○中村参考人
恩給のことにつきまして私
ども農民の立場から考えますと、
恩給は旧
軍人あるいは官吏に対して与えられるものでございまして、その性質は
退職手当とか、あるいは年金、それに恩典といいますか、名誉といいますか、そういうものも付与されて設けられたんじやないかと思います。今日言うまでもなく、
日本の
国民は
法律のもとでは平等に処遇されなければならないと思
つております。すべての
日本の職業人が自由にな
つている今日、
農民だけが権力をも
つてきめられた、引合わない米価で強権供出をしいられている現状であります。しかも私
どもは根本的には、こういう
恩給制度よりも、
社会保障制度で
国民すべてが平等に
国家の恩典に浴するようにこいねが
つているものであります。すでに
社会保障制度も一部分は実現しておりますが、そのいずれも
農民には何らの恩恵を与えておらない現状であります。そういうことを私
どもは念頭に置きまして特に旧
軍人の
恩給復活について所見を申し述べたいと思います。
私
どもは、旧
軍人、旧軍属の人たちが現在
生活に困
つておられるということに対しては深い同情を持
つております。これは食えるか食えないかという問題でございまして、過去のいかんを問わず、これはすべてが同情に値する人道上の問題だと思います。ことに戦傷者あるいは戦歿者の遺家族に対しましては、ほんとうに気の毒に存じておる次第であります。しかしまた一方、今度の太平洋
戦争は
軍人だけが戦場にさらされたのではなくて、多くの
国民が体験した通り、すべての人が戦闘に従事したと同じような境遇に置かれたのであります。そこでこの
戦争の犠牲者はひとり
軍人軍属のみではない。都市においては、家を焼かれ、生命をなくしたたくさんの犠牲者がおります。そこでこれらの人たちを救済するには、
軍人といわず、民間人といわず、平等に
戦争犠牲者に救済の手を差延べていただきたい。そこにもやはり
社会保障制度を充実しなければならないという議論が出て来るのであります。たとえば旧
軍人の人たちが、自分たちは司令部の命令によ
つて文官より以上に
軍人の
恩給だけ剥奪された、この既得権を取返すのだというお考えならば、私
どもはやはり反省をしていただきたい。司令部の命令だと申せば、農村においては、たくさんの地主の人たちは、一片の司令部の命令によ
つて、占領
政治下に軍事的に先祖伝来の土地を取上げられて、
政府にほとんどただ同様に買い上げられてしま
つております。しかしそれすら、この地主の犠牲は農村の民主化、
日本の再建のためにやはり耐え忍んでもらわなければならないことでございまして、
講和発効して独立国に
なつたから古い
権利を取返すという
考え方よりも、私
どもは現状においてやはり救うべきものは救う、そういう
政治をと
つていただきたいと思います。もちろん私
どもは旧
軍人や軍属、そういう人たちのみが
戦争の
責任者であるとは毛頭思
つておりません。文官にしろ、あるいは
政治家にしろ、当時の
日本の
政治をと
つていた
政治家のすべての人が
戦争の
責任者だと私は思います。そこでやはり旧
職業軍人と文官とは対等に扱わるべきだと思うのでございまして、文官の
恩給が
復活しておりますから、旧
軍人の
恩給も
復活せよということは当然そこから起
つて来ると思います。そこで私
どもは、
恩給法特例審議会の答申の冒頭にございます、その在職中の
給与が非常に悪かつた、在職中は
生活を維持する程度のものだけにとどま
つて、
軍人の
生活は非常に悪かつた。であるから、そういう当然の
権利として
国家に損害を要求するということでは納得が行かない。私
どもは旧
軍人とその遺家族は、少くとも
戦争中においては決して
一般国民よりも低い
生活をしたとは考えられない。ことに赤紙によ
つて召集を受けました兵隊は、人間以下の
生活を強制されております。ここに大きな問題があつたのではないかと思うのであります。
またこの
改正法律案の
提案理由の説明には、
国家財政の現状と
国民感情の動向などを勘案してと書いてあります。この
恩給法の
改正で
国家財政と
国民感情ということを
考慮に入れておりますことは当然だろうと思いますが、
国民感情にはいろいろのものがあると思います。新聞の投書欄などにも、いろいろこの
軍人恩給復活については出ておるようでありますが、少くとも私
どもは傷痍
軍人、戦傷病者あるは戦没者の遺家族に対する
国民の感情というものは、非常に同情的であり、
国家財政が許す最大限の支出をしてこれを救済するということは、むしろ
国民感情としては望んでいるのではないか。そうして、先ほど申し上げましたように、列車内や街頭において、生けるしかばねをさらして募金をされている白衣の戦傷君たちの姿が、この
日本の社会からなくな
つて、りつぱな手厚い保護を受けられることを望んでいるのではないかと思います。また昨年できました戦傷病者戦没者遺家族等援護法などはやはりもつと徹底して、こういう気の毒な
方々に救済の手を差延べていただきたいというのも、
国民感情ではないかと思います。また
国民感情と申せば、
軍人のみならず、
一般官吏に対しても、私
ども農民の立場からいえば、やはり反感は持
つておるのであります。このことについては詳しくは申し上げられませんが、そういうのが
日本の社会の現実ではないかと思います。従いまして、
国民感情を
考慮に入れて
法律を
改正されることは、私
どもからいえば、たいへんけつこうなことではないかと思います。また一部には
国民的な感情というものは、単に個人的に出るのではなくして、その社会の環境によ
つてそういう感情が生れて来るのでございますから、そのために、社会の環境というか、やはり
政治の力で
国民感情が健康な方に向うように制度をつく
つていただきたいと思うのであります。また私
どもは、こういう旧
軍人や官吏に対する恩典的な制度について
国民が反感を持
つておるというそのためにも、やはり
社会保障制度を充実していただきたいと思うのでありますが、今日の
社会保障制度は、いずれにしましても徹底を欠いておりまして、非常に不十分であります。そういうところからも
恩給制度をなお存続されておるのではないかと思いますが、できることならば私
どもは
恩給制度をなくして、
社会保障制度という新しい制度によ
つて、すべての
国民が平等に国の恩典に浴するようにしていただきたいと思うのであります。
次は
国家財政上のことを問題にされておるのでありますが、
国家財政といえば、先ほ
ども申されましたように、
恩給亡国という
言葉がございますが、この
恩給亡国という
言葉は、とりもなおさず
恩給という制度はある限り、
恩給の金は減ることはなくして、だんだん
——ほとんど無制限にふえて行く。国の歴史が古くなるに
従つて、この官吏のための
恩給が無制限にふえて行くというところに、
恩給亡国があると思うのであります。今日
国家が支出する最大限の
恩給を支払うならば、来年の支出も、さらに最大限になり、減ることがないということで、
恩給亡国といわれておるのではないかと思います。
そこで戦前から
恩給亡国の
反対の
言葉として、
恩給返上という
言葉もございました。先ほどの
公述者の方から非常にりつぱなことを申されました通り、
恩給返上という
言葉もあるわけでありますが、ただ私
どもは、
軍人に対する
恩給は自然消滅の姿にな
つてだんだん減
つて行くものだろうと思いますが、一方において文官の
恩給はふえる一方でありまして、私
ども少くともこれを機会に、文官の
恩給制度に対しても根本的な
改革を加えて
財政支出を合理化していただきたいと存ずるわけであります。
国家財政といえば、現在私
どもは
日本の国を再建するために食糧の増産に励んでおりますが、本年度の農林省の
予算では、五箇年計画で来年度二百二十三万石を増産するために、六百二十億の
予算を計上されておりますが、それも半分に削られておりまして、
農民の増産意欲は減退しております。さらに災害復旧などは少しも手がつけられない。こういう状態におきまして、今後
国家の再建を根本的に打立てるこの食糧増産の
施策すら、十分に行われておらない現状において、私
どもは
恩給制度について
国会の皆様方が根本的の
検討をされることを
希望申し上げる次第であります。
さらにまた引合わない米価を
農民は押しつけられており、消費者に対しては高い米価を押しつけておる。そこで二重米価
政策が要求せられておるのでありますが、これらの生産者米価、消費者米価について無理をしいられておるのは、
財政的な
理由が
一つでございます。従いまして私
どもは、もつと積極的にこれらの
政策に対して
国家財政をつぎ込んでいただきたいと思うのであります。
またこの
法律の
改正案を見まして私
どもが非常に遺憾に思いますのは、先ほど申しましたように、
軍人は官吏と同じように取扱わるべきだと思いますが、ことにその
軍人の中には、
職業軍人と、応召によ
つていやいやながらひつぱり出された兵隊がおるのでありますが、できればこの
職業軍人のみに厚いような
恩給制度は、やはり
国民感情からい
つても、よい結果をもたらさないのではないかと思うのであります。
八つの
改正要綱の中の第一点は、先ほど日教組の方から指摘されましたけれ
ども、この加算制度でございますが、最も多く農村から出ておる兵隊の立場からしますならば、この加算制度のおかげで
恩給をもらえる人たちが相当おるだろうと思いますが、この加算制度の廃止によ
つて、兵隊は何らの恩典に浴せないのではないかと思うのでございます。また戦没者遺家族あるいは戦傷病者の援護につきましては、もつと今日よりも手厚くしていただきたい。先ほど七項症、四款症の話もございましたが、前の
公述者と同じ
意見でございます。ことにまたこの戦傷病者に対しましては単に
恩給制度やあるいは援護法によ
つてこれを救済するのみでなく、すでに戦傷病者の人たちが要求いたしております強制雇用法といいますか、相当の企業体が義務的にこれらの気の毒な人たち、就職のためのハンデイキヤツプを持
つておる不具の人たちを、義務的に収容して、不具は不具なりの勤労によ
つて、尊い勤労を通じて
生活を打立てるということを考えていただきたい。少くともこういう制度は戦後七年間、今日までの間に実現されておらねばならなかつたように思うのであります。またこの旧
軍人の
恩給復活につきましては、十七階級は多過ぎるという議論もあり、これは輿論の一致したところでありまして、私
どもはやはりこれは先ほどの
公述者が申されました通り、
恩給制度は、昔の
恩給制度と新しい
社会保障制度の中間、両方を加味した
意味におきましてもこの十七階級をできるだけ
圧縮して、下の方に少しでも厚くこれが均霑されることを望むわけであります。
最後に私
どもはこの
恩給制度改正の機会に問題になりました
社会保障制度を充実していただきまして、
農民にも少くとも
国民年金制度がしかれまして長い間刻苦精励して
国家のために尽した
農民に対しては、
国家は
財政の許す限り
国民年金制度その他の制度によ
つて報いるようにしていただきたい。また健康保険制度にしましても、
農民はまつたくこの保険制度から見放されておるのでありますが、すでに長い歴史を持つ
国民健康保険制度が少くとも今後
農民にも利用できるような制度をつくられまして、健康にして老後を楽しみ得る
農民生活をひとつ皆様方の手によ
つて実現していただきたいということを最後にお願いいたしまして私の
公述を終ります。