○矢嶋三義君 私は、
只今議題と相成
つておりまする
文化財保護法の一部を改正する
法律案に対する
委員長報告に反対する理由を明確にせんとするものであります。以下二点について申上げます。
先ず反対の第一の理由は、
政府の提案理由は薄弱であり、本院としてすでに修正議決しました一連の行政機構改革諸法案に対する本参議院の
審議原則に照らすときに、当然反対の結論に到達するということであります。文化財を保護し、且つその活用を図り、加えて
国民の文化的向上に資すると共に、
世界文化の進歩に貢献することを目的として、
文化財保護法が第七国会で制定されたことは、文化的立法として賞讃さるべきでありまして、
国民の精神的糧でもある文化財を保護するということは、極めて重大なことは申上げるまでもございません。戰前から、特に戦時中放置されました有形無形文化財に対して、強力なる文化財保護行政が要請されているのであります。
現状におきましては予算上の不足も手伝いまして、国宝は逐次国外へ流出している実情であり、更に国宝又は重要文化財の指定さえまだ完了していないのでありまして、更に無形文化財に対する助成並びに
対策に至りましては、その緒にさえ付いていない実情でありまして、僅かに予算二百万円を
確保しているに過ぎません。これも委員会発足以来僅かに二年足らずで漸くその緒に付いた恰好の委員会としては、止むを得ないと
考えるものであります。然るに本改正案は、
政府の行政機構改革の一環として、事務簡素化と予算の節減とを目的として提案されたものでありまするが、
政府の行政機構改革の基本
方針である、部制を廃止し、次長制或いは監制を布くという原則に則りまして、法的に総務部と保存部を統合してただ事務局とし、局長の下に次長を設けんとしたのでありまするが、本参議院は、それぞれその既設の部は存在理由があり、
政府が称するように行政の簡素化には相成らないとの結論の下に、
政府提案にかかる部制廃止の三十五件中実に二十七件を否決し、監制のごとき全面的に否定したことは、各位の御承知の
通りであります。
政府委員みずから、部の廃止統合は行政の簡素化になるとは肯定しがたいと、委員会において明白に
答弁しているのであります。而も言うところの予算節減は年間僅かに十九万九千余円であります。
本案は、一連の行政機構改革案と共に内閣委員会に付託されたとしまするならば、内閣委員会の
審議状態から、或いは異
なつた結論が出たかも知れないとさえ
考えられる次第であります。これを要するに、
政府の部制廃止の原則に基く行政機構改革
方針にお付き合いをして、形式的に提案された本法案であり、而もその部制廃止の
政府の基本的
方針は、先刻申述べましたるように、すでに本参議院の総意で崩壊した。本日ここに本法案を可決することはナンセンスであ
つて、文化財保護行政に対する熱意不足を証明する以外の何ものでもありません。
次に反対の第二の理由は、文化財保護の行政上の責任を負うべき行政委員会である文化財保護委員会の性格をやはり
確立すべきにかかわらず、行政委員会としてあるべき形態を逆行せしめたことであります。一般論といたしまして、そもそも民主的行政の
確立のため、行政委員会
制度なるものは育成しなければならないと
考えまするが、
我が国の
現状は、行政委員会が諮問機関として
審議会のような実態に陷り、官僚政治、局長政治らしきものが一般に行われる傾向にあり、それに便乗して行政委員会を不当に整理廃止する方向を辿りつつあることは、嚴に再々反省しなければならないと確信するものであります。現行法で二十五ある行政委員会は、八月一日以後十二に減少整理されることにな
つているのであります。御承知のごとく、各行政委員会の委員長、委員に対しましては、俸給として月額五万三千円から六万四千円までの給與が支給されているのでありますから、その職務に専念し、委員としての責務を果し、事務局長以下所属職員を指揮監督すべきにかかわらず、一般に各種行政委員会の諸君は、少くして数個、多ければ十数個の種々なる機関に関與されるいわゆる知名人を充てているために、実質上行政委員会としての十分なる運営をなし得ない実情は、嚴に注意し、再検討をしなければならないと
考えるものであります。週一回定例日として
会議を持
つている文化財保護委員会が最もその成績優秀の部類であると行政監察委員会が評価している事実を以てしても、
我が国の行政委員会の実態が如何なるものであるかということは明白であります。現在問題にな
つておりまする
文化財保護法の一部を改正する本件の
政府原案では、現行の常勤有給の文化財保護委員五人を予算節減の立場から三人に減員する提案であ
つたのであります。特殊なる文化財に関與する行政委員会の性格から、広い分野から委員を選択する必要があることは申上げるまでもないことで、
衆議院においても、
政府委員においても、少くとも現行五人の
制度は必要欠くべからざるものであることを認めているのであります。然に
衆議院では、
政府原案の三人の常勤有給制を、委員長一人のみが有給常勤で、他の四人が無給非常動と修正議決して本院へ回付して参
つたのが
委員長報告にかかる
本案であります。そもそも特別職である一つの行政委員会の委員が、常勤有給と非常勤無給とに分れているがごとき例は全くないのであります。かくなれば、委員会の運営は変
つて来るでありましようし、必然的に委員会の性格そのものが変貌して来ることは申上げるまでもありません。文化財保護の
重要性から、飽くまで必要員数の委員が文字
通りその職務に専念する常勤有給制を布くべきで、かくしてこそ強力なる保護行政ができると共に、行政委員会の真価を発揮できると確信するものであります。修正案のごとき形態をとるにおいては、ただ一人の常勤有給である委員長の委員との比重並びに責任の重大化もさることながら、この道は行政委員会
制度の機構廃止に通ずる道であることは、看過すべからざる重要なことと
考えるものであります。而もこの修正が、現行法より百四十一万円の予算節減を目的とした、
政府原案の百四十一万円減の数字に合せる立場から逆算して案出されたことは、
衆議院側の認めるところであります。ナンセンス以上の何ものでもありません。
〔副
議長退席、
議長着席〕
最後に、本法案で、奈良国立博物館が分館から独立したことだけは喜ばしいことであることを申し添えておきます。私は、先般義務教育費国家負担法
審議の本壇上から、政治権力の立場にある者の我らの文教行政に対する軽視を警告しましたが、私は以上の所論から、良識上断じて
本案に
賛成することはできないのであります。
以上を以ちまして反対の理由表明といたします。(
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