○岡原
説明員 吉田書簡が出ましてその後に六月二十三日に取扱基準を出しました経緯は、ただいま
大臣から概略的に御
説明した
通りでございます。その前に御指摘の
通り五月十七日に別に刑政長官通達が出ておりますが、これがいわゆる
新聞紙上伝えられました清原通達というものですが、なおこれと関連しまして、六月二十三日の分も清原刑政長官の名前で出ておりますので、第二清原通達と申してもいいわけでございます。私
どもの方は、これは取扱基準として、その詳細な扱いぶりを示したというふうに取扱
つております。最初五月十七日にかような文書が出ました経緯は、当時呉地区において英濠軍
関係の事件が日々頻発いたしまして、五月の中旬に至るまでに、こまかい事件も入れますと、二十数件が発生したわけでございます。ところがこれに対してどのように取扱うべきが、
刑事裁判権の所在はいずれにあるかというふうなことについて若干問題が生じ、個々の事件の取扱いに困難を来したという現地からの報告に基いて、すでにその前にかようなこともあろうかというので準備をいたしておりましたこの通牒を取急ぎ出した次第でございます。従いましてその通牒はきわめて簡単な文句を使
つてございます。すなわち
国際公法の原則に
従つてそれを処理する。ただ
国際公法上こちら側に、
裁判権のないときはこれを除外しろ。なお取扱いに注意して言語、慣習等の
相違があるから、いたずらに紛争のないように特に留意されたい、さらに念を入れまして、かような事件については中央にその都度速報するようにというふうに出した次第でございます。その後五月の下旬に至りまして、
外務省の方からこの事態を解決するために何らかの措置をとりたいという申出がございまして、その案文について検討いたしました結果、五月三十一日のいわゆる吉田書簡が出されるに至つた次第でございます。この吉田書簡が出されるに至りました
事情は、
先ほど猪俣さんからおしかりを受けましたようなものではなくて、現に私も最後の段階において一部関与いたしておりますので、私
どもといたしましては、
外務省と当時の法務府との間に
意見の一致を見た上で出したというふうにお聞き
願つていいと思います。この吉田書簡なるものが出されましたにつきまして、その
内容をしさいに点検いたしますると、従来の五月十七日の通牒をも
つてしては、なおまかない切れぬ面があるのではないかというふうな問題が
一つ出て参りました。というのは前の通牒は非常に簡単なものでございますので、これをどういうふうに下部に伝えようかということに
なつたわけでございます。そこでこれをさらに詳細にいたしましたのが六月二十三日のいわゆる取扱基準ということになるわけでございます。この取扱基準の主たる
目的といたしまするところは、大体の線はいわゆる吉田書簡なるものも、それから五月十七日の清原通達なるものも、そう大して根本において違
つているとは、われわれは
考えておらない。ただ現在—ちよつとその点を詳しく申し上げますと、もとより
裁判権の問題については、まつたく同一歩調に立
つておるわけでございます。従いまして、その
考え方を下部に徹底するに際しましては、この
刑事裁判権の所在の問題については、特にこれをあらためて言う必要はない、ただ吉田書簡第二項の紛争が生じた場合の個々の
協議、決定の問題が残るわけでございますが、これは五月十七日の通牒が生きておりまするからして、中央に速報があればそれによ
つて外交交渉が開かれる、かようなことになるわけでございますから、特に必要はない、さようになるわけでございます。そこでこの
刑事裁判権に関する取扱基準の第一におきまして、「
国連軍将兵が、
国連軍の施設内において、又は場所の如何を問わずその軍務の執行にあた
つて犯した刑事事件については、
国際法及び
国際慣行により、もつばら当該
国連軍の
裁判権によ
つて処理されるものである。
従つて、これに対して
日本側の
裁判権は及ばないのであるが、施設外における軍務の執行中の
犯罪に対して、
日本側が現行犯人を逮捕してその身柄を
国連軍当局に引渡すことは妨げない。」この逮捕の規定を入れまして明らかにいたした、これが第一の向う側に
裁判権がある場合の
裁判権の実行といいますか、その面と逮捕の問題を解決してあるのでございます。
次に第二はその他の事件の処理でございます。第一に掲げる場合を除いて、
国連軍将兵が犯した刑事事件について、
日本側がいかにこれを処理するかということについては、
日本側の
裁判権がこれに及ぶものであるから、すべてこれを立件して処理するものとする、という原則を掲げました。この第二の問題につきまして、さらに一番問題になりますのは、身柄の問題でございますので、身柄の点につきましては、「この場合において、現在
国連軍側は、
国連軍将兵の身柄の拘束について強い関心と希望を抱いており、
日本側としては
国連協力の見地から国内法上可能な限度でこれに応ずる方針を採ることとな
つたので
国連軍将兵の身柄の拘束については、左の区分によ
つて取扱うこととする。」という前置きを置いた次第でございます。当時
外務省とも打合せもいたしましたし、いわゆる吉田書簡なるものは、
外交文書といたしましてこれをあちら側の了承を得ずに発表するということは、
国際信義に反するという
国際慣行を尊重するようにというような
お話がございましたので、その線に浴うて私
どもは吉田書簡の精神を国内法の許す限度においてなるべくこれを取り入れたい。しかし従来のわれわれの刑事訴訟上の取扱いその他からい
つて、入れ得ないところはこれを入れる必要はない、
努力するという限度はそういうように言うべきだというふうに読みまして、次の(1)、(2)、(3)、(4)、(5)というようなこまかい区分にいたしたようなわけでございます。そのうち第一項目におきまして、私
どもが最も望ましき事態と
考えましたのは、まずこの
協議とかなんとかいう問題が起る前に現地で話が済めばそれでよいのではないかというのが第二の(一)でございます。つまり「
日本側において
国連軍将兵の身柄を拘束したときは、速やかに当該
国連軍将兵の所属する軍の
当局にその旨連絡し、なるべく円満な
了解を得るよう
努力すること。」ということが(一)でございます。そうして第二の(二)におきましては、特殊な重大な事犯、つまり吉田書簡の第四項に掲げるようなものにつきましてはどうするかという問題を掲げてございます。この(二)とその次の(三)はあわせてお読み願うとその
関係がよくわかるのであります。つまり(二)(三)は左の各号の事件、つまり殺人、放火、傷害致死、強盗、強姦というふうな非常にわれわれとして重大特殊な事犯と認めておるようなもの、それからその他
国民の耳目を引くかあるいは被害が重大である、犯行が悪質であるというふうな理由によ
つて、
国民感情上または事件の処理上
日本側で身柄を拘束する必要があるような事件については、
日本側においても身柄を確保して取調べをするように、もし身柄が向う側で先につかまえているならば、それに対して取調べをこちらでやりたいからこちらに身柄をよこしてくれというので、一応引渡しを要求するようにというふうな
趣旨でございます。但しこれはいわゆる特殊重大な事犯でございましても、
日本側において身柄を拘束する実質的な理由がないと認めるもの、これは
日本の実際の刑事事件にあ
つても、殺人、放火、その他の事件にあ
つても問題は同じでございますが、在宅で傷害致死の事件を調べる、在宅で強姦の事件を調べるということも事実あり得る、また事実や
つているのでございまして、現在
日本側において身柄を拘束する実質的な必要がないと認めるものについては、でき得る限り逮捕後四十八時間以内に、つまり手取り早く言いますと、警察に身柄がある場合に当該
国連軍係官から
日本側のその必要があるなら、何時でも身柄は差上げますという確約の文書をも
つて、これを
国連側に引渡すようにとりはからいたいというようなことを書いたわけでございます。なおこの特殊重大な事犯、
先ほど言つた放火、殺人、傷害、致死、強盗、強姦といつたような、あるいは
国民の耳目を引く、犯行が悪質であるというふうな事件でない、つまりさつきの(二)に該当しない事件につきまして、
日本側で
国連軍将兵を逮捕したときにどうするかという問題がございますが、これらもまた
国連当局の身柄は
あとで出しますよという確約を得て、引渡すようにというふうなことを
言つてあるわけでございます。そこで
日本側の逮捕に先立
つて、
国連軍側が身柄を逮捕したときはどうするか。この場合には特にその事件が軽徴なるにかんがみ引渡しを要求しない。ただ取調べの必要上その後随時出頭さしてもらいたいということを申し入れておくこと、こういうふうな順序に書いたわけでございます。なおいずれさような事件につきまして(一)に掲げたように、なるべく円満に
了解を得るというふうな方針で事を調べてもらいたいけれ
ども、もしそれでなお
国連軍側と紛議があつた場合には、その旨すみやかに前の五月十七日の通牒の
趣旨に準じて、中央に報告すれば中央でこれを
外交折衝その他で解決するつもりであるということが前文でございます。なお御指摘の備考は一、二とございまするが、この「第二に掲げる基準は、
国連軍将兵の刑事事件処理のうち身柄の拘束に関するものがあるから、
日本側において身柄を拘束していない場合においても不拘束のまま公訴を提起することを妨げるものではない。」これはいわゆる在宅事件として起訴する場合に当るわけであります。二は「
国連軍将兵の家族については、
国際法及び
国際慣行から見ても当然
日本側の
裁判権がこれに及び、身柄の拘束についても
国連軍将兵と同様の取扱いを行う理由は少いと解するから、
一般の在留
外国人として取扱うべきものである。もし具体的事件の処理にわたり
国連軍当局との間にこれに関して紛議を生じたときは、直に、前同様中央に報告されたい。」ということを書きましたのは、従来
国際公法の確立された原則といたしましては、
国連軍将兵の家族についてはむしろ触れていないというのが多か
つたのでございます。最近これに対する若干の例外的な慣行があるやに聞いておりますけれ
ども、確立された
国際法規の原則といたしましては、その
裁判権の問題は家族には及ばぬというふうに解釈しておりましたので、そのような取扱いをするということを同時にいいまして、なお身柄の拘束についても
一般の
国連軍将兵と全然同じということは言えないではないかというので、その点については理由は少いと解するというので、在留外人としての取扱いにつきましては別に通牒がございまして、十分身柄の措置について留意するようにというふうなものが出ております。そういうふうな
趣旨にのつと
つて取扱うべきものである。なおそれでも事件があつた場合には、具体的にそれの
内容を報告して、中央の
外交交渉に移されたい、かような
趣旨に書いた次第でございます。繰返して申し上げますが、この五月三十一日の吉田書簡が出るにつきましては、その当時の
状況を逐一申し上げるほどの自由は持ちませんけれ
ども、少くともその最後の段階におきまして私が関与しておることは事実でございます。