○赤岩
参考人 所得税法の一部を
改正する
法律案の六十七条及び六十七条の二に反対
意見を申し上げて、御参考に供したいと思います。
私たちの
組合は非常に評判が悪いのでございますが、そういう点もここでいくらか御理解していただきたいと思います。私たちにこういう機会を与えてくれたことを非常に感謝いたします。
第一番目に、
脱税の目的で
組合をつくるのではないかというような御
意見がございましたが、
脱税の目的だという御
意見は一方的であると私は言いたいのであります。これは税法が非常に公平であ
つて、零細業者に十分に払う能力がある場合には、これはそういうことが言えると思うのであります。ところが
法人の場合と
個人の場合との税制が非常に違
つております。非常に不公平な状態に置かれている場合に、そういうような
言葉は一方的な
言葉だと言わなければいけないのであります。
法人は、明らかに
個人よりもいろいろな面におきまして、基礎控除その他の問題が十分に考慮されております。そうなるならば、
法人になりました大株式会社というものはいつでも
脱税しているか、こういうことになります。そうではないと思うのです。そうしてまた中小業者は、
法人とな
つて自分たちの営業を守
つて行くというような
立場がとれないのか。それはそうではなくして、とれるのであります。その意味におきまして、
脱税の目的で
組合をつくるのではないか、こういう
言い方は正しくない。現在の税法が、
法人に対しては相当いろいろな点の有利性がある。こういうことは言えると思うのであります。現在の中小業者の実態は、どうして
企業組合に入るかということでございますが、大体商売を順調にや
つて、黙
つて税金が払
つて行ける間は、
企業組合に入ろうという気持は持たないのであります。だれでも
自分の営業を
組合に合同してしま
つて、財産をみな差上げて行くということは望まないのであります。
自分が一国一城のあるじとして営業を十分にや
つて行きたい。これが大体中小業者のあたりまえの気持であります。ところが現在の中小業者の実態は非常に悪いのであります。毎日々々苦しい状態にあえいでおるわけであります。金融の問題にいたしましてもそうであります。
税金の問題にいたしましてもそうであります。いろいろな問題について非常にあえいでおるわけであります。
その一例を申しますと、私はここへ実例を持
つて参りました。中野の沼袋のそば屋さんで、鈴木さんという人がおりますが、この人は二十六年度四十九万の
決定額を見たのであります。この人のうちはどういうふうにな
つておるかと申しますと、家族全部で五名働いております。
自分の子供たち三名と奥さんと
自分と、五名が働いております。その上に使用人一名を持
つておるわけであります。計六名が働いておりますが、
個人でや
つておりまして、子供たちや奥さんたちの月給を払うことができない。現在この人は子供たち二人に、一人に三千円、一人に三千円小づかいをや
つております。
自分が
個人でや
つておる限りは、税制では自家労働というものは認めることができなくな
つております。こういうような調子でありますから、どうしても税額が高くな
つて参
つております。なおこの人は長い間胃下垂で寝ておりまして、四万円の医療費がかか
つているのであります。ところが現在の税制におきましては、
所得決定額の一割以上の医療費でなければ、これは基礎控除にならないということにな
つております。またこの人は子供がたくさんありまして、全部で家族が九名おりますが、こういうために非常に困
つております。そのために現在
経営は赤字であります。家屋も現在差押えられているという状態でございます。
これは一例でありますが、自家労働を認めることができないという
個人営業、その基礎控除ができないというような税制、そういう問題が現在どうしても
法人にしなければならないという形、
法人にして
脱税のようなかつこうになるというところに問題があるのでございます。大体中小業者の
人々が今営業しておりまして、どういうふうにな
つておるかというと、この間も新宿の簡易喫茶の人たちの
意見でありますが――この人はある程度
帳簿をつけておる人でありますが、
自分は七年間一生懸命働いて来たけれ
ども、ちつともうまく行かない。経理をすつかりや
つてみると、七年間にきつちり
税金だけは赤字だ
つたと言
つております。それでこぼして言いますことは、このままではどうや
つて行
つたらいいか、希望は全然なくな
つている。
自分が考えたいことは、最低の収入でもいい、それを保障してもらいたい、病気にな
つても何か保障する道を開いてくれることが望ましい、だから
企業組合に入
つた方がよいと思うという御
意見でありました。この間も、これは高田馬場の駅前で花屋を
経営しておる人、この人は戦前は非常に大きな土地を持
つてお
つたのでありますが、
税金のために毎日一坪ずつ土地を売
つて来たことにな
つておる。こういうことをこぼしております。また上高田の方におる森岡さんは、タバコ屋をや
つておりますが、昔のタバコ屋は大蔵省でなかなかやかましいので、すぐさま営業を許可していただけません。この人は昔は相当の物持ちであ
つたのでありますが、家作三軒をこの六年間に売
つてしま
つた。そして
税金はなお滞納にな
つております。こういう状態が現在の中小業者の大体の実態であります。朝から晩まで家族全部働きまして、そうしてあすはどうなるやらというような希望のない状態、これを何とかして救わなければならないというところに問題があるのではないかと私は考えます。現在
帳簿帳簿と
税務署が言いますけれ
ども、むずかしい
帳簿をつけることができません。計理士を雇うにしても、金がかかります。そういう点でどうしても
帳簿が十分につけられないのであります。しかもこの
帳簿を十分につけましたならば、
先ほど言いましたように基礎控除が割合に少い。二万円では養
つて行くことがとうていできません。そのためにどうしても少くしなければならない。そうしないとできないというのが、現在追い込まれておる
帳簿の問題であります。これは私は正直なことを申し上げておるのであります。こういう例があります。新井町に幸寿司というすし屋さんがありますが、この人の
所得決定額が四十八万円、そのうち三十五万円が
税金でとられて行きます。
所得税が十一万円、
事業税が五万円、住民税が二万円、遊興飲食税が十七万円でありますが、
税務署は、そういう税制が無理なんだから、幾らかまけてやろうというわけで、幾らかまけてもら
つておりますが、
税務署自身もそういうことを認めております。それですから、これで
税金を払
つて、十三万円で家族五名が生きて行かなければならないということが、この人の問題であります。こういうような状態に追い込まれています。それですから、
法人にすれば自家労働を認めてもらうことができるし、
企業組合に入ればみなで無尽をや
つて金融の問題も解決することができるし、共済
制度もできて、最低
生活を維持することができるから、やはり
企業組合に入りたいというのが追い詰められた中小業者の気持であります。これに対して
税務署の状態はどうかというと、今年も
確定申告が進んで参りまして、この間二月二十六日、ある公会堂にクリーニング屋さんが集まりましたとき、去年の
税金より今年は四割高い、これは国税局からそういう通知が来ておるからと、こういうことを
税務署員がはつきり言
つております。そうして去年安か
つたのに今年高いという人があ
つたならば、今年が間違いではないのだ、去年が安過ぎたのだから、今年訂正してやるというようなことを言いながら、今年はもう年貢の納め時だというような放言をしておるのであります。こういうふうにおどかして一方的に取上げようというような腹を示しております。なおここで問題になることは、現在
所得税法の一部
改正案がある。
法人の
企業組合なんか
否認されるようにな
つておりますが、これはわれわれも非常に賛成である、われわれ
税務官吏としてもこれを援助するつもりであるということをい
つておるのであります。これは明らかに公務員としての政治活動であるといわざるを得ないのであります。これは
税務署長さんも列席した会であります。
なお最近、二月二十日でありますが、中野の
税務署におきまして、大和町のさしもの屋の近藤福一という人が勧告慫慂に呼ばれております。自由
申告が建前でありますが、今年の
税金は大きいのだからとい
つて呼ばれておりますけれ
ども、この呼ばれたきしもの屋の近藤福一は、その場で脳溢血を起して死んでしま
つたのであります。台所の方の小使室にかつぎ込まれているうちに死んでしまいました。
税務署に行かれた方は、皆さん、業者がどんなに血走
つた目をして、困
つた顔をして真剣にな
つているかということはおわかりだと思います。
税務署がそういう態度でも
つてや
つて来ておることはみな業者は知
つておるのであります。
先ほどどなたかから、
企業組合が十分うまく
行つて、
法人としてしつかりや
つているのに、それに
税務署が圧力を加えてやめさせようとしていることはおかしいという
お話がありましたが、こういう状態はわれわれの
共栄企業組合において起
つている。この点で非常にいろいろな問題が起きているように思うのでありますが、これは私は実際その問題に携わ
つておりませんので、報告からだけしか申し上げることができません。これは現在裁判にな
つておりますので、裁判に出しました報告てんまつから幾らかの
お話をして、私たちの
組合が
脱税組合であるというようなことをい
つておりますが、それがどういう状態であ
つたかという点についての御参考にしたい。そして九州からおいでにな
つている先生方もおられますので、ぜひ大蔵
委員会で
調査をや
つていただければ幸いだと思います。
私は
東京におりますので、
東京の方の状態を若干
お話したわけでありますが、ことに最近大田区の
企業組合連合会が国税局に
行つて、九州に起
つた共栄の弾圧問題はひどいじやないかという
意見を申し上げたそうであります。これは大田区の
企業組合の人でありまして、共栄の人ではありません。ところが、共栄に対する弾圧は行き過ぎであ
つたということを何とかいう
課長さんが申されておる。
東京では、あのようなことはしないと明言いたしておるのであります。九州に起
つた問題は、これは
脱税だとい
つてやられたのであります。私たちの
企業組合は二十四年十二月九日に発足しておりますが、これは
中小企業等
協同組合法に基いておりまして、ある程度包括的な弾力性ある
組織だということが当時もいわれた
企業組合であります。そういう
組合として発展して参
つて、現在全国において二千七百
事業所を持
つております。私たちは発足以来福岡国税局に対して、
法人税法第二十一条によりまして、前年度の実績を記載し、
確定申告並びに
法人税
調査に必要な
決算報告を三年間ずつと
提出して参
つております。さらに三年の間、従業員に対する源泉
所得税を払
つて来ております。その
申告書を福岡国税局は受理をして、三年間おつぼらかしてお
つたのでありますが、毎年われわれの方の
理事長並びに役員が参りまして、福岡国税局に
調査をしてもらいたいということを申し入れております。三年間に二十数回にわた
つて国税局に対して
調査依頼の話をしている、ちやんとそういうものを出しております。ところが今まで何にも
調査しておらぬのにかかわらず、この十二月にな
つて、一斉にこれは
脱税で違反であるということによ
つて、大きな弾圧をや
つて来たのであります。例をとりますと、
一つの営業所に国税局の人たちが七、八人、それから
警察官の人が二十人ぐらい固ま
つて参りまして、いろいろなことを
調査及び押収して、非常にはなはだしい人権蹂躪をや
つて行
つた例を申し上げたいのであります。
一つの例は福岡市でありますが、婦人の
組合員の
事業場に参りまして捜査中に、机の
ひきだしに家賃として三千四百円入れておいたのでありますが、三千円がなくな
つております。かぎのかか
つた金庫がそのまま持ち去られてしま
つたのであります。私信の手紙も持
つて行かれました。それから身体捜査令状も持
つておらないのにかかわらず、男子の人でなくて、婦人の
組合員の奥さんの着物を脱がせて身体検査をや
つております。
組合員の医者がおりますが、その人が診療のカルテをすつかり押収されております。山口県では、子供の貯金通帳や妊産婦手帳までとられております。小倉
税務署では、
組合員の一人だけを署の一室にとじ込めまして、窓にかぎをかけまして
組合の実情を
調査している。こういう状態もあるのであります。さらに捜査の際、陳列だなのガラス戸を破
つているというような乱暴が福岡市にもございます。それから店頭には立入り禁止、何々
税務署と張札をいたしまして、客を追い返してしまいましたばかりでなくて、得意先からかか
つて来た電話も、今はだめだと言
つて自分で切
つてしま
つたという例がございます。
警察官に捜査の手伝いをやらしておきまして、そうして用があ
つたら
税務署に来いと言
つて帰
つてしま
つたというようなことが福岡市の全域において行われております。なお奥さん一人で留守を守
つておりますところに五人の
税務官吏と警官がや
つて来まして、
組合とは全然無関係な陸運関係に勤めておる主人のガソリン券を持
つて行
つたのでありますが、これはどうか持
つて行かないでくれと言
つて泣いて訴えましたにかかわらず、逮捕すると言
つておどかしまして、五人の
税務官吏が寄
つてたか
つてこれを持
つて行
つたというのが福岡市にございます。こういうような状態の人権蹂躙が行われておると言わざるを得ないのであります。これに対しまして、
共栄企業組合が現在
所得法人税の
脱税違反の問題につきまして裁判をや
つておりますが、これについて、この二月の十八日ごろ国税局の方の弁護団から、この裁判を取下げてくれということを私
どもの弁護団の方に申し入れて来ております。これをちよつと
追加いたしておきます。
大体
脱税でないということは
先ほども申し上げたのでありますが、もう少し詳しく申し上げますと、今まで奥さん、子供さん、
自分というような形で働いておりますと、これが全部
個人所得とな
つて参
つております。これが
組合になりますと、従業員にも相当の給料を出すということになります。さらに退職金あるいは共同購入資金、あるいは共済会の資金、あるいはその他のいろいろの金融問題というようなものにつきまして、全部や
つているのでありますが、
個人のような形には
所得の問題が参
つて来ないのであります。それで大体株式会社のようなものでありませんので、従業員の人件費を削
つて株主に配当をふやそうというのではないのでありまして、売上げは
組合員の
生活水準を高め、さらに店の従業員の給料、厚生設備、共同販売、その他の方向に持
つて行くためであります。そういうために黒字にはな
つておらない、そういう
決算書を
提出し二十回にわた
つて国税局に依頼をしておるわけであります。
さらにこの弾圧の問題につきまして、その後のいろいろな状態が明らかにな
つて参りましたが、福岡地方裁判所のある判事さんが、共栄の捜査の
やり方はあまりにひど過ぎた、
税務署員に捜査権を与えるのが誤りであ
つた、行政官に司法権を持たせたことが危険だ
つたということを述懐しておられます。地元の商工会を初めといたしまして、地元の福岡地方におきますところの三大新聞が、一斉に共栄は
脱税ではないということを支持しております。毎日新聞の記事によりますと、廣渡福岡法務局長は、警官と税吏に人権蹂躪が最も多か
つた、
共栄企業組合の場合、医者の家ではカルテを押収し、洗濯屋の得意先の名簿、商店の売掛帳を持
つて行
つたというが、これがほんとうだ
つたらたいへんな人権侵犯だということを言
つておられるのであります。
先ほども
お話がありましたように、中小業者が困
つております。もうどうしようと悩んでおるのでありまして、それらを克服いたしまして、だんだんと
自分たちの末が見えるような形の
企業形態につく
つて行きたいと念願しておるわけであります。そのためにいろいろな問題が今起
つて来ておりますが、われわれはそういう問題を
一つ一つ解決して行きたいと思
つております。
企業組合は、
東京におきましては昨年出発したのでありまして、十分な状態にな
つていないということも言わざるを得ないのでありますが、これをだんだん
組合員に
組合の問題を徹底させて、そうしてりつぱな
企業組合にして行きたい。こういうことを考えておるのであります。ところがこういう法案ができますならば、現在でもすでにいろいろな形によ
つて威力的な圧力を加えておりますのに、さらにもつと激しいものが――
先ほど荒谷さんが言われましたように、ま
つたく前の
事業主がそのまま営業主であるということのために、それだけの理由でも
つて一切が
否認されるような状態になりましたならば、中小業者はもう生きる道がなくな
つて来るのであります。こういう状態をとくとお考えくださいまして、ぜひ御賢察を願いたいと訴える次第でございます。