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永野説明員 来年度の北洋
漁業を大体どういう
考え方でや
つて参るかという問題でございますが、その前に、新しい
委員会でもございますので、本年春から夏にかけてやりました母船式さけ、ます
漁業の
経過を、一応あらまし御
説明しておいた方がよろしいかと存じます。お手元に線を入れました地図をお配りいたしたいと思います。
戦前
わが国の北洋
漁業、ことにこのさけ、ますの
漁業は、露領のカムチヤツカ半島及び沿海州、オリユートル
方面の陸上の
漁場、それから
わが国の領土でありました北千島の上におきます定置
漁業、そのほかにいわゆる沖取りと申します母船と、これに付属する独航船の組合せによ
つて行います
漁業というふうないろいろな
漁業がございまして、それは
わが国の
漁業にとりましても、また
わが国の当時の国際収支にとりましても、非常に大きな
漁業であ
つたことはよく御
承知の
通りでございます。敗戦によりまして、露頭の
漁業権益はもちろんのこと、北千島その他の領土も喪失いたしました。また
マツカーサー・ラインというようなものによりまして、
わが国の
漁船の
制限がございましたので、この
方面の
漁業は全然望み得べきもなか
つたのでございますが、講和条約発効を大体予定いたしまして、日米加三国の
漁業の話合いが行われ、その条約案ができますとともに、講和条約発効後は、当然さけ、ます
漁業並びにかに
漁業その他
わが国が戦前や
つておりました
漁業ができるという明るい見通しができたのでございます。
〔
委員長退席、
田口委員長代理着席〕
日米加三国
漁業条約の点でこの北洋
漁業に触れております点は、要するに
わが国が戦前実績をも
つてや
つてお
つた漁業というものは認める、そのかわり今後新しき
資源に対して一ぱい一ぱいの漁獲をや
つております
漁業については、その一ぱい一ぱいの漁獲をそれ以上ふやさない、今までや
つておるアメリカ、カナダ側でもそれをふやさないという義務を負いますと同時に、
わが国もこれに新しく手をつけるということは抑止をするという形で、日米加
漁業条約の骨子ができておるのでございます。そのうちさけ、ますにつきましては、お手元に配
つておりまする地図の中に西経百七十五度という線がございます。これは一番東の端の縦の線でございます。西経百七十五度及びその南のアトカ島の西の線から真南に走る線、この線を暫定的にきめまして、これから西の方のさけ、ますについては、これはアジア系のさけであるという前提のもとに、ここにおけるさけ、ますの
漁業が
わが国で当然できることに相
なつたわけでございます。そういう前提において、講和条約の発効後北洋のさけ、ます
漁業を計画いたしまして、当時ソ連との
関係等いろいろ不定な、見通しの
立ちにくい状況もありましたので、まず漁区をただいまお手元に配
つておりまするが、矩形の線がございます。東の方が西経の百七十七度、それから西の方が東経の百七十度、北の方が北緯五十五度、南が北緯五十度、この四つの線で囲まれました矩形の海面を
操業区域として、三つの母船と五十ぱいの独航船、それに七はいの調査船を所属いたしまして、これだけの規模をも
つて本年のさけ、ます母船式
漁業が行われたわけでございます。この海面におきましては従来母船式
漁業を本格的に
操業した経験はないのでございますけれ
ども、すでに若干戦前におきまして調査船が動いておりました。その経験に基きまして、こういう船団が出漁をいたしたのでありますが、この
経過は
漁業上といたしましては、非常に天候が悪か
つた。また
漁場もこの矩形の全面にあるのではなくて、このうちの限られた、ちようどアツツ、アガツツの南及びキスカという島がございますがこの島の南、こういう島のちようど陰になる南の方にいい
漁場があ
つたのでございまするが、
漁場が割合狭か
つたのでございます。加うるに
先ほど申し述べましたように、非常に天候が悪くて網がなかなか順調に入れられないというようなことがありまして、当初は
漁業者は非常に苦労いたしたのでございます。しかしその後私
ども北方のソ連の態度というものにつきましていろいろ判断をいたしまして、そうして当然
わが国といたしましても
公海の
漁業でございまして、これについてそう不当な
行為が行われないであろうという見通しを立てまして、後半その左の方に書いてございます梯形の
漁場を拡張いたしたのでございます。この拡張をいたしました後は
漁場も若干広く相
なつておる。またますが非常によくかかりまして、この結果後半のがんばりによ
つて前半の不振を回復いたしまして、大体二百十万尾という予定以上の尾数をあげることができたのでございます。
もう一つ価格の点におきましても、当初予想いたしましたよりも相当上値にこれが販売されたのでございます。当業者の手取り販売
金額といたしましては、当初われわれが予想いたしましたよりもややよか
つたということに相な
つたのでございます。しかしながらもちろんそれは初年度のことでございます、網のしたく、その他
漁船の整備、その他いろいろ経費もよけいにかか
つておりますので、その経費の収支につきましては、いいものもあり、悪いものもあるというような状況であ
つたのであります。以上が本年
操業いたしました
経過の大要でございます。
そこでこの
操業の結果を、私
どもといたしましては、—本年は
監視船その他で私
どもの同僚が相当多数この
方面の出漁に一緒に参りました。また当業者としてこの
方面に出漁された船団長、その他の経験者等の意見も十分聞きまして、本年度の計画を立案して参
つたのでございます。その後われわれの得ました結論は、
先ほど長官もちよつと
お触れになりましたが、本年一年だけの
操業によ
つて、来年度の
漁場の全般的な見通しを立てることが非常にむずかしいという点でございます。本年度の
漁場は、お手元に配
つております資料の黒い線で囲みました矩形と梯形を加えた一番広い
海域でございます。すなわち東の端は、条約によ
つて暫定線とされております線をも
つて限ります。北はコマンドルスキーの
方面を除きまして北緯五十五度といたしました。コマンドルスキーの近所は、北緯五十二度三十分をも
つて限定したいと
考えております。それから南の方は、昨年の許可
水域の最も南の限度である北緯四十八度をも
つてずつと東まで一本で限る。これだけの
漁場は来年度
操業いたしてもたいして支障なく
操業できるという見当を立てておるわけでございます。もちろんこの
漁場は、もう少し西の方、カムチヤツカ寄りにずつと寄せますと、
漁場価値としては非常にふえるのでございますが、この西に寄せます効果は、これはソ連の
主張しておりまする
領海十二海里線あるいはその中というところまでわれわれが拡張いたしますならば飛躍的な
生産が予想されますけれ
ども、そうでなければ、あとは三十海里、五十海里、七十海里という沖合いであれば、
漁場価値はそう大して差はないとわれわれは
考えております。本年度
漁業者がいろいろここで
操業いたしました経験から申しまして、来年度もこの辺の沖合いのところに限界を置いてソ連との紛争事故の起きないことを期待するのが将来長きにわた
つての賢明な
措置であるというふうに、私
どもは
考えております。この想定いたしました許可
水域の中で、今年の試験
操業がやや十分に行われましたのは、
先ほど申し上げました最初に許可をした矩形の
水域でございます。これ以外の東の方にアダツク島の島陰に狭い
漁場があり得ると私
どもは
考えます。これ以外にまた西の方の矩形の地域におきましても、昨年は七月以降の
操業しかいたしておりませんので、五月、六月の漁況は全然判断がついておりませんが、これにも若干の
漁場はこの早期においても期待できないことはない。しかしながらそれはもう一年、ここにおきまして相当優秀な調査船を動員いたしまして、ここの
漁場価値をある
程度的確につかんだ後に、今後の本格的な
操業規模をきめるのが、長きにわたひこの
漁業を堅実に発展せしむるためにぜひ必要なことではないかと
考えております。またわれわれがもう一年漸進的に試験的に
操業いたしたいと
考えますのは、北洋のカムチヤツカの付近のますについて、戦前著しく現われておりました、一年ごとに非常に豊凶の差のあるという現象でございます。これはますは、大体満二年でも
つて再び成熟して河にもど
つて参りますので、過去におけるある一定の年にその
資源が減りますと、その
資源の減
つた影響は正確にその次々の年に反映して参るのでございます。従いまして隔年に
資源の多い年と少い年があるという結果に相
なつておるのでございます。この現象はカムチヤツカ半島のます
漁場において、はつきりと過去の統計に現われておるのでございまするが、西暦で申しまして偶数の年は相当とれる、奇数の年は非常にとれないという豊凶の繰返しがあるのでございます。もちろん戦時中及び戦後、ソ連の漁獲統計も入手いたしておりませんが、また本年
操業をいたしますこの沖合いにおいて、その豊凶の
程度が
漁業にどれくらい影響があるか、
漁業をしてどのくらい豊凶があるかということにつきましては、もう一ぺん試験
操業をしてみないと確信が得られないのでございます。もし万一ますの豊凶という現象が現在において相当あるといたしますならば、本年にわかにこの独航船の数、及びここにおける
漁業の規模を増加いたすことは、
漁業者にと
つて、かえ
つて出漁の後において非常なる損害を与える結果になることを心配いたすのであります。これらの事情からいたしまして、われわれといたしましては、偶数年次の経験はことしの
操業で得たのでございまするが、奇数年次における経験をもう一年の試験
操業によ
つて的確につかみたい、こう
考えるのでございます。もつともわれわれといたしましても、この北洋
漁業が
わが国の、ことに北海道、東北
方面の沿岸
漁業者にとりまして、非常に期待されておる
漁場である、また内地における
資源を少しでも負担を軽からしめるために、この
方面になるべく数多くの
漁船を出したいという希望は強く持
つておるのでございますけれ
ども、この
仕事が年々
現実に発展して行く基礎をつくるために、来年もう一年試験
操業を実施したい、こういうふうに
考えておるのでございます。その試験
操業の規模といたしましては、今申し上げましたような種々の考慮を総合いたしまして、なるべく数多くの
漁船を出したいという希望と、その
漁場価値がいまだつかまれていない非常に不安定な
意味を持
つておるという事情をあわせ考慮いたしまして、昨年度の五十隻に対しまして若干期待できる
程度の独航船の増加をいたしまして、大体独航船、調査船合せまして百隻、その内訳は独航船が八十五隻、調査船が十五隻という規模で、本年の繰業を計画したいと
考えております。
それからこの独航船の数に応じまして、母船は決定されることになるのでございまするが、この母船及び独航船につきまして、前年度、つまり本年の実際にやりました経験を本にいたしまして、その性能について相当本年よりも改善して参りたい、こう
考えておるのでございます。独航船につきましては、昨年も五十トン以上で、ジーゼル・エンジンで、無線方向探知機を持
つておるという資格を要求してや
つたのでございますが、独航船の
方針をきめましてから具体的に出漁をいたしますまでに十分な時間の余裕がなかなか許されなか
つたために、
漁船で、
漁場に行
つてから故障を起したというような例が相当あ
つたのでございます。本年はまだ時間もございますので、内地の沿岸
漁船の中の最も優秀な性能を持
つているものをなるべく選ぶという趣旨におきまして、なお前年の条件につけ加えまして、たとえば船齢について
原則として戦前に建造したものは認めないというような条件、それからエンジンの
内容につきましても、これが現場で故障の起らないようないろいろな要件、あるいは故障が起きましたときにすぐ修繕できます予備品を持
つて行くというような条件をつけ加えたいと思
つております。また無線にいたしましても前年度はただ無線がついているということでございましたが、本年度は発信、送信が随時切りかえのできるような性能のものを要求したいと
考えております。それから前年において要求しなか
つた要件でございますが、独航船のスピードの問題でございます。
漁場においては当然船団
行動をいたす必要がございますので、スピードは七ノツト以上というような
制限をりけたいと
考えております。それから独航船をどこからどういうふうに選ぶかということでございますが、この点につきましては大体前年のやり方を踏襲いたしたいと
考えております。つまりこれの対象とする
漁船は以東底びき
漁船、これが現在沿岸において最も
資源の重圧に悩んでいる
漁業でございますので、これを対象といたしまして過去の北洋
漁業の実績と以東底びき網の
現有勢力というものを基礎にいたしまして、各県に割当て参りたいと
考えております。この割当の対象とする県は今申し上げましたような観点から、北海道及び内地の太平洋
方面は千葉以北、裏
日本は石川以北というように、前年度と同じような諸県になると
考えております。
次に母船の方でございますが、母船につきましても本年は
操業いたしました母船の中には相当船型も小さく、その性能といたしまして若干問題にすべき点があ
つたように存じております。それで来年度の条件といたしましては、トン数については千トン以上、それから
漁獲物の処理の設備といたしまして特に一日十トン以上の冷凍冷蔵の能力を要求したいと
考えております。そのほかたとえば方向探知機、ローラー・レーダーというように
漁船との通信
連絡なり、位置の確認のために必要な装置、あるいはエバポレーターの設備、あるいは付属独船航にいろいろな故障の起ることも予想されますので、そういう故障船に対する修理設備及び材料あるいは技術者を乗せること、また付属独航船に病人ができることも
考えまして医師、医務室等の条件についても要求いたしたいと
考えており手。われわれは今年度の段取りといたしましては、たただいま申し上げました八十五の独航船を今後
関係の道府県と協議をいたしましてなるべく早くかつなるべく優秀な
船舶を選んで参りたい。そうしてその選ばれた適格独航船の経営者と適格な母船の経営者とのお互いの協議によりまして今後の独航船と母船の間にいろいろ必要な事項、たとえばどの独航船をどの母船に配属する、あるいは資材資金をどういう分担で準備をするか、あるいは
漁獲物の仕切り
関係をどういうふうにするかということにつきまして、選ばれた両者の協議によ
つてこれをきめさせる。これがきま
つたことを確認した上で私の方としては、この
漁業の許可をいたしたい、こういうふうに
考えております。
先ほど申しましたように、来年一年試験
操業という
建前になりますので、もちろん許可の
期間は来年一年になるわけであります。以上のような
方針に基きまして、今後
関係県と順次協議を進め、
関係操業者よりの申請を検討いたしました上で、今後の具体的な出漁計画というものを決定して参りたい、こういうふうに
考えております。
以上が母船式さけ、ます
漁業につきましての
考えておるところでございます。
もう一つ、北洋
漁業といたしましては、かにの母船式
漁業があるのでございます。これは戦前におきましてはカムチヤツカ半島の西海岸、東海岸及びべーリング海のずつと東の方におきまして
操業いたしたのでありまするが、かには相当沿岸に近いところが
漁場でございますので、なおカムチヤツカ半島の東西の両海岸の
漁場は現在においても期待はむずかしいのでございます。戦前出漁いたしておりました東べーリング海において二隻ないし一隻の母船を経営した実績があるのでございますが、来年度はこの母船式かに
漁業につきましても一船団を出漁させたい、こう
考えておる。この一船団と申しますのは、この地方におきまする、かにの
資源のわれわれの得ております
資源の大きさからして、これ以上の母船を出すことは
資源に対する影響が悪いと思
つておりますので、一船団にとどめたいと
考えております。この
方面のかににつきましては、現在では相当アメリカ側においても
操業が行われておるということがわか
つておりまするので、それらの点も考慮いたさなければならぬと思
つております。なおこの
漁業のやり方につきましては、これはせつかくの
関係漁業者の協力によりまして、これは船団が数がたくさんあれば別でございますけれ
ども、
資源の
関係から一船団しか出せない
漁業でございますので、
関係の
操業者においてよく相談を遂げられまして、共同の
仕事としてこれをや
つて参りたい、こういうふうに
考えておるのであります。
なお北洋
漁業として問題にあげられまするのは、捕鯨等もございまするが、これにつきましてはいまだ
方針をきめる
段階に相
なつておりません。
以上のようなことでわれわれといたしましてはなるべく段取りよく相談をきめて参りたい、こういうふうに
考えておる次第であります。