○
幸島参考人 私は、まずも
つて国会におきまして
住宅問題がきわめて熱心にお取上げいただいておりますことに、敬意を表する次第であります。特にこのたび
住宅対策を、
産業労働者住宅対策あるいは
勤労者住宅対策というきわめてはつきりした形でお取上げになりましたことは、当然のこととは申しながら、今後の
住宅対策の進展に期待されるものがあるわけでございます。
申すまでもなく、
住宅対策には、奇想天外の妙手はございません。どこまでも
国民の
住宅問題の
重要性に対する認識の深さと、当然それによりまして
国民所得の幾ばくを
住宅建設に投ずるかということに帰着するわけでございます。
先ほど委員長からお話のございましたように、いまさら
住宅難の問題をここで数字的に申し上げる必要はございませんが、この
産業労働者住宅資金融通法案等につきましてこの
法案そのものに触れます前に、現在まで行われました
住宅対策の結果がどんなふうに
なつておるかということを、一応述べさせていただきたいと存じます。
戦後の
住宅不足は四百万戸近くであつたということ、しかも昨年の四月に
建設省の御
当局が発表になりました推定の
不足数は、なお三百十六万戸ということに
なつておりますが、その間に
政府が
補助金あるいは
融資というような形で投じました
資金が、大ざつぱに申しまして九百八十億ほどに
なつております。すなわち
公営住宅に百八十八億、これによりまして三十三万戸ほどの家が建
つておる。
住宅金融公庫を通しまして建てられた家が十五万戸ほどでございまして、四百九十億の
資金が投じられております。それから
国家公務員のためにいわゆる
公務員宿舎というものが五十四億ほどの
資金で約一万戸ほど建てられております。特殊のものといたしましては、例の
復金融資によります
重要産業労働者住宅の
建設が百五十三億の
融資によ
つて七万二千戸ばかり建てられております。
開拓入植者住宅のために七十一億円の金が投ぜられて、十三万五千戸、さらに
引揚者のために四十二億の金が投ぜられまして、十二万戸ほど建てられております。
先ほど申しました九百八十億で大体八十二万戸が建てられておるわけであります。このほか昨年から
厚生省保険局のいわゆる
厚生年金保険積立金関係の
融資として十億の金が
融通されておると
承知しておるわけでございます。その間に全然国の
補助あるいは
融資をまたないで、
自力によ
つて建てられたものが二百五十万戸ほどに上
つておりまして、全体の
建設戸数三百三十万戸のうち七十六、七パーセントはまつたく
自力で建てられておるという
計算になるわけでございます。それで
昭和二十年から昨年までの間に全部で三百三十万戸ほど建てられましたが、当然その間に毎年必要とされます家を三十万戸ずつといたしましても、やはり終戦直後の四百万戸の
不足に加えて、年々の
新規需要の三十万戸ずつと、それからその間に建ちました三百三十万戸を差引きましても、
計算上はやはり三百二、三十万戸足りない。つまり昨年の四月
建設省当局の発表されました三百十六万戸というものが、大体
計算上合うのではないかと思うのであります。
依然としてそれだけの
住宅不足が今の
日本にあるわけでございまして、これに対してどういうような
方法を
とつたら家が建つかということを考えますと、
先ほども申し上げましたように、
自力によ
つて建てられる七十六、七パーセントの
一般の
住宅に期待することは、今後なかなかむずかしいのではないか。その証拠には、この
自力によ
つて建てられました
住宅は、
昭和二十二年、二十三年、ころは五十万戸あるいは六十四、五万戸という大量の数に上
つておりますが、二十四年から急激に減りまして、二十四年には三十二万戸、二十五年には二十五万戸、二十六年には十三万戸、二十七年には十七万戸弱というようなことに
なつておるわけでございます。つまり
自分で家を建てられるような者は、とにかく無理をいたしましても家を建ててしま
つて、
自力で建てられない者は、国の
補助なり助成なりによります家に入れない限りは、
過密住居というやむを得ない
状態にされておるわけであります。御
承知のように、
昭和二十五年七月から
家賃の
統制その他の
統制が撤廃になりまして、一応形としては、高い
家賃をと
つて貸家が建つような形に
なつております。しかし家を借りる者の方にその高い
家賃を支払う
能力がなければ、家の
供給というものは引合わないということで、当然建てられないことになるわけでございます。たまたま高い
権利金をあらかじめと
つて、それをもとにして家をつく
つて貸すというようなことも行われてはおりますけれども、しかしそういうような家に入り得る者は、やはり限られた、
相当程度収入のある岩ということになるわけでございます。昨年の
貸家の
新設状況を推定いたしますと、大体三万四千四、五百戸であろうと思いますが、そのうち
公営によ
つて建てられました
住宅が二万五千戸ほどで、
住宅公社あるいは
協会等によ
つて建てられたいわゆる
住宅金融公庫の
融資住宅が四千戸、そして
民間の
貸家が大体五千五百戸ほどあろうかと思いますが、この
民間の
貸家は、昨年の全体の
建設戸数に比べましてせいぞれ二、三パーセント
程度と推定されるわけでございます。
そこで、
一般の
自力による
住宅が今後それほどできないということになれば、
公庫住宅というものはどうであるかと申しますと、これも
昭和二十五年に三万戸、二十六年に六万五千戸、二十七年に大体五万五千戸ほど建つであろうと想像されまして、全部で十二万戸ほどに
なつているわけでございます。これも頭金を
相当持
つていないと金が借りられないというようなこともございますし、やはり
相当の資力のない者には、
住宅金融公庫による
住宅の
取得は縁遠いものだとも考えられるわけでございます。特に最近
土地の値上りが非常にはなはだしいために、
土地の
入手難から、これは又聞きでございますが、
せつかく申込みに対する
承認がございましても、四〇%
程度の方はこれを放棄しているそうであります。最近は
金融公庫の金を借りて
自分の家を建てるというよりは、むしろ
住宅金融公庫は賃貸の
住宅を一括して建てるのでありまして、それの方へだんだんと重みがかか
つて来ていると考えられるのであります。
このほか、
先ほど申し上げました
復金融資によりますもの—これはいわゆる
炭鉱労務者住宅でありますが、今は全然こういう
融資は行われておりません。それから
入植者住宅とか、
引揚者の
住宅とかいう特殊な
住宅は、現在最も問題に
なつております
都市の
住宅難を解決する
方法ではないわけでございます。残されますところは、結局
公営住宅ということになるわけでございまして、
先ほども申し上げましたように、戦後三十三万戸ほど建
つておりますが、最初の
昭和二十年には八万一千戸、二十一年には四万八千戸、二十二年及び二十三年にはともに四万二千戸ほど建ち、二十五年には二万六千戸、二十六年には二万七千戸、二十七年には三万三千戸を予定されているわけでございます。しかしこの
公営住宅の方も、昨年
国会の御
承認を得まして、いわゆる第一期三箇年
計画ということで、二十七年度から二十九年度までに総計、
木造、耐火合せまして—第一種、第二種を合せまして、十八万戸の
建設が予定されたわけでございますが、二十七年度において六万戸の
計画が初年度として決定いたしましたにもかかわらず、現実には
国庫補助五十億で、半分以下の二万五千戸ほどが
承認されただけでございます。十一月の
補正予算で
建設省はさらに八十四億、三万五千戸を要求いたしましたけれども、
大蔵省がこれを問題にいたしませんで、さらに二十四億、一万戸の
計画に直しましても、遂に
大蔵省はこれを認めなかつたということを聞いております。こういうようなわけで、
せつかく三箇年
計画を
公営住宅について立てておりますにもかかわらず、これがそれほど進まない。
また
公営住宅は、御
承知のように国の
補助を得て
地方公共団体が建てるわけでございますが、現在
地方公共団体の財政難ということ、特に起債を
大蔵省の方で強く縛られておりますために、
地方公共団体は
公営住宅を建てる意欲はあ
つても、
能力がないというような
状態でございます。たとえば
東京都について見ましても、二十五年度に四千戸の割当がありましたのを五百戸返上するとか、あるいは二十六年度に四千戸でございましたが、四百戸返上するというような、これはほかの
地方にも見られる
実情でございます。最も期待される
公営住宅がそういうような
状態でありますということ、その結果、このたびの
産業労働者住宅資金融通法案というようなものが考えられたのではないかと想像をいたすのでございます。
つまり国の
資金が比較的少いために、できるだけ
民間の
資金を導入して、そしてこの両者を合せてできるだけたくさんの
住宅を
建設して行こうという意図は、まことにけつこうなことではないかと想うのでございます。
ただ
給与住宅には観念的に二いろのものがあ
つて、一つは
労働者を集めるために、必要な
山間僻地とか
鉱山等でどうしても用意しなければならない、いわば
産業設備と同様に考えられる
産業施設としての
住宅とも申すべきものと、それから
福利厚生施設としての
住宅とが考えられるのではないかと思うのでございまして、現在の
都市における
産業労働者がきわめて
住宅に困窮いたしております
実情にこたえる
意味で、
福利厚生施設としての
住宅が特に重く考えられなければならないと存ずるのであります。この
意味で提案されております
産業労働者住宅資金融通法案の第四条に「この
法律による
資金の
融通は、一
事業者に使用されている
産業労働者の
住宅不足が甚しい場合において、
当該産業労働者のために
産業労働者住宅を
建設しようとする者で、
住宅の
建設に必要な
資金の
全額を調達することが困難であるものに対し、その
住宅の
建設資金の
不足額を補足するためのものとして行わなければならない。」というふうに書いてございますが、この
条文の
趣旨を厳格に解釈いたしまして、もし
事業者側が
労務管理上どうしても必要な
住宅は、できるだけ何らかの
方法で別の
資金を
使つて、いわゆる
福利厚生施設としての
住宅についてのみ、この
資金を使うという形に持
つて行
つていただきたいと考えるのございます。
そういう
意味で、この
法案にございます
貸付限度の
条件をせいぜい緩和していただきたい。この
条文は
住宅金融公庫の
貸付条件よりも、その
意味で酷であると思うのでございます。ことに
中小企業を
対象といたします場合には、できるだけこの
条件を緩和していただきたいと思うのであります。また租税の
減免措置とか、できることならば、
ちようど企業合理化促進法において
産業設備の
近代化に使いました
資金については
特別償却をするというような
方法で、この
産業労務者住宅についても特別の
償却を認めるような
方法がとられるならば、この法の
趣旨は十分徹底するのではないかと考えるのでございます。
この際上程されております
勤労者住宅建設促進法案においては、
貸付対象を
労働組合とかあるいは
公務員共済組合、
消費生活協同組合というようなものも考えておられるようでございますが、この
法案において考えられておりますように、もしこれらの
対象に対して
全額を貸し付けるということであるならば、むしろ思い切
つて住宅の
経営を
国営あるいはこれに準ずるような
方法でやられることの方がよろしいのではないかと考えるのでございます。その
理由には、
先ほども申し上げましたように、現在
土地の
取得ということは非常にむずかしい、こういうようなことを
労働組合等が一々おやりになるということはたいへんなことではないか。また
住宅の
建設経営ということは、非常に技術的にうるさい問題を含んでおりますので、そういうようなことを
労働組合が一々おやりになるのは、たいへんではないかということも考えるわけでございますが、もつと本質的には、
全額の
融資を受けまして、かりに
住宅を
建設いたしたといたしましても、ある人の
計算で、かりに十五坪の
木造住宅を考える場合に、
坪当り三万円といたしまして、
土地を五十坪必要として単価を五千円と考えまして、
償還期限を二十年、金利を五分と仮定いたしましても、
借入金七十万円では毎年の
元利金が概算五万五千円ということで、一箇月四千六百円以上になるであろうということでございます。
先ほどの
計算で、二十年先にはごめいめいの
労働者の方が
自分の家になるという楽しみはありましても、しかし、はたしてこの四千六百円以上の負担がし切れるかどうかという問題がございますわけで、もし
労働組合がこれを賃貸するとしても、その
労働者が支払い得る
家賃とするためには、その差額をどうしてカバーするかという問題が残るのではないかと思います。またかりに敷地三十坪で十坪の家を建てるといたしましても、
借入金四十五万円、
償還金が月に三千円になるそうでございます。このほかに
固定資産税あるいは
火災保険料等を加えますと、
相当多額に
なつてはたしてこれを現在の
賃金ベースによります
労働者が負担し得るかどうかという問題がここに残るわけでございます。私はこういうような
理由で
労働組合等がこの
勤労者住宅建設促進法にございますような
意味で
住宅の
経営に当るという
建前は、一考を要するのではないかと考えるのでございますが、従来の
公営住宅の実績を見ましても、過去における
公営住宅の
利用者は、
官公労働者が二十二パーセントないし二十七、八パーセント、
民間労働者が五十五パーセントないし六十五パーセント、教員が七、八パーセントで、九十パーセントは実質的に
労働者が借りておるわけでございまして、そのほか
中小企業あるいは
自由業その他の
関係で、約十パーセント
程度の
利用ということに
なつておるわけでございます。こんなことを考えますと、むしろ
全額融資というような形で家を建てるとすれば、私はどこまでも
国営あるいはこれに準ずるような形でやることがよろしい。あるいは
相当の
補助をして
公営住宅を
建設するのがよろしいのじやないかと考えるのでございまして、特に
先ほど申し上げましたように、現在宅地を獲得するというような問題から申しましても、ぜひ
強制収用のできますような形で、
一団地の
住宅経営を
都市計画に即してやるというようなことを考えることが、
現下の
住宅問題を解決する一番いい
方法ではないかと愚考いたす次第でございます。もちろん、こういつたような
全額国庫の
融資により得ないという
事情が、この
政府の案に
なつた、いわゆる
勤労者住宅の
建設のための
融資ということに
なつたのだと存じますが、しかし、この場合、わずか二十億で一年間に六千五百戸建てるというような
程度の少額で、はたして
住宅問題が解決されるかどうかということを心配するわけでございます。私は先般たまたま
日本住宅協会の方で
調査されました、二百人以上の
従業員を
使つております、千二百三十の
事業所の
回答を見ますと—現在まだこの
調査は進行中でございますが、この千二百三十の
事業所のうちで、
住宅不足を訴えておるところが非常に多いのでありますが、その総体で申しますと……。