○岩間正男君 私は
日本共産党を代表して、過般行われた
吉田総理の
防衛隊建設問題について
質問するものであります。
吉田総理はこれまで我が党を初めとする全
国民の追及に対しまして、あたかも馬鹿の
一つ覚えのごとく、「再軍備はしない」、「予備隊は軍隊でない」と繰返して来たのであります。(「その通。」と呼ぶ者あり)現に一月二十九日の参議院本
会議では、私の
質問に対しまして「予備隊軍隊というがごときは馬鹿の
一つ覚えである」と答えておるのであります。私は、
日本の今置かれておる
立場を憂い、
国民を代表して、幾つかの根拠を挙げてこれを
総理に質したのでありまするから、
総理が若しそれを否定するなら、それだけの理由を挙げて、これを反駁すべきであるにかかわらず、何らの理由もなしにこれを揶揄するがごときは、極めて不謹慎な
態度と言わなければなりません(「その
通り」と呼ぶ者あり)私といえども、政治的応酬とかユーモアを解さぬものではないのでありますが、問題が問題だけに、
国民がこれは承知しないのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)
総理は又、愛する
日本の学童
たちから給食を取上げたり、数十億の遺家族援護費を
予算面から削
つておりながら、僅か二千億に足らざる国防費を以て再軍備と言うがごときは何を以て再軍備とするか、愚の骨頂であると断言しておるのであります。更に木村法務総裁のごときは、原爆とジエツト機を持たなければ軍隊でないと放言しておるのであります。これが吉田内閣の法務総裁であるかどうか果してこんな馬鹿げた三百代言が世界に通用するであろうかどうか。(「しないしない」)と呼ぶ者あり)我々は
日本と国会の権威のためにも絶対にこのような詭弁を許してはならないと思うのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)予備隊が軍隊であるかないか、或いは
防衛隊だとか、いや保安隊だなどという名称の論議に国会が日を送
つておる間に、裏口では
一体何が行われておるか。吉田
政府とその主人公は一片の政令を口実としまして着々軍備を作り上げ、更に厖大な再軍備拡張に乘出しておるのであります。これは何よりも今次の
予算が雄弁にこれを物語
つておるのであります。
吉田総理が、
経済が許さないから今は再軍備はしないという口の乾かないうちに、軍事費はすでに二倍以上の増強であり、而もこれは氷山の一角に過ぎないのであります。こうして今や如何なる強弁も間に合わないのである。ここに端なくも
防衛隊の設置について
総理が口を滑らしたことから、我々は
日本民族とアジア並びに世界の平和にと
つて実に由々しいものを感知するのであります。
それならば、今回の
総理の
発言の
意味するものは何か。それには二つほどあると思うのであります。その
一つは、
アメリカを中心とする最近の世界軍備の拡張の
日本への圧力であり、その二は、この要請に応えんとする国内輿論を再軍備のほうに挑発しておることであります。先ず第一の問題につきましては、言うまでもなく、一カ年半に亘る朝鮮戰争に失敗した
アメリカは、この失敗を補わんがために目下急速にアジアの軍事態勢を強化する必要に追られておるのであります。このために、一方においては、フィリピン、オーストラリア、ニユージーランド等と軍事
協定を結び、更に他方においては、
台湾、
日本、
韓国の連合軍を作り、これらのすべてを挙げて太平洋軍事同盟に結合することがその急務とな
つておるのであります。このことについては、目下ラスク特使と
日本政府の間に推し進められている会談こそは最も注目すべきものであります。即ちラスク特使の今次訪日の目的は
行政協定の締結ということにな
つているのであります。併しこれは表面のことで、隠されたもうつの狙いは、
日本を太平洋軍事同盟の一翼に編入することであると言われておるのであります。あたかもこれを裏書きするかのように、二月四日の産業
経済新聞は、ロンドンのデーリー・メールの東京特派員バーナード・カプランの報道を伝えております。即ち同報道によりますれば、「この会談では重要な取決めが結ばれるだろうが、その一部は公表されまい。会談当事者、特に米国側では、会談について批評を加える場合、会談は純粋に技術的なものだとい
つているが、これは、真赤な嘘で、ラスク氏が現在トルーマン大統領の特使であること、この肩書は普通の技術的
協定の代表には與えられないものであるという事実が、この日米
交渉の重要性を何よりもよく証明している」と述べているのであります。ここで特に我々が注目しなければならないのは、曾
つて講和條約が秘密裡に
日本と
アメリカ政府との間に成立したときに、ダレス氏来朝の肩書が特に大統領特使であつたということを思い起す必要があるのであります。
政府はこのような秘密
協定を
国民や国会に諮ることなく目下推し進めている事実があるかどうか。
吉田総理の
はつきりとした
答弁が承わりたいのであります。二度ならず、三度ならず、こうした圧迫に屈して、故もなく
日本国民を犠牲の手段に供することは決して許さるべきことではない。
次に第二の問題、つまり再軍備の国内世論挑発については、
吉田総理の
発言をきつかけとして、再軍備推進運動なるものが政界の一部に巻き起されつつある現状が何よりも雄弁にこのことを物語
つているのであります。いわゆる再軍備のためには
日本憲法を改正すべしという論議であります。
只今も聞いた論議である。予備隊が軍隊であるかないかというあいまいな論議で政界がその日暮しをしている間に、事態は一足飛びにここまで導かれた感があるのであります。
吉田総理とその主人公にすればまさに思う壷のことでありましよう。元来再軍備についてこれまでの煮え切らない
政府の
態度も、その真の狙いとするところは、かかる世論の挑発によ
つて日本の
国民を欺き、
日本の再軍備をやすやすとやり遂げることにあつたのであり、これらの「てあい」は、いわば同じ
一つ穴の「むじな」であるということが言えるのであります。併しこのような陰謀が果して許されようか。胸に手を当ててよく
考えてみるがいい。今や
日本では、平和憲法を飽くまで守り拔かんとする者が絶えず彈圧され、反対に憲法を蹂躙して憚らぬ者が法的に保護されようとしているのであります。
吉田総理はこの事実を何と見るか。いやしくも新憲法下の
国務大臣として、憲法九十九條の憲法遵守の
規定とも
関連して、かかる再軍備促進運動に対して、如何なる見解を有し、又今後如何なる
措置を行わんとするのであるか伺いたい。
はつきりとした
態度を伺うものであります。又木村法務総裁のこれに対する
意見をも併せてお聞きしたいところであります。明らかにこれは平和憲法への反逆である。今更言うまでもなく、我々があの敗戰から起ち上り、戰争放棄の悲願を世界のすみずみまで
宣言したについては、多くの数限りない民族的生命の犠牲を拂
つて来たのであります。最近硫黄島の白骨は声なき声を我々の骨髄に響かしている。硫黄島のみか、南洋の島々、磯の崎々、バシー海峡、沖縄その他あらゆる太平洋の海域から、これらの声が未だに聞えて来るのであります。広島、長崎の惨禍については、もはや私はここで多く繰返す必要はない。我々の愛する同胞が、その夫が、息子が、弟が、兄が、これら肉身の悲憤にも似た悔恨の情を持たない
日本人が果して今日一人でもあるであろうか。これらのかずかずの犠牲によ
つてかちとつた平和への願いをやすやすとここで放棄し、悲痛のまだ乾かない遺家族に向
つて、再びその子弟を、遺兒を兵隊に送れとは、
一体何の権利があ
つて誰がこれを言い切れるかどうか。これを伺いたいものであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)若し再軍備を強いる者があるなら、その再軍備論者こそは真先に身を軍隊に投じてみるのがいいと思うのであります。而もこのたびの再軍備こそは、
日本民族の
意思によることなく、外国の傭兵として、その手先として、民族を帝国主義者の祭壇に供せんとする陰謀であることにおいて、
政府は二重の罪惡を
国民の前に犯しているのであります。
次に私の質したいことは
防衛隊の海外派遣の問題である。
政府はしばしば
防衛隊は海外に出さないと言明していますが、一九四八年すでにニユーズ・ウイークの評論家レイモンド・モーレーは、「
日本には役に立つ兵士が二三百万いる。又何方という訓練された将校がおり、これを養い
維持するのは安上りだ」と言
つており、又元
韓国軍事顧問団長ロバート中将は、「私は最後の土壇場にな
つて初めて白人をアジアに送るべきだと思う、我々は白人の軍隊の代りに現住民を利用できるだろう。この軍隊は一月五ドルと一杯の米をやればよい」と言
つておるのであります。この安上りの兵隊についてはその他多くの
アメリカの要人がしばしばこれを口にしておるのであります。
以上によ
つても明らかなように、又このたびの朝鮮戰争の実態が何よりもこれを示しているように、━━━━の戰争屋どもは、明らかにアジア━━のために、アジアの青年、殊にも我々の愛して止まない
日本の青少年の血を使おうとしておるのであります。こうした白羽の矢が立
つている矢先、
防衛隊は海外に派遣しないなどという
政府の言明が
一体何の役に立つであろうか。而もこれは
平和條約第五條、安保條約並びに吉田・アチソン交換文書によ
つて公式に義務付けられていること、又最近の
台湾における━━━━が腐敗してその大部分が使いものにならない現実とを併せ
考えてみるとき、
日本兵をこれら太平洋軍事同盟の中核として朝鮮又
東南アジアに出兵させないという保障は全く期待されないのであります。それはあたかも再軍備はしないしないと繰返しながら蔭でそれを強行しておると全く同じであります。若しそうでないとするならば、
政府は今現実に進行しつつあるところの
行政協定の全文について余すところなく
国民の前にこれを公表すべきであると思うが、これに対する
吉田総理の見解は如何でありましようか。(
拍手)伝えられるところでは、
日本軍は、陸軍三十万、海軍五万、空軍十万と言われ、その建設費は一兆以上に上ると言われております。この軍隊に警察
関係を加えれば、十八歳から二十四歳までの
日本の青少年を外国
侵略者のお傭い兵として、国連軍の協力の名の下に、今まで最前線で戰
つている黒人兵の更にもつと前線で血を流さなければならない事態が起ることは明らかだと言わなければなりません。現在朝鮮に徴用されている
日本人海員についてこれを見るとき、その病気治療の順位が人種別に第六番目であるという事実が何よりもこのことを示しているではないか。これが吉田内閣によ
つて目下作られつつある
日本軍の将来の運命であります。
最後に伺いたいことは、予備隊であれ、
防衛隊であれ、このような再軍備の陰謀が目下アジア並びに世界
各国に與えつつある影響についてであります。
日本の再軍備については、ソ連、
中国はもとより、
日本帝国主義
侵略の脅威より未だ覚め切らないインド、ビルマ、ヴエトナム、
インドネシア、
フイリピン、更にオーストラリア、ニユージーランドの太平洋海域の
諸国は、極力これに反対しているのであります。こうした海外の情勢について
吉田総理は
日本国民の前にその真相を明らかにすべきであると思うのでありますが、どうでしようか。このようにして、
国際信義を失い、
日本を再び起つ能わざる泥沼に落し込み、民族を全き破滅の淵に導くような暴挙が許されるであろうか。すでに吉田文書によ
つて、当然に
中国領土である
台湾を
中国から切り離し、敗残將政権と結んでアジア━━野望の片棒をかつごうとしている吉田
政府に対して、世界の審判の鐘は鳴り渡
つているのであります。
アメリカ本国においてさえ、
吉田書簡は日米
関係を惡くするものだとワシントン・ポストは評しており、又これは吉田自身の政治的腹切りの最後的ゼスチユアであると、ニユーズ・ウイークは批評しているほどであります。而もこのことは
日本国民が何ら関知するところでなく、
吉田総理とその一味が、あらゆる
国民の反対を押し切
つて、平和への止むなき希望を踏みにじり、歴史への反逆と独裁的専断秘密
外交によ
つて企らまれているのであります。
我々
日本共産党は、民族の前衛として、かかる再軍備の暴挙に断固反対し、あらゆる世界並びに
日本の平和を愛好する全
国民と共に、これらの野望粉砕のために囲い抜くことを誓
つて、
吉田総理の
答弁を求めるものであります。(「明快なる
答弁を求める」と呼ぶ者あり、
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕