○河井彌八君
恩給法の
特例に関する件の
措置に関する
法律案につきまして、内閣
委員会における
審議の
経過並びに結果を御
報告いたします。
先ず順序といたしまして、この
法律案の提案の理由とその
内容とを御
説明いたします。この
法律案は、ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く
恩給法の
特例に関する件と題する
昭和二十一年勅令第六十八号につきまして、
講和條約の
効力発生に伴う所要の
措置を講じようとするものであります。旧軍人軍属及びその遺族に支給する恩給及び扶助料の
措置を如何にするかという事柄であります。
昭和二十年十一月二十四日、連合国最高司令官から
日本政府に発せられました覚書によりまして、この勅令が制定せられまして、
昭和二十一年二月一日から
施行せられることにな
つたのでございまするが、この勅令によりまして、軍人及びその遺族並びに
昭和二十一年閣令第四号第一條に
規定する者以外の軍属及びその遺族の恩給給與は禁止又は
制限せられて今日に至
つておるのであります。
政府は、これらの廃止又は
制限せられた軍人軍属の恩給の
講和條約の
効力発生後における復元の
措置につきましては、その復元の
措置如何が国家財政その他各方面に及ぼす
影響の大いなることを
考慮いたしまして、特に愼重を期することといたし、
講和條約の
効力発生後、新たに総理府の附属機関として
恩給法特例の
審議会を設置いたし、その
審議会の公正妥当な結論に基いてこの問題の
措置を講ずることとし、明年、即ち
昭和二十八年三月三十一日まで、右に述べました軍人軍属及びその遺族に対し、現在のごとき恩給取扱を継続することといたしまして、
恩給法の
特例に関する件と題する勅令をば、この
法律施行の日以後
昭和二十八年三月三十一日までは
法律としての
効力を有するものとして存続せしめようとするのであります。即ちこの
法律案の第二條及び第三條並びに附則第三項の
規定がこれに当るものであります。以上がこの
法律案の主要な
規定の
内容でありますが、なお、そのほ
かに恩給法の
特例に関する件と題する勅令中、
講和條約の
効力発生に伴
つて不要となりまする
規定を削除することとしてあるのであります。即ちこの
法律案の第一條及び附則第二項の
規定がこれに関するものであります。内閣
委員会は、厚生
委員会と
連合委員会を二回、内閣
委員会を四回開きまして、この
法律案の審査に当
つたのであります。元軍人軍属及びその遺族の恩給に関しましては、第十三回
国会の開会以来当院に提出せられました請願は百六十四件、その請願者の数が四万九千六百十六人、又陳情は六十七件、その陳情者の数が七千四十八人という極めて大いなる数に上
つているのであります。如何に多数の元軍人軍属並びにその遺族の人たちがこの恩給の問題について重大な関心を持
つて心を痛めているかということが、これによ
つても窺われるのであります。内閣
委員会は、かような
事情をも
考慮いたしまして、この
法律案を極めて愼重且つ熱心に
審議をいたしましたのであります。
法律案の全般の問題につきましては、保利内閣官房長官、池田
大蔵大臣、三橋恩給局長より、又特に
法律問題につきましては、佐藤法制
意見長官、奥野参議院法制局長から
説明を求めたのでありまするが、内閣
委員会及び内閣・厚生
連合委員会におきます
審議によ
つて明ら
かにされました点を次に申上げます。第一点は、軍人恩給に対する
政府の方針についてであります。
一般のポツダム勅令、ポツダム政令は、
講和條約の最初の
効力発生の日から六ヵ月で
効力を失することとな
つているのに、軍人等の恩給停止を
規定しているポツダム勅令第六十八号だけを特に約一
年間有効にせんとする理由は如何。元軍人に対しこの際何らかの暫定的な援護
措置を講ぜずしてこれを放置いたし、依然として恩給停止の
状態に置くことは、結果において元軍人に対する懲罰の意味と解するのほかはないが、
政府は元軍人特に老齢の元軍人に対して、この一
年間を待たず暫定的な
措置を講ずる考えを持
つてはいないか。
政府は軍人恩給の復元の時期を繰上げて、今年度の補正予算において軍人恩給の支給の
措置を講じ、復元の実現を促進する考えはないかというような点につきまして、多数の
委員から
質疑がなされたのであります。これらの
質問に対しまして、保利内閣官房長官は次のように
答弁いたしているのであります。「
政府は軍人恩給の問題を極めて重要な事項と考えて
考慮を加え来た
つている。
法律で恩給の支給を確約しておつたことが終戰後履行ができず、反故のような
状態に陷らざるを得ない事柄に
なつたことにつきましては、元軍人のかたがたの心持は察するに余りありと思
つております。
我が国は、被占領中はいたし方がないといたしましても、独立後の今日においては、
政府も
国会も挙げてこの軍人恩給の問題について、
我が国の現下の財政
経済状態等を勘案いたしました上で、
一般世人の納得の行くような解決を図ることが必要であると考えている。
政府は終戰後軍人軍属及びその遺族に対して十分な
措置を講じようと
努力して来た
つたのでありまするが、何分被占領下にあつたがために十分な解決ができずに今日に至
つている次第であ
つて、ただ僅
かに戰傷病者と職長者の遺族の援護について、先に総司令部の承認を得まして暫定
措置を講ずることができたのでありました。今日
我が国は独立の地位に立つことにな
つたのであるから、この
法律案によ
つて恩給法特例審議会というものを設け、この
審議会によ
つて軍人恩給の問題を
調査審議して、結論を得て、実現の段階に至るまでには一
年間くらいの期間を必要とするだろうと考えまして、この
法律案を提案した次第である。
政府は過去日清日露等の戰役において一身を犠牲として国家のために盡した元軍人のかたがたに対して、十分な恩給の処遇を講ずることは緊急な問題と考えて、今後も十分誠意を以て軍人恩給の復元に
努力する決意であ
つて、本年度に実現するということを言明することはできないけれども、若し財政上本年度内においても実現し得る見込が付くならば実現に
努力したいと考える。要するに、
政府はこの軍人恩給に関する問題については、すべてこの
審議会の今後の
調査審議に期待をかけているのであ
つて、軍人恩給について
かくかく具体的
措置を講ずるということを言明することのできないということの
事情を了承してもらいたい」というのでありました。又池田
大蔵大臣は財政当局の
立場から次のような
答弁をいたしております。「元軍人軍属のうちで戰傷病者と戰歿者の遺家族の援護は一日も遷延しがたい
事情にあるので、
政府は先にこれに関する
法律案を提出いたし、その実現を見ることと
なつたが、元軍人軍属の恩給の処遇につきましては、でき得る限り速
かに、又財政の許す限り十分な支給をなし得るように誠意を以て
考慮しております。
昭和二十七年度中に準備を整えて、二十八年度から実現したい考えである。元軍人軍属の恩給加算を元のままで実現するとするならば如何ほどの額を要するか、又この加算をいま少し圧縮するとしたならば如何ほどの額になるのであるかというような問題を、
只今財務当局として
調査中である。
昭和二十七年度中に軍人恩給を絶対に実現しないという考えではない。若し本年度中に
審議会で結論が出て財政が許すならば、本年度内にも実現したいと考えている。元軍人軍属に対して恩給復元の実現に至るまで、本年度内に暫定的援護
措置を講ぜよという問題につきましては、この問題は軍人恩給全体の問題と見合せて解決すべき問題であ
つて、これを切り離して実現することは困難であると考える」という
説明でありました。かような
答弁によりまして、この軍人恩給復元の問題につきましては今後でき得る限り十分な
努力をするという、
政府の誠意のあるところを窺うことができたのであります。
第二点は、
恩給法特例審議会についての点であります。この
法律案第三條第二項におきまして、
審議会の
組織等は政令で定めるということにな
つているのでありまするが、恩給事務当局の作成した政令案によりますると、この
審議会は、内閣総理大臣に建議し、内閣総理大臣の諮問に答申する機関とな
つておるのであります。又その
審議会は
委員十五人以内を以て
組織し、必要があるときは臨時
委員若干人を置くことができるとな
つております。これらの
委員及び臨時
委員は
関係行政機関の職員及び学識経験者のうちから内閣総理大臣が任命するということにな
つております。この
委員の選定につきまして、
政府は権威ある者を挙げるということを言明いたしたのに対しまして、
委員会におきましては、この
委員の選任は
政府の最善の選択に任すのであるけれども、そのうちに国
会議員を入れるかどうかというような点に関しましては、
委員のうちではこれを否とする
意見が強く出ておりました。又受給者即ち元軍人側から入るべきかどうかという点につきましては、
全会一致の
意見として、それを入るべしということの
意見が出てお
つたのであります。
第三点は、先に挙げました
昭和二十一年勅令第六十八号
恩給法の
特例に関する件の第一條の
規定の解釈に関する点であります。この
規定によりまして、元陸海軍の軍人軍属又はその遺族の恩給は、單に停止せられたものと解するのか、或いは廃止せられたものと解するの
かにつきまして、法文の上から必ずしも明確な解釈を下すことができずに、いろいろな疑問の点がありましたので、この解釈の問題につきまして佐藤法制
意見長官と奥野参議院法制局長に対して
質疑をいたしましたが、その結果はかようであります。佐藤長官と奥野局長との
答弁は大体一致しておりまして、「前述の勅令第六十八号第一條の「恩給はこれを給せず」という表現は、
恩給法上の用例から停止の意味と解すべきものではなく、廃止の意味に解すべきである。併しながらこの勅令はほかのものと異な
つて、総司令部の
日本政府に対する覚書に基いて、
恩給法の
特例という形でできてお
つて、基本法の
恩給法には何ら手を着けていない。即ち勅令第六十八号は特別法であり、
恩給法は基本法であ
つて、この特別法である勅令第六十八号が失効することになれば、基本法である
恩給法は軍人恩給について働き出すこととなり、軍人恩給は復活すると同じ結果になる」という解釈であります。 第四点は、軍人恩給が復元した場合の軍人年金恩給受給者の数と恩給金額の点であります。三橋恩給局長は次のような
説明をいたしております。「軍人恩給の既得権者の数を基礎にいたしてこの軍人恩給の受給者の数を推定いたしますると、軍人恩給が廃止に
なつた
昭和二十一年二月一日現在におきましては七百二十五万人となり、その恩給金額は、軍人恩給廃止当時の支給水準によ
つて計算すれば約二百四十二億円、又
一般文官の恩給改定の例に準じて現在の支給水準に引直して計算いたしまするならば約二千三十一億円となる。次に、軍人恩給が廃止せられた後、今日までの六
年間に死亡等による失権を想定いたしまして、これを控除したる場合(第七項症の増加恩給受給者及び傷病年金受給者はこれを除き、又普通恩給と普通扶助料については実在職年に対する加算を
考慮せずして計算した場合)には、その人数は百四十四万六千人となり、現在の支給水準によ
つて計算した恩給金額は約七百十五億円となる。」という
説明でありました。 内閣
委員会は、以上申述べましたような愼重な
審議の過程を経ました末に、軍人恩給問題に対する
政府の意のあるところを知りまして、又この
法律案の
内容を了解するに至りましたので、一昨日の
委員会におきましては次の希望
意見を表明することに出席
委員一同の
意見の一致を見たのであります。一、
恩給法特例審議会においては、軍人恩給の問題を
調査審議したる上、成るべく速
かに結論を得るよう取計らわれたい。又高齢の元軍人軍属及びその遺族に対しては特に急速に実施の必要を認めるから、その点についても特に配慮を望む。一、元軍人軍族及びその遺族へ支給する恩給の額は、国家財政の許す限り、他の事項とも均衡を図りたる上、成るべく多額に支給されんことを望む。
一、元軍人軍族及びその遺族へ支給する恩給の額は、国家財政の許す限り、他の事項ととも均衡を図りたる上、成るべく多額に支給されんことを望む。
というのであります。これに対しまして保利官房長官は、
国会の
意見はすべてこれを尊重して、これを
審議会の
審議に反映せしめますため、
会議の議事録をば
審議会の
委員に配付することといたしたい所存であるということを言明いたしたのであります。
かくいたしまして、内閣
委員会は一昨日の
会議において
討論の段階に入りましたところ、鈴木
委員から次のような
修正案が
発議せられました。その
修正案は、
恩給法の
特例に関する件の
措置に関する
法律案に対する
修正案
恩給法の
特例に関する件の
措置に関する
法律案の一部を次のように修正する。
附則第一項中「
日本国との
平和條約の最初の
効力発生の日」を「公布の日」に改める。
これは
説明を申上げる必要はないと思います。そこで鈴木
委員から、右
修正案の
発議の後に
原案賛成の
意見が出たのであります。次に竹下
委員から、
恩給法特例審議会に対して軍人恩給を
平和條約の
効力の発生の日に遡
つて支給するようにその実現に
努力せられたいという強い希望が述べられましてそうしてこの
修正案を含む
原案に
賛成せられたのであります。又三好
委員からは、恩給支給の時期を
平和條約発効の日に遡ること、恩給額は給與水準に対応して決定すること、この二点について
審議会は適当なる結論を出されんことを希望し、且つ老齢軍人に対しては特に早急の
措置を講ぜられんことを
政府に希望して、
修正案を含む
原案に
賛成の
発言がありました。又栗栖
委員からも同様の
賛成の
発言があり、最後に松原
委員からは、「
政府は
審議会
委員の人選に愼重を期してもらいたい。
審議会の結論は早急にこれを得るように
努力して、明年早々軍人恩給の実現を見るよう
政府の配慮を望む。なお、その実現までの間に援護
措置をも講ぜられたい。又軍人恩給は成るべく遡及するような
措置をと
つて欲しい」という希望
意見を述べて、
修正案を含む
原案に
賛成せられたのであります。
かくのごとくにいたしまして、出席しておつた各党各派からそれぞれ熱心な
賛成意見が発電せられたのでありました。
討論終了の後に先ず
修正案について
採決をいたしたところ、
全会一致を以て可決すべきものと決定せられ、次いでその余の
原案について
採決をいたしましたところ、これ又
全会一致を以て可決すべきものと議決せられた次第であります。これを以て
報告を終ります。(
拍手)