○佐々木良作君 私は、昨年の夏、
吉田総理大臣が講和全権としてサンフランシスコ会議に乗込むに当りまして、当時予想されました平和、安保両條約の内容から、條約締結後
日本の置かれるべき運命につきまして、特に次の二つの点を強調してその善処を
要望しておきました。即ちその第一は、将来
日本が西欧諸国の
アジアにおける防波堤となりまして、いわゆる
アジアの孤兒になるかも知れないという危険についてでありました。それから他の一つは、今の第一のことから来る当然の帰結といたしまして、
日本経済が
アジアの
経済から締め出され、
経済自立の方途を失うかも知れない危険についてであ
つたのであります。私どもの危惧にもかかわらず、
総理はみずからの
外交方針を直進されまして現在に至りました。私は
外交問題として今の二つの問題を提起したのではないのでありまして、むしろ遠く
日本の将来を
決定するところの建国の
方針ともなるべきものでありまするが故に、あえて注意を喚起したのでありました。今や事態の進展はまさにその様相を呈して来ております。
独立国会と言われる今
国会の最初に当りまして、私は重ねてこの問題について
総理の意図を質そうとするものであります。
従つて質問の第一は、新らしく生れ出ましたところの新生
日本の建国の
方針をどこに
総理は求められるか。
総理は繰返して再軍備は絶対にしないと言明されております。そして又再軍備という言葉に極度の注意を拂
つておられるように見えるのでありますけれども、言葉の
如何にかかわらず、條約仮調印以降
日本が現実に再軍備過程に入
つていることを疑う者は世界のどこにも存在しないほど明々白々たる事実であります。去る十二月十九日のメルボルンのザ・エージ紙は次のように
言つております。「オーストラリア人は、ダレス氏が先週東京で行
なつた
演説を重大な関心と重苦しい気持を以て注目した。ダレス氏はその
演説で、殆んど何の條件も付けずに、
日本は再軍備する権利ばかりでなく義務をも持
つていると
日本人に言明したのである。ダレス氏のように権威あるアメリカ人がそのような勧告を與えるのを眺めて、オーストラリア人は事態の進展を施すすべもなくただ見守るものであるとの感を深くする。」こういうふうに述べているのであります。世界の見方はこれだけで明らかでありましよう。バズーカ砲や戰車などで重装備されたものが幾ら軍隊でないと
言つても、それは言葉だけの詭弁であることは子供でも明らかなことでありましよう。これが再軍備であるか否かなどと抽象的な論議を弄んでいるのは、ただ恐らくこの
日本の
国会くらいなものだろうと思います。(「そうだそうだ」と呼ぶ者あり。
拍手)而もお互いにその内容を十分に知り盡しているが故に、知らぬは亭主ばかりなりとさえも言えない悲劇ではないじやないですか。百歩讓
つて、これは予備隊であ
つて、どこまでも軍隊でない、そう言いたければ
言つてお
つてもいいと思う。併し
総理自身が漸進的な防衛強化を行わなければならんということを言明しております。
大蔵大臣は先だ
つての衆議院の本会議におきましても、再軍備はまだ早いのです、まだ早いのですと、手を振り声を嗄らして叫ばれたじやないか。そうすれば、再軍備という問題は実際にはもう時と量との問題であるだけであ
つて、形式的な論議の問題ではなくな
つておるはずであります。それだのに、なぜ再軍備という言葉をあえて避けようとせられておるのか。併しながら、私はここで今再軍備であるかどうかという單なるそういう言葉の議論を繰返そうとはしない。問題は新憲法が民主主義の大道と絶対平和の大理想の上に新らしい
日本の建国理想を確固として明示してお
つたはずである。
吉田内閣が現に歩みつつあるところの
日本の独立の方途と今の憲法の精神との間には明らかなる矛盾があるのではないか。(「そうだそうだ」と呼ぶ者あり、
拍手)
総理はこの矛盾を
外交的な技術や
日本語という妙な言葉の使い分けなどによ
つてごまかそうとしておるように、一見、見えるが、所詮そういう末梢的なやり方で以て私はごまかせるものではないと思う。併しながら私は今新憲法というただあの法典だけにとらわれておるのじやありません。この憲法も千分な
日本国民の討議の後にでき上
つたものではなくて、あの忽々の間にできたものであることは私は知
つておる。
従つて若しこの憲法にとらわれておるならば、
日本の生存が不可能になるというのであり、或いは又八千万
日本人の生きる道が絶対に失われる、こういうふうに断言されるのであるならば、憲法に規定されたところの建国
方針といえども変更されることがあるのは、これは当然のことであるわけであります。併しながら、私は恐らく
日本人の大多数の者が私どもと一緒にこの人類
社会から戦争という手段を永遠に追放しようと誓
つたところの新憲法の理想をまだ決して捨ててはいないと思うのであります。むしろ世界情勢の急迫が一段と加われば加わるほど、私どもはこの大理想を世界に向
つて強調し、世界人類を破滅的な戰争から救済することに、むしろ新生
日本としての、
日本人としての積極的な使命をさえ感じておるのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり、
拍手)この、我々の悲願は現実世界においては通用しないところの一片のセンチメンタリズムであるとして破棄されなければならないものであるかどうか。
総理は恐らくそう
考えておられるのじやないかと思うけれども、若しそうであるならば、言葉のごまかし等でなくて、はつきりと、
総理の世界観を通じ、世界情勢の分析を通じて、はつきりとその内容を
日本国民に訴えてもらいたいのであります。(「その通り」「ダレスのあやつり人形だよ」と呼ぶ者あり)新生
日本の生き方が、現実世界の中で、どうしても軍備に守られた
日本、或いは軍備に裏付けられたところの
経済発展、いわゆる富国強兵という言葉で、——昔言われたこの富国強兵という言葉で進んだ
日本の道はまさに旧
日本の道であ
つて、明らかな
方向があ
つた。——この富国強兵策を中心とするところの旧
日本の再現を以て
総理は新らしく生れ出るところの
日本国の建国の理想とされるのであるか。若しそうであるならば、重ねて私は
総理に対して、男らしくその
方針を明示して、憲法
改正の
方向も明らかにし、
国民に対して納得の行くところの十分なる説明をすべき義務があると
考える。(「解散要求」と呼ぶ者あり)嘘の、欺瞞の説明こそ、世界各国の不信を招き、
国内における人心の不案ますます増大しつつある原因にな
つておるのである。(「そうだ」と呼ぶ者あり、
拍手)
日本人のすべてが、或いはまじめな
日本人のすべてが、恥も外聞も忘れて憲法理想の
日本を本当に建設できるのかどうかというこの問題に対して、心の底から取り組んでおる今の状態を、はつきりと熟視してもらいたい。そうして、その上で
総理の偽わらざる建国
方針を今ここで明らかにして頂きたいのであります。(「できんだろう」「はつきりしておるじやないか」と呼ぶ者あり)はつきりしているか。(「している、している」と呼ぶ者あり、笑声)
ここで順序を逐いまして、私はダレス書簡問題から発展しましたところの中国問題に対して、
曾つて指摘したところの
アジアにおける
日本の孤立化という問題について質問したいのでありますけれども、すでにこの問題は同僚諸君からたびたび質問されており、恐らく私が聞いても
総理の
答弁はあれ以上に出ないだろう、こういうふうに思いますので、この問題は一応割愛して、別の機会に讓
つて、次の質問に入ります。
第二番目の質問は、
日本の
経済自立の目標とその方途についてであります。平和、安保両條約に基きます向米一辺倒的な政策が
日本経済を
アジア経済から切り離し、その自立を困難ならしめる危険につきましては、私はたびたび指摘いたしました。そうして今や例のダレス氏宛書簡と共にその危険は現実のものとな
つて参
つております。周東安定本部長官の
経済演説によりますというと、まあ恐らく大陸
経済と縁が切れるということを前提として、その代替、その代りのものとして、東南
アジア経済との交流を盛んに
言つておられるように見える。大陸を失
つた代りを東南
アジア経済との交流に求めて、そこから
日本経済自立の方途を探そうと、こういうふうに
考えておられるように見える。(「そうだ」と呼ぶ者あり)大陸貿易の禁止が
日本経済の現在と将来に対しまして
決定的な打撃を與えるものであり、この結び付きなしには
日本経済の自立の方途は恐らく見出しがたいのであ
つて、而もそれが
政治的な要請のためにどうしても不可能だということになるならば、理窟から見ても、常識から見ても、恐らくその打開策の
方向が東南
アジアという
方向を指向するのは必然であるだろうと思います。併しながら
経済の動きは決して希望や作文によ
つて左右されるものではありません。(「そうだ」と呼ぶ者あり)東南
アジアに眼を向けることは必要であるとしても、現実に大陸を失うところのこのマイナスを、東南
アジアとの
経済交流によ
つて賄い得るかどうかということは、まさに甚だしく大きな疑問を含んでおります。私は現実の問題として、遠い将来の問題はいざ知らず、現実の、今の問題として言うならば、東南
アジア地域に対して多くを期待し得ないのであります。現に
政府は昨年あたりからたびたび視察団を派遣したりいたしましておりますけれども、ゴアなどの特殊な事例を除いては、一向に問題は進展しておりません。私に言わせるというと、誠に遺憾なことでありますけれども、この状態は極めて当然なことであると言わざるを得ないのであります。なぜと言いますというと、東南
アジア等を含む未
開発地域援助計画は、現実には英米の再軍備計画の進展のためにすでに死んでしま
つているからであります。すでに昨年の九月の中旬にイギリスのトリビユーン誌は
言つている。「相互援助世界計画のチヤンスが多少あ
つたとしても、それは西欧諸国が現在行な
つている巨大な再軍備の努力によ
つてすでに潰されてしま
つた。」と、それからアメリカのグレイ報告によりますというと、ポイント・フオア計画を控え目に、極く控え目に始めるといたしましても、最少限五億ドルの金が必要だと
言つております。これでも少な過ぎて効果を挙げることが極めて困難だとされていたのに、昨年五月トルーマン大統領が議会に提示いたしました対外援助計画におきましては、援助費八十五億ドルのうち四分の三が軍事援助に使用されまして、ポイント・フオア計画には僅々二億ドルしか残されなか
つたと聞いております。而もこの額でさえも議会では削減されて、実際には有名無実に近いものとな
つてしま
つております。又引きますけれども、トリビユーン誌はこう
言つておる。「かくてポイント・フオアは死んだ。その死と共に世界相互援助計画の壯大な構想も全く空想的なものと
なつた。今や軍事的必要がアメリカの対外政策における唯一の支配的要素と
なつた。」と、それから同じように、東南
アジア問題のイギリスのコロンボ・プランについても私は同様なことが言えると思います。あの大騒ぎの宣伝にもかかわらず、現実には僅か数百ボンドの
資金で数十人の技術者が振り向けられたに過ぎないじやありませんか。而もその上、このコロンボ・プランというのは
日本の介入を好まない事情にあることは皆さんもよく御承知の通りであります。して見るというと、東南
アジアの
開発ということは、アメリカとかイギリスとかその辺の金で何とかなるのではなくて、
日本が自分の金で、自分の物資と人材とで行う以外にはないということになります。果して
日本経済にその余力があるでしようか。東南
アジアの不安定極まる政局を知
つておる
日本人の誰が長期に亘る投資をする危険をあえて侵す者がありましようか。その上、この土地の民族
感情が
日本の進出を必ずしも好んでいない事情にあることは、これ父御承知の通りであります。今、この議会で論議されておる
日本の再軍備の問題について、軍事費の増大の問題について、彼らは最も細心の注意を拂
つて見守
つていることを忘れてはなりません。(「その通りだ」と呼ぶ者あり)イギリスのマンチエスター・ガーデイアン紙でさえも、
日本の
開発計回は戰前の
開発以上のものではないとはつきり認めておる。戰前の
関係以上のものではなくて、どうして大陸貿易を失
つた穴埋めにこの地域との交流がなり得られましようか。若し東南
アジアに対する輸出、その結果としての現在のポンド手持ちの増大を以て東南
アジア開発ということを言うのであるならば、話は又別問題です。これは輸入の伴わない輸出であ
つて、先ほどから言われている通り輸入の伴わない輸出であ
つて、而もイギリス、アメリカの戰略物資買付けの結果、ダブ付いたこの地のポンドが、インフレ回避のために、その地域のインフレ回避のために
日本の消費物資を買付けた結果、こちらにずつと「より」が廻
つて来たに過ぎないのであ
つて、むしろ
日本側にと
つて逆効果こそあれ、問題の東南
アジアとの
経済交流という問題の本質とはまさに縁遠いものであります。
朝鮮動乱景気がまさに終ろうとしたとき、
政府官僚は
朝鮮向け復興資材の増大を誇張し、理窟で以て現実の
経済運行に眼を覆わせようとした努力を私は思い出します。(「そうだ」と呼ぶ者あり)その結果は、昨年の夏以来の明々白々たる事実とな
つて現われておるではありませんか。建国の
方針と共に打ち出される
日本経済再建の方途を吟味するに当
つて、このような官僚的作文のようなものに頼り得ないのは言うまでもないことであります。私は周東
安本長官に対して、大陸
経済を失
つた後におきますところの
日本経済の自立方式を現実に印して打ち立てられんことを強く
要望し、そうしてその内容の釈明を改めて私はここで求めようとするのであります。若しそれがどうしてもできない、不可能な相談だということであるならば、
政治的要請の
如何にかかわらず私どもは再び眼を大陸に向けなければならないからであります。
経済自立の方途と共に質しておかなければならないと思いますことは、
国民経済再建の目標であります。
政府は生産指数の向上を以て
国民経済の回復を非常に謳歌されておる。併し
政府の目標とする新らしい
国民経済の構造と理想は、旧
日本の
経済状態の復活ということなんでしようか。低賃金と手工業的
中小企業の上に大あぐらをかいたところの独占的大
企業(「大したもんだ」と呼ぶ者あり)厖大な軍事費によ
つて生産を向上さして行
つた、足の弱い、頭ばつかり大きいあの「たこ」のような
産業構造、それは軍備によ
つて防衛されながら海外進出を図るか。労働者と、
中小企業者を、「たこ」配という。あの足を食う「たこ」配のごとくに食
つて生存を続けるか。このような道を歩まなければならなか
つたところの旧
日本の
産業構造の回復を以て、新らしく生れ出ようとする
日本の
国民経済の目標にしようとされておるのか。(「ノー」と呼ぶ者あり)ノーならば、はつきりと答えを出せ。いい加減な野次はやめろ。
政府が自賛してやまないところの
経済回復は、まさに今のような様相を呈しつつあるではないか。去年の夏から現在までの
経済の様相をあなたは知
つておるか。(「つまらん
演説はやめろ」と呼ぶ者あり)
朝鮮動乱以後四〇%の生産向上を自賛するとき、四〇%生産指数が上
つたと自賛しておるとき、同じ
政府の発表にな
つているところの安本資料によ
つてさえも、
国民生活の水準は五%低下したと
言つておるではないか。こう言えば恐らく
政府は、それはその鞘は資本が蓄積されつつあることを意味するのだと言うに違いない。そういうふうに説明するに違いないからこそ、私は一層「たこ」型
経済構造の危険を指摘するのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)資本蓄積が行われつつあると説明された去年の八月から現在までのこの期間に、労働者の生活は日一日と追い詰められて行
つたじやないか。あなた方の周囲に
中小企業はばたばたと潰れて行
つておるじやないか。(「誰の責任だ」と呼ぶ者あり)八月、十月、十二月、そうして又二月と、これは明らかに目下辿りつつあるところの
経済回復の
方向が、
曾つて必然的に戰争に導いたところのあの旧
日本の
経済構造の道を辿りつつある証拠である。(「そうだ」と呼ぶ者あり)私は改めて
経済回復の
方向を
政府に質さざるを得ないのです。
経済回復とは、
国民の生活を、一人片々の
国民の生活を豊かにするということではないでしようか。生産指数の向上と生活水準の低下との
関係について、明確なる
答弁、明確なる御説明をお願いしたいのであります。
政府が自立
経済の方途を模索しつつあるところの地域、東南
アジア地域の諸民族と共に私は聞きたい。(「その通りだ」「戰争準備の
経済だよ」と呼ぶ者あり)
次に財政質問に入る予定でありましたけれども、もう時間の
関係もありますし、これは委員会に譲りたいと思います。ただ
大蔵大臣は財政
演説におきまして、講和
関係の諸経費、まあ気に入りませんでしようけれども、私どもはこれを再軍備費と称しますけれども、これが内政費を圧迫することはないのだと繰返して言明された。併しながら私はそんなことはないと思います。ちよつと目算して見ましても、今年度
予算に対して来年は恐らく七、八%の圧迫が加わ
つていると
考えられる。
インベントリー・フアイナンス等の
関係から見ても、補正は必ず必須だろうという感じがいたします。(「尤もらしい要素がある」と呼ぶ者あり)更に昨年以来の
予算編成上における
関係当局との折衝経過の跡を辿
つて見ましても、いわゆる再軍備費が激増の一途を迫ることは明らかである。これが
国民経済に重圧を必ずかけて来ること、これらの危険を指摘するにとどめまして、
大蔵大臣に対する本質的な質問は省略いたします。(「よろしい」と呼ぶ者あり)
三番目に、
総理に対しまして国情並びに政局の不安定の原因について質したいと思います。
総理は施政
方針演説におきまして、外資導入の急務を説いて、その前提として国情の安定、わけても政局の安定の必要ということを言われた。こう
言つておられる。「このことたるや外資の導入を待つにあらざれば急速の発展は期しがたく、外資の導入は、国情の安定、わけても政局の安定を見るにあらざれば期待すべからず」と喝破された。(「大したものだ」「その通り」と呼ぶ者あり)現内閣が政局を担当してからすでに三年、終戰後の数個の短命的内閣はまあ一応別問題といたしましても、三年の長期に亘
つて政権を担当するということは
日本憲政史上稀に見るところの偉大なことであります。(「その通りだ」と呼ぶ者あり)この長期の政権担当をしておりながら、なお且つ国情が安定せず、政局が不安定であるとするならば、(「主観の相違」と呼ぶ者あり)まさに不安定であるから外資も十分入
つて来ないということは誰も疑わない。(「主観の相違」と呼ぶ者あり)一体、それであるならば、この不安定は誰の責任だ。(「誰が負う」と呼ぶ者あり)この不安定の原因が、占領下であるとか、或いは複雑な国際情勢下とか等々、必ずしも内政面からのみ来ておると私は言うものでもありませんし、又複雑な国際的
政治條件下におきまして現内閣の業績を私は正当に評価するのに決して人後に落ちるものじやありません。(「よろしい」と呼ぶ者あり)併しながら、語るに落ちた
総理自身の言う国情、政局の不安定の原因、これを質さなきやいかんわけであります。(一層の安定」と呼ぶ者あり)一体、現今の不安はどこから来たか、講和から再軍備に至る一連の
施策、即ち激化した国際対立の一陣営へ
日本みずからを積極的に投じたこと、或いは大陸貿易への道を閉鎖したこと、更に再軍備とそれによる
国民生活の圧迫とインフレヘの不安等々、これらの講和から再軍備に至る一連の
施策が何にも増して現在の
政治的
経済的不安を増大しているのじやないだろうか。(「その通り」「止むを得ざる
施策だ」と呼ぶ者あり)これが見解の相違だと言われるならば、これは一応暫らく棚に上げておきましよう。それならば米麦統制撤廃問題に関する失策が国情を不安ならしめはしなか
つたのですか。電力行政の失敗は
経済界と民生を大混乱に陷らしめはしなか
つたか。或いは戰争犠牲者への
政府の不遜な態度は最もまじめな人々の愛国心を心の底から蝕みはし
なつたか。(「その通りだ」と呼ぶ者あり)保安庁、予備隊、専売公社、特別調達庁等々の枚挙にいとまのないところの相次ぐ汚職事件、これが行政の権威を失墜せしめ、いやが上にも人心を荒廃せしめはしなか
つたか。過去と現在と予見せられるこの将来にまで亘
つて今最も人心を不安定ならしめている張本人こそ、正に
吉田内閣自身の
施策ではありませんか。(「そうだ」「何を言う」と呼ぶ者あり、
拍手)私はあえて聞こう。この現存もたらされている不安の根本的な解消
方法を
総理はどこに求められるか。更に聞こう。みずからの責に帰すべき不安定な世情の上に、顧みて他を言う独善的責任回避を以て、
国民の頭上に大あぐらをかく
吉田自由党内閣の民主主義
政治原則に関する解釈
如何と聞こう。(「聞いたらいい」と呼ぶ者あり)ここで私は
吉田内閣の相次ぐ失政を挙げてそれを追及することに
目的があるのじやない。むしろ私はそれにも増して、実は最も寒心に堪えないのは、今や
国民感情が一般的な
政治不信とな
つて現われつつある現象であります。
総理は衆院の本会議における水谷君の質問に答えて、人心未だ去らずと大見栄を切
つて相当得意気でありました。(笑声)或いは私は現在の政党の中で、自由党はまだ人心の支持を得ておるかも知れないと思います。(「その通り」と呼ぶ者あり)併しながら最近各種の輿論調査の中で、支持する者なし、或いは答えず、或いは不明等等の、いわゆる消極的意思表示が次第に高まりつつある現象を何と見るか。
政府はここらに関心を拂われたことがあるのか。まじめな人ほど
政治に無関心を装おうとする
傾向を諸君は何と見るか。(「唇寒し」と呼ぶ者あり)更に
政府も、
国会も、政党も、議員も、あらゆる
政治勢力に対して勝手にしやがれと捨てぜりふする声なき声を諸君は聞かないか。(「そうだ」と呼ぶ者あり)或いは、おれらは、そんな、あんた方みたいなものに頼
つてはいられない、それじや飯を食
つてはいられない、こういう
国民のつぶやきに耳を傾けたことはないか。
国民が自分の国の
政治そのものに不信を示し始めることほど民主主義者にと
つて恐ろしいものはないのであります。まさに私は現下の民主主義
政治の危機を感ぜざるを得ないのであります。民心の不安が増大したときに、民心が倦んで来たとき、民主主義
政治は
国民の新らしい
政治的活力を振興させなければならないということを教えております。その最後的
方法は
国会の解散であり総選挙であることは言を待ちません。みずから蒔いた国情、政局の不安を、権力の動員によ
つて鎭庄せんとするもの、それは民主主義の敵フアシズムの
方向である。(「そうだ」と呼ぶ者あり、
拍手)
吉田内閣は現今の国情不安を解消する
方法として、民主主義の
方法によらずして、断じて解散はせずと
言つて、例えば労働三法の改訂、ゼネスト禁止法、団体等規正法等々のいわゆる彈圧立法をとろうとしているのだろうか。私は、今や敗戰と共に
日本人全部で誓
つたところの民主主義
政治のこの危機に立
つて、繰返し
政府の善処を
要望しながら、
総理の所信を伺うものであります。(「時間だ」「時間の問題じやないぞ」と呼ぶ者あり)
以上私は三つの基本的な問題についてお伺いしたのでありますが、あと二、三具体的な問題につきまして簡單にお伺いしたいと思います。第一に戰争犠牲者の問題について。この問題についてはもはや説明する必要はないと思います。併しながらこの問題の要点は、
政府の誠意という問題であると
考えます。
政府は従来の行きがかりにとらわれず、生活援護の観念を一働して、恩給法に基いた権利復活の
立場に立
つて、すでに恩給局等においてそういう準備をされておると聞きますが、この筋の通
つたやり方に転換する
考えはありませんか。自由党の政調会でさえも同様な
考え方に立とうとしておると聞いております。
政府の所信を聞きたい。
第二にいわゆる李承晩ラインの問題について。公海自由の原則に基く権利の復活によ
つて飛躍的な発展を期待しつつあ
つたとき、突如としてなされたいわゆる李承晩声明なるものが、
日本漁業界に異常なる衝撃を與えていることは皆さん御承知の通り。現在においてさえも、マツカーサー・ラインを中心に紛争を繰返している漁業操業に鑑みまして、一層の面倒なる事態の起ることが予想せられ、又、南方等、他の海域においても同様な問題が波及する虞れなしとしないのでありますが、
政府は今後
如何なる態度を以て李承晩声明に当らんとするものであるか。又実際に起るであろう個々の紛争事件について
如何なる
方針を以て解決に当ろうとするものであるか。外相、特に
農林大臣の所信を承わりたい。
第三に文教問題について。地方財政の貧困のしわ寄せが
教育費にもたらされていることは
周知の事実であります。先ほどの駒井君の質問にもあ
つたようでありますが、天野文相は、就任以来の数度の公約とな
つているこの
教育財政確立の問題につきまして、今度こそ
義務教育費国庫負担の実現を期して五百八十億の
予算を要請されたと聞きます。然るに又々この要請は遂に不成立、留保と
なつたと聞くのであります。文相はこの
政治責任を
如何なる
方法を以てとろうとするものであるか、伺いたいと思います。まさか
予算の伴わない法律を出す意図もなかろうと思いますけれども、ともかくも
予算が今のような状態の場合、
国庫負担法の提出の意図ありやなきや、明確に伺いたい。「あわてなければ時間がなくなるぞ」と呼ぶ者あり)二番目に懸案の六三制校舎の整備問題につきまして。来年度がその最低基準計画の最終年度に当
つておるがために、文相は六十数億の
予算を要請したと聞いている。そのうち半ばに過ぎない三十数億への削減とな
つて現われた。又新制中学校建築の犠牲とな
つている老朽小学校施設が、危険校舎として一日もゆるがせにできない実情にな
つており、問題を巻き起しておることは、皆さん
周知の通り。それだのに来年度
予算の中にはその
対策が具体化されておりません。更に
災害に基く
教育施設の復旧について根拠法規がないために、
国庫補助について甚だ不安定な状態であり、幾多の問題を投げかけましたことも、
周知のことであります。これら諸懸案の問題について文相の責任ある
答弁を要求する。
最後に電力問題について。昨年の夏以来の電力危機を顧みて最も要請されるのは、電力行政の一元化であると思うのでありますが、
政府の見解
如何。
政府が電力行政の責任を回避しておる一方、
公益事業委員会はまさに私益
事業委員会的性格を発揮して、九つの
電力会社に対して、あたかも本店が支店に対するがごとき態度を以てあらゆる事項に干渉し、電力行政のみならず、電気
事業自身をも壟断しつつあることは、これ又
周知の事実であります。会社人事に干渉し、工事の請負にまで権力的態度を以て臨んでいることは、越権の沙汰という以外の何ものでもない。こんなことが公共
事業令のどこにも書いてないことは誰も知
つているはずであります。最近におきましては、いわゆる
電源開発計画なるものを発表して輿論をにぎわしているのでありますが、一体この
電源開発計画というようなものを樹立する権限は
公益事業委員会のどこにもないと思います。
事業会のどこに規定しているのであるか。
政府はこの委員会のかかる横暴を黙視し続けるつもりであるかどうか。而も昨年来の電力危機が来ますというと、それは予測せざるところの電力需用の激増の然らしめたところであると言い、或いは異常の渇水のためだと言い、責任を天に帰せしめ、更に又それは
政府の石炭
対策のまずさであると
言つて、責任を
政府に持ち込み、或いは又
電力会社の怠慢の故であると
言つて、会社の人事にも干渉している。そうしてみずからは一片の責任をさえも感じていない実情である。一体現在の
機構におきまして、電力需用を想定して、それに合せるような電力供給の計画を立案して、その実現を促進指導する者は一体誰なんだ。これは
機構上明らかにし、電力行政の責任を明確化しない限り、電力問題の解決の糸口はないと
考えるのでありますが、
政府の見解を承わりたいと思うのであります。
二番目に、電気
事業と電気労働者の性格について。電気
事業は独立採算制を建前とする九つの電気会社によ
つて運営されておることは説明を要しません。独立採算制は現行法上
企業体を意味します。
政府や
公益事業委員会が
如何に要請したとて、
企業経営の原則に
従つて採算の合わない石炭購入を会社が拒否したとするならば、この会社に石炭を購入せしめ、電力を発生させるための有効な合法的な
方法があり得るだろうか。併しながら実際には電気
事業の公益
事業的性格よりの強力なる要請が採算を割
つた石炭購入を余儀なくされておる実情であります。これは
企業としては飽くまでも矛盾である。然るに、一方、例えば電気従業員の賃金は、
企業会社であるが故に、独立採算の枠のうちに強圧されざるを得ないのであります。石炭の購入には公益
事業の故を以て收支の枠を超越せしめられているのに、それだのに、その石炭を電力に変える労働者の賃金は、收支の枠の中に改められなければならない実情であるのであります。かかる矛盾が許されていいだろうか。かかる矛盾の中で電気
事業の健全な発展と安定が保たれるであろうか。のみならず電気
事業の従業員は、公益
事業に従事する故を以て、労働者としての基本的権利に一定の拘束が與えられている。私は現在置かれている電気
事業の矛盾に満ちた性格の整理を要請すると共に、特にこの電気労働者の問題について労働
大臣の認識を伺いたいのであります。噂によれば、
事業性格はそのままにして置きながら、電気労働者の一般労働者としての基本的権利に対して、例えば労調法の改訂等によ
つて一層の拘束を加えんとする企図ありと聞くが事実か。又昨年末の争議においても
行き過ぎた争議行為の故を以て目下検察庁の手を煩わしていると聞くが、何を基準として
行き過ぎを云々せんとするのか。若し公益を害するか否かということであるならば、公益を害しないところのストライキ行為というものはないのである。労働
大臣の
所見如何。
最後に、
電源開発について聞こうと思
つたのでありますけれども、時間がないから省略いたしまして、ただ、私は
大蔵大臣に、数個発表されておりますところの厖大なる電力
開発計画に対して
日本経済の許し得る
資金の枠の見通しを承わりたい。五年も十年もの先ではありません。現実の
日本経済が可能とするところの
資金の枠の見通しを承わりたい。
電源開発というのは、どの内閣も、どの施政
方針演説にもあ
つて、まだ一遍も本格的にやられたことがないことも事実である。だから本質的な質問を投げかけたいのであります。質問を終ります。(「誠意ある
答弁を
要望します」と呼ぶ者あり)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕