○紅露みつ君 私は
国民民主党を代表いたしまして、数点の問題について
政府に質問申上げたいと存じます。私の質さんといたします第一の問題は、戰歿音遺族及び傷痍軍人
対策についてであります。本問題につきましては、前質問者からも縷々御発言があ
つたのでございまするが、私はいささか異なつた角度からこれを扱いまして、できるだけ重複を避けまして、その
根本問題に触れておきたいと
考える次第でございます。先ずお尋ねいたしたい点は、本
対策に関する
政府の基本的な
考え方であります。即ち遺族、傷痍者を、單に要
援護者であると見て
対策を立てるのであるか、或いは曾
つて国の公務員として勤務、且つ又国の強権による公の職務に倒れた人の遺族として、又は公務の
ため傷ついた人として、
施策を
考えるのであるか、いずれかの点であります。若し後者の意味といたしまするならば、国は曾
つての雇用員に対し当然補償をなすべき義務のありますることは申すまでもないところであります。私が特に強調いたしたい点もここにあるのであります。私は先般の全国遺族大会に列席いたしまして、親しくその声を聞いたのでありまするが、遺族のかたがたが切々として口々に訴えられまするその要請は、
政府に対し国としての補償を行えという点に要約されるのであります。元来、本問題は、
昭和二十一年二月占領軍の覚書に基いて遺族に対する扶助料の全部を停止し、傷痍恩給に大幅の制限を加えましたる勅令第六十八号公布以来の極めて古い問題であります。その後引続く幾多の
努力にもかかわらず、覚書の趣旨は絶対に動かしがたいものがありましたので、
国家補償以外の何らかの
方法になりまして、これらのかたがたを
援護いたそうという
努力が、最近に至るまで続けられましたのでありまして、第五
国会の両院本
会議における遺族傷痍軍人に対し速やかに
援護を行うべしとの決議も、その
努力の
一つの現われであ
つたのであります。併しながら、情勢は変り、今や前述の覚書が効力を失う時期も迫りましたので、この際、本来の筋道であるところの
国家補償を行うべきだと確信いたすものでありますところが、他面、又
社会保障制度の一環として本
対策を樹立すべしという議論もあるのでありまするが、申すまでもなく
社会保障は
社会連帯的思想に基いて
生活困難者に対してその
生活を保障することを目的といたすものでありまするので、これを
我が国の現状より見ますれば、無醵出
年金のごとき保険の一種によらざるを得ないのでありまして、これは保險制度の高度に発達いたしました
国家機構でなければ実現は困難であると思われるのであります。且つその性格から申しましても、
国家の補償と
社会保障とは全くその性質を異にするものであります。現に
福祉国家として最も発達した
社会保障制度を持つと言われておりまする英国においてさえも、
社会保障とは全然別個に
国家補償を実施いたしておるのであります。従いまして、
社会保障を以て
国家補償に代えよという議論は今日のところまだ当を得ざるものと信ずるものであります。若し又既得権たる恩給を受くる権利をすべて棚上げするといたしますれば、その停止するところの根拠を明瞭にする必要がありまするのみならず、(
拍手、「そうそう」と呼ぶ者あり)
憲法第十四條の平等の規定にも抵触し、更に現在の文官の恩給制度をも同時に
社会保障制度に切替えなければ、甚だしい不
均衡がそこに生ずる結果となりまして、事態の紛糾は免かれがたいところであります。よ
つて本問題は、
援護でもなく、
社会保障でもなく、当然
国家補償であるべきはずであります。(
拍手)而も覚書はやがて無効となる、
従つて勅令第六十八号が効力を失う、そこで遺族、傷痍軍人は当然受くべかりし補償を再び国から與えられる、か
ようになることが最も自然な行き方ではないでし
ようか。然るに去る一月十六日の閣議で
決定されたという遺族傷痍軍人
対策、その後
検討の結果、或いは変更の余儀なきに立ち至ることも予想されるこの案は、年所要額二百三十一億円を以て、遺族に対し公債を以てする一時金と
年金とを
支給すると共に、傷痍軍人に
援護金を
支給することをその骨幹といたしておる
ようでありまするが、その性格たるや全く不明確そのものであります。そこで先ず以て
政府にお伺いいたしたいと存じますることは、一体、
政府は遺族傷痍軍人に対し、国として当然與うべき補償を行う義務があるということを認めておられるでありまし
ようか。それとも遺族傷痍軍人には
生活の
援護をすれば足れりと
考えておられるのでありまし
ようか。この
根本観念はどうなのでありまし
ようか。
質疑の第二点は、遺族傷痍軍人
対策に関する今後の決意如何という点であります。即ち
政府が幾たびも
答弁しておられまする
通り、本年は、現在の
ような、
援護でもない、補償でもないいわゆるお燈明料、これは先刻池田
蔵相から御訂正がありまして、
弔慰金という意味だそうでございまするが、いずれにいたしましても、この
程度のもので満足せざるを得ないと今年はいたしましても、今後において、これをどうし
ようと企図されるのでありまし
ようか。何人が見ましても、これは
国家補償だと、納得の行く補償を近く行う決意ありや否やということを伺いたいのであります。(
拍手)これに関連して更にお尋ねいたしたいのは、
昭和二十一年勅令第六十八号の処理であります。新聞の報ずるところによりますると、
政府は近く恩給特例審議会を置くということでありまするが、
政府の意図されるところは、今回
政府が行わんとするところの遺族傷痍軍人
対策にはかかわりなく、恩給制度を復活せしめる意味を以て、勅令六十八号は暫らくそのままに存続せしめんとする意図であるか。且つ又、やがて当然に復活すべき恩給に関する一連の事項を挙げてその機関に付議せんとするものでありまするかどうか。これらの点について
政府の明白なる御
答弁を要求いたすものでございます。(
拍手)
次に
引揚促進の問題でありますが、今回ジユネーヴにおける国連総会に
日本代表を送り、
海外抑留者の問題について発言の機会を得ましたことは、
留守家族のかたがたにも一般
国民にも心強い印象を與えておりますが、本問題に関しては、国連にのみ頼らずに、
日本独自の
努力においても能う限りの
手段を盡さなければならないことは申すまでもないところでございます。然るに
政府が著しくその
努力を怠
つているという意味の新聞記事が去る一月十八日附朝日新聞「声」の欄に掲載されております。而も筆者は本問題と因縁の浅からないと聞きまするところの日比協会設立準備委員長の神保信彦氏であります。先ずその記事を朗読いたします。
日本兵を救え
フィリピンに残
つている元
日本兵と比
国警察隊とが交戰したという記事が各新聞に載つた。昨年秋ごろから、ミンドロ島やミンダナオ島にも、千か二千の敗残元
日本軍人が行動していると聞く。
出征将兵のうち十万ぐらいは生死不明であるが、しかし復員局の業務上やむを得ず戰死者として整理しているという事だ。フィリピンに生きている
日本人は、かなりの数に上
つているかも知れない。というのは、中国派遣軍や南方総軍には全面降伏復員命令が伝えられたけれども、最高司令官を失つたフィリピン派遣軍将兵は混乱して山中を放浪した。多くのものはそのまま帰順して捕虜あるいは戰犯として処理されたものだが、敗戰を信ぜずに、あるいは降伏の危険と恥辱を重大視して依然放浪
生活を続けているものも相当数あろう。
現在フィリピン
政府が治安維持の為にフク団を捜索討伐している矢先、この
ように帰るに帰れぬ罪もない兵士が、生き残る
ためにゲリラに成り果てて治安工作の妨害にな
つているとすれば、賠償問題の解決よりもはるかにいそぐことである。それどころか何方という遺家族にと
つて極めて重大な関心事ではあるまいか。
今のところ
ソ連抑留者問題の
ように国際紛糾にはな
つていないが、敗残の
日本兵が生きる
ために、または抗戰意識をも
つて、フク団に合流する
ような事態が起れば、ひいては日比両国の友好を傷つける
ようになるのではあるまいか。
日本朝野が早く何らかの手を打つことを切望する。以上でありまするが、この記事が真なりといたしまするならば、黙過しがたい大問題であると思います。
〔議長退席、副議長着席〕
何はともあれ、これら南洋諸島にさま
ようというかたがたは、万難を排して救出しなければならないと
考えまするが、
政府はこの記事に対して調査されましたでし
ようか。そうして何らかの手を打たれたでありまし
ようか。伺いたいと存じます。
なお中共地区抑留者の問題でありまするが、彼の地はその特徴といたしまして婦女子が多いのでありまするが、これらの人々が
人身売買によりまして転々として各地に苦難の
生活を続けておられると聞くのでございまするが、竹のカーテン
程度だということでございまするならば、絶対に調査の手が伸びぬということもなかろうと思われまするが、
政府はそれに対して近頃どういうふうなことをしておられるのでありまし
ようか。近況について御
説明を願いたいと存じます。(「何にもやつたことはない」と呼ぶ者あり)
次に
婦人庁の問題について伺いたいと存じます。
政府は今
国会において行政機構の改革を断行するということを
総理大臣の
施政演説中に述べられておるのでありまするが、伝えられるところによりますると、労働省の
婦人少年局、厚生省の
兒童局、農林省の
生活改善課、文部省の
社会教育課等、
婦人に
関係を持つ機構を統合して、
総理府内に
婦人庁を設置するということでありまするが、事実でありまし
ようか。先ずそれから伺いたいと存じます。昨年の秋、
政府が
婦人少年局廃止を企図されました際に、全国
婦人の各層はこぞ
つてこれが阻止の
ため猛運動を展開いたしました。その
ために漸く廃止は免かれたのでありまするが、その直後、同じ
政府から、一見、
婦人対策の強化と思われる
婦人庁設置の提唱がなされておるのでありまして、私どもとしては、
政府の真意が奈辺にありまするのか、実は判断に苦しんでおるのでございます。世間ではこれを評して
政府與党の選挙
対策であろうとしておりますが、
政府はどういうお
考えの下にこの計画をなされたのでありまし
ようか。若し
婦人の
向上の
ために、その
対策を強化されるとするならば誠に幸いでありまするが、それにいたしましても、その方策を誤まりまするならば、
却つて婦人対策の弱体化を招来する懸念なしとしないのであります。(
拍手)それで、この機会に、是非その構想を明確にして頂きたいと存じます。申すまでもなく、
婦人少年局は労働行政の一環として、労働面における
婦人と年少者に適当な職場を得せしめ、そうして、その保護と地位の
向上を図ることを使命とし、
兒童局は厚生行政面から
兒童保護の建前によ
つて母子を保護するを目的といたしております。殊に
生活改善課のごときは農業改良局内の一部門であり、農村の
生活改善を目的としておるのでありまして、たまたまそこに
婦人の占める分野が大きかつたというだけであると存じます。又
社会教育課にいたしましても、これは成人教育の一環としての存在でありまして、共にそれだけを抜き出して
考えるということは如何なものでありまし
ようか。従いまして、これらの部局を單に寄せ集めて
婦人庁を作
つて見ましたところで、それは何らの意味を持たないのみならず、運営上に一貫性を欠いて、あたかも体から手足をもぎとつた
ような形になりまして、徒らに混乱を来たす結果とならざるを得ないと
考えられるのであります。そこで、
政府が真に
婦人の
ためにその
対策を強化されるというお
考えであるならば、現在の機構はそのままにしておきまして、従来から必要性を痛感されておりまするこれらの総合研究所を設置すべきであるということを提唱いたしたいと存じまするが、(
拍手)これに対して
政府はどうお
考えでございまし
ようか。伺いたいと存じます。
次に、この問題の最後にお尋ね申上げたいのは、これらの機関が各省
予算面に占めるところの地位についてであります。例えば
婦人少年局の労働省
予算に占めるところの割台は僅かに〇・二六%、それでも昨年の〇・二二%よりは少々上廻
つておる
ようでありまするが、又
生活改善課の〇・三%、
兒童局の全国あれほどの施設を引受けておりまするその
予算が僅かに一%のごとき、又文部省
社会教育課におきましても、これは大同小異で、極めて低い地位に置かれておると思うのでありまするが、これらはいずれも終戰後折角民主主義の根幹として生れ出た機関でありまするので、もつと
予算を潤沢にして、十分に思い切つた活動をして欲しいと思いますが、これにつきましては、行政管理庁長官、
総理大臣の御意見も伺いたいのでございますが、これらに併せて各所管大臣のこの面に対する御
所見はどういうものでありまし
ようか。併せて御
説明頂きたいと思います。
最後の問題といたしまして、
憲法第九條の改正と、これに対する
婦人層の動向についてでございます。
政府は近く
憲法第九條の改正をする計画で以て、その研究を始められたと申すごとでございまするが、事実でありまし
ようか。先ず伺
つておきたいと存じます。一国の
憲法が怪々に改正さるべきものではないことは申すまでもないところであります。殊に
我が国は戰争放棄の理想を
世界に宣言し、いわゆる平和
憲法を制定したのでありまして、これを進んで改正し
ようなどとは誰もが望んでおらないのであります。それのみならず、極力この平和
憲法を守り、軍備などとは永久に絶縁して、戰争のない
世界、戰争のない
国家を
建設して行こうとすることは、
国民一致の熱願であります。併しながら、国際情勢の変化に伴い、独立
国家としての自主性を確立する
ためならば、或いは
憲法改正の必要も予想されるのでありまするが、この場合における全国
婦人の動静が問題とな
つておるのであります。即ちその相当数がすでに反対の気勢を揚げつつあると聞くのであります。
我が国人口の半数を占める
婦人が
憲法改正に当
つてその
決定権を持つことは極めて当然なことでありまして、(
拍手)本問題における
婦人の動向は、けだし重大だと言わなければならないと存じます。顧みまするに、今次の戰争において
婦人は命にも代えがたい最愛の子供や夫を失い、その上、敗戰によ
つて家庭
生活に余すところなき苦難を味い盡しました
関係上、平和
憲法を守り拔こうとする
熱意は極めて深刻なものでありまして、(
拍手)それは到底男子の比ではないと思われるのであります。(「いいところだ」と呼ぶ者あり、
拍手)併しながら
婦人は決して現実の情勢に目を蔽わんとするものではありません。
憲法第九條の改正は、言われるがごとく自衛力の強化が戰争に繋がるものではなく、むしろ戰争を防ぐ
ためにこそ必要であるといたしまするならば、
政府は全力を盡して
国民にその真相を告げ、協力を求めなければならないはずであると思うのでありまするが、(
拍手)
政府においてはそうした
努力をせず、常に独断的な秘密外交に終始しているということは、どういうわけでありまし
ようか(「そうそう」と呼ぶ者あり、
拍手)誠に遺憾に堪えないところであります。このことは単に
婦人のみの問題ではございません。例えば一月二十日発表のダレス氏宛吉田首相の国府選択に関する書簡のごときは、しばしば問題にな
つておりまする
通り、
国会開会中にもかかわらず何ら諮られることなく、
国民の知らない間にか
ような重大な
意思表示がなされておつたということは、これは著るしい秘密外交の例だと思います。これに対して
総理大臣は、これは
政府の
責任において当然なし得る事柄であ
つて、これでよろしいと言うておられるのでありますが、それにいたしましても、このくらい重大な意味を持つ事柄につきましては、やはり何とかして
国民との間に
意思の疏通を図られるべきではなか
つたのでありまし
ようか。もとより吉田首相は外交の厖大家であり、このむずかしい国際
関係に処して、その御労苦は多といたしますが、その独断と秘密主義は何としても容認しがたく、その
ために
国民の間に不安を與えるという場合が少くないのであります。殊に
婦人暦において一層然りであります。自然、家庭に籠りがちな
婦人に対しては、あらゆる機会を捉え、親切な外交の解明が何よりも肝要であると思います。然る後、
国民の正しい判断を求めることこそが
政府の
責任ではないでし
ようか。具体的
方法としては、
国会を中心に、新聞やラジオは勿論のことでありまするが、私は
大衆娯楽機関である映画館なども、もつと、こうした国際の情勢、その推移というものを知らせる、その報道をさせるのに絶好の機関ではないかと思うのでありまして、是非そうした面に遺憾なきを期すべきだと、か
ように存じますが、
政府はこれにどういう
ようなお
考えを持
つておられますか。
婦人の動静等につきましては御承知のないはずはないと思われますので、何か
対策を持
つておられるでありまし
ようか。この点につきましては特に
総理大臣から懇切に詳細に御
所見の開陳を願いたいと存じます。
以上で私の質問を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君登壇、
拍手〕