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公述人(都留重人君) 私は只今御紹介にあずかりました一ツ橋大学
経済研究所長の都留重人でございます。私は
予算の
一般的な問題について二、三の見解を述べさせて頂きたいと思います。が、時間の制約等もございまするので、論点を比較的かいつまんで申上げることもあろうかと思います。趣旨が徹底いたしません場合にはあとで更に敷衍させて頂きたいと思います。
最初に比較的簡單なことでございますが、一言させて頂きたいことがございます。それはごういつた
予算の基礎を作りますときの基準となります物価水準乃至は給與のレベル、一品で申しますると、私らは俗に分母と申しておりますが、その分母がはつきりしないというと、分子だけで論じましてもどれくらいの大きさにな
つておるかわからない。戰前の貨幣
価値と現在の貨幣
価値と比べて如何にそれが変化したかということは皆様おわかりの
通りでありまして分母が非常に大きくなりますると分子が幾ら大きくなりましてもそれは大きく
なつたとは言えないのであります。それでこの
予算の分母は何かという問題、これを実ははつきりして頂きたいのであります。大蔵省のほうでお作り下さいましたこの
予算の説明書を拜見いたしましても分母が何であるかはつきりいたしません。何年何月の物価を基準にしてこの
予算を立てておられるのかはつきりいたしません。給與はいつのレベルで以て立てられておるかということは、これは私らは新聞その他、又
自分自身に顧みましてもわか
つておるのでありまするが、物件費等の分母が何であるかということはわからない。そのために
政府当局の御説明を伺
つておりますると、
政府に都合のよいときには絶対額でおつしやいます、殖えたということをおつしやいます。分母がわかりませんから、事実金額の上では殖えておりまするけれども、実質的な水準に直して見ますると減
つておることがございます。例えて申しますならば、地方平衡交付金は増額されたということを大蔵大臣は言
つておられます。成るほど殖えてはおるのでありまするが、物価水準がどうな
つておるかということを計算に入れまするならば殖えたか減つたかはわからないのであります。内政費が殖えたということをおつしやいますけれども、これも物価水準を計算に入れますというと、個々の場合にはどれが殖えどれが減つたかということはわからないのであります。例えば
農業パリティ、これはやはり
一つの物価水準を現わしたものでありまするが、
農業パリティの変化を調べて見ますというと、
昭和二十六年度の
予算が起案されましたときの。ハリテイの基礎は、戰前の一九三四年—三六年度の平均を一〇〇といたしまして一八二・二でありました。今度の
予算ではそれが二五五とな
つております。これだけ上
つておるのでありまして、尤も
昭和二十六年度の
予算が起案されましたのは、今年度の場合と比べまして非常に早うございまして、物価騰貴が十分に斟酌されておりませんでした。併しこのように分母が変化いたしておりまするので、私らがこの
予算の説明書を昇見し、且つ
予算の内容について
検討いたしまする場合には、どうしても分母を伺わなければ何とも言えない。願わくば今後大蔵省等におかれまして
予算の説明をお作りになる場合には、分毎を明らかにし頂きたいということを最初に申上げたいと思います。
私が本日申上げたいと思いまする主な論点の第一、これは今度の
予算の最大の特長が再軍備第一年度の
予算であるということであります。而もそれが自主的に編まれたものではないということであります。仮に再軍備第一年度の
予算といたしましても、若しも、まさに独立せんとしておる
日本が自主的に編まれたのでありますならば、なお恕すべき余地があるのでありまするが、明らかに自主的に編まれたものではないということであります。現に起りつつあり、又近く予定されておるところのこの警察予備隊の拡充その他の処置が果して再軍備であるかないかという問題は、吉田総理大臣の言葉の言い廻しによ
つてきまることではなくて、現実の実態によ
つてきまることであります、果して現在の
日本のこの警察予備隊等の拡充その他の防衛の
措置が戰力の名に値いしないかどうか、再軍備と呼べないかどうかということは、たまたま昨日の夕刊読売出ておりました外国の新聞記者フロム氏の説明の中にもございまするように、全世界の首都におきまして、逆説的にも
日本だけを除いて、現在の
日本のこの警察予備隊等の拡充は再軍備であると解釈しておるということが書いてございますが、私はこの席で果してこの
予算で以て予定されておりまするような防衛力の拡充が再軍備であるかどうかということは論弁或いは論断いたそうとは思
つておらんのであります。むしろ私が問題といたしたいと思いますことは、国民の間にはその点について非常な疑惑があるのでありまして、本当に再軍備であるのではないか、吉田さんはあんなことを言
つておるけれども、これは再軍備らしい、どうも憲法第九條の改正を必要とするのではないかという
心配が非常に強くあるのでありまして、専門の学者の間でもその点につきましては、憲法の改正を必要とするという
意見が述べられております。そういう
状態にありまする場合には、私の見解ではこの
予算を
審議される前に、先ず憲法との
関係を明らかにされるということが先決であろうと思います。憲法第九條に停るか悖らないか、若しも憲法第九條に悖るということであるならば、この
予算を
審議すること、ましてやそれを通過させるということは、これは憲法の精神を蹂躪し、且つその條文を踏みにじられたと言わなければならないのでありましてどうしてもこの憲法第九條との
関係を最初に明らかにして頂きたい。その点についての国民の疑惑を解いて頂きたい。憲法第九條に悖らないということを国会であつしやるならばそれで差支えないのであります。併しながら私も必ずしも政治については玄人ではありませんけれども、現在の
日本の憲法の成立ち、その他から申しまして、憲法違反の場合に具体的な事例なくして国会でそれを直ちに取上げられることができない二とは承知しております。又アメリカの憲法の実情から申しましても、憲法に違反したようなことを行
政府が承知の上でや
つてのけることがあるということも知
つております。曽
つての一九三。年頃ニユーデイール時代のいわゆるNRAというのは憲法違反かも知れないということを
政府は承知の上でいたしました。その後具体的な事例が裁判所に訴えられまして、その結果憲法違反であるということが明らかにな
つてNRAは廃止とな
つたのであります。でありますからアメリカの憲法に或る
程度似せて、或る
程度でありまするが似せて作られたと申される
日本の憲法であるからには、そういう
状態が予期されているということも考えられます。憲法違反を承知の上でやる、具体的な事例が起
つて、最高裁判所がこれを違憲といたしたならば、そのときにはやめるということも考えられるのでありまするが、この再軍備の問題は、そうして憲法第九條の問題は、NRAの場合とは比較にならんほど根本的な重要な問題であります。
日本の戰後における民主
国家として再建するための出発点における一番重要な精神であります。そうであるからには、たとえ具体的な裁判事例がなくても、当然このことは国会において
審議されるべきことでありまして、憲法第九條との
関係を明らかにせずしてこの
予算を
審議されるということそれ自体に私は非常な疑いを持つものであります。
更に自主的でないという点につきまして一言させて頂きますが、安全保障條約の性質から申しまして若しも
日本の
経済力に余裕さへあるならば
自分でしたであろうところのことを、余裕がないから外国にしてもらうというのが今度の防衛力であります。この点は吉田総理も池田大蔵大臣もたびたび言
つておられます。
経済力がないから再軍備しないのだ、併しながら
日本としてはこれだけの防衛力がなければ安全保障できないのだ、
日本の
経済力でそれはできないから外国にそれをお願いするのだ、安全保障條約には明らかに、
日本からお願いしてアメリカの兵隊にお
つてもらうということが書いてあります。これは双務的な相互的な安全保障條約ではなくして、
日本からお願いして駐留してもらうという恰好をと
つているのでありますから、
日本の安全保障の目的のためには、現在予定されております
日本の警察予備隊等の増強と、又現在予定されておりまするアメリカ軍の駐留を合せたもの、それを若し百といたしまするならば、百だけのものがなければ
日本は安全ではないということが想定されております。その百だけのものを
日本は賄うことはできないから、そのうちの二十五を賄う。大体アメリカ側の計算によりまするというと、全部で六千億円乃至七千億円の経費を使うということが書いてありますので、
日本の拂う分は大体二五%ということになるのでありますが、二十五だけを賄うということになります。そうして
経済力が回復するにつれて、生活水準を押下げない
程度において残りの七十五の分を
日本は肩替りする。従
つて漸増するというのが現在の建前であると私は解釈いたしておるのでありますが、果して日米の防衛力を合せまして一応私が百と申しましたところの指数全体の合計、これが
日本の防衛費、安全保障するために必要なる防衛費として必ず必要であるということを誰が断定したか。誰がきめたか。国会でおきめに
なつたかどうか。私は国会でおきめに
なつたとは聞いていない。
予算の面におきまして防衛分担金、安全保障費等をおきめにはなるようでありますけれども
日本の安全保障のために必要とされる総経費、これはすべて安全保障のための防衛力でありまするが、それをおきめになるところはどこであるか。果して独立せんとする
日本が自主的にきめたものであるかどうか。その他の貧しい
日本の
経済力の中で賄わなければならない、多くの諸経費を犠牲にしてまでも賄わなければならないものであるかどうかということを十分に
審議されたかどうか、その点が問題になるのであります。何となれば、この点を出発点において問題にしておきませんならば、必ずや今後の漸増と言われる言葉の中に含まれておる含意は、第二年度、第三年度におきまして当然雑上に土
つて来るのでありまして、現在の国際情勢のうちにおきましてこれだけの、日米合せただけの約七千億円の防衛費が必要であるという断定、これは非常に重要なる点だと私には思われるのであります。最初にかなり根本的なる疑惑を投げかけましたけれども、すでに衆議院を通過いたしておりまする
予算でありまするので、私は如上の点につきましてはこの際これ以上申し上げることを差控えまして、一応
審議をなさり、且つ遂にはここをお
通りになるであろうかも知れないということを考え、ここになお二、三の具体的な点について申述べさして頂きたいと思います。
第一の点は、平和回復に伴う経費の中に安全保障諸費というものがございます。五百六十億円でありますが、これは最初大蔵大臣が議会で御説明になりましたときには、治安の確保をするため警察予備隊、海上保安庁経費のほかに計上したものであるという御説明に過ぎませんでした。その後遅ればせではありまするけれども、約一カ月後に自由党の議員のかたに対する質問に答えられまして、大蔵大臣はこの五百六十億円の内容をやや詳しく説明されました。皆様御承知の
通りであります。営舎建設費三百七億、通信施設費七十億等々、合せて五百六十億円であります。この内容を拜見いたしまするというと、はつきりは書いてはございませんが、司令部その他現存基地の移転費であります。移転のための費用でありますと私は解釈いたしました。大部分がそうであるかに見受けられます。若しこれが移転費であるならば明らかにこれは一年度限りのものであります。二十七年度限りのものであります。二十七年度中に移転が完了できないというならばしようがありません。二十八年度にも幾らか移転費は計上しなければならんでありましようが、大体におきましてこれは二十七年度限りのものと解釈されます。大変厖大な移転費でありまして、この五百六十億円の金が若しも学校建築等に使われ得たといたしまするならば、どれくらい私たちの子弟の教育が豊かなものになるかということは測り知れないのでありまするが、その点の臆測はやめたいと思います。で、若し移転費であるといたしまするならば、この金額はいわゆる防衛費からは一応差引いて別建てにすべきものと私は解釈いたします。たびたびの国会の答弁におきまして、池田大蔵大臣が防衛費は千八百二十億円ということを一まとめにして言
つておられます。あたかも防衛
関係の既得権のごとく千八百二十億円という数字を言
つておられるのでありまして、この内訳を更に二つに分けて、臨時的な移転費である五百六十億円と、純防衛
関係である千二百六十億円とに分け、若しもこの移転が二十七年度中に完了するならば、二十八年度におきましては、防衛経費が殖えない限りは五百六十億円だけ減税ができるということが
政府としても言えるはずではないか。若しもそれを千二百六十億円では足りないから殖やすんだという二とであれば、そのときに防衛分担金は幾ら殖えた、警察予備隊の拡充に幾ら殖えた、海上保安庁に幾ら殖えたというふうに具体的に項目を明らかにして増額を要求されるのが至当であります。恐らくそうされることでありましよう。然るに若しこの五百六十億円の移転費を現在の防衛
関係費の中に含めて議論されまするならば、千八百二十億円という金が防衛
関係の既得経費のごとく印象を與えまして、これより減らすことができないという感じを與えるのであります。或いはそうかも知れない、そうかも知れないけれども、この予備費的な、且つ一年だけの臨時的な性格を持
つておりまする安全保障諸費というのをその性格を明らかにされまして、これが一年限りのものであ
つて、二十八年度はなくて済むものであるという言辞を
政府がお與えになる用意があるかないか、その点を伺いたいと思うのであります。最初に私が述べましたように、再軍備
予算でありまするために、圧迫された面というものが非常にたくさんございまして一々枚挙にいとまがないのでありまするが、項目だけを申上げまするならば、治山治水費は非常に殖えたということを大蔵大臣が説明されておられますけれども、治山費は絶対額で、つまり分母を問題にしない額で申しましても四十四億から四十三億に減
つております。失業救済費も殆んど橘ばいの
状態でありまして、これで以て十分賄われるかどうかも疑問であります。給食費は御承知のごとくゼロになりました。住宅建設
関係の
政府の
補助金、
資金等もその実質的な内容におきましては二十六年度より減
つておることはもとより、二十五年度よりは一層減
つております。更にインベントリー・フアイナスの金額といたしまして現在の外貨の手持、今後の外貨の動き等を考慮いたしまする場合、
政府が参在計上しておられる金額で以て足りるかどうか。あれだけのインベントリー・フアイナンスで以てインフレを食いとめ得るかどうか、その点に非常に疑問があるのでありまして、恐らくは総額を八千五百二十億円に抑えるためにインベントリーの所へしわ寄せされたというような感が非常に強いのであります。更に電源開発に対しましても、独立第一年の
日本といたしまして、向う三年、四年くらいに三百三十万キロワットぐらいの電力を開発しなければ
日本の
経済としてや
つて行けないということは安定本部が言
つておられながら、その点の
政府出資は極めて不足勝ちでありまして、私は電源開発の
方面の専門家でありませんので、この点は詳しくは申上げる用意はないのでありまするけれども、そういう印象を受けております。その他数え上げますというと非常に多いのでありますが、この点は時間の都合もございますのでこれ以上申上げません。
次に大きな問題といたしまして私は取上げたいと思いますのは公共
事業費の問題であります。公共
事業費は今年度から、つまり二十七年度から組み方が少し変りまして、昨年度公共
事業費と称せられたものを全都合せまするというと千四百五十六億円にな
つております。今年から
農業関係事業費が落されましたので、それを別にいたしまするならば、昨年に比べて二四%余りの増加であります。これは物価の騰貴等を考えますると、果して増加を
意味するかどうか一応疑問でありまするけれども、他の内政費との振り合いから申しまするならば、明らかにより多く殖えておるということは確かであります。説明書を拜見いたしまするというと、最重点を災害の復旧及び治山治水
事業に置いたということが書いてございます。併しながらその内容を更に詳しく
検討いたしまするというと、私は多くの疑問を持
つておるのでありまして、先ず過年度災の三〇%を整理するということを言
つておられます。過年度災と申しまするのは、過ぎ去つた年度においてすでに起つた災害で、未だ災害復旧費がついていなくて復旧ができていない分を指すのでありますが、これは建設省その他の推計によりまするならば、二十六年度末において、つまり今年の三月末において二千八百億円になるという推計であります。この
予算を組まれました場合には、明らかに二十五年度末、つまり昨年の三月末の過年度災を基礎に三割ということを言
つておられるのでありまして、言葉は二十六年度以前の過年度災、以前という極めてあいまいな
日本語によ
つて私たちを惑わし勝ちな表現がしてありますが、若しも二十六年三月末の過年度災を合計いたしまするならば二千八百億円であります。その三割が八百四十億円でありまして、ここで計上されておりまするような四百二十億円ではありません。ここで計上されております四百二十億円の二倍はなければ過年度災の三分の一をここで処理することはできないのであります。治山につきましては、
先ほど申上げましたように、むしろ前年度よりも減
つております。他方
食糧増産関係が別個になりまして、御承知のように百五十億から二百十五億へとかなりの激しい増加を見せておるのでありまして、御趣旨は誠に私は結構だと思います。ところが趣旨が結構である
予算項目に限りまして、従来の経験から申しまするというと不合理な政治力が介入する余地があるということを私たちは新聞紙上その他で聞き知
つておるのでありまして、この際
食糧増産経費に特段の
措置が講ぜられました限りは、この経費が実質的内容
通りの予定の業績を挙げられるよう国会で十分監視されるよう希望するわけであります。
さて公共
事業全体につきまして、いよいよ
日本が独立しようとする時期に当り私は最大の重点をここに置かれたという趣旨には満幅の賛意を表するものでありまして、むしろ過年度災二千八百億円の三分の一、八百四十億をここに計上して頂きたいとさへ思うのであります。昔は災害はその年のうちに処理するという原則が貫かれていたのでありますが、例の
昭和九年の関西の風水害がありまして以来、
日本における災害復旧費というものはうなぎ上りに上りまして、公共
事業費の中の割合から申しましても、
昭和九年以前には三%乃至六%でありましたものが、
昭和九年から大体戰争の終りました年くらいまでは約二〇%、その後
昭和二十二年には三五%、その後逐年増加いたしまして三六、四〇、四九というふうに増加して参
つております。これは
一つには非常に災害を受けやすい
状態にな
つておるということが言えるのでありまして、
昭和九年以降、特に戰争準備のために忙しかつた
日本といたしまして、国土の保全ということに十分の力を盡し得なかつたことは明瞭でありまするが、最近建設省で
昭和二十五年度災害についてお調べになりました七千カ所の災害地域についての調査によりまするというと、不可抗力によ
つて起りました災害は全体の五一%でしかないということが書いてあります。その他の四九%は若しも維持管理よろしきを得るならば、若しも為政者が十分の注意力を以て災害防止のために
努力しておられたならば起らずに済んだところの災害であるということが書いてあります。これほど災害というものが年中行事として非常に大きな位置を占めるようにな
つておるということは、私たち極めて遺憾に感ずるのであります。特に復旧を一旦怠りまするならば、復旧を怠りました所に再び出水がありまして、二度目の増破、いわゆる増破というのが起りますというと、そのために必要とされるところの災害復旧費は当初額の二・五倍ということが、建設省河川局防災課、
昭和二十五年度災害の実態報告書の中にも書いてございます。過年度災害を放
つて置きまするならば、ますますその災害を受けやすい
状態は悪化するのであります。曽
つては災害はその年のうちにという原則をほぼ貫くことができました。終戰直後には、まだ災害が起わますというとその災害の三〇%くらいはその年度のうちに片付く、翌年五〇%三年目に二〇%、いわゆる三〇、五〇、二〇という比率で以て
予算の振分けをしてお
つたのでありまするが、現状におきましては、災害が起りました年は、その災害について二一%乃至一五%しか
資金の振当てができないという現状であります。こういう
状態でありまする限り、たとえ戰力、再軍備のみが豊かに伸びましても、国土は次第に荒廃に帰するのでありまして、独立第一年の
日本といたしまして、民主
日本国家の建設の基礎となるこの国土が徐々に蝕まれて行くことを私たちは見逃すことはできない。従
つて何よりも第一に、私はこの災害の根源を衝いて頂きたい。独立となりました記念に、向う三カ年
計画乃至は五カ年
計画で過年度災を一掃して頂きたい。そのためには従来までの記録をされておりますところのこの二千八百億円という推定自体が一応洗われなければならぬでありましよう。その一応洗う過程を経た後に三年間乃至は五年間の予定で以て過年度災を全部一掃するという意気込みで以て
予算を組んで頂きたい。そのほうが戰力の増強よりも遙かに先であります。従
つて私はこの一千四百億何がしの公共
事業費に対してもなお不満を感ずるものでありまするけれども、これよりも更に重要な点はこの金の使い方であります。昨年度の衆議院の
予算の
公聽会でも私はこの点に特に力点を置いて
委員の諸氏にお願い申上げたのでありますが、公共
事業費に関しましては金の使い方に非常に不明朗な点があることは今更私から申上げるまでもございません。世に有名になりました天狗橋事件は九牛の一毛にしか過ぎないのであります。いろいろ情報はございまするけれども、公の文書といたしまして
政府のお役人さんのお書きになりました安定本部から出しておられる
経済月報というのの昨年の五月号に、災害復旧
事業にひそむ不純、という論文が載
つておりまして、安定本部の
監督課の事務官のかたが、いろいろ調査された結果を発表しておられますが、それによりまするというと、公共
事業費の不純度は二〇%である。少くとも二〇%であるということが書いてあります。大体二割ぐらいは水増しであるということでありましよう。そういたしまするならば、二十七年度の災害復旧
関係公共
事業関係の
事業費は、地方、
政府の負担分を加えまして二千二百億円に上るはずでありまするが、その二割といえば四百四十億円であります。四百四十億円ありまするならば、坪四万四千円の家が、これは実に一百万坪できる勘定でありまして、これだけの金が公共
事業費の中の不純なるものとして流れておるということは、これは見るに忍びないのであります。併しながら私も理想的な言辞は弄しまするけれども、現実をよく承知しておるつもりでありまして、如何にしてこの公共
事業費の不純度を改善するかという問題は、非常に困難な問題であるということを私は承知いたしておるつもりであります。実は率直な表現を用いますならば、地方に地盤を持
つておられます国会議員のかたには、遺憾ながらその点で多くの期待をかけ得ないというのが実情ではないかと私は考えておるのであります。その裏を申しまするならば、参議院の全国選出議員のかたがたに特に大いなる期待をかけたいということにほかならないのであります。(笑声)そこで私は具体的なる一案を申上げますが、先ず第一には、国庫から
補助いたします
補助率の累進制をやめるということであります。これは
昭和二十六年度から実施されておりますることでありまして、議員の皆様がたよく御承知のことと存じまするけれども、若しも災害を査定いたしました結果、それがその地方
公共団体の標準税收入の二分の一までに達する場合には、三分の二の
補助率を與える。二分の一から二倍までのときには四分の三の
補助率を與える。二倍を越す場合には一〇〇%の
補助率を與えるという規定にな
つております。何故にこの累進制を持ち込まれたか、私はその理論的な根拠がどうしてもわからないのであります。こういたしまするというと、おのずから現在の事情の下では成るべく高い
補助率を受ける
方向へ災害の査定を持
つて行こう、まかり
間違えば災害自体を広くしようという
方向へ動いておるのでありまして、この
補助率が累進的に
なつたということは、二十六年度から施行されました悪政の
一つであると私は考えております。若しもこの
補助率がやめられないならば、いろいろな事情によりまして
補助率累進制がやめられないならば、その場合には私は更に一歩譲歩して御提案申上げまするが、標準税收入と災害査定費とをお比べになる場合に、災害査定費の全額を比べないで、その年度に
事業として施行する予定であるところの部分と、その年度の標準税收入とを比較して累進率をきめて頂きたい。ものによ
つては五年、六年かか
つて災害を復旧しておられるところがあるのでありますから、その五、六年間に亘りまして使う全額を、一年間の標準税收入と比べれば、災害のほうが多くなるのは当然であります。現在、過年度災害のことを
先ほど申上げましたが、現に残
つておりまする過年度災害の中には、現在なお
昭和二十四年度の分が四百六十億円も残
つておるのであります。そういうふうに残る状況でありまするから、その年度の
事業費と標準税收入とを比べるという
方向に変えて頂きたいと考える次第であります。又
補助適用の最低限は現在十五万円にな
つております。災害復旧といたしましては十五万円というのは非常に僅かな金額であります。皆様御承知かと思いまするが、何億という災害復旧費が約十分間くらいで以て机上査定されるのが現状であります。机上査定は全体の七〇%であります。約三〇%だけが実地に検証いたしております。七〇%は机上で査定いたしておりまするが、何億という金が机上で以て、書類だけを基礎に約十分間のスピードで査定されております。これは他の
予算には類例のないことであります。今後そういうものができるかも知れませんが、現在までのところは類例がありません。そういう状況でありまするので、十五万円という
補助率適用の最低限度を上げて頂きたい。低過ぎますので……十五万円くらいでありますというと、その地方
公共団体の
財政を以ちまして、維持管理の範囲でできることをわざと災害にして
しまつて補助を受けているのであります。従
つて災害復旧の件数の中で、十五万円から三十万円くらいのものが一番多いのであります。そういう
状態でありまするから、これは災害にもいろいろ種類がありますから、種類別に分けて平均五十万円くらいにされるのが適当ではないかと私は考えます。そのほかにこの問題に関しましては、実地検証を早くすることであるとか、或いは規準の統一を図ることであるとか、或いは推問資料の完備をすることであるとか、極めて問題は多魚的に取上げられなければならないのでありまして、短時間の間に申上げるわけにも行かないのでありますけれども、災害復旧のために巨額な金を使わなければならないほど、私はその施設の仕方においては十分の
検討をされるようお願い申上げます。
最後に
一つ歳入面の問題に触れさせて頂きたいと思います。やや数字を申上げまするが、御容赦を頂きます。私の論点は、第一に国民所得と所得税計算との不一貫性、両者が一貫していないということであります。国民所得の推計は所得税などの收入の基礎になります。従
つて両者の計算は一貫しておらなければならんのでありまするが、一貫いたしておりません。その不一致の
状態は実に恐るべきものがあります。いずれの計算も
昭和二十五年度の実績を基礎にして計算されたものでありまするが、先ず給與所得、主として源泉で
税金を取られまする給與所得に関しましては、給與金額が、
税金のほうでは、二十五年度を一〇〇といたしまして一四〇・六という推定の下に
税金の推計がな
つております。これは大蔵省から出しておられまするところの、この二十七年度の租税收入その他のこの説明書の中に書いてございます。ところが国民所得のほうでは二二六・一の上昇しか予定しておられない。申告納税、主として個人業主の場合になりまするとつまり営業、つまり
農業等を除きまして、これは個人業主だけでありまして、法人のものは別になりますが、営業
関係では、
税金のほうでは計算が二三・五%上るという予定で計算しておられます。国民所得のほうになりまするというと、やや計算が複雑にな
つておりまして、鉱工業では三一%、商業では二三%、土建業ではマイナス二〇%というような推定をし、更に收益率が二十七年度には二十五年度よりも一五%だけ落ちるというような計算にな
つております。それよりも甚だしいのは価格の見通しでありまして税のほうでは三七・三%の増を見込んでおられまするが、国民所得のほうでは二四%の増しか見込んでおられません。更にそのほかに奇々怪々に私が感じますることは、税のほうでは営業に関しまして申告及び納率増というのが一〇%加えてあります。その結果、営業に関して、申告に関して申上げまするならば、税のほうでは、二十五年度を一〇〇といたしまして、一八六・四という推計にな
つておるのに反し、それに対応する国民所得の側では僅か一三一であります。これだけの差があるのでありまして、この差が二十七年度内にどういう形で現われて来るかということは極めて問題であります。二十六年度の実例から申しましても、自然増收とか、自然減收とかというような現象がございましたが、こういう計算の最初の基礎が不一致であり、不一貫であるということから、二十七年度の中途になりまして自然増收、自然減收が自由自在に飛び出て来る可能性を孕んでおるのであります。その点特にこの申告納税の分と、法人税の分に関しましては、計算の基礎をもつとはつきりして頂きたい。国民所得の推計との間に不一致のないようにして頂きたいということをお願い申上げたいと思います。むしろ実態を私は付度するものでありまするが、税のほうは取れそうな額を計上するよう基礎数字のほうを辻棲を合わす。国民所得のほうは
予算総額と国民所得との比が丁度一七%になるよう、国民所得の基礎数字の辻棲を合せたというのが実態ではないかと私は想像いたします。こういう事情でありますので、二十五年度には、所得税のうち申告納税の分は千五百四億、源泉は九百八十一億という釣合いにな
つておりましたのが、二十七年度におきましては、申告は千七十四億、源泉が逆に千三百三十億というふうに逆転いたしておりまして、なぜこれが逆転したのかという説明が明らかでありません。いろいろ調べてみますというと、二十五年度末、つまり二十六年の三月末におきまして、申告納税に対しまして余り強い更正決定等をいたしませんでしたために、逐に
予算額は五月末まで延びましても六一・六%しか入りませんでした。それで打切
つたのであります。打切りましたので、今度はこれくらいしか取れないという見込の下に、先ず取れそうな
予算額を挙げて、その
予算額と辻褄を合せるような所得額を計上したというのが現状ではないかと思われるのであります。この点の説明は詳しく申上げますと、なお資料がございますが、これだけにとどめます。
ついでながら申上げまするが、今回超過供出分に関しまして免税の
措置をとられましたことは、飯米に食い込むという理由だそうでありますが、現在のように我々船脚所得者、或いは個人業主等の基礎控除が二十六年度分につきましては三万八千円、二十七年度分につきましては五万円という現状でありまする限り、我々全部がいわゆる飯米に食い込んだ
状態で拂
つておりまする現状でありまするから、そういう
状態の下である限り、一部だけに特例を認めるということは、税の公正という
立場から申して納得できないのであります。申告納税と源泉課税との不釣合いという点なども併せまして税法上では如何に公正な形をと
つておりましても、現実の適用の面において、それがどのように実施されるかということが重要な問題でありまして、その
関係はあたかも安全保障條約と
行政協定との
関係に似たものがあるとさえ言えるのであります。国会では公正なる税法を作つたからとい
つて安心しておられまするけれども、実は
行政協定的な実施面におきまして、かなりの歪みができておる
状態でありまするので、その点に対しましても十分の注意を拂
つて頂きたいというのが私のお願いであります。税收の根幹でありまするところのこの所得税と法人税につきましては、御承知のように二十六年度においては厖大なる自然増收を見込みましたが、そういうことが、二十七年度におきましても、情勢の発展如何によ
つてはでき得るような仕組が、その中に穏されていると私には思われるのでありまして、特に
事態の発展如何によ
つて、補正
予算の必要を見るかも知れないという客観情勢の下におきましては、少くとも
予算の出発点においては正確なる計算の下に歳入を推定し、それと歳出との
関係を議論することが必要ではなかろうかと私は考える次第であります。予定時間を超過いたしまして申訳ありませんでしたが、私の陳述は以上で終りたいと思います。