○
政府委員(
亀井光君)
只今御上程になりました
労働基準法の一部を
改正する
法律案につきましては、
労働大臣の
提案理由説明の中にございましたように、
全文中央労働基準審議会において
答申のなされました
事項をそのまま
法文に直したのでございます。十六條に亘る
改正でごいます。
先ず第一は、十八條の
貯蓄金の
管理に関しまする
規定の
改正でございます。
現行法におきましては、
使用者が
労働者の
貯蓄金を
管理しようとしまする場合には
行政管庁の
認可を受けなければならないことにな
つておるのでございます。併しながらこの問題につきましては、
手続の
簡素化を図るという
趣旨で、
労働者と
使用者との間に
協定が整いまして、お互いに納得が行くならば、これを
届出に直すほうが
手続の
簡素化になるのではないかという
趣旨の
改正が主たるものでございます。併しながら
認可制を
届出制に直すことによりまして生ずると思われまするいろいろな
弊害につきましては、これを除去いたす必要があるわけでございます。従いまして新たに三項以下の
規定を設けまして、それらの措置が講じられておるのでございまして、三項では、
使用者が
労働者の
貯蓄金を
管理しようとしまする場合には、どういう
方法でこの
貯蓄金を
管理するかという
管理の
方法を定めまして、これを
労働者に周知させなければならない
義務を課しておるのであります。
又第四項におきましては、
貯蓄金の
管理には二つの種類がございまして、一つはその
労働者から委託を受けて
管理をしまする金を、
使用者みずからがこれを
管理する場合、或いは
労働者或いは
労働者が
預金をしました
通帳を
使用者が
管理する場合と二つあろうと思います。この場合の
現金そのものを
使用者が
管理する場合におきましては、その
利子につきましては
一定の制約をつけますることが
労働者保護の上において必要でございまするので、その場合においては
一般の
金融機関の
預金利率を考慮いたしまして、
労働大臣が
一定の
利率を定めまして、その
利率を下る
利子を
使用者がつけましても、それは
法律上の違法でありまして、
労働大臣の定めました
利率においてつける
義務がそこに発生して来るという
規定をいたしております。
貯金通帳或いは
預金通帳の場合は、それぞれ
金融機関におきます
利子がそのまま
労働者の手に渡ることになるのであります。
次は
労働者が
返還を要求いたしました場合におきましても、直ちにこれを
返還する
義務を
使用者に課しております。その場合にその要求がありましても
返還をしないという場合につきましては、その
貯蓄金管理を中止させるという
中止命令の
制限をそこにつけますと共に、又その
中止命令に違反した場合におきましては、
使用者に対しまして罰則を適用するというふうに、いろいろ
認可制を
届出制に変えましたことによ
つて生ずると思われますいろいろな
弊害につきましては、それぞれそれを排除しまする
規定を設けておるのでございます。
次は第二十四條の
賃金の
支払に関する
事項でございます。
現行法におきましては、
現物給与或いは
賃金の一部
控除につきましては、
法令の根拠のある場合又は、
労働協約において定められました場合に限定されておるのであります。
現物給与につきましては、
労働者の欲しないものを
使用者が押付けたり、或いは
賃金の低下をそこに来たさせるというふうな慮れがございまするので、この点につきましては何ら
改正をいたす必要はないと思いまするが、
賃金の一部
控除につきましては、
労働協約のない場合、例えば
労働組合の結成されていないような場合、或いは
組合が結成されておりましても、
労働協約の締結が見られなかつたというような場合につきましても、
購買組合からいろいろな品物を買いまして、そうして
賃金の
支払に当
つてそれを差引くというようなこと、或いは
共済組合の掛金を差引くというようなことは、現案にそういう工場、
事業場におきましても必要がございますので、
賃金の一部
控除につきましては、
労働協約のある場合のほか、
労働者の過半数で
使用者と
協定した場合におきましてもこれを認めようという
趣旨の
改正であります。
次の第三十三條は、
非常災害の場合の休日
労働を認めようとするものでございます。
現行法におきましては、
非常災害その他避けることのできない事由によりまして、
臨時の必要がある場合には時間外の
労働労働時間の
延長は認めておりまするが、休日
労働はこれは認めていなか
つたのでございます。併しながら
国鉄の場合におきましても
国有鉄道法の第三十三條におきまして、この休日
労働が認められておりまするし、又
国際労働條約におきましても、これら
非常災害の場合におきましての休日
労働が認められておるわけであります。従いまして従来
行政解釈といたしましてこの点を認めて来たわけでありますが、今回これを
法文の上におきまして明確にいたすための
改正をいたしたのでございます。
次に、第三十九條の
年次有給休暇に関しまする
規定でございます。この
年次有給休暇に
支払われまする
賃金につきましては、
現行法は
平均賃金によ
つて支払うことを要求しておるのであります。ところが御
承知のように
平均賃金の
算定は、非常に
手続の上で煩瑣なものでございます。で、
有給休暇のように、
損害賠償というふうな特殊の
性格を持たないものでございまして、いわば
労働者に対する慰労的な
性質のものでございますから、それほど補償の場合のように厳格に計算されなくてもいいのではないかという
趣旨で、これも
手続或いは
事務の
簡素化の
趣旨で
改正がなされたのでございまして、
平均賃金によるか、或いは
所定労働時間
労働した場合に
支払われる通常の
賃金によるか、これは
就業規則において定めました場合には、どちらによ
つてもよろしいという
改正でございます。更に又一番簡単な
方法は、
健康保険の
標準報酬日額を
算定の基礎にいたしますのが最も簡単でございまするが、この
標準報酬日額は、実際の
賃金に比べまして低くなる場合もあるでございます。そこでそういう慮れのあるものにつきましては、やはり
労使の
協定のある場合にこれを限定するのが適当であるという
趣旨で、
労使の
協定のある場合におきましては
標準報酬日額によ
つてもよろしいという
趣旨の
改正でございます。これも
手続の
簡素化のための
改正でございます。
次は
仮設物の
届出を廃止しようという
趣旨の第五十四條の
改正でございますが、
現行法におきましては、常時十人以上の
労働者を就業させまする
事業、或いは
命令で定めます危険な
事業又は衛生上有害な
事業の
建設物その他につきましては、
工事着手の十四日前までに
行政官庁に
届出でなければならんことにな
つている。併しながらこれらの建物の中でも、
仮設物で、例えば土建の有期的な
事業の仮の便所だとか、或いは危険なものを入れない仮の倉庫というふうなもの、或いは仮の
守衛所というふうなものにつきまして、一々青写真を附けまして
届出でなければならないということは、それほど危険有害の慮れもございませんので、
手続の
簡素化の
趣旨から、こういう特殊のものに限りましては
届出を要しないということに、
改正をしておるわけであります。
次は第五十六條の
改正でございます。これは
最低年齢に関しまする
改正でございます。
現行法におきましては、満十五歳に満たない
児童は
労働者として使用してはならないという
原則に対しまして、
但書で、満十四歳以上の
児童でありましても、
義務教育の課程を終了した者につきましては、これを使用することができるという
但書の
規定がございます。ところが六三制を施行されました現在におきましては、
義務教育を終えたもので満十五歳未満のものはいないわけでございます。従いましてこの
條文は従来空文にな
つていたのでございますが、今回の
改正におきまして、この整理をいたす
趣旨で削除をいたすことと相成
つたのでございます。
次は六十條の
改正でございますが、これも
只今の五十六條の
改正に関連しまして、形式的に字句を削除いたしたのでありまして、実質的な意味はございません。
次は第六十一條でございます。これは
文子の
労働時間の
延長に関しまする
改正でございますが、
現行法におきましては、満十八歳以上の
文子につきまして時間の
延長を認められまするのは、一日について二時間、一週間に六時間、一年について百五十時間という
制限がつけられておるわけでございます。併しながら仕事の
性質上、一週六時間即ち一週間に三日、毎日二時間ずつ
延長し得る
現行法に対しまして、
決算事務等の場合におきましては、三日間では処理が非常に困難でございます。それかとい
つて、そのために常時
職員を傭
つておきますることも、これ又
経済上許しがたいところでございまするし、又そういう場合に、
臨時の
職員を傭い入れましても、
事務に慣れておりませんために、能率も上らないというふうなことから、この点に関しまする
改正を要望されていたところで、ございまして、
国際條約におきましても、
文子の時間
外—労働につきましては、
非常災害の場合或いは損敗しやすい物を急速に処理しなければならないような場合、或いは棚卸、
決算、
賃金の
支払というような場合、又は異常の
業務繁忙の場合等、広くその例外を認めておるわけでございますので、今回の
改正におきましても、極く限られました
決算期だけにおいて、一週六時間という
制限を二週について十二時間というふうに
改正をいたすことになるのでございまするが、従いまして六日間、従来一週について三日しか連続時間外勤務が許されなか
つたのでございまするが、今回の
改正によりますると、これが六日間は許される。六日間の時間
延長でございますると、大体従来の実績から見まして、各会社の
決算事務もこれで処理できるものではないかという
趣旨でございます。
次の六十二條は、
文子の深夜業の
制限に対しまする例外を定めたのでございまして、例えばエアー・ガールとか、或いは
文子の寄宿舎の寮或いは普通の寄宿舎の賄いというふうなものは、
現行法で定められておりまする午後十時過ぎては
労働さしてはならないという、この
制限につきまして、現実の問題で非常に困
つておる問題があるわけでございます。特にエアー・ガールにつきましては、諸外国におきましても、現実的にこの問題は行なわれておるのでございます。又
国際條約の観点から見ましても、非工業的企業については
文子の深夜業については
制限はございませんし、又工業的企業につきましては
制限はございまするが、この航空業につきましては、その適用を除外しております。そういう
関係におきまして、極く限られまとた場合において、
実情に即するようにこの問題を処理したいという
趣旨でございます。従いましてこれが濫用されることを防ぎまするために、その業種の指定につきましては、中央
労働基準審議会の議を経てというふうにいたし、而もその
業務が
文子の健康及び
福祉に有害でないという
業務に限定をいたすことになるわけでございます。この中央
労働基準審議会は、御
承知のように
労使、
公益、三者構成でございまして、而も議を経てというように議決を経なければこれをきめることができないというふうな縛り方をいたしまして
労働者の
意見も十分にここに反映されまして、これが無駄にと申しまするか、有害に拡張されることを防いでおる次第でございます。
次は
技能者養成でございまして、現在
現行法におきましては、十八歳未満の男子は坑内におきまして
労働いたしますることは禁止をいたされておるわけでございます。併しながら十八歳未満の男子につきましても、十大蔵以上の男子であれば、
技能養成という特別の目的のためであれば、これを坑内において
労働することを認めようという
趣旨でございまするが、これにつきましては、なぜこういう
改正が必要かと申しますると、一つには、従来の実績を見ますると、
技能養成の過程を経ました、戦争中でございまするのでそれほどの長
期間或いは精密な訓練ではございませんが、一応ともかくも訓練を経ました
労働者は、そのほかの
労働者に比べまして、
災害も非常に少く、能率も非常に高いというふうな案績が示されております。又
賃金も従いまして高いというふうな実績が出ておるのでございます。又現在
我が国におきまする
労働衛生
関係における一番大きな研究
機関でございます
労働医学心理学研究所の調査によりましても、いろいろの制約をこれに加えまするならば、それほどの身体に影響はないという研究の結論もあるわけでございます。我々としましては、この問題について、例えば珪肺の虞れのある場所における就業を禁止する、或いは坑内の
労働時間につきましてできるだけこれを制約して行く、或いは高温高湿の場所における就業につきまして
制限をする、或いは発破その他危険の場合における就業を禁止する、以上の條件をつけましてこれを行いまするならば、現在日本で要望されております坑内におきまする技術の向上、延いてはそれが生産におきまするいい影響をもたらすのではなかろうかという
趣旨でこの
改正案が提案されたわけであります。
国際條約の
関係を見ますと、従来
国際條約では、満十五歳以上の男子でありますれば、坑内
労働が許されていたのでございます。併し昨年の炭鉱
委員会におきまして、これの條件を引上げる決議がなされまして、本年の総会におきましてそれが提案されるごとと思われるのでございまするが、その
改正の決議によりますると、十六歳以上の男、十八歳未満の男子であれば、
一定の條件において坑内における
技能養成は認められておりまするし、更に又
技能養成のみならず、
一定の條件が与えられまするならば、坑内におきまする軽作業につきましても、
国際條約は認めようといたしておるわけであります。そういう
趣旨から申しましても、この程度の
改正でありまするならば、
国際的水準を下廻るというような慮れはないのではなかろうか。ただ問題は、どのようにしてこの條件をつけて行くかという問題でございまして、これにつきましては
技能養成審議会におきまして、労、使、公、三者の
意見を十分尊重いたしまして、厳格な基準を設定をいたしたい、かように存ずる次第であります。
次は七十一條の
改正でございます。これは
技能養成は現在は
認可制でございまするが、これも先ほどの
手続の
簡素化の
趣旨によりまして危険、有害でないものにつきましては、これを
届出制に改める、但し
命令で定める危険又は衛生上有害の虞れのあるものにつきましては引続きこれは
認可制を以て処理して行こう、更に又これを制約する意味におきまして、七十三條では
技能養成の中止を金ずるというふうな措置を講じ、或いは又
認可の取消というふうな処置によりまして、それぞれ発生する慮れのある有害な措置につきまして、これを排除する
改正をいたしておるのでございます。
次は第百五條の二、これは先ほど
労働大臣の提案の理由の中にもございましたように、従来
労働基準行政は監督を中心といたしました消極的な行政が主体でございましたが、併しそのうちにも積極面の行政が当然あるのでございまして、現実の面におきましても、やはりここに掲げてございますような、この
法律の目的を達成するためには
労働者及び
使用者に対して資料の提供その他必要なる
援助をする、いわゆるうサービスにつきましては、従来も行
つて参
つておるのであります。それに対しまする法的の根拠を与える
趣旨におきましてこの新しい
條文を附け加えた次第でございます。
次に第百十四條、第百十九條、第百二十條は、それぞれ形式的な、或いは罰則の一部の
改正等でございまして、特別に御
説明を要しないと存じます。以上でございます。