○松浦定義君 私は
只今議題となりました
日本国とアメリカ合衆国との間の
安全保障條約第三條に基く
行政協定の実施に伴う
土地等の
使用等に関する
特別措置法案に対し、改進党を代表いたしまして
反対の
意見を明らかにせんとするものであります。
先ず本
法律案の示すところによりますと、駐留軍の必要とする土地建物等の使用又は収用手続につき特例を設けて、それらの使用又は所有権を
政府に取得し、これをアメリカ合衆国軍隊に提供せんとする目的を以て立案せられたものであることは、今更申上げるまでもないと思うのであります。我々は、
吉田内閣の専断と
総理の独裁によりまして
国会の承認を得ずして締結された
行政協定そのものは、国家の主権と
国民の権利を制限し、
独立国の威信を失墜するの虞れありといたしまして、
国民の声に応え、峻烈なる批判を加えて参
つたのであります。果せるかな、今日に至りましてなお占領臭紛々たるかくのごとき
法案を提出し、
国民に多大の不安と恐怖戦慄を與えるに至
つた政府の責任たるや、極めて重大であることを指摘せざるを得ないのであります。(
拍手)連合国による
日本の占領は去る四月二十八日を以て平和條約の発効と同時にすでに終了いたしているのであります。
従つて徴発に基く施設及び区域の合衆国軍隊による使用も又同時に終了しておるのであ
つて、今後米軍の施設及び区域等の使用は、日米両国
政府が、平和、安保両條約及び
行政協定に基く権利を條件として、両
政府間の合意により新らしく発足すべきであることは周知の
通りであります。日米
安全保障條約は、
集団安全保障という両国間における共通の利益のために、互いに相手方を信頼して、その基礎の上に立
つて締結されている以上、この
安全保障條約を実施するところの
行政協定も当然日米両
国民の間における融和と信頼とを助長するものでなければならないにもかかわらず、本
法案はこれらの前提を全く無視いたしまして作られたものであ
つて、これは封建制の遺物たる伝家の宝刀的効果を期待して立案せられたものであ
つて、その意図するところは、駐留軍の威圧によ
つて土地及び建物等の使用又は收用を暗黙のうちに強制せんとする結果にほかならないのであります。この点我々が断じて無視し得ざるところでありまして、
政府並びに與党、これに又追従的同調をなさんとする諸氏の一大反省を促さんとするものであります。
以下
反対の主なる
理由の二、三を申しまするならば、
第一に、土地に関する限り、殊更農民をして不安と恐怖とを與えられるごとき農業破壊の助長法的かかる
法案によらずとも、現行の土地収用法を以て十分目的を達し得るにもかかわらず、何が故にかかる反
独立的意識に立
つて今日なお
国民の権利を制限しようとするのか、全くその意図するところの判断に苦しむものであります。絶対多数を以て誇りとしておる
吉田内閣が主権回復の本然の姿に立
つて事をなさんとするならば、かかる
法案がたとえ駐留軍の強い要請があろうとも断固排除し得るにもかかわらず、却
つて多数に名を借りて自己陶酔から悪法を作り関係者を泣き寝入りさせるがごときは、みずから信頼と融和とを助長するという
行政協定の本旨を無視するも甚だしいものと断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
政府は、駐留軍の存在が暫定的一時的のものであるから、その前提に立
つて本
法案を立案したというのでありまするが、勿論我々といたしましても、我が国の国力の充実と共に、自衛態勢を確立いたしまして、一日も早く駐留軍の引揚を促進し、名実ともに
独立を完成したいという念願はいたしておるものであります。
政府の施策は、国策の根本
方針に対しても無為無策、無定見であ
つて、かかる状態であ
つては、いつの日だ駐留軍を必要としない時期が来るのか、全く前途は危ぶまれるのであります。
従つて、本
法案第九條、第十條等において
土地等の使用期間を一年ごとに契約するがごときは実情に即せざる
規定であ
つて、
政府が勝手に一年ときめておきながら、使用期間更新の結果三年以上にならなければ所有者から収用の請求があ
つてもこれを受付けないというがごとき状態では、所有者又は使用者に対し不当なる権利の侵害と言わなければなりません。殊に一時的又は臨時的と称しながら、本
法案を臨時
措置法としないで特別
措置法と打ち出しておる限りにおいては、恐らく本法の適用期間が相当長期に亘ることを是認しておるものと考えられるのであります。更に
政府は、土地収用法においては土地の収用を主とし使用を従として
規定しておるのでありまするが、駐留車の要請は使用を主とし収用を従とするが故に本法
制定の必要があるというのでありまするが、駐留が何年続くかわからない
現状においては、土地所有者又は使用者にとりましては使用も収用も大差なく、
政府の言い分は全く詭弁にひとしい結果となるのであります。
又第三條によりますれば、「
土地等を駐留軍の用に供することが適正且つ合理的であるときは、この
法律の定めるところにより、これを使用し、又は収用することができる。」と
規定いたしておるのでありまするが、「適正且つ合理的」であることを一体誰が
決定するのであるか。如何なる事情によ
つて現在合衆国軍隊に施設及び区域が提供されておるのかを知るならば、この
規定はおよそ空文にひとしいことがわかるのであります。発動前に予備作業班をして検討せしめ、作業班で解決できないものは合同
委員会に引き継いで九十日以内に完了させることとし、この合同
委員会は日米両国
政府代表各一名で組織され、各代表者が代表者の下部
機関として一名又は二名以上の代理及び職員団が設けられ、更に所要の補助
機関及び事務
機関を置くこととな
つておりまするが、これらの予備作業班又は合同
委員会の取極がなされたときに、これを覆えすことは極めて困難なるのみならず、仮にこれが可能といたしましても、これを
決定するものは終局において
総理大臣であ
つて、駐留軍のために土地建物等を使用又は収用する者と、それが適正且つ合理的であると判定する者とが同一人であるという結果より見まして、全く矛盾も甚だしいと言わざるを得ないのであります。
更に最も重要な点は、本法と農地との関係であります。現在駐留軍の使用している民有地は一億四千五百万坪に及んでおりますが、更に今後合衆国軍隊の移動や新兵器の出現によ
つて新たなる演習地や射撃場の要求がなされるものと予想され、これがため農地又は開拓地が次々と収用され、終戦以来莫大なる国費と血のにじむ労力を注ぎ込んだ、粒々辛苦の汗の結晶たる開拓地並びに父祖伝来の墳墓の地として黙々として食糧増産にいそしんでいる農民に対しては、本
法案の成立は、多大なる不安と少なからざる不平不信を助長する以外、何らの効果は望み得ないのであります。特に駐留軍並びに
警察予備隊の射撃場附近においては特殊の恐怖を住民に與えているものであ
つて、
曾つての
日本軍の一発必中主義とは違い、今日の米軍は物量本位で、一定の時間にできるだけ多くの弾丸を発射するという
方法であり、自然流弾の
被害も甚だ多く、接収地以外においても、近くの農家又は放牧中の牛馬並びに牧夫、農民等がその危険にさらされている事実を見聞する現在、一日も放任することができない重大な問題であります。なお建物等の使用収用に当りましても、民家並びに
公共建物が本
法案成立後におきましては半強制的な
措置が講ぜられるものと考えられる現在、予定地におけるこれら関係者の不安も又少くないのでありまして、本法の意図する点については全然承服し得がたいものであります。
最後に、本
法案最大の欠陷は、附則第二項の、現に駐留軍の使用している土地建物等で、この
法律施行の日より九十日を経過した後なお必要あるときは、更に六カ月間の長い間に亘り使用できるという
規定でありまして、その意図するところは、一方的な見解によ
つて国民の私有権を勝手に六カ月侵害せんとするものであります。要するに、かかる
法律案の出現することは、
行政協定の不手際であ
つて、他の
国内法との関連におきましても、全く木に竹をついだような支離滅裂の法文が多く、かくては
国民に、
日本は依然として占領の延長であるかのごとき感を與えるばかりでなく、徒らに対米感情を悪化せんとする煽動の好餌を與える結果になりはしまいかと憂慮する一人であることを、この際強く申上げておく次第であります。
なお原案
賛成の諸君におきましては、換地等については十分考慮するよう
意見を附されましたが、これが最上の適地であると
決定し強要されても、それ以上何を以て不当を正し得る
方法があるや。私は過去における経過からいたしまして、如何なる
意見や條件を附しましても、
法案成立の場合は当然その
法律に基いて行われ、
意見や條件が何ら考慮されていない事実を考えるとき、この重要な
法案に対し
賛成せられる諸君の
意見には全く納得できないのであります。故に、私は、條約上の義務を履行する上には、土地については現行の土地収用法によることとする、建物その他の施設に対しては簡單なる便法を講ずることが、日米両
国民の和解と信頼を深める唯一の
方法であるばかりでなく、
独立日本の
国内法を民主的に
運用することこそ
国民の信頼の上に立つ
政府としてのとるべき最高且つ最大の責任であることを強調いたしまして、本
法案に対し断固
反対するものであります。
以上を以て私の
反対討論を終ります。(
拍手)