○大山郁夫君
議長並びに議場の皆様、私は第一クラブの同僚諸君の承認の下に、今日の案件である
国際連合への加盟について承認を求めるの件に関して、私の個人的反対
意見を述べることを許されて、これに立
つておるものであります。勿論、私は
委員会において私の論点をたくさん持ち出したのでありまして、今それを要約して十五分間に
言つてしまうということは、もう私にと
つて非常に不可能なことなのでありまして、それはできない。それで私は、丁度私があのとき持ち出しました論点に対して二、三のかたから反駁を受けた。そうして、その反駁に対して私が反駁することを許されなか
つたのでありますが、その私が反駁を受けたそういう点に対して、私の
意見をここで述べるのが、この十五分間を利用する最良の方法と
考えるので、それをさせて頂きたいと思うのであります。
それで、私は勿論、
国際連合加盟承認を求める件に対して反対の
意見を述べるのは、少くとも二つの
立場からこれをすることができる。一つは、如何なる状態の下においても、如何なる
事情の下においても、
国際連合に加盟しないという
立場がある。それからもう一つは、現在の
国際情勢の下において
日本が
国際連合に加盟するということは当を得ない、今はその時期でないという、こういう
立場がある。私の
立場は後者のほうであ
つたのであります。即ち現在の
国際情勢に鑑みて、今、
日本がそれに加盟すべきでない。将来或いは
日本が
国際連合に加盟するということが非常に適当な時期が来るかも知れない。そのときには勿論話が別になる。こういう
立場から私の
意見を述べた。そうして、それに対して、私はさまざまの
立場から私の
意見を述べた。
委員長の
報告にもありました
通りに、私は第一には、あの侵略の定義からこの問題は論議しなければならないということを言
つた。
国際連合にはあの侵略に対して非常にはつきりした定義が設けられていない。而も或る国の或る行動を侵略と呼ばわ
つて、それに対して武力制裁まで加えるというふうな、こういう重大な結果を含んでおるということを
考えるときに、やはり侵略の定義というものはなければならないという、そういうことを言
つた。それから又、そういうような調子で成る国を侵略者と言い、又或る国の或る行動を、或るときは侵略と言い、又或るときは侵略でないと言うというふうな調子でやられるというと、国際の秩序に非常な混乱を生ずるというような点も指摘しておいたのであります。それから又現在
日本が
国際連合に加入するというと、やはりそういう点からずるずるべ
つたりに再軍備をやる、又戦争の放棄の條文を廃棄してしま
つたり、憲法の
改正にまで追いやられる、こういう危険があるということも言
つた。又、私は現在のこの
国際連合の行動がだんだん反アジア的になりつつある。初めは反共というようなことが非常に注意されたのでありまするが、その反共が延いて反アジア的になりつつある。だから我々は
国際連合に加入する前に、この点を批判しなければならないということも申しました。それから最後に、あの
中共が、
中共と
言つていいか、中華人民共和国の
代表が、
国際連合に参加することを許されておらない。そのときに
日本が急いで
国際連合に参加するということは、ますます
中国を怒らせることになる。そうして
中国と
日本との了解を非常に困難にしてしまう。あの台湾承認、日華條約の締結ということについてさえ
日本は
中国を憤激せしめた。この上、又、当て付けがましく
国際連合に加入して、一層
中国の民衆を憤激せしめるということは、あの日中
貿易ということが非常な大きな問題にな
つている今日、そういうことをするのは当を得たものでないというような点をたくさん言
つたのでありますが、到底今日そういうことは申述べることはできないのでありますが、ただ侵略という言葉と、それから又あの内政干渉という点において、私に対する反駁が、その一部分は
岡崎外務大臣から、又一部分は曾祢議員からなされたので、その点に対して私の
立場をはつきりしておきたい。こういうふうに
考えております。
あの国連においてこの侵略に対するはつきりした概念が定められていないということは、これは
岡崎外務大臣もそれを認められたのであります。勿論一昨年の
朝鮮事変が起
つてから、殊に八月に入
つて開かれた安保理事会において、マリク・
ソ連代表が侵略の定義をはつきりと言
つた。マリク
代表はいろいろの点を挙げて演説いたしましたが、その中でやはり侵略の定義を言
つた。そうしてマリクは、
ソ連が
曾つて一九三二年の国際軍縮
会議において侵略の定義を提出した。それが、その年、やはり一九三三年中に、国際連盟の安全保障問題
委員会において十七万国によ
つて賛成されたということをはつきり
言つておるのであります。その十七カ国の中には、
イギリス、フランス、
アメリカ、それからノールウエーとい
つたような、国際的に非常に有意義な
立場をと
つている、そういう諸国の名前も見られたのであ
つて、殆んどそれは国際法としてのその効力を持
つているものである。ただ、あの国際連盟の安全保障問題
委員会の
代表の、二、三の
代表がそれに対して文句を附けたので、問題が一九三九年まで引張られて、とうとうその年にあの大戦が勃発したので、この定義をはつきりきめるということがお流れにな
つてしま
つたけれども、併しながら、もう今日、この
朝鮮戦乱の問題に関連しておるところの重大な国である
アメリカ、
イギリス、それからフランスの
代表はそれを認めているのだ。こういう定義を述べたのでありますが、そのマリクの論点に対して、
国際連合においては何ら反駁もなか
つた、賛成もなか
つたのでありまして、結局あの
国際連合は侵略に対する定義を持
つていないということになるわけであると思うのでありますが、これは非常に重大である。
岡崎外務大臣は、一向それは重大でない、いいのだ、こういう論調であ
つたのであります。侵略に定義がないのはいいのだ。なぜならば
国際情勢というものは刻々転変している。変動している。発展変化しているから、国際侵略の概念が固定化してお
つたら、その中にズレができる。こういう
お話であ
つたと思うのでありますが、併しながら、この侵略を構成している概念が発展変化しないものであるということを誰も
言つてやしないのであります。そういうことを、そんな馬鹿なことを
言つておる者は誰もないのである。いやしくも侵略という言葉を使う以上は、その侵略の定義を持たなくちやならない。そうして、その基礎になるところの
国際情勢というものが絶えず変動し、発展変化するものなら、それに沿うてあの侵略ということの定義も発展変化しなければならないものであると我々は
考えておるのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)少くとも侵略という言葉を使う以上は、この要素がなか
つたら侵略という概念は成り立たないという根本概念だけは示さなければならないのだが、それが
国際連合によ
つて示されなか
つた。これは非常に重大な問題である。即ち
国際連合は、法によらずしてすべてのものを裁断しているということを示したものであるということになると思うのであります。
現在破防法が論ぜられておるときに、よく言われてお
つた、あの
国家の立法権、司法権、行政権というものを一つの手に握
つてしまうということは、これは立憲政治でなくて専制政治だということを言われてお
つたが、
国際連合のやり方はまさに専制政治である。否、専制政治以上の専制政治であると思うのであります。専制政治においてもやはり、例えば由らしむべし知らしむべからずということを
言つておる。由らしむべしというのは、結局、法を示さないけれども、法というものを持
つている。法三章ということを言われておるが、法三章でも法五章でも、とにかく法というものがある。ただそれを皆に示さないだけであるが、併し法に由らしむべしというのが専制政治であるということを
言つておるのだが、
国際連合が侵略ということを盛んに用いながらその定義を持たないということは、法というものがないということを自白しておるものだと思うのであります。(
拍手)それは確かに無
政府主義的な
考えである。私は
岡崎外相或いは曾祢議員が無
政府主義者であるということを今まで問いたことがなか
つたので、そういうお説を聞いたときにはびつくりしてしま
つたのであります。そうして、殊にこの民主主義ということは、法的秩序の上に乗
つておる。法的秩序というものがどんなものであるかということを究明することから民主主義の概念が始まらなければならないので、法的秩序ということと、それから又民主主義ということは、離るべからざるものであ
つて、破防法というような悪法でも、悪法また法なりと言われておるのであ
つて、法というものが付きまとうのだが、法というものがなくて民主主義が成り立つものであるという
考えに、私は一驚を喫したのであります。
あの
世界大戦のときに、民主主義の思潮、デモクラシーの思潮が起
つて、そのために啓蒙運動が行われてから三十年間になる。その三十年間の月日がた
つておるのに、なお今日において
日本の指導者を以て自任しておられる人たちの間にこういう
考えがあるということを知
つたときに、私は日暮れて途遠しという
考えを抱かざるを得なか
つたのであります。(
拍手)だが、
世界平和のために、又民主主義のために、こういう
考えがあるということは許すべからざることである。その点から私は、あの
国際連合にその侵略に対する定義がないのがいいのだ、そのために
却つて我々は
国際連合を
信頼することができるという議論には、私はくみすることができないのであります。
それからもう一つ、内政干渉ということに関して、又、私の
立場を非難された。誰であ
つたか、私の
立場を非難されたのであります。これはあの
朝鮮の戦乱、あれは確かに民族の統一ということをめぐ
つて南鮮と北鮮の間に行われてお
つた鬪争から始ま
つたものであ
つたものであ
つたのでありまして、明らかにあれは
国内における二つのセクションの間における争いであ
つた。それに武力干渉を用いるということは、確かに内政干渉主義である。ところが、あの国連の憲章を見るというと、第二條において内政干渉主義を排斥しておるのであります。この国連憲章における如何なる
規定といえども、この国連に内政干渉の権利を與えるものではないということをはつきり
言つておるのである。併しながらその條文の最後に、但し、この
規定は第七竜に示しておるところの強制
措置をやるということを妨げるものでないという但書がある。その但書を捉えて、得たりかしこしと、国連は内政干渉主義を排除するという原則を立てておるのだが、その原則を、但書によ
つてすつかり取り崩しておると、こういう意味の御
発言があ
つたように私は思うのでありますが、これはとんでもない勘違いではないか。初めのほうに内政非干渉主義をはつきりと
言つておるのは、あの但書に示されておる原則というものに対する或る制限を置いたのでありまして、或る国を侵略者と認めて、それに対して武力制裁をするときには、よほど
考えなければならない、こういうような意味をはつきりされたので、あのときに、曾祢議員でありましたか、一国の内政に干渉しないということは大切であるけれども、併しながらその国が或る行動をと
つておる。それが国際的秩序を害するものであ
つたらば、それは、国連は直ちにそれに対して、武力干渉でも何でもできるというような
お話であ
つたように思うが、併しこれは非常に乱暴な議論ではないか。成るほど或る場合には、そういうのは国際的秩序を撹乱するから、それで、それに対して武力行動をとることも又止むを得ないというような、こういう議論が成り立ち得る場合もあるだろうけれども、併しながら、どんな行動でもみんな片端から、これは国際的秩序を紊すものだとい
つてしま
つて、それに対して武力干渉を行うということは、これは丁度あの侵略の定義をきめないで侵略者を制裁すると同じように、無法な、法がない状態であると私は思うのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)それから、殊にあの
朝鮮が、南鮮、北鮮が民族統一問題を通して争
つておるということが、それがどうして国際的秩序を紊したということができるのであるか。それよりも、それに武力制裁を加えるということこそが、本当に国際的秩序を紊したものであると我々は
考えておるのであります。(
拍手)事実そうだ。それで、その結果もそう
なつた。事実あの韓国を
援助すると
言つて、そして武力制裁を加えるように
なつた。一週間か二週間で片付くと言われてお
つたんだが、二年後の今日に至
つても片付いていやしない。そして
朝鮮の全土が破壊された。ただ北鮮が破壊されただけじやない。南鮮は
援助されたはずだが、併しながら南鮮の上にも爆弾が飛び、大砲が鳴り、又兵隊がそれを蹂躪してしまう。そうして百万以上、正確な数は知らないけれども、百万以上、或いは幾百万の
朝鮮人全体が、或いは殺され、或いは傷つき、或いは家を失い、或いは西に東に浮草のようにさまよ
つておる。そうして、もう今日、
朝鮮の山河というものは荒れ果ててしま
つて、見るに堪えないような状態にな
つて来て、
朝鮮人は有史以来のこの
国民的悲劇を嘗めておるのであるが、こういうような結果を持ち来たしたその国連軍の武力干渉というものが、国際的秩序を紊していないものとすれば、一体何が国際的秩序を紊すことができるかという問題が生ずるのであります。そういうふうに我々は
考えておるのであります。(「
議長、時間」と呼ぶ者あり)
それからもう一つは、あの国連憲章の二十七條にある手続法がすつかり蹂躪されてしま
つておる。
国際連合においては、重要な問題に関しては、
国際連合の安保理事会を構成しておる十一カ国のうちの七カ国の賛成投票がなければならないので、その中で殊に重要な、重大問題に関しては、常任理事国を構成しておる五カ国の賛成投票がなければならないという
規定があるのでありますが、あの国連の武力干渉をするということをきめた安保理事会においては、そういうような七カ国のその賛成投票がなか
つた。第一に、中華人民共和国の
代表者は正式の
代表でないと
言つて承認せられておらない。そういうようなわけで、この安保理事会が合法的に成り立たないという
理由によ
つて、
ソ連の
代表はそれに行かなか
つた。ただ、あの七カ国の投票というのが、これは英米仏或いはエクア
ドルとか、そのほかの国、殊にあの非合法に安保理事会に出席した
中国国民党の議員、チヤンテインフーとかシヨーテーフー(蒋廷黻)というのか知りませんが、そういう人、即ち非合法にそこに参列している人の投票を入れて、やつと七カ国できたのである。あの手続法というのは非常に重要なものであると思
つたのだが、これが白晝公然と蹂躪されておる。その方法が果して公正であるか。又これが国際的秩序というものを紊さないものであるかということに対して、私はお答えを得たいのであります。(
拍手)
それから又もう一つは、北鮮に対して、平和の破壊者であるとか或いは侵略者のレッテルを貼り付けようとするときには、そういうことをきめる事実というものに対して、精密な、科学的な調査が行われなければならないのでありますが、そういう調査は行われなか
つた。国連の
朝鮮委員会の
報告に基いて、そうした、大体議事がきま
つたようでありますが、併しながらあの国連
朝鮮委員会というものの
報告が
信頼できないということは言うまでもないことなんでありまして、初めからもう北鮮を侵略者ときめてかかろうとしておる。国連の選出した
委員会なんだから、そこから公平な
報告が生れるはずはない。あの時に公平な
報告を得ようと思
つたら、先ず北鮮の
委員会と南鮮の
委員会とを対決せしめて、両方それぞれ自分たちの
立場から物を言わしめて、それから判断すべきはずであ
つて、又北鮮のほうはその準備をしてお
つたのであります。併しながら国連においては北鮮の
委員会を呼ぶと都合が悪いと思
つたんでありましよう。南鮮の
委員会の言うことだけは聞いたが、最も大切な北鮮
委員会の言うことを聞こうとしなくて、北鮮
委員会をしてあの国連に寄せ付けなか
つたのであります。こういう手続によ
つて本当に公平な判断がなされるか。我々東洋人は、昔から片言訴えを聞かずというような、こういうことを信條としておるんだが、併しならがらこれは東洋人だけに適用すべき一つの原則ではないのでありまして、公平の原則としては
世界的に効力のある原則であるということを我々は信じておるのでありまするが、国連は……。