○岩間正男君 五月一日
人民広場で
メーデー労働者に大暴圧を加え、多数の死傷者を出すに至
つた警官隊は、その後、半気違いのようにな
つて、誰彼の見境いもなく検挙を続けているのでありますが、八日夜半、早稻田
大学に不法乱入して大
暴行を働き、遂に無抵抗の
学生に大きな危害を加えるに至
つたのであります。このことは誠に言語に絶する
行為であり、
人権擁護並びに
学問の自由にと
つて到底許すことのできない反逆
行為であります。私はここに
日本共産党を代表して、これら
事件の真相を徹底的に糾明し、その
責任の所在を明らかならしめんがために
吉田首相並びに関係閣僚諸君に
質問するものであります。
先ず私の第一に
お尋ねしたいことは、
警官の
早大侵入の動機並びにその
方法等についてであります。この点に関し
警察並びに
政府側は、
警官の
早大立入りは
メーデー事件の容疑者逮捕のためである、その公務執行に対し
学生側は
次官通牒を楯に取
つてこれを妨害したと強調し、飽くまで自分の
暴行を合理化せんとしているのであります。現に天野
文相は一昨日の
衆議院本会議において、
学生側のかかる
行動は非合法であると断じていることである。これは
次官通牒の当の
責任者である
文部大臣の言としては甚だ軽卒極まるものであります。無
責任な放言と言わなければならないと思うのであります。先ず当日
早大に赴いた
警官は私服であ
つて、
学生たちに捕われるや、その一名は卑怯にも逃げ出している。而もそのつかま
つた一人は、その職業を尋問されるや、
飴屋であると僞わ
つているのであります。而もなお追及されるや、止むなくその正体を告白している有様であります。これが果して正々堂々たる
警官の態度と言えるかどうか。若し内心何らやましいことがなか
つたならば、制服を着用し、初めから堂々と用件を告げるべきではなか
つたかと思うのであります。
学生に対する
警官の態度は全く欺瞞と不誠意に満ちている。これこそは依然として何ら変りない特高
警察のやり方であり、岡つ引き、スパイ根性であります。若しこうしたスパイ活動が許されるなら、
学園は今後果してどのような
方法で
次官通牒の線を守り拔けるか、はつきり伺いたいと思うのであります。
木村法務総裁は、
学園におけるかかるスパイ
行動を依然として容認するのであるかどうか、この点は誰も触れておりませんが、これは、はつきり伺いたい。
東大事件のときの反省は何
一つ実行されていないじやないか。又かかる卑劣な
行動は
警察側の奨励或いは黙認の結果であると思うが、どうか。この点、
答弁が願いたいと思うのであります。又天野
文相はかかる特高
警察の
行為を是認しようとするのであるか。若し是認するのでなければ、その不当をなじる
学生の
行為を非合法と断ずることは不当に過ぎると思うがどうか、
次官通牒とも併せてこの点確信ある
答弁が伺いたいのであります。
私の第二に
質問したいことは、
警官の
実力行使の問題であります。今更言うまでもなく、
政府の通達に基き、
学園内に
警官が立入るときは、あらかじめその
学園当局の
許可を受けることは常識であります。然るにこの交渉中押掛けた五百名以上の
警官が、何ら島田学長の
許可も得ず、更に
学生と
学園側に解散通告もせず、深夜突然
照明彈を合図に突つ込めの号令を下し、野獸のように
棍棒を振り上げて
学生側に襲いかか
つているのであります。この際、
警察官側の或る者は、
メーデーの仇討だ、殺してしまえ等、あるまじき暴言を吐いているのであります。こうして、
学校側の誠意に期待し、
事件の平和的
解決を待
つために、深夜屋外に腰を下して待機していた
学生らを泥靴で踏みにじり、これをコンクリートの階下に突き落し、或いは手錠をかけた上更に
棍棒でこれを毆打し、
教室に逃げた者を又探し求めて毆打逮捕するなど暴虐の限りを盡したのであります。この
暴行が如何なるものであ
つたかは、
事件解決のために努力していた二名の
教授や報道記者等にも負傷を負わせたこと、なおその
教授一名を逮捕していることでも歴然としているのであります。多数の泥靴の下に踏み据えられた一
学生は、息がつま
つて死ぬかと思
つたとこのときの経験を語
つておるのであります。これはまさに恐怖以上の恐怖である。こうして
学園は鮮血に色どられ、窓ガラスは破壊され、部長室のドアはぶち破られておるのであります。私も翌日直接あの
現場を視察した者でありますが、あのコンクリートの路上をどす黒く染めておるところの血痕こそは、まさに残虐極まりないフアシズムの血痕であります。
昨日の朝日新聞によりますと、
吉田総理は
事件の直後、たとえ
警官の一部に
行き過ぎがあ
つても
警官の士気をくじくようなことをするなと自由党の某
最高幹部に語
つたと言われているが、一体この
警官の士気とは何ものであるか。国民の血の出るような税金によ
つて賄われ元来主権者国民のために奉仕すべき公僕
警官が、ここでは全くフアシストの
権力によ
つて私兵化され、狂気のように主権者に襲いかか
つている姿を何と
解釈すればいいのか。国民は狂犬を飼
つた覚えはない、狂犬は嚴重に法により処断されねばならないのであります。ところがこれを処断するどころか、ますますこれにけしかけて国民に咬みつかせ、その士気を鼓舞するために
警察法の改正をさえたくらんでいる。これが
吉田総理とその一味の諸君のやり方なんであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)
今度の
早大事件が
メーデー事件に名を借りた
政府の挑発によ
つて激化されていることは、過日の
木村法務総裁の御
答弁からもはつきり窺える。又六日、本院の
メーデー事件の
緊急質問の場合、社会党左派の重盛君の
質問に答えて
警官の
行動についてあなたは何と答えておるか、私はむしろこれは
行き過ぎどころじやない、もつとや
つてよか
つたのじやないかというくらいですと
言つています。これがデモ隊を
人民広場に誘いこみその七百名以上に重軽傷を負わせ、そのうち二名行方不明を合せて十名を直接その手で殺した
政府の言い草である。やり足りないからもつとやれ、こうした煽動こそが又
早大事件の発生したそもそもの原因であります。
吉田首相並びに
木村法務総裁はこうした政治的
責任をどうして負わんとするか、はつきり
答弁が願いたい。又
警察側の
責任者の名前さえもまだわか
つていないと
言つておるが、こういう者についてどのように一体処罰するのであるか、その
見解を伺いたいところであります。従来の
吉田内閣のや
つておる
方法を見ますと、あらゆる場合に
警官の
責任追及は非常に寛大にしている。(「そうだ」と呼ぶ者あり)国民の
責任のみを苛酷に処断して来たが(「その
通り」と呼ぶ者あり)全くこれは本末顛倒のやり方であります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)まだ
早大事件の
指揮者の名前もわからないのに、一方では
メーデーの容疑者は聞き込みやその他のつまらない
方法でどんどん逮捕しておるが、これが一体本末顛倒でなくて何だ。この点をはつきり答えてもらいたい。こんなことで一国の治安が保たれるかどうかということを私は心配する。この民主主義の危機に対して
警官の與えた
行動は余りにも重大であります。関係閣僚諸君は果してこの重大性を認識しておるかどうか伺いたいのであります。
何よりもこの
事件を通じて語られた関係者の意見をあなたたちは率直に聞いているかどうか。事実この
事件の衝に当りその平和的
解決に努力した
早大の滝口
学生厚生課長は、我々に対してこういうことを語
つた。
警官の政治的背景と武装力の過信によ
つて本
事件が惹き起されたと
言つておるのであります。又九日の
早大学生大会に私も(「行
つてやじ
つたろう」と呼ぶ者あり)行
つてみたのでありますけれ
ども、或る
学生の一体験者は、こんなことを
言つている。このような無抵抗でも数十名の負傷者を出した、一体何が何だかわからなくな
つた、もうこれ以上無抵抗を続けても果して
学園の
自治を守れるかどうか、しつかり
考え直さなければならないと
言つて訴えておるのであります。このような体験談でも明らかなようにこのたびの
事件は全く
政府のフアツシヨ的挑発によ
つて惹き起されたものであります。国民も労働者も
学生も本来は極めておとなしいものであります。併し新憲法下よもやと思う馬鹿げた暴虐が何回も到る所で繰返されている限り、国民は遂に目覚めざるを得ないのであります。事実主権者国民が独裁者により全くその意図に反してその生命の安全をさえ脅されるフアシズムの下では、国民は好むと好まざるとにかかわらず自衛の手段を講ぜざるを得ないのであります。
メーデーに端を発した、かの
人民広場の紛争もこうして惹き起されたものにほかならないのであります。ここには
事件の本質的差異は少い。血に飢えた
警官のテロリズムによる暴圧が続く限り、国民はその意思を統一して、これらの暴虐と圧政に対して反抗して闘わざるを得ないのであります。
第三に私が質したいことは、この問題の善後
措置の問題である。天野
文相は
メーデー事件直後、都下の
学校長会議を開き、又本月下旬に全国の公立、私立
大学長会議を開いてその善後
措置を図るとい
つております。併し
事件の本質を離れた末梢的な対策が一体何になるであろうか。天野
文相は数十回となく巻き起されたこの種
学園の紛争
事件をいつも一部不穏分子の煽動によるものであるとかろがろしく片付け、
学生はこれらの策動に乗せられることなくその本分たる勉学にいそしむべきであると訓示をされているのであります。ところで事実は果して
文相の言う
通りであろうかどうか。
事件の皮相を見てその真相を見ないようなこういう
解決策は、これは問題にならないと思います。
学園の現実を見て御覧なさい。事実教育予算は大幅に削られている。
大学の
研究は名目のみで一向にその内容が充実せず、
教授、
学生の多くは講和後の今日もなお依然としてアルバイトを続けている現状である。而も再軍備は強行され軍事費の圧迫はますます教育の正常な運営をさえ困難ならしめているのであります。而もこれら基礎的な予算の獲得には殆んど無力にひとしいところの天野
文相は、口を開けば金のかからない道義の高揚、国民実践要領、君が代と修身、漢文復活等々に憂身をやつして軍国調を奏でているのである。そうしてこうしたちんどん屋的政治が繰返されている間に、
学園の前途には今大きな穴が待ちかまえているのである。それはほかならない再軍備、徴兵等一連の戦争政策であります。これが又青少年学徒たちをその渦中に巻き込まんとする戦争の恐怖は消そうとしても消すことのできない悪夢であります。青少年たちにと
つては悪夢であります。これら最近の青少年の絶望にも似たる不安について、天野
文相は親しく青少年の間に身を置きその心理に立ち入
つて考えたことがあるかどうか私は伺いたい。殊に終戦直後七カ年、
日本の若い学徒は戦争放棄と平和絶対維持の新憲法の精神をその綱領として教育されて来たのである。「
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであ
つて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと注意した。」云々、これは言うまでもなく憲法の前文中の一部でありますが、
学園の講堂で、
教室でその
教授たちが半ば熱をおびさえして繰返し語られたのであります。然るにイールズ旋風以来この情勢は急に右旋回しつつある。イールズ旋風こそはアメリカ帝国主義者の
日本再武装並びにその不沈空母化を達成し、青少年をアメリカの弾よけにしてその祭壇に供せんとする精神的地均しにほかならなか
つたのでありますが、こうした地均しを通じて今や
学園の到る所に
警察予備隊の幹部募集のビラは貼りめぐらされ、特高、スパイが勝手に学内に出入して憚らないのである。
こうした矢先に二月四日に
吉田総理はトルーマン並びにダレス氏に書簡を送り、サンフランシスコにおける
日本再武装並びに太平洋軍事同盟参加への誓いを新たにし、その中で、併し現在
日本国内の動向を観ずれば、いわゆる再軍備に反対する公然たる声が聞かれ、その他原爆基地の設定、海外出動等についての反対があり、女性並びに青年の間にこの叫びが強烈に挙
つており、而もその動きに乗じた左翼共産分子の潜行的策謀は日に日に深刻性を加えている云々と述べ(「
質問をしろ」と呼ぶ者あり)今はこれらのものを刺激することが得策でないので、情勢の変化を待
つて憲法を改正し、その期待に応えたいと結んでおるのであります。従
つて青少年、特に若い学徒に対する
政府の弾圧が如何にこれらの策謀と深く結んでおるかを思うべきであります。青年、婦女子にむしろ沈黙を強いることなしに憲法改正をすることはできない、憲法改正なしには全き再軍備は覚束ない、こうした焦躁感にあせ
つた吉田総理とその一味があたかも狂気のごとく
学園を弾圧し、
ピストルと
棍棒の雨を降らせているかは想像するにかたくないところであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)併しこれらの危機を本能的に感知すればこそ、外国の彈よけとして職場に赴くよりは牢獄をも辞せず、民族の独立と平和のために結集する、これが青年の愛国心の迸りであります。然るに
政府はかかる愛国的青年の止むに止まれぬ
行動を
暴徒になぞらえ、その虐殺のためにあらゆる暴圧の手を振
つて顧みないのであります。現に法政
大学近藤巨士君のごときは致命傷でもなか
つたのに、
警察官がしばしば病院を襲
つて強制訊問し、その結果病状が悪化して遂に死に至
つておるのであります。
メーデー事件と
早大事件の本質はここにある。こうした本質を親心によ
つて十分に理解することなしに、天野
文相の訓示は滑稽であると言わなければなりません。これでは如何に全国支部長会議を開いても、その内容は古ぼけた
思想対策と精神総動員強化の策謀以外の何ものでもないというふうにならないとは言えないのであります。もはや口先だけの観念哲学だけではこれら青少年の
行動を以てするこの立上りに対して、これを阻止することは私はできないと思う。(「その
通り」と呼ぶ者あり)私は天野
文相にここでお聞きしたい。天野
文相はかかる青年心理を具体的にどのようにしてつかんでおるか、又つかまんとしておるか。そうしてこういうような具体的な事実の上に立
つてでなければ絶対にこれは教育の行政もできないし、又今度の
早大事件のような問題も
解決することは覚束ないということをはつきり申上げまして、私の
質問を終る次第であります。(
拍手)
〔
国務大臣木村篤太郎君
登壇〕