○吉川末次郎君 私は、去る二十三日、本院において行われましたる吉田
内閣総理大臣の
演説を
中心といたしまして、
日本社会党第二控室を代表いたしまして
政府当局に
質問いたしたいと思うのであります。
自由党内閣治下の現在、
日本の政治情勢を見まして、私は
曾つて年少学生の頃に滞在いたしました第一次大戰後のドイツの
政府の実情を常に想い起さざるを得ないのであります。それは、インフレーシヨン、
経済の窮乏或いは風紀の頽廃等のもろもろの敗戰国的現象が全く相似ておるということばかりでなくして、なお、それよりも、ドイツが第一次大戦後共和革命によりまして、その第一條第二項に「国権は
国民より発する」という人民主権に則る民主
主義的な
憲法を新たに制定いたしまして、それに伴う法律制度的な改革を断行いたしましたにもかかわらず、ドイツ
国民の封建的後進性と、久しきに亘る
国家至上
主義、軍国
主義観念の根強さは、容易にその頭の切替えを行うことがドイツ人にはできなくて、
外交上におけるところの
他国の
圧迫、
経済恐慌の襲来によりまして、直ちにナチス政治勢力の接頭を促し、再びドイツを敗戰亡滅の悲運に逢着せしめたことは、皆さん御承知のことと思うのであります。私は現下の
日本がそれと全く同じコースを辿りつつあるということをば、
国民の将来のために深く憂いとせざるを得ないものであります。大体右のような基本的な観念によりまして、
政府の具体的な施策について二、三御
質問いたしたいのであります。先ず第一に衆議院の解散問題について
総理大臣及び
木村法務総裁に
お尋ねいたしたいと思うのであります。
総理大臣は衆議院の解散は行わないと言
つておられるのでありますが、私は、
平和條約
発効と共に、
首相が御
演説になりましたように新
日本として国際間に新らしく発足するということのためには、
国内の政治も又それに伴うところの新らしい発足をするのでなければ、それに符応しないと
考えるのであります。よろしくこの際衆議院を解散いたしまして、新らしき
国民の政治意思に基く新らしい
政府が樹立されることが、私は正しいことだと
考えられるのであります。(
拍手、「そうだ」と呼ぶ者あり)右につきまして吉田
内閣総理大臣は、私が申しましたようにはお
考え下さるわけには行かないのであるかどうかということを御
答弁が願いたいと思うのであります。又解散を
首相が拒否せられておりまするのは、
憲法第六十九條によるところの、即ち不信任案が
成立するのでなかつたならばこれを行うことができないという、一部の人たちの
憲法論によ
つておられるものであるかどうか。言葉を換えて言えば、
憲法第七條に基くところの衆議院の解散は不可能であるというようにお
考えにな
つているかどうかを、
首相並びに
法務総裁よりその御見解が承わりたいのである。又次に、若し
首相のおつしやいますがごとくに、現代議士の任期一ぱい解散はここれをなさないということでありまするならば、
予算の
審議上、当然に
国会法の改正を行わなければならないということにな
つて参ります。解散を吉田さんはやらないということをお
考えにな
つておりまするならば、
政府は本
国会にこのような
国会法の改正案を提出せられるところの意思を持
つていらつしやるかどうかということを併せて御
答弁が願いたいと思うのであります。
次に
お尋ねいたしたいとこは、行政
機構の改革の問題につきまして、若し総括的に
首相にお
考えがありまするならばお述べを願いたいと思いまするし、木村行政管理庁長官、大橋国務相、人事院の総裁及び自治庁長官、
国家公安
委員長及び地方財政
委員長等から、それぞれその御管掌の事項に触れました私の言説につきまして、御
答弁が願いたいと思います。
行政
機構の問題につきまして先ず第一にお伺いいたしたいと思いますることは、
政府は行政
機構の大きさ、行政
機構の規模をどのようなものとするお
考えであるかということでございます。現在の
機構は二府十一省一本部であります。新聞その他の伝うるところによりまするというと、政令諮問
委員会案なるものとしては一府十二省、又、世にこの木村案として報道せられておりまするものによりまするというと一府九省、その他行政制度
審議会案によりますると一府十省等とな
つておりまして、その
内容はそれぞれ異な
つておりまするが、いずれも
政府のおつしやいまする行政
機構の簡素化の趣旨に副うたものであるかどうかは知りませんが、現在の
機構よりは縮小されることにな
つております。現在
政府がこれについて持
つていらつしやるところの具体的な構想、これは昨日目下調査中であるという御
答弁がありましたが、でき得る限り具体的に、発表し得る
範囲の
最大限にまで、今日これを
国会を通じて明白にして頂きたいと思うのであります。
次に、私は保安省及び
治安省の構想につきましても
お尋ねいたしたか
つたのでありまするが、岡本君より先ほど御
質問がありまして、時間がありませんから、この点は省略いたします。
次に
お尋ねいたしたいことは、行政
機構の改革につきまして、この内政省の名におきまして内務省の復活が
計画せられており、その
計画はその筋から中止を命ぜられたというところの説も伝わ
つておるのであります。その真相を明白にして頂きたいと思うのであります。このような内務省の復活
計画のごときは、旧内務省の官僚によるところ化の逆転であると私は
考えるのであります。(
拍手)彼らは
日本の
独立回復を機縁といたしまして、地方自治体の
権限を縮小して、再び戦前の中央集権的
警察国家の再興を夢みておるのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)
曾つて軍閥とタイアップして
日本をプロシヤ
主義化することを図
つて来た内務省の官僚らは、彼らのイデオロギーの徹底的な民主化が先ず行われない限りは、かくのごとき
計画は
日本の将来のために断じて我々の許しがたきことであると
考えておるのでありますが、
政府の御所見を承わりたいと思うのであります。
次に行政
機構の改革につきまして、
政府は人事院並びに
国家公安委員会、地方財政
委員会等の各種の行政
委員会制度の廃止を
考えられておるようでありまするが、私たちは思いまするに、それは三権分立以外の第四権的な存在としての、新らしい民主的な政治
機構としてのこの
委員会制度の精神がまだ十分に理解されておらないということから来る、世間一部の守旧者流の謬見に禍いされておるのではないかと
考えるのであります。事実その機能が無用化しておりまするところの
委員会はこれを廃止するということには私も賛成することにやぶさかならざるものでありまするが、戰前と同じところの官僚
主義の
考えによりまして、わざと、この民主
主義的な政治
機構でありまするところの戰後の
委員会の精神を理解し得ない、その本来の機能を発揮せしめることには少しも努力しないで、直ちにこれを廃止しようとするがごときことは、これ又
日本民主化の逆転であると私は言わなければならんと思うのであります。
次に、この地方制度の改革が、シヤウプ勧告を基本とするところの地方行政調査
委員会議の勧告書、即ち世間にいわゆる神戸勧告を参照しつつ
考えられておるようでありまするが、結局
政府当局の復古的な政治観念と旧式官僚
主義とが、その後の自治体警察の廃止、町村警察の廃止によ
つて行いましたところの実績等にも見られるがごとくに、結局これはこの神戸勧告中の官僚
主義に符応するところの部分だけを採択してお茶を濁して、そのほかのお気に入らないところの民主
主義的な改革の面は、やがて
独立の回復と共にことごとく廃棄してしまうというのが、恐らく現内閣の行政
機構改革に対するところの肚であると私は推察いたすのであります。大体そういう肚を持
つておるという人が多いということは、
憲法の規定を無視してまでも府県の知事をば又もや昔の官選制度に還してしまうというような馬鹿げた運動がまじめに行われておるということによ
つて大体その動向は推察せられると
考えられるのであります。
考えまするのに、大体シヤウプ使節団というものは、財政学者や租税学者の使節団でございまして、
日本の地方行政の改革のためには、丁度、昔、後藤新平さんが東京市長に就任いたしましたときに、アメリカの政治学者チヤールズ・エー・ビーアドを招聘いたしまして、縦横に先ず東京市政を批判せしめまして、これが改革案を徴して参考といたしましたごとくに、シヤウプ税制使節団の勧告と相並んで民主
主義的な政治学者の使節団を迎えまして、その勧告をも併せて聞くということが私は必要であると
考えるのであります。言うまでもなく、
日本の地方自治制というものは、山県内務
大臣の当時にプロシヤ人でありまするアルバート・モツセが
日本に参りまして、これが書き上げたものから始ま
つておるものでありまするので、最初からのドイツ的な、プロシヤ的な伝統は、脈々として
日本の地方行政を今なお支配し続けておるのであります。(「ノーノー」と呼ぶ者あり)地方行政の民主化を完成すること、
教育の民主化を完成するということを基本とせずして、
日本政治の民主化、
日本社会の民主化は断じて行うことはできません。然るに、
教育の面におきましては君が代の復活を図つたり、いわゆる天野勅語等に見られまするところの、古いドイツ古典哲学かぶれの天野貞砧氏によ
つて日本の
教育が指導され、(「そうだ」と呼ぶ者あり、
拍手)この地方行政が相変らず古いドイツ式の、ドイツかぶれの旧内務省の官僚によ
つて指導されておりまする限りは、
日本の民主
主義は絶対に成長することはできないのであります。(「紀元節が飛び出して来るだろう」と呼ぶ者あり)右についての御
答弁が願いたいのでありまするが、自治庁の長官の名を通じましていろいろな地方行政の改革案が今日まで発表されておるのでありまするが、失礼ながら自治庁長官の岡野さんは地方行政の素人でいらつしやる。その下に事務をと
つておりまするところの旧内務省の官僚どもが(「ノーノー」と呼ぐ者あり)全部これをでつち上げるのでありまするから、(「そうだ」と呼ぶ者あり)今日まで発表されたものはことごとく戰争前の古い官僚政治への復帰そのものにほかならないのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)一々これを批判する時間はございませんからこれは他日に讓りますが、以上申上げましたことにつきまして、先ほど名を挙げましたかたがたから一つ御
答弁が願いたい。特に人事院の総裁、地方財政
委員会の
委員長、
国家公安委員会の
委員長等からは、その御管掌にな
つておる人事院及び
委員会を
政府が廃止しようといたしておることについての御所見を一つお述べを願いたいと思うのであります。(「
答弁無用」と呼ぶ者あり)
第三番目にお伺いいたしたいことは労働法の改正問題についてであります。私は思いまするのに、終戰後行われましたるところの
日本政治におきまして、最も偉大なる成功の一つは、土地改革の断行であつたと私は
考えるのであります。若し蒋介石氏や李承晩氏が
共産党にその先鞭をつけられないで、せめて
日本がやつたくらいの土地改革を早くから断行しておりましたならば、蒋介石は毛沢東氏等によ
つて中国の本土を追われるというようなこともなく、李承晩氏も恐らくは今日以上に高い声望を同
国民の間にかち得られてお
つたのではないかと思うのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)この大きい
日本の終戰後における政治上の成功、これをやつたところの人、その実はやらされたところの人たちは、今日に至るもその私が言うているような意味においての真の意義というものを理解されておらないと思うのであります。又労働組合が民主化の
基礎であることにつきましては、先頃のサンフランシスコの講和
会議におきましても、イギリスの時の外務
大臣ハーバート・モリソン氏も
日本の政治の将来に関して喝破いたしているところであります。併しながら、このことにつきましても、土地改革と同じように、できるならば労働組合もぶつ潰し、農地改革も昔に返し、そうして資本家と旧地主と旧官僚の利益を天皇を神格化することに結び付けて、紀元節の再興の法案を目下作成中であるというような自由党の諸君には、このことは御理解ができなかろうと私は
考えるのであります。(
拍手、「紀元節何が悪い」と呼ぶ者あり)労働意欲の高揚は結構でありますけれども、軍拡景気を当て込んで、その間に、ただ、しこたま儲けておこうというようなことから、むやみに労働者の尻を叩いて過重労働を強い、罷業権を奪い、労働行政におけるところの官僚の支配権力を
強化するというような労働法規の改正に対しましては、我々断固反対であります。目下労働三法の改正につきまして
政府はいろいろと御考案にな
つているということは新聞紙上にも伝えられているのであります。
当局の吉武労相は(「これも旧官僚」と呼ぶ者あり)
独立後の
日本におけるところの労働行政に対してどのような構想を持
つていらつしやるか、又当面の労働三法の改正についても発表し得るだけの労働省の具体的な今日までの構想を、この議場においてこの際明白にして頂きたいということをお伺い申すものであります。
次に
中国政府の
承認の問題につきましていろいろと先ほどから御
質問があり、御
答弁もあ
つたのでありまするが、若干その問題につきまして專ら吉田
内閣総理大臣の御
答弁を得たいと思うのであります。(「御
意見はいいですから簡單に」と呼ぶ者あり)
中国における二つの
政府の選択
承認の問題はむずかしい問題でありまするが、併し我々の
立場からいたしまするならば、真に
中国五億の民衆と心からなる提携をなし、
国際連合の枠の中で東亜の安定と平和を図ることを根本
方針としてこれを選択し、それを
承認するの挙に出ずべきものであると
考えるのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)これがためには、その前提といたしまして、
日本国民が先ず
講和條約の
発効によりまして、何ものにも強いられざるところの
独立国民たることの資格を獲得するということが先決要件でなければならないと思います。(「そうだ」と呼ぶ者あり)
従つて軍事
占領下におきましては、我らはこれを選択するところの自由は持たないのであるということを
考えなければならんと思うのであります。
講和條約
発効後、少くとも朝鮮事変が平和的に一応落着くところに落着いた後におきまして、それと睨み合せて徐ろに我らの態度を
決定すべきであるというのが私たちの
考え方であります。(「遅過ぎる」と呼ぶ者あり)共産
主義国家が
中共承認の挙に出ることはもとより当然のことでありまするが、併しソ連の衛星国でなくても、
中共政府を
承認いたしておりまするものは、いわゆる民主
国家中にも十数カ国ありますることは、(「二十数カ国だよ」と呼ぶ者あり)衛星国以外において十数カ国ありますることは、羽生君も昨日申されたことであります。それらのことを十分我々の考慮のうちに入れましても、私たちはなお
日本の
中国に対するところの
外交的な
関係からいたしまして、今日直ちに
中共政府の
承認をなすというところの挙に出るというようなことにつきましては、吉田
政府の
台湾政府選択
承認と共に、いずれも時期尚早であるというところの見解を我が党は持
つておるのであります。(
拍手、「見解の相違」と呼ぶ者あり)吉田
首相も昨秋の臨時
国会におきまして、両
政府のいずれを
承認するかは、暫らくその赴くところを見て然る後
決定したいという旨をばしばしば我々の前に声明せられました。然るに突如として今回の
書簡発表の挙に出られましたことは、他の議員も申されましたごとく、誠に
国民の意外とするところでありまして、その
独断專行的な態度につきましては、
首相の御弁解もありましたけれども、私たちも又先の議員の
質問のうちにありました言葉と同じように、
秘密外交である、非民主的な
外交であるというところのそしりは、私はこれは免れないものであると
考えておるのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)以上申述べましたことにつきまして、他の議員にもすでにお答えにな
つておる点もありますが、
講和條約
発効後、朝鮮事変帰結後、かかる意思表示は行うのが正しいという私の言を
中心として、もう一度一つ御
答弁がこのことについて願いたいと思うのであります。
それから、その次に私は、昨日野次のために十分聞き取れなか
つたのでありまするが、昨日の夕刊を見まするというと、羽生議員の
質問に対して
総理大臣は、今日に至るも私は断じて再
軍備は行わないという御
答弁があつたことが新聞に載
つており、又只今も
岡本愛祐君の
質問に対して同様の御
答弁がありました。これは私の最も欣快とするところでありまして、満腔の賛意を私は吉田
首相に表明いたしたいと思うのであります。(
拍手)併しながら、どうぞこのお言葉も、先ほど申しましたように、
中国政府の選択
承認はもつとあとにすると言われた直後に、その前の言葉を引つくり返されまして今度のような
書簡発表となりましたような、そういうことにはならないように、どうぞ一つお願い申上げるということをば
條件といたしまして賛意を表することを申上げておきたいと思うのであります。(
拍手)
最後に伺いたいことは、アメリカに対しまして、我らは現段階におきまして、アメリカと協調して行かなければならないところの場面が極めて多いと信じておるものであります。併しアジア政策につきましては、我々は常にアメリカと協調しながらも、その一面においては、時にアメリカを
日本のほうから指導するところの精神を失
つてはならないというように
考えておるものであります。(「そうだそうだ」「賛成」と呼ぶ者あり)アメリカが
国民党
政府への援助を打切りましたことによりまして、今日のような
中国の
状態を来たしました。又ヤルタ会談におきまして取りきめましたことの誤まりからも、又アジアの赤化が起りました。更に遡りまするならば、
日本とアメリカとの戰争におきましても、もとより
日本の軍閥に多くの誤まりがありまするけれども、アメリカの為政者の側にも、これは正しい、成功であつたということは、私は今日できないと思うのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)死んで行つた故ルーズ・ヴェルト大統領のごときは、恐らくは、
日本とあのような戰争をしたということについては、後世歴史家の相当手きびしい批判を受けなければならないのではないかと
考えるのであります。(
拍手)今
日米国
国民の多くはそのことを認識して後悔いたしておるのであります。このように、アジア政策についてアメリカがそうした失敗を繰返すということは、そもどこから来るのであるか。それはアメリカ人がアジアのことをばよく知らないからであります。(「そうそう」と呼ぶ者あり)丁度
日本人が朝鮮や
中国のことならよく知
つていますけれども、アメリカのお隣りの中央アメリカの諸国や南米のことについてはよく知らないのと同じであります。そういうように、アメリカと我々は常に協調して世界を歩んで行かなければなりませんが、ときにはそのアメリカの言うことにはそのまま従わないで、そうしてこれに忠告を與え、これに指導を與えて行くということが、これは真にアメリカを友邦として進むところの我が
日本の
国民の親切心を表現するところの結果になることもあるということを忘れてはならんと思うのであります。(
拍手)
その次に、
吉田総理大臣は、このたび、
台湾政府と
友好関係を結びたい旨の意思表示をせられたのでありまするが、そもそもそれは、全体的な
中国の政治的将来に対する正しい見通しに立
つて、当然かかる大事が行われなければならないものであります。それは、総理の言われるごとくに、ただ單に、條約面からこうな
つているから、法律形式がごうな
つているから、こういうことをやつたんであるというがごときことは、(「本末転倒だ」と呼ぶ者あり)いわばこれは三百代言的な
外交である(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)と言わなければならないのであります。私は、賢明なる吉田総理が、そんな愚かしい肚でお行いに
なつたものではないというような推察をいたしたいのであります。
中国は将来どうな
つて行くのだろうか、
中共政府は今後どのように進んで行くのだろうか、
台湾政府はこれからどうな
つて行くだろうか、又それと併せて朝鮮はどのようにな
つて行くのであるかというところの正確なる判断と見通しなくして、この
ダレス氏宛
書簡に現われたような大胆なる挙には、私は
外交上は出でがたいのであると
考えるのであります。(「そうです」「ドン・キホーテ」と呼ぶ者あり)私はアメリカを旅行中、昨年いろいろ見ましたもののうちで、アメリカの有力な雑誌でありますところのUSニューズ・アンド・ワールド・リポートのうちに、
曾つて中国におけるところの
米国軍の参謀長であり蒋介石の軍事顧問でありましたウエ
デマイヤー将軍が発表しておりますところのアジア政策に対する
意見に、非常に私は興味を感じました。それは、恐らく私の推察いたしまするところ、アメリカ人が通例コンモンに持
つておりますところのアジア政策の
意見をよく表明しておるものでないかと
考えたからであります。ウエ
デマイヤー氏が申しておりまするのに……。非常に長い書物でありまするから、これを一々ここに申上げる時間がありませんから、困難でありまするが、大体を要約してあらましのことを申しまするというと、「朝鮮の平和
協定は一時
成立しても、又
共産党によ
つて破棄されることは、過去の
中国における今の国共
協定の例などからしても明らかなことである。南鮮は戰禍によ
つてすでに数百万以上の死傷者及び戰災者を出している。だから南朝鮮の人心は
国連よりもむしろクレムリンのほうに傾いている。アメリカはこれ以上アメリカの青年をば朝鮮事変のために殺すべきではない。
米国の金融的な、物資的な援助の
中心はヨーロッパである。
国連軍は朝鮮より撤兵してその威厳を失わないようにするために、ソ連及びその衛星国との国交を断絶すべきである。アジアのことはアジア人に任すことを本旨として、
国民党
政府を軍事的
経済的に極力再び援助してやるならば、蒋介石はもう一度
中国国民大衆の支持を猛得することは可能である。
中国人は心から必ずしも共産
主義化してはいない。
中国をクレムリンより引離してチトー
政権化することも可能である。
日本人は極めて優秀なる
国民であり、
他国の苦情がそのことにあるかも知れないけれども、
日本を再武装して適当の
経済安定を與えることが、極東における連合諸国の最上の反共産政策である。」このようにウエ
デマイヤー氏は書いているのであります。
次に、
吉田総理大臣は
中国にも長く御滯在に
なつたとのことでありますから、
中国の将来や朝鮮の将来につきまして(「何か野次れ」と呼ぶ者あり)恐らくはウエ
デマイヤー将軍などよりも遙かに優れた自信のある見通しの上に立
つて、今回の挙に私はお出に
なつたことであると深く信ずるのであります。(「その
通り」「違う」と呼ぶ者あり)そのような
立場におきまして、私は次のことについて具体的な御
答弁を、どうぞでき得る限り具体的に、明白に、これは私たちが聞こうとしておるのでなく、私が聞こうとしておるのでなくして、八千万の同胞がすべて、あなたの朝鮮や
中国に対するところの将来の見通しを聞きたが
つておるのでありますから、(「そうそう」と呼ぶ者あり)八千万同胞に答える意味において、多少デリケートな点もありましようが、でき得る限り一つ明白に
国民全部に答えて頂きたいのであります。私はその話の糸口を引つ張り出しますために、具体的に私の
質問要項をここに列挙いたします。
第一は朝鮮の問題につきまして、朝鮮停職
協定は
成立するものと吉田さんは見ていらつしやるかどうか。
協定が
成立した後、朝鮮はどのようにな
つて行くと判断しておいでになるのであるか。第二番目には、南鮮の民心はすでに
国連軍よりもクレムリンに傾いておるというようにはお
考えにならないかどうかということ。第三番目には、
国連軍は朝鮮から撤兵することはないというようにお思いにな
つていらつしやるかどうかということ。そのほか朝鮮の将来に対する吉田さんの見通しにつきましてお答えが願いたい。
又次に
中国につきましては、十分の
経済的軍事的か援助がアメリカから與えられたならば、
台湾政権は
中国を再び支配し得られるようになるとお
考えにな
つておるかどうかということ。第二番目には、大陸の
中国人は共産
主義を心の中で支持していないと吉田さんは思
つていらつしやるかどうかということ。第三番目には、
中国のチトー
政権化は可能であるかどうかということ。そのほか
中国の将来、
中共政府が将来どうな
つて行くか、
国民党
政府が将来どうな
つて行くかということを、この
中心として、以上列挙いたしましたことに基きまして、吉田さんの聰明なるところのこのアジア政策に対する見通しと分析とを、
国民の前に御披瀝下さいますることをば、私はお願いするものであります。私の
質問はこれで終ります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君登壇、
拍手〕