○菊川孝夫君 私は社会党第四控室を代表いたしまして、
只今議題となりました
日本国と
アメリカ合衆国との間の
安全保障條約第三條に基く
行政協定の
実施に伴う
関税法等の
臨時特例に関する
法律案ほか五
法案に反対の意見を申述べます。
これらの
法律案は、その名が示すように、
安全保障條約と
行政協定の締結に伴
つて立法を余儀なくさせられた
法律案であります。我々は
平和條約と
安全保障條約の批准に当
つて国会の承認を求められた際に、これはアメリカが講和條約という餌を見せて
安全保障條約の締結を要求しているものであ
つて、不用意に飛びついたなら、日本の独立を達成し、その安全を保障するどころか、戰争の渦中に巻き込まれ、再度原爆の洗礼を受けなければならないようなことになるかも知れないから、即ち起るかも知れない第三次大戰或いは
拡大するかも知れない極東の極地戰に日本の人的資源を動員する必要から
安全保障條約を締結することが主目的であ
つて、講和條約は従たるものであるとして、あらゆる中傷や妨害、犠牲を乗り越えてこれに反対して来たのであります。(「済んだ、そんなものは」と呼ぶ者あり)又、
行政協定の
報告を受けた際にも、これによ
つて日本は永くアメリカに隷属することになり、一方ソ連側を刺激して、対抗的に北鮮、満州、樺太等に軍事基地を設け、厖大な兵力を集中することになる結果、日本海を挾んで米ソの対立が一層尖鋭化して、極東の一角に一触即発の危險
地帶を生じるであろうし、又、中国やフイリピン、インドネシア、ビルマ等のアジア各国からは、日本がアメリカの手先とな
つて再び侵略して来るのではないかという猜疑心を起させ、日本をアジアの孤兒化する虞れがあるとして反対し、且つ国内的には憲法の
規定に
従つて国会の
審議を経るべきであると主張したのであります。我々はこういう見解と主張が正しいことを確信し、その立場を寸毫も改める必要を認めないどころか、今後、より積極的に
平和條約の修正と
安全保障條約の廃棄の鬪いを推し進めて参る
決意を固めておるのでありまして、この両條約締結の結果、
立法を余儀なくせられるこれらの
法案に反対する次第であります。これら諸
法案はいずれも税法的には国家内に国家を認めるもので、自主権喪失
法案であると言い得ると思います。
先ず
関税法等の
臨時特例に関する
法律案を見まするに、合衆国の軍隊、軍人、軍属及びそれらの家族、請負業者やPX等の軍人用販売
機関が輸入しまするところの一切の物品、引越荷物、携帶品、自動車についてとん税も関税も免除し、且つこれらの物品に対するところの内国消費税を一切免除しようとするものであります。最も極端なのは、軍人軍属は申すに及ばず、その家族や請負業者が私用に供する自動車までも免税することであり、又今後軍事郵便局を通じて合衆国の本国から送られて来る衣類、家庭用品等も免税されることになるのであります。衣類及び家庭用品については勿論「通常且つ相当量」という
立法上の制限を設けてありますが、この運用は極めて困難であるために、実際的にはすべて免税されることにな
つてしまうと思うのであります。勿論その他の物品についても、証明
手続等、一応
立法上体裁は整えられておりまするけれども、一国の軍隊が外国において発行する証明等は極めてルーズに流れがちなものであることは、過去のいずれの実績でも明らかにこれを物語
つておるのであります。
従つて、独立後もアメリカから
各種の物品が関税特権によ
つて日本に持込まれ、それが横流しされて、日本
経済を撹乱することは明らかであります。(「その
通りだ」と呼ぶ者あり)これが終戰直後のように物資が不足しておるときには、一応潤滑油的な役割を果すかも知れないけれども、今では国内においても若干
生産過剰の気味であるために、その影響は深刻なるものがあると思います。こうした横流れについては、
讓渡だとか讓り受けの制限
規定を設けてありまするけれども、次の制裁という段になりますと、いわゆる属人主義によ
つて裁判が行われますので、結局罰せられるのは日本人のみであるという結果になるのではないかと思うのであります。
次に、
所得税法等の
臨時特例に関する
法律案は、合衆国の軍人、軍属、その家族、それから請負人、軍人用の販売
機関に対しまして、所得税も、法人税も、相続税も、富裕税も免除しまして、なお軍隊に対しては通行税、軍隊及び軍人用販売
機関に対しては印紙税、公認調達
機関や請負業者が日本で調達する物品に対しましては物品税、揮発油税等をそれぞれ免除しようとするものでありますが、これは今後何年続くか、又幾人に対して供與されるかわからない、無期限、無制限に亘る租税上の治外法権設定でありまして、思えば実に高価な代償を拂つた講和條約であるという感を深くするのであります。(
拍手)
苛斂誅求に悩んでおりまする国民の批判がこの治外法権的
法律に集中されるでありましようことは申すまでもないのであります。(「ノーノー」と呼ぶ者あり)それがやがて猛然たる民族主義運動に発展いたしまして、吉田内閣の屋台骨を揺がさずにおかないであろうことを、我々はここに断言し得ると思うのであります。(「もう動いているのだ」と呼ぶ者あり、
拍手)
次に、
たばこ專売法等の
臨時特例に関する
法律案でありまするけれども、これは合衆国の軍隊やPX等の軍人用販売
機関が無税でたばこ及び塩を輸入することを認め、且つ專売法の
規定にかかわらず、これらの物品を合衆国の軍人や軍属、その家族、請負業者等に自由に配給、販売させようとすることがこの
法律の眼目でありますが、又軍人、軍属、その家族、請負業者が入国の際に携行したり、軍事郵便を通じて取り寄せまするところの二百本又は二百グラム以内のたばこ及び相当量の塩を無税とするものであります。併しながら、現在我が国の各地の高級料理店や喫茶店等におきまして、外国たばこは極めて容易に入手できるのであります。これらは大抵占領軍
関係者の非合法的横流しによるものでありまして、その額は專売公社の言明によ
つても四十億に達すると推定されていますが、私はそれ以上に上るのではないかと思うのであります。特に残念なことは、
国会議員や公務員までが平然として洋モクをくゆらしている姿をときどき見受けるのでありますが、これが我が国の
財政上、又社会教育上に極めて悪い影響を及ぼすことは申すまでもないことでありまして、本
法律案の制定によ
つて、独立後も合衆国軍隊にこうした專売法上の特権を供與することによ
つて一層甚だしくなるのではないかと憂慮するものであります。
次に
国税犯則取締法等の
臨時特例に関する
法律案についてでありますが、本
法案は国税犯則事件又は関税法、煙草專売法、アルコール專売法、噸税法、保税倉庫法及び地方税法等の違反事件があつたと認められる場合、施設及び区域内の臨検、捜索又は差押は合衆国軍隊の承認を受けて行うか、又は合衆国軍隊に委嘱して行うことにして、その他の軍人、軍属、その家族の身体、
財産又は合衆国軍隊の
財産については、收税官吏又は税関吏がこれを行うことができる旨を
規定しようとしているのであります。併しながらアメリカ人の日本人に対する人種的偏見は極めて根強いものがあることは、あの埴原大使当時の移民法以来、我々が幾たびか苦杯を嘗めて来たところであります。それが戰勝国と戰敗国の
関係において、六カ年間の長きに亘
つて占領軍として君臨して来た軍隊に、果して
本法律が完全に運用されるかどうかということを本当に危惧せざるを得ないのであります。(
拍手)
委員会の
答弁におきまして、岡崎
国務大臣は相互信頼を、それから
池田大蔵大臣は独立自尊を強調されましたが、アメリカの世界政策の前に完全に屈服して、向米一辺倒に日本民族の運命をかけようとしている現
政府は、本
法案を單なる国民に対する僞裝とするに過ぎないのではないかと疑うのは、我々のみではないと思うのであります。(「然り然り」「僻み僻み」と呼ぶ者あり)
次に
国有の
財産の
管理に関する
法律案は、合衆国軍隊に
国有財産を無償で使用させることにしようとするものでありまして、具体的に何を提供するかを明らかにせず、無償提供、原状回復請求権の放棄、一時使用の許可等の原則を明らかにしているに過ぎないものであります。これによ
つて実際的には、
政府が合衆国
政府の要求に応じて、どしどし提供して行くことになるのであります。岡崎
国務大臣は、この点に関しまして「合意によることにな
つているから、日本として都合の悪いものは合意しなければよい」と言
つておりますけれども、軍の作戰というものは政治に優先することになりがちなものでありまして、特に大国が小国に対してそれが一層露骨に現われて来るものでありまして、恐らく合衆国軍隊からは、作戰上の必要に応じて、至上
命令的に要求されることにな
つて、
政府は合意せざるを得ないことになると思うのであります。今後、民有又は公有の土地建物についても、要求があり合意した場合は、借上げ、買收又は強制收用等の処置が講ぜられて、
国有財産としてそれが提供されることになるのであります。本
法案には、史蹟であるとか、或いは文化財である重要建造物、天然記念物についての除外
規定がございませんので、場合によ
つてはこれらも含めて提供される場合もあり得るのでありますが、米比協定では、墓地であるとか歴史的建造物についてはフイリピン人の権利を留保しているのであります。岡崎
国務大臣は、これについて「合意しなければいい」と言われましたけれども、岡崎君のような立派な外務大臣がこの
法律実施期間中在任されるわけでもありませんので、
法律に史蹟、文化財、天然記念物等を除外する
規定くらいは設ける自主性が欲しかつたと思うのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)
最後に重要な点は、第三條の原状回復権の放棄でありまして、非常事態が発生いたしまして、合衆国軍隊が戰略的な撤退を行う場合、敵に
利用させないために施設及び区域をみずからの手で爆破することがあり得ると思うのでありますが、(「朝鮮を見ろ、朝鮮を」と呼ぶ者あり)そうした場合に生じた
損害までも請求しないことにな
つています。岡崎
国務大臣は、「そんなことがないようにするのが
安全保障條約の目的であるから、そういうことが起らないと信ずるし、仮に万一起つたとしても別途に
考慮するよりいたし方がないんだ。」こう極めて楽観的且つ独善的な(「何で仕方がないのだ」と呼ぶ者あり)見解を表明いたしております。我々はこの点を最も重視するのであ
つて、遠くはバターン半島、近くは朝鮮の例に鑑みまして、是非とも非爆破の、爆破しないという保障を要求し、万一爆破された場合には正当な補償を請求する権利を留保すべきであると思います。(「当然だ当然だ」と呼ぶ者あり)なお
特別調達資金設置令の一部を改正する
法律案でありますが、これは
安全保障條約の
発効と同時に、従来占領軍の要求によ
つて使用されて来た特別調達
資金を、同條約に基いて駐留するところの
アメリカ合衆国軍隊の要求に応じて行います物及び役務の調達に要する支拂
資金として使用するための改正案でありますけれども、我々は基本的には
安全保障條約の破棄を主張しておりますので、その改正を必要としないという立場から反対するものであります。なお、この
法案は、一見しますると、單に占領軍から駐留軍への切替に伴いますところの
法律処置に過ぎないようでありますが、背後にはいわゆる直接調達か間接調達かという我が国
経済にと
つて極めて重大な問題が控えておるのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)
行政協定の十二條によると、駐留軍に要する物資、役務、工事の調達は、米国側の直接調達という線が強く打ち出されており、予備作業班の交渉過程から見ましても、今後労務を除いては合衆国軍隊による物資、役務、工事の直接調達という態度が示されています。で、駐留軍の
経費は、防衛分担金として日本が負担する六百五十億円のうちから、土地、建物の借上料九十二億を差引いた五百五十八億円、即ち一億五千五百万ドルを「どんぶり」
予算として米国側にそつくり渡した金と、米国側が負担する一億八千万ドルで、これを合計しますと千三百億円になり、そのほかに予想されます特需千数百億を加えますると、総合計が約三千億に達する厖大な金額になるのであります。これは二十七年度の
一般会計歳入歳出総額の三五%になる巨額なものでありまして、これが米国側の独自の構想で日本で使用されるといたしましたならば、底の浅い我が国の
経済の
実情から見て、これがために物資の不足を来たし、国民
生活を圧迫し、或いは
生産を阻害する結果を招来するのではないかと思うのであります。で、軍隊の地位に関する北大西洋條約当事国間の協定を見ると、受入国の
政府機関を通ずる間接調達方式を探
つているのであります。我々もこういう見地から、せめて間接調達方式ぐらいは岡崎君主張すべきであつたと思うのであります。
以上申述べましたごとく、これらの諸
法律案は、いずれも講和條約、
安全保障條約、
行政協定と一貫した現内閣の向米一辺倒の外交政策に基いて日本をアメリカの衛星国化するものであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり。)このコースは当面は現実への安易な妥協の道かも知れませんが、決して日本の独立を守るものでもなく、又日米両国間の百年の大計を図るものでもなければ、世界の平和に寄與するものでもないことは断言して憚からないと思います。
私はかかる観点に立ちましてこの六
法案に反対する次第なのでございます。(
拍手)