○原
公述人 独占禁止法の問題は、元来この法の制定は、
日本の
経済の民主化並びに財閥の解体という二つの目的をも
つて制定されたものであります。これに連関せる財閥解体の
法律も出たことがありました。また過度
経済力集中排除法のごとき、民主化の目的のための
法律も出たわけであります。これは今全部廃止されております。これを要するに、二つの目的のうち、財閥解体は完全に目的を達したと思う。その次の
経済民主化の問題ですが、実は
日本は戦争一辺倒で、昭和二十年までいかなる
産業も、軍需品の
生産をしなければ、いわゆる
産業政治というか、労働者もまつたく得られなかつたというような時代ですから、純平和
産業であるものも軍需
産業にかわつたわけです。これが全部終戦後は転換しなければならぬ。この転換が一種の非常な努力を要したわけです。その点でもうすでに相当
経済は弱体にな
つて来て、それへ少しばかり残
つております幾らか大きな
企業体というものを細分するために、過度
経済力集中排除法というのが出た。すなわちその意味からい
つて、財閥解体の方は目的を達しましたが、民主化の方も目的を達したんじやないか、こういうふうに
考えまして、数年前からこの
法律の
改正がなければ、
日本の国の立上り、
経済の立上りはむずかしい、こういうふうに
考えておりました。一、二度修正がありましたが、今度はまつたく大幅の修正なのであります。私は廃止を
考えておるくらいでありますから、この修正では、今申し上げましたような、
日本の
経済状態に対処して不十分だと、抽象的には思
つております。しかしとりあえず本法のことから申しますと、一番大きな問題でありましたが、これはすでに起
つておるものを——予防でなく、
禁止あるいは分配、細分した
企業の
生産力の較差、あの問題をとりはずしました。目的の中からもとりはずし、同時にまた完全に第三章八条を削りました。それは一応の
考え方をかえて
けつこうだと思われますが、実はその他の問題をまず
一般論で申し上げますと、転換する。すなわち軍需
産業から平和
産業の元へもどろうというものもあるし、また軍需
産業から立ち上
つてこれを平時
産業にもどすというものもありましたが、このときにそれを生かして行くというのには、同じ業種の人たちが生かさなければいけないわけです。それが例の
競争関係の
事業に対しては、その道のエキスパートがこれを生かすことができなかつた。この数年間は
日本は非常に損をしております。そういうことで、すでに同種営業に対する他の同種のエキスパートがこれを生かすことができなかつたということがありまして、すでにもう損をし尽したわけなんです。
企業再建整備法とかあるいは
会社等臨時措置法というようなものが救済的にありましたが、これは一方やはり
独禁法の
制限を受けておりますので、その意味においてはまつたくお葬式を出す方の
企業再建整備法であ
つて、今言つた
事業を生かすという方では、この
法律のためにわくをつけられて、
日本が伸びることができなかつたというのが
実情であります。
もう
一つは、この
法律をできるだけ
緩和して、約八十年前の、割合に短期に
日本が国際的に
産業を復興したあの形にもどしたいという
考えを持
つております。
独禁法は前の時代にはもちろんありません。もつともときどき暴利取締令とかいう
法律も出ました。いろいろなもので
独占的または
競争行為——不当なる
競争排除に伴う
取引制限行為などについても圧迫短期法、あるいは
制限短期法が出ましたが、その点からい
つてまつたくなくするということも、トラストの
制限、一応悪性の
カルテルの
共同行為の問題も規制する必要があると思いますから、修正は
けつこうでありますが、なるべく法三章にいたしませんと、この予防行為を
制限するということが、
日本人は割合に遵法
精神が強いものですから、予防行為の
範囲をおもんぱか
つて事業を遠慮することがあるわけなんです。だから予防行為
禁止法というものをなるべく減して、事が起つた場合には強い意味で押えて行けるようなことにしたい。そう
考えますと、第一条の目的と第二条の定義と第二章第三条の
禁止の本則と、あれがあればあとのものはいらぬということになりますが、そうも参りませんから、現在の修正案でさような形にな
つて行くようにすることが、
日本の
経済並びに
日本の国の今後のためには必要でないか、あるいはこれが早い方がいいのではないか、こんなふうに
一般論として
考えております。
つきましては
法律を基礎にお話申し上げなければなりませんから、私は大きな問題としてここに取上ぐべきことは、今度
原則的に
共同行為が
独占行為になり、また不当取引行為になる場合には、これを
禁止されておりますが、二十四条の二、三、四で
カルテルの問題でありますが、これも逐条のときに私の
意見を申し上げることにして、気のつきましたことを申し上げたいと思います。それは第一条の目的はあまり変化はありませんでしたが、この中に「
一般消費者の
利益を
確保する」、これは前からあるのですが、一体この
法律は
消費者の
利益を
確保するためだけなんです。私はこれは
生産者の
利益も
確保する、そういう書き方がまずければ、公益と書いてほしい、私はこう思うのです。これは現行法にありますが、修正にはないのです。もつとも
カルテルのごときは、
生産者の方に重きを置いておりますから、事実はそういう形にはな
つておるわけですが、
一般消費者の
利益を
確保するということを、公益を
確保するということにする方がいい。
生産者というものも、
日本経済全体の保持の上において、大切な問題ではなかろうか、こんなふうに
考えております。第一条は目的でございますから、非常に広い意味にな
つております。
第二条の定義の方は、この中に、
共同行為に対して非常に詳しく列挙的に入れられたことは、非常に
けつこうだと思います。ことに独立して
事業者団体法という既成
法律がありましたものを、第三章第八条の較差があるものの分轄行為を
規定した条文を削られて、
事業者団体法を廃止したかわりに、そこに
事業者団体に対する
規定を入れられましたから、これはこの問題では新しいことに相なるのであります。その他の
一般問題としては、この定義は、それぞれ詳しく入れられた方が、法の運用上
けつこうでございますから、これに対して申し上げることはございません。
次は第八条の問題ですが、これは先ほど申し上げました元の較差
関係の問題です。元は「不当な
事業能力の較差」とな
つておりました第三章が、今度は「
事業者団体」とかえられました。ただこの
事業者団体の中で、や
つてはならぬという行為の列挙のうちに、第二号に「
構成事業者(
事業者団体の
構成員である
事業者をいう。以下同じ。)」とあります。そこでもう一度括弧をと
つて申し上げますと、「
構成事業者の機能又は
活動を不当に
制限すること。」こういうのが
事業者団体の中の左の行為をなしてはいかぬという中にあるのですが、これは
事業者団体
構成員というものは、その団体の機能を発揮し、またそれ自身の
活動をスムーズにやることのためにつくつた団体なんですから、この目的が達せられなければ、この団体は解体するよりしかたかない。この
規定は意味のない
規定じやないか、こういうふうに私は
考えます。これは削除した方が——法三章で、法は簡明であるを要するという意味からいえば、不必要な
規定でないか、こう
考えたわけであります。
その次に起
つて参ります問題は、十五条と十六条とであります。十五条は
合併に関する問題、十六条は営業譲渡に関する問題なんですが、これはそのまま存置されておるように拝見しております。さつきも
合併の
条件で、較差についていろいろ
条件をつけられておりましたが、この問題は今度はずされましたので、その点だけは
合併条件が減つたと言えるわけです。実は実際に
合併をやる場合に、
合併というものは、業種が似ておりますから、その
合併をやることによ
つて、
合理化ができる、
経済力を発揮する。しかもそれが
一般の公益を害しない、
消費者に不
利益を与えないということがはつきりしておる場合にでも、この
合併を今まででありましたら、一々
公正取引委員会に相談しなければなりません。これが長くかかる。
合併の必要は、そのときの
経済状態から急速を要することがあるわけです。これが数箇月もかかりました場合には、その
合併の必要
程度が減るがごとき場合もあるし、その
合併後に行うべき計画の実行が時期はずれになる場合がある。もつとも最近には、これについてある一定の時間をきめて進むという形をと
つておられますが、その点は手続の問題ですが、第一これが予防
規定の中の、著しく
産業の
合理化を妨げる原因にな
つておると私は思う。もしかりに
合併する結果、
独占になり、または不当な取引もしくは他の取引に
制限を加えるという場合には、これは第三条で押えられる。そういうふうな状態にならないものまで実は遠慮するとか、あるいは
合併を申請すると骨が折れるから、それではこの際別の方で行こうとか、正常な
合併まで阻止されておる傾向がございます。この点について、むしろこれは
合理化のために必要である
合併は、
認可制によ
つてというお話が、さつき
植村甲午郎さんからありました。私はこれは
独禁法の存在が、もうすでに弱体化した
日本にもう一ぺんむちう
つておるような感じがするという点から、これなどは削
つてほしい。また第十六条は営業譲渡なのですが、これを
合併をしないで、営業譲渡によ
つて較差をつけることを計画するがごとき場合を、広く網を張つた
規定であつたか、それをそのまま今度も存続しておる。これらもやはり
合併と同じような意味で、私は
合理化の場合にはという
条件でなしに、あつさりと十五条の
合併と十六条の営業譲渡を削
つていたたくようにしてほしいと
考えております。その他変更されたものについての批評は、これはもう時間がありませんから申し上げません。
その次に問題になりますことは、二十四条の二、三、四の問題であります。二の問題は、非常に詳しい
法律にな
つておりますが、定価販売の場合におけることを
規定しております。今著しい問題は、どういう種類の
カルテルを認めるかという問題が先に取上げられて、その後において論議の結果、この二十四条は、
不況に対するための
共同行為、並びに
合理化の場合必要なる
共同行為というものが、ここに認められて決定されたものだと思います。国際
関係、
貿易関係のことについては、ある一部の人たちでは、
貿易に関する
カルテル共同行為は認めていないというような
解釈をせられてもおりますが、これがやはり不当取引行為にならなければ、またはこれが
一般公益を害する
独占行為にならなければ、
国際カルテルもさしつかえないと私はこの
規定を読んでおります。この点かりにそういう
解釈に疑義があれば、
国際カルテルをも当然
考えねばなりません。いわゆる
貿易カルテルを加えねばなりませんが、これはさつき
猪谷公述べからお話がありましたように、
輸出入取引法もできかけておりますから、その方で
貿易業者の希望が達せられると
考えます。この際は二十四条の三、四の場合を申し上げたいと思います。この不景気に対する場合も、これもやはり急ぐ問題であると思います。急ぐ問題であるとすれば、その
判定認可が早きを要します。ただ、この問題は
届出という御
意見もありましたが、いよいよこの
法律そのもので
共同行為を
禁止しておるのでありますから、多少
規定は手おもにしておいた方がいいと思います。しかしその手続実行の場合には、早くその場合々々に応じた措置がとられねばなりませんので、
主務大臣が
認可を決定する場合に、
公正取引委員会の
認定を要するというこの間の進行を、早めてもらう、あるいは期限でもつけたらどうか、この点について多少世間の
意見についての批評が入
つて申訳ありませんが、
公正取引委員会のみでや
つてもらうという、いわゆる
公正取引委員会を
判定の中心にし、それ以外には持たぬということでありますが、私は
審議会説は今
考えておりません。この
改正法律案の
内容を見まして、私は事実上早くやることができることを希望するわけであります。むしろ私はこの
認定と
認可と二つのもので、結局
公取の
認定がなければ
主務大臣は
認可しないという制度は
けつこうだと思います。というのは必ずしもこの
主務大臣は
業者の利害
関係人ではありませんが、調査は行き届いております。また
業者そのものも絶えず主務省に連絡をと
つて成行きをよく知らしめておると思うのであります。これが完全なる急迫を要するものだ、まつたくこの点は必要であるということを
考えた場合に、そういう方面における何らの機関を持
つておりません
公正取引委員会に対して、はつきり早い連絡をつけて
判定の材料を与えてもらうという必要があるのではなかろうかと思うのです。ただここに一応の
考え方としては、
主務大臣だけに決定してもらうという
方法もありますが、これは私やはり
公正取引委員会という、この
法律の、しかもなるべく予防的の
規定を排したいというわけですから、法的の観点から相当これを見通さなければならない。まあ俗に言えば、法の番人という意味から、
公正取引委員会の存在は必要だと思う。しかも実際の実績はどうか。さつき
合併問題でお話申し上げましたように、りつばな調査機関を持たせるということになりますと、国費をたくさんまたわれわれか負担しなければならないということになります。しかもまた常に
現状において、完全にその点に行き届いた
判定ができるかできないかということもございますので、これは主務官庁でいいと思います。しかし主務官庁の行き過ぎだと思われる点及び
法律の観点からどうかということを
公正取引委員会で
判定して、その
認定をも
つて認可を
主務大臣が出すという今の制度で
けつこうです。ただしかしこれは法文に、こういうものが一定の期間にできるときに早くやれるような
規定を
一つ入れていただけたらいいと思います。もし早くやつたことのために欠点があれば、あとでまた
認定した側でありましようとも、取消し、修正を
公取が命ずることができることに相な
つておりまするから、その点で不景気
カルテルに関する限りはさような
方法をと
つていただくことを希望いたします。ただここで問題になると思いますのは、一応決定して実行に入
つておるものも、その後に至
つてそれに対する不服が出て、また修正を要する点が出た場合には、命令をして一箇月期間がたてばオートマテイツクにこの行動が消えてしまうということがありますが、これは
公正取引委員会だけの判断では無理なことが起
つて来ようと思う。この
認定をする場合には、もう一度
認可を与え得る
主務大臣の方とも相談していただくという余地を存して置く必要があるのではないかと
考えます。これで見ますと、取消し並びに修正に対しては
公正取引委員会はオールマイテイにな
つているというふうに
考えます。この点を心配しているわけであります。
しかしてこの不景気対象
カルテルの
内容について
考えますに、この
カルテルのできる
内容はここに三つあげられておりまして、その行為の
制限があります。第二項に
生産数量、販売数量または設備の
制限にかかる
共同行為の場合はこれができるとな
つておりますが、問題になることが
一つあります。それは対価の問題であります。対価の問題は非常にむずかしい問題であります。ここでは流通行為をや
つております取引
業者は何らその間に入
つておりません。
生産業者だけであります。ところが業種によりますと、製品が
消費者の手にそのまま渡
つて行く場合には
消費者が思惑する。中間商人の手に一応相当のストックを持たしめなければ
仕事にならぬ場合があります。これはさつき渡辺さんの言
つておられた鉄の場合と同じようになる。金融が逼迫した場合に、その人の信用では金融ができなかつた場合にこの品物を売るのです。いわゆる
国内における同
業者間
ダンピングです。これが原価以下に売られて、それがこれを原料として
仕事をしている人たちにコストの不安定な感じを与え、あとの仕入れに対しても底の知れない値下りというものの感じを抱かしめて、
経済治安を害する、あるいは安定がないということになるおそれがあると思います。その意味から、ある場合には
生産業者が、取引
業者を加えることはできませんがその商品を買い取る
共同行為が必要となる。そういうようなことも
考えなければこの
カルテルは首尾一貫しないのであります。これを
規定の上にどう入れるかは問題であります。ただここに技術的理由によ
つて当該
事業にかかる商品の
生産数量を
制限することが云々と言
つてありますが、これは例外ケースで、この
規定の必要なのは石油ぐらいです。自然から掘り出したものはとめるわけには行かない。大量
生産になるが、
価格の上で押えて行こうとしても、事実はそういうぐ
あいにコストは安くならない。この
規定はあまり
考え過ぎている
規定で、しかも実効が上らないと思います。二十四条の三の
価格に関する問題も、
生産数量及び販売数量または設備
制限にかかる
共同行為という問題もそのまま織り込みますが、法文の配列は別としてそういうふうな
考え方を入れていただきたいと思います。
次に
合理化カルテルの問題であります。この
合理化カルテルの問題は、これが適用されるものが非常に少いのではないかと思います。これはどうしても購入なども
合理化カルテルでやらせてもらわないといけないのではないかと思う。ここに購入という言葉があります。「又は副産物、くず若しくは廃物の利用若しくは購入」とありますが、この購入が非常に限定されておりますが、この
合理化のための購入ということもこの
カルテル行為の中に入れてもらうことがこの場合必要ではないかと私は
考えます。
それからもう
一つつけ加えておきたいことは、さつき
委員長はこれは
経済憲法だと言われましたが、憲法の中の
禁止憲法と思います。憲法といいますと非常に重要な問題でありますが、
経済行為を主としたものでありますから、商法違反のごときも
経済的の行為で違反した場合はここに罰則があります。八十九条の罰則は三年以下の懲役または五十万円以下の罰金という
規定がありまして、それが二つ並んでおるわけでありますが、その次の第二項に「前項の未遂は、これを罰する。」とありますが、この未遂罪を罰するというのは削
つてほしい。これは少し強過ぎるのではないかと思います。
アメリカがいるときに何でもかんでも罰してしまえということでやつたのだと思いますが、これを削ることによ
つて未遂が助かるからとかどうとかいうことはないと思います。もう少し
日本人を道徳的に尊重していただくようにした方がよいのではないかと思います。
それから少しあとにもどりますが、二十五条の点であります。これは私前から言
つておる問題なんですが、「
私的独占若しくは不当な
取引制限をし、又は不公正な
競争方法を用いた
事業者は、被害者に対し、損害賠償の責は任ずる。」とあります。これは無過失ということなので、算定の非常にむずかしいところです。商標権を侵害して、それによ
つてかりに石けんの売上げがふえた。一方侵害された方は減つたということならばわかるが、そうでない、無過失損害の場合が多いのであります。無過失損害というのは損害の量定がむずかしい。私は前からこの条項はおかしい、
日本に珍しい条項だと思
つておりましたが、これがそのまま残されている。一例をあげますと、これは
ちよつとこの場合に当てはまらないのですが、私の同
業者の一人が、最近ではありません、数年前ですが火薬庫が爆発した。これは自然発火でありまして、その原因が不明である。一応爆発したという事実はあるが、これはどう
考えても無過失なんです。ところが無過失損害というものの
規定を
法律家が引用して来ました。損害の量定はできないが、とにかく損害があるということなんです。それは相当大きな、もし支払えばこの
会社がつぶれてしまうというようなものだつたので、大分争うということがありましたが、これは参考までに申し上げます。
大体各条項並びに
一般的な問題としてはこれだけを申し上げまして、私の
公述を終ります。