけでございます。ことに全国六百数十箇所ございます区検察庁等におきましては、検察官がいわば二十四時間勤務、いつでも起されるというふうなことになつて参るのでございまして、宿直等の制度のあるところはまだ何とかまかなつて行けるわけでございますけれども、全国津々浦々の区検察庁等におきましては、なかなかそこまで手が行きかねるのではなかろうか、またさような場所においては、平常はあまり大した事件は起きない、目ぼしい事件について検察官にすべて相談を持ちかけさせる、かような建前にしたらいかがであろうかというのがこの但書を置いた趣旨でございます。で各地区々々によりまして、それぞれの警察が非常に良心的に逮捕状発付をしておるところもございます。またまだ警察逮捕状発付に対する観念が非常にルーズであつて、たやすく逮捕状を出し、身柄を拘束するというような地方もあるようでございます。それらの点につきまして、検察庁の、たいてい検事正ということになるだろうと思いますが、検事正でそれらの取捨判断をいたしまして、簡単な、あるいは問題のない事件等につきましてはこれを警察だけでやれるというふうにあらかじめ検察官事件を指定して同意を与えておく、かようなことを考えた次第でございます。
  20. 松山義雄

    ○松山委員 事情はよくわかるのでございます。しかしやはり警察官検察官ではそこに教養の点が相当違う場合が多いと私は思うのでございますが、あらかじめ同意を与えられる犯罪等について区別がございますか。
  21. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいま大体予定しておりますのは、最も明らかなものとして、窃盗とか賭博といつたようなものは、大体において従来の経験に徴するに警察においても構成要件等をよく承知しておるでございましようし、法律的な判断をそうむずかしく加えませんでも、一応はやれるのではないだろうか、ただその場合におきましても、いろいろほかの用件が入つて来ました場合には、またおのずから考える余地があるのではないか、たとえば傷害事件とかいつたような場合にはこれを除くということになるのじやなかろうかというようなことを予定して考えている次第でございます。
  22. 松山義雄

    ○松山委員 事務の点からみればなるほどただいま御説明通りでございますが、しかし濫用されるきらいが非常に出て来るのじやないかということをわれわれとしては非常におそれるのでございまして、できるならばこれはやはり削除された方がよくはないかと考えるのであります。もしそういうふうなことができないとしますと、窃盗とかあるいは強盗とかいうような一部のものに限るというように列挙されたらどうかということも考えるのでございますが、その点についていかがでしようか。
  23. 岡原昌男

    岡原政府委員 確かに御質問のような濫用については、私どもも非常に心配をいたしておるのでございます。全般的に検察官の手を触れずに行くという従来の建前よりは一歩前進であろうかと存じますので、その実績を見ましてその上でまた考えるというふうにただいまのところ思つておるのでございます。一方においてこの事件を限るという点につきましても、御趣旨のような線で進みたいと思つておるのでございます。
  24. 田嶋好文

    田嶋委員長 大川光三君。
  25. 大川光三

    ○大川委員 詳細なことはいずれ逐条審議の際に伺うといたしまして私は総論的に重要な点を二、三伺いたいのであります。  その第一は、人権保障と本改正法律案との関係についてでございます。この点はすでに二、三の委員からも御質問がございましたが、繰返して申し上げます。御承知通りに日本国憲法は日本の民主化のために制定せられました。民主主義は国民の自由平等を保障することを前提として成立いたし、この国民の自由平等を保障することは国民の人権を認めることを意味することは申すまでもございません。憲法百三条の規定のうちで、四十箇条を人権保障に充てておる。そのうちで刑事裁判における人権保障規定は憲法第三十一条以下十箇条に及んでおりまして、いかに憲法が刑事裁判における人権保障を重要視しておるかがうかがわれるのであります。従つて刑事訴訟法改正はすべからくこの人権保障の根本精神を基調として検討されなければならぬと存ずるのでございます。たとえて申しますならば、第一に被疑者及び被告人身柄の拘束について、その勾留期間延長することは人権保障の精神にもとることなきや、あるいは権利保釈除外事由を拡張するがごとき、かえつて人権蹂躙の結果を招来するおそれはないか、また審理の促進をはかるに急なるあまり、簡易公判手続をとることは裁判を受ける権利を侵害しないか等の点につきまして、多大の疑問を生ずると存じますが、はたして本改正案はこの人権保障との関係においていかなる考慮を払われておりますか、それを伺いたいのであります。
  26. 岡原昌男

    岡原政府委員 先ほど、昨日の委員長からの御質問に答える意味で、政務次官から大筋の大綱をお述べになつたのでございます。その際に触れました通り、私どもといたしましては、現行憲法並びに刑事訴訟法が従来の行き方を改めまして、人権保障という面について非常な配慮をいたしておるというこの美点は、どこまでも尊重して行きたいということで、この線にのつとりつつ、但し現行刑事訴訟法がその制定の際におきましてきわめて早急の間に事が運ばれましたために、中にはわが国情に沿わないものがありあるいは改正の行き過ぎ等もございました点が実施四箇年の経験に徴して漸次明らかになつて参りましたので、憲法並びに新刑訴の精神を十分に生かしつつ、その不都合、不便とする点を最小限度に直そうというのが今回の改正の根本方針でございます。従つてただいま御指摘のような人権保障に若干の制限を加えるという面はございますが、これは先ほどあるいはお留守中だつたかもしれませんが、詳細に申し述べました通り法文の上におきしても十分これを担保する、あるいは保障する条件を厳重に附加してございます。また地方におきましては、この人権保障の面について六箇所ほど特に人権伸張の規定を置いた次第でございます。内容は先ほどかなり詳しく申し上げましたので、項目だけを申し上げますと、百九十三条の警察官捜査の適正をはかるための検事一般的指示権規定の整備、それから百九十九条の逮捕状検察官経由の問題、それから三百八十二条の二以下の控訴審理を丁重にいたした点、それから三百五十九条以下の被告人の利益のために上訴権放棄を認めたこと、それから四百七十四条等の執行順序の変更について、被告人に有利に、即座に手配ができるようにしたこと、それか百六十四条、それから百八十一条、五百条等におきまして、訴訟費用について前払いのなし得ることを明らかにいたすと同時に、訴訟費用免除についての簡易な手続をいたしたこと、これらが積極的に人権尊重の面を持つた規定であるのでございます。なお御心配の人権制限する面につきまして、先ほどの勾留期間延長、あるいは権利保釈の点につきましても、法文上十分な配慮がしてあることは、昨日の逐条説明の際にも一応触れたのでございますが、なお簡易公判手続の点につきましても、御心配のような面が確かにございますので、私どもとしては考えられるだけのいろいろな手配をしてあるわけでございます。その点は逐条説明書の第三十五ページの中にございますが、たとえば被告人が有罪陳述をいたしましても、すぐに簡易公判手続に移らずに、あらかじめ検察官被告人または弁護人の意見を聞いて、十分愼重な手続をする、従つてまた簡易公判手続によつて審判をすることに異議がある場合には、その手続には移らずに、通常公判をする。また一旦その簡易公判手続の決定がございましても、あと本人がいや実は先ほどちよつとそう言つたけれども違う点があるのだという一言がありますれば、ただちに前決定を取消して通常手続に移る。また訴因その他の変更がございましたら、これはもちろん決定は当然取消すというふうになつております。また重大事件につきましても、簡易公判手続にはより得ないのでございます。つまり簡易な事件だけによつておるというふうな諸点がございまして、その他証拠調は若干簡略にはいたしますが、自白だけで処分はいたさない、必ず傍証は取調べる。それで傍証と本人の自白が合致して初めて有罪の判決がある、かような点について十分配慮いたしまして、英米法にいわゆるアレインメントの制度とは、わが憲法上の建前からして相当つた、わが国に合致するような制度に直してあるわけでございます。
  27. 大川光三

    ○大川委員 次に訴訟促進について、本改正案はいかなる考慮を払つておるかという点を伺いたいと思います。この点は岡原刑事局長及び最高裁からもお見えになつておりますので、両方から御意見を伺いたい、かように思うのであります。  憲法の第三十七条では「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」ことを規定いたしまして、被告人が自己のために迅速に裁判の行われることを要求するの権利を保障されておるのであります。しかるに現行刑事裁判の運用の面では、この保障が額面通りに行われていない、訴訟の遅延ということは、古くして常に新しい問題であることは、はなはだ遺憾に存ずるのであります。近来最高裁の訴訟が、民事も刑事もはなはだしく遅延をいたし、それがために、刑事の場合を考えますと、上告後控訴審判決で、言い渡された刑期以上に長く勾留されておる被告人は少くないのであります。それのみならず上告審の結果を待ち切れずして、心ならずも服罪する者が相当多数に達しておつて、憲法三十七条は空文化し、人権ははなはだしく蹂躙されておると考えられるのであります。一体何がゆえにかくも訴訟が遅延するのか、原因はいろいろあろうと存じますが、最も大きな原因の一つは、現在の訴訟手続においては、どんな事件でも、とにかく上告審に持ち込まれて、裁判官がこれらのすべてを直接審理しなければならない建前になつておりますために、最高裁のほんとうの職務であり性格である重要案件が、これに引きずられて勢力を集中することが相当に妨げられておるのが現実の姿であつて、訴訟遅延の大きな原因がここにあろうかと考えるのであります。最高裁が昨年中に受けた事件数は、民事刑事合せて一万件に達しておるといわれておりますが、それをわずかに十五人の判事で、一箇月に五百五十件ないし六百件を処理せられますことは、裁判官の人間的能力の限界に達するような重い負担であると申さなければならない、しかもそのことが、即被官人の人権保障をうとんぜられる結果となつておりますことは、法務省当局並びに最高裁判所とせられましても、看過することのできない重要なる問題であると存ずるのでありますが、はたして法務省当局は、本刑事訴訟法改正にあたつて、この顕著なる訴訟遅延に対しまして、いかなる考慮を払われておりますか、また最高裁は、この訴訟遅延に対していかなる促進の対策をお持ちになつておりますか、この機会に伺いたいのでございます。
  28. 岡原昌男

    岡原政府委員 訴訟が全般的に思うようにはかどらないという一般の声はしばしば聞くところでございまして、御指摘のように、具体的にはいろいろな不都合な事件もあるやに聞いております。私どもといたしましては、一方において訴訟は愼重に進めるべきであると同時に、やはりそれは適当な期間に結論が出るということも必要であるということは前々考えておりました。この最近の現象については、頭を悩ましておるのでございますが、今回の刑事訴訟法改正におきまして、訴訟促進の面から取上げたものが四点ほどございます。その一つは先ほど御指摘の簡易公判手続の三百九十一条の二以下の規定でございます。第二は上訴権放棄の三百五十九条以下の規定でございます。第三は略式手続についての異議期間の削除を規定しました四百六十一条の関係でございます。第四点は匂留中の被告人がその期日の出廷をがえんじない場合の手配といたしまして、二百八十六条の二という条文を入れたことでございます。これらの諸点は、いずれも当面問題となつております諸点をそれぞれの面から取上げたものでございますが、根本的にはただいま御指摘のように訴訟の全部の構造、ことに上告審問題等があるのでございます。そこでこの点につきましては、法務省におきましても目下法制審議会の司法制度部会というものを動かしておりまして、在野法曹、あるいは裁判所検察庁、その他の学者のお集まりを願いまして、この問題について研究を重ねつつあるのでございます。何分にも問題が相当大きいのでございまして、いろいろ議論は出ておるのでございますが、御指摘のような面は何とかして是正いたしたいと思いまして、せつかく努力しておるということを御了承願いたいのでございます。
  29. 岸盛一

    ○岸最高裁判所説明員 ただいまお話のありました裁判遅延の問題につきまして、裁判所側としての説明を申し上げたいと思います。  御承知のように戦後非常に犯罪事件がふえまして、概括的に申しますと、戦前の約五倍という状態になつております。それに対して裁判官の増加率はわずか一倍半、そういう状態のもとで多数の事件を処理しなければならなかつたという状態であります。しかも昭和二十四年からは裁判官ばかりでなく、日本の全法曹にとつてまだ十分なれていなかつた英米法流の新しい手続が施行されまして、それと相並んで旧法の事件も残つておるので、法曹はその二つの手続を使いわけながら審理を進めて行かなければならぬという状態であつたのであります。幸いにしまして、だんだんと社会の情勢が安定するに従いまして事件の数も減つて参りまして、今日では非常にそれが顕著になつております。それでただいまの現状では全国の地方裁判所事件は、大体新受事件と既済事件との関係になりますが、従来から残つている未済事件はただいまの処理能力ではあともう半年ぐらいかかると思いますが、あと二、三箇月たてば未済事件に全部処理し終る、そうしますと新受事件を処理して行けばよいというような状態になる、それに従いまして控訴審に送り込まれる事件も減少して参りますし、控訴審事件が減少するということは、とりもなおさず最高裁判所へ上告される事件の数が減るということになるわけでありまして、詳しいことはまたいずれ機会があると思いますが、大体大きな見通しから申しますと、最近非常に問題になつております最高裁判所すら、あと一年ないし一年半になりますと事態は非常に好転するという見通しであります。  ただいま政府委員の方から申し上げましたように、上告制度について法制審議会でいろいろ討議されておるのでありますが、その点につきましては、裁判所としましても委員が出席して慎重に将来の対策を考えておるわけであります。  なお訴訟の促進につきましては、裁判所としましては非常に強い関心を持つておりまして、機会あるごとにその方面の手を打つておるわけであります。と申しますのは、訴訟促進に関するような手続は、まず第一に日常の法律に定められた手続が、法律にきめておる通りにスムーズに迅速に行われるということが必要であります。そのための裁判官あるいは訴訟当事者の心構えというものが必要でありまして、そういうものについてこまかい訴訟規則を設けて、迅速円滑な審理をはかることに努めております。何分にも今までは非常に事件が多かつたために、このような変態的な現象になりましたが、もう少したちますとこれも非常に是正されると思いますし、また裁判所としましても、その点は将来迅速な裁判を受ける権利の保障ということを十分考えて行くつもりでおります。
  30. 大川光三

    ○大川委員 次に警察の民主化並びに地方分権化と本改正案との関係について簡単に伺います。  政府は今回別に警察法の改正を企図しておるようですが、警察の民主化並びに地方分権化を基調といたしまする現行警察法の根本精神は、あくまでもこれを維持しなければならぬと考えるものでございます。しこうして現行刑事訴訟法は第百八十九条、特に百九十二条におきまして地方分権を確認いたしておる。しかるにもし地方自治警察警察職員に対する検察官一般指揮権を拡張したり、また強化したり、あるいは警察職員犯罪捜査に関して、いたずらに制肘を加えるようなことがあつてはならない。たとえば逮捕状の請求について、地方警察職員検察官同意を得なければならないというようなことは、ひつきよう地方分権制度の精神に反して、昔いわれた検事フアツシヨの弊害を起す憂いなきやいなやを私は憂えるのであります。この点に関する当局の御所見を伺いたいのであります。
  31. 岡原昌男

    岡原政府委員 今回の刑事訴訟法の一部改正法律案は、別に御審議を仰いでおります警察法の改正の問題とは直接の関連を持つていないのでございます。と申しますのは、今回の警察法の改正は、正確に申しますと、一昨年の暮れからその方向に考慮いたしておつたものでございまして、法制審議会におきまして問題を拾い上げた当時にございました問題が、そのまま今回の法案に出て参つたのでございます。今回の警察法の改正とは全然関連なしに考えられたものであることをまず冒頭に申し上げたいのでございます。ただ警察法の改正の中には刑事訴訟法規定の百八十九条と百九十二条かを改正する条文がございますが、これは名称の変更に伴う改正でございまして、向うの警察法の中にはございますけれども、こちらの刑事訴訟といたしましては、警察法の改正と関連なしに考えられておるのでございます。ただいまの地方分権制度に基く従来の建前というものが、今回の一般的指示権等によつて動くのではないかという点の御質問でございますが、この点も私どもはその見解を従来とまつたく変更しておらないのでございまして、従来百九十三条の解釈につきましても、私どもはどこまでも警察は第一次的な、第一線の捜査機関である、検事は第二次的な捜査機関である。検事は専属的に起訴権を持つておりますので、その公訴提起をした事件が適正に行われるということは、その前提たる捜査においてもまた適正でなつければならない。さような見地からいたしまして、法律的にも明るいし、また常識、教養等においてもすぐれておる検察官においてその管内の司法警察官に対する一般指示というものを準則で出しておきました。かような方針事件を処理するようにということにいたしますれば、その所期の目的が達せられるわけでございます。従来この百九十三条の解釈について若干警察方面と見解を異にしておつて警察方面は「公訴を実行するため」という文字をもつて捜査は含まないというふうにとつておるのでありますが、私どもといたしましては「公訴を実行するため」というのは、その前提として、捜査そのものもまた十分に適正に行くということが当然入つておるのだ、公訴の実行という前提もなしに、つまり起訴しないつもりで捜査をするということはあり得ないという点からいたしまして、従来の条文の意義をこの際明らかにする方がよかろうというので、この点の字句の修正をいたしただけでございまして、根本的な考え方はちつともかわつていないのでございます。
  32. 大川光三

    ○大川委員 先ほど伺いましたいま一点の、いわゆる逮捕状請求検察官同意を得るという点が、検事フアツシヨになりはせぬかという点についての御説明を願います。
  33. 岡原昌男

    岡原政府委員 申し残してたいへん済みませんでしたが、ただいまの点につきまして、なるほど逮捕状の請求について検察官同意にはからしめるということは、一面において、警察捜査権に対する一つの制限になるわけでございます。警察官としては、やはり自由自在に腕を振うためには、いろいろなさような制限なしにやりたいという御希望はごもつともでございますが、何分にも刑事訴訟法と申しますものは、捜査の、つまり人権制限する最も強い面が盛られておるのでございまして、しかも一番深刻にその影響を与えるところの人身の拘束という点にかかつておりますので、従来ともすれば逮捕状の濫発、濫用ということが国民の間に問題になつているやさきでございますので、この捜査の適正ということと人権尊重保証という面との調和をはかるためには、この程度の規定はやむを得ないのであろうし、また在野法曹あるいは国会方面等におきましても、従来いろいろ取上げて問題にされたのでございますが、この程度のことは当然と考えられる方もあるのでございます。法制審議会におきましても、十分その点は諸論を尽くしまして、この案におちついた次第でございます。     ―――――――――――――
  34. 田嶋好文

    田嶋委員長 お諮りいたします。地方行政委員会より、刑事訴訟法の一部を改正する法律案について連合審査会を開会したいとの申出があります。開会いたすのに御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  35. 田嶋好文

    田嶋委員長 御異議なしと認め、さよう決定いたします。なお開会の日時の点でありますが、諸般事情考えまして、明日開会の予定になつておりまする警察法案についての地方行政委員会との連合審査会をもつて警察法案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案についての連合審査会としたらどうかと思つておりますが、御異議がなければ、明日午前十時より警察法案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案について、地方行政委員会と連合審査会を開会することにいたします。  午前中はこれにて休憩し、午後は二時から開会いたします。     午後零時三十七分休憩      ――――◇―――――     午後四時六分開議
  36. 田嶋好文

    田嶋委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  外国人登録法の一部を改正する法律案を諸題といたします。  この際、本日法務省入国管理局長及び厚生省社会局より提起されました本案に関する資料についてそれぞれ説明を聴取することといたします。鈴木入国管理局長。
  37. 鈴木一

    ○鈴木(一)政府委員 前会に小畑委員から御指摘がございました外国人登録証明書の偽造、変造の件数がどのくらいあるかというお尋ねでございましたが、ただいまお手元に配付いたしました資料を中心に御説明をいたしたいと思います。証明書の偽造、変造は相当あるのでございますがこれが偽造、変造事件として表に上つて来ることがはとんどないのでございます。それは偽造、変造をいたしましたものを使いますのは密入国者でございますので、密入国者が入つて参りましたときには、密入国ということで主として司法処分を受け、われわれの手に参りまして行政処分で強制送還という段階を踏んで処理されるわけでございますので、その事件の途中でその者が偽造あるいは変造した外国人登録証明書を持つておるということはままあるのでございますが、それが単独に事件として処理されることがほとんどないということを御了承願いたいと思います。従いまして御要求の件数がはつきりぴたつと出て来ないのでありますので、ここにあげましたのは偽造、変造が起ると思われるものにつきましてわれわれの方で推定をいたしております数字を申し上げるのでございます。  この第一に書いてございます不正発行件数、これは各市町村が外国人登録証明書というものを発行いたしまして本人に渡すのでございますが、これを不正にその人に与えてはならないにかかわらず、情を知つてこれを配つたという件数でございまして、これは変造にはならないかと存じますが、これが入国管理局ができまして今日に至りますまで約九百五十八件という数字が出ております。  それから第二に申し上げたいのが、これが一番登録証明書の偽造変造の行われると推定される数字でございますが、これはこちらにおります外国人はみな持つているわけでございますが、紛失した、あるいはとられたということで再交付を申し出るのであります。それを当局としましては、確かになくしたのであるということを調べました上で再交付を認めているのでございますが、これが年間にいたしまして、ここにございますように、約九千件ございます。この九千件の再交付と申しますものが、ややもすればなくなしたのはうそであつて、さらに一枚これをよけいとるのであります。あるいは場合によりましては、それを何回も繰返しましてとつておるというがあるようでございます。従いまして再交付ということについて最返では非常に厳重にいたしておりますが、これは各市町村の窓口においてやります関係で、必ずしも徹底した確証をもつて再交付を扱うということができかねる場合もあるやに存じます。従いましてこの再交付の九千件のうちで約四千件というものが――これに写真が張つてございますが、それを張りかえまして密入国者が使用しておる件数とにらんでおるのでございます。従いまして御質問の数は大体四千件くらい一年にあるのではないかという推定をいたしておるわけでございます。  それから第三に書いてございますのは、昨年の十月二十八日以前に古い外国人登録証明書を出しておりましたのが、こういう薄つぺらな紙でございますが、これに写真が張つてつたのでありますが、十月二十八日以降はこういうふうに布製のにいたしまして、紙もりつぱなものにし、さらにすかしがございまして、これの変造が困難であるような予防措置をいたしておるわけでございますが、これの変造の事件につきましては、うわさには聞いておりますが、まだわれわれの方に確たる報告は受けておりません。この不正発行ということがここにございますように百八件あつたという現状でございます。
  38. 田嶋好文

    田嶋委員長 質疑の通告がありますからこれを許します。小畑虎之助君。
  39. 小畑虎之助

    ○小畑委員 今お話の数字はわかつたのでありますが、これは偽造、変造がどれだけあつたかということはわからぬ、推定だというお話なのでありますが、偽造された証明書を使用し、または変造したということは、主として密入国人がやるのである。そこで密入国の管理法によつて取締りをして、行政処分によつて送還をしておる、こういうことであります。これは国内法によるところの刑事犯罪ということになるので、法務省においてもその件数がわからぬということがわれわれとしては一つのふしぎなことだと思うのであります。強制送還をやつておる、これは行政処分でありますが、刑事上の処分がなくちやならぬと思いますが、こういうことについては法務省は一定の方針をお立てになつておるのではないのでありましようか。
  40. 鈴木一

    ○鈴木(一)政府委員 先ほど説明を一つ抜かしておつたのでございますが、朝鮮半島からわが国に密入国をして参ります半分以上のケースは、対馬に入つて来るのが大部分でございます。これも推察であります。と申しますのは、ブローカーが間に介在いたしまして、向う側と手引きをして入れて来る。対馬に上陸をいたしまして、御承知のような海岸でございますのですぐ山に入つてしまう。山に入りまして炭焼き小屋などに一週間くらい滞在してぼつぼつ出て来る。その一週間の間に登録証明書を二千円とか、三千円でその者に渡すわけでございます。そのときに写真などもつて渡すというようなことを取調べの間に承知いたしたのでございますが、そのブローカーをいまだかつてつかまえたことはない。従つて変造いたしますのはブローカーが主として当るわけでございまして、そういうような関係で、偽造はないのでありますが、変造の方につきましてはたびたび見受けるのでございますけれども、変造しました犯人をつかまえるということが非常にむずかしいので、現在におきましては件数が何件あるということははつきり申し上げることができないのであります。
  41. 小畑虎之助

    ○小畑委員 ブローカーをつかまえられないにしましても、偽造、変造の証明書を使用する者は偽造または変造に必ず関係がなければならぬとわれわれは常識上思うのですが、それらに対する検挙あるいは処分等はどういうふうになつておりますか。
  42. 鈴木一

    ○鈴木(一)政府委員 不法入国者に対しましては出入国管理令によりまして体刑並びに罰金刑、情状によりましては不起訴というようなものもあるわけでございますが、そのために偽造、変造をやつたということで特に刑が重くなつた、取立てて偽造、変造が問題になつたということはあまり聞いておりませんので、主として不法入国して来たということを重く見まして、それに対しての処分をやつておるようなわけであります。
  43. 小畑虎之助

    ○小畑委員 とにかく偽造、変造の点は日本の刑法上の問題としては問題になつておらぬですか、あるいは牽連犯になるか、併合犯になるか知らぬが、そういつた法務省の方では問題にする道はないのですか。
  44. 岡原昌男

    岡原政府委員 お尋ねの点は私どもの刑事局の所管の事項にも触れて参りますので、一応私からお答えいたすのが適当かと存じますが、従来この種事犯のいわゆる登録証明書の偽造事件は、純然たる内容そのものを、印刷から何から全部やつたというよりは、むしろ無権限者がこれを悪用したというような事件が多いのでございます。ただいま鈴木局長からお話のありました通り、写真の一部をはがして継ぎ合して本物のように見せかけるというような形のものが多いのでございます。その違反の形が大体においてただいまも話がございました通り、中に立つ者がございまして、これが非常に巧みに立ちまわりますために、結局実態はつかめずに、最後にその書類を受取つて身につけておつた者が何かの事件でつかまつた際にばれて来る、こういうような形で発覚するわけでございます。先般も神田の方で古本の万引きをいたしました学生がおりました。調べてみましたらどうも登録証がはつきりしない、どうも偽造らしいというような問題が出るわけでございます。普通の場合はそれがわかつて来ないわけでございます。何か事が起りました場合に、初めてその本人の登録証明書が本物でないというふうなことになります関係上、その実数というものがなかなかつかめない、こういう実情にあるわけでございます。それでこの登録証明書偽造として起訴され、処罰された事件はと申しますと、これはちよつとただいま手元に統計を用意いたして参りませんでしたけれども調べればある程度のことはわかります。但し、その実数は非常に少いのでございます。と申しますのは、かような事件については、大体においてあちらに送還手続をするというのが先行するのでございまして、さような不法な手続によつて本邦に入り、さような不法なものを持つておるような者は、入国管理局において送還の手続をとる関係上、司法処分といたしましては、入国管理令違反という点に重きを置きまして、それで処分をいたしておるのが多いのでございます。従いまして、法律的には、お話通り併合罪その他の犯罪が成立いたします。ただ統計上それがはつきり出て来ないという実情にあるわけでございます。
  45. 小畑虎之助

    ○小畑委員 刑事局長に伺いますが、この市区町村における不正発行の件でありますが、これは発覚した表がここに出ておるが、それに対してはどのように処分されておりますか。
  46. 岡原昌男

    岡原政府委員 先ほど鈴木政府委員から御説明のありました数字は、いずれも刑事事件としてあがりまして、そうしてそれぞれの町村の関係吏員あるいはそれに手を伸ばして運動した者といつたような者が一網打尽にあげられた数でございます。その際にわかりました発行部数等がここに掲げられておる数字であります。
  47. 小畑虎之助

    ○小畑委員 この不正発行をしましたのは日本人であります。その不正発行の申請をしたのは外国人であり、同時に日本に適法に在留しておる外国人でありますが、日本人に対しても刑事上の措置を行われることはもちろんのことであろうと思うのであります。同時にその相手方である共同正犯というのですか、どうしてもこれは相手方が必要なことであるが、それらの者に対する処分はどういうふうになつておりますか。
  48. 岡原昌男

    岡原政府委員 これらの事件につきまして、この中で約何枚とございますのは、要するにとことんまで、末の末まで突き詰めかねた場合に、約と申したのでございまして、その他の小さな数の場合には、これが全部明らかになりました関係上正確な数が出ておるわけでございますが、さような場合には末端まで行きまして、現実にその偽造たることを知つてつております外国人についての犯罪はもちろん追究してございます。
  49. 田嶋好文

    田嶋委員長 次に、厚生省社会局より提出されました本案に関する資料について説明を求めます。実本説明員。
  50. 実本博次

    ○実本説明員 お手元に配付いたしました「生活保護法による被保護朝鮮人の状況調」という資料につきまして御説明申し上げます。  この資料は二十七年の三月から六月までの間の実情について調査したものでございます。三月、四月、五月、六月となつておりまして、都道府県の欄がその左側の方に出ております。ごらいただくとわかりますが、都道府県別に世帯数と、その世帯に属する人員の数がずつと別々に出ております。全国の総数を申し上げますと、昭和二十七年の三月におきましては、世帯として一万三千九百十九世帯、人員にいたしまして六万二千六百四十八人が、被保護朝鮮人で、保護法による保護を受けております。それから四月に参りまして、一万四千二百三十四世帯で、人員にして六万三千九百七十一人、同じく五月に参りまして、一万四千六百三十三世帯で、人員にいたしまして六万七千二百六人、六月に参りまして、一万五千百五十六世帯で、六万九千五百五十五人という人員が、この生活保護法による保護を受けておるわけでございます。その下に在日朝鮮人の総数が出ておりますが、これは登録証明書をつかまえて、レジスターされた数字を載つけてあるわけであります。六月におきまして五十六万七千九百九十七人という数字が上つております。六万九千五百五十五人という被保護人員と在日朝鮮人の総数の五十六万七千九百九十七人との対比をとつて見ますと、一二・二五%という数がその下に保護率として上つてつております。その下に書きました全国平均保護率と申しますのは、これは朝鮮人、日本人を問わず、要するに保護法の保護を受けておる世帯全部の数が千人につきまして二十四人、パーセンテージにしまして二・四五%という数字が参考に上つております。その下に被保護者総数、これは日本人も入れた総数でございます。それからその下の百分比は被保護者中朝鮮人の占める割合が出ております。一番最後には朝鮮人を除く外国人の総数が上つております。
  51. 長井源

    ○長井委員 これは私の要求しました資料と少し趣旨が違つているのです。私が要求しましたのは、各府県の在日朝鮮人と、それから被保護者との数字並びにパーセンテージがほしかつたのです。それは私の申しましたように、パーセンテージが出ておりませんでも、同じような状況の県、たとえば三重県と愛媛県とを比較してみますと、この三月を見ても、三重県は四百八十五世帯になつているのに、愛媛県は四十七世帯になつている。なおその上にパーセンテージを加えますと、そういう数の多いところほどよけい被保護者のパーセンテージが出ているであろうということが想像できるのであります。その費用を地方に二割負担せしめることはなはだしい不公正ではないか。これが日本人ならしかたございませんけれども、朝鮮人、つまり第三国人を保護するのは、特殊の意味をもつて保護しているのでありますから、それらを地方の大きな負担にせしめることは、地方民の負担に耐えぬことであるから、それは国で負担をしたらどうか、こういう趣旨から申したのであります。きのうの御説明によると、今度生活保護法の改正などがあつて、その保護率が減つて来ているような話を聞いたと思いますにもかかわらず、この三月と六月を比較してみますと、だんだんとふえているという状況であります。そうすると、地方の負担も月とともにまたふえて来るという状態になるわけであります。これは厚生省の方では、もうそこに住まつているからしかたがないというつもりなんですか、ないしはこういうふうに、四十七世帯でいいところもあるし、四百八十五世帯もあるところは莫大な地方費の負担を受けることになるのですが、そういうことはそのままで見のがして、見送つて行くつもりですか。この愛媛と三重とは人口も大体同じですが、これだけの差異があるわけです。あなたでお答えができますれば、ひとつお答え願いたい。
  52. 実本博次

    ○実本説明員 ただいまの御質問にお答え申し上げます。三重県の一般の日本人も全部含めました生活保護法の被護者の数は、私の手元に持つております資料でございますと、この調べは去年の十一月の分でございますが、四万八千三百五十人で、このとき現在の三重県の人口は百四十七万一千人という数字が出ておりますので、パーセンテージにしますと三・二八七%ということになります。全国平均のパーセンテージは、お手元にあります表で去年の五月で二・四五%というふうに、三重県が全国平均よりも一般の保護率が高いことになつております。今例にお引きになられました愛媛県の保護率を御参考までに申し上げますと、二・九八八%になつております。そういう一般的な状態から考えまして、朝鮮人の被保護世帯のパーセンテージの率も、従つて高くなつておるということも考えられるわけでございます。  それから、この資料についてはしり上りに数がふえておるじやないかというお話でございますが、実はこれは去年の資料でございまして、講和発効を前後として、どの程度動きがあるだろうかということでとつてみた資料なんでございます。このあとずつと最近までの資料を今とりつつございますが、全般的には一般的な経済生活の安定に伴いまして、被保護率が一般的に下つて来ている、そういう御説明をきのう申し上げたのではなかろうかと思うのであります。経済生活の安定とともに一般的なパーセンテージは下つて来ている、外国人の場合についても、その傾向に従つてつて来ている、但しその資料が今作成中でございますので、はつきりした資料について申し上げられないのが非常に残念でございますが、大体そういうふうになつております。
  53. 長井源

    ○長井委員 今あなたは、三重県と愛媛県をとつて、三重県が二%強で愛媛県が約二・九%だから、大した違いがないとおつしやるが、私は一般の日本人の割合を今問題にしているのではない、第三国人の割合を問題にしている。それが数字を見ても十倍以上の四百八十五であり四十七であるのですから、地方費の負担に、非常な差異があることは、あなたもわかるでしよう。それを是正するのに国費でこれを負担したらどうだというのですが、不公正のあることはあなたもおわかりになるでしよう。
  54. 田嶋好文

    田嶋委員長 それは大臣に聞きましよう、大臣でないと答えられないようですから……。
  55. 長井源

    ○長井委員 それでは、私はこの問題はここで最終まで論ずる問題でないと思いますから、あらためて厚生委員会か何かで質問いたしたいと思います
  56. 田嶋好文

    田嶋委員長 他に御質疑はありませんか――他に御質疑がなければ本案に対する質疑はこれにて終局いたします。  お諮りいたします。本案はこれを討論に付すべきでありますが、討論を省略し、ただちに採決するに御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  57. 田嶋好文

    田嶋委員長 御異議なしと認めます。  本案に対する討論はこれを省略し、ただちに採決するに決します。外国人登録法の一部を改正する法律案に賛成の諸君の起立を願います。     〔総員起立〕
  58. 田嶋好文

    田嶋委員長 起立総員。よつて本案は原案の通り可決すべきものと決しました。  この際お諮りをいたします。ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  59. 田嶋好文

    田嶋委員長 御異議なしと認め、さようとりはからうようにいたします。     ―――――――――――――
  60. 田嶋好文

    田嶋委員長 この際人権擁護に関する件について発言の通告があります。これを許します。田万廣文君。
  61. 田万廣文

    ○田万委員 先月の二十日立川市曙町におきまして駐留米軍の三名の黒人から強盗、傷害の被害を受けましたところの松井吉三郎という方があるのでありますが、この事件について法務省ではすでに御存じでいろいろお取調べなつたと思うのですが、いかがでしようか。
  62. 岡原昌男

    岡原政府委員 本件につきましてはちようどただいま手元に資料を用意をして参りませんので、いずれ十分調査の上で問題の諸点を承りまして、お答えいたしたいと思います。
  63. 田万廣文

    ○田万委員 これは当時新聞に載つております事実であつて、この事実自身はすでに御承知のことだと思うのです。最近いろいろ駐留米軍側によつて暴行、脅迫、極端なものは、強姦、強盗等あらゆる犯罪が行われておるわけでありまして、その地における人たちの生活はきわめて不安な状態に陥つておるということは、これは争いのない事実だと思います。今私が申し上げました松井吉三郎という方もその中の被害者の一人でありまして、この方は、昭和二十八年二月二日午後十時四十分ごろ、自分の勤め先から帰る途中、自宅の付近で三人組の黒人風の米軍に取巻かれて、彼らがあらかじめ用意して持つておりましたまき割りをもつて、後頭部、前顎部、左耳を強打、左耳はすでに鼓膜が分裂して、六週間の治療を要する傷害を受けて、目下入院中であります。この事件が起きた直後において、ただちに警察署といたしましては、所管の範囲において、当然緊急警戒と申しますか、非常警戒を張つて、犯人の捜査に努めなければならないのにかかわらず、その処置がなされておらないという事実があるわけです。この点につきましては、被害者としても、非常に不満に思つておるのみならず、今日に至るまでも、なおその犯人の検挙に至つておらないということは、当初の警戒処置に重大な過失があつたものと思われる。しかも、その掌に当つた方々並びに警察署の方々の責任というものは、その後ひとつも追究されておらない。こういう問題は、すみやかに犯人を検挙して、そうして国民に安心感を与えるということでなければならないと思うのでありますが、事実はこれに逆行して、非常警戒を張らない、ほつたらかしにして、犯人を取逃がしておる。しかも被害者は、聞くところによれば、子供を七人ほどかかえて、一生不具者で、生活も、就職もできないで路頭に迷うという、こういう重大な、生きながらにしてしかばねにするような犯罪を犯しておるのでありまして、これに対しては、私は、法務省において十分御調査願つて、次会にそれぞれの所管に関する報告を求めたいと思うのです。私のところへ、きようこの被害者の御親戚の方が参られて、特にその点自分一個人だけの問題ではない、立川付近においては、このごろは非常におもしろくない問題がたくさんできておるのでありますから、政府に厳重な勧告を与えて、調査して報告してもらつてくれというお頼みでありますから、これをひとつお願いいたします。
  64. 岡原昌男

    岡原政府委員 了承いたしました。
  65. 田嶋好文

    田嶋委員長 次会は、月曜日午前十時より開会することといたし、本日はこれにて散会いたします。     午後四時四十三分散会      ――――◇―――――