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岡原政府委員 ただいま
政務次官より大綱、大
方針を
お話いたしたのでございますが、なおそれらにつきまして、若干敷衍いたしますれば、
人権の
保障あるいは
尊重の面を特に取立てて
規定いたしてございます
改正規定は、第一には、百九十三条のいわゆる
警察官に対する
検察官の
一般的指示権の
規定を明確化いたした点でございます。この点は先ほ
ども御
説明いたしました
通り、
公訴の適正をはかるためには、その前
段階であるところの
捜査がまた適正でなければいかぬ。しかも、
捜査と
公訴というものは、一体不可分の
関係にあるという
見地からいたしまして、最も
法律的に詳しくかつ
教養もあり、常識も発達しております
検察官において
警察官に対する
一般的準則を与えて、その
方針にのつと
つて、
捜査を適正にやるようにということを明らかにした方がよい、これが百九十三条の
改正趣旨でございます。
第二は、
逮捕状を
司法警察員が請求いたします際に、
検察官の
同意を要するということでございます。この点は従来ともすれば
警察におきまして、いわゆる頼まれ
事件、民事くずれの
事件あるいは純然たる民事の
事件とい
つたような
事件あるいはその他つまらぬ
事件を種にいたしまして、
逮捕状をも
つて本人にいろいろなことを強要するというふうなことがございました。これは
在野法曹の間でもいろいろ問題にな
つてお
つたのであります。前
国会でございましたか、やはりこの問題が取上げられまして、何とか今度の
刑事訴訟法の
改正の際にはあわせて
考慮をするようにという
お話もございました。そこでこの点も
法制審議会に諮りましたところ、
法制審議会の各
委員の御
意見も、これは当然必要であるということから、今回百九十九条の一部を
改正いたしまして、
通常逮捕の
逮捕状請求の際には、
検察官の
同意を得なければいかぬという
規定を入れた次第でございます。御
承知の
通り検察官は
相当忙しくて
事件の一々こまかいところまであるいは目が届かぬかもしれませんけれ
ども、少くとも
警察官から相談がありました
事件については、これが
身柄を拘束して、
調べるべきやいなや、
法律的にそれが
犯罪を構成するかどうかという点についての判断は、ほとんど完全にといいますか、
即座になし得る立場にあるものであろうと存じます。そこでかような点について
検察官には若干の
負担をかけるわけでございますが、
人権の
保障のためには、これは当然
検察官がその責を負うべきものであるという
見地から、この百九十九条の一部
改正を企てた次第でございます。
次は
控訴審の
審理を丁重にするといいますか、
控訴審において第一審の
審理過程に現われなか
つた事実をもなおかつ
審理の対象にすることを明らかにいたしました
趣旨は、従来たとえば
判決後に
弁償ができた、ところがこれを
真正面から
弁償の事実を
本人の有利に
控訴審で援用することができなか
つたわけでございますがこれを
真正面から取上げて
本人の有利に事を運んで行くことができるようにいたした点、あるいは第一審の
審理過程に現われなか
つたけれ
ども、その当時すでに存在してお
つた事実であ
つて、やむを得ない
事情でそれが、
調べができなか
つた。
従つて第一審の
判決の際には、それをしんしやくすることができなか
つたという事実が客観的に存在する場合もございます。さような場合にその事実がわかりますれば、
本人には当然有利な
判決があるべきであるという場合には、それをしんしやくして
控訴審の
判決をすべきであるという
見地からいたしまして、今回の三百八十二条の二という条文でそれらの点も解決してあるわけでございます。
さらに第四点は、
上訴権の
放棄の
規定を設けました。これは従来
被告人側において
判決の内容に全部不服がない、この
判決をそのまま受けてさしつかえないということがございましても、十四日の
上訴期間の間はそのまま未決の形で
本人は入
つておらなければならぬことにな
つておるのでございます。しかしながらこれは
本人の
意思にも反することでございまして、
本人が
同意してなるべく早く勤めて、さつ
ぱりした気分に早くなりたいということも
相当ございますので、さような場合には
本人が書面をも
つて放棄をいたしますれば、その
放棄の効力によりまして、
即座に刑が確定いたして
執行にとりかかり得る。
従つて本人は早くさばさばした
気分にな
つて刑の
執行を終えることができる、かような点も三百五十九条以下に
改正をいたした次第でございます。
第五点は、刑の
執行の
順序を変更いたし、
執行停止の
規定等を整備したのでございます。これは、従来重い刑と軽い刑がございます際の
執行の
順序がちやんときま
つておりまして、変更する場合には、
検事総長または
検事長の承認を経なければならぬことにな
つてお
つたのでございますが、これは
本人が一定の刑でもう少しで仮釈放になり得る、あるいは
執行停止にしなければいかぬというような、たとえば病気のような場合でございますが、さような場合に、一々遠方の
検事総長、
検事長の
指揮を受けてお
つたのでは間に合わぬ場合がございますので、これはなるべく早くはつきりさせる。現地の
検察官だけでその
執行の
順序が変更でき、
即座に
被告人を、刑務所から
執行停止またはその他の手続で出し得るように
配慮をいたしたわけでございます。
第六点といたしましては、
訴訟費用の点について三点ばかり
改正いたしましたが、その第一は百六十四条
関係でございまして、従来
証人等の
訴訟費用についての
前払いの
規定がやや不明確でございました。その地その地によりまして
前払いの
規定が活用されておらなか
つたのでございます。
従つて重要な
証人でございましても、
本人が金がないために
法廷に出かけぬという場合が事実あ
つたのでございます。さような場合には
前払いをしてや
つて、支障なく
法廷で証言ができるようにいたしたのでございます。また
訴証費用の
免除につきましても、従来は一審、二審、三審と、それぞれの
訴訟費用を
言い渡した
裁判所に
免除の
申請をしなければならぬことに相な
つておりました。かようなことになりますと、たとえば
上告審で確定した、しかも一審、二審、三審とも
訴訟費用の
言い渡しがあ
つたというような
事件においては、
本人は
免除を申し立てようとすると、それぞれの三箇所の
裁判所にその
申立てをしなければならぬ。これはたいへん不便でございますので、さようなことを除くために五百条を
改正いたしまして、いずれ
裁判所規則でこれをどこかの一箇所で便宜まとめて、その
免除の
申請ができるように、かような
配慮もいたしたわけでございます。また
訴訟費用の
免除につきまして、従来は一応
判決の
言い渡しの際に
訴訟費用の
言い渡しをして、
あとで
免除をするということにな
つてお
つたのでございますが、初めから
本人がとうてい
訴訟費用の
負担に耐えかねるということがわかりました際には、第五百条の
規定によりまして、
あとで
免除の
申立てをするというよりは、むしろ
判決言い渡しの際にその全部または一部を
免除するということを初めから
言つてや
つた方が親切であろうということから、百八十一条の
改正をいたした次第でございます。以上の
諸点はいずれも
本人の
人権の
保障について、従来に比し、さらにこれを有利に
取扱つた面でございます。
さて
他方におきましては、たとえば
起訴前の
勾留期間の
延長、あるいは
権利保釈の
除外事由の追加、あるいは
勾留期間の
更新等につきまして、若干の
制限を加えてございます。但しこの点につきましては、たとえば
起訴前の
勾留、二百八条の二の
関係につきましては、
法文自体においてこれをまず重い罪に限定し、さらに
犯罪証明に欠くことのできない
関係人または
証拠物が多数の場合に限定しておる。さらに従前の
期間内には
検察官がどんなに努力しても取
調べを終ることができないという
状況にある場合に限り、また釈放後ではその
調べができかねるという場合、さようなことを
裁判官が判断して初めてやり得るというふうにしてございます。また
延長期間も
裁判官の
裁量により初めから五日ではなくて、小刻みに行われるようにな
つております。さらに
勾留の取消しを何どきでもできるという
規定が八十七条にございます。この
期間の点につきましても、
法制審議会において
十分論議を尽した結果なされたものでございます。一方においてこの
起訴前の
勾留につきましては、従来
あと二、三日で
調べが済むというふうな場合に、その二、三日が
調べができないために、まあこの辺で
起訴しておこうという場合もなきにしもあらずでございました。
検察庁としてはほんのわずかの二、三日のところが非常につらか
つたと申しておりますが、この五日だけでもある程度厳格に
運用いたしまして、さような不便の点を除くことができるのではないか、かように存ずる次第でございます。もとよりこの点の
運用につきましては、従来以上に厳格にいたしたいつもりでございまして、従来の実績にかんがみますに、
勾留が十六日以上に
延長された割合は、全
勾留事件のわずか一六%にすぎないわけでございます。つまり大部分は十五日
未満で片づいておるのでございます。また一方において
本条が予想するような実際の多
衆犯罪というものは、昨年あたりの実例に徴しましても、そうたくさんはないのでございます。いわゆる多
衆犯罪のテイピカルなものであるところの
公安事件の統計などを見ましても、昨年度百件
未満でございまして、このうち本名以上の
被告人、つまり
起訴された
事件は、三十数件にすぎないのでございます。たとえば
印藤巡査事件とか、蒲田の
事件、
メーデー事件、岩之坂の
派出所襲撃事件、
横川事件、高萩の
職安事件、
辰野地区署襲撃事件、それから
神奈川事件、
吹田事件、
枚方事件云云とございますが、そうい
つたような大きな
事件を予定しておるのでございまして、こまかい点につきましては全然
考えておりません。
次に
権利保釈の点につきましては、この
改正規定自体の中において、第一には、
除外事由に当るかどうかは、
裁判所が客観的な資料に基いて認定することにな
つております。またこの
権利保釈から除外いたしましても、第八十八条、第九十条の
裁量による
保釈は、もとより
制限するわけではないのでございます。また
権利保釈の点について
輿論調査をいたしました結果は、お手元にお配りしてございまするが、
輿論におきましてもある程度
権利保釈は厳格にすべきものであるという
輿論が出ておるのでございます。むしろさような
本条程度の拡張はやむを得ないという
一般の
輿論でございます。
さらに
保釈を許さない決定に対しては、抗告ができるとい
つたような
保障ももとよりございます。また第四号の多衆共同しておるというようなことにつきましても、ただいま言
つたような特殊な
事件のみでございまして、そのような
法分上の体裁からも、いろいろな
制限が加えてあることを御了承願いたいのでございます。
他方、この
規定の
運用につきましては、もとより
裁判所においても
事件の
迅速処理について十分くふうを凝らしておられますことは、御
承知の
通りでございます。また
裁判所から
検察官に対して
意見を求める場合におきましても、
検察官は従来以上具体的に
事件を聞きまして、形式的にこれをはねるということなしに、最近は
保釈すべきものは「しかるべく」あるいは「
相当」という
意見をつけるようにな
つておりまするし、具体的な
事情々々に応じままして、
検察庁も十分この点に協力して行くはずでございます。また第六
号関係の
恐喝、いわゆる
お礼まわりの点でございますが、これはこの前御
説明申し上げました
通り、実際にその
弊害が非常に大きいのでございまして、これは
恐喝犯人あるいは
朝鮮人関係その他若干はありましようが、特殊な場合だけの
規定でございます。
さらに
勾留期間の
更新の点につきましても、八十九条の
関係がございますので、
ちようどただいまと同じような
保障が全部あるだけでございます。さように
人権を
制限するという面につきましても、従来の
規定をただ野放しにはずしたのではないのでございまして、それらのはずされるその反面の
配慮は常にいたしてあるつもりでございます。以上簡単でございますが、御了承願いたいのでございます。