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委員外議員(上條愛一君) 簡単に申上げたいのであります。これは岡山県の備前興業の茶屋町工場に起りました
事件でありまするが、これは一月二十八日にすでに岡山地方検察庁の鈴木検事の名前を以て岡山地方裁判所に告訴が提出されておる
事件でありまして、男が八名、暴力行為等処罰に関する
法律違反で公訴せられた。それから婦人七名が二千円以上五千円以下の簡裁略式
命令を以て罰金刑に処せられた
事件であります。
事件の
内容はお手許に差上げてある参考資料に書いてありまするが、概略かいつまんで申上げますれば、ここは十二月の七日からストライキに入りまして、本年の一月一日、約二十四日間のストライキが行われた工場であります。このストライキ最中に十二月の二十一日でありまするが、
従業員全体約百数十名が、争議が片付きませんので、解決の促進の意味において相賀という取締役、織物部長の宅に陳情に参りまして、奥さんにお目にかか
つて、御主人に早くこの争議を解決するようなふうにお取計らいを願いたいという意味で部長宅を訪問いたしたのであります。ところが父親が出まして、妻は電気器具を買求めに倉敷に行
つたから留守であるということで面会を拒絶いたしたわけであります。ところが事実は奥さんを見たものもあり、それから電気工夫が当時三名入
つておりまして、電気工夫に聞いたところが、奥さんはおるという話でありました。それで電気工夫が中へ入りますときに、枝折戸が空いておりましたので、枝折戸から中庭へ入
つて奥さんの母親に面会を求めたのであります。母親が出て参りまして、やはり留守を使いました。そこで多少のいさかいがあ
つたようであります。ところが
最後の
交渉の結果、代表者だけ奥さんにお目にかからせるというので、中庭に入
つた婦人
組合員を皆出しまして、男の代表者数名が中庭から縁側へ参りまして奥さんにお目にかか
つたのであります。お目にかかるときは火鉢も出して頂き蒲団も敷いて面会いたしましてお願いをいたしましたところ、他の重役の意向もあるのであるから、自分の主人だけでこの問題の解決は困難だと思うけれ
ども、その点はよく主人に伝えようということで、引揚げて参
つておるのであります。ところがこの公訴
事件を見ますというと、
一つはつまり母親に対しまして生命、自由、財産の脅威を受けるような脅迫をいたしたという暴力行為の第一條によるところの事実、それからいま
一つは家宅侵入の、住居侵入の刑法第百三十條による処罰、この二つであります。ビラは成るほど私も実地に部長宅を訪れまして見ましたけれ
ども、塀の廻りに多くのビラを貼
つた事実はあります。それから中庭へ入りまして便所の附近にビラを貼
つた事実もあります。併し何びともその家には上
つておらないのであります。事実はこれだけの事実であります。これだけの事実に対しまして即刻倉敷警察署と検察庁が十日間に亘りまして全部の
従業員を喚んで調べたのであります。そして婦人
組合員に対する調べ方な
ども手錠をがちやつかせて調べております。又或る取締りの警察官のごときは、婦人に対する最大の侮辱を加えた
処置をと
つておるのであります。私の検事総長にお尋ねいたしたい問題は、いずれは取調べの根拠があ
つて取調べておらるると思う。かように思いまするが、このような
事件に対してこのような大掛りの取調べ方をいたし、且つこれらの人々に対して、殊に女子に対しまして、このような問題に対して簡裁略式
命令を以て七名に対して罰金刑に処するというような、このような
処置というものは、これは
一つは国家権力の濫用の傾きがあるのではないか。殊に
労働運動に対する不当な弾圧のごとき印象を強めるのではないかと考えらるるのであります。
いま
一つの
事件は、これは同じく備前興業の乃木工場に起りました
事件でありますが、
事件を簡単に申上げまするならば、争議最中におきまして裏切り的の行動をとりました婦人の組長級の人が七名、争議が終りましてから後におきましてもこの態度が改められなか
つたのでありまするので、争議が終りましてから一月十二日に、寄宿舎の三つの部屋にこの七名のかたがたを訪れまして、そうして態度を改めて仲好く一緒にや
つてもらいたいという
話合いをいたしたのであります。そのときに七人のうちの一人が押入れに隠れておりまして、陳情の人々がその部屋を引下
つたあとで、廊下に出られませんので、窓を明けて去
つたのであります。それを
新聞紙上、ラジオ等においてでかでかに報道いたしまして、寄宿舎のつるし上げ
事件として報道いたしました。殊に婦人の
組合員の五名の名前を挙げてラジオ及び
新聞でニユースにおいて宣伝せられたのであります。ところがその
事件に対しまして直ちに検事局の検事五名その他を合せまして約十五名の人々が
会社に出勤いたしまして、約十数時間に亘
つて取調べを行な
つております。これは幸いにいたしまして不起訴に
なつたようでありまするが、その
新聞紙上に名前が出ました西部という女の子のごときは親の指示によりまして
会社をやめております。
事件はそれだけでありまして、私も寄宿舎の部屋を廻
つて見ましたが、窓から出たというのは普通の高さの窓でありまして、それは脅迫によ
つて何も窓から出たのではない。暴力を振
つたわけでもない。許可を得まして部屋に入
つて、そうして素直にその
話合いをいたしたに過ぎないのであります。このような
事件に対しまして、検事局がこのような大げさな取調べをするということは、私は繊維産業においては婦人
組合員が約八割を占めておるのであります。それらはいずれも結婚前の年少者であるのであります。こういう中小企業の争議に対しまして検察庁がこのような大かがりの取調べを行うということは、私は
労働階級に対して明らかに国家権力に対する信頼を失うことになるのではないかと考えるのであります。これが
三越のような、或いは京都市電のような大きな争議になりまするならば、このような問題が起りますならば社会的な問題になるのであります。ところが岡山の一角に起りましたこのような微々たる中小工場における彈圧に対しましては、これは社会的には何らの力を有しないのであります。併しながら私
どもの考える点は、このような御
処置をなさるということになりまするならば、これは
労働階級が国家権力に対して信頼を失うのみならず、このような不当の彈圧をすれば今後は国家権力と対抗して行かなければならないという意識を強めて、これは国法の今後の実施の上に重大なる影響を及ぼすのではないかと考えるのであります。
いま
一つ御配慮を願いたいと考えまする点は、このような婦人
労働者、年少の婦人
労働者の中小工場でありまして、
労働組合号運動はこれはなおはしりであります。糸ぐちであります。多数の中小企業におきましては
労働組合は存在いたしておりません。これは
一つには中小企業においては封建的色彩が強い経営者が容易に
労働組合を作らせまいとあらゆる
努力を払
つております。
従つて民主的
労働組合をこの中小企業において組織することは困難である実情であります。このような芽生えの
労働組合運動に対しまして、このような
処置がとられるということになりまするならば、自覚したる人々は先ほど申上げましたごとく国家権力に対する不信用を強めるということになります。それから自覚せざるところの婦人
労働者というものは萎縮いたしまして、正当なる
労働組合運動を再び行おうという意識を消滅せしめて参ると考えるのでありまして、私は現に備前興業の場合におきましても、あらゆる告発されました人々と面会をいたしまして、殊に罰金刑に処せられました七人の婦人のかたがたにお目にかかりました。ところがこれらの人の一番心配いたしますることは、このような罪科を負わされるということになれば、結婚の場合に非常に支障を来たすのではないか、又父兄の諸君が非常に恐れをなしておるのであります。こういうことになりまするならば、折角中小企業において民主的な
労働組合を作
つて、基準法の第二條に規定されておりまするごとく、労使は対等の
地位において
労働條件の取きめをなすべしとこうきめられております。
労働組合を作るということすら今後は困難にますますなると考えるのであります。併しこのような民主的な
労働組合運動が中小企業において困難ということになりまするならば、その結果はどうなりましようか。このような悪條件で、基準法すら実施されておらないようなこの中小企業の低劣なる
労働條件のままに放置して、而も国法に許されたる
労働組合すら組織しようという熱意を
従業員が失うということになりまするならば、これは要するに左右のフアツシヨ的勢力を擡頭せしめて中小企業を共産主義の温存の場所とせしめるという危険がないとは保しがたいと私
どもは考えるのであります。
従つて検察庁は、このような
法律に触れたという
理由は立つであろうと思いまするけれ
ども、その法を
適用する場合におきましては、それらの職場の実情、それらの
労働者の生活状態、又
労働争議の実情等を十分に勘案せられまして、これは御
処置を願うということが当然ではないかと私は考えるのであります。この問題の直後に私は岡山の検事正をお訪ねいたしまして、この問題のことについて懇談をいたしました。そのときに検事正の申さるるには、あのように部長宅に、自分の家にでもビラを貼られるというと私
どもも気持が好くなくて憤慨する、こういうお言葉でありましたので、私は申上げた。私といえ
どもそれは自分の塀にビラを貼られて気持がいいとは考えません。併し気持が悪いということ、
個人が憤慨するということと、このような問題に対して国家権力がこのような発動をして取調べをしなければならないかどうかということについてはおのずから別個の問題ではないかと我々は考えておる。で私の検察庁にお尋ねいたしたい問題は、今回岡山検察庁のとられました、この備前興業茶屋町工場並に乃木工場に対してとられましたこのような御
処置が妥当であるとお考えになるかどうかという一点。それからいま
一つは妥当でないとするならば、このような取扱が今後起らないようなふうな御配慮が願えるかどうかというこの二点についてのお尋ねをいたしたいと考えるのであります。