○大山郁夫君
議長並びに議場の皆様、私は第一クラブを代表してというわけではありませんが、第一クラブは、言論寛容の精神から、私に、ここに立
つて今問題にな
つております
法律案に対して私の個人的意見を述べることを許されたので、そういう意味でここに立
つているものであります。
法律案の題名が非常に長いので、ちよつと言えませんが、ともかくポツダム宣言の受諾に伴い云々の
法律案、その中でも殊にこの出入国管理令並びに外国人登録
法案、それを私の主題にしようと思
つておりますが、而も私はあの出入国管理令のうちにある強制送還の
規定のみに私の問題を限ろうとしている。又強制送還に関しましてはすでに二名のかたからも
反対意見を述べておられるので、成るべく重複しないように、違つた角度から私の意見を述べてみたい、こういうふうに考えております。殊に私は、今日、
日本の対
世界態度の進路を決定する上において非常に大きな意味を持
つているこの
アジア問題、その
立場からこの強制送還の問題を見てみたいと思うのであります。
今日におきまして
アジアに、非常に大きな連帶性の問題が
アジア人を刺激している。
アジア諸民族間の連帶性の問題、今日の
アジアの大問題はこれであるし、又従来の
アジアを統治しておつた帝国主義の
諸国家が、
アジア問題が限りなくむずかしさを加えて来たというふうに考えているのも、やはり
アジアにおいてこの連帯性の意識というものが猛然と頭を持ち上げて来たところから来ているものであると思うのであります。
アジアにいろいろの人種があり、又
アジアにはさまざまな政体が行われているし、又、所によ
つていろいろのイデオロギーで支配されている民族もあるのだが、併しそういうような政体であるとか、又人種或いはイデオロギーとか、そういうものを超越して、今
アジア人は一つの連帯性の意識によ
つて刺激されている。その連帯性の意識というものが一体どこから来たものであるかということは、
アジアの各民族が、過去二世紀間
アジア人を虐げて来た帝国主義支配或いは植民地的支配から最終的に解放されたい、その念願から来ているものであるということを我々は信じているのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)このイデオロギーということを全然超越している、例えばあのインドのネール首相、あれは本国においては共産党と争
つているのであるが、併しながら国外に対しては、第一、中華人民共和国を認めている。そうして又
国際連合にこの中華人民共和国を入れなければならないということを主張している。或いは又カイロ宣言によ
つて台湾問題というものは
解決せられるべきものであるということも主張しているのでありますが、こういうことは、皆、彼の
アジアの連帯性の意識から来ているものであると私は考えるのでありますが、殊にこのネール首相は、あのサンフランシスコ
会議の問題が盛んなときにこういうことを言
つておつた。ヨーロツパの政治家に向
つてこういうことを言
つておつたのである。即ち
アジアにおいて、コロニアリズム、植民地的の搾取、植民地的の支配というものが除去せられない限りは、
アジアの不安というものは永久に残るであろうということを彼は言
つておつたのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)こういうようなことを考えるときに、如何に今日において
アジアの連帯性意識というものが猛然と頭を持ち上げているかということがはつきりするのであります。それでこの強制送還の問題は、私は、ただ
日本に在留しているところの六十万の朝鮮人
諸君とか、或いは又同じく
日本に在留している四万何千かの台湾系の人々、まだ
日本人だそうでありまして、今日からその国籍を失うのだということを聞きましたが、とにかくそういう人だけの問題ではない。又そういう人の背景をなしているところの全朝鮮、全中国だけの問題ではない。この問題の関連するところは実に
アジア全土に及ぶものであり、そうして、この問題というものは
アジアの十億の全民衆に
関係するところの大きな問題であると我々は考えているのであります。(
拍手、「そうだそうだ」と呼ぶ者あり)その点からこの問題を把握してみたいと思うのであります。
この強制送還の條項は、非常に非人道的であり、非民主的であり、反動性を帯びているものであると同時に、極端に反
アジア的性質を帯びているものであるということを我々は断言するのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)
それで、先ず第一に、今まで我々の手を取
つて日本人として生活していた朝鮮系の人々、台湾系の人々、中国系の人々が、もう
講和條約の
発効というその原因だけによ
つて、自己の責任だけでなく、いつの間にか自分の
日本の国籍を失
つてしま
つている、そういう人々をつかまえて、そうして或る場合にはこれをあの大韓民国
政府の手に引渡そう、いわゆる強制送還によ
つて、大韓民国と申しますか、それの
政府の手に引渡そうとする、或いは又台湾のほうへ引渡そうとする、こういうようなことをしておる。勿論これは第一に
世界人権宣言の精神に背いておる。幸福を追求する権利とか、或いは国籍を選択する権利というものはもう脚下に蹂躙しておるから、非常に重大な問題であるが、更に我々はその反
アジア性を見なければならない。私は多くの朝鮮人
諸君から、若し彼らが朝鮮へ強制送還され、李承晩
政府の手に渡されたならば、その結果がどういうものであるかということをしばしば私に語られた。その中にこういうことも彼らは言
つておつた。さつき誰か、岡田君から申されましたが、或る場合には投獄され或る場合には死刑に処せられ、又多くの場合においては韓国軍隊の中に編入される。そうして訓練されて職場に送られる。こういうことを恐れておる朝鮮人がたくさんある。こう申しますると、そういう朝鮮人は、これはその軍隊に編入されて、職場に送られて殺されるかも知れないのが恐いのではないか、こういうふうにお考えになるかも知れないが、併しながらその朝鮮人は、そういう浅はかな考えからそういうことを憂えておるのではないのであります。彼らは考えておる。若し彼らが韓国軍隊に編成されて、そうして職場に送られるときに、一体、誰と戰うのであるかということを恐れておるのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)即ち彼らの相手は、
戰争の相手というものは韓国の兄弟たちであ
つて、或いは中国の義勇軍でありますから、同じく
アジア人同士であ
つて、彼らは
アジア人としていわゆる殺し合うというような残虐な運命を見て、非常に戰慄しておるということを我々は同情しなければならないと思うのであります。(「そうだ」「その
通り」「よく考えてみろ」と呼ぶ者あり)
日本人だ
つてやはり同じような憂えを持
つておる。再軍隊がそうである。この再軍備によ
つて作られる兵力というものは大陸に向
つて送られようとしておる。こういうことはずつと前からあ
つて、私がまだ外国に亡命中、前の占領が行われておるときに、連合国軍の一将官がこういうことを言
つておつたということを新聞で見て驚いたのである。その将官はこう言つた。「
日本人の智力、体力、精神力、そういうものから比べてみれば、
日本人は非常に立派な兵隊になれるのだ。私はこういう
日本人を軍隊に編成して、これを指揮して戰
つてみたい」と、こういうことを言
つておつたということが新聞に書いてあつたのでありますが、こういう場合に
日本人は一体誰と戰うのであるかと思
つて、あの新聞を読んで私は大きなシヨツクに打たれたのであります。併しそういう昔のことを我々は言わなくても、もつとま近にいろいろの例がある。例えば去る三月二十四日の東京のさまざまの新聞に書いてあつたのだが、あの新聞を読むと、総司令部の外交局長シーボルド大使がアメリカに帰られた。そうしてカソリツクの団体であるところのナイトオブ・コロンバスのその会合で演説した。その演説の中で彼はこういうことを言
つておつたと書いてあるのであります。即ち八千七百万の人口を持
つておる
日本の
国民というものは、
日本国民の人的資源というものは、連合国にと
つて偉大なる財産であるというようなことは彼は言われた。それを読んでも、私は、勿論これを言われたところのシーボルド大使の意味は私は何か知らないのだけれども、併しながら我々はこれを読んで、
日本の人的資源というものは、どういう目的に対して、どういう目的のために用いられようとしておるのかということを考えざるを得なかつたのであります。ところが二日を経てあのニツポン・タイムスの記事を読んで見ると又こういう記事があつた。(「素直に考えろ」と呼ぶ者あり)第八軍の司令官であるところのヴアン・フリート将軍が、ユナイテツド・ステーツ・ニツーズ・アンド・ワールド・リポート、それに対するインタービユーを與えておる。そのインタービユーの中でこういうことを彼は言
つておるのであります。即ち第一に、彼は、あの朝鮮人は
世界中どこに押し出しても決してひけを取らないような立派な軍隊を作
つて、そうして近代的武器を用い得る能力があるということを褒めそやしてお
つて、そうして、その中にやはりこういうことが書いてあつたのであります。即ち今後
アジアの共産主義というものを征伐するにはこういう人的資源を用いなければならない、こういう意味が書いてあつたので、若し朝鮮人
諸君がこういうことを読んだらば、彼らは彼らの不安というものが決して杞憂でないということを十分に知ることができるであろうと私は考えるのであります。(
拍手)そういうような例は幾らでもありますが、ともかくこの
アジア人同士相殺し合うということに対して、我々はもう今後そういうようなことをしない、いわゆる不戰
アジアの誓いということは、今後
日本人がとらなければならない非常に重大な
立場であるということをかねがね主張しておつたのでありますが、この点からやはりこの強制送還の問題を我々は見ておるのであります。
それからもう一つは、この強制送還の問題、即ち朝鮮人或いは台湾人の国籍選択の権利を奪うということ、この半面は、やはり内政干渉主義、ところが今日
アジアの人々は内政干渉主義ということに対して非常な厭悪を感じておる。
世界で今平和運動に従事しておる人々は、やはり同じことを言
つておる。今日の
世界の戰乱というものは、帝国主義列強による内政干渉主義が
最後の原因にな
つておるということを盛んに言
つておるのでありますが、殊に
アジアの人々はそうです。なぜならば、
アジアの今日の戰乱というものは、やはり同じように内政干渉主義ということに
関係がある。今日
アジア人は心の底から平和というものを望んでおるとにかかわらず、而も
アジアに戰乱が絶えない。朝鮮は二つの朝鮮に分れておる。中国のほうは人民
政府とそれから
国民政府とがある。ヴエトナムにやはり戰乱が行われておる。イラン、イラク、あの方面も決して平穏でない。そしてすべてが皆内政干渉主義の結果である。内政干渉主義というものは裸かで行われておるのじやない。いろいろな擬装を施されておる。例えばあの帝国主義列強から
アジアに向
つてなされる武器援助、財政援助、軍事援助であるとか
経済援助であるとか時とすれば未開発地域の開発のための援助とか何とか、こういうようなものを皆我々は或る程度において内政干渉主義の上に施されてある擬装であると考えておるのであります。我々は、今日あの台湾における蒋介石の政権というものが、若しこの
経済援助、武器援助、財政援助とか、こういうようなものがなかつたならば、今余命を繋いでおるなんということは考えることもできないのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)同じく李承晩の
政府だ
つて同じことを考える、どうかすると、我々があの安保條約から
行政協定の條文を読み、そうして吉田政権のことを思うというと、吉田政権もやはり同じラインの上におるのではないか。それで、今この東亜の現代史の上に、蒋介石政権、李承晩政権、吉田政権のこの三幅対がその醜い姿を現わしておるという事実も、それから生じたと思うのであります。(
拍手)こういうことは我々に堪えることができないことなんであります。それで内政干渉主義に対して、我々はこの強制送還、強制送還というようなものは内政干渉主義の産物であるということを我々は信じておる。
それからもう一つ
最後に一つ附加えておきたいことは、(「時間だ」「まだまだ」と呼ぶ者あり)これは吉田内閣の政策というものは、今日の
アジアの情勢、朝鮮の情勢とか、そのほか一切の
アジアの情勢というものが永久にもう固定化しておるものであるという建前から出発しておるのでありますが、併しながら、今日の
アジアの情勢ほど不安定なものはなく、そうして又今日の
アジアの情勢ほどもう直ぐに変ろうとしておるものはないのであります。朝鮮の状態がいつまでも固定しておるというふうに考えるのは大間違いで、これはこの頃あの連合軍の方面のほうから盛んにそのことが言われるようにな
つて来ておる。朝鮮の戰乱のあの状態というものは、あの、その辺のジエツト・プレーンであるところのミグが出現してからすつかり変
つてしまつた。そうしてこの問題が今社会主義生産とか或いは資本主義生産の優劣ということの問題までも引き起しておるのでありますが、ともかく非常に変
つておる。そればかりでない。丁度私が数日前四月十一日附の英文毎日を読んでいるというと、ロバート・S・エレガントという連合国の通信記者であつたと思うが、その人の記事が載
つておつた。その人は、「南鮮において、今日、米の收穫が非常に悪かつた。税が非常に高い。そうして社会的不安が増大してゲリラがだんだん加わ
つておる。」ゲリラと言えば北鮮と言われておつたが、あの記事を見るというと、忠清北道の或る所から出された、南鮮のあの穀倉と言われるそこから出されたものでありますが、「今だんだんだんだんゲリラが盛んにな
つて来ておる、こういうような状態では、殊に
経済的な大混乱並びにその銃後におけるところの人民のこの不安とか動揺というもの、こういうものがだんだん醸成される。この結果としては、連合軍が共産軍の新らしき攻勢が防げるか防げないかということさえ大きな疑問があると思われるように
なつた」ということを書いておるのでありますが、こういう記事を連合国側の記者が書くのはよくよくのことがあつたと思うのであります。
それから朝鮮の問題と関連して台湾の問題であるが、台湾の問題も、今日の状態が永久的に続くものであると考えておつたのだが、併し今日はアメリカの帝国主義的な評論家すらそれは期待できないということを書いておる。最近のあのニツポン・タイムスに転載されておつたウオルター・リツプマンの一つの小さい論文にも書いてあつたのでありますが、「我々は朝鮮の問題を何とかしなければならない。あの休職会談を何か現状のままで置いておくことは罪悪だ、併しそれに関連して他の大きな問題がある、殊にあの台湾の問題を
解決しなければならない、ところが台湾の問題は選挙の年に
解決するには余り大きいけれども、
解決しないでおかれないような事情もある」、そういうことを書いておる。彼はこういうことを書いておる。「第一に、先ずあの蒋介石の軍隊の士気から、もはや問題が生じそうにな
つて来ておる。その次には、台湾の住民の蒋政権の政治に対する態度、この方面から非常に大きな問題が生じようとしておる。もう一つは、又この台湾の」……(「本論々々」と呼ぶ者あり)「それから第三は、台湾
政府の要人の中にもいろいろな陰謀があり、その陰謀は丁度あの中国の本土へ送られた中国の軍隊がなしておる行動と非常によく似たものであるというような、こういうわけで、もう一日もこれを放
つておけない。」その
解決策として彼はこう言
つておるのである。即ち「カイロ宣言を尊重して、人民
政府のスーゼレンテイ即ち宗主権、台湾に対する宗主権というものを、これを認めなければならないが、その宗主権の下において、又台湾の
処分をしなければならない、即ちあの台湾の住民が中国の本土からこれまで治められたことがないというこの事実を参酌して、そうしてこの事実を参酌して台湾を一つのオートノマス・ステート、自治国家として存続せしめて、それを国連によ
つてその存立を保障する。そうして又蒋介石及び蒋介石の家族というものは、これは台湾に置かないで、どつか安全な所へ避難させる。持
つて行く。避難所へ持
つて行く、できれば極東でないその外の避難所へ持
つて行くべきものであり、そうしてその軍隊というものは、これを徹底的に解散してしまわなければならない。」こういう
解決案を漏らしておる。こういうところを見れば、極東の情勢というものは如何に変化の多いものであるか。吉田内閣が考えてるような李承晩、蒋介石、吉田三幅対がいつまでも永久に残るということは考えられない。そういう意味において、強制送還の相談相手を李承晩の
政府と蒋介石の
政府としておるところに非常に大きな反動性がある。歴史の歯車を逆転せしめようとしておるものである。(「時間々々」と呼ぶ者あり)こういう反動政策には我々は断固として
反対しなければならない。こういう結論を持
つておるということを申上げて、私の今日の演説としたいと思うのであります。(
拍手)(「困つた存在だよ」「つらいだろうが、聞いておきなさい蒋介石「耳が痛いだろう」と呼ぶ者あり)