○岩木哲夫君
只今提案されました
決議案に対するその提案理由の二、三を申上げたいと存じます。
これはお手許にそれぞれ理由書を御覽に供しておりまする
通り、基本的におきましては、
日本国憲法第七十三條の規定する條約というものは、
国家間の文書による法的拘束力のある合意を意味するものでありまして、狭義の條約のみでなく、あらゆる協約、協定、取極その他の規約、憲章、議定書、宣言、決定書及び交換公文等のすべてを包括したものの意義でありまして、例外的なものを認めていないことは、
日本のすべての国際法学者及び憲法学者の一致した決定的見解であります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)従
つて、今回の取極められました
行政協定は、先ず基本的に
国会の
承認を得べき性質性格のものであることは、すでに吉田総理が本院
予算委員会で言明いたしておる趣旨が、即ち
国会の
承認を得べき條約であることを本質的に裏書しておるものでありまして、取消のお好きな総理がこれを取消しておらない現段階においては、当然これは條約と認定すべきものであります。ただ
政府が
国会審議の必要なしと所論する点は、先の
安保條約第三條において総括的に委任されておる事項で、仮にそれが條約の一部であ
つても、それはただ單なる施行細目に過ぎないと弁解いたしておる筋であります。併しこれは
国会の議定を要せないと主張する條約の施行細目が他の
法律と同一の効力が発生するかどうかには、大なる誤謬があり、且つその内容が違憲に亘るもの多々ありと判定されるものがあれば、当然その違憲に及ぶと思われるものの取扱に対しましては、憲法第八十一條の最高裁判所の法令の合憲性判定の権限規定中に條約を除外しておるのでありまするから、当然、條約の合憲性如何の判定審議は、無論国権の最高機関たる
国会がこれに当らねばならんことは当然であり、又憲法が明瞭にこの点を記しておるところであります。又
安保條約が平和條約第何條かに基いて生じたことは、
安保條約の前文においても明らかごことく、この二つの條約は相互一体をなすものとしても、別々にすでに
国会に
承認を求めていたような工合に、この
行政協定も当然
安保條約の第三條に基いて別に生じた別個の内容を持つ歴然たる條約である以上、
国会に付議すべきは当然であります。(
拍手)又その内容が仮に国連憲章によるあらゆる
協力義務の範囲であるといたしましても、それは又別個の国連條約において取極められるべきものでありまして、これを日米安全保障條約による
行政協定において集約取結ぶべきことでないことは今更論ずる余地がありません。(「その
通りだ」と呼ぶ者あり)而もこの内容が、国権と国民の権利義務に及ぶ、実に有史以来の、独立
日本の将来を卜する深刻且つ広範囲の特権を具体化しておる以上、それ自体がすでに委任事項以外に亘る非法理的、違憲的性質を持
つておるのでありまして、(「緑風会よく聞いている」と呼ぶ者あり)その内容の事実が全く
国会の審議にかけるべき憲法第七十三條の條約責務を持
つておることは、(「緑風会違憲をやるな」と呼ぶ者あり)もはや
国会内外の輿論に徴しましても一点の疑いも生じないところであります。又
行政協定という一種の條約取極を仮に委任したといたしましても、新たにできたこの條約、即ちこの
行政協定の
承認権を
国会が断じて放棄したことにはならないのでありますると共に、又放棄し得ないのであります。一体、條約中
国会の
承認を要しない條約とは憲法の第何條に基いておるのでありますか、どうか。
政府が
国会で
承認をしようとする意思と権限を何故制限をいたそうとするのでありますか。我々は全くわからないのであります。
第二の理由は、これは先般来本院の外務、
予算両委員会におきまして陳述証言せる各大学の専門権威者の意見に徴しましても、仮にこの
行政協定が
安保條約第三條による総括的な委任事項であるとしても、それは
安保條約によ
つて両国
政府間で取極めることを委任された意味の條約で、法理的には一定の限度があ
つて、いやしくも国権や国民の権利義務に及ぶ委任事項は生じないと断定しておるのであります。而もその当時は、アメリカ側から内容が
日本側に提示されていなかつたのでありまするし、又
日本側においてもその案を持ち合せておらないということは、衆参両院の
安保條約審議過程においても、
政府も
国会も相互にその内容を知るべくもなく、いわゆる五里霧中の手探りで、あなた任せであつたことは、吉田総理の
答弁でも、この経過においても明らかでありまして、ラスク大使に会
つて初めて提示された案を仰せ御尤もに受諾したこの
事態に対し、仮にこれが
政府の言う條約の施行細目と殊更国民の前に過小評価せんとしても、その現実は蔽うべくもなき重大性を帯び、(「そうだ」と呼ぶ者あり)而も法理的にもたくさんな委任事項以外の問題、取り分け三権分立の基礎を危くするがごとき取極めは、
日本が独立し得るか否かの基本的問題でありまして、国権と共に憲法を擁護すべき第一の
責任体である内閣が、これを
国会の審議にかけないということは、全く專制
政治の権化とも言うべきで、(
拍手)断じて民主
政治に忠実なるゆえんではありません。又仮に
政府の言う国際慣例とかアメリカは
国会にはかけられないとか主張しているようでありますが、これはアメリカ独特の国体と憲法上の
措置でありまして、
日本としては
日本自体の国法に基いてなすべきでありまして、いやしくも
日本の民主憲法と同一視してはならないのであります。(「その
通りだ」と呼ぶ者あり)又アメリカはこの協定によ
つて、アメリカ主権の拡大こそあれ、決してその主権も国民の権利義務も何ら侵害拘束されないことであります。これに反しまして、これが
日本の場合のごとく、貴重なる犠牲を拂
つて漸くかち得んとするこの独立自主の国権が、(「担当
大臣どこへ
行つた」「逃げた逃げた」と呼ぶ者あり)再び
占領下中と殆んど同様の制圧を受け、国民の権利義務は余りにも著しく必要以上に拘束を受けるに至りましては、
日本を中心とする将来の共同防衛の基礎に立つ観点から見ましても、極めて深い問題が生ずることであろうと思うのであります。又
国会が安保第三條において委任したと申しますが、これも、国権が無期限に侵され、且つ国民の権利義務の制限が殆んど四つの島全土に而も無期限に及ぶがごときは、今や委任の法理が及ぶなどはあり得ないことでありまして、仮に然らずとしても、当然国権の最高機関の
承認を得べきことは、
政治的に見ましても、民主憲法の秩序に立つ
日本独立精神の観点に見ましても、良心ある
責任内閣のとるべき
態度であらねばならんと信ずるのであります。
更にその第三の理由は、先の
安保條約審議のときは、衆参両院を通じて、この
行政協定を行うについては、第一に憲法に違反しないこと、第二には、その第三條に指摘しておりますように、即ち「合衆国の
軍隊の
日本国内及びその附近における配備を規律する
條件」の範囲を超えてはならないことに、吉田総理はもとより
政府各
大臣の明らかに約束且つ堅く相互に言明されたところであります。然るにこの
行政協定を見まするに、
政府の行政的意思によ
つて憲法に明定されておる事項を制限したり或いはその適用を拒否するがごとき違憲的
措置をとつたことは、議会における約束を破つたものと言わなければなりません。(
拍手)殊に注目すべきことは、先に行
なつた米比、米英、米濠その他の協定に比しまして、今度の
日本の場合は著しくその国権と国民の権利義務に対する差別的失当の制圧を受け、あたかも
日本が米国の隷属国か
植民地に
なつたかの感を抱かしめるに至りましたことは、(「そうだ」と呼ぶ者あり)将来米国と共に共同防衛に立たなければならない祖国防衛精神を蹂躙破壞される虞れあるものとして、(「そうだ」と呼ぶ者あり)
民族独立の上に誠に由々しき障害と言わなければなりません。(「その
通り」と呼ぶ者あり)同時に、この重大なる国権や国民の権利義務に関する條約を、ただ
報告を受けただけで国権の最高機関たるこの
国会が無審議で済ますということになりますと、何のために国権の発動機関である
国会があり、又国民の代表議員として国民の期待と責務はどこで果そうとするのか。まさに民主議会
政治の前途に極めて暗影を投ずるものと言わなければなりません。(
拍手)
そこで私は、然らば果して
安保條約第三條の委任事項たる
米軍の
日本及びその附近における配備規律の
條件以外の事柄を協定しているかどうかについて、この際、三、四その具体的事実を指摘いたしてみたいと思うのであります。
即ちそれは、この協定の大半を占める
軍隊の組成
要素である軍人軍属以外のそれらの家族、即ち單なる一私人たる地位を有するに過ぎない者に対して、米国の商人等に対してまで、委任事項以外の次のような事柄を協定していることであります。例えば
行政協定の(「官房長官はどうした」と呼ぶ者あり)第五條の2、第九條の1、2、4等の(「誠意がないじやないか」と呼ぶ者あり)米国民の入国及び移動に関する事項、それから第十條の1、3の民間運転手免許証及び私有自動車に関する事項、又第十七條の3(f)の民間人退去命令の專属権の問題、第二十三條の民間財産の保全に関する事項、十條の2、3、十二條の2、3の課税免除の規定、第十七條の刑事裁判権に関する事項、第十九條の2にある為替管理に関する事項、第五條の船舶及び民間航空機の入国に関して規定される事項等は、
米軍の配備規律に関するもの以外の民間人に対するものでありまするが、更に
米軍の配備規律の
條件以外のものといたしまして問題点の多い諸点は、特に第四條の施設及び区域の返還の際における原状復帰又は補償義務の相互免除の事項、第十一條—第十五條の米国の請負業者等の課税の免除、(「うるさい、やめろ」と呼ぶ者あり、その他
発言する者多し)第十七條中の属人主義の刑事裁判規定及び第十四條7の
米軍と契約者個人に対するアメリカの第二義的刑事裁判管轄権に関する規定、第十條の民事裁判権の問題、第二十四條の
日本区域において敵対
行為の生じた場合に
日本が合衆国と共同
措置をとる義務を受諾するの規定、更に第二十五條の
日本国の経費
負担に関する事項等は、明らかに委任事項以外の重大問題として歴然と判定される事項であります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)
又その第四の理由は、この
行政協定の内容には、憲法違反に及ぶと疑問を持たれる諸点といたしまして、特に第一に、第二十四條におきまする外敵の脅威に対する武力行動に関する緊急共同
措置の判定及びその指揮者の判定権次第では、
日本の国権発動、指揮統帥権、緊急
事態の認定主権、及び国土や国民の財産、生命等の権利義務に関連するところの著大でありまして、これらはまさに委任事項以外の、而も憲法に牴触する虞れある重大なる問題として指摘し得るのであります。(
拍手)第二は、第十七條の3(b)の施設及び区域内における合衆国当局の(「中止しろ」と呼ぶ者あり、その他
発言する者多し)專属逮捕権、及び第十八條6(b)の規定にありまするアメリカ軍が直接その
接收する土地建物に対する委任差押権の付與。第三は、
行政協定と同一効力があるとしておりまする岡崎
大臣からラスク大使に宛てました附属公文書にある
日本官有及び私有個人財産の土地建物を
米軍が必要とするものを平和條約発効後といえ
ども政府がその所有者に無断で勝手にアメリカ軍に使用許可を與える約束をしておる事項等は、真つ向から
日本憲法に違反するものでありまして、これはただ
政府が單なる施行細目であると強弁を張
つてみましても、かくのごとき
状態では、憲法を二束三文に蹂躪されては、(「岡崎
大臣どこへ
行つて来たか」と呼ぶ者あり、
笑声)もはや
日本国内においてアメリカ合衆国が建設されたと同様の感を国民にも国際的にも與えるのみであります。殊に
行政協定が軍事的協定と見られる第二十四條の内容は、
政府は明らかにしませんが、この條項を具体化する日米合同委員会が何らの法的根拠もないにかかわらず異例の権限権能を持
つておることでありまして、これによ
つて重要なる軍事作戰あらゆる行動に及ぶ等の取極をなし得るこの遂行機関として認められんとすることは、重大なる違憲
行為であります。又第二十五條によりまして、この
行政協定即ち條約を今後幾年に亘
つて定期的に
改正することの権限を
政府に與えんといたしておることは、注目すべきことでありまして、(「ノーノー」「その
通り」と呼ぶ者あり)若し政策、主義の違つた内閣が代つた場合、その内閣がこの変更をなし得る可能性等を想定いたしますれば、これは国際信義の上におきましても重大なる問題を投ずる非常なる
事態が起ることを恐れるのでありまして、飽くまでも
国会の
承認を得べき諸般の
事態が明瞭にここに指摘されるのであります。
これを要しまするに、平和條約の発効後なお九十日の
占領軍の
駐留期間がありまするから、その後における即ち
日本独立主権が回復の上に立
つて十分日米対等の安保相互條約を結ぶべきであるにかかわりませず、
吉田首相は平和條約を取結んだその翌日に單独で
安保條約を結び、なお
占領下中にこの
行政協定を取結ばねばならなかつた羽目に追い込められたその
責任とこの処置は、(「賛成したのはどうしたのだ」と呼ぶ者あり)殊にこれを
国会に付議しないという
態度こそ、まさに重大なる失政でありまして、吉田内閣は
日本の後世に将来拭うべからざる刻印をみずから負わなければならんと思うのであります。(「その
通り」「趣旨が一貫しないぞ」と呼ぶ者あり、
拍手)然るにアメリカは
日本との
行政協定を先ず
日本と反対に先に結んで、これを見極めてからのちにゆるゆる平和條約と
安保條約の審議にかかつた。この経過、この
事態はこの
行政協定が、平和、
安保條約の骨格であり、中枢であり、極めて重要な條約で、両條約批准の
條件は全くこの
行政協定、ここにあつたというような
事態に顧みましても、
日本が先のこの平和、
安保條約批准後でありますればあるほど、アメリカの場合以上にいろいろの国権や国民の権利義務が侵害されておる事項でありまするが故に、当然これはあとより
国会にでもかけなくてはならんことはもう明瞭なる
事態であります。(「そんなことはない、明瞭じやない」と呼ぶ者あり)若し各位にいたしまして、この
行政協定を
国会に付議しないと、それでもいいと判断されるようなかたがありますれば、それは国権の最高機関の権威と
責任をみずから放棄したものでありまして、(「ノーノー」と呼ぶ者あり、
拍手)決して国民の負託に副うものでもないのでありまして将来再び安政條約の轍を踏むそしりを終生いつまでも負わなければならないと思うのであります。
ここに私は以上の提案理由の説明を述べまして、何とぞこの重大な
行政協定を、国権の最高機関の
責任者である皆様におきましては、且つ国民の負託に副い得るゆえんといたしましても、当然
国会に付議すべきことに御
協力御協賛を願いたい次第であります。以上を以ちまして私の提案理由の説明といたします。(
拍手)