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1953-02-10 第15回国会 衆議院 海外同胞引揚及び遺家族援護に関する調査特別委員会 第6号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十八年二月十日(火曜日)     午後二時三分開議  出席委員    委員長 佐藤洋之助君    理事 飯塚 定輔君 理事 森下 國雄君    理事 受田 新吉君 理事 帆足  計君       逢澤  寛君    池田  清君       川野 芳滿君    玉置 信一君       中山 マサ君    野澤 清人君       石坂  繁君    臼井 莊一君       武部 英治君    堤 ツルヨ君       田中 稔男君    柳田 秀一君  出席国務大臣         法 務 大 臣 犬養  健君  出席政府委員         検     事         (公安調査庁次         長)      高橋 一郎君         外務政務次官  中村 幸八君         外務事務官         (欧米局長)  土屋  隼君         引揚援護庁長官 木村忠二郎君  委員外出席者         法務事務官         (公安調査庁調         査第一部長)  柏村 信雄君         外務事務官         (アジア局第五         課長)     鈴木  孝君         大蔵事務官         (主計官)   大村 筆雄君         大蔵事務官   青山 保光君         国民金融公庫理         事       最上 孝敬君         厚生事務官         (引揚援護庁長         官官房総務課         長)      山本浅太郎君         厚生事務官         (引揚援護庁援         護局引揚課長) 木村 又雄君         建設事務官         (住宅局住宅企         画課長)    前田 光嘉君     ————————————— 本日の会議に付した事件  中共地区残留胞引揚に関する件  委員派遣に関する件     —————————————
  2. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 これより会議を開きます。  本日は、前会に引続き中共地区残留胞引揚に関する件について議事を進めます。ただちに本件についての質疑を許します。飯塚定輔君。
  3. 飯塚定輔

    飯塚委員 中共地区からの引揚げに関しては、国民ひとしく一日千秋思いでこれを待つておる次第であり、われわれもこれを早く実現することに極力協力いたしておる次第でありますが、先般の委員会以来、各委員質問も、ほとんど同じ気持で、同じような項目について御質問が多かつたようでありますから、あまり重複しないように、きわめて簡単でありますけれども、二、三の点についてお伺いしたいと思つております。  まず第一に、引揚者が船に乗つて来られる、その氏名等はいつ発表になられるか、この点をお聞きしたいと思います。
  4. 木村忠二郎

    木村(忠)政府委員 船に乗ります引揚者氏名につきましては、乗船いたしましてから準備をして、一応こちらに着きまして、ただちに発表いたします。
  5. 飯塚定輔

    飯塚委員 氏名発表を今お伺いしたということは、すなわち家族方々が非常にお待ちになつております。ことにこの前の委員会で配付せられました資料の中で、第一の三の項目に「引揚指導」という項目があります。これには、指導官援護庁及び外務省から従来よりも増員して、その引揚げに対するいろいろなお世話をされる、そういうことがございます。またその第二の四の項目最後の方に、留守宅あて通信の手交、一世帯一通の電報を出すということがありますけれども、これは家族に対する一番早い通知だろうと思いますが、これは、舞鶴引揚援護局引揚げてからでなく、できるならば、船の中で指導されるときに氏名がおわかりになつておるとすれば、その際に家族へ通知していただく。そうすれば、舞鶴へ上陸してから、一日千秋思いで待つておられる家族と早くお会いすることができることになりまするが、船の中で郷里に電報を出されるかどうか、この点をお伺いしたい。
  6. 木村忠二郎

    木村(忠)政府委員 船に乗りまして船の中でいろいろと書類をつくつたり、準備をいたすのでありますが、結局船の中で初めて氏名がわかるわけです。従いまして、それによりまして全体に知らせるという方法は、やはり船に乗つた後にその手配をしなければならないことになりますので、結局こちらに帰つてからでなければ正確なる電報を出すということは困難ではないかと思います。
  7. 飯塚定輔

    飯塚委員 それはごもつともなことでございますけれども、できるならば、指導官せつかく増員せられてそれらの手続をやられることになつておりますから、できるだけ早く家族に知らせていただきたいということを希望申し上げて、この質問は終ります。  さらに、お伺いいたしますが、引揚者に対する手当その他については、非常に手厚くされることわれわれとしても希望しておるところでありますが、この第二の九に「応急援護金の支給」という項目がございます。これは、この前の御説明では、未復員者に対しては旅費規程による旅費、その他の邦人に対しては、この旅費規程による旅費に相当する雑費を支給するということで、これはけつこうでありますが、第三の陸上輸送の一項に「乗車券交付」という点があります。この旅費乗車券との説明は、どういうかつこうになつておりますか。
  8. 木村忠二郎

    木村(忠)政府委員 乗車券乗車船賃でありますが、旅費及び雑費と称しておりますものは、その途中における諸雑費であります。
  9. 飯塚定輔

    飯塚委員 次に、引揚者住宅の新設の問題でありますが、この前の説明で、本年度は四百六十戸を建てる、明年度は三千戸の予定だということをお話になりましたが、本年度というのは二十七年度をさすのか、二十八年度をさすのか、従つてまた、明年度というのは二十八年度をさすのか、二十九年度をさすのか、この点を伺いたい。
  10. 木村忠二郎

    木村(忠)政府委員 本年度と申しましたのは昭和二十七年度明年度は二十八年度でございます。
  11. 飯塚定輔

    飯塚委員 更生資金の問題でございますが、国民金融公庫に繰入れる二億円は、二十七年度予算に入れるのか、二十八年度予算に入れるのか、また将来大勢の引揚者があつた場合に、それらに対して更生資金としてどういうお考えを持つておられるか、この点をお伺いいたします。
  12. 木村忠二郎

    木村(忠)政府委員 更生資金は二十八年度予算に組んでございます。二十七年度におきましては、帰りましてただちにそういう計画を立てて金を借り入れるというところまではなかなか行かないのではないかというふうに考えられますが、もし必要がありますならば、金融公庫一般の方でやつていただく。大体、着きましてからいろいろ手続をとりますと、やはり三月の十日以後に相なるんじやないかと思います。着きましてからいろいろ計画を立てて手続をするということになると、結局二十八年度になるんじやないか、こう考えております。
  13. 飯塚定輔

    飯塚委員 それはよくわかりますけれども、着きましてから時間がかかることを予想して、そういうことの遅れたりすることのないように、この点を強く希望申し上げておきます。  なお、この問題とは直接関係しておりませんけれども、前の国会においても、軍人恩給等の問題が当委員会においても問題になつておりましたから、次の機会でもよろしゆうございますから、これに対するいろいろ予算措置その他について説明希望しておきます。これで終ります。
  14. 佐藤洋之助

  15. 帆足計

    帆足委員 引揚げ問題の各種受入れ態勢準備につきまして、政府が鋭意御努力をされておりますことにつきましては、国民の一員として深く感謝するものでございますが、さらに現在の段階で不十分な点につきまして、二、三お尋ねいたして、深甚な御考慮を煩わしたいと存じます。  第一は、向うにおります人たちは、今般はソ連からの捕虜引揚げの問題と多少事情が違つておりまして、半ば生業に従事しておる方々も相当おりますし、移民と申しますような性格の部分もあるのでございます。政府におきましては、かの地に各種事情または正当な職業を持たれておりましてとどまる人に対しては、こちらから妻や嫁の同伴を認めるというお考えのように新聞紙上で承りましたが、そのようなお考えでございましようか、まずそれをお伺いしたいのであります。
  16. 中村幸八

    中村(幸)政府委員 お話のように、中共残留者から、家族を呼び寄せたい、こういうような御希望もあるように承つております。この問題につきましては、外務省といたしましては、人道的な見地から、できるだけそういう方面の御便宜もはかつて差上げたい、かように考えておりますが、但し、中共地区への渡航というものは一般的に禁止せられております。従つて一般旅券によりましてそうした御家族先方にお届けするか、あるいは一般旅券によらないで、あるいは証明書等手続によりまして中共へお送りするか、そういう具体的の手続等についてはまだ決定をいたしておりませんが、できる限りそういうような御便宜をはかりたい。但し、旅費等につきましては、これは国で負担するわけには参りません。個人の負担と考えております。
  17. 帆足計

    帆足委員 旅券手続等の事務的な問題につきましては、あとでお伺いしますが、その問題とは別といたしまして、ただいまの政府の御答弁は、まことに御懇篤なお心尽しで、感謝にたえないと存じますが、その向うに参ることを許されます、たとえば妻とか夫、兄弟、子などの家族範囲は、どの程度にお考えでございましようか。
  18. 中村幸八

    中村(幸)政府委員 その家族範囲につきましては、はつきりしたことをここに申し上げるわけには参りませんが、大体今お話のような、常識的に考えてぜひともその者が身近かにおらないと都合が悪い、こういうようなものに限定したいと考えております。
  19. 帆足計

    帆足委員 先方国民使節が参りまして、ぼつぼつ交渉を開始しておられますので、向うにおられる存留邦人の方もいろいろ心構えがあろうと存じますので、なるべく早く、その同伴を許します範囲につきまして、引揚委員会にお示しのほどを願えますれば、何かと好都合かと存じます。新しくお嫁さんが向うへ参る、——たとえば子供のときからいいなずけであつたとか、多少知合いであつたとかいうことで、もうあの子のことはよくわかつているというようなことがありまして、新嫁が向うに参りますようなことも許されますでしようか。
  20. 中村幸八

    中村(幸)政府委員 そういう特殊な御関係の方は、家族ではなくても、できるだけ便宜をはかりたいと存じます。
  21. 帆足計

    帆足委員 ところで、中国に滞留しております在留邦人の中で、特に特殊の技術を持つておられる方々は、中国はまだ技術の遅れておる国でございますから、非常に重要視されて、自然引きとめる方も熱心でありましまうし、またそれに伴うて相当の待遇を受けておるという事例も耳にするのでございます。満鉄などに勤めておりまして、長い間かの地に滞在し、語学なども堪能であり、また家族関係ども大体整頓されております方は、一種の移民としましてまだ元気の間は向うに滞在していたい、しかしただ、年をとつた母に会いたい、父に会いたい、または墓参りに帰りたい、子供の嫁もらい、学校等のために子供を連れて一時祖国に帰りたいという切なる要望がありますことは当然お認めでございましよう。それらの問題につきまして、私、ちようど北京を訪れましたときに、中国銀行総裁南漢宸氏と語り合いまして、もちろんこれは私的な懇談でございますので、ほんの個人としての気持の交換にすぎませんけれども、そのような墓参り等の一時帰国については、あらかじめ申してくれれば、中国側としては多分認めることができるのではなかろうか、こういうふうに、きわめて人情的な話がありました。それは男やもめとして向うにおられるとか、夫に離れてかの地におられるとかいう方々は、帰心矢のごとしでありましようが、御家族連れ向うにおられる方々の中には、日本のためにも移民として向うでもつと努力しよう、しかし盆、暮れや正月などには、数箇年に一度でもいいから日本帰国して、母の顔を見たいというような方々が非常にたくさんおられると思います。しかも永久に日本に帰ろうか、それともかの地にとどまろうかと迷つておる方も相当あられると思いますが、とにかく、一度祖国帰つて、様子を見て決心しようというような方もおられることは当然であろうと思います。それらの事情を勘案いたしまして、たとえば三箇月とか六箇月とか期間を限りまして、一時墓参りや両親に会いますために帰国することを許すというくらいの措置はあつてしかるべきだと存じますけれども、従来新聞等で伝えられたところを見ますと、そういう便宜はとりあえずはかることができないというような外務当局の御決定であつたかのように承りますが、まことに遺憾なことでありますので、ぜひともこの問題については再考慮をお願いしたいと存じます。この点につきましては、引揚委員会といたしましても、理事会といたしましても、同僚各派諸君とともに、もつと懇談いたしまして、委員会としての見解も相談いたさねばならぬ重要な問題でなかろうかと存ずるのでありますけれども政府当局が今日そのような一時帰国をお許しにならないという理由は、どういうところにございましようか。多少御無理でない理由があつたならば、またそれにふさわしいような条件をつけまして、何とかその願いが届くようにいたすことが、われわれ議員としての務めでなかろうかと存じますが、一応のお考えのほどをこの際承りたいと存ずる次第であります。
  22. 中村幸八

    中村(幸)政府委員 中共残留者で、一時帰国して、再びかの地に渡わたい、こういう者をどうするかというお尋ねのようでありますが、これは、結局再渡航という問題になるのではないかと思うのであります。渡航につきましては、一般人に対する渡航が禁ぜられておることは、先ほど申し上げた通りであります。そういう趣旨から申しまして、再渡航は遺憾ながら認めることはできない、かように考えております。なお、向うでは技術者がぜひほしい、必要だ、ついては代人を渡航させてくれ、こういうような希望があつたといたします。その場合におきましても、やはり同様、新しい渡航の問題になりますので、外務省としては認めることは困難である、かように考えております。
  23. 帆足計

    帆足委員 ただいまの外務次官の御答弁は、まことに遺憾とするところでありまして、私は、これは徳川封建時代の末期と、時世を少し見誤つておられるのではないかという気がいたすのでありますが、そういうことでございますと、せつかくの御親切で新嫁とか妻やその他が今般夫のもとに渡航を許されましても、今度は、父や母が病気になりましたときに、危篤すぐ帰れということになりましても、帰ることは許されない。そうすれば、せつかく新嫁を向うに差上げましても、俊寛のようなことになつて、出発のときは泣言わかれ、こういうような不合理なことになると存じます。外務大臣もお見えになつておりませんので、これ以上次官を追究いたしましてもむだなことでありますし、私どもが申し上げたいと存ずる趣旨は、次官のお人柄から申しまして、十分御了解願えておることと存じますので、これはむしろ私は、一国民代表として、同僚委員諸君ととくと御相談し、また政府の意見のあるところもさらによく伺つて、善処すべき問題であつて、ここで議論いたしまして、抜き差しならぬところに持つて参りますことは申訳ないことと存じますので、どうかひとつ、とくとその事情を再考慮のほどをお願い申したいと存じます。  ところで、引揚げ同胞の数につきまして、当初は占領下にありましたために、この問題は多少国際政治に利用されたというような印象を一般国民は受けているようでございますが、三十七万という最初の数字が、引揚げ及び敗戦直後の混乱の中から生じたことであることは、私ども了といたしますが、昨今問題が具体化して参りまして、中国におきます在留同胞の数は、予想五万数千、さらにそれをもつと実際的に検討いたしますと、実際したよりがあり、消息があり、姓名が明らかであり、確証ある者は三万二、三千、そうしてその他の二万数千はまず間接的調査であるというような趣旨に承りました。このことは、引揚使節団の方から数字を見せていただいたのでありまして、外務委員会または海外胞引揚委員会といたしまして、正式に次官から数字をいただいたわけでございませんし、新聞にも正式に発表されていることを記憶いたしておりませんので、どうかこの問題について、最後的な政府調査の結果をここで御表示くださいまして、——この数字につきましては、三万二、三千の数字が私どもの入手している数字であつてあと二万何千というのが多少あいまいであるけれども参考資料としてひとつ重要な参考にしてくれないかということであれば、まことに誠実な数字であると思うのでありますけれどもかくのごとき切実なる、国民の涙のこもつております問題につきまして、政治的に統計が利用されるということにつきましては、私は一統計学者として、まことに遺憾なことであると、かねて思つていたものでございます。従いまして、その数字につきまして、最後資料をお出し願いまして、それに従いまして適切なる措置国民使節団にお願いすることが至当であろうと存じます。なお、できますことならば、せめて引揚団長あてに、その氏名の名簿を差上げることは、私は中国側にとつてもよい資料になると思いますが、何か、その氏名を出しますると、在留方々に多少政治的さしさわりがあるという説明を伺いまして、私はまことにふしぎなことを伺うものである、その氏名を明確にいたしましたところで、今日の段階では何らさしつかえないのではあるまいか、このような気がいたすのでありまするが、それに対しまして、明確なるお答えを承りたいと存じます。
  24. 中村幸八

    中村(幸)政府委員 中共残留者数字等につきましては、昨年の暮れの外務委員会で大体の数字を私からお話申し上げたつもりでありますが、なお、使節団が出発するに際しまして、特に北京における折衝の段階におきまして必要な場合にだけ提示するというお約束のもとに、数字を書いたものを差上げておるのであります。その数字について申し上げますと、生存者数中国本土九千百八十二名、満州地区四万七千四百四名、内蒙地区二千三百五十五名、合計五万八千九百四十一名、との中で、通信によりまして判明した数は、内訳を申し上げますると、中国本土は六千九百八十二名、満州地区が一万七千二百九十三名、内蒙地区が百一名、合計いたしまして二万四千三百七十六名、かようになつております。これは本人からの通信によつて判明した数字でございます。それ以外の、五万八千九百四十一名からただいまの二万四千三百七十六名を差引きました数につきましては、これは、これまで中共地区から引揚げて参りました方々の正確な報道等によりまして、氏名等のはつきりいたしておるものだけを集計いたした数字でございまして、この五万八千九百四十一名という数については、私どもは確信を持つておる数字であります。
  25. 帆足計

    帆足委員 ただいまの数字につきまして、私はさらに科学的検討を加える必要があると存じておりますが、とにかく引揚げ問題は、もはや三十七万の問題でなくして、中国に関する限りは五万八千九百の問題であり、そのうちで通信によつて明確に確かめ得たものは二万四千である。その他のものにつきましては、さらに私どもとしては学問的に検討いたさねばならぬと思う次第でございます。しかし、かくのごとき問題は、それが、とにかくいかなる党派にしろ政治的に利用さるべき問題でなくして、誠心誠意、事実に基いて相互に検討し、この問題の公正、合理的な解決を促進するためにのみ使用さるべきものであると思うのでございます。従いまして、この問題につきましては、次回にまたお尋ねいたすごとにいたしまして、もう一つお尋ねいたしたいことは、先般高良女史向うへ参りますことにつきまして、外務大臣並びに外務当局旅券をなかなか交付いたさず、世のそしりを受けたことは、記憶に新しいところでございます。一体旅券というものは、外務大臣気持、または外務大臣趣味、嗜好、政治的見解、その他その価値判断によつて、ほしいままに動かし得るものであろうかどうか。それならば、新憲法並びに旅券法というものは、私は何のためにつくられたのかわからぬことになるのではなかろうかと怪しむものでございます。旅券法というものは、簡単な法規でありまして、きわめて明瞭な法規でございまするが、不幸にして六法全書の中に入つておりませんために、国民各位の目に触れることができず、従いまして、旅券法に対して一般文化人並びに政治家方々がとかく見落しておりまするその間隙に乗じて、かくのごときことが行われておりますることは、まことに遺憾なことであると思うのでございます。従いまして、外務省当局が、法律を守るために高良さんに旅券を出さなかつた、出そうとしなかつたとおつしやいますが、一体何の法律を守ろうとされておつたのか、何の何箇条に高良さんが違反したから、それをとめようとしたのか。また第二には、法律を守ろうとするから旅券を出さなかつたとおつしやるならば、旅券を出した以上は、今度は外務省当局法律を蹂躪されたことになるのであるが、しからば何の第何条を蹂躙されたのか。蹂躪されたとするならば、ただちに司法処分をいたさねばならぬと存じますが、一体どちらにどうなつておりますか。私は、外務委員海外胞引揚委員の資格において、はつきりしたお答えを願いたいと思います。  外務省当局が昨今新憲法を無視し、旅券法をないがしろにするというこの事態に対して法の遵守は、政治的見解がどう違つておりましても、共通のルールは守らねばなりません。法律は守らねばなりません。しかも、この旅券法というものは、少くとも東京大学の法学部を出たくらいの者であるならば、一目にしてわかる、きわめてわかりやすい法律でございます。国民旅券法について事情を知らないその間隙に乗じて、今日のようなことが行われるということは、実に憂慮にたえぬことでありまして、どうか外務省事務当局においては、公吏としての良心を十分に振い起されまして、そして法律家としての良識をもつてこの問題にお答え願いたいのでございます。
  26. 中村幸八

    中村(幸)政府委員 高良氏の旅券の問題、——外務大臣がかつて政治的見解あるいは趣味上つて旅券を発行するとかしないとか、こういうようなお言葉がありましたが、これは、もつてのほかであると考えます。外務大臣あるいは外務省が感情によつて旅券を発行したり発行しなかつたりというようなことは、絶対にございません。ただ、高良氏の問題につきましては、高良氏はかつて旅券に記載した地域以外の地域にかつてに移動いたしておりますので、この点は旅券法違反疑いがきわめて濃厚であります。こういう、かつて旅券法違反疑いのある行為をした方に再び旅券を発行するということは、外務省としては好ましくない。ことに、今度の旅券の問題は、一般旅券の問題でなくて、公用旅券の問題であります。高良氏は、政府代表として行つたわけではありませんが、中共抑留者引揚げという政府事務を委嘱されて行くことになるわけであります。また、ことに国の経費をもつて渡航するという方につきましては、かつて旅券法違反をした疑いのある者については、渡航することは好ましくない。ことに、高良氏につきましては、高良氏が代表として行かなければこの引揚げ問題がまとまらぬというほどの重要な方であるとも考えておりませんし、また中共側としても、一応委員の中に加えておるということを言つて参つただけでありまして、どうしても高良氏が来なければ話はしないというような態度に出ているわけでもないのであります。そういう意味から、旅券交付を、いわば躊躇いたしておつたわけでありますが、しかし、いつまでもこういう問題にこだわつて、その結果が引揚げ問題に、時期的に、あるいは数量的に支障を来すということは、留守家族方々のお身の上を考え、人道的な見地から、これはとるべきでないというので、最後段階に至りまして、公用旅券交付することになつたわけであります。
  27. 帆足計

    帆足委員 それではお尋ねいたしますが、高良女史旅券法の第何条による違反を犯したか、伺いたいと思います。それから第二に、政府は、法律を守るために高良さんに旅券を出さないように努力したけれども、人道上の思いにかられて、ヒユーマニストとして、あえて法律を破つたとすれば、どの法律をお破りになつたか、この二つを伺いたいと思います。もしもこの二つに触れていなければ、それは外務大臣のわがままと趣味にすぎなかつたということになるのであります。すべての運用は法によつて行われなければならぬ。従つて、今の二つのことにつきまして、法の第何条にによつたのか、伺いたいと思います。
  28. 中村幸八

    中村(幸)政府委員 最初旅券を出さないと言つたのが、最後旅券を出した、これは旅券法を無視したのじやないか、違法をあえて犯したのじやないか、こういう御質問でありますが、私の申し上げましたように、これは公用旅券交付いたしておるわけであります。その問題はちよつと見当違いではないかと考えます。なお、さきに犯しました旅券法違反の問題につきましては、局長からお答えいたします。
  29. 土屋隼

    ○土屋政府委員 高良さんの旅券交付に関する問題を事務的に見ますと、旅券法の第八条に、海外を旅行しておる者が旅券に書いてない渡航先に旅行する場合に、その新渡航先を申請する手続を規定してあります。もちろんこの規定は、罰則その他はございません点で、いろいろ問題はあると思いますが、ただ、旅券法の精神とするところは、旅券にうたつた外国だけに旅行するという了解で日本を出発しておるわけであります。もちろん、海外に旅行しております際に、いろいろの必要から、旅行面に書いてない新しい渡航先に行くということが必要な場合も予想いたしまして、第八条はその際とるべき手続についての規定をしておるのであります。帆足委員お話もございますように、旅券法は簡単明瞭であります。そうしてこの旅券法は、議会の承認を経て公布されたことはもちろんであります。また、この承認にあたつて、時の参議院議員である高良さんも関係なさつたものと、われわれは推定いたして間違いないと思うのであります。この問題につきましては、もう一つ考える事項がございます。それは、高良さんが日本をお立ちになるときに、すでに日本政府は、鉄のカーテンの向う側であるモスクワ並びに中共地区については一般旅券を出さないということを、ここにおいでになります帆足さんの件に関連して、情報部談として当時外務省発表してあります。従つて、これももちろん議員も承知されており、また特に欧州方面へ行かれる高良さんとしては御承知のはずであります。これらの事情から見て、第八条の規定する新渡航先の手続は、高良さんにおいて十分御承知でありながら、パリのユネスコ会議に行かれたわけであります。従つて、ユネスコの会議に行かれてから、モスクワに行く、あるいは中共に行くということをかりにお考えなつたとすれば、パリには在外事務所もございますし、ストツクホルムにも在外事務所がございますから、高良さんがソ連に招待状をもらつて行くだけのひまがあれば、十分に日本の大使館あるいは在外事務所に連絡がとり得たと思われるのであります。これらの点から考えまして、高良さんは、日本政府一般旅券をモスクワ行きに出す意向がないという、この政策を御承知の上に、また議員であつたゆえに、今の旅券法第八条は、——一般の人は御承知ないということは無理もないと思うのでありますが、帆足さんのお話に従いますと、そんなものは大学を卒業した者は当然わかるはずだということでございますから、高良さんも当然御承知のはずだと思います。そういう点から考えましても、高良さんは事情をよく御存じで、旅券法を御存じの上で、なおその手続をとらずして、モスクワ並びに中共地区に行かれたものと承知しております。こう考えますと、高良さんは、議員として、議会が通した旅券法の一項に規定してあるところに従わなくとも、なおかつ海外旅行をしてさしつかえないという考えで行動されたと思います。従つてどもは、今回の中共に対する旅券発行にあたりまして、高良さんが旅券法に対してそういう見解を持つておいでになるということを承知の上で考慮せざるを得ませんでした。その結果、一般旅券ですと、問題はおつしやつた通り一般旅券の規定に従えばよろしいということになるのでありますが、国の用務を帯び、国の経費をもつて今回は交渉に行くという、つまり一般旅券とは異なる公用の旅券を持つて出張される方であります。従つて外務大臣といたしますれば、この点について、一般旅券の規定に従わない場合に、公用旅券を出す資格があるか、出すことについて支障がないかということを愼重考慮しなければならなかつたわけであります。従つて、御存じの通り初期において外務省も踏切りをつけるということができませんでした。最後段階において、引揚げ事務に支障を来させないということを考慮して、公用旅券の発給を見たといういきさつがございます。政府は一体、こういう簡単明瞭な旅券法を出しておきながら、それに従わなくてけしからぬという帆足委員からのお話は、私も全然同感であります。政府は、法律が出た限りにおきましては、悪法もまた法律でありまして、これに従うこと当然であります。これに、もし支障があれば、成規の手続をもつて改正する以外にいたし方ありません。しかし、これは私は、政府だけでなくて、一般国民も、その中には議員の方も含めて、またこの旅券法に従うべきだと思うのです。(「もちろんそうです」と呼ぶ者あり)すなわち、遵法精神は、政府もそう考え国民もそう考えることによつて、初めて法治国としてその実をあげ得ると思います。旅券法の問題ですが、これは少し横道にずれて恐縮なんですが、引揚委員の方は旅券法について特に御興味をお持ちのようでございますから、私から補足的に、ふだん考えているところを申し上げることが適当かと思いますので、申し上げてみたいと思いますが、私は、今の私どもが持つております旅券法は、憲法の二十二条第二項を受けて、日本国民海外を旅行する場合において自由を持つというふうに一般的に了解されております。また、これを受けて現在の旅券法は公布されているごとき観を呈しているのであります。そこで、旅券法は国内法でありますが、この国内法が実際上において海外、つまり表との間に交渉を持ちます際には、この国内法の解釈については、十分われわれは国際慣習なり国際法なりというものを考慮に入れる必要があります。それでこそ初めて日本は国際社会の一員としての活動ができるわけであります。つまり、国内で法律をつくつたから、よその国で支障を起してもかまわないのだ、この法律を強行するのだといつても、実際上、海外においてこの法律を強行すべき権限というものは、日本にないことは申し上げるまでもないことであります。そこで私どもは、現在日本の持つております旅券法は、各国の情勢から見ておそろしく大幅に国民海外旅行の自由を認めたものであります。これは、人権宣言その他の問題から、当時においてそういう必要から公布されたものだということは一応うなづけるのでありますが、相手国が受けるか受けないか知らない、あるいは相手国が受けないというものを、日本国民が行きたいからというのでこれに旅券を出すということは、常識上無理なことは皆さんも御承知をいただけると思います。つまり、旅券法は国内法として制定を見ましたが、国際法上の慣習なり、あるいは相手国によつて、場合によつては制限を受けるということを承知せざるを得ないわけであります。国際法上の慣習から申しまして、外交関係のない国、また、さらにこれを強調いたしまして、日本法律上戦争状態にある国に対して、日本政府が生命の安全と便宜とを供与してくれという旅券を出すこと自体は、およそ常識に反する手続であります。つまり、相手国が日本法律上敵だと言つている国に対して、日本の官憲が、何の太郎兵衛が今度あなたの国に旅行します、ついては便宜供与をしてやつてください、その生命を保護してやつてくださいと言うことは、法律上言えないはずであります。すなわち、旅券法の実際上の運営にあたつては、そうした国際情勢あるいは国際慣習というものを考慮に入れる必要があります。ですから、帆足委員の言われますように、旅券法がある限りにおいて、それを遵守するということは、だれもが心がけるべきものであります。ただ実際上、外務省旅券を出す場合においては、そうした見地から、国外において支障を起さないか、またそれだけの権利があるかということを考えざるを得ない。かるがゆえに、旅券法は、その十三条において、旅券発給について一つの規定を設けております。たとえば、日本の公安を害する、日本の利益に直接かつ顕著に害を及ぼすと書いてあります。また十九条においても、当然上述の解釈として、その人の生命、身体、財産について旅行を中止させる必要があると政府が認めた場合におきましては、その旅券を返還させるという規定も設けてあります。こういう規定によつて、われわれは、現在の旅券法がどこにも支障なく、また各自の自由も守れるようにという運営をなすべき性質のものだと思いますので、今帆足委員の言われますように、旅券法が読んで簡単明瞭であるようで、実は、運用にあたつてはかなり考えて行かなければならない点もあり、また国民の方にも御了解をいただかなければならない点があると思います。たまたま高良さんの問題は、こういう問題にぶつかりまして、法の盲点というよりは、実は法の解釈についていろいろ考えができ、また国際情勢を織り込んだ微妙な関係もありますので、国民の方に釈然と行かないという印象を与えたことは、政府としてはなはだ残念であります。ただ、われわれ事務当局の意図いたしましたところは、今申し上げました、旅券法運用に当つての実際上の効果ということを注意して考えた結果であります。
  30. 帆足計

    帆足委員 ただいま長々と欧米局長の講義を承りましたが、法律の講義としては、私は落第であろうと思います。と申しますのは、この法律の解釈につきましては、すでに国外渡航手続案内というものが出ておりますが、これに今の欧米局長の言われたようなことは一言も書いてございませんし、それから、この法律をつくりました外務委員会の速記録が、法の解釈には一番役に立つのでありますが、ただいま欧米局長の言われたようなことは、もちろん一言も書いてございません。また、先般私が旅券を申請いたしましたとき、欧米局長から、命が危ういとか、あるいは好ましからざる国、好ましからざる会議というようなことをいろいろ承りましたが、ただいまのような名論卓説は、その後御勉強になつてへりくつをおつけになつたのだと思いまして、大いに御勉強のほどは感心いたしましたが、しかし、これは落第であろうと思います。と申しますのは、ただいまの問題は二つの錯覚がございます。一つは公用旅券の問題、一つは私用旅券の問題、この二つがこんがらがつて公用旅券という隠れみのの中で、 公用旅券に関する限りは、これは政府の使いとして出すのであるから、法規によらずして外務大臣のお好みに従つて出すことができる、高良さんがかわいらしくなければ、出さぬこともできるし、お気に召せば出すこともできる、こういう幅の中の問題であると承りました。それならば、この問題はまた別の問題として論ずべきことでありまして、まず公用旅券の問題と私用旅券の問題と、政府自身がこの旅券法に違反しておるという、三つの問題にわけて考えねばならぬと思います。従いまして、欧米局長も長々しくおやりになりましたので、私も長々しくやる権利があるのでありますが、それは時間の浪費でありますから、要点だけを申し上げることにいたしまして、政府の御考慮を促したい。と申しますのは、この問題につきまして、違反をしておるのは政府当局自身でございます。第一にお尋ねいたしたいのは、それでは、一般私用旅券の場合に、高良さんが、たとえばインドに行くという場合に、高良さんは前に旅券法の違反をしたから、そういう者には出さない、こういうようなお考えでもあつたのでしようか。まず順序として、三段論法で、一つずつ承りたいと思います。欧米局長、いかがですか。
  31. 土屋隼

    ○土屋政府委員 統計学者であり、オーソリテイであられます帆足さんから、落第の答弁だとおつしやられましたいきさつもありますので、お返事を申し上げるのは、実は意味ないような気もいたしますが、お聞きになつておるところを見ると、一応また返事をしろというように承知いたしますので、返事だけさせていただきます。高良さんがこの前一般旅券で違反した、あるいは条項違反であつたということから、かりにインドに行く場合においては旅券を出すかということのお尋ねですが、これも御質問に従いまして、その御要求になる旅券をわけまして、外交旅券であるか、公用旅券であるか、一般旅券であるかというわくに従いまして帆足委員の方は一般旅券だけに興味をお持ちだと思いますので、一般旅券についてお返事をいたしますと、この前の違反云々の問題は、一般旅券を発給するときの考慮になりませんから、出すことは当然であります。
  32. 帆足計

    帆足委員 それでは、今度は公用旅券の問題であります。公用旅券の規定は、御承知のように政府が自分の使いをやるときの問題でありまして、外務大臣がまずその人を任命する、または選択する、それに国費を支給するという、外務大臣の行政権の範囲に属する問題であります。それならば、この問題は一応筋は通ると思うのです。そこで結局、高良さんの旅券法違反という問題は、法律的な旅券法違反でなくて、むしろ政府趣味に多少反したというだけのことで、趣味に反した人間は政府の使いにしたくないから、公用旅券を出さなかつたというならば、話は多少わかるのでありますが、そもそもなぜ高良さんが政府趣味に反したかというと、政府自身の旅券法違反に対する正当防衛としてやつたわけです。そうしなければ、北京を訪れ、モスクワを訪れて未知の世界を見る機会がなかつた。この問題について、政府当局は、条約がなかつたとかなんとか言いますけれども、過去において条約がなかつた国へも行けましたし、今日でも行けまするし、また米ソ断交二十年間にわたつた時代にも、アメリカからソ連に行くこともできました。徳川時代とか、幕末の鎖国のときと違いまして海外旅行の禁止というものは非常に重大な問題でございます。生命、財産に異状を及ぼすおそれのある地域の場合は、族券を返還させることさえできるじやないかと欧米局長は申しましたが、そういう地域には旅券交付しないでいいと書いてなくて、返還と書いてあるところに、実に重要な意味があることは、すでに御承知の通りでございましよう。すなわち、生命のあぶないところに行くようなばか者はないのでありまして、私が行こうと思つても、何も外務省がとめなくても、私の妻がとめる。便所の中へ入つて、汚物の中へ足を踏み込む者はありません。従つて、汚物の中へ足を踏み込むべからずという法律がないのと、同じでございます。ただ、返還命令となつておりますのは、一般国民は情勢にうとく、外務省当局は、そこに疫病が蔓延したり、または内乱、戦争の危険があるというような情報を早くキヤツチして同胞の引揚げ命令も出さねばならぬし、そういうところへ出て行こうとする人々に、政治的見解ではなく、生一物学的見解で、親心をもつて、善意をもつて引きとめるということで、旅券返還を要求し得るという条項があるのであります。欧米局長はいろいろりくつを申されましたけれども、実際は、相手がソ連、中国であるから、欧米局なり今日の政府の首脳者の好ましくない会議または好ましくない国に行かせたくないという、政治的見解から出ておるのでありまして、このような論法をそのままわれわれが受入れるとするらば、社会党左派の内閣ができたならば、パリの国際商業会議所の大会などに資本家が出なくてもいいじやないか、そんなところに出ると保守党が元気を出すおそれがあるから、なるべく出さないというようなことになるのであつて、そういう暴論に対しても反駁の余地がなくなつてしまう。法規はすべて共通のルールでありますし、基本的人権というものは共同のルールであるからこれを守ると英国のイーデン外相は申しました。日本旅券法は世界にまれに見るほど幅が広いと、欧米局長は言われておりますけれども、それほど御自慢なさるには及ばないのでありまして、英国のイーデン外相は、あのモスクワ経済会議が開かれましたときに、保守党内閣の外務大臣としての余の見解を問わるるならば、余はこのモスクワ経済会議なるものにさして期待を持たぬ、しかし英国市民が個人の責任と資格においてかの地を旅行され、その会議に出席することに対しては、英国政府の干渉すべき権限の範囲外のことである、これこそが民主国家としての正当な立場だと言つておられる。しかも英国憲法に劣らぬ自由憲法を持つておるこの国の旅券法の解釈としては、それはあたりまえのことであろうと思います。従いまして、問題は、結局政府自身が、好ましからざる者と書いてあるのを好ましからざる国ということにかつてに解釈をかえまして、好ましからざる者という意味は、銃砲・火薬の取締り違反またはテロ常習犯等に限られるものであつて政府政治的見解によつて旅券を私すべきでないということは、外務委員会の速記録にるる書いてあるにかかわらず、法をまげておられるということが問題点でありまして、この問題につきましては、私どもは、外務省当局を処罰いたすためにすでに提訴いたしまして、三月六日に公判が開かれることになつておりますから、その席上で問題を明らかにいたしまするが、政府当局として、旅解法に欠陥があるならば、それを改正なさるのが至当である。現にこの前、これで都合が悪いからというので改正案をつくつた、ところが憲法違反の疑いで、またこそこそひつ込めたといういきさつも新聞紙上で承つておりますが、欧米局長は、ほんとうに良心をもつて白状すれば、これは自分の方が無理だ、旅券法を制定したときにはこういうことを予想もしていなかつた、今日の旅券法で何とかこじつけてやろうとしたけれども、無理に無理を重ねて、ただいま伺つたような説明を発明発見された、——これが事の真相であることは、天地神明に誓つて、そのような成行きになつておるのでありますから、そういうりくつを申されるよりも多少旅券法で足りないところがあれば、与党内閣としてこれを修正されることが当然であつて国民旅券法従つて正当な権利を主張しているのに対して、いろいろな中傷讒誣を浴びせかけるということは、私は好ましくないことであろうと思います。今日の欧米局長の御説明は、一年前にこの問題が起りましたときに、私どもは聞いたことはありませんし、当時の外務委員会旅券法制定のときの解釈の中にも、こういう論議は一行も入つておりません。またそういう解釈は許さるべきものでもありません。当時の佐藤法制意見局長官は、この問題に対して、旅券を出す出さぬということは政治的見解によつて左右してはならぬ、そういうことがあつたならば、与党、野党は旅行先をお互いに互い違いに入れかえることが起る、また好ましかざるものというのは、明らかに人物の資格審査をさすのであつて、特定の地域をさすものではない、こういうように言われております。
  33. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 帆足君に申し上げますが、法務大臣が見えておりますから、法務大臣に対する質疑を先行したいと思います。
  34. 帆足計

    帆足委員 従いまして、結論といたしまして、高良さんの問題は公用旅券の問題であつたというならば、その範囲で問題を承つておきまして、その他の問題につきましては、いずれ外務委員会において結論をつけたいと存じます。  法務大臣お急ぎでありますので、引揚げ同胞の問題について、昨今帰りました人たちがいろいろの取調べを受けている問題がありまして、実はこの問題について、同僚田中稔男君が詳細な資料をもつて法務大臣の御参考に供し、あとが円滑に参りますようにお願い申し上げたいということでございますので、私の質問は、本日はこれでとどめまして、いずれ旅券問題は外務委員会において徹底的にお話合いしたいと存じます。
  35. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 この際申し上げますが、法務大臣は予算委員会に出る時間もありますので、なるべく簡潔に質問をお願いいたします。田中稔男君。
  36. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 昨年十二月二十六日の本委員会会議におきまして、私は援護庁長官に対しまして、今度の中国からの帰国者について思想調査や情報収集ということをやり、本人に不愉快な印象を与えたり、あるいはまた日本憲法がすべての国民に保障しております思想及び良心の自由を侵害するようなことのないように、切に要望申し上げたのであります。その際に長官は、引揚援護庁といたしましてはそういうことは全然考えておりませんという御答弁をしておられるのであります。また一月十七日の帰国推進国民大会の代表に対しまして、たしか外務省の奥村次官つた思いますが、責任を持つて思想調査や情報収集はやらないと言明された。私は、これで一まず安心したのでありますが、最近に至りまして、在華同胞帰国協力会の調査したところによりますと、非常に心配になる事件が起つたのであります。と申しますのは、昨年十月二十七日、天津から神戸へ引揚げて参りました大阪の京昭という青年が、一月十四日付の援護庁復員局庶務課長名義の一通の手紙を受取つたのでありますが、その内容はこう書いてある。「在日米軍当局より、貴殿に御協議申したいことがあるので、御多用中とは存じますが、おさしつかえなければおいで願いたいという依頼がありましたので、お伝えいたします。」こういうような前文がついて、一月二十八日に復員局に来てくれ、——それからいろいろこまかいことがあとに書いてあるのでありますが、京昭という青年は、その通りに当日復員局の庶務課に参りました。そうしますと、庶務課の方から、翌二十九日から麹町の宝亭ビルにあるアメリカの航空情報部隊に出頭してくれ、こういう指図を受けた。そこで翌日そこに参りますと、幾つもの部屋がありますが、一つの部屋に六、七人同じような人が呼ばれておりまして、皆と一緒に二世からいろいろと情報の提供方を求められたのであります。この青年は、ハルピン、北京、天津に滞在しておつたのでありますが、二十九日から二月の二日まで五日間かかりまして、ハルピン市内の区画であるとか、道路の状態であるとか、建築物の位置、材質、基礎工事等、詳細に尋ねられました。また中国国民が新政府に対してどういう感じを持つておるか、また朝鮮戦乱に対してどんな考えを持つておるかというようなこともあわせ尋ねられた。京君と同時に取調べられた者だけでも四十数名を数えることができるということでありますが、ほとんど連日多数の人々が、その場所で取調べを受けておるというようなことでありますから、その総数はたいへんなものであろうと私は思います。こういうことは明らかに米軍の情報収集活動であります。私どもは今日、アメリカにおいてアイゼンハウアー新政府の積極的な極東政策が、あるいは満州爆撃となつて現われるのではないか、こう心配しております。私どもの心配だけではありません。全世界の平和を念願する人々の心配であります。しかるに岡崎外務大臣は、先日の外務委員会において、米軍による満州爆撃が万一行われても、それはあたりまえだと言わんばかりの御答弁もなさつたのであります。私どもは、こういう危険な時期にあたつて、アメリカの航空情報機関が、中国から引揚げた人々について、詳細な満州事情の情報収集を行つておるということは、きわめて重大な意味を持つと思うのであります。京君の話によりますと、その取調べは、密閉した部屋で拷問を行うというような調べ方ではなかつたのであります。交通費、宿泊料、日当等も米軍で支給してくれたのであります。しかしながら、庶務課長からの公文書のごときも、警察の者が京君の家に持つて来た。京君でない他の人の場合でありますけれども、出頭に応じない、三たび手紙が来る、それでも応じないという場合におきましては、日本の警察が本人の行動を尾行する、その他種々な圧迫が行われたということであります。それだけではありません。こういうことについては、日本国民が非常に戦々きようきようたる気持を持つておる。かつてソ連から引揚げた人々が、引揚げ当時、舞鶴において厳重な情報収集のための取調べを受けた、その後平和な市民生活に入りました後においてもときどき米軍の機関に呼出しを受けて取調べを受けた、はなはだしい場合には種々な拷問を受けた、さらにまた米軍の諜報活動に協力を求められた、こういう話が広汎に伝わつておりますが、最近の三橋事件その他によりましても、その間の消息は明らかであります。こういうことが今日の日本国民全体に何か陰欝な灰色の印象を与えておる際でありますから、拷問はなかつた、また旅費その他の支給も受けたと申しましても、私どもは、取調べを受けた人々が何かあと味の悪い感じを持つて帰るのは、常識で容易に判断できることだと思う。これが一人や二人ということならば別であります。多数の同胞の問題である。たとい一人の場合でも、憲法が保障する思想、良心の自由というような基本的な人権は、かたくこれを守らなければならぬのでありますが、いわんや、これが多数の人々の場合に行われておるということは、われわれ国民代表として絶対に黙過することができないのであります。なお、その取調べにあたりまして、京君が上陸地である神戸で七通同文で記入を求められた調査カードといいますか、調査票といいますか、その一通が取調べに当つた二世の手元にあつたそうであります。これはどうせ援護庁の方から渡されたものだと思います。  そこで私は、ここでひとつお尋ねいたしたいのでありますが、援護庁長官はこの事実を御存じであるかどうか。具体的には、復員局の庶務課長名義で発せられたという公文書のことについて御存じであるか。上陸地において引揚者に記入を命ずる調査票が七通作成せられるのでありますが、その一通がそういう方面に送られたことは確かでありますが、そのほか、あとの六通は一体どういう方面に御使用になるのか、調査票の行方についてお尋ねしたいのであります。第三に、こういう米軍の情報収集活動に対する援護庁の協力というものは一体いかなる根拠に基いて行われておるのか。日米行政協定のどの条文を見ましても、情報収集とか、情報提供の規定はないのであります。  さらに、法務大臣がおられますから、法務大臣にもお尋ねしたいと思いますが、法務大臣もこういつた事実を一体御承知であるかどうか。また法務大臣としましては、米軍の機関によるこういう情報収集とは別個に、公安調査官というような春が上陸地に参りましていろいろ取調べをやるとか、平和な市民生活に入つた後においても同様の活動をやるというようなことはないか。こういうことは、憲法の規定する基本的人権に関する重要な問題でありますから、法務大臣の責任ある御答弁を承りたいと思います。  なお、外務省関係についてもお尋ねしたいと思いますが、外務大臣がおられませんから、次官が大臣にかわつて答弁つていいのでありますが、外務省においても、こういう事実は御存じであるかどうか。また御存じであるとするならば、一体いかなる根拠に基いてこういう情報収集活動における日本側の協力が行われておるかということをお尋ねしておきたい。
  37. 木村忠二郎

    木村(忠)政府委員 従来、占領中におきまして、先般お話のごとく、情報収集について協力しておつたという事実はございます。その後におきまして、独立後、援護庁といたしましては、そういう協力につきましては、しないという方針をもちまして、先方からいろいろな交渉があつたのでございますけれども、これらにつきましては、一応いたさないという方針でもつてつたわけでございます。ただ、先ほどお話がありましたような、通知を出すということだけは、これはやむを得なかろうということで、いたしたのでございますが、われわれとしましては、なおこの点につきましては、はなはだ好ましくないというふうに考えておるのでありまして、できるだけそういうことはしないようにしたいと思いまして、今後そういうような措置をする考えはないのであります。  それから、引揚港におきまする問題につきましては、今後舞鶴におきましてのそういうものにつきまして、先方に出すようなことはいたさないつもりであります。
  38. 犬養健

    犬養国務大臣 多くの海外同胞が、従来も引揚げて来られ、今後もまた引揚げて来られる。できるだけ多く祖国にお帰りを願いたいという念願を持つておるのであります。その際、帰つて来た人一人々々思想調査をやるという考えは持つておりません。ただいまいろいろお話を承りましたが、もしも引揚援護庁の、そういう呼出状ではないが、インヴイテーシヨンみたいなものを警官が持つて来たとなると、まずいことじやないかと思いまして、そういうことは今後ないようにいたしますし、あつたのかどうかも、さつそく調べたいと思います。尾行ということも、すこぶる穏当でない。今までありましたなら、あつた事実を承つて、今後なくしたいと存じます。
  39. 中村幸八

    中村(幸)政府委員 外務省としましては、お尋ねのような事実につきまして、承知いたしておりません。
  40. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 援護庁長官が、今までもこれはいやいやながらやつたのだ、今後はやらないようにしたい、ことに中国から今度引揚げる三万人の同胞については、これはやらぬ方針だというお話で、非常にけつこうでありますが、こちらに連絡しなくとも、米軍の方で、米軍の情報機関で独立してやるというようなことが依然としてやまないという場合に、一体これはどうなるのでありましようか。これは援護庁長官の所管事項というより、むしろ外務大臣の所管事項になると思いますが、政務次官の御答弁では、外務省としてはそんなことは知らぬとおつしやるので、知らないものを、どうも問い詰めようもないのでありますが、この点につきまして、援護庁長官ははつきり事実を認めておるのであります。外務省としては、一体どうこれに対処されるか、御答弁を願います。
  41. 中村幸八

    中村(幸)政府委員 外務省といたしましては、事実を知つておりませんので、知らないとお答えを申し上げたわけであります。法律論から申しますれば、日米行政協定によつてそういうような義務を日本が負つておるということはありません。
  42. 田中稔男

    ○田中(稔)委員会 今の外務政務次官の御答弁は、一個の遁辞だと思います。あす外務委員会もありますから、外務大臣に出ていただきまして、大臣の責任ある御答弁をお伺いしたいと思います。
  43. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 田中君にちよつと申し上げますが、予算委員会の方から犬養法務大臣の出席をしきりに要求されておりますから……。
  44. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 法務大臣の御答弁は、私は非常に誠意があると思うのでありまして、今の御答弁の通りにひとつ御善処願いたいと思います。そういうことは今後ないと思いますが、警官がそんなものを持つて行くとか、あるいは出頭しなかつた場合に尾行するとか、あるいはその他の方法によつて引揚げる三万の同胞に対して、特殊な意味を持つた思想調査、情報収集の活動を日本政府としては絶対にやらぬ、法務大臣としては絶対にやらぬということだけをここに念を押しておきたいと思います。この際御答弁を求めることはいたしません。
  45. 帆足計

    帆足委員 議事進行について。ただいまの問題は、きわめて重要な問題でありまして、実は私の友人で、まつたくイデオロギーも何もない善良な一サラリーマンが、ソ連から帰りまして、実にひどい目にあいました非常にたくさんの事例を聞いております。しかし、当時はまだ占領下でありましたし、終戦直後のことでありますので、了とせねはならぬ点もあるということで、泣寝入りでありましたが、今度だけはそういうことのないように、帰られた方々は、そつとして、生業につかせておいていただければ、みな善良な日本市民になるわけでありますから、こいうことのないように願いたい。今の法務大臣の御答弁は、まつたく私は満足でございますが、そのために、できますれば、あと理事会で御相談してもけつこうですが、私のは最近一週間ばかり前の事例でございますから、今の京君その他を証人として呼んで、ここで一ぺんお聞きになつたらどうかと思います。委員長においてぜひおとりはからいを願いたいと思います。
  46. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 ただいまの帆足君の御提案に対しては、追つて理事会を開きまして、御相談の上にいたしたいと思います。  この際法務大臣に御質疑はありませんか。中山君。
  47. 中山マサ

    ○中山(マ)委員 ただいままでの御質疑は、帰つて来た人たちをめぐつて、占領した人たちの動きでございますが、私が心配をいたしておりますのは、この前第一回の引揚げがありましたときに、その逆があつたことでございます。赤いと称される人たち帰つて参りました中に、御記憶でもありましようが、幻兵団というような特殊の義務を負つて帰つて来た人たちがあつて、非常に惑わされまして、秋田でございましたかでは、恐怖観念から自殺をした青年もあつたことを私は記憶いたしております。舞鶴に迎えに行つて、京都でのあの赤い大きな事件もあつたのでございますが、これはシベリアから帰つた軍人さんの関係であつたから、あれだけの騒動があつたとも思いまするけれども、これに関連して、杞憂と言われるかもしれませんけれども、今度三万人が帰つて来るにつきまして、またその中には、みんながそうでもございますまいが、そういうふうなことで帰つて来る人があるかもしれない。その場合に、この間から新聞紙上で見ておりますと、帰つて来る人たちをめぐつて共産党の方が各ブロツク別にいろいろな活動を始めておる、こういうことを私は読みまして、過去のことを思い出して、逆のことを心配しているような次第でございます、帰つて来た人たちが、国内に、あるいは地下にもぐつておりますそういう人たちに苦しめられることがあるのではなかろうか。いわゆる平和な生活をさせるために、法務省におきましては、上陸のとき、あるいはその定住地へ帰るまで、その人たちにそういう恐怖感のないように、また定着いたしましてからそういう悩みがないように、どういう方策を御準備中であるか、私は老婆心からでございますけれども、一応承つておきます。
  48. 犬養健

    犬養国務大臣 お答えをいたします。またこの際、先ほどの帆足さんのお話に対しても、私のお答えの後半がお答えになると思います。  中山さんの仰せのように、日本共産党におきましては、今後の引揚げて参られる人々に対しまして、一月の初めごろに、引揚げ闘争を通じて云々という一つの通達が出ていることは確かでございます。それには、この引揚げ闘争を通じて、中国国民日本国民との平和的提携を促進して朝鮮戦争反対、中日貿易促進ということを全国民的要求という形で拡大して行く、中国との平和関係を阻害する一切の制約を断ち切れということがあつて、それ自体は少しも不穏なものとは一応言えないと思うのでありますが、引揚げ闘争を通じてというのが、治安の責任にある私どもとしては無関心であつてはならない、こういう意味におきまして、引揚げて参られる方々に対して、この前ああいういろいろの不詳の騒ぎがあつたが、今度は全然ないという考え方をもつてお待ちするということは、私どもの役目から言えば、十全を期したものにはならないと思うのであります。但し、せつかく故郷に帰つて来たと思つて、故郷の土を踏んだら、すぐ思想調査と尾行をやるというのでは、第一家庭の人や近所の人が非常に不愉快であります。逆効果になるんじやないか。もちろん世界情勢からいたしまして、暴力主義的破壊活動もしくはそれに準ずるような、そういう影響が、引揚げの方方が故郷にお着きになると同時に起る場合は、もちろんわれわれは責任上そういう傾向について研究しなければなりません。しかしそれも、個々の家庭に当つて、あんたどういう思想を持つていたのかとか、せつかく久しぶりで喜んでいる親類のところへ行つて、あれはどんなふうですかというようなことは、やぶへびになる。そういうことは十分慎んでおいて、全般の日本人に与える思想的影響を、私はまず客観的に眺めながら、疎漏のないようにやつて行きたい。これは実は非常にむずかしいことなんであります。ほんとうに詳しく実情を調べたいと思うと、人権に関係して来ます。人権にちりほども関係しまいと思うと、一切様子もわからぬというので、これはなかなかむずかしいことでありますが、その点は、個々の事件に際して、私の、非常に貧弱なもので自慢にはなりませんが、あらゆる良識を働かして、さしずをして行きたいと思います。もし何か御質問があれば、またお答えいたします。
  49. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 この際堤君にお許しいたします。
  50. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 この際ちよつとお尋ねをいたします。ただいまの中山委員の御質問にも関連いたしますが、かつて引揚げの際に、非常に引揚げて来られた方が問題を起しまして、駅などでおりて、盛んに踊られたりいたしまして、実は私たちも困つたのでございましたが、その際には、司令部がちようどおりまして、復員の定義がかえられました。初めは、少くとも上陸港に上陸したならば、これを引揚げ手続完了と同時に復員とみなしたのでありますが、各個人の家庭に帰りつくまでは、これを復員とみなさないというふうに定義がかえられました。今はもちろん独立国でございますから、これは無効でございますが、こうした問題が起りました場合を私は考慮するのでございますが、どういう処置をお考えになつておるか、この際大臣に承りたい。
  51. 犬養健

    犬養国務大臣 堤さんの御質問の重点が、ちよつと私、無学のせいか、わかりかねるのですが、違つていたら、あとでお教えを願いたいと思います。今度は、港へ着いて、あとはかつてだというのでなく、家庭に安堵して着かれるまでは、できるだけ十分のお世話をしよう、こういう気持でやつているようであります。これは厚生省の管轄でありますが、私の方といたしましては、上つたら、これは赤の思想の持主じやないかというようなふうに目を光らせるということは慎もう、そうして、家におちつかれたあと、さてどういう影響が近隣に及んでおるか、その及ぶ作用を客観的に冷静に眺めて行こう、できるだけ近親、友人などをたずねての思想調査ということは遠慮して行こう、こういう方針はきまつております。
  52. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 少しポイントが合わないのです。復員の定義があるわけなのでございます。それによつて、たとえば未復員者給与法とか特別未帰還者給与法という法律の対象になるかならないか、きわどい問題が起るわけです。その復員の定義を、司令部がおつたときには、港に着いて手続を完了したときにあらずして、家に帰つたときを復員とみなすというように改めた。そういう臨機応変の措置日本政府においておとりになるか。それは法務省の関係だと私は解釈するのです。
  53. 木村忠二郎

    木村(忠)政府委員 ただいまのお話でございますが、従来は軍人の未復員者が大部分を占めて帰つて来たわけであります。今回帰ります者の大部分は一般邦人でありますが、未復員者はそのうちのわずかの部分であると思うのであります。
  54. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 それから、これはお願いをしておきたいのでございますが、この間もちよつと発言いたしましたが、今度帰つておいでになる方々の中には、相当女、子供が多いということが予想されるのであります。非常に事情の複雑な方で、しかも相当年が大きくなつ子供を連れて、たとえばあちらの人をお父さんに持つような、非常に気の毒な女性の方が多いのではないかと思うのです。従つて舞鶴の引揚港に法務省の関係の方がお出ましになるのであれば、それについて特に御配慮願いたいということを希望として申し上げたいのでございます。せつかく大臣御出席でございますから、私は単なる窓口でなく、戦争で国家の犠牲になつて、そうして生きんがためにやむなくこうした事情に落ちた方々が、たとえば故郷に帰れないとか、夫のもとに帰れないとか、また子供にわかれなければならないとか、それから戸籍の問題であるとか、いろいろな問題が起つて来ると思いますが、これに対しましては、特に女、子供に対しまして親切な指導なり御相談相手になられるなりいたしまして、ひとつ解決方に協力されたいということを、特に大臣にお願いしておきたいと思います。
  55. 犬養健

    犬養国務大臣 この問題は、私の方の役所の会議で出ましたから、御報告いたしておきます。入国管理の事務は私の所管に属しております。これは、ただ入国管理の事務をすればあとはほつておけと言えばそれまででありますが、そうでなく、ただいまも仰せになりましたような事情の人が目についたら、できるだけ引揚援羅庁と協力して、——出しやばる意味でなく、お手伝いをしてあげるようにということを言つてございます。
  56. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 この際、法務大臣に対して玉置君から発言がございますから、許したいと存じます。玉置君。
  57. 玉置信一

    ○玉置委員 私は、二つの問題につきまして法務大臣にお伺いしてみたいと存じます。  その一は、今般の中共側からの中共地区に在住する邦人引揚げに関しての呼びかけのことは、人類愛あるいは人道の見地から、あたたかい気持で呼びかけて来たのではないか、しこうして中共側にあつては、政治的その他何らの含みがないものと、私は解したいのでありますが、政府はこれに対してどういうように考えておるかということが一点。  次は、先ほど中山委員からも質疑があつたので、これに関連してお伺いいたしますが、前段申し上げましたように、中共側の親心に反して、日本共産党は、大臣も先ほどお話がありましたが、秘密指令として十数項にわたつて指令を発しておるということが巷間伝えられておるのでありますが、前回の例はすでに御承知の通りでありますが、今回の引揚者に対しましても、引揚者がおちついた後において、これらの同胞に対して共産党がこの指令に基いて活発な行動を開始するであろうということは想像にかたくないのであります。従いまして、引揚者の生活不安のみならず、国内治安全体に及ぼす影響も、私は決して少くないと思うのであります。この点に関しても、大臣は遺憾なきを期するやに、先ほどの御答弁で拝承いたしました。しかし、これはきわめてデリケートな問題でありますがゆえに、一方を厳にすると、人権問題が起り、寛にすれば、そうした秩序破壊の行動が至るところに起るであろうということを予想されますので、これが取締りに当る関係省といたしましては、今から十分これに対処しなければならぬことは申すまでもないことでありまするが、私は、特に取締り省でありまする法務省と、厚生省、この両省において指導的役割を演じなければ、なかなかこの取り締まりが容易でないのではないか、かように考えますが、これに対して法務大臣はいかようにお考えになつておりますか、お伺いいたしたいと思います。
  58. 犬養健

    犬養国務大臣 お答えいたします。第一点の御質問でございますが、中国人が、君の方へ日本のこちらにいる人を帰して送つてあげましようと言うこと自体は、やはり仰せの通り、人類愛に出発した問題でありまして、この点は、当面の政治、外交を超越して、すなおに受取るということが大切であると存じます。しかし、これは第二点の御質問とも関連したお答えになるのでありますが、同時に、御承知のように、ただいま中山委員に申し上げましたように、日共では引揚げ闘争を通じてこれこれのことを拡大強化して行くということでありまして、取締り当局といたしましては、これに無関心ではあり得ないのであります。しかし、人情から考えまして、久しぶりで帰つて来た、その本人の家族、友人などが喜びに満ちているときに、さつそく思想調査ということは、これは中間の人まで反感を持つに至るのではないかと考えまして、この点を非常に愼重にやつているわけでありまして、一方では、日共の次々に出て参ります通牒をあくまでも緻密に調査し、よつて起る影響に対しては、非常な緊張をもつて待機しているのでありますが、引揚げられた本人、家族に対しては、あくまでも猜疑心というものを前面に立てず、影響というものを主にして行くという考えを持つております。これは、実は第一線では非常にやりにくいのであります。ですから、始終中庸を得て、しかも間抜けにならないように、絶えず中央から注意をして参る方針でございます。一番大事なのは、引揚援護庁、厚生省の問題でありまして、実は閣議で、厚生大臣を通じて引揚援護庁長官の意見などを聞いておりまして、私非常に満足しておるのでありますが、できるだけの親切をする、親切が何ものにも打ちかつ、こういう方針でやつておられるのでありまして、久しぶりの故国の親切というものが、やはり解決策の一番強いものだと考えております。
  59. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 田中君。
  60. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 外務省関係は、大臣がいなくては問題になりませんから、これはこの次に外務大臣にお尋ねしたいと思いますが、そのための参考として、ちよつと外務政務次官なり外務省の方にひとつ聞いておいてもらいたいことがあります。  それは、京君が米軍の機関に出頭を命ぜられる以前において、神戸及び大阪の領事から京君に連絡がありまして、会いたいというようなことだつたそうであります。会いまして、中国国民が現在の政権に対して、あるいは朝鮮の戦乱に対して、一体どういうふうな考えを持つておるか、いわゆる民心の動向をいろいろ聞かれたということでありますが、こういうことも事実としてあつたことでありますから、こういうことにつきまして、外務大臣にこの次の機会に詳しく説明を求めたいと思いますから、お伝え願います。  次に、援護庁長官にちよつとお尋ねしたいと思いますが、これも復員局の指令に関することであります。指令三百四十三号、——一月十四日付になつております。茨城県知事あてで、日中友好協会であるとか、平和連絡会であるとか、そういう団体が未引揚者の数単その他に関する資料の閲覧を求めたり、提出を求めた場合には、しかるべく拒否せられたし、こういう指令を与えられておるのであります。これは茨城県の事例でありまして、在華同胞帰国協力会茨城県支部の調査にかかるものでありますが、おそらく全国各都道府県の知事に発せられたものだと思うのであります。帆足計君からも、在華同胞の数字についてお尋ねがありました。これは、御承知の通りに、中国側では約三万と申しております。外務省調査によりますと、五万九千であります。その間大分食い違いがあります。私は、外務当局の担当者の方からいろいろ聞きまして、日本側の数字も決してでたらめなものではない、やはり良心的にいろいろ調べられて、そうして外務省としては正しいと確信しておられる数字である、——もちろんその五万九千が、全部生存して、現におるというのではないのですけれども、しかし、生序しておることのあり得る数字全部を総計すると、そういうことになるというので、そういうふうに外務当局に自信がおありならば、むしろそれを全部府県別、市町村別にでも発表して代表団にこれを持つて行かせるということがいいのであつて、何かそれをひた隠しに隠して、そうして両国の発表した数字の食い違いをそのままにして帰つた人の数、その他について、あとからいろいろ問題が起るということは、これは、大にしては今後日本中国との国交上もおもしろくない。そうしてまた、当の留守宅の家族の人々を安心せしむるゆえんでないのでありますから、こういうふうな妙な指令をなぜお出しになつたか。何か悪いことでもしておるようにこれでは受取れるのでありますが、責任ある長官の御答弁を願います。
  61. 木村忠二郎

    木村(忠)政府委員 ただいまの御質問は、若干通牒の趣旨を誤解しておられるのであります。私の方といたしましては、引揚者の数、氏名等につきまして、外へものを出すことにはなつておらぬのであります。在留者のどういう人が、どこにどういうふうになつておるかということは、すべて外務省がまとめてお扱いになつておるのであります。従いまして、各地におきましていろいろなものを出しますことは、各種の弊害がございますので、われわれといたしましては、ばらばらの資料を見せることは、一般にお断りいたしておるのでございます。どういう方が向うに残つておられるかというような調査等につきましては、これは、すべて留守家族あるいはお帰りになつた方というようなところまで調べておるのであります。これは、私の方でやつておるのもございますし、外務省の方でやつておるのもございます。そこで、これらの調査につきましては、そういうことで調査いたしておるのでございますが、全体の形につきましてどういう形で外に出すかということは、すべて外務省の責任でおやりになることでございますので、われわれ並びに私たちの下の方の部局では、従来からこれは外に出さないということになつております。今回、このものを出してよろしいかという問合に対して、その点については従来通りでございますという返事を茨城県にいたしたのであります。
  62. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 弊害があるとおつしやるのは、一体どういう弊害なんでありますか。
  63. 中村幸八

    中村(幸)政府委員 外務省といたしまして、先ほど数字をお示しいたしました。これは、相当確信を持つておる数字であります。しかし、中共側では三万と申し、この数字の食い違いについてとやかくつておるよりも、一人でも多く、この三万人が文字通り早く引揚げができるようにというので、われわれはこの数字についてただいまとやかく申しておりません。ただ、氏名等について、なぜ発表しないか、こういうお尋ね、しかもそれを発表しないということについては、どういう弊害を認めておるかということでございます。われわれといたしましては、先ほど申し上げるように、一人でも多く、一日も早く引揚げていただきたい、こういう考え方から、氏名等発表について、はつきり申し上げられませんが、いろいろの弊害も予想せられるのでありまして、そういう心配を包蔵いたしておるものにつきましては、かえつて発表をしないで、中共のいわゆる三万というものは、一人も欠けない、ように帰していただきたい、こういう趣旨から発表はいたしたくないのであります。御了承を願います。
  64. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 私の質問に対する答弁にはなつていないのでありますが、どういう弊害があるか、少しも御説明がなかつた外務省において調べる場合は、ただ五万とか三万とかいう数字になる。町村の自治体に参りまして、その氏名まで発表することによつて、それが具体的になるのでして、そうすると村の人もみな心配してくれる。そうしてまた、かりに何か給与を受けたいために虚偽の申告をするというような弊害も、むしろ具体的に氏名発表されることによつて防ぐことができるくらいでありますから、ひとつこれはお考えつて、ほんとうに民主的に引揚げ運動、引揚げ対策をおやりになるという立場から、国民の協力を求めるために、市町村別にでも具体的に名前まで発表していただく、こういうことをお考え願いたいということを要望いたしまして、私の質問はこれで終ります。
  65. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 玉置君。
  66. 玉置信一

    ○玉置委員 私は、主として引揚者援護の問題についてお伺いせんとするものでありますが、その前に、私は外務委員でないので、外務委員会における発言ももちろんできませんし、また外務委員会の質疑等の傍聴もできるかできないかわからないので、この機会に一言外務政難次官あるいは欧米局長にお伺いしてみたいと思います。  それは、先ほど帆足議員と欧米局長の質疑応答を拝聴いたしまして、少しく奇異に感じたことを二点ばかりお伺いしてみたいと用います。高良議員の旅券発行に関する法律違反の有無の問題で、帆足さんは、何ら違反でない、かようにおつしやるし、政府側は、現に違反である、こう言つておられるのであります。そこで私は、この問題をまつたく党派的な感情を抜きにいたして、純理論的に考えてみますと、やはりこの法律は、人道を無視し、常識の域を逸脱しては行われない。しかも、これは立法府においてきめられてある法律である。何といいましても、社会生活の規範は法律で示されて行かなければならぬ。そこに法治国のゆえんがあるわけであります。こういうことを考えてみますと、私も少しく法律をかじつた者として、先ほどのお話を聞いておりますと、どうもふに落ちない。やはりきめられた法律に違反してはならない。法律と申しましても、これは抜け道がありまして、刑法にいたしましても、訴訟法にいたしましても、裁判所において弁護士が弁論をするゆえんは、その解釈あるいは表裏二途を勘案して最後の判定を得ることにありますから、絶対的なものでないということは言うまでもないのでありますが、しかし、このきめられた法律が守られないということになりますと、私は国の秩序が保たれないのではないか、まずかように一番大きなところを考える。そこで、ここに矛盾を感ずることは、政府は、法律違反と知りながら、この旅券法に罰則規定がないために、うやむやのうちに旅券の発行をいたしておる。実は、この前の前の選挙のときでありましたか、北海道において選挙違反事件が起きた。たしか教員組合であつた思います。違つておりますれば後刻訂正いたしますが、この教員組合の政治活動には罰則がない。ところが、他の団体は罰則があるために、選挙運動が違反にひつかかつてしまつた。同じ選挙違反の行動をし、その事実があるにかかわらず、一方においては罰則規定がないためにこれをのがれ、一方は、罰則規定があるために処罰をされたという、きわめて矛盾きわまる問題が起きたのです。私は、この事実を考えあわせまして、今般の旅券法の矛盾がここにあるのではないかと感ずるのですが、これに対して外務省は一体どういうように考えておられますか。すなわち、繰返して申しますと、きめられた国の法律が守られない場合は、明らかに国の秩序が保たれないと思うのでありますが、これに対する見解いかん。もし保たれない場合は、やむを得ないから、このままにしておくのか、あるいは後日この法律を改正する御意思があるのかないのか、この点をお聞きしておきたいと思います。
  67. 中村幸八

    中村(幸)政府委員 お説のように、高良氏の問題は、旅券法違反ではありますが、処罰規定が抜けておるという関係で、われわれといたしましては、その処置に非常に困つておるわけであります。従いまして、でき得べくんば、この国会に旅券法の改正の提案をいたしたいと考ております。
  68. 玉置信一

    ○玉置委員 重ねてこれを要望いたしておきますが、先ほどの欧米局長の御答弁によりますと、前の国会において、すなわち立法府においてきめられた旅券法である、それが罰則がないために、その内容を知りつつこれを犯して顧みないということになると、ほかの人はともあれ、立法府に籍を置く議員としても反省しなければならぬことは当然であります。今後そうした間違いを犯して、何も知らない国民全体に不安の念を起さしめ、せつかく政府自体の誠意ある措置も、逆にこれが国民の批判となつて政府の責任を追究されるということになつては、私どもまことに遺憾とするところでありますので、(「賛成々々」と呼ぶ者あり)でき得るならば法の改正を早急になされるように、重ねて要望して、次の質問に移りたいと思います。
  69. 帆足計

    帆足委員 ただいまの旅券法のことにつきまして私の一身上のことに触れましたので、ちよつとの間釈明を許可願います。
  70. 佐藤洋之助

  71. 帆足計

    帆足委員 ただいま旅券法の問題に触れられましたが、高良さんの事例が違反であるとすれば、私の事例も違反であるという、ゆゆしきことになるわけであります。これは、さつきすでに申し上げたのですが、ただいま発言の同僚委員の方は、この問題にタツチしておられなかつたようで、この点をお見落しになつたのではないかと思います。旅券法には、資格審査をして、好ましからざる人物は行かせぬことができるという項目がありますが、政府がすかない国に行かせないという規定はないのでございます。当時は、今日の欧米局長のようなことを言われずに、命があぶないとか、あの会議が好ましくないとか、またせめてアメリカか西ドイツの代表が行つたら行かせるのだがなあという問題でありましたのが、だんだんりくつがかわつて来たようなことでございまして、ある意味では、政府側から言えば法規の不備でございましよう。しかし、現在の法規がある以上は、政府はこの法律を守らなければならない。泣く子と地頭とにはかなわぬ、長いものには巻かれろなどと言いますけれども、私は断じて長いものには巻かれません。長いものは適当な長さにはさみでちよん切つて、整理整頓すればよいのでありまして、国民のすることは常に間違つておる、政府のすることはいつも正しいということにはならぬのであります。従つて、罰則をつくるならば、こういう違法を犯した政府当局をも罰するという罰則もつくり、同時にまた、今の高良さんの事例が事務手続違反であるとするならば、他の法令とにらみ合せて、手続違反にふさわしい罰則をつくることもけつこうであつて同僚委員の御発言に何ら私は反対でございません。先ほどから賛成々々と申しておるわけでありますが、この問題は、まださらに別途の問題もありますことだけを御了承願いまして、外務委員会あたりで愼重にお取上げのほどをお願いいたします。
  72. 玉置信一

    ○玉置委員 なお、今の御発言で気がついたのですが、もう一点大事なことがありますので、お伺いしておきたいと思います。どうも日ごろ尊敬している帆足さんの引用されたことをさらに引用することは、ちよつと恐縮なんですが、先ほどの帆足さんの御発言中、アジア社会党会議に臨んでのイーデン外相の演説を御引用になりまして、英ソ間の渡航の問題についていろいろお話がありました。そこで、私考えますのは、イギリスとソ連は平和の状態にある国柄であろうと思う。ところが残念ながら、日本とソ連並びに中共とは、いまだ講和条約が結ばれないで、戦争状態になおおかれておるのじやないかと考えるわけです。かかる状態においては、イギリスがソ連に対すると、日本国がソ連あるいは中共に対して旅券を発行するのと、内容を同一に見るべきでなかろうと思うのですが、この点はどうなのか。私、実は外務省所管の事務についてはあまり詳しくないので、わかりませんので、この場合御教示を願つておきたいと思います。これが国民の不安を一掃するゆえんでもあるので、お願いいたします。
  73. 土屋隼

    ○土屋政府委員 ただいまの御質問に簡単にお答えいたしますと、イーデン外相が、好ましからないけれども、行きたい者はあえてとめないと申されたことは、事実であろうと思います。同時に、帆足さんは統計の学者であられるのに、逆の統計を全然無視されておるように思います。アメリカの国務省は、平和攻勢であるから一切出さないということを決定いたしましたし、濠州の政府もまた、外務大臣名で制限をいたしました。外務省としましては、こういう自由諸国家の賛成、反対、いろいろある中から日本政府の行くべき道を見て、ああいう決定をしたことは事実であります。それから先ほどからいろいろ旅券法の点について御質問がございましたが、私どもも、旅券法にそういう不備があるならば、早くそういう法的措置をとつて、ここで改正しなければならないと考えておりますけれども、いろいろの点についていまだ成案を得ませんが、先ほど政務次官の申し上げられたように、今回の議会に間に合うように近日中に提出できると思います。  英国とソ連との問題は、御指摘になりましたように、外交関係のある国であります。従つて、外交関係のない、ことに敵視されておる国とは全然違つております。
  74. 玉置信一

    ○玉置委員 それでは、援護庁長官と、幸い大蔵省の大村主計官が御臨席になつておりますので、御両者にお尋ねをいたしたいと思います。  せんだつての当委員会におきまして、引揚者の完全定着の問題に関連いたしまして、全般的に各種の問題について御質問申し上げ、お答えを願つたのでありますが、その中で、引揚者の疎開住宅、すなわち引揚げ住宅の疎開事業が、本二十七年度において打切られておるのであります。これをこのままにして放棄されますと、一般公営住宅に入ろうといたしましても、なかなか容易でない。そこで、これは継続すべきではないかということを御質問申し上げたのに対して、援護庁長官から、もし不足した場合は継続ができるやに、大蔵省側の了解を得ておるような意味のお答えがあつたのですが、これは、援護庁長官から直接のお言葉を聞く前に、私ども間接にほかの面からもさように聞いておつたのであります。この引揚げ住宅の問題は、今日当委員会において論議されておりますごとく、きわめて重要な、生活安定、定着の基本的な問題でありますので、当然そうあるべきだと思いますが、まず御意向を伺つて、次の質問に移りたいと思います。
  75. 木村忠二郎

    木村(忠)政府委員 ただいまの御質問の中で、私の申し上げましたことを非常に断定的におつしやつておるようでありますが、まだ話が打ち切つてないというふうに申し上げたつもりでおります。大蔵省が完全に了解しておるということは申し上げたつもりではなかつたのであります。ただ、大蔵省としましても全然今後考慮しないということはないというふうにわれわれは受取つておるということを申し上げたつもりでおります。
  76. 大村筆雄

    ○大村説明員 引揚者の疎開住宅につきましては、ここ数年新築に努めておるのでございまして一応本年度をもつてつたというふうにもなつておりますが、その後の調査によりますと、なお終つていないのもあるという事情があるようでありますので、私どもといたしましては、二十八年度以降におきましても、第二種公営在宅を優先的にお世話いたしたい、かように考えておるのでございます。引揚者の疎開住宅につきましては、できるだけ好意的にとりはからいたいと思つております。
  77. 玉置信一

    ○玉置委員 公営住宅を優先的にというただいまの大村主計官お話でございましたが、もし建設省の公営住宅によつてこれを措置するということになりますと、次の点がきわめて難問題になると思うのであります。と申しますことは、補助率の相違によりまして、設置主体であります当該府県または市町村の地方負担が非常に過重になる。それから入居者の選定にあたりまして、法においては、一定収入がないときは入居不能である。現在集団収容施設に収容されておる引揚者の過半数は、申すまでもなく経済力がこれに伴つておらぬ。従つて法の改正によらなければ、これに入れない。さらにまた、この家賃においては、公営住宅法によりますと、八百円から一千円ということになるようでありますが、引揚げ住宅におきましては、四百円から六百円であります。もし優先的に取扱われるといたしましても、この負担能力のない者はとうてい入ることができないのが現実の問題なのであります。大蔵省は、こういうような点をお考えになつておるかどうか。今や国をあげて、あらゆる角度から論議されておるところの、この重大な引揚げの問題に対して、できない相談をやろうということは、何としても私は無理だと思うのです。この点を私は考慮する必要があると思うが、全然考慮の余地がないのかどうか。ないとすれば、私は別個の措置を講じなければならぬと思うが、大蔵当局の御意向を承りたい。
  78. 大村筆雄

    ○大村説明員 第二種公営住宅につきましては、お言葉の通り、補助率は三分の二でございます。それから家賃もたしか七百五十円程度からだと思いますが、相当安い家賃でございまして、従来より補助率は若干下りますけれども、この程度でありますと、ほかの住宅に比べますと非常に有利になつて来るわけでございますので、そう無理ではないのではないかというように考えております。
  79. 玉置信一

    ○玉置委員 大体主計官は非常にそのことに明るいお方だと聞いておりますので、大蔵省の主計官として苦しい御答弁をなすつておるのだろうと御同情をしておるわけです。これは、現実の問題としては、とうてい入られない。この問題は、私は全国的のデータを今ここに持つて来るのを忘れましたが、北海道だけのデータを持つて来ておりますので、この実績を申し上げたいと思います。終戦直後から昭和二十五年までで四十数万人が入つて来ておるわけなんです。このうちの三十万人は樺太引揚者であります。しかもきわめて悪条件下にこれらに対処いたしまして、北海道といたしましては、旧軍用建物その他既存建物を応急的に修理いたしまして、六千九百三十一世帯の収容施設に充てたのでありましたが、その施設は、今日においてはだんだん破損、腐朽の度を加えまして、風紀的にも、衛生的な見地からしても、住宅として使用することはきわめて困難な実情に追い込まれておるわけなのであります。今日までに二千九百戸を新築して疎開し、あるいは大補修を加えておるのでありまするが、なお三千余戸の緊急疎開を必要とするものがある。こういうときに、今のようなお話では、納まらないのではないかと思います。なお、これを個別的に、はつきりした数字を申し上げますと、函館では、受入数が四百十五戸、このうち昭和二十七年度までに疎開済みのものが百五十八戸、二十八年度に疎開を要するものが二百五十七戸、旭川が、受入数四百六十八戸、二十七年度までに疎開済みの分が二百四十五戸、二十八年度に疎開を要するものが二百二十三戸、豊平町が、五百四戸に対して、三百二十二戸が疎開済みで、残つておるのが百八十二戸、小樽市が、三百三十八戸受入れに対して、百二戸が済んでおりまして、残つておるものが二百三十六戸、音更村、帯広市の一部を加えまして、受入れたものが二百五十戸、そのうち済んだのは百五十戸で、百戸が残つております。苫小牧市が、九十三戸の受入れで、四十戸済みまして、五十三戸残つております。合計千五十二品一が残つておるわけであります。従つて、これによりますと、二十八年度の実施予定計画といたしましては、前の残つたものと合計すると、五千四百二十九戸はどうしても必要なのであります。こういう実情でありまするので、全国的に見ますと、かなりな数字に上つておるのではないか、かように考えます。先ほども申し上げましたように、一般公営住宅に優先的に入れるといたしましても、現実には、引揚げ人たちが、さしあたり生活の安定を求めてこれに入るということは、とうてい容易でない。二万円までの手当をいただくといたしましても、これを家賃に充当し、生活をして行こうということになると、容易じやない。かような現況でありますから少くともこの引揚げ住宅の問題は、二十八年度になお継続してやるべきが国家のあたたかい施策ではないか、かように私は考えますが、これに対してどうお考えになりますか、まずお伺いしたい。
  80. 大村筆雄

    ○大村説明員 今回中共より引揚げて参ります家族に対しましては、先般引揚援護庁長官より御説明のございました通り、全国で約三千五百戸ほど、これは従来もやつておりましたように、引揚者住宅のために特別優位に国から地方に補助金を出すというふうにいたしております。ただいま疎開住宅の御検討をなさつておられるようでありますが、疎開住宅の方は、すでに定着されて、ある程度生活安定を得ておられると私は見ております。
  81. 玉置信一

    ○玉置委員 生活安定が実はまだそんなにできていないのです。できていない面を指摘して申し上げているのです。特に私は北海道を見てやらなければいかぬと思う。ということは、御承知のように、道南地区——函館方面は別として道南のうちの北部に位する所から道東北地区は、少くとも二尺、四尺、多いところは十尺も雪が積る。この中で生活をしなければならない。これらの恵まれない環境のもとに生活する引揚者は、容易なことでは生活の安定を得られない。燃料の面においても、除雪の点においても、余分な経費がかかるわけであります。こういう所で困つておる者には、どうしても特別に見てやらなければいかぬと私は思う。なるほど、お話のように、今引揚げる者と、すでに引揚げて何年かたつておる者との間の差は私ども認めておりますが、そのうちでも、不幸にしていまだ生活の安定の域に達していない者は、やはり見てやらなければいかぬと思う。社会政策上、人道上、こうした観点から、北国における恵まれない引揚者に対して、さらにあたたかい手を延ばす意味において、この引揚げ疎開住宅の建設補助金を継続して行くことにすべきであると思うのですが、援護庁長官はこれに対してどうお考えになりますか。そうした努力を払う決意がありますかどうか、これをお伺いしたい。
  82. 木村忠二郎

    木村(忠)政府委員 その点につきましては、この前の委員会の際に申し上げましたように、われわれとしましては、なお疎開を要するものがあるということは十分認識いたしております。これにつきましては、本年度予算において折衝いたしまして、現在のところまだ大蔵省の御了解を得ておりませんけれども、この前申し上げましたような段階に今来ておるということでございます。今後といたしましても、大いに努力いたしたいと考えております。
  83. 玉置信一

    ○玉置委員 次は、先ほどどなたかの御質問お答えになつて更生資金は二億円ほど予算化されたということでありましたが、これは公庫のわく内の二億円ではなかつたでしようか、これを援護庁長官にお伺いいたします。
  84. 木村忠二郎

    木村(忠)政府委員 これは、国民金融公庫明年度出しまする金額の中で、そのわくを設けたいということでございます。
  85. 玉置信一

    ○玉置委員 そういたしますと、この更生資金のわくの中には事務費を見ていないようであります。母子福祉資金の方には事務費を出しておるのですが、これに事務費をつけていないのはどういうわけなんですか。私は出すべきであると思いますが、出す考えがあるのかどうか、この点をお伺いいたします。
  86. 木村忠二郎

    木村(忠)政府委員 その点につきましては、従来から、われわれとしましては事務費はほしいのでございます。しかし、これは事務費がなければできないという趣旨のものでもないと思いましてこの点につきましては、われわれとしては、事務費があつた方が、貸付の際におきましても適当に貸付ができるし、またあとの回収等につきましても適当であるというふうに考えておりますが、いまだ大蔵当局の御理解を得るに至つておりませんので、ただいまお答え申し上げかねるわけであります。
  87. 玉置信一

    ○玉置委員 母子福祉資金の方に事務費がついたというのは、どういう関係にありますか。
  88. 最上孝敬

    ○最上説明員 母子福祉資金の貸付も、私どもの方で資金を出しておる部分がございまして、私どもの方の経費を府県におまわしして、それで貸付に関するいろいろな仕事を進めて行く、そういうことにしております。
  89. 玉置信一

    ○玉置委員 母子福祉資金の方に事務費がついて、こうした更生資金の分につかないというのは、不合理であつて、これは当然つけるべきであると思うのですが、どういう関係ですか。どうも私は理解できない。どなたでもけつこうですから、こういう別扱いになつている事情をひとつお聞かせ願いたいと思います。
  90. 最上孝敬

    ○最上説明員 結局において、私どもも同じように扱うべきものではないかと考えておりますが、ただ、ちよつと出発点が違いますのは、母子福祉資金の貸付は今年度初めてお願いするわけであります。それから中共引揚げというのは、中共というような限定はございますが、引揚者その他に対する貸付を私の方で前々からやつておりまして、その方のいろいろな回収の仕事などに対して、現在その出先の機関にお願いして、おるのであります。そういう関係で、引続いてお願いできるのではないかというような考えがある点が、若干違つておるのであります。
  91. 玉置信一

    ○玉置委員 どうも私は納得が行かない。せんだつて委員から、社会党内閣になつたらもつと社会政策をやれるが、吉田内閣はできないと言われました。社会政策の面におきまして、こういう母子福祉資金ができたことについては、私は吉田内閣がよくやつたと考ております。それから、前の片山内閣時代からの社会政策の面に現われた予算数字等を見ましても、ぐつとふえておりますから、こうしたことについては、いささか気をよくして、社会政策が一層徹底されることを希望するのであるが、この同じような性質のものに手落ちがあつてはいかぬと思うのであります。これは、あとで事務的に話がつく問題だと思いますので、どうか平等に事務の処理ができて、しかも貸付が円滑に、急速に行われるよう希望いたしまして、一応私の質問を打切つておきます。
  92. 中山マサ

    ○中山(マ)委員 先ほどから旅券の発給の問題をお聞きいたしておりまして、これはいろいろと議論めいて参つておりますが、実際の面において、外務大臣がいつか、そういうことをした人にはもう旅券は出さないのだ、こういうふうに筋を通しておいて、今度の問題が出ましたときに、その線に沿つてつていらつしやつた。ところが、何ですか、ごてごてとしている間に、何のことはなしに旅券が出てしまつた。どうも私、その辺のいきさつがもやもやしていて、はつきり来ないのでございますが、この間一度お尋ねいたしましたら、外務省アジア局第三課の課長さんであつたかと記憶いたしますが、留守家族のことを思うてそうしたのだということです。それは、まことにけつこうなことでございますけれども、この違反をしたと称される人が行かなくても、あとの六人の人はもう行くような態勢を見せていらつしやつたように、私は新聞紙上で拝見いたしておりました。そういう段階に来ておつて、もしも、中共にかけ合つて、この人たちが来ないなら三万も帰せないのだと言われて初めて出すのならば、これは一応おつしやることに私は筋が通ると思うのでございますが、どういうわけでうやむやの間に出されて来たか、——私は、これは違反かどうかという議論はとにかくとして、一応政府がそういうふうに言つてつたのに、何だか、どこかでだれかに強い圧迫でも受けたのではないかというような感覚を持つ世間の人に対して、私が地方に帰りましたときに答弁に困りますので、その間のいきさつがございますならば、御説明を願いたいと思います。私の伺うのは、議論ではありません。実際の面において、どういうわけでふらふらと御出しになつたか、それを聞かせていただきたいのでございます。
  93. 土屋隼

    ○土屋政府委員 実は、ただいまの御質問は、外務大臣から直接御返事を申し上げないと、納得の行くような御返事ができないかと心配するのでありますが、せつかくの機会で、私もその下で仕事をしましたから、外務大臣がどういう考え方とどういう情勢から最後旅券を出したかという私の観測を申し上げて、御参考になれば’思いまして、御返事申し上げるわけであります。  大臣は、議会でも申し上げましたように、ああいう問題もあるので、高良さんには旅券を出したくないということを、初めからしまいまで主張せられたようであります。これにつきましては、事務当局といたしまして、出したくないという大臣の意向はさることながら、本件はほかの問題と違うので、そういう出したくないとか出すとかいう問題よりは、何でも、とにかく出してしまうということはどうだろうかという議論がありましたことは、ただいま事実を申し上げるときには、申し上げる必要があると思うであります。しかしながら、大臣並びにほかの大部分の考え方は、この際特に高良さんが行かなければならないという絶対的な理由がないのじやないか、従つて、行かないで済むことならば、この前の問題もあるので、今回は御遠慮いただこうじやないかというので、最後までいたわけです。御承知の通り、中共からは、高良さんが来なければ絶対困るということはないけれども、しかし最後に、大臣は、未引揚者家族のことを思えば、念には念を入れる必要があると考えられ、この点を高良さんにも、代表の方にも申し上げました。  そこで、外務省といたしましては、この引揚げの問題については、ほかと違いまして、これでできるはずだ、これだけ行けば十分じやないかという観点が一つの観点であります。もう一つは、規定上あるいは今までの政策上外務省が出したい出したくないといういきさつはあつても、おいでになれば、何がなしこの引揚げの問題について百献をされるかもしれぬということも、最後考えてみなければならなかつた点であります。これは、中山さん御指摘の通り、初めからそんなことはわかりきつたことなんで、そのときになつて考えてみるまでもない、初めからわかつているという意見もありましようが、本件は、初めから旅券云々の問題で問題があつた人だけに、その旅券を出すことによつて引揚げに貢献するかろうという観点からほかの問題を排除するということにはなれなかつたわけであります。従つて最後に大臣も考えられました結果、——圧力云々の問題は、幸いにして、どこからも私の見かけたところございません。最後に六人の代表と随員、工作員もおいでになり、これで十分仕事が達せられるが、さらにその上に、せつかく高良さんにも電報が来たいきさつもあるから、これは従来のことはとやかく言わず、高良さんにも旅券をお出しになれば、高良さんがおいでになることによつて、幾らか本件を促進することもできるじやないか、留守家族気持も察すれば、そうもしたかろう、だから、外務省も主張すべきことは主張して来ておるし、高良さんの立場は立場として、すでに新聞でも明らかになつておる、だから、その点は論ぜず、最後に、まだ間に合うという機会に旅券を出されたというのが、大臣のほんとうの腹であつて、ほんとうの措置だと思われます。これに対しまして、今中山さんも言つたように、御批評はあると思いますが、実際のいきさつは、今申し上げたのがいきさつであります。
  94. 中山マサ

    ○中山(マ)委員 外務省は、もつとはつきり初めから見通しを立てて、政府がとやかく非難を受けないような処置に出ていただきませんと、まことに困ることだと私は思うのでございます。一旦言うたことは、正しいと思つたら、それを通すだけのがんばりを持つていただきたいし、もつと見通しをきかせていただきたいと私は思うのでございます。  さて、問題は違いますが、中共に向われました後、この問題が非常に停頓しているように思うのでございます。新聞で見ますと、おいでになられたその期間も切れて、いろいろのお手当の費用も何だか切れているというような話も出ておりますが、外務省として、この間のいろいろないきさつ、なぜにこういうふうにしてこれがてきぱき行かないかという、その情報がございますならば、聞かせていただきたいと思います。
  95. 中村幸八

    中村(幸)政府委員 中共へ参りました使節団から、実はあまり公の報告が参つておりません。その間どういうわけで返事がないのか、あるいは報告がないのか、詳細はわからないのであります。二、三日前も、日本赤十字社の方から工藤代表の方に、内地においては皆さん非常に心配しておるのである、一刻も早く報告をもらいたいという督促の連絡はいたしております。一週間前に島津団長から、あちら側でも六名ほどの委員をつくつてこれと折衝するというような報告が参つております。その後さつぱり音さたがないわけであります。外務省といたしましても、これについて非常に心配もし、関心を持つておるわけであります。あるいは外務省からも、何らかの方法で向うにわれわれの意思も伝え、督促もしてみたい、かようにも考えておりますが、まだ今日そこまでは行つておりません。
  96. 中山マサ

    ○中山(マ)委員 外務省からは、代表団について工作員も数名行つていらつしやるように聞いておりまするが、その中には、ただ日赤の団長さんやそういうお方々に依存するだけでなく、この工作員の中から外務省代表としての連絡員をきめてお出しになりましたのでしようか。
  97. 土屋隼

    ○土屋政府委員 今回の代表団派遣は、中共側の要求がございまして、民間団体ということを本旨といたしました関係上、外務省の者は、工作員として一人ついております。これは、中国に長くおりましたし、中国事情にはよく通じており、言葉その他も通じておりますので、つけて出したのでありますが、あくまでもこれは団長並びに団員の方の御便宜、またその交渉にあたつてあつせんを務めるということで、遺憾ながら外務省の独立の派遣員としての地位を持つておりません。従つて、おそらく当人が思うことをすぐ電報で打つとか、連絡をするということはできないかと思います。  それから、ただいま次官から説明がございました、何も言つて来ない、連絡がないという点は、私どもも非常に不審に思つておる問題点なので、中共の方から、御承知の通り、一月の十五日以後の日ならいつでも出てよろしいという電報代表団は受取つて、私どもはそれを確認して、出て参つたのであります。従つて、今になつて代表団が、向うで交渉する人がいないで、交渉が開けないということは、私どもとして、どうもふに落ちないのであります。家族の人並びに日本の皆さんの考えているところでは、毎日にも電報が来なければならないはずなのであります。これは、国情が違います。電報が、出しても届かないという事情があり得ると思います。おそらく代表団の意図に反して、何か外的の事情で、電報が頻繁に来ないという事情があるのじやないかという心配をしておるところであります。しかし、もちろん滞在期間は限られております。旅費もそれに従つて出しているのでありますが、こういう交渉のことでございますから、よんどころない事情で延びるということも予想できるので、できるだけ旅券の有効期間を延ばす、それから旅費をさらに追送することは可能だと思います。その点は、具体的事実が出ましたら考えてみたい、こう考えております。
  98. 中山マサ

    ○中山(マ)委員 帰りたい者は帰すということが新華社の放送のように聞いておりましたのに、新聞情報ではございまするけれども、宮崎県の人でございましたか、鹿児島県の人でございましたかのお父さんからの連絡として、自分は帰ることを希望しておるのに、こういうことの直前に奥地の方へ転勤させられた、——留用者であるがために転勤をさせられたというようなことで、御家族の方も非常に御心配になつている向きを聞きますと、私が初めから心配いたしておりましたように、三万という数字と五万八千という数字の食い違いを考えますると、その三万なる人たちは、向う様が帰そうという人であり、あとの二方八千という人は、帰りたくも、どこかへ転勤させられてしまつて、帰れない人ではないか。しかも、いろいろな資料をつくる人が向うの人であつて、それに記載されることによつて希望残留ということにされるのではないかというようなおそれを持つているという情報を私は得ました。前に引揚げの問題がはなやかな時代にも、よく希望残留ということをしいられたのを思い出しまして、また五万八千と私ども考えておりまするそのあとの二万八千なるものは、希望しないのに、いわゆる希望残留ということにされて残されるのではないかと心配するのですが、そういう点も何とか考えて、ひとつ向うへ連絡をしてくださいまして、ただ向う様のごかつてでとめられないように、ほんとうに帰りたい人は帰してもらうように、その点をぜひ日赤の島津団長あたりに、何とか外務省あたりから強く御連絡願わないと、まことに残念な、いわゆるあとぐされが残るのではなかろうかということも非常に心配をいたしておりますので、外務省として、あるいは引揚げ関係の方としては、こういう問題についてどういうふうなことを考え、またその点を打開するためにどういうことをしようとお考えになつていらつしやいますか、聞かせていただきたいと思うのであります。
  99. 土屋隼

    ○土屋政府委員 この中共地区その他に残つております未引揚げ邦人の問題につきましては、中山さん御指摘のように、いろいろな情報が乱れております。あるときには、中共地区にいる在留日本人が、国に帰りたくない、あそこでみな生活を楽しんでいるというような情報もあつたことは御存じの通りであります。従つて、今回の問題につきましても、いろいろ御家族その他からの情報その他もあるのでございますが、私どもは、現在のこの情報の信憑性を確認するだけの資料を持ち合せたいのを非常に残念に思つているわけであります。従つて政府といたしまして、唯一の現在考えている点は、一人でも多く、一日でも早く在留民に帰つてほしい、この希望だけで実は動いているわけであります。代表団がお立ちになるときにも、いろいろそういう問題について政府の意見も申し上げました。しかし代表団には、民間代表であるだけに、民間代表の意向もあつて政府がいろいろの注文事項を出したにしても、必ずしも全面的にお受取りにならなかつたといういきさつもあつたわけであります。私どもは、一日も早く帰す、一人でも早く帰すという見地から、とにかく中共から帰す者は早く帰していただいて、その後残留者とわれわれが認定でき、また当人も帰ることを希望しているという事実を突きとめたならば、第三国を通ずるなり、あるいは今度行かれた代表の方も今後中共と何らかの連絡があるわけですから、この人たちの連絡に頼るなりして、当人の希望家族の要望にこたえる措置をとる必要があると思います。ただ、現在どういう措置をとつているかという御質問に対しては、現在はいろいろの措置考えておりますが、まだ具体的にこの措置あの措置ととつておりません理由は、こういう措置を先先に用意してとること自体が、今回の引揚げに対して何らかの支障を相手方に起させては家族に申訳がないという点で考えておるわけであります。先ほどの、残留者と確認した者の氏名を出すという問題についても、こういう事情をわれわれとしては考えざるを得ないわけであります。
  100. 中山マサ

    ○中山(マ)委員 御事情はよくわかりました。向うにおりたいと希望する人は、私は無理に連れて帰る必要はないと思つております。このごろ移民の問題がまた盛んになつておりますので、御本人が、中共は住みいいんだ、そこでもうわれわれは中共人になつてもいいというぐらい喜んで残留しようという人は、私どもは無理にひつぱつて帰る必要もないと思いますが、ほんとうに帰りたい人がそうなつては申訳ない。ただ私は、自分が世界連邦主義者である立場から、そこへ住みたい人は置いてあげてもいいけれども、ほんとうに帰りたい人が、そういうふうに希望残留という形で置かれるのは、まことに遺憾である。今後三万が帰つて来てしまいますと、あとは今の立場から終りだと言われたときに、帰ることを希望する人がもう綱が断たれるということを、私は一個の人間として、家庭人としてまことにお気の毒に思つておりますので、今後もそういう点を十分に御調査いただきまして、ひとつ皆さんが満足するところに住み得るようにしていただきたいということを希望して私の話を打切ります。
  101. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 この際ちよつと委員派遣についてお諮りいたしたいと思うのですが、島津団長以下六名及び工作員、随員の方々には、先月の三十一日に北京に到着以来、非常な御苦労をかけております。これにつきましては、委員会として感謝いたしておるのですが、おそらく三月、——年度内にまず四千人は引揚げるという見込みでございます。ついては、舞鶴のこの引揚げに対する受入れ態勢がはたしてどうかということにつきまして、現地視察をいたしたいと存じまして委員を派遣したいと思うのですが、いかがでありましようか。     〔「賛成」「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  102. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 御異議ないと認めますから、それでは、さよう決します。  つきましては、委員派遣については、衆議院規則第五十五条によりまして、衆議院議長に委員派遣の承認申請書を提出いたしまして、その承認を求めなければなりません。これらの手続、また派遣の日時、人選等につきましては、いかがとりはからいましよう。     〔「委員長一任」と呼ぶ者あり〕
  103. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 ただいま委員長一任というお話でございましたから、さよう決して御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  104. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 御異議なしと認めまして、さよう決定いたしました。委員長は追つて、時日、人選等、手続をいたしまして、御発表申し上げます。     —————————————
  105. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 なお続いて質疑を許します。堤ツルヨ君。
  106. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 私は外務省にお尋ねをいたしたいのでございますが、ただいま中山委員から、高良参議院議員の旅券の問題について触れられたのでございます。土屋欧米局長は、非常に大臣の立場を弁護されまして、何らか御弁解をなさつたように拝聴いたしましたが、本筋を言うならば、引揚げの問題は政府政府の問題でございます。従つて当然、まともであるならば、相手国から日本政府に正式の申出なり相談があつて、そして政府政府の問題として処理されなければならない問題が、少くともあちらの紅十字と、それから日赤の一つの事業としての形態をもつてこのたび運はれたという問題につきましては、私は国民の一人として非常に遺憾に思うのでございます。私は、当然責任を持ち、そして当然あらゆる事務を遂行しなければならない政府が、やむなく政府の代理としてこの方々を派遣した状態にあるこの問題は、政府の外交政策に関連する問題として、非常に検討されなければならないと思うのでございます。従つて外務大臣が御出席になつておりまするならば、日本政府を相手とせずといつたこのたびのこの問題につきましての分析を、どういうふうにお考えになつておるか、質問いたしたいと思つてつたのでございますが、本日はお見えになつておりませんので、これは保留をいたします。  従つて、私たち国民の立場から申しますれば、この引揚げを完了いたしますのは、これは政府がやらなければならない問題でございますから、少くとも今日とられておりますこうした形を私たちは克服いたしまして、そして日本政府があらゆる手続をおとりになり、これを完了なさるように、軌道に乗せる努力がなされなければならないと私は思うのでありますが、これに対して外務当局はどうお考えになつておるか。大臣のお考えはともかくとして、次官は今後の三万以後の問題をどうお考えになつているかをお聞きいたしたいと思います。
  107. 中村幸八

    中村(幸)政府委員 お説のごとく、この問題は政府政府で折衝すべきが本筋でございます。ところが、今日中共との間の国交が回復いたしておりませんし、日本の今日置かれておりまする国際環境、また日本の外交の根本的な方針から申しまして、中共政府と折衝するという段階に至つておりません。幸い中共側から、日本政府でなくても、民間の代表でもよいというような申出が参つておるのでありまして従つてわれわれとしては、お気の毒な抑留邦人を一人でも多く、一日も早く帰したいという念願からいたしまして、政府の仕事を民間の代表方々に御委嘱申し上げて、現在御努力を願つておるようなわけであります。この引揚者に対する受入れ態勢につきましては、引揚援護庁におきまして万全の処置を講じておりますことは御承知の通りであります。  さらに、今後の問題として、今度何万人帰つて来るかわかりませんが、それに漏れた方々——先ほども中山委員からお話がありましたように、帰国希望しておるにもかかわらず、向うに何かの名義をつけて引きとめられるというようなことがなきにしもあらずと聞いておりますので、こういう問題につきましても、今後外務省としてはできる限りのことはいたしたい。さらに、やむを得ず今回の引揚げで帰れないその他の気の毒な方々についても、引続き万全の努力を払いたいと考えております。
  108. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 これは、中共地区だけの問題でなくして、ソ連地区もそうでございますし、また戦犯をも含めて海外に抑留されておりますあらゆる人たちの問題は、一人残らず引揚げを完了しなければならないのでございまして、あくまでも政府が責任を持たるべきでありますので、一日も早く政府政府の交渉の軌道に乗せられることを私は要望するものでございます。  そこで、次にお尋ねいたしたいのは、高良旅券の問題でございますが、この問題につきましては、これは中山委員御指摘の通り、まことに外務省といたしましては失敗であつたと思うのでございます。出すならば初めから出す、罰則がないのならば、少々感情はあつても、これは理論的にはつきりとした見通しをつけて、初めからお出しになつた方がよかつた思います。先ほど圧力という言葉がございましたが、まつたく輿論の圧力に屈服した岡崎外務大臣が、あいまいな電報になんだか応援してもらつたようなかつこうでお出しになつたような感が深うございます。たとえば、高良さんが入つておらなければ三万人の引揚げの交渉の問題は相手にならないという意味の電報であるならばもう一度考慮しようということを、新聞などでも御発表になつておりましたが、その結果出て参りましたあの電報は、必ずしも高良参議院議員が入つておらなければ交渉に応じないというものではなかつたことは、はつきりいたしております。にもかかわらず、お出しになつたということは、いかに欧米局長が大臣を擁護なさり、そうして帆足委員と理論闘争をなさいましても、私は、この問題に関する限り、外務省当局の確かに黒星であると思うのでございます。今後引揚げ促進の途上において、こうした問題がいろいろと形をかえ、品をかえて出て来るにつけましても、外務省がこうした失敗をたびたびお繰返しになるようでは、私たちも困るのでございまして、この点は、大臣に御出席を求めて、もう一度はつきりといたしたいと存じますが、もう一度、電報の内容をどういうふうに御解釈になつたか、——私たちの解釈しておりますのでは、必ずしも高良さんが入つておらなければ三万人の引揚げ交渉に応じないという意味の電報ではなかつたように存じます。しかも、それであるならば出すとおつしやつたのに、それでないのにお出しになつたところに、非常な失敗があつたと私は思うのでございますが、土屋局長、いかがでございますか。
  109. 土屋隼

    ○土屋政府委員 先方から参りました電報の解釈につきましては、今の堤委員の言われる通りに私どもも受取りました。簡単に申しますと、高良さんがおいでにならなければ交渉に応じないという文面はどこにもなかつたわけであります。従つて、大臣が言われたように、そういう電報があれば出しますという条件を満たされなかつたことも事実であります。ただ、先ほどから申し上げましたように、大臣とされ、またわれわれといたしましては、この際、もしそういうことが言いがかりになつて引揚げに支障を来すようなことになつてはおもしろくないという考えが一つありましたし、それから、輿論に耳を傾けたことも事実であります。輿論というものは、申し上げるまでもないことですが、必ずしも統計的に現われるものでもないわけであります。新聞に出たようなものも一つの輿論であります。関係者が口頭で言つて来たのも一つの輿論であります。外務省に面接手紙をよこされるのも輿論の一つであります。こういう輿論は、私は公平に見て、高良さんに旅券を出せという輿論と、高良さんに絶対出すなという輿論が、相半ばしたと思います。かるが故に、大臣としては愼重に構えざるを得なかつた思います。ですから、輿論が決定的であれば、大臣もおそらく、民主主義の国ですから、これに従うのが当然だと思います。しかし、今言つたように、輿論が半ばしたので、さてどうするかという問題で時間がかかつたというのがほんとうであります。従つて外務省に対する御批判の点は御批判の点として拝聴いたしますが、あの際、われわれとしては、旅券を出すか出さないかという点については最後まで考えざるを得なかつた。そうして最後段階に、出した方が、念には念を入れるという点でよかろうということで、お出ししたのが実際でございます。
  110. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 私は高良さんに旅券をお出しになつ政府が、そういう理由があるのならば、初めから高良さんを加えた方が、引揚者の交渉はうまく行くであろうということは、これは常識でわかつてつた従つて、中途でそうしたお考えをお持ちになつたのは、これは外務省としては非常に先の見通しがきかなかつたということになるかと思います。われわれの常識で考えてみても、初めから高良さんがおいでになつた方がうまく行くであろう、李徳全女史との関係から見ても、うまく行くであろうということがわかり切つてつたにもかかわらず、初め非常に強硬であつた外務省の態度というものは、過般の会議に出席された高良さんの反政府的な態度に対して多分に感情的になつておられたものが煙つてつて、こうした高良旅券の失敗になつたものと思つております。今は故人になられました鳥居龍蔵博士が帰つておいでになりまして、この海外胞引揚促進委員会参考人としてお出ましになりましたときに、日本政府のような行き方でやつてつたならば、おそらく同胞は帰れまいというところの御忠告のあつたことは、まだ記憶に新たなところでございます。このたびの問題といい、鳥居さんのお言葉といい、また日本政府の外交施策といい、あれやこれやを思い合せますときに、私は、日本政府を相手にせずといつた結果が生れて来たのも、むべなるかなと思うのでございまして、私は、アメリカ一辺倒であるところの現吉田内閣の外交政策が引揚げを阻害しておるというところの自己批判なり御反省を願つて、愼重な今後の具体的な促進の手を政府みずからがお打ちになる責任があると思いますので、わが党の立場といたしまして、これは十分主張しておきたいと存ずるのでございます。  さらに、今回衆議院議長から、国民代表が迎えに行くべきではないかというので、国会からも電報をお打ちになりましたけれども、これに対して正式の返事もなかつたという点につきましても、私たちは、確かに今度の引揚げ問題についてはいろいろな点において危惧の念を持ち、またエチケツトとしても非常に欠けた点があると思つておりましたやさき、ただいま中山委員が御指摘になりました通り、もうすでにあちらに行かれまして一箇月半になりますのに、何ら具体的な交渉経過がこの母国にもたらされないということは、非常に遺憾なことでございます。そうでありますのに、いたずらに日を重ねて、外務省自体が何らの積極的な交渉をなさらず、具体的な手もお打ちにならないで、ただ先まわりをしては、日本政府はどうせきらわれておるのであるから、ろくでもないことをするよりは、じつとしておつた方がましだろうというような考えで、先ほどの御答弁のようにじつとしていられては、私は、留守家族の身になつてみれば、たまらないと思うのでございます。派遣したところの代表は、政府の代理として派遣したのでございますから、政府がこちらから、代表を通じてなり、いろいろな手でもつて、交渉方が一日も早く開始され、国民にいらぬ解釈を与えたり誤解を招いたりするようなことのないように、せつかく向うの好意で帰してもらうところの三万人の引揚げが、円満に話が進められて、早く帰れるようにしてもらつた方が、同じ帰してもらうにしても、あとの始末もいいのでございますから、こういう点につきまして、もつともつと具体的にやらなければならないと思うのでございますが、私は、傍観していらつしやる外務省を非常に残念に思う。このことにつきましては、私たちは、政務次官や局長でなしに、外務大臣の出席を求めて、責任ある答弁を聞きたいと存じておりますが、はなはだ残念ながら、きようも外務大臣はお見えになりません。私は何だか、高良旅券の問題をいろいろと各委員がつつつくの恐れて、わざと外務大臣は席をはずしていらつしやるような感じがいたしますが、あるいはこれは端摩臆測かもしれませんけれども、次会にはひとつこの参員会に外務大臣が出席されて、堂々と一国の大臣としての答弁をなさるように要望いたしまして、なお残つておる外務大臣への質問を保留いたします。
  111. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 臼井莊一君。
  112. 臼井莊一

    ○臼井委員 外務省の方に一点だけお伺いしたいのですが、ただいまお伺いしますと、交渉が非常に停頓しておるような状況で、その原因については、いろいろ情報というものが今日の状態ではむずかしい。これはお察しがつくのでありますが、うわさによると、アメリカが台湾を中立化していた、それをやめる、こういうことが原因して何か中共側において引揚げについての交渉が停頓しているというようなことも聞いたのですが、それについて何か情報か御見解がございましたら、この際お伺いしたいと思います。
  113. 中村幸八

    中村(幸)政府委員 民間代表の交渉が停頓いたしております。その情報等については、新聞等ではいろいろ申しておるようでありますが、正式な情報というものは入つておりません。われわれといたしましては、中共側希望するところの代表希望する通りに派遭いたしております。しかも、アメリカのアイゼンハウアーの政策がいかなる政策であるにしても、それは日本の政策ではないのでございます。従つて、このアイゼンハウアーの台湾中立化解除という問題をとらえて、中共引揚げを遅らせるとか、あるいはとりやめるとかいうことは、はなはだその意を解せないものと思います。おそらく、そういうことは絶対にあるまいと信じておるわけでございます。しかしながら、できる限りの手を打ちまして、一日も早く引揚げのできまするように努力いたしたいと存じております。
  114. 臼井莊一

    ○臼井委員 政府としてのお考えはわかつたのでありますが、何かそういう新聞紙等にうわさされておりまする事柄が、やはり政府としての情報に入つているのかどうかという点をお伺いしておきたいと思います。
  115. 土屋隼

    ○土屋政府委員 正式の報告というものは、先ほどから申し上げました通り、ほとんどございませんので、あの声明がどう影響したかということはわからないのでございますが、私どもが本件について唯一のそれらしい情報と申しましようか、報道として見ましたのは、あのアメリカの政策が発表せられて間もなく、北京に自由放送という放送がありますが、この放送が、アイゼンハウアーがああいう政策をとることははなはだけしからぬ、これによつて引揚げの問題なんかも、船舶その他が影響されようという、いわば自由放送の見解らしいものを述べたということを聞いておりますが、それ以上のニユースは全然ございません。  それから、ただいままで盛んに引揚げの交渉の停頓についての御注意がございましたが、ある程度停頓しているということは事実ですが、ただ、これだけは御記憶をいただきたいと存じます。日本から代表が出ましたのが一月の二十六日でございます。新聞報道によりますと、島津さん以下代表北京に着いたのが一月の三十一日でございます。従つて北京に着いてから現在までにまだ十日たつただけでございます。私どもは、予測といたしまして、日本を立つて北京まで一週間かかる、帰りに一週間かかる、向うの交渉に二週間かかる、合せて二十八日ということを大体予測いたしたわけでございます。従つて、この最初のわれわれの予測いたしておりましたところから見て、四、五日ずれているというのが現在の実際なんでございます。交渉は、相手方の問題もありますし、ずれることもよくあります。もちろん、今まで停頓したというだけで、本件が何か暗礁に乗り上げたということを断定するのは早いと思いますし、もともとこの引揚げの問題は、日本人の引揚げと船舶の問題について協議をするから、代表を派遣して来いという中共側の話に始まつているのであります。私どもは、この中共の最初の申出を、いまだに信じているわけであります。
  116. 臼井莊一

    ○臼井委員 もう一点お伺いしますが、そうすると、向うの交渉さえととのえば、万一台湾の中立化が解除されても、船舶の航行等においてはもとよりさしつかえないと私たちも信じておるのですが、外務省でもやはりそういう御見解でございましようか。
  117. 中村幸八

    中村(幸)政府委員 かりに経済封鎖というような問題が起りましても、関係国との話合いによりまして、十分安全に引揚げて来ることができると思います。
  118. 臼井莊一

    ○臼井委員 ありがとうございまし以上で終ります。
  119. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 ちよつと、援護庁長官に私質問を落しましたので、お伺いしますが、あなたのこの間の御説明では、帰つて来る方々に六百グラムの主食を与えて、そうして一日の費用が九十円十七銭でございますか、そうおつしやいました。九十円十七銭で、何だか非常にカロリーがよくて、ごちそうを食べさせるような宣伝をなさつたのですが、御存じの通り、国立療養所や国立病院の今日の患者の食費が八十三円であります。前は八十二円七十銭であつたのが、やつと三十銭値上げになつて政府当局は八十三円に値上げした。その八十三円の国立病院の入院患者の食事というものがどんなものであるかということは、元社会局長であつた木村さんもよく御存じだと思います。当時から見れば物価は上昇しておりますし、一日九十円十七銭の食費というものは、何年ぶりかに帰つて来て母国の土を踏む人たちにとつて、非常にそれは、おつしやるほどのカロリーゆたかなもので、歓迎の意を持つた、喜んでいただけるものかどうかということは、私は非常に疑問だと思う。八十三円の国立病院、療養所などの患者の食事と、わずか七円足らずしか違わない一日の食費の食事が、この方々に船の中から配給されるといいますか、分配されるというものは、見なくても、想像するだに余りがあるのでございまして、この点は、カロリーが非常に多いとおつしやいましたけれども、ねぎやら、おからやらまぜて、何だかわからないようなものにしてしまつたような、あの国立病院や療養所の食事のおぜんに近いものができるのではないかと思うのですが、この九十円十七銭の食事は、ひとつモデルでもおつくりになつて援護庁長官みずから食べてごらんになつたかどうか。これは、安心していらつしやるようですけれども、われわれの生活費の費用から考え出しましても、九十円十七銭で食べている人たもというものは、ほんとうにいるかどうか、私は疑問を持つのですが、どうですか。もう少し私は張り込んでもらいたいと思うから、こういうことを聞いておるのです。
  120. 木村忠二郎

    木村(忠)政府委員 非常に御好意はありがたく拝聴いたしました。大体三千カロリーは確保いたしております。ねぎやおからをまぜたくらいでは三千カロリーにはならないのでありまして、大体三千カロリーは確保するということにいたしております。価格が九十円十七銭で、病人用の手間のかかるものよりも若干高いということは、普通の人の食事としましてはいいと言わざるを得ないのであります。ただ、この金額だけでもつて御判断になりますと、はなはだ貧弱のように見えるのでありますが、舞鶴におきましては、現在食料品を相当持つております。従いましてこの金額よりははるかにいいものができることは事実であります。
  121. 佐藤洋之助

    佐藤委員長 本日は質疑をこの程度にとどめまして、これにて散会いたします。次会は公報をもつてお知らせいたします。     午後五時一分散会