○友末
公述人 今回
政府が国会に提案されております
義務教育学校職員法案は、御承知のように短期間に、しかも名称も
内容も修正に修正を重ねられつつ、無理やりに組成せられました
感じが強く、従
つて行政並びに
財政の両面にわた
つて、きわめて不合理、不完全な点が多いと
考えられます。
まずこれを
行政面から検討いたしまするに、第一に
政府は、普通
教育に関しまする
国民の義務と、これに伴う
義務教育の民主化とを基本といたしまする現行
憲法、及び、いわゆる
教育三法の
根本精神に反しまするばかりでなく、さらに
義務教育行政の能率化にも逆行するものといわざるを得ません。この
法案の骨子につきまして、
政府は、
義務教育の
責任は国と
地方公共団体とが分担すべきであり、その範囲は、学校の設置、経営は
地方公共団体、学校におきまする
教育活動は国とすべきである、かように
考えられまして、との見地に立
つて、ただちに教
職員を
国家公務員となし、これによ
つて教
職員の地位及び
待遇を
保障し、
義務教育の機会均等とその水準の維持向上をはからんといたしておられるのでございます。もとより
義務教育の振興という問題は、国と
地方公共団体とが相協力いたしまして、その実現を期すべきでありますることは言うまでもないところでありますが、その
責任をいかに分担いたしまするかは、
教育そのものの本質、及び
中央地方を通じまする
行政財政の本筋から、大局的見地に立
つて慎重に考究を要すべききわめて重要な問題でございます。私は次に述べまするところの
理由によ
つて、
義務教育というものはあくまでも
地方自治の基本的なものであり、従
つて第一次的な
責任を
地方公共団体に一任すべきであり、この見地に立
つて教育制度を考察すべきであると
考えます。
すなわち
義務教育行政は、
地方一般
住民の日々の生活に直結いたしまするものであり、歴史的に見てみましても、
地方自治と密接不可分のものでございます。従
つてこれは公正な民意を基礎にいたしまして、それぞれの
地方の
実情に即して行われますることが当然でございます。
地方住民の
熱意と
関心、あるいは総意と協力とをま
つて初めて
義務教育運営の公正とその能率の向上とが期待できますることは申し上げるまでもないところでございます。まさに民主
教育の確立というのと大問題は、新日本の国政におきますところの確固不動の基本方針でなければならぬと
考えます。従
つて義務教育活動に対しますところの指揮監督権を国に取上げようとされますることは、
地方自治の総合性と均衡性とを破壊いたしますことはもちろん、
地方自治の伸張を阻害する結果となるのであります。かかる
中央集権化は絶対に排除すべきであると
考えます。
国家百年の大計をなしまするところの
義務教育は、あくまでも中立性を保持されなければなりません。教
職員を
国家公務員とし、その
給与費等を国が握ろうとされまするならば、勢い
教育に対しましても国が不当に干渉圧迫を加えまする危険があるのでございます。
人事というものと
財政というものを握る者がすべてを
支配するに至りますことは、過去幾多の事実が明らかに証明しておるところでございまして、
義務教育におきましてもその例外たり得ないものと
考えます。これは必ず
教育を
政治の渦中に巻き込んで、党利党略に悪用されまする傾向に導くことは明らかでございます。
教育が政党に左右されまする以上、
政府がかわりまするたびごとに動揺いたしまするのは当然でございます。このことは
教育が安定するどころか、かえ
つて絶えざる不安を招来するものであり、
教育の中立性は絶対に
保障できないものと
考えます。
もとより
義務教育の中立性を
保障すべき
教育委員会制度には、根本的な欠陥を包蔵しておるものと思
つております。これこそまず第一に取上げて改革さるべき緊急事中の緊急事であることは言うまでもありません。また一面教
職員の
政治活動の行き過ぎは当然是正さるべきでありまするが、これは教
職員の良識と自己反省並びに
地方住民の輿論と
政治意識の高揚に期待いたしますることが賢明な策と
考えておるのでございます。また
義務教育に関する
人事権を
教育委員会からしいて取上げ、これをさらにあらためてまた委任いたしまするがごときはまつたく無
意味と言わざるを得ません。
さらに
行政責任と
財政責任とを分離しないで、これを一致せしめますることは、現代におけるところの
行政の民主化と
行政の能率化との基本的な原理でありまするのにもかかわらず、
義務教育行政に限
つてその施設とその活動との
責任をしいて国、府県、
市町村にそれぞれ分離せんといたしまするところの真意が那辺にあるか、まつたく常識をも
つては了解できないところでございます。もとより
義務教育行政の
責任をすべて
地方公共団体に属せしめるべきである、かように主張をいたすのではございません。その機会均等と水準の維持向上とをはかるためには、国の第二次的な最終
責任を認むべきではございまするが、それは
地方公共団体の
行政、
財政に対する調整補完の作用をも
つて十分でございます。この限界を越えて、
義務教育職員を
国家公務員とするがごときは有害無益のことと言わざるを得ません。
次に、これを
財政の面から考察いたしまするのに、まず第一に、半年前国会で論議の末成立いたしましたところの
義務教育費半額
国庫負担法を何らかの経験をも経ずしてやみに葬
つて、さらにこれ以上にまずい
法律に飛びつきますることは、国会というものと
法律というものの権威に関することでございまして、
国民の
信頼をみずから失わしめるものであることを強く反省さるべきであると
考えます。この半額
国庫負担法ですら、国の
財政の
責任者でございまする大蔵省は、
予算編成当時、その実施を一箇年
延期して慎重に考究しなければならぬという能度をとられたのでございまするが、それほどに
地方財政に占めておりまするところの
義務教育費の地位はきわめて重要でありますると同時に、またきわめて複雑多岐であり、この解決はきわめて困難でありまするのにもかかわらず、無準備のまま短期間につくり上げられましたところの
義務教育全額国庫負担の
財政計画は、まつたく支離滅裂でございまして、これを強行せられんといたしますることは、無謀もはなはだしいことと申さねばなりません。
さらにこの案を明年度からかりに実施されました場合、
義務教育の実施に要しまするところの、実際必要とする
経費に著しい不足を生じまするばかりでなく、府県
財政の窮乏を一層激化せしめるおそれがあることであります。すなわちまず
政府案によりまするところの昭和二十八年度の一般の
地方財政計画におきましては、府県分についてすでに二百六十四億円の無理があるとわれわれは
考えるのでございます。従
つて地方財政平衡交付金は二百六十四億円だけ過小に見積られておるのでございます。次にこの過小に見積られておりますところの
平衡交付金が決定いたしました後、
義務教育費全額国庫負担のごの大方針が
政治的にきめられまして、そこでこの
平衡交付金の中から何らの合理的基準もなく、
義務教育費全額国庫交付金として九百一億、この九百一億は
地方自治庁と文部省とがそれぞれ主張されまして、その中間を
政治的におきめに
なつたと、かように承
つておるのでございますが、かようにして分離されたことは事実でございます。もともと
平衡交付金というものは、
教育費が幾ら、土木費が幾ら、かように中身がはつきりいたしておるものでないことはすでに御承知の通りでございます。従
つてこれを分離すべきものではない、分離すべからざるものを分離いたしまするところに結果において無理の生じますることは当然のことと申さなければなりません。すなわち実際の
義務教育所要額にははなはだしく不足を生じますることはもちろん、分離後におきまするところの
教育以外の府県一般
財政にも従来以上の窮乏を惹起せしめるものと存じます。
地方行政の基本的な重要
事項に属しまするところの義育のこの大変革が、かくのごとく
財政措置きわめて不合理、不十分のまま実施せられまするにおきましては、必ず義育
教育と
地方行政一般との両者のそれぞれにはなはだしい不安と混乱とを生ぜしめますことは明らかであり、これは
地方行政を担当するものにとりましてとうてい耐えがたく、
地方団体がこぞ
つてこの案に
反対いたしておるゆえんもここにあるかと
考えます。
昭和二十八年度
義務教育の実施に要しまするところの最小の総計費を昭和二十七年度の
実績を基礎として調査権計いたしますると、まず第一に
給与費の実支出見込額千百四十六億円、公済組合
負担金五十一億円、恩給費、これは納付金を除きまして五十四億円、旅費は二十七億円、認定講習に要しまする
経費は三億円、さらに
人事の調整、
給与の支払い等に要しまする
事務に要する
経費は十一億円、合計いたしまして千二百九十二億円に相なるのでございます。なお府県別の
定員定額は目下未定でございまするが、これが判明して各府県ごとに実所要額と比較いたしまする場合におきましては、この額をさらに上まわるものと
考えます。右の額はいかなる制度を実施いたしましても絶対に必要な最小限度の額でございますが、これに対する
政府の所要見込額は千百五十五億円にすぎないのであります。最小限度百三十七億円は不足を生ずるのでございます。以上の不足額百三十七億円は
政府案の
地方財政計画の
財政需要に見込まれておりません。とれに見合う
財源措置が何らなされておりません以上、府県においてはこれを補填する能力はもちろんあるべきはずもなく、また支出を調整いたしまする権能も与えらるべき筋合いでもないし、与えられてもおりません。そこでこの不足額を
政府案のように二十八年当分の間といたしましても、府県をしてその
財政負担の責めに任ぜしめますことは、まつたく不合理きわまることであり、また実際上も不可能のことであります。二十八年度
義務教育費を各府県編成をいたしておりまするが、大体各府県とも特別会計で実は組む傾向でございまして、
中央から
定員定額によりまするところの交付金が示されますれば、それにただちに切りかわる。それ以上の
負担はとうてい能力がないから、
負担の責めに任ずることはできないという方向をただ
つておりますことを見ても明らかでございます。
そこでまず
義務教育職員の
給与の取扱いでございまするが、これは
義務教育学校職員法案の附則にございまするように、現に属しまするところの職務の級及び受けておりまするところの号俸に相当する職務の級及び号俸をも
つて国家公務員に任用され、引続き現にありますところの職に相当する官職につく、かように決定されているのでございますが、ここに大きな問題がありまするのは、実は
給与費の
財源措置につきまして、
政府は昭和二十六年十月に
地方公務員は
国家公務員よりも高いというので、三百四十九円だけ不当に切り下げて
財源措置を講ぜられております。この三百四十九円はその後のベース・アップによりまして現在は七百九十四円という二倍以上の差額に相な
つております。これに相当いたしまするところの額は、
地方財政法第十三条によりまして、今回の法の改正によ
つて府県の新たなる義務費ということになるので、従来は各府県がそれぞれ自主的に継ぎ足しておつたわけでございますが、今回は明瞭に
法律によりますところの新たなるところの義務費と相なるわけでございます。従
つて国はこの
地方財政法第十三条によりまして、当然二十八年度の
地方財政計画にはこれに必要な
財源措置をなすべき義務が
法律上講ぜられておるにもかかわらず、何らの措置を講ぜられないことは明らかでありまするので、国は目下提案されておりまするところの一方の
地方財政計画を義務として追加し、修正されますることが
法律上当然のことと
考えます。
次に、
義務教育職員の免許講習につきましては、従来通り旅費三分の一だけを府県に対し補助するの
方式を続けようとされておりますが、これは
義務教育職員の重要な教養
事項でございまするから、
国家公務員とされまする以上、補助
方式はただちに廃止して、
国庫負担金によ
つて処理されなければ、首尾の一貫性が失われ、理論的にも
矛盾を生ずることに相なるのでございます。また
義務教育職員の
身分を
国家公務員に転換されまする以上、府県の
人事の調整、
給与の支払い等は国の委任
事務に属するものでございますから、これらに要しまするところの
経費は、
国庫負担金に包含さるべきは当然のことである、にもかかわらず、これも
財源未措置のまま
都道府県に押しつけようとされておるのでございます。なお恩給費につきましては、将来はもちろん、過去にさかのぼ
つてその納付金とともに、支給
責任は国に一元化さるべきでございますが、これについての
財政措置もまだ明らかにされておりません。もしこれを
地方財政平衡交付金の中から使うことによ
つて、移用されようとするのでありますならば、これこそ不当な措置ではないかと
考えます。
以上申し上げましたように国においてこれらの絶対不足額に対する
財源措置を講ぜられずして、これが制度の改正につき立案されますことすら無
責任の所為といわざるを得ません。国が真に
義務教育について積極的に
責任を有することを明確にされんといたすのでございますれば、まずも
つて当然この絶対不足額の
負担の
責任を明らかにされてしかるべきことと
考えます。これを要しますのに、
義務教育学校職員法案はいずれの面から考察いたしましても、不合理不完全なものであり、
義務教育に関するほんの一部の
責任を国において形式的に
負担されまして、残余のすべてを不当に
地方に押しつけんとするものでありまして、結論におきましては無
責任のことと
考えます。これは十数指にわたります関係法の改正
法案が容易に具体化しなかつた状況を見ても明らかでございます。この重要な
義務教育の一大改革にあた
つて、かかる疎漏な準備をも
つてこれに対処されんといたしますことは、軽率な所為でございます。
義務教育のごとき
地方自治の基本をなす制度、しかして
国家将来の運命にも重大なる影響のございます制度につきましては、
せつかく政府が設置されました
地方制度調査会があるのでございますから、この調査会の慎重な審議をまち、その答申を得て、総合的な
地方制度改革の重要な一環として対処されますことが当を得ておると
考えます。
以上
義務教育学校職員法案につき、率直に所見を申し述べた次第でございます。