○山田節男君 昨日正半日米両国
代表者によ
つて調印され、同日午後本院において折衝の当事者である
岡崎国務相から報告されましたる、
日本国と
アメリカ合衆国との間の
安全保障條約第三條に基く
行政協定及び交換公文に関しまして、私は
日本社会党第二控室を代表いたしまして、吉田
政府に
質問し、その所信を質すと共に、事態の究明を求めんとするものでございます。
で、我が
日本社会党第二控室は去る第十二
国会におきまして、
平和條約の批准には賛成いたしましたけれども、
日米安全保障條約に対しては反対の
態度を明らかにいたしたのでございます。その根本理由といたしましては、
日米安全保障條約のごとき一種の集団的安全保障の取極めは、
平和條約発効後即ち我が国が完全な
独立の
主権国家とな
つて初めて行い得るものだと確信し、又
安全保障條約の中核とな
つておりまする同條約第三條に定めてありますところの、
アメリカ合衆国軍隊が
日本国内及び周辺に駐屯する諸
條件を、單なる両国
政府間の
行政協定のごときもので決定するということは、我が国の
憲法に違反するものであり、又
主権在民の代表である
国会としては到底これを許容すべきものではないという信念に立
つていたからでございます。今回その全貌を明らかにされました
日米安全保障條約に基く
行政協定の
内容を見ますというと、我々の杞憂はいよいよ実現化いたしまして、我々の信念の正しか
つたことを雄弁に物語
つているのでございます。(
拍手)我々は、
吉田総理がかくのごとき越権
行為を独断的に專行されたことに対しましては、重大なる政治的責任を感ぜられる義務があると存ずるのでございます。
行政協定というものは、第二次世界大戰後に生れた新らしい形式の国際條約でございます。(「その
通り」と呼ぶ者あり)
行政という文句にとらわれますると、如何にもときの
行政政府が勝手に取極め得るがごとく見えまするが、これは大きな誤まりでございます。(「そうだ」「その
通り」と呼ぶ者あり)殊に
日本の
憲法は第四十
一條におきまして、「
国会は、国権の最高機関であ
つて、国の唯一の
立法機関である。」かように定めてございます。事いやしくも我が国の
主権又は
国民の
基本的人権に関する国際的な取極めは、その名称の如何を問わず、当然
憲法第七十三條の定むるところに従いまして
国会の
承認を経べきものでございます。(「その
通り)と呼ぶ者あり、
拍手)御存じのように、
アメリカ合衆国の大統領は、元首の
地位を保つと同時に、その
行政上の大権は極めて広汎に亘
つております。みずからの
権限に基きまして、
行政協定、即ちエグゼキユーテイヴ・アグリーメント、これを結びまして、一種の暫定的條約すら結んだ事例がございました。
アメリカ合衆国の大統領の
権限として
認められている、これは一つの慣行にな
つておるのでございます。然るにこの強大な
権限を持つ
アメリカ合衆国大統領に比しまして、
日本の
内閣総理大臣は元首ではございません。ただ
法律の定むる
範囲内で
行政を担当する最高責任者であるに過ぎないのでございます。(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)かくのごとく提灯と釣鐘のごとき(笑声、
拍手)比重と
権限の相違の下におきまして、あたかも
対等の
地位と
権限にあるかのごとき誤ま
つた認識の下に今回の
行政協定が調印されたことは
憲法の精神から申しましても明らかに違憲でございます。(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)これがために八千四百万の同胞を今日の窮状に陷らしめました秘密外交の失敗を再び繰返博んとするものでありまして、実に非民主的であると断言せざるを得ないのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)
憲法第九十八條によりますると、「
憲法は、国の最高法規であ
つて、その條規に反する
法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の
行為の全部又は一部は、その
効力を有しない。」と
規定いたしておるのであります。
吉田総理は、
政府の当然の
権限に基いて、その
内容は全く條約と同じ比重を持つ
行政協定を独断で取極めたと確信していられるのでありましようか。若し然らば、その
憲法上の根拠を明白にして頂きたいのでございます。その明示がない限り、
憲法第九十八條第二項に定めるところの條約遵守の必要はなやと
考えますが、この点に関する
吉田総理の見解を明確にお示し願いたいと存ずる次第でございます。(
拍手)なお、この点につきましては、只今
岡崎国務相から大部分
答弁がございましたけれども、例の
安全保障條約第三條の末尾に、
行政協定は両
政府間においてこれを定むるものであるから、決してこれは違法ではない、かように申しておられますけれども、その弁解は以上申しました理由によりまして何ら根拠ないものと私は
考えるのでございます。(「その
通り」と呼ぶ者あり)
次に、この友好と互讓の下に成立したと言われまする
行政協定の
内容につきまして、岡田議員
並びに中山議員の御
質問と多少重複いたしまするけれども、逐次
質問をいたしたいと存じます。
第一に、この
行政協定中、最も
国民の関心を集めていたのは
裁判管轄権の問題でございます。すでに岡田議員
並びに中山議員から詳細なる
質問がございました。この
裁判管轄権の取扱い如何によりて、私は本
行政協定の性格が定まり、又、ラスク特使が来目早々、
行政協定は飽くまで平等の
立場に立つ
交渉であると明示されたことが守られているかいないかが判明する最も明白なテスト・ケースであると思うのであります。
行政協定第十
七條第二項によりますると、
アメリカ合衆国軍隊の
構成員、
軍属、又それらの
家族が
日本国内で犯すあらゆる
犯罪について、その專属
裁判権は
アメリカ側にあることが保証されております。換言すれば、
裁判管轄権は
属人主義がとられておることは明らかでございまして、これを只今
岡崎国務相からいたしましては、これは極く新らしい意味の
治外法権である、いわゆる古い意味の
治外法権ではないということを説明しておられまするけれども、併しこれはこの
條文をよく読むことによりまして、明らかにこれは
アメリカ側に対しまして
治外法権を
認めるものである、自主
独立の国家といたしましての
主権が歪曲され否定されていることを示すにほかならないと思うのでございます。而も同條第一項の初頭におきまして、昨年の六月にロンドンで署名されました
軍隊の
地位に関する
北大西洋條約
当事国間の
協定、これが
アメリカについて
効力発生しましたるときは、
日本が好めばその
協定と同じようなものを結ぶことができる、かようにな
つておりますが、
日本が
独立主権国として
対等の
地位において
行政協定が取極められる建前にありながら、なぜ最初から
北大西洋條約と同じく
属地主義にされなか
つたのか、理解に苦しむものでございます。先ほど岡田、中山議員からもこの点に関しまして御
質問があり、
岡崎国務相からも御回答がありましたけれども、私は遺憾ながら
岡崎国務相の御
答弁によ
つては了解できないのでございます。先ほど繰返されましたがごとく、不平等條約の撤廃に苦難を嘗めました我々
日本国民といたしましては、
国民感情の上からいたしましても、
独立日本のプライドの上からいたしましても、誠に不面目に思う。
政府当局のイソフエリオリテイ・コンプレツクスと申しますか、一つの劣等感のいたすところであると、
国民一般は極めて不満に感じているのでございます。先ほども申されましたように、最近都下に起きました某銀行の
ギヤング事件、或いはその他の地区におきまして強盗或いは脅迫のような種々の
犯罪が起きておりまするけれども、その検挙はなかなか挙らない。徒らに民心を惑わしているのでありますが、これは一に
裁判管轄権が
治外法権的な
属人主義に基いているからであります。先ほど
木村法務総裁から御
答弁がこの件についてありましたけれども、こういうような拘束された一方的な
日本の
裁判管轄権の下において、よく治安を保ち得る自信がおありになるや否や。重ねて私は率直な御
意見を承わりたいと存ずるのでございます。
次には、これ又、前
質問者の諸君によ
つて問題に
なつた点でありまするが、緊急事態においての米軍の
出動についてであります。
安全保障條約の第
一條に定めまするがごとく、
アメリカの
軍隊は、極東におきまする国際の平和と安全の維持に寄與し、
並びに一つ又は二つ以上の外部の国による教唆又は干渉によ
つて引き起された我が国における大規模の内乱及び騒擾を鎮圧するための援助、及び外部からの武力攻撃に対する我が国の安全に寄與するために駐屯することにな
つておるのであります。
行政協定第二十四條におきまして、米軍
出動の場合は具体的に協議すると、極めて漠然とした
規定があるのみでありまして、日米の協議が事前に行われるのか、事後に了承されることでいいのか、明らかにされておらない。又、
アメリカ軍と
日本の
警察予備隊が共同行動をとる場合の総合的指揮はどうなるのか、これも明示されておりませんし、先ほどの
岡崎国務相の御
答弁によりましては明瞭になりません。
北大西洋條約によりまするところのいわゆる何と申しますか、ノース・アトランテイツク、トリーテイ・オーガニゼイシヨン、これにおきましては、先ほど
岡崎国務相も言われましたごとく、統合参謀本部がございまして、アイゼンハウアー元帥がその最高指揮官となり、その下におきまする幕僚は、この北大西洋
防衛條約加盟国の軍の
代表者が参加いたしておるのでございます。こういうような工合に、欧州軍の統合本部のような構想の下において最高指揮官を置いて、この日米合同の兵力と申しますか、軍力と申しますか、それに対して統帥権を委任するのか。又、作戰の幕僚といたしまして
日本側からも
代表者を置くのかどうか。この点について
行政協定取極の当の責任者
岡崎国務相の見解を再び承わりたいのでございます。この点は、
日本の自衛的兵力が本来の趣旨に反しました
目的或いは
区域に
出動を余儀なくされはしないかとの危惧心が持たれまするので、特に明瞭にして頂きたいと存ずるのでございます。
次は
防衛支出金の問題でございます。先ほど
大蔵大臣から御説明がございましたが、なおこの問題について私は補足的に
質問申上げたいと存じます。
御承知のように明年度の
予算におきまして、
政府は
防衛支出金といたしまして、六百五十億円の負担を計上いたしております。この
日本の今日の
経済状態といたしましては、過大な自衛力漸増の負担の上に、又その上に六百五十億円という負担金を課せられておるのでございます。
日米安全保障條約は、
日本の安全を
アメリカの援助によ
つて保障するものでありまするけれども、又同時に
日本は、
アメリカの極東、否、アジアにおける戰略的衛星国としての重大なる役目をも果すものであります。北大西洋
防衛條約加盟諸国は、
アメリカから軍備拡張のため多大なる援助を受けており、近く西欧軍に参加せんとする西ドイツにおきましても、相当寛大な援助が與えられるやに聞き及ぶのでありますが、東亜におきまする我が国の任務は重大なるものであることと、我が国の
経済的実力の貧弱なることに顧みまするとき、
日本に対する負担は、この
防衛支出金六百五十億円にいたしましても、余りにシヴイアであると思われるのでございます。自衛力漸増に伴う経費の激増と過大なる年々の
防衛支出金の見通しの下では、
国民の
生活の水準も引下げ、又バターよりも大砲だという財政
経済に向うのが必須であるかのごとく思われるのでありますが、これに対しまする
池田大蔵大臣の健全均衡財政は如何にして保持する構想があるのか。この点についてお示し願いたいと存ずるのでございます。
次に、この
行政協定の第二十三條に、例の駐屯軍の
軍隊、
軍属、その
家族に対しまする保安の問題がございます。これは今朝の新聞を見まするというと、
政府は今
国会に、
防諜法、国家機密保持法案を出すというように伝えておりまするが、こういう事実が果してあるのかどうか。こういう保安的な、曾
つての軍国主義時代に制定されて
国民の自由を奪いましたところの軍機
保護法のごときものが現われるといたしますならば、これは單に
日本の
憲法に反するのみならず、
裁判の
管轄権におきまして
治外法権的な
特権を與えた上に、なおその上塗りをするということになるのでありましてこの点は殊に我々
国民として憂慮するわけでありまするが、この点につきまして
政府はどういう限界においての保安的
立法をなさんとするのか。その
内容のあらましを御説明願いたいと存ずるのでございます。
次は駐留軍に対しまする労務の
調達の問題でございます。
行政協定第十
二條の5によりまして、
日本の
政府の援助によ
つて駐留軍は
役務を
調達することにな
つております。先ほど
吉武労働大臣からの御説明にありましたように、賃金その他の労働
條件、又は労働
関係に関するあらゆる法規は、これらの労務者に完全適用され、若しこれに違反したような場合があ
つたれば断乎処分する、かように心強い御回答がありましたけれども、この先ほど触れました保安の問題に関しまして、恐らくこの
協定第二十三條に基きまする保安
基地内或いは
施設内におきまして相当広汎に応用されるものと存じます。で、これは直ちに
労働者の労働
関係に非常に広く響く点でございます。こういう点につきまして
政府は如何なる保障を與えんとするのか。又先ほどの御
答弁で明らかにな
つておりませんけれども、この駐屯軍に使われまするところの労務者の身分はどうなるのか、間接雇用の建前でありまするが故に、従来のごとくこれは公務員に準ずる要員として扱われるものかどうか。この点について明らかにいたして頂きたいと存ずるのでございます。
次には、日米の
安全保障條約に基きまして
行政協定が成立いたすわけでございまするが、この
行政協定、或いはその基となりまするところの
安全保障條約のごときものを持たない、例えば英連邦軍のごとき、今日
占領軍として駐留しているこの軍は、将来どうなるが。先日、私は本議場において
質問を申上げましたが、英連邦軍は昨年の十二月の十五日以来、従来の英連邦
占領軍の名前を変更いたしまして、英連邦朝鮮派遣軍ということにな
つておるのでございます。かまうな、事実上国連軍の一部として、今日、
日本に駐留いたしておりまするが、こうい
つたような
関係は、講和條約発効前に朝鮮の事態が円満に解決すれば問題は少いかも知れないと存じまするけれども、若し朝鮮の事態が解決しないといたしまするならば、これは実に
国際法上から申しましても変なものと
考えるのでありまするが、これに対しましては
政府は如何なる施策を
考えておられるのか。この点を明らかにして頂きたいのでございます。
次には
原爆基地の設定の問題でございます。先ほど
岡崎国務大臣は
原爆基地は
日本の内地に設けないようによくお願いを申したということでございます。過日我々参議院の議員の有志の中で、昨年渡米いたされました議員の有志諸君がラスク特使を迎えて懇談会を催しました。そのときに同僚でありまする岡本愛祐議員から、この
原爆基地の設定につきましてお願いやら
質問があ
つたのでございます。私もラスク特使のそばに座
つておりまして、
言葉を
はつきりと聞いたのでありまするが、
行政協定においては、決して
原爆基地となるような、こういうような
規定は設けない、広島、長崎におけるようなこの原爆の惨害を見ても、
日本国民の感情から見ても、かようなことはすべきものではない、こういうことを
はつきり言
つておるのであります。私はこの
行政協定の中には、ミスター・ラスクもかような気持でおられるからして、
アメリカ、
イギリスの
協定の中にありまするように、この
原爆基地に関しましては、
はつきりとした明文が謳われておると想像いたしたのでありまするけれども、昨日発表されました
行政協定を見まするというと、一つの文句もこの中に謳われていないということは、誠に私は心外に堪えないのでございます。(
拍手)かようなことからいたしましても、先ほど来、
岡崎国務相は
対等でや
つたのだということを飽くまで申されまするけれども、この一事を以ちまして、ミスター・ラスクの
言葉、ミスター・ラスクが了解されておられたような事項すら、この
協定の中に挿入し得ない。ここに私は今日の吉田
政府のやることが、すべてインフエリオリテイ・コンプレツクスの代表的なものであると断ぜざるを得ないのでございます。(「その
通り」と呼ぶ者あり)私はこの点につきまして、岡田議員からもこの
協定條約が如何にも
日本を
アメリカに従属化せしめたような印象があるということを申されましたけれども、(
拍手)私はこの一事を以ちましても、吉田
政府の実に弱腰であり(「そんなことはない」と呼ぶ者あり)その癖、
国内に向
つてはワンマンである、独裁者である。(「ノーノー」と呼ぶ者あり)国外に向
つては福の顔をし、又
国内に対しては鬼の顔をするという従来の封建的な人であることを最も雄弁に語
つておると思うのでございます。
次に、時間がございませんから端折
つて御
質問申上げまするが、先ほどの岡田議員の
質問に関連いたしてでありまするが、
日本は米軍に対しまして
日本の通信
施設を貸與することにな
つております。
岡崎国務相は電話料金のことだけ御説明になりまして、その他のことに触れられませんで、岡田議員の御
質問が徹底しなか
つたようでありまするから、私は重ねて御
質問申上げます。と申しますのは、この
協定の第三條の第二項におきまして、米国軍は、従来
使用しておりましたところの電波放射の裝置が用いるところの周波数、又電気通信諸般に亘りまするものは、現在
使用しているものをそのまま使う、こういうことにな
つておるのでございます。御承知のように終戰後
日本は、戰災の結果もございまするけれども、殊に電気通信のサービスが惡く、まして電話のサービスというものは全く呆れたものでございまして、本院におきましても、電話サービスの改善について決議案が上程され、可決されたような
いきさつがございます。その根本原因はどこにあるかと申しまするというと、勿論戰災によりまする通信
施設の破壊、この復旧が遅れていることに起因いたしまするけれども、その大きな原因の一つといたしましては、今日電話線の、即ちケーブル線の最も優秀なる部面が
占領軍によ
つて占有されておりまするが故に、全く汽車よりも遅いような急報になり、或いは大阪、神戸間が至急報を以ても二時間もかかるというような電話のサービスの現状でございます。若しこの
協定にありまするがごとく、今日の
日本の通信
施設、最も能率が上らない重要な根拠とな
つておりまするところの通信
施設、これを現在のままで持越して
使用されるということになりまするならば、
日本が
独立国家になり、
経済的にもいろいろな方面におきまして電気通信
施設の改善能率化が要望されておる今日、私はますますこの電話サービスの改善というものに対して不安を抱くのでありまするが、(「そうだ」と呼ぶ者あり)こういうような
協定の下におきまして、
日本の
政府は如何なる対策を以て、
国民が今日不便にさらされ、電話は「出んわ」というような
言葉でも、しやれておられるような現状でありまするが、佐藤電通
大臣といたしましては、如何ような施策をいたされるのか、この点について明らかにされたいと存ずるのでございます。その他いろいろと御
質問申上げたいこともございまするけれども、時間もございませんし、又余
つておる時間で若し再
質問が許されまするならば、それに時間を割愛いたしたいと存じまして、これを以て私の
質問を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣岡崎勝男君
登壇、
拍手〕