○
公述人(大内力君) 私東京大学の大内でございます。私は主として農業問題の研究をいたしておりまするので、今日も主として農業問題に関連した意味において本二十七
年度の
予算についていささか考えましたことを申上げて御参考に資したいと思います。
〔
委員長退席、理事
木村禧八郎君
委員長席に着く〕
で私の申上げたいことが数点ございますが、先ず第一に申上げておかなければなりませんことは、この二十七
年度の
予算編成の前提にな
つておる諸條件というものがどういうふうに見込まれているかという点であります。この
予算編成の前提要件になる二十七
年度の
経済的諸條件に対する予想という点において、この
予算にはいささかの疑問があるのではないかというふうに考えられますので、先ずこの点から申上げてみたいと思います。これも数えればいろいろたくさんある思いますが、ここでは次の三つの点についてだけ申上げておきたいのであります。第一にはこれは昨日の一橋大学の都留先生のここでの証言にも指摘されていたようでありまするが、
物価水準をどの
程度に見込むかという点については、この
予算にはかなりの疑問があるのではないかと考えられるのであります。で、どの
程度の
物価水準を前提としてこの
予算が
編成されておるかということについて私は細かいことは存じませんが、
経済安定本部が一応二十七
年度の推定として発表しておりますところによりますならば、
物価水準としては二十七
年度にCPI、消費者
物価指数が約四%上るわけです、それから卸売
物価指数が約二%上り、それから米価が約三%上る、こう見込まれておるようであります。恐らくこの
予算もこの安定本部の見通しを一応前提としているのではないかと考えるのでありますが、ところがこの
物価水準の見通しというものは余りにも低きに過ぎやしないかという気がするのであります。例えば過去一年間の
物価の変動というものを振り返
つて見ますと、
昭和二十五年の十一月と
昭和二十六年の十一月を比較いたしますと、CPIが二三%上る、卸売
物価指数が二八%上
つております。で、この一年間にこのように
物価がかなり急激に上つたということは、申すまでもなく朝鮮事変の
影響を受けたものでありますので、今後もこのような
物価騰貴の趨勢が続くというふうに直ちに考えることはできないかも知れませんが、併し
他方におきましては、今後予定されております例えば賠償の支拂とか、或いは
防衛費の放出というような、具体的に申しまするならば非
生産的な支拂が
増加するということを考えましても、それから又この点は後にもう一度申上げますが、
予算それ自体の中に
インフレを促進するような條件が
相当含まれておる、こういうふうに考えられるという点から考えましても、かなり今後
インフレが進行して
物価が上ることを我々は予想できるのではないかと考えるのであります。いずれにせよ、そういう意味でCPIが四%、卸売
物価指数が二%しか上らない、こういう安定本部の見積りというものは、私は
物価の動向を余りにも甘く見過ぎてはいないか、こういう感じがするのであります。そこで若しこの
安本の見積り以上に
物価が騰貴するということになりまするならば、二十七
年度の
予算というものを我々が考えますときも当然そういう
物価水準の変動というものを
考慮に入れなければならん、そういう意味で單に名目額だけでこの二十六
年度と二十七
年度を比較するということはそれは意味がない、そういう
物価水準がどの
程度であるかということをおよそ見込んで
予算の問題を考えなければならないのじやないか、こういうことを先ず考えております。
それから次に
国民所得についてでございますが、この推定も私はかなり疑問を持
つておりますが、この二十七
年度予算の説明によりますると、二十七
年度の
国民所得として五兆二百七十億というものが見積られております。この五兆二百七十億という
国民所得は二十六
年度に比べますと、八%殖えるという計算になります。ところで先ほど申しましたように
安本の一応の前提では、
物価水準はCPIが四%、卸売
物価指数が二%でありますから、その中間をとりまして約三%ぐらい上がる、こういうことが見込まれているわけでございますから、そういたしますと、この五兆二百七十億円の
国民所得というものはこれを二十六年の
物価水準に直しまするならば四兆八千八百億円、こういうことになります。
従つて二十六
年度の
国民所得に対して二十七
年度は実質的に五%の
増加が見込まれているから、名目的には八%の
増加でありますが、そのうちの三%だけは
物価水準の騰貴でありまして、五%は実質的に
増加する、こういう見込みが立てられている、こういうことにな
つております。ところが実質的には
国民所得が五彩
増加するということは明らかに過大評価であります。二十五
年度から二十六
年度の
国民所有は名目的には二〇%以上の
増加を示しておりますが、併し
物価水準を勘案いたしまして実質的な
国民所得の
増加というものを推定いたしますと、およそ三%弱しか殖えていないと考えられるのであります。つまり朝鮮事変でかなり景気がいいとされておりましたこの一年間でさえ
国民所得の実質的
増加はやはり三%であります。又、戰前の統計を
調べて見ますと、戰前におきましても、
日本では大体
国民所得の年
増加率というものは均して申しますと、二%乃至三%ということが言えると思うのであります。
従つて、そういう意味で五%の
国民所得の実質的な
増加というものを
予算の前提として見込んでいるその見込み方は、私はどうしても過大評価と言わざるを得ないと思います。その点から考えますと、この二十七
年度の
一般会計の
予算は
国民所得に対しまして一七%であります。それから二十六
年度の
一般会計の
予算も
国民所得に対してやはり一七%寺あります。
従つて二十七
年度も二十六
年度も
国民大衆の
財政の
負担というものから言えば同じである、こういうことがしばしば言われているわけでありますが、そのことは二重の意味において誤まりを冒しているのじやないかと考えられるのであります。と申しますのは、第一には二十六
年度の
一般会計の
予算が
国民所得の一七%である、こう申しましたときには、これはいうまでもなく最終
予算をと
つて申しているわけであります。ところが二十七年は申すまでもなく当初
予算の
数字であります。二十六
年度の当初
予算で見すすならば、二十六
年度の当初
予算と
国民所得との比率は一四%に過ぎない、
従つて当初
予算同志を比べますならば、本
年度はそれだけですでに三%の
増加が認められる、こういうことになるわけであります。
他方では先ほど申しましたように、
国民の実質所得が過大評価されておりましてこの過大評価された所得に対して一七%という
割合が出て来るわけでありますから、この過大評価の点を修正いたしますならば、
財政負担はもつと高率になる、こう考えられるわけであります。そして今後、後に申しますが、恐らくは追加
予算が組まれて
財政が更に膨脹するということは不可避じやないかと考えられますので、いずれにせよ、この
財政の規模というものは
国民経済に対してはかなり大きな比率を持
つている。二十六
年度よりはかなり
国民の
財政負担というものが増大する、こういう予想を立てることができると思うのであります。無論
国民経済に対する
財政規模がどのくらいでなければならないかということは、一概には申せないことでありますが、戰争前で申しますならば、およそ一四%くらいであ
つたのでありまして、それが
戰後かなり高くな
つておりまして、
昭和二十四、五年には大体二四、五%とな
つておりますが、昨
年度あたりはかなりこれが縮減せられて来た次第であります。ところが本
年度以降又この
国民所得に対する
財政の
割合というものが膨脹を始めるということは何と申しましても、
国民経済にと
つて相当大きな
負担であろうということを考えなければならんと思うのであります。
それから第三に申上げたいことは、この
予算の米価であります。
予算米価として考えられておりますのは、二十七
年度の九月におけるパリティ指数二五五と推定いたしまして、石当り裸
価格七千二百十四円というものを見込んでおります。このパリティ指数を二五五として七千二百十四円の米価を見込むということは、私は次の二つの意味において疑問を持つのであります。第一には先ほど申上げましたように、来
年度は
物価水準が
安本の見込みよりはもつと高くなるだろうという予想が立てられるのに対しまして、本年の二十七
年度の九月のパリティ指数を二五五と見込むということは余りにも低きに失しているということであります。二十六年の九月のパリテイ指数は二四八・四八でありますから、それに対して僅か三%高という米価を見込んでおるのに過ぎないわけであります。ところがすでに農業パリティ指数は二十六年の十二月におきまして二五八・四七というところまで
行つておりまして、すでに予定された二五五を突破しているのであります。この点から申しまして二五五というパリテイ指数の見積りは余りにも低きに失しているということであります。それから第二には、この七千二百十四円という米価は二十六年の七千三十円という米価を基準にいたしましてそれにパリティ指数の変動というものを乗じて算出したものだ、こう言われております。ところがこの
昭和二十二年以来
日本で行われて参りましたパリティによる米価の決定
方法というものが極めて不合理な
方法でございまして、これが学問的にい
つて何ら合理的な根処を持たないということはすでに学界の通説にな
つております。
従つて大体こういうパリテイ方式を踏襲いたしまして、計算されました二十六年の七千三十円という公定米価も、実は学問的な根拠のない不合理な米価であると言わざるを得ないのであります。それを更に基礎にしてパリテイ指数だけで米価を決定するということは、米価の決定
方法としては私は合理的な根拠を持たないものであると考えます。この点につきまして、現行のパリテイ計算
方法が如何に不合理であるかということにつきましては、御承知の
通り昨年米価審議会が
政府に申入れを
行つておりますが、その申入れを御覧下されば明確にその点は証明されているわけであります。米価審議会があの申入れをいたしますために専門
委員会を設けておりますが、その専門
委員会の中で、それぞれの専門の人が
相当長い間研究をしたのでありますが、現行のパリテイ方式が全合理であるという点においては全
委員の一致をみた点でございます。その点から申しまして現行の米価算定方式をそのまま続けて、それを以て来
年度の米価とする、こういう
政府の
予算の立て方につきまして、私は重大な疑問を持たずにはおられないのであります。
そういうわけで以上
物価水準の問題、
国民所得の問題及び米価の問題、この三つだけを特に申し上げたわけでありますが、この三つの点から考えましても、二十七
年度の
予算の算定の基礎というものが極めてあやふやな見通しの上に立てられているのではないかという気がするのであります。そういう前提の検討が十分に行われていないということから考えまして、たとえ
予算そのものとしては一応の辻棲が合つたといたしましても、恐らくこれを
実施いたしますならば、
現実と
予算との間の食い違いが非常に大きく現われまして、忽ちいろいろなところに破綻を来たしはしないかということを慣れるわけであります。そういう意味におきまして、私は国会におきまして、こういう
予算を立てる前提條件についての見通しが果して妥当であるかどうかということについて、十分な御検討が加えられんことを希望いたすわけであります。
予算につきましての前提條件については一応それだけとして、次に
一般会計の
歳出のほうを見て参りますと、この
一般会計の
歳出総額が
国民所得に対してすでに過大である。大き過ぎるということは先ほど申上げた
通りであります。ところがこの
総額である八千五百二十七億円と場いう
一般会計の
予算から、平和回復に伴う諸
経費というもの二千三十三億円を除きますと、いわゆる固有の意味における
内政費というものは六千四百九十四億円となります。二十六
年度の同じ意味における
内政費は六千三百六十一億円でありますから、それに比べますと幾らも殖えていないということがわかるのであります。先ほど申しましたように、
物価水準は来
年度かなり高くなると考えなければなりませんので、その
物価水準の変動ということを見込みますならば、この六千四百九十四億円の
内政費というものは恐らくは二十六
年度の
内政費よりもかなり実質的には貧弱なものになるのであろう、こういう予想を持つことができるのではないかと思います。ところでそれに対しまして、平和回復に伴う
経費というものを見て参りますと、この中で例えば賠償、それから外貨債の償還、対日援助の返済というようなものをひつくるめて、一括しております平和回復善後処理費というものが僅かに百十億円しか計上されていないという点にぶつかるのであります。で、この賠償や、外貨債の償還や、その他につきましては無論今後の外交交渉に待たなければならないのでありますが、すでに例えばフィリピンだけでも八億ドル賠償の安排いの要求が出ているというようなところから考えましても、百十億円しかこれに計上されていないということは余りにも少いのではないかというふうに考えられるのであります。
他方におきましては、先ほど申しましたように固有の意味における
内政費というものも、実質的には二十六年よりも
却つて減少している、こう考えざるを得ないわけであります。そういう点をいろいろ勘案いたしますと、二十七
年度の
財政がこの当初
予算だけで納まるかどうかということにつきましては、むしろ悲観的な見通しが強いのではないかと思うのであります。むしろ二十七
年度中にかなり大幅な追加
予算というものが組まれることが必要にな
つて来やしないか、こう考えられるのでございます。若しその予想が正しいといたしますならば、
財政の規模炉
国民経済に対して大き過ぎる、こういう問題は将来においていよいよ深刻になるだろう、こういう予想を持ち得ると思うのであります。
予算全体についてはそういう感じを持つわけでありますが、更にその
内容に立入
つて少し検討して見ますと、先ず第一に気が付きますことは、これも多くの人が指摘している点でございますが、
外国為替資金特別会計、食管
特別会計、貴金属
特別会計などへのいわゆる
インベントリー・フアイナンスと呼ばれるものが、二十六年に比べまして、五百八十七億円も創られております。この
インベントリー・フアイナンスと言いますものは、申すまでもなく
財政が
インフレーシヨンの高進をチェックするという意味を以て設けられている制度でありまして、これがこういうふうに大幅に削られるということは、少くとも
財政が
インフレーシヨンをチエツクする力が弱くな
つているということを意味するものだと考えるのであります。なかんずく農業問題との関連において申しますならば、食管会計への
インベントリー・フアイナンスが全額削られているということは私は重大な疑問を持つものであります。で、全額削られたということの基礎には先ほど申しましたような誤まつた米価の算定というものが前提されているわけであります。その誤まつた米価の上に全額の食管
特別会計へのインベントリーを削
つているわけでありますが、その点におきまして将来若しこの米価が、この
予算で要望されている枠内に納まらないということになりますと、食管会計に
相当大きな赤字が出ることを予想せざるを得ないわけであります。そうしてこの外為
資金にいたしましても、食管
特別会計にいたしましても、若しそのバランスが乱されて参りますならば、こういう
インベントリー・フアイナンスが非常に削られているという
事態の下におきましては、当然その尻が
日本銀行の信用膨張という形で拭われざるを得なくな
つて参りまして
インフレーシヨンを促進する危険性が非常に大きくなると思うのでございます。
インフレーシヨンが促進されるということは
国民経済全体にと
つて無論大きな問題でありますが、特に農民にと
つては非常に大きな
負担の
増加を意味すると思うのでございます。すでに朝鮮事変以来、先ほど申しましたように
物価水準が
相当上
つて来て
インフレ的な傾向が強くな
つているわけでありますが、その際に農林省で発表しております農村
物価指数を見ましても、農林
生産物の上り方は農家の購入品の上り方よりもいささか握れているという傾向が出て来ております。農林
生産物が
昭和二十四年四月から二十五年三月までの一年間をベースにいたしまして、一〇〇といたしまして二十六年の十二月までに、一四〇・八と、四〇・八%上
つておりますのに対しまして農家の購入品、これは農業用品と家庭用品に適当に加重をいたしまして平均したものでありますが、この農家の購入品の
価格指数は一四一・二というふうに推定されるわけであり品まして、約〇・四%ほどの値開きがすでにできているということが示されているのであります。若し
インフレーシヨンがこれ以上高進するということになりますと、こういうシエーレというものが、一層大きくなる危険性があるわけであります。それだけ農民に対する
財政面からの
負担というものが殖えるということを意味するのではないか、こう考えます。
それから第二に、特に農業
関係の
経費というものに着目してみますと、この面におきましては二十六年に比べますと、開拓者
資金融通
特別会計への繰入金が一億円殖えております。農林漁業
特別会計への繰入金が十億円殖えております。それから
食糧増産経費というものが新たなる項目として出されておりますが、このうちに入れられましたものを抜き出しまして昨
年度と比較いたしますと、九十四億円大体
増加した、こういう計算が出て参る。このうちで
最後に申しました九十四億円が
増加している
食糧増産経費というものを除きますと、開拓者
資金の
増加にいたしましても、或いは農林漁業
資金の
増加にいたしましても、殆んど名目的な
増加にとどま
つている。で、来
年度において
物価水準がかなり上ることを前提といたしますと、実質的には大して殖えていないだろう、こういう予想を持つことができるわけであります。それに対しまして、
食糧増産対策費だけは九十四億円、
相当大幅に殖えておりまして、
総額として四百三億円にな
つております。併しこの四百三億円から農業保険
関係の百七億円というものを除きますと、二百九十六億円になります。で、その中から更に事務費その他のものを除きまして、純粋に農業に対する追加投資、こういう意味を持つものを計算して見ますと、約二百六十二億円というふうに考えるのでありまして、二十六
年度の百八十六億円に比べまして七十六億円殖えたというにとどま
つております。こういう農業に対する投資が十分であるか、或いは非常に不足しておるかということは一概に里げるのはなかなかむずかしいのでありますが、併し一応の目安といたしまして
他方で農林省が今
計画しております
食糧増産五カ年
計画というものの
内容を見ますと、それによりますと、少くとも年間五百億円の
政府投資が必要であるということが出て参ります。そこで一方では少くとも五百億円の
政府投資がなければ食糧の増産を遂行するということが困難であると考えられておるのに対しまして、先ほど申しましたように、
一般会計からの農業に対する投資というものは二百六十二億円しかないのでありましてそのほかにこの農林漁業融資のうちから土地改良に向けられる百億円というものを加えて見ましても、農業に対する純粋の投資というものは、
財政投資としては三百六十億円しかない、こういうことになります。で、五百億円の必要に対して三百六十億円の供給というのは、やはりかなり過少であるということを言
つていいのではないか、こう考えるのであります。
それから第三の点といたしまして注意しなければなりませんのは、地方
財政平衡交付金が五十億円殖えたにとどま
つておるということであります。地方
財政の
予算につきましては、無論詳しいことはまだわか
つておりませんが、地方
財政委員会の一応の推定によりますと、明
年度の地方
歳出は
総額が七千六億円、本
年度に比べまして九百三十六億円殖えるということにな
つております。これに対しまして
歳入のほうは、この平衡交付金を含めまして六千七百八億円ということになりまして差引二百九十八億円の赤字が出る、こういう計算になります。ところでこの今申しました六千七百八億円、この
歳入の中には、平衡交付金と地方税とその他の雑收入のほかに地方債が四百五億円発行されることが見込まれております。
他方国の
予算のほうを見ますと、
資金運用部における地方債の引受額は六百五十億円という予想をされております。ところが地方では、先ほど申しましたこの四百五億円の地方債のほかに、電気その他の公共事業のために約二百億円の地方債を発行する必要がありますので、全体ですでに六百五億円の地方債の発行が予定されておるわけであります。そういたしますと、
資金運用部の引受が六百五十億円という枠があるわけでありますから、地方
財政にと
つては四十五億円しか余裕がない、こういう計算になります。
従つて先ほど申しました赤字二百九十八億円のうち四十五億円だけは地方債の
増加で埋合せることができますが、残りの約二百五十億円というものは、地方税を増徴するという以外には收入
増加の途がない、こう一応推定されるわけであります。ところで御承知の
通り、今までにおきましても平衡交付金が非常に不足しておりますために、殊に農業県におきましては、又農村におきましては、その
財政がもともと平衡交付金に依存する度が非常に高いために、その平衡交付金が不足のために県政や或いは村政というものが半身不随の
状態に陷
つていると言
つてもいいと思うのであります。ところが来
年度の平衡交付金も、今申しましたような意味で増額が極めて不足いたしまして、地方
財政は
相当大幅の赤字を生ずるということにな
つておりますので、その意味でこれは地方
財政の半身不随
状態と言いますか、特に農業的な地方におけるその半身不随
状態というものはなかなか救えないのではないか、こう考えるわけであります。そうして又こういう地方
財政の窮乏というものが地方税の
増税、こういう形で現われます場合には、申すまでもなく
財政窮乏の甚だしい農村地方におきまして
増税が大幅に行われる、こういうことを予想することができます。
従つて農民にとりましては、地方税
負担が一層過重になるということを覚悟しておかなければならない、こういうことになると思うのであります。
簡單ではございますが、
一般会計をそれだけにいたしまして、次に
特別会計のほうを大急ぎで見ますと、この中で特に私が申上げておきたいことは、この見返
資金特別会計についてでございます。見返
資金特別会計の新規收入というものは、元利收入だけでございまして、百三十五億円が見込まれております。それに対しまして見返
資金からの新規投資は六百億円というふうに見込まれておりますので、この差額の四百六十五億円というものは、手持国債を売却することによ
つて三百億円を俘かす、それから前
年度からの剰余金の中で、これが二百六十五億円ございますが、その中で百六十五億円を使う、こういう形で四百六十五億円を捻出して新規投資をする、こういう
計画にな
つております。併しこれをこのまま途行いたしますならば、言うまでもなく四百六十五億円の
資金の撒布超過ができるわけでありまして、明らかにこれは
インフレを促進する條件になると思うのであります。尤も
財政の上ではその点には一応の
考慮が拂われておりまして、
資金運用部のほうにおきまして引受を予定されておりました
金融債の引受が三百億円全額削られております。それから
資金運用部に対する
政府の
預託金というものが百六十五億円
増加しております。この両方で、つまり出るほうを三百億円削りまして、
預託金を百六十五億円殖やしまして四百六十五億円の
資金の引揚超過を作り出す、こういう形で見返
資金の撒布超過の尻拭いをしよう、こういうのが
財政の考え方だと思うのであります。ところでこの三百億円の
金融債の引受停止につきましては、すでに御承知の
通りそれが長期
資金の供給を非常に窮屈にする、殊に電力の復興若しくは開発という面におきまして
資金不足が著るしくなるだろうということが憂えられているわけであります。又今後予定されております例えば日米
経済協力その他の條件を考えますと、
相当生産の拡大が行われ、
資金需要が殖えるだろうという予想を持つことができると思うのであります。そういたしますと、この預金部の引受が停止されました三百億円の
金融債というものも、結局はどこかで引受けざるを得ないのではなかろうか。それで引受けられる
最後の行き場所は、結局は日銀の信用膨脹というところにその帳尻が向
つて行くのではないか、こう考えられるのでありまして、若しそういう
事態が起るといたしますならば、それはやはり通貨の膨脹を惹き起して
インフレを促進する條件になりはしないか、こう考えるのであります。それから
他方この百六十五億円の
政府預託金の
増加というものは、一応の説明によりますと、租税の
自然増收分が二百億円くらい見込まれている。その二百億円の
自然増收分を預託して、その中で少くとも百六十五億円は、今申しましたような形で引揚超過のために使う、こういうことでありますが、この点も私はむしろ疑問にするのであります。仮に租税の自然
増加分が二百億円くらいあるといたしましても、先ほど申しましたように、今後におきまして
相当大幅な追加
予算が組まれるということは必至の
状態であります。そういたしますと、この二百億円の
自然増收分をいつまでも預託しておくわけに参りませんので、結局はそれは追加
予算のための財源として使われざるを得ない、こういうことになりますから、
従つてこういう
政府のやり方では決して
資金の帳尻が合つたということにならないのではないか。やはりこの面からの
資金の撒布超過が生じてむしろ
インフレが促進される、こういう傾向が出て来やしないか、こう考えるわけであります。いずれにいたしましても、こういうわけで見返
資金の過大放出という点につきましては、十分なる御審議を盡されんことを希望するのであります。
それから
最後にこの
歳入のほうを簡單に言いますが、
歳入におきましては租税、印紙、
専売益金というものが、合計いたしまして八百三億円
増加しております。これに対しまして官業收入、資産整理收入、雑收入というものが二百八十六億円減じております。租税、印紙、
専売益金、それがこういうふうに八百三億円、
相当大幅に
増加いたしたために、この
国民所得に対しまする租税の
割合というものは
相当殖えております。即ち二十六
年度におきましては、
国民所得に対する租税、印紙、
専売益金の
割合というものは一四・四%でございますが、二十七
年度には、この
予算の
通りで計算いたしましても一五・三%、こういうことになります。ところが先ほど申しましたように、二十七年の
国民所得はむしろ過大に見込まれている、こういうことが考えられるわけであります。そのほかなお、
政府は先ほど申しましたように二百億円の租税の
自然増收分というものを見込んでおります。この一方における
国民所得の過大評価ということと、
他方における、予定されている
自然増收分二百億円、こういうものを合せて考えますと、実は二十七
年度における租税
負担率というものは一五・三%よりももつと高くなるであろう、こういう予想を持つことができるのであります。一応の御参考までに私はこういう推定をして見たわけでありますが、と申しますのは、先ずこの
物価水準に、これはいろいろ前提の仕方があるわけでありますが、この点につきましては
政府の前提に従いまして大体
物価水準が今後一年間に三%上る。それに対しまして実質
国民所得は、先ほど申しましたように、
政府は五%殖える、こう計算しておりますが、これは明らかに過大だと思います。むしろ従来の
日本の実情から申しますと、せいぜい大きく見積
つて私は三%と見込むのが適当であると考えます。そこで
物価水準が三%上り、実質
国民所得も三%殖える、こういう計算をいたしますと、二十七
年度の
国民所得は
政府の発表するのと違いまして四兆九千二百十六億円、こういうことになるのではないか、こう考えるわけであります。これに対しまして先ほど申しました千二百億円の
自然増收分を加えた租税
負担率というものは一五・八%、こういうことになります。そこで二十六年の一四・四%から二十七年の一五・八%に殖えるわけでありますから、
国民の租税
負担は約一割
増加する、こういう計算になるわけであります。で、併し租税
負担ということになりますと、なおそのほかに地方税を考えておかなければなりません。で、地方税は一応の計算によりますと、二十六年は二千五百十億円でありますが、それに対しまして二十七
年度は三千二十七億円になるのではないか、こういう予想を持つのであります。この三千二十七億円になると申します意味は、
自然増收分を二百六十七億円と見込みまして、そのほかに先ほど申しましたように、地方
財政から生ずる赤字が二百五十億円ある、ごう見込みまして、両方合せまして五百十七億円の
増加を見込んだわけでありまして、そういたしますと三千二十七億円の地方税
負担、こういうことになります。それで計算いたしますと、租税
負担全体、つまり国税と地方税合せました租税
負担全体が、二十六
年度が一九・九%であるのに対しまして、二十七年は二二・一%になる、こういう計算が出て参りまして、約一割一分の租税
負担の
増加と、こういうことになるわけであります。で、先ほどの
公述人のお話にもございましたように、この今
年度の国税收入の見積りというものはいささか過大ではないかということが、当然私の疑問とする点でありますが、まあその点には深く立入りませんで、今申しましたように、
政府の言明によりますと、本
年度におきましては一応税法上の
増税という
措置は行われない、こういうことにな
つております。併し税法上の
増税の
措置は行われないにもかかわらず、
国民の租税
負担率というものは、以上申しましたようにかなり高くな
つておる、こういう現象が出て来るのであります。なぜこういう現象が出て来るかと申しますと、申すまでもなくそれは
インフレの進行につれて所得が名目的に膨脹する、ところが所得が名目的に膨脹いたしましても、例えば所得税のような累進税の場合にはやはり税率が自動的に高くなりますし、又基礎控除その他の控除が据置にな
つておりますならば、それが実質的には自動的に切下げられたと、こういうことになるわけでありまして、そうして租税
負担が増大するということになるわけであります。
〔理事
木村禧八郎君退席、
委員長着席〕
而もこういうこの所得が單に名目的に殖えるということ、又は基礎控除その他の控除が名目的に据置かれておりますために、実質的には減少する、こういうことによ
つて生ずる租税
負担の増大というものは申すまでもなく低所得者の所に比較的大きくかかる危険性を持
つているのであります。そういう意味から申しますと、
政府が見込んでおります租税の
自然増收分というものは、実は正しく言えば
自然増收ではなくて自然
増税である、こう言わざるを得ない場のであります。その自然
増税は而も少所得者に大きな
負担をかける危険性があるのではないか、こういうふうに私は考えるのであります。その点についても御検討を煩したいのであります。
以上幾つかの点を思い付くままに申上げたわけでありますが、一言にして申しますならば、二十七
年度の
予算というものは全体として私は
歳出が過大である。この
予算をこのまま途行いたしますならば、国税、地方税を合せて
増税が必然にな
つて来る、又
インフレーシヨンを促進する危険性が極めて多い、こういうことを先ず感じます。而もそういうふうに
財政の
歳出が過大であり、
国民経済にと
つて大きな
負担であるにもかかわらず、国内に対する
財政面からの施策というものは、案外貧弱であると言わざるを得ないのであります。で、それはほかの面についても言えると思いますが、農業に対しましても十分なる
政府の
資金が供給されているとは到底考えられないのであります。一方では
財政が過大であり、一方では国内に対する施策が案外に貧弱であるという矛盾はどこから出るかと申しますと、申すまでもなく、平和回復に伴う費用というものが約六百億円も
増加して、
財政の中の非常に大きな比率を占めておるからであります。
従つてこの
財政を
日本の
経済の実情に合つたように合理化いたしますためには、私はこの平和回復に伴う費用というものを能う限り削減する以外には
方法はないのではないかこういうふうに考えておるわけであります。
以上で私の申上げたい点を終ります。