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鈴木参考人 私がただいま御指名をいただきました
鈴木でございます。私
どもは去年の暮れから、
駐留軍の
演習射撃による
損失に対して
補償をしていただきたい。こういうふうな
趣旨のもとに、各方面に対する
陳情、
請願を実施をして参りました。その結果、本
連合審査会において
参考人として御紹致いただいたことに対しまして、厚く
御礼を申し上げます。
まず第一番にお断りしたいことは、私
どもの今度の
陳情、
請願が、決して時局に便乗したところの功利的なものでない、このことについてお話申し上げたいと思うのであります。
私
どもは今から三、四年前、
政府においてなお
補償金の制度が確立しておらなか
つたときに、
駐留軍の
演習が九十九里の私
ども漁民――この
漁民という中には
水産加工業者を含むのでありますが、この
漁民に及ぼす
影響、その
損害が非常に大きく、またこの
損害は当然
政府においてあるいは
駐留軍によ
つて補償されなければならないと考えましたので、
補償金をいただけるような、何とかしたところの
陳情、
請願運動を起そうではないか、こういうふうに
なつたのであります。従
つて今から三、四年前に、私
どもは
千葉県の
演習補償金に対する
陳情、
請願を
政府方面に対して
漁業家とともに実施をしてお
つたのであります。この
漁業家と申しますのは揚繰、地びき、雑
漁業の三者、これに私
ども加工業者を加えまして、この四業者が一体とな
つて、
政府方面に対するところの
陳情運動を行おうじやないか、こういうふうに
なつたのであります。従
つて事前におけるところのごのような申合せはもちろんでありますが、県内における当初の運動は、この四者によ
つて行われたのであります。その当時県内におきましては、
漁業家と私
ども加工業者の被害の程度は大体同額と、これくらいに軽く見てお
つたのでございます。このようにして当初の
陳情、
請願運動が行われたのでありますが、
政府方面に対する若干の運動を進めるに従
つて、加工業者というものに対する一般的な解釈に、どうも疑義が持たれるような心配が見える、これでは非常にややこしくなりますから、この際は何としても間接に効果的の運動をする必要がある。こういうふうになりましたので、表面からは私
ども加工業者の名前を除いて、
漁業家一本のかつこうで行おうじやないか、もちろん表面は
漁業家一本の形で行いますけれ
ども、
補償金が交付されましたあかつきは、当然
水産加工業者に対しても至当なるところの
補償金が交付されることになる。これは内部的の問題であるから、交付をされたあかつきにはどうにでもなるのではないか、これが当時の両者の考えでありました。これはまたその当時の
漁業家の言い分でございまして、これによ
つて話合いが成立をしたのであります。右のような次第でありますので、私
どもは私
どもで今度の
陳情、
請願を行
つておりますが、これは決してこのたび交付を見ました
防潜網その他の
補償金の交付に便乗をしたところのものではない。どこまでも私
どもの被害の実態に即して、至当なるところの
補償をしていただきたい。ここに出発をしたものでございます。この点まず第一番にお断りしておきたいと思うのであります。
次に、私
ども水産加工業者がどういうふうなところの地位にあるか、またどういうふうな自覚を持
つておるか、そうしてその間に、九十九里におけるところの
水産加工業者はどういうふうな特殊的な環境にあ
つて仕事をしておるか、この点について申し上げたいと思うのであります。私
ども水産加工業者は、水産業協同組合法に基いて
水産加工業協同組合を結成しております。これについてはすでに御承知の
通りであります。水産業協同組合法にはその第一条に、この
法律の目的として、水産業の生産力の増進をはかることが眼目であると明記をしてございます。従
つて私
どもは一般的に申しましても、
漁民とともに、これは間接ではなく、どこまでも直接的に水産業の生産力の増進をはかる、これが課せられた使命であると存じておるのであります。あくまでも商
行為によ
つて利潤を追求する立場にはございません。特に
千葉県、なかんずく九十九里沿岸の
水産加工業者は、その地理的な条件から言いまして、
漁業の経営形態の特殊性を持
つております。これは魚撈とはきわめて密接不可分な
関係に置かれておるのであります。言いかえるならば、私
ども九十九里における
水産加工業者は、
漁業経営の一環の中にある。そうして九十九里の
漁業の形態というものは、
漁業者なくして
水産加工業者の存立もありませんけれ
ども、またこれと逆に、
水産加工業者なくして
漁業者の存立もないのであります。
さらにこれを実際的な問題について具体的に申し上げますと、九十九里の浜には、あのような地形でございますので、市場制度は存在をしないのであります。またいくら市場制度をつく
つてその適用を迫
つても、これが成立をしない。今ここに
一つの例をと
つて言いますと、揚繰網一箇統が約四千貫の漁撈をして参ります。その場合に揚繰網一箇統については、加工業者と称するものが二十名ないし二十五名くらいずつついておるのでございますが、これら加工業者が原料魚の――そのと
つて来たところの魚の値段のいかんにかかわらず、もちろんその場合に採算がとれるかとれないか、これは別問題でありますが、この二十名ないし二十五名が、約四千貫の魚について等分な割当を受けるのでございます。その場合には、なおその魚の価格は
決定をしておりません。そうしてどうなるかと申しますと、加工されたものは梱包をされて京浜その他の市場に運ばれて商品化される。こういうふうな階梯を踏んだ後に、そのときに揚繰網の網主が、そういうふうな広いところの市場価格をにらんでお
つて、初めてこの原料魚の価格は幾らにしたらいいか、こういうことの見通しをつけて網主から
決定をされるのであります。魚市場がないこの特殊性、と
つて来た魚については、採算がとれるとれないにかかわらず、やりたいやりたくないにかかわらず、
自分の配当される量だけは必ずとらなければならない、こういうふうな特殊性、その場合に、他に船がありまして、隣の船が五千貫と
つて来た、
自分のついておる船が
一つもと
つて来ない、こういうふうな場合に、と
つて来た船の方に飛び込んで行
つて魚がとれるかというと、とれないのであります。そうしてそういうふうな
状況によ
つて、今言うたように、
漁業家の方から、最後に、一応このくらいの賃加工の利幅を見られたらいいだろうというような考えに基いて、一方的に魚価が
決定されるのであります。従
つて私
どもはこういうふうな業態から見ましても、どこまでも
漁業経営の中の一環である、こういうふうに感じておるのであります。ましてや九十九里におきましては、御承知の
通りにいわし漁がその大宗でございます。いわし、特に背黒やジヤミというふうなものは、その十が十までが加工されなければならない。加工されて初めて商品化される。背黒やジヤミの鮮魚出荷ということは、これはだれが何と言
つても思い及ばないものでございます。従
つて九十九里の加工業者はどの程度のものを扱うかと言いますと、今のような時期につきまして言いましたならば、漁獲の一〇〇%が九十九里の加工業者の手によ
つて加工されて市場に出る。年間を通じまして八五%から九〇%というものは、加工業者の手を経なければ商品化されない、こういうふうなのが
実情でございます。こういうふうな
実情から見まして、私
どもはいわゆる加工業者という名前はもら
つておりますけれ
ども、水産業協同組合法第一条の目的にありますように、水産業の生産の増進をはかるというところの使命の中に含まれておりますところの
漁民である、こういうふうに
自分の地位を認識し、それだけの自覚を持
つておる次第であります。
こういうふうな
状況の中に、私
ども加工業者は加工業に専従しておる者でありまして、他に仕事を持
つておりません。従
つて漁獲の減少は、必然の結果として
事業量の減少となります。
事業量の減少は経営上の
損失でございます。従来、沿岸町
村財政の面から見ました場合に、私
ども加工業者は町
村財政の面に対して主要なる地位を占めてお
つたのであります。ところがここ数年来経営上の
損失が続いておりますので、困窮のどん底に陥
つております町
村財政に寄与し得ないのはもちろんでございますが、一方あれだけの施設を持ちながら
町村税すらも納め得ない。食えない者が続出である。これが
実情でございます。
このような
実情にありますが、私
どもは水産県
千葉におけるところの私
どもの地位を十分認識しておりますので、いくら苦しくてもこれを乗り切
つて、
漁業振興のために十分寄与したいと
思つております。どうか以上のような私
ども九十九里における
水産加工業者の地位、特に特殊性、そうしてこの
駐留軍の
射撃演習によるところの
被害損失を御認識いただきまして、特別に御配慮をお願いしたいと思うのであります。
先ほど来から九十九里におけるところの加工業者の特殊性ということについて申し上げましたが、これについては去年の夏以来慶応大学の経済研究室において、九十九里浜の漁村の実態調査を続けております。その際に
漁業の実態調査の中に、私
ども加工業者の特殊性ということについては、学問的に十分なる資料をお持帰りにな
つているはずでありますから、要すればこの方面からも貴重なるところの御資料をと
つて御調査願いたい、こういうふうに感ずるのであります。
次は、直接
射撃演習によるところの
損失補償の問題に触れたいのであります。私
どもは
前述しましたように、今度の
陳情、
請願は、単に時局に便乗するものではございません。これに従属するものに一千三百二十三名の業者がございます。従事員は六千八百十二名、そのほかに家族を含めておるのでございまして、この
請願はここ三、四年来のそれらの者の悲痛なる叫びでございます。前にも申し上げましたように、今度の
陳情、
請願については、私
どもは至当なる
補償を要求する権利がある、こういうふうな立場から出発しておるのでございます。
千葉県に対しては、従前前後二回にわた
つて補償金が交付せられました。それについては第一次の
補償金が総額の八%、第二次は総額の七%、これに応ずる額が、
漁業者の決議によ
つて同情金として私
ども加工業者におすそわけいただいたのでございます。これらが一番最初にも申し上げましたように、
千葉県における最初の
陳情、
請願運動の事前の申合せによられたものでございます。これを見ましても、
漁業経営者の名で交付せられたものが現地の
漁業家によ
つて来ること自体が、私
ども射撃演習による被害の実態を物語
つておると考えるのであります。その場合に
漁業者が、間接的に利害が
影響するからとい
つて、運輸業者や資材販売業者にはや
つておりません。
次に、今度の
陳情、
請願にあたりまして、九十九里沿岸の
町村会あげてきわめて多忙の中から一堂に会して、この問題を取上げていただきました。そうして
陳情、
請願の
趣旨の達成と、これがために強力なる運動を展開するという決議をしていただきました。この
町村会の決議はあくまでも自主的な意思に基くものでありまして、現在私
ども加工業者の方が
町村会の空気に押されぎみでございます。これは
町村会があくまでも私
どもの地位と立場と
損害の実態を至当に認識をしてお
つてくれるために起きた現象である、こういうふうに考えるのであります。
以上るる申し上げましたが、私は単なる一業者で、ございまして、毎日魚のつらをながめてや
つておるものでございますので、全般的な
説明として御理解願えない点があ
つたかと思うのでございますが、九十九里沿岸
水産加工業者の経営
状況、これが
射撃演習によ
つてどういうふうな
損害を受けておるか、これはなかなか微妙なものがありまして言葉の上では
説明し得ないものがたくさんございます。よ
つて私がぜひお願いをしたい点は、これらの点についてぜひとも現地を御調査の上、私
どもの窮状を見ていただいて、格別なる御措置をも
つて数年来の宿願を達成できますように、御尽力を最後にお願いいたします。