○岩間正男君 私は日本共産党を代表しまして、
只今議題になりました
連合国及び
連合国民の
著作権の
特例に関する
法律案に対しまして
反対するものであります。
委員長報告にもありましたように、本
法案は平和條約第十五條(C)の項によるところの取極を国内立法によりまして、もつと有利に而も補充解釈をしようというのがとの法の狙いなのであります。併しこの
法律案の
内容を検討してみますと、全くこれは日本の権益を保護するというよりも、外国人の
著作権の権益を保護する一方的な片務
規定に終
つている。これはあたかも、行政協定におけるところの国内立法としまして、刑事特別法とか土地使用特別法のような数々の片務的立法が、この講和発効の前後を通じまして
国会の中で続々これが通過を見たのでありますが、その中におけるところの文化面での最も隷属局な條件を露骨に示しているところの
法案と私は言わねばならないと思う。これでは、和解と信頼を表面に謳いながら、如何にも日本のためになるような見せかけをとつたこの平和條約が、如何にそれが言葉だけのものであり、実際は日本に
義務のみを強い、
権利の「かけら」だにないところの片務的な條約であつたかということを最も具体的に文化面において示しておるのが、この
法案だと言うことができるのであります。我々は、このような日本国内だけで独断的に有利に解釈するというような
法案の、いわば自己満足的なやり方、こういうことが
法案の根本的な狙いにな
つてはならぬと思う。
むしろ、ここで、こういうような
法案が立法されるならば、先ほども問題になりましたように、この占領中におけるところの
著作権の問題というものは実に複雑怪奇でありまして、そうして又日本側には非常に不利な状態が押付けられているので、この不利な状態を講和に伴いましてこれを是正する、そうしてその
権利の回復を図る。こういうところに本
法案の狙いが私はなければならないと思うのであります。
例えばどういうことが行われているかと言いますと、占領中におきましては政令二百七十二号によりまして、外国の翻訳
著作権というものは日本側には全然認められなかつたのであります。そうして原著者及び外国の仲介業者にこの
権利が全部移転した。その結果、日本の出版業者は、これらの外国の原著者並びに仲介業者に対しまして相当高額な印税を取られて来たのであります。これは非常に戰争前の状態とは様子が違
つておる。而もこの真の狙いは何であつたか。これは言うまでもなく、日本の出版物に対するところの検閲制度を表面はとることができないので、実はこういうような許可制によりまして検閲制度をひそかにとつたという、この占領政策の一つの方向であつた。こういうことが明らかにされております。その最もひどい例を私はここに挙げてみましよう。シー
トンの「動物記」、内山賢次氏の訳でありますが、これに対しまして
著作権保管者、シー
トン夫人が原著者でありますが、この
著作権保管者としまして、イギリスのクリステーモーア社を通じましてこの
著作権の譲渡を願つた。このときに、七・五%、七分五厘で以て譲渡されたのであります。ところがこれに対しまして、いつの間にかアメリカの仲介業者のトーマス某なる者がこの中に入りまして、交渉権を自分が得たというようなことで以て、先にすでに契約をしました承諾書を取上げてしま
つて、そうしてこれを返さない。あとでこのことを出版社のほうから交渉しますというと、全然そういうことは知らないと、こういうことの名目の下に、七分五厘で契約をされましたところのこの印税を九分に引上げておる。仲介業者がこういうような実に悪どいことをや
つているのです。こういうような問題につきまして、これは一例に過ぎないのでありますけれども、こういうようないろいろな占領中の契約によりまして、既得趨、それからいろいろな
権利が侵害され、又はいろいろな不明朗な形にされておる。こういうものを是正することが本
法案の狙いでなければならないと私は思うのでありまするが、こういうような現実的な、而も今後多くの紛争を孕むであろうところの問題に対しては、この
法案は何ら手をかけていない。こういうことであります。こんなことをやりますというと、ここで、この
法案によりまして、今後、又再びベルヌ條約に戻るというとになりますと、戰争中のこういうような混乱を、どのように今後解決するかというようなことにつきましては、これは、この
関係者を我々は
委員会に参考人として出て頂きまして、その実晴を聽取したのでありまするけれども、全くこれは
方法が立たない。こういう問題を解決しないで、こんな
法案だけ作られた
つて、問題にならないというような
意見を申されておるのであります。これをイタリアの平和條約と比べてみますと、遥かにこの点については不利であります。つまりイタリアの平和條約によりますと、こういう問題については第十五附属書の一ノ(ハ)の
規定によりまして、こういう問題については一年間の期間が與えられて、これら権益の不法侵害に対しましては、その期間内に交渉して回復するということが
規定せられておる。ところが日本の場合には、何らそういう
規定がない。そうしてお
つて我々の講和條約は、イタリアの平和條約より遥かに友好的なところの、和解と信頼に満ちたものであると、こういうことを
政府は謳
つておる。併しこういうことは我々は了承することができないのであります。
従つてこの
法案は、文部省が技術的に
提出して来て、文部省から
説明を聞いたのでは全然わからないので、
委員会としましては、外務省の
関係者
諸君を
委員会に招致いたしまして、その
内容を聞いたのであります。ところがこの交渉
経過に対しましては、岡崎国務大臣は、自分はその時の
責任者でないから、どうもわからない。
従つて第十四條の線で今後努力するというような、誠にこれはあいまいな
答弁であります。又当時の條約に最も中心的な努力をした西村條約局長に対しまして、これらの交渉
経過はどうであつたかということを私は
質問したのでありまするが、それに対しましては、講和條約によ
つて既成事実に変更を加えることは非常にむずかしいというアメリカ側の
意見であつたと、そうして、それに対してどういう折衝をしたかというと、残念ながら、因果を含められるような、そういうことに対しては了承せざるを得なかつたと、こう言
つて、その場合に如何に一方的な交渉
経過であつたかということをまざまざと告白しておるのであります。私はこれを聞きまして実は唖然としたのでありますが、併しながら西村條約局長は正直だと言
つて、私はその正直さを賞めたのであります。
こういう形で日本の講和條約というものの性格が出ておる。講和條約の性格がこういう文化面にはつきりと出ておるのであります。今問題にな
つておりますのは、これに
賛成した
諸君の言い分を聞いてみますと、まあ平和條約を承認したのであるから、これに基くところの国内立法であるから止むを得ないということで、このような不利であることは誰一人として認めぬ人はいない。にもかかわらずこれに
賛成しておるということになると、これは一体どういうことになるか。こういう不利な態勢をいつどこで、どの線でこれを回復するかという保障がないのです。私たちは、平和條約には、これはいろいろな具体的な事実を本当に握
つていないから、漠然とした形で
賛成したかたもあるかも知れないけれども、その後出て来たところの安保條約並びに行政協定、並びにこれらに伴うところのいろいろな国内諸立法、こういものが、如何に我々日本民族の首を絞めるような性格を持
つておるものであるかということをはつきりまざまざと見たのであります。こういうものに対しまして、一つ一つ我々がはつきりした態度を持
つて立ち向
つても、私たちは遅くないと思うのであります。([簡單々々」と呼ぶ者あり)もう大前提はきま
つているのたから仕方がないのだと、こういうことで今後進むということでは、我々日本民族の権益というものを守り抜くことはできないと思うのです。こういう
関係で文部省や外務省が、こういう複雑な、そうして日本に不利な問題に対して、十分に我々がタツチすることができないままで国内立法でや
つておる。こういうことは、非常に今後の文化交流にと
つて我々ば不利であります。こういう不利な態勢をいつまでもこれを続けることはできないし、而もこの
法案を急いでいるのは、今申しましたように、これは国内の補充解釈、而も国内だけの問題としてこれは作られておる。いわばこんな
法案はあ
つてもなくてもいいのです。そういう点から、例えばこれに対しまして日本
著作権協議会は、次のような三つの
理由を挙げて
反対しております。
その三つの
理由というのは、第一は、「文部省当局は対日平和條約十五條C項に関し、
我が国に有利な補充解釈
規定を挿入したと言
つているが、果して有利かどうか結論が出て來ない。例えば第四條2項、第六條括弧内但書などは、むしろ今後紛糾の種を播いている。よ
つて補充解釈
規定は先ず削除すべきである。」こういうことを言
つてる。第二に、「この解釈
規定は如何なる外交上の取極によるかは知らないが、少くともこのような独断的解釈
規定を恒久的に立法化し、将来外交上の交渉の余地をなくすることは賢明な
措置とは言えない。少くとも今後の外交交渉によ
つて、このような不利な事態が少しでも改善されて行くことが望ましい。立法はこれらの外交上の見通しが付いたときでも決して遅くはない。」こういうことを言
つている。第三には、「新憲法は旧憲法とは違
つて、條約が国内法に優先し、而も直接に
国民に対し効力を有するものであるから、前項の
理由で解釈
規定を削除すれば、同
法案は條約の
内容をそのまま移したことにな
つて、全くこれは無用なことになる。こういうことを挙げているのであります。
こういう
反対理由、
関係者のこういうような一致した
反対理由でも明らかなように、今これを急いで何も作る必要というのは少しもない。仮に我々が自己満足的に、国内だけ有利に解釈しましても、問題は相手のあることでありますから、飽くまでこれは平和條約の線で以て
決定されている。これは自己満足の立法と言わざるを得ない。この自己満足の立法に我々はこのような大きな時間を拂
つている暇はないと思う。こういう点から考えまとて、私は先ずこの
法案に対しまして
反対せざるを得ない。
第二の
理由としまして挙げたいのは、これはこの
法案によりますというと、この
法案の適用を受けるのは、これは平和條約調印国の
著作権に関するものでありまして、未調印国、その中で特にソ連、中国、こういう国を除外しているのであります。成るほど政治吉お要しては、いろいろな
関係、政治、外交上におきましては、現在
吉田内閣は反共鎖国の政策を推し進めているようであります。併しながら、経済的な問題、更にもつと撃がりを持つところの文化的な問題、こういうような問題に対しましても同じように反共鎖国的な政策をとるということは、果して日本のために有利であるるかどうかということを私たちは考えて見たい。まさにこれは文化における反共鎖国の政策だと言わざるを得ない。殊に文学の場合を考えてみますというと、日本の近代文学におきまして大きな二つのこれは私は要素があると思う。その要素をなしておるものはフランス文学とロシア文学であります。従いましてこのロシア文学の
精神が、十分に今まで日本文学にこれは地下水のようにいろいろな意味で滲透している。(「時間だぞ」と呼ぶ者あり)こういうような意味から考えますときに、そういうようなものを削除して、そういうような文化交流の面でこれを除去することは、私は非常に不利だと思う。これは文学だけ」やありません。音楽についても映画についてもそういう面が起
つて来る。これは非常にやはり政治的
目的を以てこういうようにされていると言わざるを得ない。こういうことは、私たちはこれは非常に愚かしい、自分みずからの、これは手足を奪うような、眼を塞ぐようなやり方でありすして、これは愚かしいやり方と言わねばならないのであります。(「その
通りと呼ぶ者あり)我々はこれに対しまして、飽くまでやはり文化的交流をなして、世界の情勢について十分に見る眼を開く、そうして本当に真相をつかむ、こういうことを我々は努力しなればならない。そういうことをしないことによりまして、我々は一方的な向米一辺倒をやりますことによりまして、そういうような文化面だけを吸收するということは、御承知のように日本の現在の、この植民地的風景が出て来る。我々はやはり栄養失調に陷
つてはいかんと思う。あらゆる物を食べて見なくてはならないと思う。こういうことが文化を輸入するところの
原則であります。(「時間だ」と呼ぶ者あり)
原則だ。こういう
原則を全く除去してしまうようなところに、この
法案が実際は役割を持
つて来る。こういうことになりますというと、私は
吉田内閣の政治外交におけるところの鎖国政策についても問題があるのでありますが、経済並びに文化面において、こういうような除去をやるような、こういう態勢に対しまして、これは
賛成することができない。(「共産党だけだ」と呼ぶ者あり)こういうような点から考えまして、これは共産党とか何とかの問題じやありません。(「その
通り」と呼ぶ者あり)いわゆる日本民族の問題で、そうして日本民族を再びあの馬鹿げた、馬車馬のように眼に目隠しをされないように我々は力説しているのでありまして、こういうような態勢から、こういうような方向を助長するところの
法案に対しまして、私は断固
反対するものであります。(
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