○矢嶋三義君 私はこの際、教育
委員会制度にからむ教育政策につきまして、総理大臣、文部大臣、大蔵大臣、自治庁長官、地財委
委員長に対しまして、若干の緊急質問を試みんとするものであります。
政府與党は、我が国教育政治史上拭うべからざる一大汚点を印するところの重大なる過誤をなさんとしておるのでありまして、私があえて緊急質問を試みるゆえんでございます。関係大臣は詳細、明確に答弁して下さることを強く要望するものであります。
政府は、政府提案としまして教育
委員会法の一部を
改正する
法律案並びに教育
委員会の
委員の選挙の期日等の臨時特例に関する
法律案を五月六日、本院へ提案して参りまして、本参議院におきましては、五月七日、全会一致これを決し、衆議院に回付した次第であります
そもそも教育
委員会制度は、教育
委員会を如何なる地域単位に設けるかという設置單位の問題と、都道府県教育
委員会と市町村教育
委員会の事務担当区分の問題、更に教育
委員の選任方法の問題、教育財政の問題等、いずれも再検討を要する重要な問題がありまして、教育制度全般とも深く関連し、地方制度全般にも重要なる影響を持つものでありまして、独立後の日本に極めて大きな影響を及ぼす問題でありますが故に、政府に愼重な検討を期待し、政府提案として二
法律案を提案し、当参議院においても全会一致を以て可決いたしているのでございます。然るところ、七月四日、衆議院の文部
委員会におきましては、野党の総退場裡に與党の議員諸君のみを以てこれを否決し、来る七月二十五日休会明けの本会議において二
法律案を否決せんとするところの事態にあるわけであります。若しもこの二
法律案が否決された曉には、現在都道府県、五大市並びに市町村を通じて百八の教育
委員会が設けられておりまするが、その半数の教育
委員の改選と、更に新たに十一月一日から設けられますところの全国一万四十七の市町村の教育
委員会の
委員諸君の選挙、合せて約四万の教育
委員の選挙を十月五日に行わなければならないということと、それから教育長と職員を以て構成するところの事務局を全国の都道府県市町村に設けなければならないということ、これらの選挙に要するところの経費、これを新らしい教育
委員会を設置することによつて必要であるところの経費と合して、約六十五億と称されているのでございます。かくなりましたときに、果して教育の民主化と振興が期待できるかどうか。更に財政的にそれが可能であるかどうかと考えるときに、極めて憂慮されるのでありまして、我が教育界には一大混乱が起り、我が教育史上、重大汚点を残すことになると信ずるものであります。
私は先ず二
法律案成立を念願する立場から、第一点としまして首相並びに文相に御質問申上げまするが、この政府提案にかかるところの二
法律案につきまして、現在首相並びに文相は賛成であるか反対であるか。更に国民の大多数の者は、如何に希望していると把握されているかという点を先ず伺いたいのでございます。
次に、首相にお伺い申上げたい点は、若しもこの二
法律案に賛成であるならば、総理は如何に対処、善処されようとしておられるか、その点を伺いたいのでございます。あのドツグ・レース法案を悪法として葬り去つた吉田首相の政治的識見というものは、誠に私はあつぱれであつたと思うのでございます。曾つて吉田首相は本演壇上におきまして、我が国の振興は経済自立と教育の振興、この二本柱を以て対処して行くということを、この壇上から申されたのでございまするが、この段階において私は、総理の高き政治的識見と決断に待つ以外ないと考えるのでございまするが、総理は衆議院本会議において、この二
法律案の
委員会における再審議、差し戻しというような点に努力されるところの御意思はないかということを承わりたいのでございます。若しもこの二法案に総理が反対であるとするならば、私は総理にお伺いいたしたい。それは占領政治下に行なわれたところの我が国の財政経済というものが我が国の実情にそぐわない点がある。従つてそれらを或いは廃止し、或いは
改正するという立場において吉田政府は政治をやつて来ていると思うのでございます。その一つの例としましては、行政
委員会の再検討、行政簡素化、機構改革というものが国会に提案されておりまするが、これら一連の吉田政府の諸政策と背反しはしないかという点を主伺いいたしたいのでございます。
更に自治庁長官に対しましては、すべての市町村に教育
委員会を設けるということは、果して行政の簡素化になり、更に二
法律案に反対した自由党の諸君が申されるように、経費の節約となるのかどうかという点を伺いたいのでございます。
更に吉田総理にお伺いいたしまするが、吉田総理がよく開かれるところの教育懇談会、或いは教育
委員会制度協議会、政令
改正諮問
委員会、地方行政調査
委員会議、都道府県教育連絡協議会、都道府県の教育長協議会、全国地方教育
委員会連絡協議会、都道府県議会職長会、全国市長会、全国町村長会挙げて、市町村すべてに教育
委員会を設けることは反対の決議をなしているのでありまして、衆議院においてかくのごとき決定をされた本日、各都道府県においては、その議会において反対の決議を続々となしております。例えば
大分、鹿児島、長野、群馬、或いは
山口市、山形市、鹿児島市、和歌山市と枚挙にいとまがないほどでございますが、輿論に従うところの政治を行なつておるという立場から、かくのごとき圧倒的輿論を無視して、すべての市町村にこの十一月一日から教育
委員会を設けるということにつきまして、吉田総理は如何お考えになるか、その点が伺いたいのでございます。
次に、天野文部大臣にお伺いいたしますが、天野文部大臣は従来、すべての町村に教育
委員会を設けることは我が国の実情に即さないという見解を常に披瀝されておりました。更に私が冒頭に申上げましたように、種々困難な問題がありますので、天野文部大臣は文部大臣の最高の諮問機関として中央教育審議会を設置するところの文部省設置法の一部
改正案を本国会に提案し成立したことは、各位の御承知の通りでございまするが、未だに中央教育審議会は発足していない。いつ発足するのか。これに諮つて、文部大臣はその態度を決定しようとしておりましたのに、與党の諸君はこの中央教育審議会に諮ることなくして、常々文相の主張されておるところの見解と相違するところの、二
法律案を否決する態度に出たのでございますが、これは天野文政の構想を根本的に無視していることと考えます。私はここに天野文部大臣に承わりますが、かくのごとく教育政策につきまして、基本的に相違する與党の文教政策に天野文部大臣は屈服するのかどうかということであります。曾つて天野文部大臣は私の質問に対しまして如何に與党の決定といえども、それが間違つておることには私は断じて従わないということを再三再四述べられた過去の文部大臣の言動からして、私はこの点を強く御質問申上げる次第でございます。新聞で承わりますというと、文相は、與党の決定に従うほかないと、こういうことを申され、或いは毎日新聞には、今後事情の重大性によつては辞職することもあると、或いは栃木における談話においては、市町村に教育
委員会を設置するように、二
法律案が否決されても、私はやめないというようなことを申されておりまするが、いずれが文相の真意であるか承わりたいのでございます。(「君子豹変」と呼ぶ者あり)この二
法律案が否決されることによりまして、人事交流はできなくなるでありましようし、教育の地域差はますます大きくなり、教科書の検定は中央、地方の二重検定制度となつて、教科書行政にも一大混乱を生じさせるわけでありまして、今まで文教政策に努力されて参りましたところの天野文相というものは根柢から覆り、天野文相の努力は水泡に帰すると思うのでありますが、現段階においても天野文相は結局與党の無謀極まりなき政策に屈服するつもりであるかということを承わりたいのであります。私はこの段階において我が国の教育を守るという立場からは、天野文相としては職を賭しても無謀極まりない與党の反省を促すと共に、この二
法律案を否決せんとするところのその態度を阻止する意思があつて然るべきだと思うのでございますが、この我が国の教育を救う態度としては、この天野文相が職を賭して鬪う以外にないと考えますが、天野文相の信念を私は伺いたいのでございます。(拍手)
次に、首相並びに文相にお伺いいたしますが、それは解散を前にして総選挙を自由党の諸君が有利に闘わんがために、日教組の組織の弱体化を図る大きな手段として一万有余の市町村にまで教育
委員会を設けるという結論に達したということは、これはすべての輿論が認めるところでございまして、我が国の文教政策の根幹とも言うべき関心問題を党利党略、政争の具に供することに対しまして、首相並びに文相は如何お考えでありますか、伺いたいのであります。(拍手)
次に、私は二
法律案が否決された場合の立場について御質問申上げます。文相と自治庁長官にお伺いいたしますが、選挙告示まで僅か二ヵ月足らずの間に、果して、宣伝啓蒙が徹底し、的確な人物並びに事務的準備というものが可能であるかどうかということであります。一部町村の事務組合の教育
委員会を設置する場合におきましては、幾多の手続が残されておると思いますが、果して準備可能と考えられておるかどうか。従つて十月五日の農繁期に行われるところの教育
委員選挙を延期するお考えはないかということを承わりたいのであります。
更に文相にお伺いいたしたい点は、文相は教育
委員会を市町村單位にするつもりか、或いは市町村の一部事務組合単位にするつもりか、或いは市郡単位の教育
委員会にするつもりか、如何なる指導と助言をなされんとするかという点。更に最も重要であるところの教育長、指導主事の養成計画、並びにそれに要するところの所要予算並びに所要期間を如何に踏んでおられるか。曾つて六三制発足の当時に、中学校の教員の約七〇%は無資格でありました。そのような状態において発足したところの六三制が如何なる苦悩の道を歩いたかということは、皆様御承知の通りであります。教育は飽くまでも人を得るということが大事でございますが、最も大事な教育長並びに指導主事に人を得ずして、この一方有余に亘る市町村の教育
委員会が発足することは如何なる事態を招来するかということは明白と考えるのでありますが、これに対する文相の所見を承わりたいと同時に、更にこの二
法律案を否定するところの自由党の諸君が申されておるように、教育長と学校長を兼任させるというようなことは、果して教育
委員会法の精神から適当であるかどうか、この点についても承わりたいのでございます。次に、文相と自治庁長官にお伺いいたしますが、市町村立学校職員給與負担法第一條、教育公務員特例法二十五條の四、これを変更するのお考えがあるかないかということであります。若しないとするならば、教育公務員特例法の二十五條の六からして組合専従者は都道府県教育
委員会で認めらるべきであると考えますが、御所見如何でございますか。次に地方公務員法五十三條には、職員団体は條例で定めるところにより登録を申請するとあるが、各市町村に條例を作り、それぞれ登録しなければ県連合会は認められないかどうか。更に市町村の條例はいつ頃できるとお考えであるか、この点も伺いたのであります。
最後に、私は財政的な立場からお伺いいたします。大蔵大臣、文部大臣、地方財政
委員会
委員長に伺いますが、この十月五日に行われる選挙に要する経費並びにすべての市町村に教育
委員会を新たに設置することに要するところの経常費を幾ばくと踏んでおられるか。更に現在の地方公共団体の財政状態は極めて窮迫的状態にありますが、その地方財政を圧迫することに対しまして、これを排除するところの処理対策を如何なさるか。その予算措置の見通しは如何でございますか。お伺いいたします。地方自治体の業務中、約八〇%というものは国の法令に基く業務であると言われておりますが、常々その予算的裏付がないのが過去の例でございます。かくのごとき状況下に、新たに市町村教育
委員会を設けたときに、市町村は財政的に如何なる事態を招来するかという点について、私は御所見を伺いたいのでございます。先般、本国会において成立いたしました地方税法
改正案の修正による税収減を補う財政的対策は、如何お考えになつておりますか。殊に先般、月収の五〇%に当るところの越夏手当を支給いたしました。この財源の裏付を大蔵大臣は如何お考えになつておられるか。これらの問題を解決することなく、ここに市町村教育
委員会を設けるときには、まさに地方自治体というものは破壊の道を歩まざるを得ない苦境に追込まれるわけでありますから、あえて私は詳細なる御答弁を煩す次第でございます。
次に大蔵大臣並びに地方財政
委員会
委員長にお伺いいたしますが、それはかくのごとき地方財政の窮状下に、すべての市町村に教育
委員会を設けることが果して妥当であると考えられておるかどうか。曾つて地方自治体警察の問題もありましたので、お伺い申上げる次第でございます。国立文教施設の整備費、戰災文教施設の復旧、これらの所要見積額は五百億と言われておりますが、我が国の財政状態から、僅か十三億三千万円しか予算が組まれない実情であり、あの
東京水産大学は元の海軍通信学校の便所、洗面所を研究所として使つておるような実情でございます。かくのごとき実情の下に市町村教育
委員会を国費六、七十億も費して設けるということが、果して妥当であると考えられておるかどうか、これは私は大蔵大臣にお伺い申上げる次第であります。
以上、教育
委員会制度にからむ教育政策に関しまして、首相以下関係大臣に御質問を申上げましたが、若しこれを誤まるならば、我が国教育史上に一大汚点を印する、取り返しのつかない事態が起つて参りますので、詳細なる御答弁を要求いたしまして私の質問を終る次第でございます。(拍手)
〔国務大臣吉田茂君登壇、拍手〕